説明

プラズモン励起センサおよびその製造方法、ならびにアナライトの検出方法

【課題】本発明は、プラズモン励起センサ表面上に流路としての機能を有する多孔質誘電体層を設けることにより、検体中のアナライトをより効率的にセンサに結合させることができ、さらに、向上した電場増強効果との相乗効果によって高感度な測定を可能とする、プラズモン励起センサおよびこれを用いた検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のプラズモン励起センサは、透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、該金属薄膜の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層が形成された構造を有し、且つ該多孔質誘電体層にリガンドが結合している。また、本発明の検出方法は、上記プラズモン励起センサに検体を接触させる工程、および該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中のアナライトをより効率的に結合させることができ、且つ高感度な測定を可能とするプラズモン励起センサおよびその製造方法、ならびにアナライトの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中のアナライトを検出する方法として、プラズモン共鳴を利用した方法が知られている。しかし、よりアナライトの微量検出への要求が根強いことから、現在でも高感度検出に向けた研究開発が種々行われている。
【0003】
例えば、特開2007-64968号公報(特許文献1)には、2つの金属薄膜の間に非導電層を挟んで積層した構造を有する構造体を基板表面上に孤立して設け、この構造体の表面に固定したリガンドに、検体中のアナライトを結合させ、アナライト−リガンド複合体の形成を局所プラズモン共鳴を利用して検出する方法が開示されている。この方法は、2つの金属薄膜で発生する局在プラズモンによる電場増強を利用して、構造体表面に固定されたアナライトを検出するものである。しかし、構造体においてリガンドを固定する部位は、構造体表面に存在する金属薄膜表面であり、非導電層内部にリガンドを固定させることについては示唆する記載すらない。
【0004】
ところで、有機・無機複合体から得られるミクロ、メソ及びマクロポーラス体が近年着目され、合成法、構造の評価及び応用などの研究が行われてきた。特にシリカのメソ多孔質体が着目されており、多くの興味あるメソポーラスシリカがFSM法、MCM法などの種々の方法により合成され、触媒や吸着剤などの各種用途に用いるための研究・開発が種々行われている。
【0005】
その中で、特開2004-83501号公報(特許文献2)には、ケイ素含有モノマー、またはカネマイトなどの無機材料を原料として界面活性剤存在下で作製される、メソポーラスシリカ多孔体である構造ユニットが開示されている。ここで、特許文献2には、カネマイトを原料として作製された粉末状の構造化ユニットについて、平均細孔径約70Å(約7nm)のほぼ均一な細孔を備えることが開示されており、また、ケイ素含有モノマーを原料とする構造化ユニットを構成する多孔性細孔については、好ましい細孔径(直径)が、一般的には、1nmより大きく、30nmより小さいことが記載されている。
【0006】
この特許文献2には、ケイ素含有モノマーと界面活性剤とを含む反応液を金膜上にスピンコートして得られる多孔体薄膜、及びカネマイトと界面活性剤とを反応させて得られる粉末にそれぞれ抗体を固定化させることが記載されており、このうち、抗体を固定化させた多孔体薄膜については、表面プラスモン共鳴センサを用いた方法を含む各種方法により、抗体の安定化効果についての評価が行われている。
【0007】
しかし、特許文献2は、多孔性細孔より大きな高次構造を導入することによって、多孔性細孔中に、より多くの抗体を導入及び固定化することも、これによって高感度測定を企図することについても示唆する記載はない。また、測定の高感度化についての評価はなされておらず、多孔体薄膜の厚さ、多孔体薄膜による電場増強への効果、および抗体の反応効率についてのいずれの検討もなされていない。
【0008】
また、特開2007-169143号公報(特許文献3)には、分岐した枝状形状の骨格部を有し
、該骨格部に均一なチューブ状のメソ孔がハニカムパッキングした細孔構造が含まれるメソポーラスシリカ構造体が開示されている。ここで、特許文献3には、このメソポーラスシリカ構造体について、骨格部の間隙には300〜500nmのマクロ孔が形成されており、さらに骨格部には直径14nmのチューブ状のメソ孔が形成されていることが記載されている。
【0009】
この特許文献3には、このようなメソポーラスシリカ構造体からなる粒子を成形して得られる多孔体をバイオセンサの用途に用いることが記載されており、その実施例には、粉末状のメソポーラスシリカ構造体にシングルストランドDNAを固定化させて、DNAプローブ固定化メソポーラスシリカを得た後、このDNAプローブ固定化メソポーラスシリカをチッ
プ基板上溝に充填することにより作製されたバイオセンシング素子が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献3は、メソポーラスシリカ構造体からなる層を有するバイオセンサーであって、その層自体が全体として一つのメソポーラスシリカ構造体からなるものを開示するものではない。また、特許文献3では、個々のメソポーラスシリカ構造体内部に含まれる細孔については検討されているものの、複数のメソポーラスシリカ構造体によって形成される間隙の大きさや形成態様については何ら検討されていない。また、特許文献3には、このようなメソポーラスシリカ構造体を用いたバイオセンサーとして表面プラズモン共鳴素子を例示しているものの、表面プラズモン共鳴素子として用いたときの性能について何ら具体的な記載がなく、多孔体薄膜の厚さ、多孔体薄膜による電場増強への効果、および抗体の反応効率についての検討はいずれもなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-64968号公報
【特許文献2】特開2004-83501号公報
【特許文献3】特開2007-169143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
プリズム構造表面に形成された金属薄膜上に誘電体層を設けたプラズモン励起センサにおいて、該プリズム構造を通じて導入された入射光により金属薄膜が励起し電場が発生すると、該誘電体層において、誘電体の厚み方向で電場強度が変化し、その真中で電場強度が極大となる。
【0013】
ここで、多孔質でない通常の誘電体を用いた従来の表面プラズモン共鳴(SPR)、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)において、誘電体層に抗体等の生体物質を固定化する場合、流路を通じて導入された生体物質のほとんどは、誘電体層の表面部分に固定される。したがって、通常の誘電体を用いた従来のSPR、SPFSでは、電場が極大となる位置に生体物質を固定化することができず、SPR、SPFSにおいて電場を最大限に利用することができない問題点がある。
【0014】
また、誘電体層を構成する誘電体として多孔質シリカなどの多孔質誘電体を用いる場合、生体物質の一部は、その多孔質誘電体に内包される孔の中に導入され且つ固定される。しかし、特許文献2及び3に記載されているような、多孔質シリカなどの多孔質誘電体からなる粒子を単に塗布または充填することにより作製された誘電体層では、最も強い電場が得られる誘電体層中央部に生体物質の導入および固定化が必ずしも充分に行われないという問題点がある。これは、粒子を塗布または充填することにより作製された誘電体層では、多孔質誘電体の粒子同士が密に詰まっており、流路を通じて導入された生体物質を含む送液が誘電体層内に直接進入することが困難であるからである。このため、誘電体層内
部への生体物質の導入は主として拡散現象を通じておこなわれる。
【0015】
ここで、特許文献3に記載のメソポーラスシリカ構造体からなる粒子を成型して得られる誘電体層では、メソポーラスシリカ構造体内部にマクロ孔が存在するため、誘電体層内部に生体物質が導入されやすくなる点で、マクロ孔を有しないシリカ粒子を成型して得られる誘電体層と比べれば有利である。しかしながら、特許文献3に開示されているバイオセンサーに用いられているシリカ層は、シリカ層全体が単一のメソポーラスシリカ構造体からなるものではなく、メソポーラスシリカ構造体からなる複数の粒子の集合体からなるものである。そうすると、バイオセンサー上に形成されるシリカ層が厚くなるほど粒子間の間隙の大きさによる影響を受けやすくなり、誘電体層内部に導入される生体物質の量や、生体物質の導入可能な深さに一定の限界が生じる。誘電体層に、より多くの生体物質をより深い位置にまで導入するためには、誘電体層内部に流路類似構造を導入する必要があると考えられる。しかし、プラズモン励起センサにおいて、誘電体層内部に流路類似構造を導入することによって高感度化を企図した具体的な試みについての報告は、現在までのところ確認されていない。
【0016】
そこで、本発明は、プラズモン励起センサ表面上に、それ自体が流路としての機能を有する多孔質誘電体層、すなわち、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層を設けることにより、検体中のアナライトを誘電体層全体に導入及び結合させることにより、より効率的にセンサに結合させることができ、さらに、向上した電場増強効果との相乗効果によってさらなる高感度な測定を可能とする、プラズモン励起センサおよびこれを用いた検出法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、プラズモン励起センサに関し、鋭意検討を行っていたところ、流路類似構造を有する多孔質誘電体をアナライト結合場として用いることによって、電場増強効果の向上および抗体の反応効率の向上を計ることができ、これによってアナライトの高感度測定ができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明のプラズモン励起センサは、
透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、
該金属薄膜の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層が形成された
構造を有し、且つ
該多孔質誘電体層にリガンドが結合している
ことを特徴とする。
【0019】
本発明のプラズモン励起センサは、多孔質誘電体層が、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つからなる骨格を有することが好ましい。本発明のプラズモン励起センサのより好ましい態様では、多孔質誘電体層が、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つと、バインダー物質とからなる骨格を有している。また、多孔質誘電体層がポーラスシリカからなる骨格を有することがより好ましく、このとき、ポーラスシリカが微粒子シリカとバインダー物質とからなる多孔質構造体であることが特に好ましい。この場合の一態様において、多孔質誘電体層の厚さは400nm〜2μmである。
【0020】
本発明のプラズモン励起センサは、金属薄膜の表面に多孔質誘電体層が直接形成された構造を有することが望ましい。
【0021】
本発明のプラズモン励起センサは、多孔質誘電体層に形成されている細孔の孔径が10nm〜100nmであることが望ましく、その細孔中にリガンドが固定されていることが
好ましい。また、多孔質誘電体層とリガンドとの結合が、この多孔質誘電体層に導入された官能基を通じて行われていることが望ましい。
【0022】
本発明のプラズモン励起センサの一態様において、このリガンドは抗体である。
【0023】
また、本発明は、
工程(p):前記プラズモン励起センサに検体を接触させる工程、および
工程(q):該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程
を含むアナライトの検出方法をも提供する。
【0024】
さらに、本発明は、
工程(a):透明誘電体基板の表面に金属薄膜を形成させる工程、
工程(b):前記金属薄膜の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層を形成させる工程、および
工程(c):前記多孔質誘電体層にリガンドを結合させる工程
を含むプラズモン励起センサの製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るプラズモン励起センサを用いることにより、検体中のアナライトを効率よくセンサに結合させることができ、さらに、電場増強効果の向上との相乗効果と併せて、アナライト検出を高感度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るプラズモン励起センサの概略図を示す。
【図2】本発明に係るプラズモン励起センサの細孔部分についての拡大概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、図1を参照しながら具体的に説明する。
【0028】
〔プラズモン励起センサ〕
本発明に係るプラズモン励起センサ10は、
透明誘電体基板11の表面に金属薄膜12が形成され、
該金属薄膜12の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13が形成された
構造を有し、且つ
該多孔質誘電体層13にリガンド132が結合している
ことを特徴とする。
【0029】
《透明誘電体基板》
本発明において、プラズモン励起センサ10の構造を支持する基板として透明誘電体基板11が用いられる。本発明において、基板として透明誘電体基板11を用いるのは、後述する金属薄膜12への光照射をこの基板を通じて行うからである。
【0030】
本発明で用いられる透明誘電体基板11について、本発明の目的が達せられる限り、材質に特に制限はない。例えば、この透明誘電体基板11が、ガラス製であってもよく、また、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)などのプラスチック製であってもよい。
【0031】
また、d線(588nm)における屈折率〔nd〕が好ましくは1.40〜2.20で
ある。
【0032】
本発明で用いられる透明誘電体基板11は、金属薄膜12を形成するための表面として、少なくとも金属薄膜形成用平面を有する。このような透明誘電体基板11の例として、透明平面基板が挙げられる。この場合、厚さが好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmであれば、大きさ(縦×横)は特に限定されない。
【0033】
また、透明誘電体基板11は、金属薄膜形成用平面のほかにプリズム部など他の構成要素をさらに含んでいてもよく、例えば、金属薄膜形成用平面およびプリズム部を含むプリズム一体化基板であってもよい。ここで、このプリズム一体化基板において、金属薄膜形成用平面は、プリズム部における光反射面に位置する。本発明で透明誘電体基板11としてプリズム一体化基板を用いる利点としては、金属薄膜形成用平面とプリズム部とが一体化された構造により金属薄膜形成用平面とプリズム部との界面における入射光の反射を抑制できる点などが挙げられる。なお、本発明で用いられるプリズム一体化基板では、金属薄膜形成用平面とプリズム部とが一体化されていることから大きさは特に限定されない。
【0034】
透明誘電体基板11の材料として光学ガラスを用いる場合、市販品として、SCHOTT AG社製のBK7(屈折率〔nd〕1.52)およびLaSFN9(屈折率〔nd〕1.85)、(株)住田光学ガラス製のK−PSFn3(屈折率〔nd〕1.84)、K−
LaSFn17(屈折率〔nd〕1.88)およびK−LaSFn22(屈折率〔nd〕1.90)、並びに(株)オハラ製のS−LAL10(屈折率〔nd〕1.72)などが、
光学的特性と洗浄性との観点から好ましい。これらの光学ガラスは、透明平面基板の形で用いてもよいし、あるいは、プリズム一体化基板の形で用いてもよい。
【0035】
また、透明誘電体基板11としてプリズム一体化基板を用いる場合、このプリズム一体化基板は、樹脂製であってもよい。価格、成形性、成形による光学特性低下の少なさなどの理由から、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの光学樹脂製のものが好ましい。透明誘電体基板11として用いられるプリズム一体化基板は、例えば、原料樹脂を射出成形することにより形成することができるし、市販品を使用することもできる。
【0036】
透明誘電体基板11は、その表面に金属薄膜12を形成する前に、その表面を酸および/またはプラズマにより洗浄することが好ましい。
【0037】
酸による洗浄処理としては、0.001〜1Nの塩酸中に、1〜3時間浸漬することが好ましい。
【0038】
プラズマによる洗浄処理としては、例えば、プラズマドライクリーナー(ヤマト科学(株)製のPDC200)中に、0.1〜30分間浸漬させる方法が挙げられる。
【0039】
《金属薄膜》
本発明に係るプラズモン励起センサ10では、透明誘電体基板11の一方の表面に金属薄膜12が形成されている。この金属薄膜12は、光源からの照射光により表面プラズモン励起を生じ、電場を発生させる役割を有する。
【0040】
透明誘電体基板11の一方の表面に形成される金属薄膜12としては、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなることが好ましく、金からなることがより好ましい。これらの金属については、その合金の形態であってもよく、また複数の金属を積層したものであってもよい。このような金属種は、酸化
に対して安定であり、かつ表面プラズモンによる電場増強が大きくなることから好適である。
【0041】
なお、透明誘電体基板11としてガラス製平面基板を用いる場合には、ガラスと上記金属薄膜12とをより強固に接着するため、あらかじめクロム、ニッケルクロム合金またはチタンの薄膜を形成することが好ましい。
【0042】
透明誘電体基板11上に金属薄膜12を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法等)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。薄膜形成条件の調整が容易なことから、スパッタリング法または蒸着法によりクロムの薄膜および/または金属薄膜12を形成することが好ましい。
【0043】
金属薄膜12の厚さとしては、金:5〜500nm、銀:5〜500nm、アルミニウム:5〜500nm、銅:5〜500nm、白金:5〜500nm、およびそれらの合金:5〜500nmが好ましく、クロムの薄膜の厚さとしては、1〜20nmが好ましい。
【0044】
電場増強効果の観点から、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmがより好ましく、クロムの薄膜の厚さとしては、1〜3nmがより好ましい。
【0045】
金属薄膜12の厚さが上記範囲内であると、表面プラズモンが発生し易いので好適である。また、このような厚さを有する金属薄膜12であれば、大きさ(縦×横)は特に限定されない。
【0046】
《多孔質誘電体層》
本発明に係るプラズモン励起センサ10では、前記金属薄膜12の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13が形成されている。この多孔質誘電体層13は、後述する検体中のアナライトと結合させるために用いられるリガンドをセンサに固定する場を提供する。
【0047】
ここで、多孔質誘電体層13は多孔質であることから大きな比表面積を有し、より多くのリガンド132を固定させることができる。
【0048】
さらに、本発明において、多孔質誘電体層13は、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有している。すなわち、多孔質誘電体層13は、内部に流路類似構造を有していることから、多孔質誘電体層13の内部を送液が流れることができる。その結果、多孔質誘電体層13の深部に到るまで充分に検体中のアナライトを導入及び固定化することができる。このことは、金属薄膜12による電場増強の効果が極大になる多孔質誘電体層13の中央部に、充分な量のアナライトを導入及び固定化することができることを意味し、したがって、アナライトの反応効率が向上するのみならず、高感度測定を行うことも可能という利点がある。
【0049】
また、多孔質誘電体層13を誘電体層として有している本発明のプラズモン励起センサ10では、多孔質ではない誘電体層を有する従来公知のプラズモン励起センサと比較して、電場増強効果を金属薄膜12からより遠い位置にまで及ばせることができる。これは、誘電体層が多孔質構造を有していると、誘電体層を構成する材料の質量が小さくなることによるものであり、この場合、誘電体の膜厚による共鳴角変化への悪影響も少ないという利点もある。これに対して、ポーラス構造を有しない誘電体層を金属薄膜上に設けた場合には、その誘電体層の膜厚が大きくなると共鳴角のシフトが大きくなり、また、電場増強
も減少することが知られている。これらの性質によって、本発明のプラズモン励起センサでは、高感度化を図ることができる。
【0050】
さらに、本発明に係るプラズモン励起センサ10が表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)に用いられる場合、多孔質誘電体層13は、金属薄膜12による蛍光分子の金属消光を防止する役割をも有する。
【0051】
材料
本発明で用いられる多孔質誘電体層13に用いられる多孔質誘電体の材質は、本発明の目的が達成される限り特に限定されない。ただ、本発明において、多孔質誘電体層13は、通常、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つからなる骨格を有する。すなわち、多孔質誘電体層13の骨格を構成する多孔質誘電体は、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つを主材料として含む。ここで、この多孔質誘電体は、このような主材料のみを含むものであってもよい。あるいは、このような主材料に加えて、バインダー物質など多孔質誘電体層13の骨格構造を支持する副材料をさらに含むものであってもよく、多くの場合、このような副材料をさらに含むことが好ましい。本発明の好ましい態様では、多孔質誘電体層13は、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つと、バインダー物質とからなる骨格を有している。
【0052】
(有機材料及び無機材料)
本発明で用いられる多孔質誘電体層13の骨格として用いることのできる多孔質誘電体として、無機材料、有機材料または有機−無機ハイブリッド材料が挙げられる。
【0053】
多孔質誘電体層13を形成させるために用いることができる無機材料の具体例として、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料等が挙げられる。本発明においては、これらの無機材料のうち、シリカが好適に用いられる。
【0054】
また、有機材料については、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル類、ポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリルアミド類、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、又はこれらの共重合体、尿素樹脂、又はメラミン樹脂等が具体例として挙げられる。
【0055】
これらの有機材料及び無機材料は、1種単独で用いてもよく、また2種以上からなる複合物であってもよく、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明においては、充分な強度を有する三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13を実用的に作製することができる限り、多孔質誘電体層13を構成する有機材料及び無機材料の形態を問わない。しかし、本発明においては、通常の場合、後述するバインダー物質が併用される。この場合、多孔質誘電体層13に用いる有機材料及び無機材料として、粒子、粉末などの種々の形態を有するものを用いることができ、特に、微粒子の形態を有するものが好適に用いられる。この場合、空隙率の大きな構造を得る上で、粒径が10〜100nmのものが好ましく用いられる。ここで、微粒子の平均粒径は、多孔質物質層の断面や表面を電子顕微鏡で観察し、100個の任意の粒子の粒径を求めて、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで、個々の粒径は、その投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0057】
また、近年クロマトグラフィーの分野で用いられ始めているモノリス型シリカなどのように、マクロな貫通孔と貫通孔の内壁面に形成された細孔とを有する二重構造を有する材料も、有機材料及び無機材料として挙げられる。このモノリス型シリカは、例えば、特開平6−265534号公報に開示されているように、ゾル−ゲル法多孔質ガラスの製法を用いて調製され、マクロな貫通孔と貫通孔の内壁面に形成された細孔とを有する二重構造のシリカとして知られている。このような材料を、本発明で用いられる有機材料及び無機材料として用いる場合、後述するバインダー物質を併用しなくとも、充分な強度を有する三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13を形成することができる。
【0058】
(バインダー物質)
さらに、これらの諸材料を多孔質誘電体層13の形に結着させる目的で、バインダー物質を併用することが好ましい。バインダー物質を併用すると、多孔質誘電体層13において、上記有機材料または無機材料から形成される三次元網目状の骨格構造の強度が向上することから、流路類似構造を保持した状態で多孔質誘電体層13を形成することが容易となる利点がある。また、多孔質誘電体層が金属薄膜12から剥離せず、プラズモン励起センサ10において固相化抗体を安定に保持することが可能であり、また、抗原抗体反応を用いたタンパク質検出の際には非特異吸着を抑えるという利点もある。さらに、バインダー物質を併用する場合には、上記有機材料または無機材料として微粒子状のものを用いることができ、多孔質誘電体層13の作製が容易になるという利点もある。このように、バインダー物質が併用される態様では、多孔質誘電体層13は、(i) 有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つと、(ii) バインダー物質とからなる骨格を有することに
なる。
【0059】
ここで用いられるバインダー物質は、親水性のポリマーが好ましく、具体的には、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、ポリアクリル酸及びその塩、寒天、κ−カラギーナン、λ−カラギーナン、ι−カラギーナン、キサンテンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アラビアゴム、ポリアルキレンオキサイド系共重合性ポリマー、水溶性ポリビニルブチラール、カルボキシル基やスルホン酸基を有するビニルモノマーの単独又は共重合体等のポリマーを挙げることができる。
【0060】
本発明で用いられるこれらのバインダー物質のうち、ポリビニルアルコールが特に好ましい。本発明で好ましく用いられるポリビニルアルコールとして、ポリ酢酸ビニルを加水分解して得られる通常のポリビニルアルコール、すなわち、水酸基と、該当する場合にはケン化されずに残存したアセトキシル基とを有するポリビニルアルコールが挙げられる。ただ、本発明では、ポリビニルアルコールとして、例えば、末端をカチオン変性したポリビニルアルコールやアニオン性基を有するアニオン変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールのように、水酸基とアセトキシル基以外の官能基を有するものを用いることを妨げるものではない。酢酸ビニルを加水分解して得られるポリビニルアルコールは平均重合度が1000以上のものが好ましく用いられ、平均重合度が1500〜5000のものが特に好ましく用いられる。本発明で用いられるポリビニルアルコールとして、ケン化度が70〜100%のものが好ましく、80〜99.5%のものが特に好ましい。
【0061】
これらのバインダー物質は、1種単独で用いても良く、また2種以上を併用しても良い。上記バインダー物質は、上記有機材料及び無機材料の合計量100質量%に対して10質量%〜50質量%の割合で用いることが好ましい。
【0062】
(多孔質誘電体)
本発明に係るプラズモン励起センサ10に用いられる多孔質誘電体は必ずしも透明である必要はない。ただ、SPFSなど、誘電体層の表面あるいは内部にアナライトと共に固定された蛍光色素からの発光量に基づいて検体中のアナライトを検出するような方法に本発明に係るプラズモン励起センサを用いる場合には、多孔質誘電体層13が透光性を有する必要がある。この点からは、上記の多孔質誘電体が透明の材料であることが望ましい。そのような材料として、シリカ、シラスガラス、リン酸カルシウム、酸化チタン、糖、酸化インジウムなどが挙げられる。また、同様の理由から、多孔質誘電体層13を形成するために併用される上記バインダー物質もまた透明であることが望ましい。本発明では、それらの材料のうち、多孔質化の容易さ、および表面修飾の容易さなどの点から、ポーラスシリカが多孔質誘電体層13を形成する材料として特に望ましく用いられる。
【0063】
本発明において、多孔質誘電体層13に用いられる「ポーラスシリカ」は、シリカのみからなる、あるいはシリカを主成分として含む多孔質構造体をいう。ただ、本発明で用いられるポーラスシリカは、構造体全体として多孔質構造を有していればよく、必ずしも構造体を構成するシリカ自体が多孔質構造を有することを要しない。このようなポーラスシリカの態様として、(i) 多孔質構造を有するシリカ、および、(ii) 微粒子シリカと上記
バインダー物質とからなる多孔質構造体(以下、「シリカ−バインダー多孔質構造体」)が挙げられる。本発明においては、これらのうち、シリカ−バインダー多孔質構造体がポーラスシリカとして好適に用いられる。ポーラスシリカとしてシリカ−バインダー多孔質構造体が用いられる場合、シリカ−バインダー多孔質構造体を構成する微粒子シリカ自体は、多孔質構造を有するものであってもよいし、有さないものであってもよい。
【0064】
なお、上記「多孔質構造を有するシリカ」の例としては、モノリス型シリカが挙げられる。
【0065】
厚さ
本発明で用いられる多孔質誘電体層13の厚さは、プラズモン励起センサとして機能するために充分な電場増強が好適に得られる限り特に限定されるものではない。多孔質誘電体層13は、用いられる多孔質誘電体の材質によって好適な厚さが変わるものの、多孔質ではない誘電体を誘電体層として用いる場合と比べて、より大きな厚みとすることができる。また、本発明で用いられる多孔質誘電体層13は、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とに基づく流路類似構造を有していることから、膜厚による性能変動の影響を最小限に抑えることができ、また、検体を含む送液の全体が多孔質誘電体層13内を通過するような態様でアッセイを行うことさえ可能である。
【0066】
例えば、多孔質誘電体層13が上記ポーラスシリカからなる骨格を有する場合、その厚さが2μmであっても、プラズモン励起センサとしての機能を発揮させるために必要な電場増強効果がその多孔質誘電体層13表面にまで達する。そのため、本発明のプラズモン励起センサでは、多孔質誘電体層13の厚さが400nm〜2μmであってもよく、400nm〜1μmであることがより好ましい。
【0067】
これに対して、多孔質でない通常のシリカを誘電体層として用いた従来公知のプラズモン励起センサでは、誘電体層の厚さが200nm以上になるとその誘電体層表面での電場増強効率が低下し、2μmではその誘電体層表面での電場増強が通常生じなくなる。そのため、従来公知のプラズモン励起センサにおける誘電体層の厚さを、本発明のプラズモン励起センサにおける多孔質誘電体層13について採用しうる上記のような厚さとすると、プラズモン励起センサとしての機能を発揮することが困難である。
【0068】
このように、ポーラスシリカを誘電体層に用いる場合には、通常のシリカを誘電体層に用いる場合と比べて、有効な電場増強が及ぶ距離が長くなるという利点がある。
【0069】
細孔
本発明で用いられる多孔質誘電体層13には、細孔131が多数形成されている。本発明に係るプラズモン励起センサ10の細孔部分についての拡大概略図を、図2に示す。本発明において、細孔131は、多孔質誘電体層13を構成する三次元網目状の骨格構造に形成された細孔をいい、例えば、図2に示されるように骨格構造を構成する複数の有機材料または無機材料の粒子の間隙として存在していてもよく、あるいは、骨格構造を構成する複数の有機材料または無機材料の粒子に形成された細孔であってもよい。また、多孔質誘電体層13を構成する三次元網目状の骨格構造が、モノリス型シリカなどのように、マクロな貫通孔と貫通孔の内壁面に形成された細孔とを有する二重構造を有する材料から構成される場合、細孔131は、貫通孔の内壁面に形成された細孔であってもよい。
【0070】
本発明において、リガンド132は多孔質誘電体層13に結合しているところ、その少なくとも大部分はこの細孔131中に固定されている。このことから、細孔131の孔径は、リガンド132とアナライトとが結合することにより生成するアナライト−リガンド複合体が中に入る大きさである必要があり、一般的には10nm以上、好ましくは50nm以上である。このような孔径とすることは、電場増強の観点からも望ましい。
【0071】
一方、抗体を高密度に固相化する観点から、細孔131の孔径を過度に大きくすることは現実的ではない。したがって、細孔131の孔径は一般的には100nm以下である。
【0072】
また、本発明で用いられる多孔質誘電体層13には、細孔131以外に、骨格の高次構造により形成されるマクロ孔133も含まれている。このマクロ孔133は、多孔質誘電体層13において三次元網目状の孔構造を与えるものであり、流路としての機能を有するものである。本発明においては、このようなマクロ孔133として、100nm〜1μmの大きさのマクロ孔が含まれていても良い。
【0073】
本発明において、多孔質誘電体層13の多孔率は5%〜50%であることが好ましい。
【0074】
官能基
また、多孔質誘電体層13へのリガンド132の固定がより確実に行われるよう、多孔質誘電体層13には、リガンド132と結合するための官能基が導入されていることが望ましい。このような官能基として、アミノ基、チオール基、カルボキシル基などが挙げられる。このような官能基が多孔質誘電体層13に導入されている場合、多孔質誘電体層13とリガンド132との結合が、該多孔質誘電体層13に導入された官能基を通じて行われる。
【0075】
他の層
上記金属薄膜12と多孔質誘電体層13との間には、多孔質誘電体層13を金属薄膜12に固定する等の目的で、自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer:SAM)からなる層などの他の層が介在していても良い。ここで用いうるSAMを構成する分子として、通常、炭素原子数4〜20程度のカルボキシアルカンチオール(例えば、(株)同仁化学研究所、シグマ アルドリッチ ジャパン(株)などから入手可能)、特に好ましくは10−カルボキシ−1−デカンチオールが用いられる。炭素原子数4〜20のカルボキシアルカンチオールは、それを用いて形成されたSAMの光学的な影響が少ない、すなわち透明性が高く、屈折率が低く、膜厚が薄いなどの性質を有していることから好適である。SAMの形成方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。具体例として、金属薄膜12がその表面に形成された透明誘電体基板11を、10−カルボキシ−1−デカンチオール((株)同仁化学研究所製)を含むエタノール溶液に浸漬する方法などが挙げられる。このように、10−カルボキシ−1
−デカンチオールが有するチオール基が、金属と結合し固定化され、金薄膜の表面上で自己組織化し、SAMを形成する。しかし、本発明において、このようなSAMからなる層など他の層が上記金属薄膜12と多孔質誘電体層13との間に介在していると、この他の層において増強電場の損失が起こり、多孔質誘電体層13における電場増強の効果が減少する場合がある。したがって、本発明では、電場増強の効果が最大限に得られるよう、多孔質誘電体層13は上記金属薄膜12の表面に直接形成されていることが望ましい。
【0076】
形成方法
本発明において、多孔質誘電体層13は、膜・フィルム形成法、相分離法、抽出法、化学的処理法、延伸法、エッチング法、融着法、発泡法、表面処理、中空繊維化などの各種方法により形成することができる。
【0077】
有機材料からなる骨格を有する多孔質誘電体層13を形成する場合、例えば、上述の有機材料からなる粒子を、上述のバインダー物質と共に金属薄膜12表面に塗布等して固定化することにより多孔質誘電体層13を形成することができる。このとき、必要に応じて上述の官能基を、当該固定化の際に、あるいは当該固定化の後に周知の手法により導入してもよい。
【0078】
また、無機材料からなる骨格を有する多孔質誘電体層13を形成する場合、例えば、所要の孔径を有する細孔を持つ無機材料粒子を予め調製し、得られた無機材料粒子を、適当なバインダー物質と共に金属薄膜12表面に塗布等して固定化することにより多孔質誘電体層13を形成することができる。また、別の態様として、無機材料からなる微粒子を、界面活性剤などのテンプレート物質存在下で適当なバインダー物質と共に金属薄膜12表面に塗布して乾燥させることにより多孔質誘電体層13を形成してもよい。
【0079】
例えば、微粒子シリカを原料としてポーラスシリカからなる骨格を有する多孔質誘電体層13を形成する方法として、微粒子シリカと上述のバインダー物質とを含む混合液を塗布等することにより金属薄膜12を表面処理して、多孔質誘電体層13を形成する方法が挙げられる。この場合、シリカ−バインダー多孔質構造体からなる骨格を有する多孔質誘電体層13を形成することができる。このとき、この混合液には、上記「細孔」の項で述べたような粒径を有する細孔131を持つ多孔質誘電体層13が得られるよう、通常界面活性剤も含まれている。ここで、用いられる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、例えば、2−スルホコハク酸ビス(1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル)塩などの含フッ素アニオン系界面活性剤が挙げられる。このような含フッ素アニオン系界面活性剤を用いると、表面張力が下がり、液滴の広がりがよくなる点で好ましい。なお、本発明において、界面活性剤のことを、「分散剤」と称する場合がある。
【0080】
ここで用いられる微粒子シリカとして、必要に応じて、すでに所要の孔径を有する細孔を持つものを用いてもよい。このような微粒子シリカは、気相法、FSM法、MCM法など従来公知の方法によって作成することができる。ここで、気相法は、シリカ前駆物質を燃焼等の方法により気相中で分解等させることによってポーラスシリカを製造する方法である。また、FSM法は、カネマイト(NaHSi25・3H2O)などの層状シリケー
トに、界面活性剤などからなるミセルを作用させることによってこの層状シリケートの層構造を変化させ、最後に界面活性剤などを溶媒洗浄または焼成により除去することによりポーラスシリカを製造する方法である。MCM法は、アルコキシシランなどの適当なシリカ前駆物質を界面活性剤存在下で加水分解し、界面活性剤などからなるミセルの周囲で重合させ、最後に界面活性剤などを溶媒洗浄または焼成により除去することによりポーラスシリカを製造する方法である。MCM法によって微粒子シリカを作製する際に用いられる界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミドなどのカチオン系界面活性剤が挙げられ、必要により、2,3−ジヒドロキシナフタレン(DHN)、または、3−
アミノー2−ナフトエ酸(ANA)などの疎水性化合物が併用される。このような界面活性剤等を用いることにより、上記「細孔」の項で述べたような粒径を有する細孔131を持つ多孔質誘電体層13が得られる。ここで、界面活性剤のアルキル鎖の長さを変えることにより、反応液中で形成するミセルの径を変化させ、得られる細孔の孔径を制御することができる。また、疎水性化合物を添加することによってミセルを膨潤させて、細孔の孔径を大きくすることもできる。
【0081】
なお、ポーラスシリカからなる骨格を有する多孔質誘電体層13を形成する方法としては、金属薄膜12の表面にモノリス型シリカからなる層を形成させる方法も挙げられる。例えば特開2005−345379号公報や特開2005−224167号公報、国際公開第2005/078088号パンフレットに記載された製法により製造することが可能である。
【0082】
多孔質誘電体層13を構成するポーラスシリカへの上記官能基の導入方法として、一つには、ポーラスシリカの形成反応を、所要の官能基または当該官能基の前駆基を有するシランカップリング剤共存下で行い、必要により、当該前駆基を変化させて所要の官能基に導く方法が挙げられる。あるいは、ポーラスシリカの骨格を形成した後に、所要の官能基を有するシランカップリング剤を作用させることにより、所要の官能基を導入しても良い。ただ、反応制御の容易さおよび操作性などの観点から、本発明においては、ポーラスシリカの骨格を形成した後に、所要の官能基を有するシランカップリング剤を作用させることにより、所要の官能基が導入された多孔質誘電体層13を形成することが好ましい。
【0083】
なお、官能基を導入する反応を行った後は、後述するリガンド132の固定化に先立ち、水やエタノール、IPA(イソプロピルアルコール)などの有機溶剤を用いて反応に供した基板表面を洗浄する)ことにより、未反応のシランカップリング剤を除去しておくことが好ましい。
【0084】
《リガンド》
本発明に係るプラズモン励起センサ10では、多孔質誘電体層13にリガンド132が結合している。このリガンド132は、プラズモン励起センサに、検体中のアナライトを固定させる目的で用いられるものである。
【0085】
本発明において、「リガンド」とは、検体中に含有されるアナライトを特異的に認識し(または、認識され)結合し得る分子または分子断片をいう。このような「分子」または「分子断片」としては、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
「タンパク質」としては、例えば、抗体などが挙げられ、具体的には、抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体((株)日本医学臨床検査研究所などから入手可能)、抗ガン胎児性抗原(CEA)モノクローナル抗体、抗CA19−9モノクローナル抗体、抗PSAモノクローナル抗体などが挙げられる。
【0087】
なお、本発明において、「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、遺伝子組換えにより得られる抗体、および抗体断片を包含する。
【0088】
このリガンド132の固定化方法としては、例えば、上記多孔性誘電体層31に導入さ
れたシランカップリング剤などが有するカルボキシル基を、水溶性カルボジイミド(WSC)(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)など)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とにより活性エステル化し、このように活性エステル化したカルボキシル基と、上記リガンドが有するアミノ基とを水溶性カルボジイミドを用いて脱水反応させ固定化させる方法などが挙げられる。
【0089】
なお、後述する検体等がプラズモン励起センサ10に非特異的に吸着することを防止するため、上記リガンド132を固定化させた後に、プラズモン励起センサ10の表面を牛血清アルブミン(BSA),エタノールアミン塩等のブロッキング剤により処理することが好ましい。
【0090】
《プラズモン励起センサの製造方法》
上述したプラズモン励起センサの製造方法として、下記工程(a)〜(c)を含む製造方法が挙げられる:
工程(a):透明誘電体基板11の表面に金属薄膜12を形成させる工程、
工程(b):前記金属薄膜12の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13を形成させる工程、および
工程(c):前記多孔質誘電体層13にリガンド132を結合させる工程。
【0091】
<工程(a)>
本発明の製造方法において、工程(a)は、透明誘電体基板11の表面に金属薄膜12を形成させる工程である。この工程(a)においては、上記「金属薄膜」の項で述べた方法により、金属薄膜12が形成される。
【0092】
<工程(b)>
本発明の製造方法において、工程(b)は、前記工程(a)で形成された前記金属薄膜12の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層13を形成させる工程である。この工程(b)においては、上記「多孔質誘電体層」の項で述べた方法により、多孔質誘電体層13が形成される。
【0093】
前述したように、本発明に係るプラズモン励起センサでは、前記多孔質誘電体層13がポーラスシリカからなる骨格を有することが望ましいことから、そのようなプラズモン励起センサを製造するためには、工程(b)において形成される多孔質誘電体層13がポーラスシリカからなる骨格を有することが望ましい。この場合、多孔質誘電体層13を、厚さが400nm〜2μmとなるように形成することが好ましい。
【0094】
本発明における好適な態様では、工程(b)には、微粒子シリカと親水性バインダーとの混合物を分散剤存在下で金属薄膜12表面に固定化することにより、ポーラスシリカからなる骨格を形成させる工程が含まれる。この工程には、通常、微粒子シリカと上述したバインダー物質と界面活性剤との混合液を調製する工程と、この混合液を金属薄膜12に塗布等する工程と、塗布された混合液を乾燥することによりポーラスシリカからなる骨格を形成させる工程とが含まれる。塗布された混合液の乾燥は、加熱下で行ってもよく、また、温度を段階的あるいは連続的に変えながら行ってもよい。
【0095】
その後、このポーラスシリカからなる骨格に対して、所要の官能基を有するシランカップリング剤を作用させる工程を必要により行うことで、多孔質誘電体層13が形成される。
【0096】
<工程(c)>
本発明の製造方法において、工程(c)は、前記工程(b)で形成された前記多孔質誘
電体層13の表面にリガンド132を形成させる工程である。この工程(c)においては、上記「リガンド」の項で述べた方法により、リガンド132が形成される。
【0097】
〔アナライトの検出方法〕
本発明に係るアナライトの検出方法は、
工程(p):プラズモン励起センサ10に検体を接触させる工程と、
工程(q):プラズモン励起センサ10に形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程と
を含む。
【0098】
《アナライト−リガンド複合体の形成工程》
本発明に係る検出方法においては、まず、上述したプラズモン励起センサ10にアナライト−リガンド複合体を形成させる工程がなされる。そのため、工程(p)として、このプラズモン励起センサ10に検体を接触させる工程が必ず行われる。
【0099】
<工程(p):検体接触工程>
本発明に係る検出方法において、工程(p)は、上述のプラズモン励起センサ10に検体を接触させる工程である。
【0100】
検体
本発明において、「検体」とは、本発明の検出方法による測定対象となる種々の試料をいう。
【0101】
「検体」としては、例えば、血液(血清・血漿)、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられ、所望の溶媒、緩衝液等に適宜希釈して用いてもよい。これら検体のうち、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液および唾液が好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0102】
アナライト
本発明において「アナライト」は、上記蛍光標識剤を用いた各種バイオアッセイ法における検出の対象となる分子または分子断片を意味し、このような「分子」または「分子断片」としては、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0103】
検体の接触
本発明において、「接触」とは、プラズモン励起センサ10のリガンド132等が固定化されている面が送液中に浸漬されている状態で、この送液中に含まれる対象物をこのプラズモン励起センサと接触させることをいう。工程(p)では、上記検体とプラズモン励起センサとの「接触」は、流路中に循環する送液に検体が含まれ、プラズモン励起センサのリガンドが固定化されている片面のみが該送液中に浸漬されている状態において、プラズモン励起センサと検体とを接触させる態様が好ましい。
【0104】
上記「流路」とは、微量な薬液の送達を効率的に行うことができ、反応促進を行うために送液速度を変化させたり、循環させたりすることができる直方体または管状のものである。また、この流路の形状として、プラズモン励起センサを設置する個所近傍は直方体構
造を有することが好ましく、薬液を送達する個所近傍は管状を有することが好ましい。
【0105】
その材料としては、SPFS等、プラズモン励起センサ上で発生した蛍光発光を流路系外に設けられた検出部に導光する必要のある検出方法にも対応できるよう、プラズモン励起センサ部ではメチルメタクリレート、スチレン等を原料として含有するホモポリマーまたは共重合体;ポリエチレン等のポリオレフィンなどの光透過性の材質からなり、薬液送達部ではシリコーンゴム、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーを用いる。
【0106】
ただし、プラズモン励起センサ部については、蛍光測定時に流路が一定の形状に保たれ、且つプラズモン励起により発生した蛍光の検出が妨げられない限り、必ずしもその流路構造の全てを光透過性の材質のみから構成する必要はない。すなわち、プラズモン励起センサ部の流路のうち、プラズモン励起により発生した蛍光を透過させて検出部に導くために必要な部分、具体的には蛍光の集光に必要な透光窓を含む部分については、光透過性の材質で構成する必要があるが、その他の部分については、その一部または全部を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。プラズモン励起センサ部の流路が直方体構造を有する場合、金属薄膜12および多孔質誘電体層13が表面に存在するプラズモン励起センサの面を底面としたときに、例えば、この底面と対向する位置にある天井面を光透過性の材質で構成し、側面を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。
【0107】
ここで、前記その他の部分、例えば側面は、蛍光測定時に一定の形状が保たれる限り、必ずしも剛体である必要はなく、シール性を確保するために適度な弾性を有していてもよい。例えば、プラズモン励起センサ部の流路について、天井面をポリメチルメタクリレート(PMMA)で構成し、側面をシリコーンゴムで構成してもよい。
【0108】
プラズモン励起センサ部においては、検体との接触効率を高め、拡散距離を短くする観点から、プラズモン励起センサ部の流路の断面として、縦×横がそれぞれ独立に50μm〜1mm程度が好ましい。
【0109】
流路において、薬物送達部からプラズモン励起センサ部に送液を導入する送液導入口、及びその送液をプラズモン励起センサ部から排出する送液排出口の位置は、いずれも、蛍光測定の妨げとならない限り特に限定されない。例えば、プラズモン励起センサ部の流路が直方体構造を有する場合、前記送液導入口及び送液排出口とも天井面に設けるのが流路の作成上簡便であるが、この送液導入口と送液排出口とのうちいずれか一方、あるいはその両方を側面に設けてもよい。
【0110】
流路にプラズモン励起センサを固定する方法は、流路が一定の形状に保たれ、且つ蛍光測定が妨げられない限り特に限定されない。
【0111】
このような固定方法の例としては、小規模ロット(実験室レベル)では、まず、プラズモン励起センサの金属薄膜12が形成されている表面上に、一定の厚さを有するシリコーンゴム製シートまたはOリングを載せることによって流路の側面構造を形成し、次いで、その上に送液導入口及び送液排出口を設けてある光透過性の天板(例えば、PMMA基板)を配置することによって流路の天井面を形成し、その後、これらを圧着して適当な留め具により固定する方法などが挙げられる。このとき、側面構造を構成する材料として、その中央部に任意の形状および大きさを有する穴を開けてある、適当な厚さを有するシリコーンゴム製シートを用いると、この穴の内周がプラズモン励起センサ部の流路の側面構造となることから、所要の形状および大きさを有する流路を容易に形成することができるので好ましい。例えば、まず、該プラズモン励起センサの金属薄膜12が形成されている表
面に、流路高さ0.5mmを有する穴あきポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートを該プラズモン励起センサの金属薄膜12が形成されている部位を囲むようにして配置し、次いで、このポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートの上に、予め送液導入口及び送液排出口を設けてあるPMMA基板を配置し、その後、該PMMA基板と該ポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートと該プラズモン励起センサとを圧着し、ビス等の留め具により固定する方法が好ましい。また、プラズモン励起センサに、シリコーンゴム製シートまたはOリングと光透過性の天板とを圧着し、固定するにあたっては、必要に応じて、シリコーンゴムまたはステンレスなどの材質でできた適当なスペーサーを併用してもよい。
【0112】
また、工業的に製造される大ロット(工場レベル)では、流路にプラズモン励起センサを固定する方法としては、プラスチックの一体成形品に直接金基板を形成するか或いは別途作製した金基板を固定し、金表面に多孔質誘電体層を形成させ、さらにリガンド固定化を行った後、流路の天板に相当するプラスチックの一体成形品により蓋をすることで製造できる。必要に応じてプリズムを流路に一体化することもできる。
【0113】
このような「送液」としては、検体を希釈した溶媒または緩衝液と同じものが好ましく、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0114】
送液を循環させる温度および時間としては、検体の種類などにより異なり、特に限定されるものではないが、通常20〜40℃×1〜60分間、好ましくは37℃×5〜15分間である。
【0115】
送液中の検体中に含有されるアナライトの初期濃度は、100μg/mL〜0.0001pg/mLであってもよい。
【0116】
送液の総量、すなわち流路の容積としては、通常0.0001〜20mL、好ましくは0.01〜1mLである。
【0117】
送液の流速は、通常1〜2,000μL/min、好ましくは5〜500μL/min
である。
【0118】
洗浄工程
洗浄工程とは、工程(p)を経て得られたプラズモン励起センサの表面、および必要に応じて行われる後述の蛍光分子導入工程(p−1)を経て得られるプラズモン励起センサの表面のうち少なくともいずれか一方を洗浄する工程である。この洗浄工程は、工程(p−1)の前後のうち少なくともいずれか一方に含まれることが好ましい。
【0119】
洗浄工程に使用される洗浄液としては、例えば、Tween20、TritonX100などの界面活性剤を、工程(a)および(b)の反応で用いたものと同じ溶媒または緩衝液に溶解させ、好ましくは0.00001〜1重量%含有するものが望ましい。
【0120】
洗浄液を循環させる温度および流速は、上記工程(a)の「送液を循環させる温度および流速」と同じであることが好ましい。
【0121】
洗浄液を循環させる時間は、通常0.5〜180分間、好ましくは5〜60分間である。
【0122】
<工程(p−1):蛍光分子導入工程>
本発明に係る検出方法において、SPFSなど、誘電体層の表面あるいは内部にアナライトと共に固定された蛍光色素からの発光量に基づいて検体中のアナライトを検出する場合には、工程(p)の後に工程(p−1)として、工程(p)を経て得られたプラズモン励起センサに、第2のリガンドと蛍光標識とからなるコンジュゲートを接触させて固定させる工程がさらに含まれる。なお、プラズモン励起センサ10において、多孔質誘電体層13に固定されているリガンド132を以降「第1のリガンド」と称する場合がある。
【0123】
アナライトが核酸等である場合には、工程(p−1)を行う代わりに、検体を予め蛍光分子により蛍光修飾処理し、得られる蛍光修飾処理検体を工程(p)においてプラズモン励起センサ10に接触させることによって、プラズモン励起センサ10に蛍光分子を導入してもよい。
【0124】
蛍光分子
本発明に係る検出方法において、SPFSなど検体中のアナライトの存在を蛍光発光の形で検出する方法を用いることができ、その場合、蛍光分子が用いられる。本発明において「蛍光分子」とは、本発明において、所定の励起光を照射する、または電界効果を利用して励起することによって蛍光を発光する分子を意味し、該「蛍光」は、燐光など各種の発光も含む。
【0125】
本発明で蛍光分子として用いられる蛍光色素は、その種類に特に制限はなく、公知の蛍光色素のいずれであってもよい。一般に、単色比色計(monochromometer)よりむしろフィルタを備えた蛍光計の使用をも可能にし、かつ検出の効率を高める大きなストークス・シフトを有する蛍光色素が好ましい。
【0126】
このような蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(Integrated DNA Technologies社製)、ポリハロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、ヘキサクロロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、クマリン・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ローダミン・ファミリーの蛍光色素(GEヘルスケア バイオサイエンス(株)製)、シアニン・ファミリーの蛍光色素、インドカルボシアニン・ファミリーの蛍光色素、オキサジン・ファミリーの蛍光色素、チアジン・ファミリーの蛍光色素、スクアライン・ファミリーの蛍光色素、キレート化ランタニド・ファミリーの蛍光色素、BODIPY(登録商標)・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ナフタレンスルホン酸・ファミリーの蛍光色素、ピレン・ファミリーの蛍光色素、トリフェニルメタン・ファミリーの蛍光色素、Alexa Fluor(登録商標)色素シリーズ(インビトロジェン(株)製)などが挙げられ、さらに米国特許番号第6,406,297号、同第6,221,604号、同第5,
994,063号、同第5,808,044号、同第5,880,287号、同第5,556,
959号および同第5,135,717号に記載の蛍光色素も本発明で用いることができる。
【0127】
これらファミリーに含まれる代表的な蛍光色素の吸収波長(nm)および発光波長(nm)を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
また、蛍光分子として用いられる蛍光色素は、上記有機蛍光色素に限られない。例えば、例えばEu、Tb等の希土類錯体系の蛍光色素も、本願発明に用いられる蛍光分子となりうる。希土類錯体は、一般的に励起波長(310〜340nm程度)と発光波長(Eu錯体で615nm付近、Tb錯体で545nm付近)との波長差が大きく、蛍光寿命が数百マイクロ秒以上と長い特徴がある。市販されている希土類錯体系の蛍光色素の一例としては、ATBTA−Eu3+が挙げられる。
【0130】
本発明においては、例えば、金属薄膜12として金を用いる場合には、最大蛍光波長が600〜700nmの範囲にある蛍光色素を使用することが望ましい。このような蛍光色素として、例えば、Cy5、Alexa 647などが挙げられ、特にAlexa 647を使用することが望ましい。一方、金属薄膜12として銀を用いる場合には、最大蛍光波長が400〜700nmの範囲にある蛍光色素を使用することが望ましい。
【0131】
これら蛍光色素は1種単独でも、2種以上併用してもよい。
【0132】
第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート
「第2のリガンドと蛍光分子からなるコンジュゲート」は、リガンドとして2次抗体を用いる場合、検体中に含有されるアナライト(標的抗原)を認識し結合し得る抗体であることが好ましい。
【0133】
本発明のアッセイ法において、第2のリガンドは、アナライトに蛍光分子による標識化を行う目的で用いられるリガンドであり、前記第1のリガンド132と同じでもよいし、異なっていてもよい。ただし、第1のリガンド132として用いる1次抗体がポリクローナル抗体である場合、第2のリガンドとして用いる2次抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、該1次抗体がモノクローナル抗体である場合、2次抗体は、該1次抗体が認識しないエピトープを認識するモノクローナル抗体であるか、またはポリクローナル抗体であることが望ましい。
【0134】
さらに、検体中に含有されるアナライト(標的抗原)と競合する第2のアナライト(競合抗原;ただし、標的抗原とは異なるものである。)と2次抗体とがあらかじめ結合した複合体を用いる態様も好ましい。このような態様は、蛍光信号(蛍光シグナル)量と標的抗原量とを比例させることができるため好適である。
【0135】
「第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート」の作製方法としては、第2のリガンドとして2次抗体を用いる場合、例えば、まず蛍光色素にカルボキシル基を付与し、該カルボキシル基を、水溶性カルボジイミド(WSC)(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)など)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とにより活性エステル化し、次いで活性エステル化したカルボキシル基と2次抗体が有するアミノ基とを水溶性カルボジイミドを用いて脱水反応させ固定化させる方法;イソチオシアネートおよびアミノ基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;スルホニルハライドおよびアミノ基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;ヨードアセトアミドおよびチオール基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;ビオチン化された蛍光色素とストレプトアビジン化された2次抗体(あるいは、ストレプトアビジン化された蛍光色素とビオチン化された2次抗体)とを反応させ固定化する方法などが挙げられる。
【0136】
このように作製された「第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート」の送液中の濃度は、0.001〜10,000μg/mLが好ましく、1〜1,000μg/mL
がより好ましい。
【0137】
送液を循環させる温度、時間および流速は、それぞれ上記工程(p)の場合と同様である。
【0138】
《検出・定量工程》
本発明に係る検出方法においては、次に、生成したアナライト−リガンド複合体を検出及び解析する工程がなされる。そのため、工程(q)として、プラズモン励起センサ10に形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程が必ず行われる。
【0139】
<工程(q):検出工程>
工程(q)は、上記工程(p)あるいは(p−1)で得られたプラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程である。このときアナライト−リガンド複合体の検出は、表面プラズモン共鳴が生じる入射角(「共鳴角」という。)および反射光強度の変化を測定することによって行ってもよいし、あるいは、表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光を検出することにより行ってもよい。例えばSPFSによって、リガンド132に対してアナライトと共に導入した蛍光分子からの蛍光発光量を測定することによって行ってもよい。
【0140】
光学系
本発明で用いる光源は、前記金属薄膜12にプラズモン励起を生じさせることができるものであれば、特に制限がないものの、波長分布の単一性および光エネルギーの強さの点で、レーザ光を光源として用いることが好ましい。レーザ光は、光学フィルタを通して、プリズムに入射する直前のエネルギーおよびフォトン量を調節することが望ましい。
【0141】
レーザ光の照射により、全反射減衰条件(ATR)において、金属薄膜12の表面に表面プラズモンが発生する。これに対応して、反射光強度が減少する。なお、共鳴角は、金属薄膜12表面の物質誘電率によって変化する。
【0142】
一方、金属薄膜12の表面に発生した表面プラズモンの電場増強効果により、照射したフォトン量の数十〜数百倍に増えたフォトンにより蛍光分子を励起する。なお、該電場増強効果によるフォトン増加量は、透明誘電体基板11の屈折率、金属薄膜12の金属種お
よび膜厚に依存するが、通常、金では約10〜20倍の増加量となる。
【0143】
蛍光分子は、光吸収により分子内の電子が励起され、短時間のうちに第一電子励起状態に移動し、この状態(準位)から基底状態に戻る際、そのエネルギー差に相当する波長の蛍光を発する。
【0144】
「レーザ光」としては、例えば、波長200〜900nm、0.001〜1,000mWのLDレーザ、波長230〜800nm(金属薄膜12に用いる金属種によって共鳴波長が決まる。)、0.01〜100mWの半導体レーザなどが挙げられる。
【0145】
「プリズム」は、各種フィルタを介したレーザ光が、プラズモン励起センサに効率よく入射することを目的としており、屈折率が透明誘電体基板11と同じであることが好ましい。本発明は、全反射条件を設定できる各種プリズムを適宜選択することができることから、角度、形状に特に制限はなく、例えば、60度分散プリズムなどであってもよい。このようなプリズムの市販品としては、上記「透明誘電体基板」に用いられる光学ガラスの市販品と同様のものが挙げられる。なお、プリズムは、プリズム一体化基板のプリズム部として上記透明誘電体基板11に組み込まれていてもよい。
【0146】
「光学フィルタ」としては、例えば、減光(ND)フィルタ、ダイアフラムレンズなどが挙げられる。「減光(ND)フィルタ」(または、中性濃度フィルタ)は、入射レーザ光量を調節することを目的とするものである。特に、ダイナミックレンジの狭い検出器を使用するときには精度の高い測定を実施する上で用いることが好ましい。
【0147】
「偏光フィルタ」は、レーザ光を、表面プラズモンを効率よく発生させるP偏光とするために用いられるものである。
【0148】
「カットフィルタ」は、外光(装置外の照明光)、励起光(励起光の透過成分)、迷光(各所での励起光の散乱成分)、プラズモンの散乱光(励起光を起源とし、プラズモン励起センサ表面上の構造体または付着物などの影響で発生する散乱光)、酵素蛍光基質の自家蛍光、などの各種ノイズ光を除去するフィルタであって、例えば、干渉フィルタ、色フィルタなどが挙げられる。
【0149】
「集光レンズ」は、検出器に蛍光シグナルを効率よく集光することを目的とするものであり、任意の集光系でよい。簡易な集光系として、顕微鏡などで使用されている、市販の対物レンズ(例えば、(株)ニコン製またはオリンパス(株)製等)を転用してもよい。対物レンズの倍率としては、10〜100倍が好ましい。
【0150】
「SPFS検出部」としては、超高感度の観点からは光電子増倍管(浜松ホトニクス(株)製のフォトマルチプライヤー)が好ましい。また、これらに比べると感度は下がるが、画像として見ることができ、かつノイズ光の除去が容易なことから、多点計測が可能なCCDイメージセンサも好適である。
【0151】
駆動装置
本発明において、上記光学系は「駆動装置」の形で統合されていてもよい。本発明の駆動装置は、上記プラズモン励起センサを用いて、本発明を実施するためのものである。
【0152】
「駆動装置」としては、少なくとも光源、各種光学フィルタ、プリズム、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部を含むものとする。なお、検体液、洗浄液などを取り扱う際に、プラズモン励起センサと組み合った送液系を有することが好ましい。送液系としては、本発明の目的が達せられる限り、その種類を問わない。例えば、液ポンプと連
結したマイクロ流路デバイスなどでもよい。
【0153】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)検出部、すなわちSPR専用の受光センサとしてのフォトダイオード、SPRおよびSPFSの最適角度を調製するための角度可変部(サーボモータで全反射減衰(ATR)条件を求めるためにフォトダイオードと光源とを同期して、45〜85°の角度変更を可能とする。分解能は0.01°以上が好ましい。)、SPFS検出部に入力された情報を処理するためのコンピュータなども含んでもよい。
【0154】
光源、光学フィルタ、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部の好ましい態様は上述したものと同様である。
【0155】
「送液ポンプ」としては、例えば、送液が微量な場合に好適なマイクロポンプ、送り精度が高く脈動が少なく好ましいが循環することができないシリンジポンプ、簡易で取り扱い性に優れるが微量送液が困難な場合があるチューブポンプなどが挙げられる。
【0156】
<工程(q−1):アナライトの定量工程>
本発明に係る検出方法において、上記工程(q)の後に工程(q−1)として、通常、工程(q)で得られた測定結果から、検体中に含有されるアナライトの量を算出する工程がさらに含まれる。
【0157】
この工程は、より具体的には、既知濃度の標的抗原もしくは標的抗体での測定を実施することで検量線を作成し、作成された検量線に基づいて被測定検体中の標的抗原量もしくは標的抗体量を測定シグナルから算出する工程である。
【0158】
アッセイS/N比
工程(q−1)においては、上記工程(q)の前に測定した"ブランク蛍光シグナル"、上記工程(q)での測定により得られた"アッセイ蛍光シグナル"、および何も修飾していない金属基板(本発明では、表面に金属薄膜を形成しただけで、さらなる修飾処理を行っていない透明誘電体基板も含む。)を流路に固定し、超純水を流しながらSPFSを測定して得られたシグナルを"初期ノイズ"としたとき、下記式(1a)で表されるアッセイS/N比を算出することができる:
アッセイS/N比=|Ia/Io|/In (1a)
(上記式(1a)において、Iaはアッセイ蛍光シグナル、Ioはブランク蛍光シグナル、Inは初期ノイズである)。
【0159】
ただし、アッセイS/N比を算出するにあたっては、実用上、上記式(1a)に代えて、検体中に含まれるアナライトの濃度が0の場合における"アッセイノイズシグナル"を基準として、下記式(1b)にしたがって算出してもよい:
アッセイS/N比=|Ia|/|Ian| (1b)
(上記式(1b)において、Ianはアッセイノイズシグナル、Iaは上記式(1a)の場
合と同様にアッセイ蛍光シグナルである)。
【0160】
SPFSの代わりに、共鳴角および反射光強度などを通じてSPRを検出する場合には、上記IaおよびIoとして、それぞれ、アッセイ蛍光シグナルおよびブランク蛍光シグナルの代わりに、対応するアッセイシグナルおよびプランクシグナルを用いることができる。
【実施例】
【0161】
[実施例1]
(工程1:金属薄膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=
1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。金薄膜の厚さは44〜52nmであった。
【0162】
(工程2:多孔質誘電体層の導入)
前記工程1により得られた基板に、純水9.8ml、平均粒径約0.07μmの微粒子シリカ482mg、平均重合度2000のポリビニルアルコール(ケン化度89mol%)128mg、界面活性剤1、112mgの混合液より成る塗布液を湿潤膜厚が2μmになるように塗布した。
【0163】
界面活性剤1の構造式は下記式(S1)に示す通りである。
【0164】
【化1】

【0165】
その後、20℃、1時間送風による乾燥を行い、更に100℃、2時間送風による乾燥を行うことで、多孔質誘電体層の導入を行った。
【0166】
(工程3:シランカップリング剤による多孔質誘電体層へのカルボキシル基導入)
予め、水10mlに、triethoxysilylpropylmaleamic acid100μl、酢酸100μlを加え1時間室温にて撹拌したシランカップリング剤含有水溶液に、前記工程2で得られた基板を浸漬させ、更に室温にて1時間撹拌した。100℃、1時間の乾燥条件により、多孔質表面にカルボキシル基が導入されたプラズモン励起センサ前駆基板を得た。
【0167】
(工程4:センサチップの構築)
工程3で得られたプラズモン励起センサ前駆基板のうちの金属薄膜およびSAMが形成された側の面に、測定領域を形成するための、流路長10mm、幅5mmの穴のあいた厚さ0.5mmのポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートを載せた。さらに、このPDMS製シートの周囲にシリコーンゴム製スペーサを配置した(このシリコーンゴム製スペーサは送液に触れない状態にある。)。このPDMS製シートおよびシリコーンゴム製スペーサの上に、送液導入用の穴(送液導入口)および送液排出用の穴(送液排出口)が上記測定領域内に位置するように形成されたPMMA製天板を載せた。これらセンサ基板、PDMS製シート、およびPMMA製天板の積層物を外周部で圧着してビスで固定し、センサチップとした。
【0168】
(工程5:抗体の結合)
センサチップの送液導入口および送液排出口に、シリコーンゴム製のチューブおよびペリスタポンプを連結した(以下、特に記載しない限り、各種流体の送液および循環をすべてこのようなチューブおよびペリスタポンプを用いて行った)。
【0169】
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(
株)同人化学研究所製)400mMと、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)100mMとを含む25mM MES(2−モルホリノエタンスルホン酸) バッファー(pH5.0)混合液を、流速500μL/minにて10分間フローして、センサチップに組み込まれた前駆基板の表面に固定されたカルボキシル基を活性エ
ステル化した。
【0170】
続いて、抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、2.5mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、当該抗体が20μg/mLとなるよう10mM酢酸バッファー(pH5.0)にて希釈して得られた溶液を、500μL/minにて30分間フローして、当該抗体を前記カルボキシル基に連結した。
【0171】
最後に、1Mエタノールアミン塩酸塩(SIGMA社製;pH8.5)水溶液を500μL/minにて10分間フローすることによってブロッキング処理をし、表面プラズモン励起センサを完成させた。
【0172】
(工程6:シグナルの測定)
前記工程1〜4により作製された表面プラズモン励起センサに、まず、AFP(2.0mg/mL溶液、Acris Antibodies GmbH社)が0.1ng/mLとなるようPBSバッ
ファー(pH7.4)で希釈した溶液を、500μL/minにて20分間フローさせた。
【0173】
つづいて、前述のようにして調製した標識抗体:「Alexa Fluor 647」標識抗AFPモ
ノクローナル抗体が2.5μg/mLとなるよう1%BSA−PBSバッファー(pH7.4)で希釈した溶液を、500μL/minにて20分間フローさせた。洗浄工程として、0.005%Tween20を含んだTBS溶液(pH7.4)を500μL/minにて10分間フローさせた。
【0174】
その後、空気を流速500μL/minにて20分間フローして乾燥させた状態にして、表面プラズモン励起センサの裏側からプリズムを経由してレーザ光(640nm、40μW)を照射し、センサ表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。この測定値を「アッセイシグナル」とした。
【0175】
一方、前記工程1〜4により作製された別の表面プラズモン励起センサについて、上記最初のステップでAFPを全く含まない(0ng/mL)PBSバッファー(pH7.4)をフローさせた以外は上記と同じ手順で蛍光量を測定し、その測定値を「ブランクシグナル」とした。
【0176】
[比較例1]
上記工程2、3に代えて下記工程2'を行うように変更した以外は実施例1と同様にし
て表面プラズモン励起センサを作製し、ブランクシグナルおよびアッセイシグナルを測定した。
【0177】
(工程2’:試薬による金表面へのカルボキシル基導入)
前記工程1により得られた基板を、10−カルボキシ−1−デカンチオールを1mM含むエタノール溶液に24時間以上浸漬し、金薄膜の片面にSAM(Self Assembled Monolayer;自己組織化単分子膜)を形成した。この基板を、前記エタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールでそれぞれ洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させ、金表面にカルボキシル基が導入されたプラズモン励起センサ前駆基板を得た。
【0178】
【表2】

【0179】
<S/N比>
以上の実施例および比較例それぞれのアッセイシグナル、ブランクシグナル、S/N比(比較例1のS/N比に対する比の値)は表2に示す通りである。本発明による実施例1の表面プラズモン励起センサは比較例1に示すような従来のSPFSセンサよりもS/N比が高く、SPFS測定の感度が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0180】
10・・・プラズモン励起センサ
11・・・透明誘電体基板
12・・・金属薄膜
13・・・多孔質誘電体層
131・・・細孔
132・・・リガンド
133・・・マクロ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、
該金属薄膜の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層が形成された
構造を有し、且つ
該多孔質誘電体層にリガンドが結合しているプラズモン励起センサ。
【請求項2】
前記多孔質誘電体層が、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つからなる骨格を有する請求項1に記載のプラズモン励起センサ。
【請求項3】
前記多孔質誘電体層が、有機材料及び無機材料のうち少なくともいずれか一つと、バインダー物質とからなる骨格を有する請求項1に記載のプラズモン励起センサ。
【請求項4】
前記多孔質誘電体層がポーラスシリカからなる骨格を有する請求項1に記載のプラズモ
ン励起センサ。
【請求項5】
前記ポーラスシリカが、微粒子シリカとバインダー物質とからなる多孔質構造体である請求項4に記載のプラズモン励起センサ。
【請求項6】
前記多孔質誘電体層の厚さが400nm〜2μmである請求項4または5に記載のプラズモン励起センサ。
【請求項7】
前記金属薄膜の表面に多孔質誘電体層が直接形成された構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載のプラズモン励起センサ。
【請求項8】
前記多孔質誘電体層に形成されている細孔の孔径が10nm〜100nmである請求項1〜7のいずれかに記載のプラズモン励起センサ。
【請求項9】
前記多孔質誘電体層の細孔中にリガンドが固定されている請求項1〜8のいずれかに記載のプラズモン励起センサ。
【請求項10】
前記多孔質誘電体層とリガンドとの結合が、該多孔質誘電体層に導入された官能基を通じて行われている請求項1〜9のいずれかに記載のプラズモン励起センサ。
【請求項11】
前記リガンドが抗体である請求項1〜10のいずれかに記載のプラズモン励起センサ。
【請求項12】
下記工程(p)〜(q)を含むアナライトの検出方法:
工程(p):請求項1〜11のいずれかに記載のプラズモン励起センサに検体を接触させ
る工程、および
工程(q):該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を表面プラズモン共鳴を利用して検出する工程。
【請求項13】
前記工程(q)が表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光を検出することにより行われる請求項12に記載の検出方法。
【請求項14】
下記工程(a)〜(c)を含むプラズモン励起センサの製造方法:
工程(a):透明誘電体基板の表面に金属薄膜を形成させる工程、
工程(b):前記金属薄膜の表面に、三次元網目状の骨格構造と三次元網目状の孔構造とを有する多孔質誘電体層を形成させる工程、および
工程(c):前記多孔質誘電体層にリガンドを結合させる工程。
【請求項15】
前記多孔質誘電体層がポーラスシリカからなる骨格を有する請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記多孔質誘電体層の厚さが400nm〜2μmである請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記(b)工程が、微粒子シリカと親水性バインダーとの混合物を分散剤存在下で前記金属薄膜の表面に固定化することによりポーラスシリカからなる骨格を形成させる工程を含む請求項15および16のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−232149(P2011−232149A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102102(P2010−102102)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】