説明

プリント配線板用銅箔およびその製造方法

【課題】 絶縁性基材を透かして見たときの高い視認性を備えており、かつプリント配線板の製造工程における染込みや剥離等の発生する虞のないプリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るプリント配線板用銅箔は、プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c=(a*2+b*21/2を6以下と成すNi−Co合金めっき層を備えたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置用テープキャリアのようなプリント配線板における配線パターン等の各種導体パターンを形成するために、例えばポリイミド樹脂フィルムからなる絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられ、パターン形成された後に、そのパターンの位置を、絶縁性基材を透かし見るようにして認識することが行われるようなプリント配線板などに対して特に好適な、プリント配線板用銅箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板における配線パターンやいわゆるインナーリード部などの各種導体パターンを形成するための導体層として、銅箔が一般に用いられている。
特に、フレキシブルプリント配線板の分野では、ポリイミド樹脂フィルムからなる絶縁性基材の表面に、数10μm〜100μm程度の厚さの銅箔をラミネートすることで、フレキシブルプリント配線板用銅張基板が形成される。あるいは、銅箔の片面に、ポリアミック酸を主成分とするワニスを塗布〜硬化するなどして絶縁性基材層を形成することで、ほぼ同様の特性を有するプリント配線板用銅張基板を形成する場合もある。以後、このように銅箔の表面にワニス等を塗布〜硬化することで形成された絶縁性基材層についても、プリント配線板用絶縁性基材(または単に絶縁性基材)と呼ぶものとする。また、上記のいずれの製法によって形成された絶縁性基材を用いてなるものであっても、その表面に銅箔が設けられたものを、プリント配線板用銅張基板(またはプリント配線板用金属張基板)と総称するものとする(社団法人・日本プリント回路工業会編「プリント回路用語」2006.6.7における41.1609「金属張基板」定義等に準拠)。
【0003】
銅箔とプリント配線板用絶縁性基材との間には、所定の接着性(両者同士の面的な接着強度、あるいは面的な接合性とも呼ばれるが、以降、単に接着強度、または接着性と表記する)が要求される。このため、銅箔における特に接着面側には、粗化処理が施される。
【0004】
銅箔は、その製造方法によって、電解銅箔と圧延銅箔とに大別されるが、そのどちらも、粗化処理については同様の手法が用いられる。その手法とは、例えば、いわゆるヤケめっきによって銅箔の表面に微細な米粒状の銅(Cu)粒子を付着させるという方法や、酸によって結晶粒界の選択的エッチングを行うという方法がある。
【0005】
ヤケめっきによる粗化処理は、一般的な銅めっき法を用いたプロセスの他に、銅(Cu)−ニッケル(Ni)合金めっきに代表される合金めっき法によるプロセスなどが提案されている(特許文献1)。
【0006】
銅箔とプリント配線板用絶縁性基材との接着性を向上させるための手法としては、上記のような粗化処理によるアンカー効果を活用するというものの他にも、原箔である銅箔に表面処理を施す、つまり銅箔の表面にポリイミド樹脂のような絶縁性有機化合物に対する化学的接着性の高い金属層を設ける、という方法がある。具体的には、クロメート処理と呼ばれる化成処理法や、シランカップリング処理法などがその典型的な一例であるが、それらはまた、接着性の向上と共に、銅箔の表面の防錆の役割も兼ねている。
【0007】
これまで我々(本発明の出願人)は、プリント配線板用絶縁性基材との接着性が高く、また耐熱性、耐湿性も良好なプリント配線板用銅箔の技術開発を鋭意継続し、またそれを可能とするための技術に関する各種提案を行ってきた(特許文献2、3)。
【0008】
近年、フレキシブルプリント配線板における配線パターンの線幅やピッチは、さらに微
細化が進む傾向にあり、またプリント配線板の全体的な外形寸法のさらなる小型化とも相まって、プリント配線板上に直接にIC(半導体集積回路;以下、単にICとも呼ぶ)のような半導体装置を実装することも多く行われるようになってきている。
【0009】
そのような半導体装置の実装に際しては、ボンディングのための位置合わせ等を行うことが必要となるが、その位置の精確な調整は、絶縁性基材を透過して(いわゆる「透かして」)視認または光学的に検知される配線パターンやインナーリード部などの導体パターンを識別することによって行われる。
【0010】
ところが、配線パターンやその他各種の導体パターンが、より微細化すると、それに対応して要求されるボンディングのための位置合わせ(位置決め)の精度も、より高くなることは避け難い。このため、プリント配線板用銅箔には、従来にも増して、絶縁性基材を透かして見たときの高い視認性(あるいは撮像装置等による可視光領域での光学的な識別可能性;以下、これらを纏めて「視認性」と総称する場合もある)が求められるようになってきた。
【0011】
そのような高い視認性を得るためには、一般に、銅箔に黒化処理を施すことが有効であると考えられていた。
また、上記のような黒化処理以外の方策としては、これはプリント配線板用銅箔に関する技術ではなくPDP(プラズマディスプレイパネル)等のFPD(フラットパネルディスプレイ)用の銅箔等に関する技術ではあるが、銅箔の表面に単純なコバルト(Co)のめっきによってコバルトめっき層を形成することで、その銅箔表面の色調を、透明化処理前には灰色でも透明化処理後には実質的に黒色に見えるようにする、という手法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭52−145769号公報
【特許文献2】特開2006−319286号公報
【特許文献3】特開2007−119902号公報
【特許文献4】特開2005−248221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、黒化処理は、その付着量が多いほどその黒化粒子が銅箔の表面から脱落しやすくなるので、高い視認性を得ようとして十分な黒化処理を施そうとすると、いわゆる粉落ちと呼ばれる現象が生じやすくなり、延いてはその粉落ちに因って、導体パターンの視認性が却って低下してしまうという問題があった。また、それのみならず、黒化処理に起因した粉落ちは、そのプロセス以降のプリント配線板の製造工程を汚染し、配線パターンの形成不良や断線不良等のような各種の製造不良を発生させる要因となるという問題もあった。
【0014】
また、銅箔の表面に、単純なコバルト(Co)のめっきによってコバルトめっき層を形成するという、特許文献4にて提案された手法は、透明なガラス基板等を介して、かつ実質的には主にバックライトまたは自発光素子自身からの光によって影像的に視認されるFPDに用いられるような銅箔の表面の色調を灰色ないし黒色に見えるような色にするという点で、本発明が対象としているプリント配線板用銅箔とは全く技術分野や解決課題の異なった技術であり、従って、左様な技術をポリイミド樹脂フィルムのような絶縁性基材を介して透かして見たときの銅箔の視認性の向上に適用できるか否かは、全く未知であった。
【0015】
しかも、そのような単純なコバルトめっきによる処理では、プリント配線板のエッチングや錫(Sn)めっきを伴う工程中で、コバルトめっき層からコバルト(Co)が溶出して、いわゆる染込みと呼ばれる現象や剥離等が生じる虞が極めて高くなり、延いては特に配線間隔が狭いプリント配線板における配線回路系の信頼性を著しく損ねる要因となるという、プリント配線板用銅箔としては致命的な問題があった。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、絶縁性基材を透かして見たときの高い視認性を備えており、かつプリント配線板の製造工程における、黒化処理した場合のような染込みや剥離等の発生する虞のない、プリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のプリント配線板用銅箔は、プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c=(a*2+b*21/2を6以下と成すNi−Co合金めっき層を備えたことを特徴としている。
また、本発明のプリント配線板用銅箔は、プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、銅(Cu)または銅基合金からなる原箔の表面上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満である、Ni−Co合金めっき層を備えたことを特徴としている。
本発明のプリント配線板用銅箔の製造方法は、プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるプリント配線板用銅箔の製造方法であって、銅(Cu)または銅基合金からなる原箔の表面上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満である、Ni−Co合金めっき層を形成する工程と、前記Ni−Co合金めっき層の上に、亜鉛(Zn)のめっき皮膜からなるZnめっき層を形成する工程と、前記Znめっき層の上に、3価クロメート処理層を形成する工程と、前記3価クロメート処理層を形成した後、当該3価クロメート処理層の表面にシランカップリング剤の水溶液を塗布し、乾燥雰囲気温度150℃以上300℃以下で加熱乾燥を行って、シランカップリング処理層を形成する工程とを含むことを特徴としている。
【0018】
ここで、上記の「絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔」とは、例えばフィルム状やシート状の絶縁性基材の表面にラミネートされて、いわゆる銅張基板を形成するように用いられるプリント配線板用銅箔と、銅箔の片面に例えばポリアミック酸を主成分とするワニスを塗布〜キュアするなどして絶縁性基材層を形成することでそれを絶縁性基材とし、結果的にあたかも銅箔が絶縁性基材の表面に張り合わされた(接着された)構造を成すように用いられるプリント配線板要用銅箔との、両方を意味するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、染込みや剥離等の発生する虞の高い黒化処理を行うのではなく、絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c=(a*2+b*21/2が6以下を成すNi−Co合金めっ
き層を備えるようにしたので、ポリイミドに代表される絶縁性基材を透かして見たときの色(JIS Z8729に基づく)を、例えば黒色との色差でΔEab=3以内と観察されるような表面にすることができ、その結果、半導体チップの実装時の位置合わせの際などにおける絶縁性基材を介していわゆる透かし観た状態での十分に高い視認性を備えており、かつプリント配線板の製造工程における染込みや剥離等の発生する虞のない導体パターンを形成することが可能なプリント配線板用銅箔を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要な構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板について、図面を参照して説明する。
このプリント配線板用銅箔は、原箔1の表面上に、粗化めっき層2と、Ni−Co(ニッケル−コバルト)合金めっき層3と、Zn(亜鉛)めっき層4と、クロメート処理層5と、シランカップリング処理層6とを、この順で積層してなる積層構造をその主要部として備えており、プリント配線板における導体パターンを形成するために、典型的な一例としてはポリイミド樹脂フィルムのような絶縁性基材(図示省略)の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたものである。
【0022】
原箔1は、銅(Cu)または銅基合金からなる銅箔である。この原箔1自体については純銅や銅基合金からなる、一般的なプリント配線板やフレキシブルプリント配線板もしくは半導体装置用テープキャリア等に用いられるような、一般的な圧延銅箔または電解銅箔を用いることが可能である。
但し、この原箔1を有するプリント配線板用銅箔が、特にフレキシブルプリント配線板やテープキャリアのような適度な機械的な可撓性や折り曲げ性が要求されるプリント配線板の導体パターンを形成するために用いられるものである場合には、表面の平坦性および折り曲げ性の点で、電解銅箔よりも優れた特質を備えている圧延銅箔を用いることが、より望ましい。
【0023】
粗化めっき層2は、このプリント配線板用銅箔の絶縁性基材に対する接着性を高める(アンカー効果を高める)ために、例えば原箔1の表面に設けられたものである。この粗化めっき層2自体についても、一般的な製造方法による一般的な材質からなるものとすることが可能である。
【0024】
Ni−Co合金めっき層3は、粗化めっき層2の上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金めっきによって形成されたもので、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満となっている。
【0025】
本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔では、上記のような組成からなる材質のNi−Co合金めっき層3を備えたことにより、それが設けられた側の表面の、ポリイミド樹脂フィルム基材のような絶縁性基材を介して透かして見たときの視認性が、極めて良好なものとなっている。また、それと共に、このプリント配線板用銅箔を用いてプリント配線板を製造する際に、Ni−Co合金めっき層3からのコバルト(Co)の溶出に起因した染込みの発生や、接着力の低下等、を回避することが可能なものとなっている。
【0026】
すなわち、従来は、このプリント配線板用銅箔にパターン加工等を施して形成される配線パターンや接続パッド部やインナーリード等のような各種導体パターンの、ポリイミド
樹脂フィルム基材のような絶縁性基材を通して透かして見たときの視認性を高めるためには、その視認の対象となる導体パターンの色、つまりプリント配線板用銅箔における絶縁性基材と対面する側の表面の色が、可能な限り黒色であることが望ましいとされていた。
しかし、本発明の発明者達は、プリント配線板用銅箔における絶縁性基材に対面する側の表面の色と、その視認性の良否との関係について、種々の実験および調査ならびにそれらの結果に対する検討・考察等を鋭意行った結果、プリント配線板用銅箔における表面の視覚的に認識される(あるいは可視光領域で検知される)色は、必ずしも黒色でなくとも、例えば視覚的に灰色の色彩として認識されるような色とすることによっても、絶縁性基材のポリイミド樹脂フィルム基材の有している黄土色ないし茶褐色等の色と相まって、黒色の場合に近い良好な視認性または光学的な識別可能性が得られることを確認した。
そのような導体パターンの色とは、絶縁性基材を介して(透かして)光学的に検知される、JIS Z8729にて定義される色における彩度c=(a*2+b*21/2が、6以下である。あるいは、絶縁性基材を介して光学的に検知される、JIS Z8730にて定義される色が、黒色との色差ΔEab=3以内である。
そしてまた、そのような良好な視認性を得ることができるような表面の色を得るためには、上記のような材質(組成)のNi−Co合金めっき層3が適していることを、実施例および比較例に係る試料等を用いた種々の実験によって確認したのであった(なお、そのような試料を用いた実験およびその結果についての考察等は、後述の実施例にてさらに具体的に説明する)。
【0027】
ここで、基本的に、よりNi−Co合金めっき層3の厚さ(換言すれば付着量)を増やすほど、より高い視認性を得ることができる傾向にあることを我々は確認している。しかし、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量は、多ければ多いほどよいというわけではなく、また逆に、少な過ぎると良好な視認性が得られなくなる傾向にあるということも、我々は確認している。
すなわち、Ni−Co合金めっき層3における、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量の好適な数値的態様としては、20μg/cm以上40μg/cm未満とすることが望ましい。
これは、Ni−Co合金めっき層3におけるニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm未満であると、視認性の高い色を得ることが困難となり、また40μg/cm以上であると、このプリント配線板用銅箔に対してエッチング法によりパターン加工を施して、配線パターンを含む各種導体パターンを形成する際に、本来は完全に除去されるべき非パターン部分にNi−Co合金めっき層3がエッチング残りとして残留し、そのパターン加工によって得られた導体パターンからなる回路系のマイグレーション性が著しく損なわれてしまう虞が高くなるからである。
【0028】
また、Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度は、20質量%以上55質量%未満にすることが望ましい。
これは、55質量%以上の多量な(高濃度の)コバルト(Co)を含んだNi−Co合金めっき層3が設けられたプリント配線板用銅箔を用いてプリント配線板を製造する場合、そのプリント配線板の製造工程中、特エッチング法等によってプリント配線板用銅箔にパターン加工を施して各種導体パターンを形成する工程や、その導体パターンの形成後にハーフエッチングを施す工程、もしくは錫(Sn)めっきを施す工程などにおいて、Ni−Co合金めっき層3からコバルト(Co)が溶解〜析出(溶出)して、いわゆる染込みと呼ばれる現象が発生する虞が極めて高くなるからである。また、コバルト(Co)の濃度が20質量%未満では、接着強度の低下が著しくなると共に、このプリント配線板用銅箔の全体的なエッチング性も低下してしまう虞が高くなるからである。
【0029】
このような理由から、Ni−Co合金めっき層3におけるニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量を20μg/cm以上40μg/cm未満にすると共に、
コバルト濃度を20質量%以上55質量%未満にすることにより、良好な視認性を得ることができるような表面の色を得ることを可能としつつ、Ni−Co合金めっき層3が含んでいるコバルト(Co)の溶出に起因した染込みの発生および非パターン部におけるNi−Co合金めっき層3の残留に起因した回路系のマイグレーション性の低下を、抑止ないしは解消することが可能となる。
【0030】
ここで、予め粗化処理を施すことで、コバルト濃度が55質量%未満においても、接着強度の低下を抑えることができる。さらに、シランカップリング処理等を適切なものとすることで、ポリイミド樹脂との接着強度を増強することが可能である。
【0031】
Znめっき層4は、このプリント配線板用銅箔に防錆効果を付与するために、Ni−Co合金めっき層3の上に亜鉛(Zn)めっきを施すことで形成されたものである。
このZnめっき層4を形成する際のめっきプロセスとしては、硫酸浴、アルカリジンケート浴、塩化物浴などを用いることが可能である。また、そのさらに具体的なプロセス条件等についても、このZnめっき層4に要求される防錆性能やその他各種の要求に対応して適宜に設定することが可能である。
【0032】
但し、本実施の形態では、このZnめっき層4の付着量としては、3μg/cm未満とすることが望ましい。これは、Ni−Co合金めっき層3の上に形成されるZnめっき層4の付着量、つまり亜鉛(Zn)の付着量が、3μg/cm以上であると、このプリント配線板用銅箔を用いてプリント配線板を製造する工程中で用いられる塩酸や無電解錫(Sn)めっき液等によって亜鉛(Zn)成分が溶出し、延いてはこのプリント配線板用銅箔の絶縁性基材に対する接着強度が低下してしまう虞が高くなるからである。
【0033】
クロメート処理層5は、Znめっき層4の表面上にクロメート処理と呼ばれる化成処理を施して形成されたものである。そのクロメート処理については、その環境や人体への影響を考慮するという観点から、有害な6価クロムを含まない組成の処理液を用いるべきである。具体的には、3価クロメートを用いることが望ましい。
このクロメート処理層5の付着量としては、2.5μg/cm以下とすることが望ましい。それよりも多い付着量にすると、クロメート処理層5の厚さが厚くなり過ぎて、そのクロメート処理層5を設けてなるプリント配線板用銅箔の絶縁性基材に対する接着強度が低下してしまう虞が高くなるからである。
【0034】
シランカップリング処理層6は、ポリイミド樹脂のような有機化合物からなる絶縁性基材の表面に対する接着強度を高めるために、クロメート処理層5の表面上にシランカップリング処理を施すことで形成されたものである。
このシランカップリング処理層6を形成する際に用いられるシランカップリング処理剤としては、種々のものが使用可能であるが、特に絶縁性基材としてポリイミド樹脂フィルムを用いる場合には、アミノシラン系の処理剤が好適である。
【0035】
このプリント配線板用銅箔の製造方法としては、まず、原箔1の表面上に、粗化めっきプロセスによって粗化めっき層2を形成する。
【0036】
その粗化めっき層2の上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金めっきによって、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共にニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満であるNi−Co合金めっき層3を形成する。
【0037】
続いて、Ni−Co合金めっき層3の表面上に、望ましくは3μg/cm未満の付着量で、亜鉛めっきを施してZnめっき層4を形成する。
【0038】
そのZnめっき層4の表面上に、クロメート化成処理を施して、望ましくは3価クロムの付着量が2.5μg/cm以下の、クロメート処理層5を形成する。
【0039】
そして、さらにそのクロメート処理層5の表面に、望ましくはアミノシラン系の処理液を用いて、シランカップリング処理を施すことにより、シランカップリング処理層6を形成する。
【0040】
ここで、特にこのシランカップリング処理層6を形成する際の、乾燥温度および乾燥時間は、その処理を行うために用いる装置の構成やその処理速度等にも依存するが、好適な数値的態様としては、乾燥温度を150℃以上300℃以下、乾燥温度を15秒以上35秒以下に設定することが望ましい。
例えば、30秒の乾燥時間を確保できる装置を用いる場合、乾燥温度は150℃〜200℃が最適な数値範囲となる。これは、実施例でさらに具体的に説明するが、このように乾燥温度および乾燥時間を設定することにより、十分な接着強度を確実に得ることが可能となるからである。
【0041】
このような本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔を用いて製造されたプリント配線板は、そのプリント配線板用銅箔をパターン加工してなる導体パターンの、ポリイミド樹脂フィルムのような絶縁性基材を介して透かして視認される(または光学的に検知される)、JIS Z8730にて定義される色が、例えば黒色との色差ΔEab=3以内であり、絶縁性基材の色と相まって、導体パターンの視認性が極めて良好なものとなっている。
【0042】
以上説明したような本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法によれば、Ni−Co合金めっき層3の材質を、例えばニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満であるものとすることによって、このプリント配線板用銅箔を絶縁性基材に張り合わせてパターン加工してなる導体パターンの、絶縁性基材を介して(透かして)光学的に検知される、JIS Z8729にて定義される色における彩度c=(a*2+b*21/2を、6以下となるようにしたので、染込みや剥離等の発生する虞の高い黒化処理を特別に施さなくとも、ポリイミドに代表される絶縁性基材を透かして見たときの導体パターンの色が黒色との色差でΔEab=3以内であるような、半導体チップ実装時の位置合わせの際などにおける実用上十分に高い視認性を確保することが可能となり、かつプリント配線板の製造工程における染込みや剥離等が生じることなく導体パターンを形成することが可能となる。
上記のように、本発明においては、レアメタルであるニッケル(Ni)やコバルト(Co)の使用量を抑えることを可能にすると共に、エッチング法によってパターン加工を施す際のエッチング残りが実質的に少ない、回路視認性の高いプリント配線板用銅箔を実現することができる。
【実施例】
【0043】
上記の実施の形態で説明したようなプリント配線板用銅箔を作製し、本発明の実施例に係るプリント配線板用銅箔の試料とした。そして、そのプリント配線板用銅箔の試料を用いて、本発明の実施例に係るプリント配線板の試料を作製した(実施例1〜6)。
また、それとの比較対照のために、上記の実施の形態で説明したプリント配線板用銅箔とは敢えて異なった構成のプリント配線板用銅箔を作製し、それを用いて比較例に係るプリント配線板の試料を作製した(比較例1〜6)。
そして、それらの各試料における、回路(導体パターン)視認性、接着強度、染込み発
生の有無について、それぞれ確認・評価した。
それらの各試料の設定およびその結果を、纏めて下記の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例1)
厚さ16.3μmの圧延銅箔を原箔1として用い、水酸化ナトリウム40g/Lと炭酸
ナトリウム20g/Lとの水溶液にて、温度40℃・電流密度5A/dm・処理時間10秒のプロセス条件設定で、陰極電解プロセスによる電解脱脂処理を行った。
続いて、硫酸50g/Lの水溶液に温度25℃で処理時間10秒間浸漬し、酸洗処理を施した。
【0046】
この原箔1に粗化めっき処理を施して、粗化めっき層2を形成した後、その上に、上記の実施の形態で説明した製造方法に従って、Ni−Co合金めっき層3、Znめっき層4、クロメート処理層5、シランカップリング処理層6を形成した。
さらに具体的には、Ni−Co合金めっき層3は、硫酸浴によって形成し、Znめっき層4は、薬品から調合して硫酸浴により形成し、クロメート処理層5は、一般的な市販の3価クロメート処理液を用いて形成した。シランカップリング処理層6は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学製KBM−903)を処理液として用いて形成した。
【0047】
各層の金属皮膜の付着量および組成の測定は、各層の金属皮膜を酸溶解させた後、誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いて行った。すなわち、まず、各試料を40mm×100mmの大きさに切り出し、測定面とは反対側の面(つまり測定面の裏面)全面に確実に粘着テープを密着させた。これは、後述の酸溶解時に測定面のみを溶解させるためである。この試料を適度な大きさに切断し、ICP−AES測定用のビーカに
入れ、酸溶解処理液として、体積比で硝酸1に対して蒸留水10を混合してなる硝酸水溶液((1+10)硝酸とも呼ぶ)を正確に30mL計量し、前述の試料を入れたビーカに投入して、酸溶解処理を行った。
そして、金属皮膜の酸溶解による泡の発生が終了したことを確認した後、試料を取り出して、溶解液中の金属濃度をICP−AESによって測定した。なお、この測定方法は、実施例1に係る試料のみならず、比較例に係る試料も含めて全ての試料について統一して上記のような手法で行った。
【0048】
このようにして形成され、その各金属皮膜の付着量および組成が測定されたプリント配線板用銅箔の各試料の粗化面に、ポリイミドワニス(宇部興産製U−ワニスA)をバーコータによって9milの厚さに塗布し、窒素(N)雰囲気中で乾燥することで硬化させて、これを絶縁性基材とした。実施例1では、乾燥温度は200℃とした。乾燥後に得られた絶縁性基材の厚さは、25μmであった。
【0049】
回路視認性は、上記のようにして形成されたポリイミド樹脂からなる絶縁性基材を介して透かして検知される色を、色彩色差計(コニカミノルタ製CR−400)を用いて測定することによって評価した。その評価手法としては、市販の良好な視認性を有する黒色粗化面を持つ銅箔の測定結果に基づいて、上記のようにして本実施例に係る銅箔をパターン加工して形成された導体パターンの、ポリイミド樹脂からなる絶縁性基材を介して透かして確認される色における彩度c=(a*2+b*21/2が6以下のものを、実質的に黒色に対する色差ΔEabが3以内で「回路視認性良好」であるものと判断した。この回路視認性の判断手法についても、全ての試料について適用した。
【0050】
絶縁性基材との接着強度は、JIS C6481に準拠して、回路幅1mm・剥離角度90°・剥離速度50mm/秒の測定条件設定で、引き剥し実験を行って引き剥し強度(N/mm)を測定し、これをパラメータとして用いて評価した。
【0051】
染込みの有無については、プリント配線板用銅箔に対してウェットエッチング法によりパターン加工を施して、幅1mmの直線回路を形成し、さらにそれを3%硫酸に50℃で1時間に亘って浸漬させた後、金属顕微鏡を用いて、ポリイミド樹脂からなる絶縁性基材を介して透かして観察することによって確認した。
【0052】
実施例1では、Ni−Co合金めっき層3のニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量(以降、これを単に「Ni−Co合金めっき層3の付着量」と呼ぶ)を、21μg/cmとした。また、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を、35質量%とした。また、シランカップリング処理後の乾燥温度は200℃とした。
その結果、この実施例1に係る試料は、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて良好なものであることが確認された。
【0053】
(実施例2)
この実施例2に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、39μg/cmとすると共に、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を40質量%とした。そしてその他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
この実施例2に係る試料でも、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて良好なものであることが確認された。特に、接着強度は、実施例1の場合の1.2N/mmよりも若干高く、1.3N/mmとなった。
【0054】
(実施例3)
この実施例3に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、34μg/cm
とすると共に、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を20質量%とした。そしてその他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
この実施例3に係る試料でも、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて、実施例2の場合と同様の良好なものであることが確認された。
【0055】
(実施例4)
この実施例4に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、34μg/cmとすると共に、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を53質量%とした。そしてその他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
この実施例3に係る試料でも、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて良好なものであることが確認された。特に、接着強度は、実施例1や実施例2の場合の1.2N/mmや1.3N/mmよりもさらに高く、1.5N/mmとなった。
【0056】
(実施例5)
この実施例5に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、34μg/cmとすると共に、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を35質量%とした。そして、シランカップリング処理後の乾燥温度を、低めの(実施の形態で説明した好適な数値範囲の下限値である)150℃とした。その他の設定については実施例1に係る試料と同じ設定とした。
この実施例5に係る試料でも、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて良好なものであることが確認された。但し、接着強度については、実施例1の場合の1.2N/mmよりも若干低く、1.1N/mmとなった。
【0057】
(実施例6)
この実施例6に係る試料では、シランカップリング処理後の乾燥温度を、高めの(実施の形態で説明した好適な数値範囲の上限値である)300℃とした。そして、その他の設定については、実施例5に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この実施例6に係る試料でも、回路視認性、接着強度、染込みの、全てについて良好なものであることが確認された。特に、接着強度については、実施例4の場合の1.5N/mmと同様に、1.5N/mmで、全ての試料中での最高級の強度となった。
この実施例6の結果は、実施例5の結果と併せて考察すると、シランカップリング処理後の乾燥温度は、本発明の実施の形態で説明した好適な数値範囲内で高めの値に設定することで、より高い接着強度を得ることができるということを示しているものと解せられる。
【0058】
(比較例1)
この比較例1に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、敢えて本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲の下限値から逸脱した低い値である15μg/cmとした。Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度については、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲内の高めの値である50質量%とした。そして、その他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この比較例1に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量が少ないため、回路視認性が明らかに低下した。但し、接着強度、染込みについては、良好なものとなった。この結果から、Ni−Co合金めっき層3の付着量が15μg/cmのように、本発明の実施の形態で規定した下限値の20μg/cm未満であると、良好な回路視認性を得ることが困難ないしは不可能になることが確認された。
【0059】
(比較例2)
この比較例2に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、敢えて本発明の
実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲の上限値から逸脱した高い値である50μg/cmとした。また、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度についても、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲の上限値を超えた高い値である55質量%とした。そして、その他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この比較例2に係る試料では、回路視認性は良好なものとなったが、Ni−Co合金めっき層3の付着量が過多であることに起因して、接着強度および染込みの評価を行うこと自体からして不可能となる程に、著しいエッチング残りが発生した。
この結果から、Ni−Co合金めっき層3の付着量が55質量%以上に過多であると、良好な回路視認性を得ることはできるが、著しいエッチング残りが発生するというプリント配線板用銅箔としては致命的な欠陥が生じる虞が極めて高くなるということが確認された。
【0060】
(比較例3)
この比較例3に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量については、実施例3〜6の場合と同様に、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲内の値である34μg/cmとした。
しかし、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度については、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲の下限値から逸脱した極めて低い値(1/2以下)である10質量%とした。そして、その他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この比較例3に係る試料では、回路視認性および染込みについては良好なものとなったが、Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度が極めて低い値であることに起因して、接着強度が0.7N/mmとなり、接着性の点で著しく劣ったものとなった。
この結果から、Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度が低過ぎると、十分な接着強度を得ることが困難ないしは不可能となるということが確認された。
【0061】
(比較例4)
この比較例4に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量については、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲内の値である37μg/cmとした。
しかし、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度については、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲の上限値から逸脱した高い値である70質量%とした。そして、その他は実施例1に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この比較例4に係る試料では、接着強度および回路視認性については良好なものとなった。特に、接着強度は、1.7N/mmであり、全試料中の最高の値となった。しかし、Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度が高過ぎることに起因して、染込みが発生した。
この結果から、Ni−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度が高過ぎると、染込みが発生する虞が高くなるということが確認された。
【0062】
(比較例5)
この比較例5に係る試料では、Ni−Co合金めっき層3の付着量を、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲内の値である35μg/cmとすると共に、そのNi−Co合金めっき層3におけるコバルト(Co)の濃度を、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔における好適な数値範囲内の値である35質量%とした。
しかし、シランカップリング処理後の乾燥温度を、本発明の実施の形態で説明した好適
な数値範囲の下限値よりもさらに低い120℃とした。
その結果、この比較例5に係る試料では、回路視認性および染込みについては良好なものとなったが、接着強度については0.8N/mmとなり、接着性の点で著しく劣ったものとなった。
この結果から、シランカップリング処理後の乾燥温度が、この比較例5の場合の120℃のように、好適な数値範囲の下限値の150℃よりもさらに低いと、接着強度が著しく低下することが確認された。
【0063】
(比較例6)
この比較例6に係る試料では、シランカップリング処理後の乾燥温度を、本発明の実施の形態で説明した好適な数値範囲の上限値よりもさらに高い値である350℃とした。そして、その他の設定については、実施例6に係る試料と同じ設定とした。
その結果、この比較例6に係る試料では、回路視認性については良好なものとなったが、接着強度については、0.5N/mmであり、全試料中で最も接着性の低いものとなった。これは、乾燥温度が350℃と極端に高いために、この比較例6に係る試料のプリント配線板用銅箔の表面が酸化して剥離が多発したことに因るものと考えられる。
また、そのような接着強度の著しい低下に起因して、染込みも発生した。
この結果から、シランカップリング処理後の乾燥温度が、この比較例6の場合の350℃のように、好適な数値範囲の上限値の300℃よりもさらに高いと、接着強度が著しく低下し、またそれと共に染込みも発生しやすくなることが確認された。
【0064】
以上のような実施例1〜6および比較例1〜6に係る各試料を用いた実験結果から、本発明によれば、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満である、Ni−Co合金めっき層3を備えることで、その銅箔をパターン加工して形成された導体パターンの、ポリイミド樹脂からなる絶縁性基材を介して透かして確認される色における彩度c=(a*2+b*21/2が6以下となるようにしたので、そのNi−Co合金めっき層3を備えたプリント配線板用銅箔の表面を、レアメタルであるニッケル(Ni)やコバルト(Co)の使用量を抑えつつ、ポリイミドに代表される絶縁性基材を透かして見たときの黒色との色差がΔEab=3以内であるような、高い視認性を有するものとすることが可能となり、かつプリント配線板の製造工程における染込みや剥離等の発生する虞なく回路(導体パターン)を形成することが可能となることが確認できた。
【0065】
なお、上記の実施の形態および実施例(比較例を含む)では、原箔1の片面にのみ、粗化めっき層2、Ni−Co合金めっき層3、Zn(亜鉛)めっき層4、クロメート処理層5、シランカップリング処理層6を設けた場合について説明したが、特に原箔1の両面について、より強力な防錆効果を付与するためには、その原箔1の両面に、Ni−Co合金めっき層3、Zn(亜鉛)めっき層4、クロメート処理層5を設けることが望ましい。
また、上記の実施の形態および実施例では、本発明に係るプリント配線板用銅箔をポリイミド樹脂からなる絶縁性基材に張り合わせる構成を主眼に置いて説明したが、絶縁性基材の材質としては、ポリイミド樹脂のみには限定されないことは勿論である。その他にも、ポリイミド樹脂と近似した色を有するものであれば、絶縁性基材として適用可能である。
具体的には、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、エポキシ、ナイロン、フッ素系樹脂なども適用可能である。
また、上記の実施の形態および実施例で説明したプリント配線板用銅箔におけるNi−Co合金めっき層3の材質(組成)は、その銅箔をパターン加工して形成された導体パタ
ーンの、ポリイミド樹脂からなる絶縁性基材を介して透かして確認される色における彩度c=(a*2+b*21/2を、6以下とすることが可能な、極めて望ましい典型的な一態様であるから、上記のように規定された材質(組成)のみには限定されないことは勿論である。この他にも、例えば原箔1の合金組成や表面粗度、もしくは絶縁性基材の色や光透過性などのような、種々の条件に対応して適宜にNi−Co合金めっき層3の材質を変更し、その銅箔をパターン加工して形成された導体パターンの、絶縁性基材を介して透かして確認される色における彩度c=(a*2+b*21/2を、6以下となるようにすることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 原箔
2 粗化めっき層
3 Ni−Co合金めっき層
4 Znめっき層
5 クロメート処理層
6 シランカップリング処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、
前記絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の彩度(JIS Z8729に基づく)c=(a*2+b*21/2を6以下と成すNi−Co合金めっき層を備えた
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
請求項1記載のプリント配線板用銅箔において、
前記絶縁性基材を介して光学的に検知される当該プリント配線板用銅箔の表面の色(JIS Z8730に基づく)を黒色との色差ΔEab=3以内と成すNi−Co合金めっき層を備えた
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
請求項1または2記載のプリント配線板用銅箔において、
前記絶縁性基材が、ポリイミド樹脂からなるものである
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、
銅(Cu)または銅基合金からなる原箔の表面上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満である、Ni−Co合金めっき層を備えた
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
請求項4記載のプリント配線板用銅箔において、
前記Ni−Co合金めっき層の上に、さらに、亜鉛(Zn)のめっき皮膜からなるZnめっき層を備えた
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
請求項4または5記載のプリント配線板用銅箔において、
前記Ni−Co合金めっき層または前記Znめっき層の上に、さらに、3価クロメート処理層を備えた
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項7】
プリント配線板における導体パターンを形成するために絶縁性基材の表面上に張り合わされて用いられるプリント配線板用銅箔の製造方法であって、
銅(Cu)または銅基合金からなる原箔の表面上に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合金のめっき皮膜からなり、コバルト(Co)の濃度が20質量%以上55質量%未満であると共に、ニッケル(Ni)とコバルト(Co)との合計の付着量が20μg/cm以上40μg/cm未満である、Ni−Co合金めっき層を形成する工程と、
前記Ni−Co合金めっき層の上に、亜鉛(Zn)のめっき皮膜からなるZnめっき層を形成する工程と、
前記Znめっき層の上に、3価クロメート処理層を形成する工程と、
前記3価クロメート処理層を形成した後、当該3価クロメート処理層の表面にシランカップリング剤の水溶液を塗布し、乾燥雰囲気温度150℃以上300℃以下で加熱乾燥を行って、シランカップリング処理層を形成する工程と
を含むことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−44550(P2011−44550A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191169(P2009−191169)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】