説明

プラズマ発生装置

【課題】プラズマ発生の性能を高く維持しつつ、電源設備に要する価格を低減すること。
【解決手段】真空チャンバ2内に一対の電極10,12が対向配置され両電極10,12間にプラズマ発生用電圧が印加されて両電極10,12の対向空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、両電極10,12が軸方向に所定長さに延び、かつ、両電極10,12の電極面10a,12aで囲む空間(プラズマ閉じ込め空間)16の形状が軸方向柱状になっており、両電極10,12間に印加するプラズマ発生用電圧電源が低周波の交流電源20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面処理(CVD、スパッタ、エッチング、アッシング処理等)に用いるプラズマを発生する装置に係り、特には本出願人の出願に係るプラズマ発生装置の改良技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ発生装置には高周波プラズマを発生させるもの(特許文献1参照)や直流プラズマを発生させるもの(特許文献2参照)等がある。
【0003】
本出願人は、真空チャンバ内に一部に開孔を備えた筒状体を配置し、真空チャンバ内を所定の圧力とガス雰囲気下に設定し、筒状体の一端側にプラズマ発生用電圧として直流電源の負バイアスを印加して筒状体内の空間にプラズマを発生させる装置を提案している。この本出願人の提案に係るプラズマ発生装置は、プラズマの発生密度が高く、基板の表面処理性能に優れているが、直流電源設備に価格が高くついていた。
【0004】
直流電源は、ブレーカ、一次側整流器、一次側直流フィルタ、インバータ、トランス、二次側整流器、二次側直流フィルタ等から構成されている。商用電源からブレーカを介して入力される交流を一次側整流器で全波整流して直流に変換し、一次側直流フィルタで平滑化し、インバータでその直流を交流を変換したうえで、トランスで変圧し、さらに、二次側整流器で整流し、二次側直流フィルタで平滑化して直流電圧を得るようになっている。以上のように直流電源は極めて構成が複雑で高価となっている。
【0005】
そこで、本出願人は、真空チャンバの内部に一対の電極を対向配置したプラズマ発生装置において、プラズマ発生用電圧生成用の電源として高価な直流電源ではなく、安価な交流電源を用いることができるように両電極の形状にさらに改良を加えるべく鋭意研究したのである。
【特許文献1】特開2005−264172号公報
【特許文献2】特開平11−195498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決すべき課題は、基板の表面処理に優れたプラズマの発生を確保しつつ、電源設備に要する価格を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるプラズマ発生装置は、真空チャンバ内に一対の電極が対向配置され両電極間にプラズマ発生用電圧が印加されて両電極の対向空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、両電極の電極面で囲む空間の形状が軸方向柱状になっており、かつ、両電極間に印加されるプラズマ発生用電圧電源が低周波の交流電源であることを特徴とするものである。
【0008】
好ましくは上記両電極の少なくとも一方の電極の電極面は筒状の一部形状をなして当該電極面と他方の電極の電極面とで囲む空間(プラズマ閉じ込め空間)の形状が軸方向柱状になっている。
【0009】
上記「筒状の一部形状」とは平面視形状が円形(楕円形を含む)や多角形である筒体をその中心角度180度において真半分に縦割りした半円筒状等に限定されるものではなく、任意の中心角度を含む筒体の一部であればよい。この「筒状の一部形状」は、一方の電極面が他方の電極面に対して凹んでいる面(湾曲面)を有する形状を意味する。筒体が円筒体であれば、「筒状の一部形状」は平面視が半円形等の形状である。筒体が角筒体であれば「筒状の一部形状」は平面視が片仮名の「コ」の字形状である。
【0010】
上記「他方の電極」は、上記「一方の電極」と同様に筒状の一部形状をなす電極であってもよいし、平板電極であってもよい。両電極は共に半円筒状をなす電極であってもよいし、共に平面視が片仮名の「コ」の字形状をなす電極であってもよい。
【0011】
上記「空間」の形状は、円柱状や角柱状である。
【0012】
上記「低周波」は、好ましくは100Hz以下の周波数である。
【0013】
本発明では、両電極によりプラズマ閉じ込めのための柱状空間が構成されているので、プラズマが発生すると、低周波の交流電圧であっても、プラズマ発生状態を維持させやすい。そのため、低周波、例えば、50Hzや60Hzの商用周波の交流電源でプラズマを発生させることが可能となり、電源設備を大幅に安価にすることができる。
【0014】
そして、本発明では、両電極の対向空間内に軸方向に導体ワイヤを配置し、真空チャンバ内に炭素膜成膜用のガスを導入することにより、導体ワイヤの表面に炭素膜を成膜することができる。
【0015】
なお、上記交流電圧の周波数は、100Hz以下であることが好ましい。また、交流電圧は、1kV以下であることが好ましい。交流電圧は正弦波電圧等の連続波形を有する電圧に限らず、パルス状の電圧も含む。
【0016】
上記電極は一部に開孔を有してもよい。この開孔の形態は例えば螺旋状、網目状およびスリット状を含むことができる。
【0017】
本発明は、真空チャンバ内に炭素膜成膜ガスを導入し、両電極間に基板を配置することにより、基板表面に炭素膜を成膜することができる。
【0018】
上記炭素膜は、導電性で電界放射することができる炭素膜であることが好ましい。この炭素膜には、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、カーボンナノファイバ、その他の炭素膜を含むことができる。上記基板の形状は、ワイヤ状、板状、筒状等を採用することができる。
【0019】
本発明のプラズマ発生装置は、両電極で囲む空間が柱状であるので,その空間内に発生したプラズマは高い電子密度を有することができる。そのため、真空チャンバ内のガス圧を低圧にして炭素膜を成膜することができるとともに、低電力で効率的に炭素膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプラズマ発生装置によれば、安価な交流電源によりプラズマ発生用電圧を生成することができるので、電源設備が安価になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態に係るプラズマ発生装置を詳細に説明する。実施の形態においては、このプラズマ発生装置をフィールドエミッション型ランプのワイヤ状陰極の表面に炭素膜を成膜する装置に適用して説明する。
【0022】
フィールドエミッション型ランプはガラス管の内面に蛍光体付き陽極を形成し、このガラス管の両端にステムを設け、この両端ステムにワイヤ状陰極の両端を固定してワイヤ状陰極をガラス管内に空中架設したものである。
【0023】
このワイヤ状陰極は導体ワイヤの表面に炭素膜を成膜したものであり、陽極との間に電界を印加されて炭素膜表面から電界放射により電子を放出し、この放出した電子を蛍光体に衝突させて当該蛍光体を励起発光させることができるようになっている。
【0024】
実施の形態のプラズマ発生装置はこの導体ワイヤの表面にプラズマにより炭素膜を成膜してワイヤ状陰極を製造するプラズマCVD装置を構成している。
【0025】
なお、実施の形態のプラズマ発生装置はプラズマCVD装置に適用して説明するが、これに限定されるものではなくプラズマスパッタリング装置、プラズマエッチング装置等にも適用することができる。
【0026】
まず、図1を参照して実施の形態に係るプラズマ発生装置は、真空チャンバ2を備える。この真空チャンバ2はガス導入口4とガス排気口6とを備える。真空チャンバ2内に、筒状体8が配置されている。
【0027】
筒状体8は、一対の電極10,12がほぼ円筒状に対向設置されてなるものである。これら電極10,12の素材は、Cu、Ni、Mo,ステンレス鋼、カーボンなどである。
【0028】
両電極10,12は、図2、図3で示すように軸方向平行に所定の同一長さに延びた半円筒形状である。両電極10,12の対向電極面10a,12aは半円筒状になっている。両電極10,12の互いの周方向両端10a,12aは隙間14を隔てて軸方向に対向している。
【0029】
両電極10,12は互いの電極面10a,12aで囲む空間16がプラズマ閉じ込めのための軸方向円柱状に延びる円柱状空間を構成している。
【0030】
両電極10,12で囲む円柱状空間16のほぼ中央に成膜対象(基板)である導体ワイヤ18が軸方向に配置されている。
【0031】
以上の構成において、両電極10,12間には交流電源20が接続されている。この交流電源20は、100Hz以下の低周波、好ましくは、商用周波(50ないし60Hz)の交流電圧を両電極間に印加することができる。
【0032】
導体ワイヤ18は、電源スイッチ22を介して直流電源24(プラズマ発生用電圧生成用ではない)の負極が接続されている。直流電源24の正極は接地されている。
【0033】
導体ワイヤ18は、Ni,ステンレス鋼,Feなどである。
【0034】
真空チャンバ2内には炭化水素ガス等の原料ガスが流量制御されかつ所定のガス圧力で供給される。原料ガスには、CH4/H2、CH4/Ar、CH4/O2等がある。処理後のガスは真空チャンバ外に排気される。
【0035】
CH4/H2ガス中のCH4の濃度は、例えば、90%であり、CH4/Arガス中のCH4の濃度は、例えば、20〜60%であり、CH4/O2ガス中のCH4の濃度は、例えば、95%である。C22などの他の炭化水素ガスを用いることができる。
【0036】
真空チャンバ2内のガス圧は、0.01〜50Torrである。このガス圧は、好ましくは、0.1〜10Torrであり、より好ましくは、0.5〜5Torrである。
【0037】
交流電源20から両電極10,12間に1kV以下、好ましくは500ないし600V程度の交流電圧で、その周波数が100Hz以下、好ましくは50ないし60Hzの交流電圧が印加される。この交流電圧の印加により電極10,16で囲まれた空間内にプラズマが円柱状に発生する。
【0038】
以上のプラズマ発生装置においては、導体ワイヤ18の表面に炭素膜26を成膜することができた。炭素膜26は、ディスプレイ、ランプ、ナノデバイス、電子銃等、数多くの応用が期待される材料である。炭素膜26の成膜法として気相成長法がある。気相成長法ではカーボンナノチューブの成長に基材に予め触媒を形成する必要がある。これに対して本実施の形態では予め基材に触媒金属を付与する必要なく炭素膜を成膜することができる。
【0039】
電極10,12は、一部に開孔を備えていてもよく、その開孔の形態としては、例えば、図4で示すように網目状の開孔28であってもよいし、図5で示すように柵状の開孔30であってもよい。
【0040】
電極10,12の周方向両端は隙間を空けて対向しているが、この隙間に図6で示すように絶縁部材32を介装することができる。この絶縁部材32は電極10,12とは別体にして両電極10,12間に介装してもよいし、電極10,12の周方向端部に取り付けた状態で両電極10,12間に介装してもよい。
【0041】
上記両電極10,12は、図7以下で示す種々の形状にすることができる。例えば図7(a)で示すように、両電極10,12共に平面視片仮名の「コ」の字状の半筒状とし、両電極10,12の互いの電極面10a,12aで囲む空間16形状を四角柱状としてもよい。この四角柱状のプラズマ閉じ込め空間16に平板32(基板)を配置し、その平板32の両面に炭素膜を成膜することができる。図7(b)で示すように、一方の電極10を平面視半円形の筒状電極とし、他方の電極12を平板電極としてもよい。図7(c)で示すように、両電極10,12共、平面視平仮名の「く」の字形状としてもよい。図7(d)で示すように、両電極共、平面視アルファベットの「L」形状としてもよい。図7(e)で示すように、一方の電極10を平面視半円筒状とし、他方の電極12を平板状としてもよい。
【0042】
さらに両電極10,12は半円筒形等の円筒形の一部ではなく、図8で示すように矩形形状の電極10,12であってもよい。この電極10,12の形状について本出願人は特願2005−289768で既に出願している。すなわち、両電極10,12の電極面は互いに同寸法同形状の平坦でかつ平面視矩形をなす形状であり、プラズマが、一方の電極の電極面にほぼ平行となる断面形状をなして発生することが可能になっている。この電極10,12の電極面の形状は好ましくは長方形になっている。
【0043】
図8(a)は両電極10,12の平面図を示し、図8(b)は両電極10,12の斜視図を示す。両電極10,12では両電極10,12間におけるプラズマの存在高さが、両電極10,12の電極面10a,12a全体にかけて均等となる断面形状でプラズマを発生させることができる。そのため、図8の両電極10,12を備えたプラズマ発生装置では、両電極10,12間におけるプラズマ中における電子が原料分子である炭化水素ガスと衝突する頻度が均等化され、基板表面に高品質でかつ均一な膜厚で炭素膜を成膜することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係るプラズマ発生装置の構成を示す図である。
【図2】図2は図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図3は図1の電極の斜視図である。
【図4】図4は電極の電極壁の変形例を示す斜視図である。
【図5】図5は電極の電極壁の他の変形例を示す斜視図である。
【図6】図6は電極と両電極間の隙間に介装される絶縁材とを示す平面図である。
【図7】図7は電極の変形例を示す斜視図である。
【図8】図8は両電極のさらに他の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
2 真空チャンバ
8 筒状体
10,12 電極
16 円柱状空間
18 導体ワイヤ(基板)
20 交流電源
22 電源スイッチ
24 直流電源
26 炭素膜
28,30 開孔
32 平板(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に一対の電極が対向配置され両電極間にプラズマ発生用電圧が印加されて両電極の対向空間にプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、両電極の電極面で囲む空間の形状が軸方向柱状になっており、かつ、両電極間に印加されるプラズマ発生用電圧電源が低周波の交流電源である、ことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
上記両電極の少なくとも一方の電極の電極面が筒状の一部形状をなして当該電極面と他方の電極の電極面とで囲む上記空間の形状が軸方向柱状になっている、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
両電極の形状が共に半筒状をなし、互いの周方向両端が互いに向けて延びて所定の絶縁距離を隔てて対向している、ことを特徴とする請求項2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
両電極の平面視形状が半円形である、ことを特徴とする請求項3に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
両電極の平面視形状が片仮名の「コ」の字形状である、ことを特徴とする請求項3に記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
両電極の平面視形状が矩形形状である、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
上記低周波が、100Hz以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のプラズマ発生装置。
【請求項8】
上記交流電圧が、1kV以下である、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のプラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−204807(P2007−204807A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24304(P2006−24304)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(504224371)ダイヤライトジャパン株式会社 (105)
【出願人】(504116755)
【出願人】(591222108)
【Fターム(参考)】