説明

プラズマCVD装置

【課題】 プラズマCVD装置において、真空チャンバの内部、特にガス供給部にプラズマが当たってフレークが発生することを抑制し、フレークの混入がなく品質に優れたCVD皮膜の成膜を可能とする。
【解決手段】本発明のプラズマCVD装置1は、真空チャンバ4と、真空チャンバ4内を真空排気する真空排気手段5と、真空チャンバ4内に配備されると共に成膜対象である基材Wが巻き掛けられた成膜ロール2と、真空チャンバ4内に原料ガスを供給するガス供給部7と、成膜ロール2の表面近傍にプラズマ発生領域16を形成し、成膜ロール2に巻き掛けられた基材Wに成膜を行うプラズマ電源6と、を備えたプラズマCVD装置1であって、ガス供給部7が、プラズマ発生領域16に対して成膜ロール2を挟んだ反対側に位置するプラズマ非発生領域15に設けられていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムやプラスチックシートなどの基材にCVD皮膜を形成するプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装に用いられるプラスチックフィルムに対しては、水蒸気や酸素を通さない特性(バリア性)が高く要求されている。このようなプラスチックフィルムなどのシート材に高バリア性を付与するためには、透明性のあるSiOxやAl23などの皮膜をコーティングする必要がある。SiOx皮膜のコーティング技術としては従来より真空蒸着法、スパッタ法などの物理蒸着法(PVD法)があるが、これらの技術に比して成膜速度、高バリア皮膜の形成の面で優位なプラズマCVD法が近年用いられるようになっている。
【0003】
ところで、上述したプラズマCVD法に用いられるプラズマCVD装置としては、例えば特許文献1〜特許文献3に示すようなものが知られている。
特許文献1のプラズマCVD装置は、ペニング放電を利用したものであり、真空チャンバ内に基材を巻き掛けて搬送する成膜ロールを一対備えていて、これらの成膜ロールには互いが同じ極性になるように高周波の交流電源の一方の極が接続されている。一方、一対の成膜ロール同士が対向し合うロール間の空間(以下、対向空間という)の中心からほぼ等距離だけ離れた位置に環状電極からなる対極が成膜ロールとは別に配備されていて、この対極には高周波電源の他方の極が接続されている。
【0004】
特許文献1のプラズマCVD装置では、成膜ロールと対極との間に数十から数百kHzの高周波電力を供給すると、成膜ロール管に跨るように形成された磁場との協働作用によって対向空間に放電(ペニング放電)が発生し、発生した放電により原料ガスが電離してプラズマが発生する。そして、成膜ロールに巻き掛けられた基材の表面にCVD皮膜の成膜が行われる。
【0005】
ただ、この特許文献1の装置では、成膜ロール以外にも環状電極が対極として用いられていて、この電極に対しても高周波電源から電力が供給されている。当然、対極の表面にもプラズマが発生し成膜が行われてしまう虞があり、対極に成膜されたCVD皮膜がフレークとして剥離・混入してCVD皮膜の膜質を低下せしめるという問題があった。
そこで、特許文献1の装置のように成膜ロール以外に対極を設けて両極間に電源を接続するのではなく、成膜ロールを水平に一対設け、一方の成膜ロールを作用極、もう一方のロールを対極として用いてプラズマを発生可能にしたプラズマCVD装置が、特許文献2に示すように開発されている。
【0006】
この特許文献2のプラズマCVD装置は、一対の成膜ロールのうち、一方の成膜ロールにプラズマ電源の正極を、また他方の成膜ロールに負極をそれぞれに接続させており、一対の成膜ロールを代わり代わりに作用極や対極として用いるものである。これら一対の成膜ロールの表面には基材が巻き掛けられているため、基材にCVD皮膜が形成されることはあっても、成膜ロールの表面に成膜が行われる心配はなく、特許文献1の装置のように対極でフレークが発生するという問題は起こり難い。
【0007】
特に、特許文献2のプラズマCVD装置は、一対の成膜ロールの対向空間を物理的に区切って放電室を形成し、この放電室の内部で専らプラズマ発生(成膜)をさせている。この放電室は成膜ロール側に向かって開口していて、この放電室の開口を成膜ロールでフタするような構造となっており、原料ガスを供給すると放電室の真空度が室外に比べて下がって成膜が行われる構造であるため、放電室の外側でフレークが発生する心配はない。
【0008】
一方、特許文献2の成膜装置は、放電室の外側でフレークが発生しないものであっても、放電室の壁面には皮膜が付着しやすく、今度は壁面で発生したフレークが混入してCVD皮膜の膜質を低下させるという問題を招きやすくなる。
また、特許文献2の成膜装置では、放電室に原料ガスを供給して放電室の真空度を低下させなければ成膜が行われない。すなわち、放電室の真空度を下げるためには、成膜ロールとの隙間を小さく維持して放電室の気密性を保つ必要があるが、この隙間付近にも皮膜が堆積して隙間の大きさが変化するため、放電室の気密性が保持できなくなって成膜の安定性が損なわれ、引いてはCVD皮膜の品質が低下する虞がある。
【0009】
そこで、特許文献3の成膜装置では、成膜ロールの内部に磁場発生手段が設けられていて、磁場発生手段で発生させられた磁場領域内においてのみプラズマが発生するようになっている。この磁場発生手段は、N極の磁石とS極の磁石とが対向空間側に向かって突出するように距離をあけて配備されたものであり、成膜ロールの内部に設けられた一方の磁極からロールの外側に出た磁力線が、再びロールの内部に設けられた他方の磁極に戻るような磁場を形成して、この磁場に沿った領域のみにプラズマが発生する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−504880号公報
【特許文献2】特許2587507号公報
【特許文献3】特開2008−196001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献3の成膜装置では、磁場発生手段によりプラズマが発生する領域(プラズマ発生領域)を、磁場が形成される成膜ロールの表面の一部に限定することはできる。しかし、発生したプラズマは基材などで遮蔽されていない原料ガスのガス供給部まで届き、この原料ガスの供給部付近で堆積してフレークとなり、発生したフレークが落下してCVD皮膜に混入することにより皮膜の品質に悪影響を与える可能性がある。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、真空チャンバの内部、特に原料ガスの供給部にプラズマが当たってフレークが発生する(不要な成膜が起こる)ことを抑制して、品質に優れたCVD皮膜の成膜が可能なプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のプラズマCVD装置は、内部が空洞とされた真空チャンバと、前記真空チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、前記真空チャンバ内に配備されると共に成膜対象である基材が巻き掛けられた成膜ロールと、前記真空チャンバ内に原料ガスを供給するガス供給部と、前記成膜ロールの表面近傍にプラズマ発生領域を形成し、当該成膜ロールに巻き掛けられた基材に成膜を行うプラズマ電源と、を備えたプラズマCVD装置であって、前記ガス供給部が、前記プラズマ発生領域に対して前記成膜ロールを挟んだ反対側に位置するプラズマ非発生領域に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
つまり、本発明者は、ガス供給部をプラズマと接触することがないプラズマ非発生領域に設ければ、ガス供給部でフレークが発生することが抑制でき、発生したフレークが混入してCVD皮膜の膜質を悪化させる心配もなくなるのではないかと考えた。そして、ガス供給部を、従前は単なるデッドスペースでしかなかったプラズマ発生領域に対して前記成膜ロールを挟んだ反対側に位置するプラズマ非発生領域に設けることでCVD皮膜の品質が実際に良好になることを知見して、本発明を完成させたのである。
【0015】
このプラズマ非発生領域としては、前記成膜ロールを挟んでプラズマ発生領域の反対側に、巻き掛けられた非導電性の基材を当該基材が送られてきた方向に送り返すガイドロールであって、プラズマ電源から絶縁されたガイドロールを配備しておき、このガイドロールと、当該ガイドロールに向かう入側の基材と、当該下流側のガイドロールから送り出される出側の基材と、で囲まれた領域を採用することができる。
【0016】
上述したようなプラズマ非発生領域は、成膜ロールを挟んでプラズマ発生領域の反対側に設けられており、物理的にプラズマ発生領域から遮断されているため、成膜ロールに発生したプラズマの影響で成膜が起こることがない。
また、非導電性の基材、ガイドロール、あるいはこれらで囲まれた空間は、いずれもプラズマ電源から絶縁されているため、そのままではプラズマが形成されることがない。それゆえ、このプラズマ非発生領域にガス供給部を設置しても、ガス供給部にフレークが形成される心配はなく、CVD皮膜の品質安定性に悪影響を及ぼすこともない。
【0017】
なお、前記ガイドロールに向かう入側の基材とガイドロールから送り出される出側の基材との間には隙間が形成されていて、当該隙間が前記ガス供給部から供給された原料ガスをプラズマ発生領域まで流通させるガス流路とされているのが好ましい。
原料ガスのガス流路を成膜ロールの表面を覆う基材で形成すれば、成膜ロールの表面に原料ガスが直接接触することが無くなり、成膜ロールの表面にフレークが発生することを確実に抑制することが可能となる。また、このガス流路ではプラズマ発生領域方向に向かって原料ガスの流れが生じるため、プラズマがプラズマ非発生領域に入ってくることを抑制することも可能となる。
【0018】
また、前記入側の基材と、出側の基材とのうち、いずれか一方の基材を他方の基材側に向かって押圧する押圧ロールが設けられていて、当該押圧ロールを用いて前記隙間を調整可能とされているのが好ましい。
このように押圧ロールで基材間の隙間を絞れるようにしておけば、原料ガスの流量を調整してCVD皮膜の成膜速度を調整することも可能となる。
【0019】
さらに、上述したプラズマCVD装置としては、前記ガイドロールが設けられた成膜ロールを、それぞれの軸心が互いに平行となるように水平方向に距離をあけて1組備えたものを用いるのが好ましい。
また、前記成膜ロールの内部に、当該成膜ロールの表面にプラズマを収束させる磁場発生部材が設けられている場合にあっては、前記磁場発生部材は、成膜ロールの軸方向に沿って配備された棒状の磁石と、この棒状の磁石の周囲を囲むように配備されるレーストラック状の磁石とを備えていて、前記棒状の磁石とレーストラック状の磁石とは、互いに異なる磁極をプラズマ発生領域側に向けるようにして配備されているのが好ましい。
【0020】
上述したように棒状の磁石とレーストラック状の磁石とで磁場発生部材を構成すれば、両磁石間に閉じた磁力線が形成されてプラズマの発生場所を成膜ロールの表面の一部分に限定させることができる。また、プラズマ発生領域が成膜ロールの表面の一部分に限定されれば、原料ガスの供給部とプラズマが発生する領域とを場所的に離すことが容易になり、原料ガスの供給部に対するフレークの発生を確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプラズマCVD装置を用いることで、真空チャンバの内部、特に原料ガスの供給部にプラズマが当たってフレークが発生することを抑制することができ、フレークの混入がなく品質に優れたCVD皮膜の成膜が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態のプラズマCVD装置の正面図である。
【図2】第1実施形態のプラズマCVD装置で行われる成膜工程を示す図である。
【図3】第1実施形態のプラズマCVD装置の斜視図である。
【図4】プラズマ発生部分の拡大断面図である。
【図5】磁場発生部材の斜視図である。
【図6】第2実施形態のプラズマCVD装置の正面図である。
【図7】第2実施形態の変形例の正面図である。
【図8】第3実施形態のプラズマCVD装置の正面図である。
【図9】第3実施形態の変形例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明に係るプラズマCVD装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD装置1の全体構成を示している。
本実施形態のプラズマCVD装置1(以下、単に装置1という)は、減圧下において、互いに対向して配置した一対の成膜ロール2、2に交流あるいは極性反転を伴うパルス電圧を印加し、成膜ロール2、2の間の対向空間3にグロー放電を発生させ、成膜ロール2に巻き掛けたシート状の基材WにプラズマCVDによる成膜を行うものである。
【0024】
この装置1は、内部が空洞とされた筺状の真空チャンバ4を備えていて、真空チャンバ4の内部は真空排気手段5によって真空状態または低圧状態まで減圧可能となっている。この真空チャンバ4内には、成膜ロール2がその軸心を水平方向(図1では紙面貫通方向)に向けるようにして且つ互いに水平方向に距離をあけて一対配備されている。この成膜ロール2は正逆両方向に回転可能とされている。一対の成膜ロール2、2のそれぞれには、プラズマ電源6の両極がそれぞれ接続されていて、成膜対象であるシート状の基材Wが巻き掛けられている。
【0025】
そして、この装置1は、真空チャンバ4内に原料ガスを供給するガス供給部7を備えており、それぞれの成膜ロール2の内部には対向する成膜ロール2との間にプラズマPを生成する磁場発生手段8が設けられている。本発明の装置1は、この磁場発生手段8が形成した磁場内で放電を発生させ、放電により生じた原料ガスのプラズマP内に基材Wを通過させることで基材Wの表面にCVD皮膜を形成するものである。
【0026】
なお、以下の説明において、図1の上下を装置1を説明する際の上下とし、図1の左右を装置1を説明する際の左右とする。
真空チャンバ4は、内部が空洞とされた筺状に形成されており、外部に対して内部を気密的に保持できるようになっている。真空チャンバ4の下側には、真空チャンバ4の内部を真空状態まで排気する真空排気手段5の真空ポンプ9が設けられている。
【0027】
真空排気手段5は、真空チャンバ4の下側の隔壁に形成された排気口10と、この排気口10に取り付けられた真空ポンプ9から構成されており、外部からの指令に応じて真空チャンバ4の内部を真空状態または真空状態に準じた低圧状態まで排気できるようになっている。真空排気手段5により真空(低圧)とされた真空チャンバ4内部に対しては、ガス供給部7から原料ガスが供給される。
【0028】
原料ガスは、成膜しようとするCVD皮膜の種類に合わせてさまざまなものが選択されるが、本実施形態のようにSiOxバリア膜をCVD皮膜として形成する装置1の場合であれば、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)とO2、He、Ar、N2、NH3またはこれらの混合物とを含む混合ガスが選択される。なお、本実施形態の装置1では、原料ガスにHMDSOを含むものを例示しているが、原料ガスにはHMDSO以外の有機シリコン系原料ガス、例えばHMDS(N)(ヘキサメチルジシラザン)、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMS(トリメチルシラン、テトラメチルシラン)、モノシランなどを用いることもできる。
【0029】
CVD皮膜の成膜対象である基材Wとしては、プラスチックのフィルムやシート、紙など、ロール状に巻き取り可能な非導電性の材料が考えられる。これらの基材Wはコイル状に巻き取られて真空チャンバ4に配備されたアンコイラー11(逆回転する場合はコイラーとなる。)に取り付けられている。基材Wとして用いられるプラスチックフィルムやシートとしては、PET、PEN、PES、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド等があり、基材Wの厚みとしては真空中での搬送が可能な5μm 〜0.5mmが好ましい。これらの基材Wは、CVD皮膜を成膜した後、真空チャンバ4内のコイラー12(逆回転させる場合にはアンコイラーになる。)でコイル状に巻き取られる。
【0030】
図1〜図3に示すように、一対の成膜ロール2、2は、互いに同径の同長のステンレス材料等で形成された円筒体であり、その回転中心が真空チャンバ4の底面(下側の隔壁の上面)から略同じ高さになるように設置されている。一対の成膜ロール2、2は互いの軸芯が平行となるように水平に距離をあけて配備されており、両ロール2、2の間にはロールの外周面同士が対向し合う対向空間3が形成されている。
【0031】
成膜ロール2は、さまざまな寸法幅の基材Wを巻き掛けられるように、巻き掛け可能な基材Wのうちでも最も幅が大きなものより広幅に形成されている。また、成膜ロール2の内部には、温度調整された水などの媒体が流通されていて、ロール表面の温度を調整できるようになっている。成膜ロール2の表面には、傷が付きにくいようにクロムメッキや超硬合金などのコーティングが好ましくは行われている。
【0032】
一対の成膜ロール2、2は、いずれも真空チャンバ4から電気的に絶縁されており、また上述したように対向空間3を介してロール同士も互いに電気的に絶縁されて配備されている。そして、一対の成膜ロール2、2の一方にはプラズマ電源6の一方の極(例えば正極)が、また他方にもう一方の極(例えば負極)が接続されていて、一対の成膜ロール2、2が互いに異なる極性を示すように接続されている。
【0033】
図4及び図5に示すように、磁場発生手段8は、成膜ロール2の内部に配備されていて、磁石を用いて成膜ロール2の表面付近に磁場を形成し、形成した磁場を用いてプラズマPを収束させる機能を有している。磁場発生手段8は、棒状の磁石13と、この棒状の磁石13の周囲を囲むように配備されるレーストラック状の磁石14とを備えている。棒状の磁石13は、成膜ロール2の軸心と平行な方向に沿って長い長尺棒状の磁石であって、磁場発生手段8における上下方向の中途側に、その軸心を成膜ロール2の軸心と平行な方向に向けるようにして配備されている。また、レーストラック状の磁石14は、棒状の磁石を長円の環状に繋げたような形状をした磁石であり、棒状の磁石13の軸心を通って上下に伸びる平面上で、棒状の磁石13の周囲を距離をあけて囲むように配備されている。
【0034】
棒状の磁石13は、その軸心とは垂直な方向に磁極を向けて配備されており、図例ではN極を対向空間3側に向けて取り付けられている。また、レーストラック状の磁石14は、棒状の磁石13と正反対の方向に磁極を向けて配備されており、図例ではS極を対向空間3側に向けて取り付けられている。
つまり、磁場発生手段8では、棒状の磁石13のN極とレーストラック状の磁石14のS極とがいずれも対向空間3側を向いていて、成膜ロール2の内部にある棒状の磁石13のN極から成膜ロール2の外側に飛び出した磁力線が、円弧を描いて曲がりつつ再び成膜ロール2の内部に設けられたレーストラック状の磁石14のS極に戻るような湾曲した磁場を形成できるようになっている。
【0035】
プラズマ電源6は、高周波の交流電圧、または、両極の極性が反転可能なパルス状の電圧(パルス状直流電圧)が発生可能なものである。このプラズマ電源6の両極は、いずれも真空チャンバ4から絶縁されたフローティング電位とされていて、一対の成膜ロール2、2のそれぞれに接続されて成膜ロール2、2間に放電を生起可能な電位を付与する構成とされている。成膜を行う基材Wは、前述の如く絶縁性の材料であるため、直流の電圧の印加では電流を流すことが出来ないが、フィルム(基材W)の厚みに応じた適切な周波数(およそ1kHz〜、好ましくは10kHz〜)であれば基材Wを通して導通可能である。なお、周波数の上限は特にないが、数10MHz以上になると定在波を形成するので好ましくはない。
【0036】
本発明のプラズマCVD装置1では、真空チャンバ4内に設けられた部材の中でも、特にCVD皮膜が形成すると好ましくないとされているガス供給部7を、このガス供給部7を発生したプラズマPと接触することがないプラズマ非発生領域15に配備しているのであり、これによりガス供給部7付近で不要な皮膜が堆積してフレークが発生したり、あるいは発生したフレークが混入してCVD皮膜の品質が低下したりすることを確実に抑制していることを特徴としている。
【0037】
次に、プラズマ非発生領域15及びこのプラズマ非発生領域15に設けられるガス供給部7について、詳しく説明する。
図2に示すように、プラズマ非発生領域15は、真空チャンバ4内においてプラズマ発生領域16で発生したプラズマPと全く接触しないか、殆ど接触しない場所のことであり、プラズマ発生領域16に対して成膜ロール2を挟んだ反対側に配備されている。
【0038】
具体的には、プラズマ発生領域16は、成膜ロール2、2間の対向空間3に形成されている。そして、プラズマ非発生領域15は、成膜ロール2を基準としてプラズマ発生領域16の反対側に、すなわちプラズマ発生領域16に対して成膜ロール2の影になる部分に設けられている。
この成膜ロール2を基準としてプラズマ発生領域16の反対側には、ガイドロール17が正逆回転可能に設けられており、図2にグレーに網掛けした部分として示すように、この実施形態においてガス供給部7が配置されるプラズマ非発生領域15は、このプラズマ電源6から絶縁されている非給電のガイドロール17と、このガイドロール17に向かって巻き入れられようとしている基材W(以降、入側の基材Wという)と、このガイドロール17から巻き出されようとしている基材W(以降、出側の基材Wという)との三者に囲まれた領域として構成されている。なお、基材Wを図1の矢印と逆方向に搬送する際には、上記入側と出側の基材の位置は反対になる。
【0039】
図2及び図3に示すように、ガイドロール17は、成膜ロール2と平行に配備されたロールであり、真空チャンバ4内に回転自在に設けられている。ガイドロール17は、プラズマ電源6と電気的に接続されておらず、非給電状態となっている。
ガイドロール17は、一対の成膜ロール2、2のそれぞれに対応して設けられている。例えば、成膜ロール2が基材Wの搬送方向(通板または通箔方向)における上流側の(図2の場合であれば図の左側に設けられた)のものである場合、ガイドロール17には成膜ロール2から巻き出された基材Wが巻き掛けられており、またこのガイドロール17に巻き掛けられた基材Wは下流側の成膜ロール2に設けられたガイドロール17側に送り出されている。また、成膜ロール2が基材Wの搬送方向における下流側の(図2の場合であれば図の右側に設けられた)のものである場合、この下流側のガイドロール17には上流側のガイドロール17から巻き出された基材Wが巻き掛けられており、このガイドロール17に巻き掛けられた基材Wは下流側の成膜ロール2に送られている。
【0040】
これらのガイドロール17はいずれも巻き掛けられた基材Wをこの基材Wが送られてきた方向に向かって送り返すものであり、ガイドロール17に巻き入れられようとしている基材Wと、ガイドロール17から巻き出されていく基材Wとの間には、狭い隙間Dしか許容されていない。
この入側及び出側の基材W間に形成された狭い隙間Dは、ガス供給部7から供給された原料ガスをプラズマ発生領域16まで流通させるガス流路18とされている。このガス流路18の先端はプラズマ非発生領域15に繋がっていて、このプラズマ非発生領域15にガス供給部7が設けられている。
【0041】
狭い隙間Dは、0.1〜20ミリメートルとする。プラズマ非発生領域15をプラズマPと全く接触しないか、殆ど接触しない場所とするためには、狭い隙間Dは狭いほうがより好ましいが、隙間Dが狭いと、プラズマ非発生領域15の内部の圧力が上がり、フィルムを外側に押し広げて安定した搬送を妨げるので、隙間Dは0.1ミリメートル以上に設計する。一方、狭い隙間Dが広すぎると成膜ロール2の影を形成できないので20ミリ以下に設計する。
さらにプラズマPから拡散したプラズマがプラズマ非発生領域15に拡散で入ってこないようにするために、狭い隙間Dは3ミリメートル以下とするとなお良い。
【0042】
基材Wの波打ちやたわみによって基材W同士が触れ合わないように狭い隙間Dは0.3ミリメートル以上とする。
図3に示すように、ガス供給部7は、成膜ロール2と平行な円筒状に形成されたパイプ状の部材であり、プラズマ非発生領域15に配備されている。ガス供給部7の内部は空洞となっていて、この内部には原料ガスが流通可能となっている。ガス供給部7の外周面には原料ガスを噴出するノズル部(図示略)が形成されており、このノズル部から外部に噴射された原料ガスは、入側及び出側の基材W間に形成された狭い隙間Dを通って、成膜ロール2間に形成されたプラズマ発生領域16に達することになる。
【0043】
なお、本実施形態のプラズマ非発生領域15には、このプラズマ非発生領域15のロール幅方向の両端を覆う遮蔽板19が設けられていて、上述した基材W間の隙間D以外からプラズマ非発生領域15の内部にプラズマPが移動できないようになっている。しかしながら、このような遮蔽板19は特に設けられていなくても良い。
ところで、上述したプラズマ非発生領域15には、次のような特徴がある。
(1)プラズマ発生領域16に対して成膜ロール2を挟んだ反対側に配備されており、プラズマ発生領域16と直接対面することがない。つまり、プラズマ非発生領域15には、プラズマ発生領域16から直接プラズマPが到達することはない。
(2)プラズマ非発生領域15は、非給電のガイドロール17と、このガイドロール17に巻き掛けられた絶縁性の基材Wとで囲まれていて、領域内でプラズマPが発生する虞がない。つまり、絶縁体で囲まれたプラズマ非発生領域15では、プラズマPが発生することがない。
(3)プラズマ非発生領域15は、ガイドロール17と、このガイドロール17に向かう入側の基材Wと、このガイドロール17から送り出される出側の基材Wと、で囲まれた領域として形成されており、基材W間の隙間D以外から内部にプラズマPが物理的に出入りできないようになっている。その上、この隙間Dには、上述したようにガス供給部7から噴出された原料ガスの流れが外側に向かって形成されており、発生したプラズマPが流れに逆らって入り込むこともない。
【0044】
つまり、本実施形態の装置1では、プラズマPが直接飛んできたり、流れ込んで来たりすることが無く、プラズマPが発生することもないプラズマ非発生領域15に、ガス供給部7を設けているため、ガス供給部7に成膜が行われることは起こり得ない。その結果、第1実施形態の装置1では、ガス供給部7に成膜された余計な皮膜が堆積してフレークが発生することや、ガス供給部7で発生したフレークが剥離・混入して基材W上に成膜するCVD皮膜の膜質を悪化させる心配がないので、品質に優れたCVD皮膜の成膜が可能となるのである。
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0045】
図6に示すように第2実施形態の装置1は、第1実施形態とは異なり、成膜ロール2のうち1本が基材Wを巻き掛けるロールではなく平板状の対向電極20とされたものである。そして、これらの成膜ロール2や対向電極20には、いずれも磁場発生手段8が付帯されていない。
それゆえ、この対向電極20と成膜ロール2とをプラズマ電源6に接続すると、図6に示すように成膜ロール2と対向電極20の間にグロー放電が生じてプラズマPが発生し、成膜ロール2に巻き掛けられた基材WにCVD皮膜が形成される。
【0046】
このとき、図例のように成膜ロール2を挟んでプラズマ発生領域16の反対側にあるプラズマ非発生領域15にガス供給部7を設ければ、上述した(1)〜(3)と同様な理由でガス供給部7にプラズマPが接触しなくなり、ガス供給部7に形成されたフレークが混入してCVD皮膜の膜質が劣化する虞もなくなる。
この第2実施形態は、成膜ロール2を一対備えない従来の装置1、言い換えればペニング放電を利用して成膜を行うような装置1に対しても、ガス供給部7に対する成膜を抑制するという本発明の技術は適用可能であることを示している。
【0047】
なお、図6の形態はそれぞれの電極に磁場発生手段8を設けていないものであったが、図7に示すように成膜ロール2と平板状の対向電極20とを組み合わせた場合にも、対向電極20の背面に磁場発生手段8を設けてそれぞれの電極の表面付近にプラズマPを収束させることもできる。このように対向空間3で発生するプラズマPを収束すればプラズマ発生領域16の範囲がより限定され、ガス供給部7をプラズマPから確実に隔離することが可能となり、ガス供給部7に対する不必要な皮膜の形成を抑制して、CVD皮膜の膜質の安定性や成膜の生産性を高めることが可能となる。
「第3実施形態」
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
【0048】
図8に示すように、第3実施形態の装置1は、入側の基材Wと、出側の基材Wとのうち、いずれか一方の基材Wを他方の基材W側に向かって押圧する押圧ロール21が設けられていて、この押圧ロール21を用いてガス流路18を流れる原料ガスの流量が調整可能とされているものである。
この押圧ロール21は成膜ロール2と平行に配備されたものであり、本実施形態では一対の成膜ロール2、2のそれぞれに対して配備されている。
【0049】
押圧ロール21の外周面には基材Wが接触しており、また押圧ロール21は成膜ロール2に対してその軸心を平行に保ったまま接離自在となっている。
第3実施形態の装置1では、押圧ロール21を成膜ロール2側に向かって移動させれば基材W間の隙間Dが狭まって、ガス流路18を流れる原料ガスの流量を変更可能となっている。この隙間Dを小さくする(ガス流路18を流れる原料ガスの流量を絞る)とプラズマPが十分に発生せず、CVD皮膜の形成が不十分になる。また、隙間Dを大きくしすぎると、プラズマPがガス供給部7に付着しやすくなり、優れた膜質のCVD皮膜を成膜することが困難になる。それゆえ、押圧ロール21を用いて隙間D(ガス流路18の流量)を調整すれば、優れた膜質のCVD皮膜を生産性良く得ることが可能となるのである。
【0050】
本形式の押圧ロールでは、図1の「第一の実施形態」でフィルムの振れや波打ちで精密に調整することが困難である隙間Dの調整を容易にする効果も持ち合わせている。
なお、図8の例では押圧ロール21は一対の成膜ロール2、2のそれぞれに対応して1本づつ(合計で2本)配備されていて、それぞれの成膜ロール2、2で成膜されるCVD皮膜の成膜速度を調整可能となっていたが、図9に示すように押圧ロール21は一対の成膜ロール2、2に対して1本ずつとしても良い。このように押圧ロール21を1本とする場合は、一対の成膜ロール2、2のそれぞれに対して等しく距離を変更できるように、押圧ロール21を一対の成膜ロール2、2軸心の2等分線上を通るように配置すればよい。また、押圧ロール21の位置は平行に保ったまま接離自在として説明したが、留め具の位置調整などで押圧ロール21の位置を変えられるような半固定の形態でもよいし、押圧ロール21の固定具を交換して位置を変えられる形態でもよい。
【0051】
なお、本発明の実施形態における隙間Dは、成膜条件によって異なるが、概ね0.1〜20mm程度が好ましく、0.3〜3mm程度が最も好ましい。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
なお、成膜ロール2は、同径、同長である方が好ましいが、必ずしも同径、同長でなくても良い。また、成膜ロール2同士の軸芯は互いに水平に配備されているのが好ましいが、必ずしも水平でなくても良い。例えば、成膜ロール2を上下に距離をあけて一対配備しても良い。さらに、これらの場合の上下や左右といった位置関係は厳密なものでなくても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 プラズマCVD装置(装置)
2 成膜ロール
3 対向空間
4 真空チャンバ
5 真空排気手段
6 プラズマ電源
7 ガス供給部
8 磁場発生手段
9 真空ポンプ
10 排気口
11 アンコイラー
12 コイラー
13 棒状の磁石
14 レーストラック状の磁石
15 プラズマ非発生領域
16 プラズマ発生領域
17 ガイドロール
18 ガス流路
19 遮蔽板
20 対向電極
21 押圧ロール
D 入側の基材と出側の基材との間の隙間
P プラズマ
W 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、
前記真空チャンバ内に配備されると共に成膜対象である基材が巻き掛けられた成膜ロールと、
前記真空チャンバ内に原料ガスを供給するガス供給部と、
前記成膜ロールの表面近傍にプラズマ発生領域を形成し、当該成膜ロールに巻き掛けられた基材に成膜を行うプラズマ電源と、
を備えたプラズマCVD装置であって、
前記ガス供給部が、前記プラズマ発生領域に対して前記成膜ロールを挟んだ反対側に位置するプラズマ非発生領域に設けられていることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記成膜ロールを挟んでプラズマ発生領域の反対側には、巻き掛けられた非導電性の基材を当該基材が送られてきた方向に送り返すガイドロールであって前記プラズマ電源から絶縁されたガイドロールが配備されており、
前記プラズマ非発生領域が、前記ガイドロールと、当該ガイドロールに向かう入側の基材と、当該下流側のガイドロールから送り出される出側の基材と、で囲まれていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記ガイドロールに向かう入側の基材とガイドロールから送り出される出側の基材との間には隙間が形成されていて、当該隙間が前記ガス供給部から供給された原料ガスをプラズマ発生領域まで流通させるガス流路とされていることを特徴とする請求項2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記入側の基材と、出側の基材とのうち、いずれか一方の基材を他方の基材側に向かって押圧する押圧ロールが設けられていて、当該押圧ロールを用いて前記隙間を調整可能とされていることを特徴とする請求項3に記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記成膜ロールは、その軸心が互いに平行となるように、水平方向に距離をあけて1組配備されていて、
前記1組の成膜ロールのそれぞれにガイドロールが設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のプラズマCVD装置。
【請求項6】
前記成膜ロールの内部に、当該成膜ロールの表面にプラズマを収束させる磁場発生部材が設けられていて、
前記磁場発生部材は、成膜ロールの軸方向に沿って配備された棒状の磁石と、この棒状の磁石の周囲を囲むように配備されるレーストラック状の磁石とを備えていて、
前記棒状の磁石とレーストラック状の磁石とは、互いに異なる磁極をプラズマ発生領域側に向けるようにして配備されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマCVD装置。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97291(P2012−97291A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243717(P2010−243717)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】