説明

プリント配線板のX線断層画像の観察方法及びその観察方法を用いたプリント配線板用のX線断層画像観察装置

【課題】どのような多層プリント配線板の場合でも、その内層回路の状態を任意の角度から把握することが可能な非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の可動式の傾斜透過X線検出器を用いてプリント配線板の内部回路構造を測定し、プリント配線板を透過したX線を、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を用いて検出し、この検出器で得られたX線強度を信号に変換し、この信号を用いて、当該プリント配線板が備える外層から内層に至るまでの回路形状を立体構造的に表示する測定方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板のX線断層画像の観察方法及びその観察方法を用いたプリント配線板用のX線断層画像観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、プリプレグのようなガラス繊維と樹脂とのコンポジット材料の表面に、銅箔、ニッケル箔等の金属箔を張り合わせて、この金属箔で構成された導体層をエッチング加工する等して得られるものである。そして、このプリント配線板は、小型化、信号の高速伝送性を考慮して、3層以上の導体回路を備える多層化が行われ、多層プリント配線板と称されている。一般的に、ノートブックパソコン、デスクトップパソコンには、4層又は6層の多層プリント配線板が使用され、スーパーコンピュータ等の高級機種においては、20層以上の多層プリント配線板が使用されるのが現状である。
【0003】
このようなプリント配線板が良好に製造できているか否かは、プリント配線板に製造した以降に、製品毎に設計したチェッカーを使用して、問題の無い導通特性が得られているか否かで判断されてきた。そして、このチェッカー検査で異常が確認されたプリント配線板の異常原因を探る際に、AOI装置や目視等の外観検査で確認可能な外層回路の確認は出来ても、内層回路部分に異常があれば、その部位を直接観察する方法がなかった。従って、回路異常の発生箇所を概略特定して、その部位を人為的に切断、研磨して断面から観察して確認する以外に、内層回路の直接観察方法は無かった。従って、この作業には、時間と同時に、かなりの熟練を必要とし、作業者の労働負荷も大きなものであった。
【0004】
このような問題を解決しようとして、多層プリント配線板の内部回路構造を検査する方法として、プリント配線板に対しX線を照射し、このプリント配線板を透過したX線を検出することによって、プリント配線板の透視画像を得る方法が検討されてきた。このとき、特許文献1に開示されたような、人体のX線断層撮影装置(X線CTスキャンニング装置)の技術的思想を用いるものが検討された。また、例えば、特許文献2には、積層基板の内部構造やBGA(Ball Grid Array)等の電子部品の基板の実装状態(接合状態)及び内部回路等をX線を用いて検査するためのX線検査装置、及び該X線検査装置に利用されるX線シール構造が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平09−168535号公報
【特許文献2】特開2001−264270号公報
【特許文献3】特許3694833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、人体のX線断層撮影装置と同様の技術的思想に基づいた特許文献2に開示のX線検査装置は、試料を挟んで、X線を照射するX線源とX線を検出するX線検出部とが対向して配置され、前記X線源から照射され、前記試料を透過したX線が前記X線検出部にて検出されるように構成されたX線検査装置において、前記X線検出部におけるX線入射面に直交する第1の直線を試料載置面に対して傾斜させるように、前記X線源と前記X線検出部とを一体的に回動させる第1の回動手段を備えていることを特徴とするものである。即ち、X線検出部とX線源とを各一つ用いて、試料を挟んでX線検出部とX線源とを対向配置して、試料を中心としてX線検出部とX線源とを同期して衛星状の軌道で回動させ、多方面からの角度で試料を透過したX線を検出するようにされている。
【0007】
ところが、プリント配線板は、その平面的な面積に比べて、その厚さが薄いという特徴を有している。しかも、その構成素材が、金属と絶縁材とから構成されており、プリント配線板毎に回路密度も異なり、層間絶縁層の厚さも異なる等の特異な特徴を有している。従って、特許文献2に開示のX線検査装置では、プリント配線板の内層回路の検査を行っても、上方から見て各層の回路が重なり合っている部分が生じるため、確実な内層回路の状態の把握は出来ない。従って、この特許文献2に開示のX線検査装置は、4層程度までの多層プリント配線板の内層回路検査では一定の効果を挙げることができても、それを超える多層プリント配線板の内層回路の任意の断面でのX線断層観察に用いた場合、解像度の高い鮮明なX線像は得られなかった。その結果、この特許文献2に開示のX線検査装置は、10層を超える高多層化基板の内層回路の検査では、殆ど使用できないという問題があった。現実に、特許文献2に開示のX線像から判断しても、多層プリント配線板の内層回路の欠陥、断線等の不良を補足して、欠陥等の状態を十分に判断するためのX線断面観察像が得られているとは言えない。
【0008】
従って、特許文献2に開示の装置を用いたとしても、多層プリント配線板の内層回路部分に異常があれば、その部位を直接観察する以外に方法がなく、その部位を物理的に切断、研磨して断面から観察して確認するという確認作業が行われている。
【0009】
さらに、特許文献3には、平面面積の大きな平たい測定物の全体を撮影できるばかりでなく、一部の高拡大率三次元断層撮影も行えるようにしたユーセントリック型傾斜三次元X線CT及びそれによる三次元画像の撮影方法と、X線が透過しにくい物質の断層撮影で発生するビームハードニングを低減できるようにした三次元CT及びそれによる撮影方法と、X線が透過しにくい平たい物質の撮影で、低エネルギーX線を利用して画像のコントラストを改善するとともに、X線源の寿命を延長させることを可能にした三次元CT及びそれによる撮影方法とが開示されている。しかし、高多層化基板の内層回路の検査では、半田接合部に発生したボイドの形状などを表示することは可能であるが、特許文献2同様に、プリント配線板の各断面の回路パターンを精細に撮像しうるものでは無く、撮像された画像をもとに、プリント配線板の不良部位を特定する用途には殆ど使用できないという問題があった。
【0010】
以上のことから、どのような多層プリント配線板の場合でも、その内層回路の状態を任意の角度から把握することが可能な非破壊検査方法が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者等の鋭意研究の結果、以下の発明を用いることで、上記課題を解決するに至った。以下、本発明の概要に関して述べる。
【0012】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法は、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の可動式傾斜透過X線検出器を用いてプリント配線板の内部回路構造を測定することを特徴としている。
【0013】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法は、前記固定式X線発生器から照射されたX線が、測定対象物である略板状のプリント配線板の測定対象領域の略中心に位置する測定対象基準点を略垂直に透過する方向を基準線とし、前記基準線上に前記固定式X線発生器から距離Dだけ離間して前記固定式垂直透過X線検出器を配置し、前記基準線から所定の傾斜角をもって前記固定式X線発生器から延びる第1方向に距離Dだけ離間して第1傾斜透過X線検出器を配置し、前記基準線から当該第1傾斜透過X線検出器と前記基準線をはさんで対称の位置となるように所定の傾斜角をもって前記固定式X線発生器から延びる第2方向に距離Dだけ離間して第2傾斜透過X線検出器を配置することで、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々を、固定式X線発生器を略中心とした略衛星軌道状配置とし、前記固定式X線発生器と各X線検出器との間であって、前記固定式X線発生器から基準線上に距離Dだけ離間した位置に試料ステージを配置して、その試料ステージに測定対象物であるプリント配線板を載置する際に、D/D=4〜150の範囲として4倍以上の倍率で金属で形成された内部回路を検出し、X線断層画像を得ることが好ましい。
【0014】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、前記傾斜角は、10°〜80°であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、前記第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各可動式検出器と、測定対象物であるプリント配線板を載置した試料ステージとが同期回転することが好ましい。
【0016】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、前記試料ステージに対するプリント配線板の装着方法は、板状のプリント配線板を試料ステージに疑似固定できる粘着性を備え、且つ、曲げ弾性率3GPa〜20GPaの粘着弾性材を用いることが好ましい。
【0017】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、測定対象物であるプリント配線板の面内に予め定めた測定対象基準点の透過X線を、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器、第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器を用いて測定する場合は、プリント配線板に予め定めた測定対象基準点が、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器の測定対象領域の略中心に常に位置するよう、プリント配線板を載置した試料ステージを水平面内でXY方向に任意に移動するオフセット制御機構を用いることが好ましい。
【0018】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、前記固定式X線発生器は、X線発生源として銅のKα線を用い、X線発生電圧60KV〜120KV、電流60mA〜120mAの条件で用いることが好ましい。
【0019】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において、測定対象物であるプリント配線板の内部回路構造を測定するX線断層画像を得るための撮影画像枚数は150枚〜500枚であり、各1枚の画像の照射X線量の差を均一化して良好な画像を得るため1視野において3枚〜10枚の加算枚数の撮影を行うことが好ましい。
【0020】
本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置は、上述のプリント配線板のX線断層画像の観察方法を用いてプリント配線板の内部回路構造を任意の断層面で観察するためのX線断層画像観察装置であって、当該X線断層画像観察装置は、固定式X線発生器、測定対象物を載置する試料ステージ、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器を内部に収容した測定チャンバーを備え、当該測定チャンバー内において、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々が、当該固定式X線発生器から照射されたX線が、測定対象物である略板状のプリント配線板の測定対象領域の略中心に位置する測定対象基準点を略垂直に透過する方向を基準線としたとき、当該基準線上の一方側に固定式X線発生器を配置し、距離Dだけ離間して当該固定式垂直透過X線検出器を配置し、当該第1傾斜透過X線検出器は、当該基準線から所定の傾斜角をもって当該固定式X線発生器から延びる第1方向に距離Dだけ離間して配置し、当該第2傾斜透過X線検出器は、当該基準線から第1傾斜透過X線検出器と基準線から見て対称の位置となるように所定の傾斜角をもって当該固定式X線発生器から延びる第2方向に距離Dだけ離間して配置することで、当該固定式垂直透過X線検出器、当該第1傾斜透過X線検出器、当該第2傾斜透過X線検出器の各々を、固定式X線発生器を略中心とした略衛星軌道状配置とし、当該X線発生器と各X線検出器との間であって、当該X線発生器から基準線上に距離Dだけ離間した位置に試料ステージを配置して、その試料ステージに測定対象物であるプリント配線板を載置する際に、D/D=4〜150の範囲として4倍以上の倍率で金属で形成された内部回路を検出し、X線断層画像を得ることを特徴とするものである。
【0021】
本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置において、前記傾斜角は、10°〜80°であることが好ましい。
【0022】
本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置において、前記第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各可動式傾斜透過検出器と、測定対象物であるプリント配線板を載置した試料ステージとが、水平面内で同期回転することが好ましい。
【0023】
本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置において、測定対象物であるプリント配線板の面内に予め定めた測定対象基準点の透過X線を、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器、第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器を用いて測定する場合は、プリント配線板に予め定めた測定対象基準点が、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器の測定対象領域の略中心に常に位置するよう、プリント配線板を載置した試料ステージを水平面内でXY方向に任意に移動するオフセット制御機構を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法及びプリント配線板用の断層画像観察装置によれば、プリント配線板の厚さや、積層状態を問わず、プリント配線板の任意の断面における、金属で形成された内部回路を4倍以上の倍率で検出し、撮像精度を低下させる原因を排除し、高精度なX線断層画像を得ることを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を、より詳細に説明するために、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法及びプリント配線板用のX線断層画像観察装置の実施の形態に関して説明する。なお、本発明において、X線断層画像観察装置は、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法を具現化するものであり、その説明内容が重複する場合もある。そこで、重複する記載に関しては、極力記載を省略するものとする。
【0026】
また、本発明における測定対象物であるプリント配線板は、3層以上の導体回路層を備える多層プリント配線板のことであり、念のために、その厚さ及び材質等の限定はないことを明記しておく。
【0027】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法は、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の可動式の傾斜透過X線検出器を用いてプリント配線板の内部回路構造を測定することに特徴を備える。即ち、固定式X線発生器から放出するX線が、観察対象物であるプリント配線板を透過する。この透過したX線を、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を用いて検出し、この検出器で得られたX線強度を信号に変換し、この信号を用いて、当該プリント配線板が備える外層から内層に至るまでの回路形状を立体構造的に表示する測定方法を採用するのである。
【0028】
上述の特許文献2に開示されているような、従来のプリント配線板の回路検査装置の構造は、一対のX線発生器とX線検出器とを離間して対向配置する間に、測定対象物であるプリント配線板が位置する構造を備えている。そして、この関係を維持しつつ、当該X線発生器とX線検出器とは、当該プリント配線板を中心とした球面軌道内を移動しつつ、当該プリント配線板を透過したX線の測定を行うものである。このような構造を採用し、X線発生器とX線検出器とを物理的手段を用いて同期して移動させる限り、これらの間の位置関係での誤差は生じない。しかし、このような構造を採用し、X線発生器とX線検出器とを、当該プリント配線板を中心とした球面軌道内で、あらゆる方向に移動させようとすると、中心にある当該プリント配線板と、その周囲を移動するX線発生器とX線検出器との距離を、衝突しない位置に設ける必要があり、X線発生器とプリント配線板とを近接して配置することが出来ない。即ち、微細な回路形状のプリント配線板の回路の立体構造観察に適した観察倍率を得るような装置設計が困難になる。更に、このような構造を採用した場合、X線発生器からのX線の照射位置と観察対象位置とのズレが生じると、当該観察対象位置を透過したX線を最適の感度で検出するはずのX線検出器の位置にもズレが生じており、当該観察対象位置を透過したX線を検出することが不可能になる。以上のように、この特許文献2に記載の方法のように、X線発生器とX線検出器とが駆動して移動することにより生じる位置的な誤差が生じると、高多層化されたファインピッチ回路を備えるプリント配線板の回路構造の良好なX線断層画像を得ることが出来ない。
【0029】
これに対し、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法では、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を用いる。即ち、ここでは、固定式X線発生器と固定式垂直透過X線検出器とに関しては、従来のプリント配線板の回路検査装置の構造と同様に、当該固定式X線発生器と固定式垂直X線検出器とを一対を離間して対向配置し、測定対象物であるプリント配線板が、これらの間に位置する構造を備える。しかし、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法では、固定式X線発生器と固定式垂直透過X線検出器とは、固定式と称しているように、当該プリント配線板を中心とした球面軌道内で移動することなく、常に静置した状態にする。
【0030】
そして、プリント配線板の回路構造の良好なX線断層画像を得るためには、観察対象位置を斜めに透過したX線を検出する必要があるが、この透過X線を検出するための検出器として、2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を用いる。X線断層画像の測定中には、透過X線検出器の中で、この傾斜透過X線検出器のみが一定の動きをする。
【0031】
以上に述べてきたことから理解できるように、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法において用いる固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を採用したのは、X線断層画像の測定中に移動、駆動等する部位を最低限として、機械的挙動の中から生じる移動誤差を最小限にするためである。以下、これらのことを詳細に説明していくことにするが、その説明の理解が容易となるように、X線断層画像、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器、傾斜透過X線検出器等の説明に必要な最低限の用語について最初に述べる。
【0032】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法で得られるX線断層画像は、従来のプリント配線板のX線断層画像の観察装置と称して販売されている装置が測定可能な画像及び画像品質を大きく超えるものである。例えば、10層を超える多層プリント配線板の任意の内層回路の状態、内蔵されたブラインドビアホールの存在状態、スタック配置した複数のビアホールの積層配置状態等を任意の層厚位置、断面位置での画像として抽出して、映像化できるX線断面画像である。このような用途でのデータ加工可能な精度のX線情報を検出するために、以上及び以下で述べるように、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器を配置したプリント配線板のX線断層画像の観察方法が必要になるのである。
【0033】
まず、「固定式X線発生器」について説明する。ここで言う固定式X線発生器とは、このX線発生器内に、拡散放射型のX線発生源が収容されており、このX線発生源から、測定対象物であるプリント配線板の内層にある回路構造のX線断層画像を得るのに適したX線の照射が可能なものであれば、特に限定はない。そして、この固定式X線発生器は、X線発生源として一般的に用いられる金属ターゲットを用いて発生させた特性X線を用いることが出来る。しかしながら、特性X線の波長及びX線源としての安定性を考慮すると、銅のKα線を用いることが好ましい。また、このときのX線の発生条件に関しても、選択した特性X線の発生ターゲットの種類に応じて、任意に選択可能である。例えば、銅のKα線の場合には、X線発生電圧60kV〜120kV、電流60mA〜120mAの条件で用いることが好ましい。ここで言う条件よりも、低エネルギー方向でのX線発生源の使用は、プリント配線板の内部回路構造を測定するのに適さない。一方、この条件を超える範囲の高エネルギー方向でのX線発生源の使用は、過剰のX線照射条件となり、それ以上に得られるX線断層画像の画質は向上しないばかりか、照射されたX線量が過剰になると、プリント配線板を構成する有機材の劣化を助長する可能性があり、プリント配線板としての品質劣化を招くことになる。なお、上述したX線発生源の発生条件は、厳密に言えば、プリント配線板の厚さや、その内部の回路の配線密度、層間絶縁層厚等の積層状態に応じて、X線発生強度の調整を要する。
【0034】
次に、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法で用いる「固定式垂直透過X線検出器」及び「傾斜透過X線検出器」に関して述べる。ここで言う「固定式垂直透過X線検出器」及び「傾斜透過X線検出器」に関しては、固定式垂直透過X線検出器と同様の検出手段を用いても、異なる検出手段を用いても構わない。例えば、X線検出器として、検出したX線強度を電気信号又は光信号等に変換することが出来る限り、あらゆるものの使用が可能である。以下、本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法における固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の傾斜透過X線検出器のレイアウトを説明する。
【0035】
図1の(a)、(b)は、上記の固定式X線発生器2、固定式垂直透過X線検出器6、可動式の傾斜透過X線検出器として、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8の2つの傾斜透過X線検出器の各々のレイアウトを示す概略図である。この図1の(a)、(b)を参照しながら以下説明する。
【0036】
この図1(a)に示したように、固定式X線発生器2から照射されたX線が、測定対象物である略板状のプリント配線板3の測定対象領域(図示せず)の略中心に位置する測定対象基準点4を略垂直に透過する方向を基準線Lbとする。そして、固定式X線発生器2から延びる基準線Lbの延長線上に、距離Dだけ離間して固定式垂直透過X線検出器6を配置している。即ち、固定式X線発生器2と固定式垂直透過X線検出器6とは、互いに離間して対向した固定配置としている。なお、この測定対象領域とは、固定式X線発生器2から照射されたX線が、プリント配線板3を垂直に透過し、固定式垂直透過X線検出器6によって検出される領域を意味している。
【0037】
次に、図1(b)に示すように、第1傾斜透過X線検出器7は、基準線Lbから所定の傾斜角θをもって固定式X線発生器2から延びる第1方向L1に、固定式X線発生器2から距離Dだけ離間して配置する。そして、第2傾斜透過X線検出器8は、基準線Lbを挟んで、当該第1傾斜透過X線検出器7の鏡面対象位置となるように配置する。即ち、第2傾斜透過X線検出器8も、基準線Lbから所定の傾斜角θをもって固定式X線発生器2から延びる第2方向L2に、距離Dだけ離間して配置されることになる。
【0038】
以上に示した配置により、固定式X線発生器2を略中心として、固定式垂直透過X線検出器6は半径D、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8は半径Dとし、それぞれの検出器が略衛星軌道状に配置される。
【0039】
ここで、上記第1方向L1及び第2方向L2が、基準線Lbから所定の傾斜角θをもつようにしたときの傾斜角θの好ましい範囲について説明する。第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8は、固定式X線発生器2から照射されるX線のプリント配線板に対するX線照射範囲を考慮して、透過X線を安定して検出できる範囲や、測定対象物であるプリント配線板3の厚さ内部を、斜め方向に透過するX線の透過距離が増大し、透過X線量が減衰することを考慮する必要がある。これらのことを考慮すると、傾斜透過X線検出器7、8の傾斜角度θは、10°〜80°であることが好ましい。この当該傾斜角θが10°未満の場合には、固定式垂直透過X線検出器6と第1傾斜透過X線検出器7(第2傾斜透過X線検出器8)との位置が近接するため、それぞれの検出器の検出する透過X線信号の差異が、プリント配線板のX線断層画像の形成に適さないようになる。
【0040】
一方、当該傾斜角θが80°を超えるようにして、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8を配置すると、当該X線検出器が測定対象物であるプリント配線板3の表面からの高さとして低い位置になる。この場合、固定式X線発生器2から照射されたX線が、プリント配線板の厚さ内部を斜めに透過する距離が長くなる。その結果、透過X線量が減衰し、透過X線第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8が検出する透過X線量が、固定式垂直透過X線検出器6のX線検出量と大きく相違する事になり、プリント配線板のX線断層画像の形成に適さないようになる。
【0041】
また、当該傾斜角θは、より好ましくは40°〜80°である。この範囲を採用することが、あらゆる厚さのプリント配線板の断面X線画像の測定に適した範囲であり、より安定して鮮明なプリント配線板の断面X線画像が得られる。中でも、最も安定性に優れるのは、傾斜角として60°を採用する場合である。当該傾斜角が60°の場合において得られるプリント配線板の断面X線画像の画像品質が最も良好であり、且つ、プリント配線板の360°方向からの断面X線画像の画像品質のバラツキが殆ど無くなるのである。
【0042】
そして、固定式X線発生器2と各X線検出器6、7、8との間であって、固定式X線発生器2から基準線Lb上に距離Dだけ離間した位置に、測定対象物であるプリント配線板3を載置するための試料ステージ9が配置される。この試料ステージ9に測定対象物であるプリント配線板3を載置したときに、D/D=4〜150の範囲となるように、試料ステージ9の配置を定めることが好ましい。ここで、D/Dとは、固定式X線発生器2と垂直透過X線検出器6との距離Dと、固定式X線発生器2と試料ステージ9に載置されたプリント配線板3との距離Dとの比を表したものであり、換言すると測定倍率を定める要因でもある。ここで、上記したD/Dの値を説明する上で、より理解しやすいよう試料ステージ9について説明する。
【0043】
この試料ステージ9は、プリント配線板を載置するための載置台であって、水平回転手段を備え、測定を行う時には、XY水平面内で水平回転する。また、その回転軸は、後述するオフセット制御が機能しない限り、基準線Lbと同一である。ここで、試料ステージ9が、固定式X線発生器2と各透過X線検出器6、7、8との間に配置されていることを考慮すると、試料ステージ9の配置方法(固定式X線発生器2と固定式垂直透過X線検出器6との離間距離Dに対する、試料ステージ9と固定式X線発生器2との離間距離Dの関係)が、測定の結果として得られるX線断層画像の撮像精度に大きな影響を与えることになる。これについて以下具体的に説明する。
【0044】
上述したように、試料ステージ9はXY水平面内で水平回転し、試料ステージ9に載置されたプリント配線板3は水平回転する。この水平回転に伴う、測定対象領域の円周方向での移動距離について検討すると、測定対象領域の略中心から離間する領域ほど、当該水平回転に伴う円周方向での移動距離は長くなる。さらに、当該測定対象領域の広さについての観点から検討すると、D/Dの値が小さい程、測定対象領域が広くなるため、測定対象領域の略中心から離間する測定対象となる領域も広くなる。これに対し、D/Dの値が大きい程、当該水平回転に伴う測定対象領域は狭くなるため、測定対象領域の略中心から離間する測定対象となる領域は狭くなる。ここで、試料ステージ9の水平回転手段には、微小なメカ的な誤差が含まれることを考慮しなければならない。上記したように、測定対象領域内の略中心から離間する領域ほど、当該水平回転に伴う円周方向での移動距離が長くなる。そのため、当該円周方向での移動距離が長い領域ほど、得られる測定データは、当該円周方向での移動距離が短い領域の測定データと比較して、試料ステージ9の水平回転手段に含まれるメカ的な誤差をより多く含んでしまう。即ち、測定対象領域が広くなると、測定データに含まれるメカ的な誤差がより増えてしまい、その結果、X線断層画像の測定精度が低下してしまうのである。従って、より良好なX線断層画像を得るためには、D/Dの値をより大きい値とすることが好ましい。
【0045】
次に、試料ステージ9は、水平移動手段を備え、XY水平面内で水平移動する。これにより、測定対象基準点4を各透過X線検出器6、7、8の各々の測定対象領域の略中心に位置させるオフセット制御機構を備えることが好ましい。オフセット制御機構については後述する。このとき、試料ステージ9のXY水平面内でXY方向に移動する移動距離は、D/Dの値が小さい程、測定対象領域が広くなるため、大きくなる。そして、D/Dの値が大きい程、測定対象領域が狭くなるため、試料ステージ9のXY水平面内でXY方向に移動する移動距離が小さくなる。この時、試料ステージ9のXY方向での水平移動手段にも、メカ的な誤差が含まれることを考慮しても、より良好なX線断層画像を得るためには、D/Dの値をより大きくすることが好ましいのである。
【0046】
本発明では、以上の点を考慮すると、D/Dの値が4より小さい場合には、測定対象領域が広すぎて、試料ステージ9の水平回転及び水平移動を行うための駆動手段に含まれるメカ的な誤差の影響に起因して、プリント配線板の内部回路の良好なX線断層画像を得ることはできないという結論を得た。
【0047】
また、D/Dの値が150より大きい場合を考える。即ち、固定式X線発生器2と垂直透過X線検出器6との離間距離Dを、さらに大きくとる場合は、プリント配線板3を透過した透過X線が、各透過X線検出器6、7、8に到達するまでの距離が過大となり、各透過X線検出器6、7、8が検出する透過X線の減衰が生じ、透過X線量の検出を安定的に行えなくなる。また、Dの値を小さくした場合を考えると、固定式X線発生器2と試料ステージ9とが近接し過ぎるため、デバイスとしての配置が困難となり、X線断層画像を得るための適正倍率は得られない。
【0048】
ここで、本発明によるプリント配線板のX線断層画像を得る方法は、測定対象物であるプリント配線板3の面内に予め定めた測定対象基準点4を含む測定対象領域を透過した透過X線を、固定式垂直透過X線検出器6、第1傾斜透過X線検出器7、第2傾斜透過X線検出器8の各々の透過X線検出器を用いて測定する場合において、プリント配線板3に予め定めた測定対象基準点4が、固定式垂直透過X線検出器6、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8の各々の検出器の測定対象領域の略中心に常に位置するよう、プリント配線板3を載置した試料ステージ9を水平面内でXY方向に任意に移動するオフセット制御機構を用いて観察することが好ましい。
【0049】
ここで言う、プリント配線板3の面内に予め定めた測定対象基準点4とは、測定対象物であるプリント配線板3上の測定対象領域内に予め定めた一基準点である。そして、この測定対象基準点4が各透過X線検出器6、7、8のそれぞれの測定対象領域の略中心となるよう、試料ステージ9をXY水平面内でXY方向に水平移動させる。これにより、各透過X線検出器6、7、8のそれぞれが、測定対象領域を透過した透過X線を確実に測定できるようになる。このように、本発明では、予め定めた測定対象領域の基準点が、各透過X線検出器6、7、8の測定対象領域の略中心となるようにする(フォーカスする)方法として、試料ステージ9を、XY水平面内でXY方向に水平移動させる方法を用い、これをオフセット制御機構と称する。
【0050】
また、プリント配線板のX線断層画像の観察においては、そのプリント配線板の厚さ、回路密度、積層状態等が様々である点を考慮しなければならない。即ち、各透過X線検出器6、7、8のそれぞれが、測定対象領域の基準点にフォーカスするには、試料ステージ9のXY方向の移動量を、測定を行うプリント配線板に応じて調整しなければならない。しかし、本発明による当該オフセット制御機構を用いれば、試料ステージ9のXY水平面内の移動量の調整を、一括して行うことができる。ここで、当該オフセット制御機構の一制御方法を例示した図2(a)、図2(b)を参照しながら説明する。
【0051】
図2(a)は、プリント配線板の面内に予め定めた測定対象基準点4を、垂直透過X線検出器6がフォーカスした状態を示している。この状態から、傾斜透過X線検出器7が測定対象基準点4をフォーカスするために、試料ステージ9をX1方向に水平移動させる。そして、図2(b)は、上述の水平移動後の状態を示したもので、傾斜透過X線検出器7が測定対象基準点4をフォーカスしている。
【0052】
これに対し、従来技術のように、試料ステージを中心に略衛星軌道状配置された一対のX線発生器と透過X線検出器とを、移動させながら測定する方法を用いると、可動手段の
多さに起因して、得られる測定データは、非常に多くのメカ的な誤差を含むのである。従って、このような方法を採用した場合は、プリント配線板の良好なX線断層画像は得られないのである。
【0053】
本発明は、測定データに含まれる誤差を極力減らすために、可動部位を最小限にとどめ、オフセット制御機構を用いた。その結果、プリント配線板の良好なX線断層画像を得るのである。そして、測定データに含まれる誤差をさらに減らす観点から、上記した試料ステージへ9へのプリント配線板3の載置方法を以下に述べる。
【0054】
本発明による試料ステージ9に対するプリント配線板3の装着方法は、板状のプリント配線板3を試料ステージ9に疑似固定できる粘着性を備え、且つ、曲げ弾性率3GPa〜20GPaの粘着弾性材を用いてプリント配線板3のX線断層画像の観察することが好ましい。本発明では、プリント配線板の内部回路構造を測定し得る良好なX線断面画像を得るために、プリント配線板3を試料ステージ9に載置する方法について検討した結果、試料ステージ9に対するプリント配線板の載置方法によって、得られるX線断層画像の精度が大きく影響を受ける点に着目した。
【0055】
換言すれば、測定対象物であるプリント配線板3が、試料ステージ9に載置される際、その載置方法が、得られるX線断層画像の精度に影響を与えるということである。そこで、本発明では、試料ステージ9に対し、測定対象物であるプリント配線板3が確実に密着して、測定中に試料ステージ9から脱離したり浮きが発生しないように、擬似固定される方法を採用した。以下に、その具体的な載置方法を説明する。
【0056】
本発明では、上述のように試料ステージ9を、XY水平面内で、オフセット制御機構による水平移動可能且つ、水平回転可能とした。そのため、試料ステージ9に載置されたプリント配線板が、試料ステージ9の水平移動及び水平回転によって、試料ステージ9上での微小な移動(載置位置のズレ)を生じた場合、それらのズレがごく僅かであっても、各透過X線検出器6、7、8によって検出される透過X線の測定データに誤差を生ずる。より具体的には、試料ステージ9のオフセット制御機構による水平移動や、試料ステージの9の水平回転によって、載置されたプリント配線板が初期載置位置から移動してしまうことによって、各透過X線検出器6、7、8の測定対象領域のフォーカスがズレてしまう。そして、フォーカスがズレた状態で測定が行われることによって、X線断層画像の撮像精度は、極度に低下してしまうのである。
【0057】
さらに、測定対象物であるプリント配線板は、その内部の構成物質が多様であり、特に、プリント配線板内部においては、X線照射によって、その絶縁部分が発熱する場合がある。この発熱に伴い、プリント配線板がわずかに膨張することによって、反りが発生する場合がある。この場合も同様に、透過X線検出器の測定対象領域におけるフォーカスのズレを発生させ、X線断層画像の撮像精度を極度に低下させてしまうのである。
【0058】
また、試料ステージ9の水平回転に伴う微小なメカ振動が、測定対象物であるプリント配線板に伝わることを考慮する必要がある。このメカ振動が、試料ステージ9上に載置された測定対象物であるプリント配線板3に伝わり、各透過X線検出器6、7、8がフォーカスしている測定対象領域がズレてしまう。この場合も同様に、誤差を生ずる原因となり、その結果、良好なX線断層画像を得ることができないのである。
【0059】
そこで、本発明では、プリント配線板を試料ステージに9に載置するために、曲げ弾性率3GPa〜20GPaの粘着弾性材を用いた。粘着弾性材の曲げ弾性率が3GPa未満の場合は、載置されるプリント配線板の重量や形状等により、試料ステージ9上に静置された状態を維持することができない。この結果、得られる測定データは、誤差を多く含むため好ましくない。また曲げ弾性率が20GPaを超える場合は、上記した試料ステージ9の駆動手段に含まれるメカ的な振動を十分に吸収することができない。そのため、このメカ振動が、試料ステージを介してプリント配線板3に伝わり、各透過X線検出器6、7、8のフォーカスにズレが生じる。その結果、測定されるデータは誤差を多く含むものとなる。従って、この場合も同様にプリント配線板の良好なX線断層画像を得ることができない。以上のことから、本発明では、上述の粘着弾性材を用いて、測定対象物であるプリント配線板3を、試料ステージ9に対し、密着して疑似固定し、上記のズレ及び反りによって生ずる各透過X線検出器6、7、8のフォーカス位置のズレを無くし、誤差を最小限に抑えることにより、さらに良好なプリント配線板のX線断層画像を得ることを可能にした。
【0060】
また、上記の粘着弾性材は、曲げ弾性率3GPa〜20GPaを満たし、プリント配線板を試料ステージに密着して擬似固定可能なものであればよい。例えばシリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、PET樹脂等からなる粘着弾性材が挙げられる。また、プリント配線板の載置方法は、その全面が密着して疑似固定されても、部分的に密着して疑似固定されてもよい。そして、上記してきた方法を用いて得られた透過X線の測定データに基づいて、さらに良好なプリント配線板のX線断層画像を得るためのX線断層画像の撮影方法について以下に述べる
【0061】
本発明によるプリント配線板の内部回路構造を測定するためのX線断層画像を得るための撮影画像枚数は150枚〜500枚とし、各1枚の画像の照射X線量の差を均一化して良好な画像を得るため1視野において3枚〜10枚の加算枚数の撮影を行うことが好ましい。これは、同一測定対象領域において、固定式X線発生器から照射されるX線量の差に起因する透過X線量の誤差が、生成されるX線断層画像の撮像精度に与える影響を考慮し、1視野において3枚〜10枚の加算を行い、得られた加算枚数を平均化して、当該1視野のX線断層画像を得るのである。このようにして、1枚のプリント配線板あたり、150枚〜500枚のX線断層画像を撮影し、当該プリント配線板のX線断層画像を得る。このとき、プリント配線板の平面方向のサイズ、厚さ、積層状態に応じて、上記した本発明による加算枚数及びX線断層画像の撮影枚数の範囲内で、適宜調整することが好ましい。しかし、1視野における加算枚数を、10枚を超える枚数とし、撮影画像枚数を500枚を超える枚数としても、撮像精度の向上は望めないばかりか、測定データが過大となり、撮像に要する時間は膨大なものとなるため好ましくない。また、1視野における加算枚数を3枚未満の枚数とし、撮影画像枚数を150枚未満の枚数とした場合は、誤差の均一化が十分に行われないため、プリント配線板の内部構造を測定し得る良好なX線断層画像は得られない。
【0062】
本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置の形態: 本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置は、上述のプリント配線板のX線断層画像の観察方法を用いてプリント配線板の内部回路構造を任意の断層面を観察するためのX線断層画像観察装置であって、上述の固定式X線発生器2を備え、試料ステージ9、固定式垂直透過X線検出器6、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8を収容する測定チャンバーを備える。そして、図1(a)(b)に示したように、固定式X線発生器2、固定式垂直透過X線検出器6、第1傾斜透過X線検出器7及び第2傾斜透過X線検出器8の各々を含んで構成され、本発明に係る上述してきた観察方法を具現化して、プリント配線板内部の金属で形成された内部回路を検出し、X線断層画像を得ることを特徴としている。以下、図3を参照しながら、本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置の概略構成を述べる。但し、重複する部分は、説明上必要な場合を除き記載を省略する。
【0063】
図3は、プリント配線板用のX線断層画像観察装置1の要部を示した概略図である。このX線断層画像観察装置1は、測定チャンバー10、信号変換部11、出力部12、操作部13、X線制御部14からなる。信号変換部11は、固定式垂直透過X線検出器6、傾斜透過X線検出器7、傾斜透過X線検出器8で検出された透過X線の信号強度を、電気信号に変換し、この変換された電気信号を出力部12に転送する。操作部13は、試料ステージ9の水平回転及び水平移動を行うための駆動手段(図示せず)への制御指示、固定式X線発生器2から発生させるX線強度の制御指示等を行うための操作部である。X線制御部14は、上述の操作部13からの入力された、必要となるX線強度に従って、固定式X線発生器2のX線発生電圧及びX線発生電流等の調整を行う。そして、プリント配線板用のX線断層画像観察装置1の外部には、モニタ16にX線断層画像を表示するために、画像処理部15を配置する。画像処理部15は、出力部12から出力した当該電気信号を画像データに変換し、当該画像データをモニタ16に出力する。
【0064】
ここで、本発明に係るプリント配線板用のX線断層観察装置は、チャンバー10内に、拡散放射型のX線源が内蔵された固定式X線発発生器2として備える。そして、透過X線検出器として、固定式透過X線検出器6と、傾斜透過X線検出器7及び傾斜透過X線検出器8とを備え、傾斜透過X線検出器7及び傾斜透過X線検出器8の上述の傾斜角は10°〜80°とした。また、プリント配線板3を、試料ステージ9に密着して疑似固定する方法として、シリコーン系の樹脂からなる粘着弾性材(図示せず)を用いた。
【0065】
そして、本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置1を用いて、プリント配線板のX線断層画像の撮像を行い、その内部回路構造を三次元的に表した一X線断層画像が図4である。これは、内部が24層から構成された多層のプリント配線板の、縦29mm×横300mm×厚さ4mmの領域である。この図4から明らかなように、本発明に係るプリント配線板用のX線断層画像観察装置は、プリント配線板内部の測定対象領域における金属で形成された内部回路構造を高精度に検出し、鮮明に可視化することが可能である。即ち、本発明に係るX線断層観察装置を用いて、プリント配線板の内部回路構造の検査を行えば、不良部位の有無の特定のみならず、不良状態の精密な観察を容易に行うことができるのである。また、図5は、図4の測定部位を異なる角度から観察したものである。このように、測定対象領域の内部回路構造を任意の角度から自在に観察することができる。
【0066】
また、図6は、プリント配線板内部の特定の部位におけるX線断層画像である。この図6を参照すれば、プリント配線板内部の当該特定の部位におけるブラインドビアホールをスタック構造に配置した場合のレジストレーションの状態が、従来になく、極めて高解像度で鮮明に観察できることが明白である。
【0067】
そして、図7は、プリント配線板内部の当該特定の部位におけるブラインドビアホールをスタック構造の配置のズレが生じた状態を、側面から捉えた画像を掲載している。このような画像が鮮明に捉えられることで、ブラインドビアホールのスタック構造をストレートにするため、製品を破壊することなく、プリント配線板製造におけるビルトアップ設計を修正する事が可能となる。
【0068】
更に、図8及び図9を、観察可能なX断層画像の一例として示す。図8には、ブラインドビアホールのスタック構造を抽出して、斜め上方から観察した斜視観察像を示している。そして、図9には、中央の略正方形領域にビアホールを規則正しく配列し、その周囲に回路の存在する領域の観察像を示している。
【0069】
以上のように、上述の図4〜図9に示したX線断層画像から理解できるように、本発明に係るX線断層画像の観察方法を用いたプリント配線板のX線断層画像の観察装置を用いることで、従来に無い極めて高精度で、プリント配線板の金属で構成された内部回路構造のX線断層画像を得ることができる。しかも、本発明に係るX線断層画像の観察方法及び装置は、プリント配線板内部の任意の断面を、非破壊で検査するものであるが、観察時の装置としての操作性にも優れ、極めて容易に良好なX線断層画像が得られる。なお、ここで、明記しておくが、図4〜図9に示したX線断層画像においては、プリント配線板の絶縁層を構成する樹脂部分の検出はなく、プリント配線板から当該樹脂部分を除外した金属成分で構成された回路部分が立体的構造として確認できている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法は、プリント配線板の内部回路構造を、従来になく極めて精細に測定する方法であって、この観察方法を具現化した本発明に係るX線断層画像観察装置を用いれば、近年のより多積層化したプリント配線板の微小な不良部位を容易に特定することができ、プリント配線板の生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法を示す概略図である。
【図2】本発明に係るプリント配線板のX線断層画像の観察方法を示す概略図である。
【図3】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置の要部を示した概略図である。
【図4】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画像である。
【図5】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画画像である。
【図6】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画画像である。
【図7】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画像である。
【図8】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画画像である。
【図9】本実施の形態に係るX線断層画像観察装置を用いて撮像したプリント配線板内部のX線断層画画像である。
【符号の説明】
【0072】
1 X線断層画像観察装置
2 固定式X線発生器
3 プリント配線板
4 測定対象基準点
6 固定式垂直透過X線検出器
7,8 傾斜透過X線検出器
9 試料ステージ
10 測定チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器及び2N個以上(N≧1の整数)の可動式の傾斜透過X線検出器を用いてプリント配線板の内部回路構造を測定することを特徴とするX線断層画像の観察方法。
【請求項2】
前記固定式X線発生器から照射されたX線が、測定対象物である略板状のプリント配線板の測定対象領域の略中心に位置する測定対象基準点を略垂直に透過する方向を基準線とし、
前記基準線上に前記固定式X線発生器から距離Dだけ離間して前記固定式垂直透過X線検出器を配置し、
前記基準線から所定の傾斜角をもって前記固定式X線発生器から延びる第1方向に距離Dだけ離間して第1傾斜透過X線検出器を配置し、
前記基準線から当該第1傾斜透過X線検出器と前記基準線をはさんで対称の位置となるように所定の傾斜角をもって前記固定式X線発生器から延びる第2方向に距離Dだけ離間して第2傾斜透過X線検出器を配置することで、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々を、固定式X線発生器を略中心とした略衛星軌道状配置とし、
前記固定式X線発生器と各X線検出器との間であって、前記固定式X線発生器から基準線上に距離Dだけ離間した位置に試料ステージを配置して、その試料ステージに測定対象物であるプリント配線板を載置する際に、D/D=4〜150の範囲として4倍以上の倍率で金属で形成された内部回路を検出し、X線断層画像を得る請求項1に記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項3】
前記傾斜角は、10°〜80°である請求項2に記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項4】
前記第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各可動式検出器と、測定対象物であるプリント配線板を載置した試料ステージとが水平面内で同期回転することを特徴とした請求項2又は請求項3に記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項5】
前記試料ステージに対するプリント配線板の装着方法は、板状のプリント配線板を試料ステージに疑似固定できる粘着性を備え、且つ、曲げ弾性率3GPa〜20GPaの粘着弾性材を用いる請求項2〜請求項4のいずれかに記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項6】
測定対象物であるプリント配線板の面内に予め定めた測定対象基準点の透過X線を、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器、第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器を用いて測定する場合において、
プリント配線板に予め定めた測定対象基準点が、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器の測定対象領域の略中心に常に位置するよう、プリント配線板を載置した試料ステージを水平面内でXY方向に任意に移動するオフセット制御機構を用いた請求項2〜請求項5のいずれかに記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項7】
前記固定式X線発生器は、X線発生源として銅のKα線を用い、X線発生電圧60KV〜120KV、電流60mA〜120mAの条件で用いる請求項2〜請求項6のいずれかに記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項8】
測定対象物であるプリント配線板の内部回路構造を測定するX線断層画像を得るための撮影画像枚数は150枚〜500枚であり、
各1枚の画像の照射X線量の差を均一化して良好な画像を得るため1視野において3枚〜10枚の加算枚数の撮影を行うものである請求項2〜請求項7のいずれかに記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法。
【請求項9】
請求項2及び3に記載のプリント配線板のX線断層画像の観察方法を用いてプリント配線板の内部回路構造を任意の断層面で観察するためのX線断層画像観察装置であって、
当該X線断層画像観察装置は、固定式X線発生器、測定対象物を載置する試料ステージ、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器を内部に収容した測定チャンバーを備え、
当該測定チャンバー内において、固定式X線発生器、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々が、
当該固定式X線発生器から照射されたX線が、測定対象物である略板状のプリント配線板の測定対象領域の略中心に位置する測定対象基準点を略垂直に透過する方向を基準線としたとき、
当該基準線上に当該固定式X線発生器から距離Dだけ離間して当該固定式垂直透過X線検出器を配置し、
当該第1傾斜透過X線検出器は、当該基準線から所定の傾斜角をもって当該固定式X線発生器から延びる第1方向に距離Dだけ離間して配置し、
当該第2傾斜透過X線検出器は、当該基準線から第1傾斜透過X線検出器と基準線から見て対称の位置となるように所定の傾斜角をもって当該固定式X線発生器から延びる第2方向に距離Dだけ離間して配置することで、当該固定式垂直透過X線検出器、当該第1傾斜透過X線検出器、当該第2傾斜透過X線検出器の各々を、固定式X線発生器を略中心とした略衛星軌道状配置とし、
当該X線発生器と各X線検出器との間であって、当該X線発生器から基準線上に距離Dだけ離間した位置に試料ステージを配置して、その試料ステージに測定対象物であるプリント配線板を載置する際に、D/D=4〜150の範囲として4倍以上の倍率で金属で形成された内部回路を検出し、X線断層画像を得ることを特徴とするプリント配線板用のX線断層画像観察装置。
【請求項10】
前記傾斜角は、10°〜80°である請求項9に記載のプリント配線板用のX線断層画像観察装置。
【請求項11】
前記第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各可動式傾斜透過検出器と、測定対象物であるプリント配線板を載置した試料ステージとが、水平面内で同期回転することを特徴とした請求項9又は請求項10に記載のプリント配線板用のX線断層画像観察装置。
【請求項12】
測定対象物であるプリント配線板の面内に予め定めた測定対象基準点の透過X線を、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器、第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器を用いて測定する場合において、
プリント配線板に予め定めた測定対象基準点が、固定式垂直透過X線検出器、第1傾斜透過X線検出器及び第2傾斜透過X線検出器の各々の検出器の測定対象領域の略中心に常に位置するよう、プリント配線板を載置した試料ステージを水平面内でXY方向に任意に移動するオフセット制御機構を備える請求項9〜請求項11のいずれかに記載のプリント配線板用のX線断層画像観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−92610(P2009−92610A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265947(P2007−265947)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【出願人】(598140456)吉田工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】