説明

プリント配線基板

【課題】配線の断面形状を安定化して、接続信頼性を向上させる。
【解決手段】絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルム上に形成されるインナーリード部およびアウターリード部を含む配線と、を備えるプリント配線基板において、前記配線は、前記絶縁性フィルム上の銅箔層をエッチングして形成されるエッチング形成配線部と、前記絶縁性フィルム上に、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画することにより形成される直接描画形成配線部と、から構成され、少なくとも前記インナーリード部が前記直接描画形成配線部であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板に関し、特に配線の一部が直接描画により形成されるプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、例えば、パーソナルコンピュータ用ディスプレイや液晶テレビ等の電子機器に搭載される液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)を駆動するドライバ用ICパッケージに用いられる。近年、LCDの小型化およびそれに伴う微細配線化により、LCDドライバIC用のパッケージのTCP(Tape Carrier Package)にも微細配線化の要求が高まっている。
【0003】
TCPは、絶縁性フィルムとしてのポリイミドテープ(例えば、厚さ12〜100μm)、接着剤、銅箔(例えば、厚さ18μm)の3層構造からなり、絶縁性フィルムに設けられたデバイスホールから突き出たフライングリードが変形を起こしやすいため、配線ピッチの微細化は40μm程度が限界である。それに対して、COF(Chip On Film)は、絶縁性フィルムとしてのポリイミドテープ、銅箔(例えば、厚さ8〜35μm)の2層構造からなり、デバイスホールが設けられず、インナーリードが絶縁性フィルムに対して密着した構造となっている。このため、TCPと比較して微細配線化が可能である。
【0004】
一般的にLCD用のCOFの配線(リード)は、絶縁性フィルム表面に、液晶ドライバチップに接続される入・出力側インナーリードから、液晶パネル、PCB(Printed Circuit Board)に接続される入・出力側アウターリードまで引き回されて形成されている。
入・出力側インナーリードにおける配線ピッチはファインピッチ化しており、現在では25μm程度の狭ピッチとなっている。一方、アウターリードにおける配線ピッチは、出力側アウターリードで35〜50μm程度、入力側アウターリードで200μm〜300μm程度となっており、インナーリードと比較して広い配線ピッチのラフピッチとなっている。すなわち、COFの配線は、ファインピッチ(狭ピッチ)のインナーリードとラフピッチ(広ピッチ)のアウターリードとが狭い領域内に混在している。
【0005】
上記COFの配線は一般的にサブトラクティブ法により形成される。サブトラクティブ法は、絶縁性フィルム上の銅箔に形成されたレジスト膜に対して、露光・現像により所望のレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをマスクとして、選択的に銅箔をエッチング除去することにより、所定パターンの配線を得る方法である。
その他の配線パターン形成方法として、絶縁性フィルム上に配線パターンを直接形成(直接描画)する方法がある。例えば、特許文献1によれば、均一な線幅のパターンを形成するための平版印刷版原版が提案されている。この原版を用いて、フィルムなどの基板に導電性インクを印刷することにより、均一な線幅のパターンを直接描画できるとしている。
【0006】
また、上記パターンの直接描画方法において用いられる導電性インクとして、金属ナノ粒子を含む導電性インクまたは導電性ペーストがある。例えば、特許文献2によれば、平均粒径1〜10nmの金属ナノ粒子、平均粒径0.5〜10μmの金属粒子、そして保護剤や分散媒を添加した導電性インクが提案されている。この導電性インクは金属粒子を含有しており、導電性インク中の導体成分が増加するため、金属粒子および金属ナノ粒子を焼結する際の収縮による、配線の信頼性低下を抑制できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−148386号公報
【特許文献2】特開2005−174828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記サブトラクティブ法により、狭ピッチのインナーリード部とラフピッチのアウターリード部とが狭い領域に混在したパターンを形成する時、エッチング条件は通常狭ピッチであるインナーリード部の形成に合わせて調整される。このため、狭ピッチのインナーリード部とラフピッチのアウターリード部では、エッチング形状に相違が生じる。これについて、狭ピッチ領域における配線の断面図を示す図3(a)、ラフピッチ領域における配線の断面図を示す図3(b)を用いて説明する。絶縁性フィルム2上の狭ピッチのインナーリード6においてはエッチングが適切に行われて、図3(a)に示すように、インナーリード6における配線の断面形状は矩形状または台形(メサ)形状となる。一方、ラフピッチの入・出力側アウターリード7a、7bにおいては、図3(b)に示すように、狭ピッチのインナーリード6のエッチングが終了するまでに、パターン間においてエッチング液の滞留20が生じて、エッチングが過度に進行することになる。過度のエッチング30によりラフピッチの入・出力側アウターリード7a、7bにおける配線の断面形状は逆メサ形状となる。逆メサ形状は配線の底部幅よりも上部幅の方が広く脆い構造である。このため、逆メサ形状の入・出力側アウターリード7a、7bにPCBや液晶パネルの端子を電気的に接続する際の、ボンディング圧力に対する強度が弱く、接続信頼性が低い。このように、高精細なパターンをエッチングにより形成する場合、比較的ラフピッチであるアウターリード部において、接続信頼性が低下しやすいことが問題となっている。
【0009】
この点、直接描画する上記特許文献1および特許文献2によれば、エッチングを行わないため、配線の断面形状が比較的に安定したパターンを形成できるものと考えられる。しかしながら、上記特許文献1では、直接描画に際して、粒子の大きい金属粉を含む導電性インクを用いるため、微細配線化が要求され、パターン幅がファインピッチ化しているCOFなどのプリント配線基板においては、特に配線ピッチの狭いインナーリード部の形成が困難である。
【0010】
また、現在、主成分として金属ナノ粒子を含む導電性インクもあるが、含有される金属ナノ粒子は一般的にAgナノ粒子となっている。Agナノ粒子を主成分とする導電性インクを用いて形成されるAg配線はエッチングにより形成されるCu配線と比較して電気導電性や耐マイグレーション性が劣るといった問題がある。
【0011】
本発明は、配線の接続信頼性に優れる、微細配線化に好適なプリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルム上に形成されるインナーリード部およびアウターリード部を含む配線と、を備えるプリント配線基板において、前記配線は、前記絶縁性フィルム上の銅箔層をエッチングして形成されるエッチング形成配線部と、前記絶縁性フィルム上に、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画することにより形成される直接描画形成配線部と、から構成され、少なくとも前記インナーリード部が前記直接描画形成配線部であるプリント配線基板が提供される。
【0013】
上記プリント配線基板において、前記直接描画形成配線部の形成領域の前記絶縁性フィルム上に、前記金属ナノ粒子に作用して導電性を発現する導電性発現剤を含む樹脂層が設
けられ、前記樹脂層の上に前記直接描画形成配線部が形成されることが好ましい。
【0014】
上記プリント配線基板において、前記絶縁性フィルムと前記樹脂層との間に、多孔質層を介在させることが好ましい。
【0015】
上記プリント配線基板において、前記絶縁性フィルムに、前記金属ナノ粒子に作用して導電性を発現する導電性発現剤が含まれ、前記絶縁性フィルム上に前記直接描画形成配線部が形成されることが好ましい。
【0016】
上記プリント配線基板において、前記金属ナノ粒子がAgまたはCuからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、配線の接続信頼性に優れる、微細配線化に好適なプリント配線基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明の一実施形態にかかるプリント配線基板の概略平面図であり、(b)は(a)における要部拡大図である。
【図2A】本発明の一実施形態にかかるプリント配線基板を製造する製造方法の一工程を示す平面図である。
【図2B】本発明の一実施形態にかかるプリント配線基板を製造する製造方法の一工程を示す平面図である。
【図2C】本発明の一実施形態にかかるプリント配線基板を製造する製造方法の一工程を示す平面図である。
【図3】(a)は狭ピッチ領域における配線の断面図であり、(b)はラフピッチ領域における配線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態にかかるプリント配線基板について図面を用いて説明する。本実施形態のプリント配線基板は液晶ディスプレイ用のCOF方式のプリント配線基板である。本実施形態にかかるプリント配線基板の概略平面図を図1(a)に示す。
【0020】
[プリント配線基板]
本実施形態にかかるプリント配線基板1は、図1(a)に示すように、絶縁性フィルム2と、絶縁性フィルム2の少なくとも一方の面上に形成される、インナーリード部4およびアウターリード部5を有する配線(リード)3と、を備えている。そして、配線3は、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画することにより形成される直接描画形成配線部8(配線3のグレーの塗りの部分)と、銅箔層をエッチングして形成されるエッチング形成配線部9(配線3の塗りのない部分)と、から構成されている。本実施形態では、インナーリード部4が直接描画形成配線部8となっている。プリント配線基板1の両端には絶縁性フィルム2を搬送するためのスプロケットホール11が設けられている。
【0021】
インナーリード部4のインナーリード6は、液晶ディスプレイを駆動するドライバ用ICチップが実装される、絶縁性フィルム2の幅方向の中央に位置するICチップ実装領域に形成されている。また、アウターリード部5はPCBの端子に接続される入力側アウターリード7aと、液晶パネルの端子に接続される出力側アウターリード7bと、を有する。インナーリード6と、入・出力側アウターリード7a、7bとの間の配線(リード)3は適宜引き回されて配設されている。なお、本実施形態においては、ICチップの出力端子数が入力端子数よりも多く、また、図1(a)に示すように、絶縁性フィルム2の両端
部側には、ICチップに接続されない配線3も設けられている。
【0022】
上述したように、複数のインナーリード6からなるインナーリード部4における配線ピッチDは25μm程度であり、狭ピッチの領域となっている。複数の出力側アウターリード7bにおける配線ピッチDは狭いもので35〜50μm程度、入力側アウターリード7aにおける配線ピッチDは200〜300μm程度となっており、入力側アウターリード7aおよび出力側アウターリード7bからなるアウターリード部5はインナーリード部4に比べ配線ピッチの広いラフピッチ領域となっている。このように、配線3には様々な配線ピッチのパターンが混在している。
【0023】
本実施形態においては、図1(a)、図1(b)に示すように、配線3のインナーリード部4が、絶縁性フィルム2上に、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画して形成した直接描画形成配線部8となっており、配線3のうちインナーリード部4を除く配線は、エッチングにより形成されるエッチング形成配線部9となっている。
【0024】
上記構成によれば、狭ピッチのインナーリード部4が直接描画により形成される直接描画形成配線部であるため、インナーリード部4における配線の断面形状は矩形状または台形(メサ)形状に安定して形成される。また、インナーリード部4を除く配線は、ラフピッチのパターンであって、エッチングにより形成されるエッチング形成配線部9であるものの、エッチング条件をラフピッチ領域に調整できるため、配線の断面形状を矩形状ないし台形(メサ)形状に安定して形成される。すなわち、高精細な配線のなかでも特に狭ピッチである領域を直接描画で選択的に形成することにより、従来の配線全域をエッチングにより形成した場合の狭ピッチ領域とラフピッチ領域のエッチング形状の相違を解消でき、全配線の断面形状を安定化することができる。そして、配線形状の安定化により、インナーリード部4およびアウターリード部5における外部端子との接続信頼性を向上することができる。しかも、エッチング形成配線部9を形成する際のエッチング条件を適宜調節することができるので、エッチング形成配線部の配線幅、形状などを適切に形成でき、過度のエッチングあるいはエッチング不足による配線形状などの不具合を回避することができる。
【0025】
また、本実施形態では、銅箔層をエッチングして形成した銅配線と比較して、電気導電性や耐マイグレーション性などの点で劣る金属ナノ粒子による直接描画形成配線部を有するが、直接描画形成配線部が配線全体の一部(狭ピッチ領域であるインナーリード部)であるため、配線全体としての電気導電性や耐マイグレーション性が大きく低下することを抑制できる。
【0026】
[直接描画形成配線部の形成方法]
ここで、上記直接描画形成配線部の形成方法について説明する。直接描画形成配線部は、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インク(以下、導電性インクという)により形成されている。導電性インクとしては、高精細なパターンを直接描画できるものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。導電性インクとは、含有される金属ナノ粒子が分散剤により被覆され分散媒中に分散しているインクをいう。金属ナノ粒子は、平均粒径が100nm以下の大きさで高い反応性を示す金属微粒子であり、分散剤により被覆され、安定なコロイドとして分散媒中に分散している。分散剤は、金属ナノ粒子を還元し被覆できるものであればよく、例えば、クエン酸やデキストリンを用いることができる。分散媒は、金属ナノ粒子を分散できるものであればよく、水、有機溶媒、またはその混合物からなる。なお、導電性インクは、低粘度の溶液状態のものから高分子のバインダーを添加して高粘度のペースト状態としたものまで用いることが可能である。
【0027】
導電性インクは、金属ナノ粒子が分散剤により被覆され、分散媒中に分散されているの
で、塗布するだけでは導電性を示さない、または示しても低いものである。このため、分散剤および分散媒を除去して、金属ナノ粒子同士を接触させ融着することにより導電性を発現させる必要がある。
導電性インクの導電性を発現させる方法としては以下に示す方法などがある。例えば、加熱(焼成)する方法として、金属ナノ粒子を被覆保護する分散剤、分散媒を加熱することにより除去して、金属ナノ粒子同士を融着し焼成して導電性の配線を形成する方法がある。また、焼成しない方法として、主に銀からなる金属ナノ粒子を還元して融着することにより導電性を発現させる導電性発現剤(特開2008−4375号公報、特開2008−235224号公報、特願2007−184064号公報参照)を用いる方法がある。
【0028】
以下に、導電性を発現させる方法として、導電性発現剤を用いて焼成しない場合について具体的に説明する。
【0029】
本発明における導電性インクは、分散剤に被覆された金属ナノ粒子がコロイドとして分散媒中に分散しているインクであり、金属種としては、Cu、Agなどを用いることができる。分散している金属ナノ粒子の平均一次粒子径は、金属ナノ粒子がコロイドとして安定した分散状態を保持する観点より、平均一次粒子径が200nm以下であることが好ましく、100nm以下である事がより好ましく、更に50nm以下であることが特に好ましい。ここで平均一次粒子径とは、金属ナノ粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均し求めたものである。
本発明における導電性インク中に含まれる金属ナノ粒子の含有量は、導電性インク全体の質量に対して1質量%から95質量%が好ましく、より好ましくは、3質量%から90質量%である。
【0030】
導電性インクに用いられる分散媒は水および/または有機溶媒であり、水のみ、水と有機溶媒の混合物、有機溶媒のみの構成を挙げることができる。水と有機溶媒の混合物としては、有機溶媒として、メタノールなどの水溶性の低沸点溶媒や、エチレングリコールなどの水溶性の高沸点有機溶媒を用いることができる。有機溶媒のみとしては、エチレングリコールなどのアルコール系高沸点有機溶媒、ジアセトンアルコールなどのケトン系高沸点有機溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系高沸点有機溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系高沸点有機溶媒、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性アミド系高沸点有機溶媒、ミネラルスピリットなどを用いることができる。
【0031】
金属ナノ粒子は、不活性ガス中で金属を蒸発させガスとの衝突により冷却・凝縮し回収するガス中蒸発法、真空中で金属を蒸発させ有機溶剤と共に回収する金属蒸気合成法、レーザー照射のエネルギーにより液中で蒸発・凝縮させ回収するレーザーアブレーション法、水溶液中で金属イオンを還元し生成・回収する化学的還元法、有機金属化合物の熱分解による方法、金属塩化物の気相中での還元による方法、酸化物の水素中還元法、紫外線や超音波、マイクロウェーブ等のエネルギーを利用する方法等、公知の種々の方法により製造された金属ナノ粒子を好ましく用いることが出来る。
【0032】
導電性インクには増粘剤、帯電防止剤、UV吸収剤、可塑剤、高分子バインダー等の各種添加剤を目的に応じて添加してもよく、例えば、UV硬化樹脂成分を含ませることにより、UV印刷あるいはUVインクジェット方式によるパターン形成に適した特性(UV硬化特性)を持たせることも出来る。
【0033】
本発明において、導電性インクは、低粘度の溶液状態から高粘度のペースト状態まで任意の形態に調整される。具体的には、導電性パターン形成用基材上に金属ナノ粒子を付与
する方法に適した粘度、表面張力、金属ナノ粒子の大きさ・含有率等が調整される。例えば、インクジェット方式を用いる場合には、粘度を1〜100mPa・sの範囲に調整することが好ましく、スクリーン印刷を用いる場合には、1〜500Pa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0034】
高粘度のペースト状態に調整する場合には、金属ナノ粒子の濃度を高くするだけでは所望の粘度を得ることは困難であるため、高分子バインダーあるいは増粘剤を添加することが好ましい。高分子バインダーとしては、セルロース樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等、公知の各種高分子バインダーを使用することが出来る。増粘剤としてヒドロキシルプロピルセルロースやカルボキシメチルセルロース、ペクチン、ポリスチレンスルホン酸塩類、ポリアクリル酸等、公知の各種増粘剤を使用することが出来る。
【0035】
本発明に用いられる導電性インクには、一般的な金属ナノ粒子が含まれる導電性インクを用いることができる。また、製造方法が簡便であり、下記の導電性発現剤を用いた場合における導電性にも優れている事から、クエン酸やデキストリンなどを用いて作製される金属ナノ粒子を用いることが好ましい。
【0036】
上記導電性インクは、導電性発現剤を含む樹脂層や絶縁性フィルムなどに塗布され、その後、導電性インクに含まれる分散媒が除去されることになる。分散媒は加熱、乾燥、または吸収などにより除去される。分散媒が除去された後に、分散剤に被覆される金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子が導電性発現剤により還元されて、被覆する分散剤が除去される。分散剤の除去とともに、還元され露出した金属ナノ粒子同士が接触し融着することにより、導電性を示す配線となる。すなわち、導電性発現剤によれば、還元により化学的に分散剤を除去するため金属ナノ粒子の融着に際しては高温の加熱工程を必要とせず、分散媒を除去し得る比較的低温での加熱により、金属ナノ粒子を融着して導電性の配線を形成することができる。
導電性発現剤としては、金属ナノ粒子を還元して融着できるものであれば限定されず、例えば、イオン結合により分子内にハロゲンを有する化合物、チオ硫酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩である。また、これらの物質を複数種類併用することもできる。
【0037】
上記実施形態に係るプリント配線基板において、導電性発現剤を含む樹脂層を絶縁性フィルムの直接描画領域上に設けることが好ましい。この構成によれば、金属ナノ粒子の融着に際して、還元により化学的に分散剤を除去できるため、分散剤の除去のための高温の加熱工程を省略することができる。しかも、上記構成であれば、絶縁性フィルムの選択の幅を広げることができる。すなわち、導電性発現剤を使用せず高温加熱により分散剤の除去および金属ナノ粒子の融着をする場合では、その加熱温度よりもガラス転移点温度が低い絶縁性フィルムは、撓みが生じるため選択することができない。これに対して、上記構成によれば、加熱するとしても、分散媒を除去させるための比較的低い温度の加熱であるため、絶縁性フィルムの選択の幅を広げることができる。
【0038】
また、上記導電性発現剤を含む樹脂層には、分散媒を吸収し、溶解または膨潤する樹脂が好ましい。この樹脂としては、例えば、水溶性樹脂、有機溶剤可溶性樹脂、または有機微粒子などを用いることができる。この構成により、塗布される導電性インクに含有される分散媒を吸収して、導電性インク中の金属ナノ粒子の絶縁性フィルムへの密着性を向上することができるためである。
【0039】
また、上記実施形態に係るプリント配線基板において、導電性発現剤を含む樹脂層と絶縁性フィルムとの間に多孔質層を介在させることが好ましい。多孔質層は、シリカやアル
ミナ水和物などの微粒子を樹脂に含有させたもので、分散媒などを素早く吸収できるものであれば、公知のものを用いることができる。この構成によれば、多孔質層が導電性インク中の分散媒を吸収し、分散媒を除去する加熱や乾燥工程を省略することができる。すなわち、導電性発現剤を含む樹脂層と多孔質層との組み合わせにより、余分な分散剤および分散媒を吸収し、金属ナノ粒子を近接させることが可能となり、比較的低温で金属ナノ粒子を融着させることができる。しかも、多孔質層により分散媒の吸収が促進されるため、導電性インクのにじみを抑制するとともに配線と樹脂層との密着性を向上して、高精細なパターンを形成することができる。なお、多孔質層中に導電性発現剤をさらに添加してもよい。
【0040】
また、上記実施形態に係るプリント配線基板においては、絶縁性フィルムに導電性発現剤を含有させることが好ましい。この構成によれば、導電性発現剤を含有する樹脂層を形成する工程を省略することが可能となる。また、導電性発現剤を含有する樹脂層などを必要としないため、加熱する場合の加熱温度は、樹脂層などに用いられる樹脂のガラス転移点温度(Tg)の影響を受けず、絶縁性フィルムのTgよりも低い温度での加熱が可能となる。すなわち、絶縁性フィルムの撓みを生じることなく、加熱により分散媒の除去を早めることができる。さらに、絶縁性フィルム上に直接配線を形成できるため、密着性の高い配線を形成することができる。
【0041】
また、上記本実施形態に係るプリント配線基板においては、金属ナノ粒子がAgまたはCuからなることが好ましい。特に、Cuは電気導電性および耐マイグレーション性に優れているためより好ましい。Agを用いた場合であっても、配線の一部である直接描画形成配線部だけがAgで形成されるので、配線全体としての電気導電性や耐マイグレーション性の低下を抑制することができる。
【0042】
上記実施形態においては、インナーリード部のみを直接描画形成配線部としているが、本発明においては、インナーリード部に限らず直接描画形成配線部を適宜選択することができる。例えば、インナーリード付近の配線(リード)の引き回し部などを直接描画形成配線部とすることも可能である。
【0043】
[プリント配線基板の製造方法]
本発明の一実施形態に係るプリント配線基板の製造方法について図2A〜図2Cを用いて説明する。本実施形態に係る製造方法は、絶縁性フィルム上の銅箔層をエッチングしてエッチング形成配線部を形成するエッチング工程と、絶縁性フィルムの直接描画形成配線部の形成領域上に多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、形成された多孔質層上に導電性発現剤含有の樹脂層を設ける樹脂層形成工程と、導電性発現剤含有の樹脂層上に金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画して直接描画形成配線部を形成する直接描画工程と、を有している。
【0044】
まず、絶縁性フィルム2としてポリイミドフィルムを用意して、スパッタリングにより、絶縁性フィルム2の一方の面にCr−Niスパッタリング層を形成し、このスパッタリング層上にメッキにより銅箔層(銅メッキ層)を形成する。なお、上記銅箔層はスパッタ層の上方に形成した銅メッキ層に限定されず、例えば、圧延銅箔や電解銅箔などを用いることも可能である。この場合、絶縁性フィルムに接着剤を介して圧延銅箔などを貼り合わせることができる。
【0045】
次に、銅箔層の形成された絶縁性フィルム2にレジストを塗布して、露光・現像することによりレジストパターンを形成する。その後、エッチング液によりエッチングして所定のエッチング形成配線部9を形成する。このエッチング形成配線部9は、図2Aに示すように、ラフピッチであるアウターリード部5を含んでおり、狭ピッチであるインナーリー
ド部を除く配線となっている。このエッチング形成配線部9の形成に際して、狭ピッチであるインナーリード部をエッチング形成しないことにより、比較的ラフピッチであるアウターリード部5を含むエッチング形成配線部9のエッチングに注力することができるため、エッチングによる配線間の断面形状の相違を最小限に抑制することができる。そして、エッチング形成配線部9の断面形状を安定化して、アウターリード部5における接続信頼性を向上することができる。なお、図2A中の一点鎖線の領域Sは、導電性発現剤含有の樹脂層が形成される領域であり、領域S内の銅箔層は上記エッチング形成配線部9のエッチング工程と同時にエッチング除去される。
【0046】
次に、図2Bに示すように、絶縁性フィルム2のインナーリード部の形成される領域に、微粒子としてのシリカを含む樹脂を塗布して多孔質層を形成する。この多孔質層により、直接描画される導電性インク中の分散媒が速やかに吸収され、分散媒を除去する加熱工程を省略することが可能となる。
そして、導電性発現剤を含む樹脂を多孔質層上に塗布して、導電性発現剤含有の樹脂層10を設ける。この樹脂層10を形成することにより、後述する直接描画形成配線部の形成において、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを塗布することで、配線を形成でき、過度な高温加熱処理を省略することができる。なお、多孔質層および導電性発現剤含有の樹脂層10の厚さは、この樹脂層10上に設けられる直接描画形成配線部8の厚さとの合計が、エッチング形成配線部9の厚さとほぼ同等となるように、それぞれ調整される。例えば、多孔質層と樹脂層10との合計の厚さを1〜5μm程度とすることができる。
【0047】
次に、インクジェット印刷により、導電性発現剤含有の樹脂層10上にAgナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画する。描画された導電性インク中に含有される分散媒は多孔質層に吸収、除去されて、金属ナノ粒子を被覆する分散剤は樹脂層10中の導電性発現剤により還元され化学的に除去されることになる。そして、露出した金属ナノ粒子同士は接触し比較的低温の加熱により融着される。これにより、図2Cに示すように、エッチング形成配線部9に接続させて、インナーリード部4としての直接描画形成配線部8を形成する。直接描画形成配線部8の厚さは、上述したように、導電性発現剤含有の樹脂層10および多孔質層の厚さとの合計が、エッチング形成配線部9の銅箔層の厚さと同等になるように形成される。この直接描画により、エッチングでは形成しなかったインナーリード部4を形成し、エッチング形成配線部9と直接描画配線部8とからなる配線3の全てを形成して、本実施形態にかかるプリント配線基板1を得る。この直接描画形成配線部8は、その断面形状が矩形または台形(メサ)形状であるため、接続信頼性が高い。なお、導電性インクの塗布方法としては、特に限定されないが、例えばインクジェット印刷やスクリーン印刷が好ましい。
【0048】
なお、上記実施形態において、多孔質層形成工程および樹脂層形成工程をエッチング工程の前に設けることも可能である。この場合、絶縁性フィルム上の銅箔層から導電性発現剤含有の樹脂層を形成する領域を予めエッチング除去した後に、エッチング除去された領域に導電性発現剤含有の樹脂を塗布して多孔質層および樹脂層を形成する。その後、エッチングによりインナーリード部を除くエッチング形成配線部を形成する。次に、上記樹脂層上に、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画することにより直接描画形成配線部を形成する。この構成によれば、樹脂層形成工程における、導電性発現剤を含む樹脂の塗布に際して、樹脂層の形成ミスを低減することができる。
【0049】
また、上記実施形態においては多孔質層を設けたが、多孔質層を形成しなくてもよい。この場合、導電性インク中の分散媒を乾燥または絶縁性フィルムのTgよりも低い温度で加熱することにより、分散媒を除去させることが好ましい。
【0050】
その他の実施形態にかかるプリント配線基板の製造方法について述べる。この実施形態
では上記実施形態と異なる点を説明する。この実施形態は、導電性発現剤を含む絶縁性フィルムを用いることが、上記実施形態と異なる。絶縁性フィルムに予め導電性発現剤を添加しておくことにより、樹脂層形成工程を省略して工程数を削減することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1 プリント配線基板
2 絶縁性フィルム
3 配線
4 インナーリード部
5 アウターリード部
6 インナーリード
7a 入力側アウターリード
7b 出力側アウターリード
8 直接描画形成配線部
9 エッチング形成配線部
10 導電性発現剤含有の樹脂層
11 スプロケットホール
20 エッチング液の滞留
30 過度のエッチング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルム上に形成されるインナーリード部およびアウターリード部を含む配線と、を備えるプリント配線基板において、
前記配線は、前記絶縁性フィルム上の銅箔層をエッチングして形成されるエッチング形成配線部と、前記絶縁性フィルム上に、金属ナノ粒子を主成分とする導電性インクを直接描画することにより形成される直接描画形成配線部と、から構成され、
少なくとも前記インナーリード部が前記直接描画形成配線部であることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項2】
請求項1に記載のプリント配線基板において、前記直接描画形成配線部の形成領域の前記絶縁性フィルム上に、前記金属ナノ粒子に作用して導電性を発現する導電性発現剤を含む樹脂層が設けられ、前記樹脂層の上に前記直接描画形成配線部が形成されることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項3】
請求項2に記載のプリント配線基板において、前記絶縁性フィルムと前記樹脂層との間に、多孔質層を介在させることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項4】
請求項1に記載のプリント配線基板において、前記絶縁性フィルムに、前記金属ナノ粒子に作用して導電性を発現する導電性発現剤が含まれ、前記絶縁性フィルム上に前記直接描画形成配線部が形成されることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のプリント配線基板において、前記金属ナノ粒子がAgまたはCuからなることを特徴とするプリント配線基板。

【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図1】
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【図2C】
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【公開番号】特開2012−169558(P2012−169558A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31305(P2011−31305)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(508196494)日立電線フィルムデバイス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】