プレキャストコンクリート部材の製造方法とプレキャストコンクリート部材及び案内面成形用型枠
【課題】スリーブ継手と主筋の位置が微妙に食い違っていても、組付け時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えるようにしたプレキャストコンクリート部材を実現する。
【解決手段】スリーブ継手2の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠11を当て付け、スリーブ継手の中程まで主筋3を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にコンクリート10を打設し、コンクリートの硬化後、前記型枠16、11を解体して、スリーブ継手の一端の開口aがコンクリート表面Sより後退して位置し、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面S1を持つ主筋挿入用孔6が形成されたプレキャストコンクリート部材1を製造する。
【解決手段】スリーブ継手2の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠11を当て付け、スリーブ継手の中程まで主筋3を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にコンクリート10を打設し、コンクリートの硬化後、前記型枠16、11を解体して、スリーブ継手の一端の開口aがコンクリート表面Sより後退して位置し、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面S1を持つ主筋挿入用孔6が形成されたプレキャストコンクリート部材1を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材の製造方法と、その方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材並びに前記製造方法に用いるのに好適な案内面成形用型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト方式のスリーブ継手が埋設された従来のプレキャストコンクリート部材では、図9に示すように、スリーブ継手2の一端の開口aが接合されるコンクリート表面Sと面一状に形成されていた。
【0003】
これは、プレキャストコンクリート部材1の製造が、図10に示すように、スリーブ継手2の他端の開口bにスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋3の一端を挿入し、スリーブ継手2の一端の開口縁部をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリート10を打設するといった方法によって行われているためである。
【0004】
より詳しく説明すると、プレキャストコンクリート部材1の製造は、次の手順で行われている。先ず、鋼製のプレキャストコンクリート部材製造用型枠16が組み立てられた状態で、図10に示すように、ゴム製のスリーブセッター13をスリーブ継手2の一端の開口aに挿入し、スリーブセッター13の外端面から突出させてあるボルト14をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の貫通孔に内側から挿通する。
【0005】
次に、前記ボルト14の型枠外方へ突出した部分に長ナット17をねじ込み、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を支えにしてボルト14を引き出す。これにより、ゴム製のスリーブセッター13がボルト14先端の座金18とプレキャストコンクリート部材製造用型枠16とで軸線方向に圧縮される。この軸線方向への圧縮に伴い、ゴム製のスリーブセッター13が直径方向にも弾性変形して拡径するので、スリーブ継手2の内面に強く圧接し、スリーブ継手2が開口縁部をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態に固定される。
【0006】
しかる後、スリーブ継手2の他端の開口bに主筋3の一端を挿入し、この状態で、コンクリート10を打設し、当該コンクリート10の硬化後、長ナット17を外し、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を解体すると共に、スリーブセッター13を撤去して、図9に示すプレキャストコンクリート部材1を製造するのである。図9に示す9は、スリーブ継手2内へのコンクリート10の流入を防止するためのシール材、7は、スリーブ継手2のグラウト注排出口8に連通するグラウト注排出路である。図10に示す19は、グラウト注排出口8に差し込まれたグラウト注排出路形成用型枠である。
【0007】
従来のプレキャストコンクリート部材1では、上記の通り、スリーブ継手2の一端の開口aがプレキャストコンクリート部材1のコンクリート表面Sと面一状であるため、後述する通り、柱梁接合部をプレキャスト化した串刺し工法、殊に、逆串刺し工法において、次のような問題が生じていた。
【0008】
即ち、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串刺し工法では、図11に示すように、柱用のプレキャストコンクリート部材1の上に梁用のプレキャストコンクリート部材4を載置
し、この状態で、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込んで、当該プレキャストコンクリート部材1の下端面から突出している柱用の主筋3を、梁用のプレキャストコンクリート部材4に埋設されたシース管5を経て、下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1に埋設されているスリーブ継手2に挿入し、しかる後、スリーブ継手2及びシース管5へのグラウト作業を行うことになる。
【0009】
この場合、製作誤差や主筋の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置が微妙に食い違うと、即ち、全部の主筋3と全部のスリーブ継手2の位置が夫々合致しないと、何れかの主筋3がコンクリート表面Sやスリーブ継手2に当ることになり、主筋3をスリーブ継手2に挿入できないので、それ以上、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすことができない。
【0010】
ところが、逆串刺し工法では、主筋3の下端部やスリーブ継手2が梁用のプレキャストコンクリート部材4で視覚的に隠蔽された状態となっているので、どの主筋3が当たっているかの目視確認ができない。そのため、枠組足場(図示せず)に載置した油圧ジャッキで、一旦、梁用のプレキャストコンクリート部材4を適当距離持ち上げ、この状態で、どの主筋3が当たっているか確認し、梁用のプレキャストコンクリート部材4と下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1との隙間に鉄筋棒等を差し入れて、当たる主筋3の位置を修正しつつ上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすといった非常に面倒で時間の掛かる作業を強いられるのである。
【0011】
この点、串刺し工法においては、図12に示すように、柱用のプレキャストコンクリート部材1の上に梁用のプレキャストコンクリート部材4を、柱用の主筋3が梁用のプレキャストコンクリート部材4を下から上へ貫通した状態に載置し、梁用のプレキャストコンクリート部材4から上方へ突出した主筋3に、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1に埋設されたスリーブ継手2を嵌合させることになり、主筋位置とスリーブ継手位置に食い違いがあっても、どの主筋3が当たるか目視で確認できる。そして、当たる主筋3があれば、その位置を修正した後、シース管5の内部にグラウトを行って、下階の主筋3位置を確定した後、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込むことができる。
【0012】
従って、主筋位置とスリーブ継手位置の食い違いが、逆串刺し工法の場合ほど問題にはならないが、当たる主筋3の位置を修正しなければならない点では、逆串刺し工法の場合と同じである。また、主筋位置の修正後、シース管5にグラウトを行い、グラウトの硬化後、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込んで、スリーブ継手2へのグラウトを行う必要があり、シース管5に対するグラウト作業とスリーブ継手2に対するグラウト作業を、一連の作業として連続して行うことができないといった問題点もある。
【0013】
尚、特許文献1に見られるように、上下に対面させて接合されるプレキャストコンクリート部材のうち、下方のプレキャスコンクリート部材の両側面に、外広がりに傾斜した案内面を持ったガイド部材を取り付けておき、ガイド部材で案内しつつ上方のプレキャストコンクリート部材を吊り降ろす接合方法も知られている。しかしながら、この方法では、プレキャスコンクリート部材の全体をガイド部材で案内しても、個々の主筋とスリーブ継手の位置ずれには対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−209334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の問題点を踏まえて成されたものであって、その目的とするところは、プレキャストコンクリート部材に埋設されたスリーブ継手と主筋の位置が微妙に食い違っていても、プレキャストコンクリート部材組付け時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えるようにしたプレキャストコンクリート部材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次のとおりである。即ち、請求項1に記載の発明によるプレキャストコンクリート部材の製造方法は、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材を製造するにあたり、スリーブ継手の一端の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠を当て付ける一方、スリーブ継手の他端の開口にスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋の一端を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリートを打設し、当該コンクリートの硬化後、プレキャストコンクリート部材製造用型枠及び案内面成形用型枠を取り外して、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造することを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によるプレキャストコンクリート部材は、請求項1に記載の製造方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材であって、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されていることを特徴としている。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部と、円筒状の板部の先端に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴としている。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材が得られる。
【0021】
このプレキャストコンクリート部材においては、請求項2に記載の通り、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されているので、埋設されたスリーブ継手と主筋の位置が微妙に食い違っていても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えることになる。
【0022】
例えば、このプレキャストコンクリート部材を、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串
刺し工法における柱用のプレキャストコンクリート部材として適用した場合、製作誤差や主筋の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材を吊り下ろすことによって、位置ずれしている主筋の下端部が下階の柱用のプレキャストコンクリート部材における外広がりの円錐状案内面に当接し、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材の重量と、前記円錐状案内面による自動調芯作用とによって、梁用プレキャストコンクリート部材に埋設されたシース管との融通間隙の範囲内で主筋を水平方向へ変位させ、スリーブ継手の開口へと案内し、確実に挿入することができる。
【0023】
また、このような円錐状案内面による自動調芯作用は、スリーブ継手自体を開口縁部が外広がりの円錐状となった形状とすることによっても、発揮させることができるが、このような形状のスリーブ継手では、製造費が高くなるばかりでなく、次のような不都合が生じることになる。即ち、スリーブ継手の開口縁部が太径となるので、隣り合うスリーブ継手の太径部分同士の間に必要寸法の「鉄筋のあき」を確保することによって、主筋同士の間隔が必要以上に広くなって、主筋群に巻き掛けるせんだん補強筋の重量増やコンクリートの重量増を招いたり、スリーブ継手の太径部分でコンクリート被り厚が不足する虞がある。
【0024】
この点、本発明のプレキャストコンクリート部材によれば、スリーブ継手の一端の開口をコンクリート表面より後退して位置させ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔を形成するので、スリーブ継手としては、従来通りの外径の一定したもので足り、上記のような不都合を回避できるのである。
【0025】
また、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えるので、スリーブ継手位置と主筋位置の誤差精度の許容値に余裕ができることになり、プレキャストコンクリート部材の製造も容易である。
【0026】
請求項3に記載の発明や請求項4に記載の発明によれば、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材の製造に用いられているゴム製スリーブセッターのボルトを、案内面成形用型枠における垂直板部中央の貫通孔に挿通し、ナットで案内面成形用型枠をゴム製スリーブセッターの外端面に仮固定しておくことにより、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態に固定でき、案内面成形用型枠とそれを仮固定するナットを付加するだけで、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造でき、請求項1に記載の製造方法を容易に実施できる効果がある。
【0027】
案内面成形用型枠の材質としては、金属、ゴム等、適宜選択できるが、請求項4に記載の発明による案内面成形用型枠は、断面形状が単純であるため、鋼板のプレス加工によって容易に製造できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート部材を示す概略断面図である。
【図2】要部の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る案内面成形用型枠の一部を破断して示す斜視図である。
【図4】本発明に係るプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図5】図4に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図6】図5に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示すプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図8】図7に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図9】従来のプレキャストコンクリート部材を示す要部の拡大断面図である。
【図10】従来のプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図11】逆串刺し工法における問題点を説明する概略断面図である。
【図12】串刺し工法における問題点を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1は本発明に係るプレキャストコンクリート部材の一例を示す。このプレキャストコンクリート部材1は、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串刺し工法における柱用のプレキャストコンクリート部材1として実施されたものである。2はプレキャストコンクリート部材1に埋設されたグラウト方式のスリーブ継手、3は一端がスリーブ継手2にスリーブ継手軸長の半分程度まで挿入され、他端がプレキャストコンクリート部材1から突出した柱用の主筋(これは異形鉄筋、ねじ節鉄筋の何れでもよい。)である。4は梁用のプレキャストコンクリート部材であり、主筋3を挿通するためのシース管5が埋設されている。
【0030】
図2に示すように、スリーブ継手2の一端の開口aは、接合面となるコンクリート表面Sより後退して位置し、且つ、スリーブ継手2の一端の開口aからコンクリート表面Sまでのコンクリート部分には、外広がりの円錐状案内面S1を持った主筋挿入用孔6が形成されている。図2に示す7はスリーブ継手2のグラウト注排出口8に連通するグラウト注排出路、9はスリーブ継手2内へのコンクリート10の流入を防止するためのシール材である。
【0031】
図3の(A)、(B)は、夫々、上記プレキャストコンクリート部材1の製造方法に用いられる案内面成形用型枠11を示す。図3の(A)に示す案内面成形用型枠11は、外広がりの裁頭円錐状の板部11aと、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部11bと、円筒状の板部11bの先端に延設された軸芯に対して垂直な垂直板部11cとで構成され、垂直板部11cの中央にはボルト挿通用の貫通孔12が形成されている。
【0032】
図3の(B)に示す案内面成形用型枠11は、外広がりの裁頭円錐状の板部11aと、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直な垂直板部11cとで構成され、垂直板部11cの中央にはボルト挿通用の貫通孔12が形成されている。
【0033】
次に、上記のプレキャストコンクリート部材1の製造方法を説明する。先ず、図4の(A)、(B)に示すように、ゴム製のスリーブセッター13の外端面から突出させてあるボルト14を案内面成形用型枠11の貫通孔12に挿通し、ボルト14に螺合するナット15で案内面成形用型枠11をスリーブセッター13の外端面に当接した状態に仮固定する。この状態で、スリーブセッター13及び案内面成形用型枠11の円筒状の板部11bをスリーブ継手2の一端の開口aに裁頭円錐状の板部11aが開口aの縁部に当接する深さまで挿入する。
【0034】
しかる後、図5に示すように、スリーブセッター13のボルト14を鋼製のプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の貫通孔に内側から挿通し、次いで、ボルト14の型枠外方へ突出した部分に長ナット17をねじ込み、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を支えにしてボルト14を引き出す。これにより、ゴム製のスリーブセッター13がボルト14先端の座金18とプレキャストコンクリート部材製造用型枠16とで軸線方向に圧縮される。
【0035】
この軸線方向への圧縮に伴い、ゴム製のスリーブセッター13が直径方向にも弾性変形して拡径するので、スリーブ継手2の内面に圧接し、スリーブ継手2が案内面成形用型枠11の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態に固定される。19は、グラウト注排出口8に差し込まれたグラウト注排出路形成用型枠である。
【0036】
この状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部に、プレキャストコンクリート部材用の配筋を行い、スリーブ継手2の他端の開口bに主筋3の一端をスリーブ継手軸長の中程まで挿入する。
【0037】
しかる後、図6に示すように、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部にコンクリート10を打設し、当該コンクリート10の硬化後、長ナット17を外し、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を解体すると共に、スリーブセッター13等を撤去して、図1、図2に示したプレキャストコンクリート部材1を製造するのである。撤去した案内面成形用型枠11やナット15は、スリーブセッター13等と共に転用されることになる。
【0038】
上記の製造方法によれば、スリーブ継手2を型枠内面に固定するためのスリーブセッター13、ボルト14、長ナット17、座金18等の既存の部品に、案内面成形用型枠11とそれを仮固定するナット15を付加するだけの簡単な構成によって、スリーブ継手2の一端の開口aがコンクリート表面Sより後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口aからコンクリート表面Sまでのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面S1を持った主筋挿入用孔6が形成されたプレキャストコンクリート部材1を製造できるのである。
【0039】
このプレキャストコンクリート部材1を、図1に示したように、逆串刺し工法に用いることにより、製作誤差や主筋3の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り下ろすことによって、位置ずれしている主筋3の下端部が下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1における外広がりの円錐状案内面S1に当接し、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1の重量(多くの場合、重量は2トン程度である。)と、前記円錐状案内面S1による自動調芯作用とによって、梁用プレキャストコンクリート部材4に埋設されたシース管5との融通間隙の範囲内で主筋3を水平方向へ変位させ、スリーブ継手2の開口aへと案内し、確実に挿入することができる。
【0040】
従って、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、枠組足場に載置した油圧ジャッキで、一旦、梁用のプレキャストコンクリート部材4を適当距離持ち上げて、どの主筋3が当たっているか確認し、梁用のプレキャストコンクリート部材4と下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1との隙間に鉄筋棒等を差し入れて、当たる主筋3の位置を修正しつつ上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすといった非常に面倒で時間の掛かる作業は、一切不要である。
【0041】
また、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手2と主筋3の挿入作業を容易に行えるので、スリーブ継手位置と主筋位置の誤差精度の許容値に余裕ができることになり、プレキャストコンクリート部材1の製造も容易である。
【0042】
図7、図8は、本発明の他の実施形態を示し、図3の(B)で示した案内面成形用型枠11を用いた点に特徴がある。その他の構成、作用は、先の実施形態と同じであるため、
説明を省略する。
【0043】
尚、案内面成形用型枠11の材質としては、金属、ゴム等、適宜選択できるが、スリーブセッター13を軸線方向に圧縮すると同時に拡径変形させて、スリーブ継手2を固定する際、案内面成形用型枠11の外端がプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に強く押し当てられても容易に変形しない強度が必要であり、鋼板、鋳鉄、硬質ゴム等が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法は、柱用のプレキャストコンクリート部材1の他、梁用のプレキャストコンクリート部材4の製造にも利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 柱用のプレキャストコンクリート部材
2 スリーブ継手
3 主筋
4 梁用のプレキャストコンクリート部材
5 シース管
6 主筋挿入用孔
7 グラウト注排出路
8 グラウト注排出口
9 シール材
10 コンクリート
11 案内面成形用型枠
11a 裁頭円錐状の板部
11b 円筒状の板部
11c 垂直板部
12 貫通孔
13 ゴム製のスリーブセッター
14 ボルト
15 ナット
16 プレキャストコンクリート部材製造用型枠
17 長ナット
18 座金
19 グラウト注排出路形成用型枠
S コンクリート表面
S1 円錐状案内面
a 一端の開口
b 他端の開口
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材の製造方法と、その方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材並びに前記製造方法に用いるのに好適な案内面成形用型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト方式のスリーブ継手が埋設された従来のプレキャストコンクリート部材では、図9に示すように、スリーブ継手2の一端の開口aが接合されるコンクリート表面Sと面一状に形成されていた。
【0003】
これは、プレキャストコンクリート部材1の製造が、図10に示すように、スリーブ継手2の他端の開口bにスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋3の一端を挿入し、スリーブ継手2の一端の開口縁部をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリート10を打設するといった方法によって行われているためである。
【0004】
より詳しく説明すると、プレキャストコンクリート部材1の製造は、次の手順で行われている。先ず、鋼製のプレキャストコンクリート部材製造用型枠16が組み立てられた状態で、図10に示すように、ゴム製のスリーブセッター13をスリーブ継手2の一端の開口aに挿入し、スリーブセッター13の外端面から突出させてあるボルト14をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の貫通孔に内側から挿通する。
【0005】
次に、前記ボルト14の型枠外方へ突出した部分に長ナット17をねじ込み、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を支えにしてボルト14を引き出す。これにより、ゴム製のスリーブセッター13がボルト14先端の座金18とプレキャストコンクリート部材製造用型枠16とで軸線方向に圧縮される。この軸線方向への圧縮に伴い、ゴム製のスリーブセッター13が直径方向にも弾性変形して拡径するので、スリーブ継手2の内面に強く圧接し、スリーブ継手2が開口縁部をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態に固定される。
【0006】
しかる後、スリーブ継手2の他端の開口bに主筋3の一端を挿入し、この状態で、コンクリート10を打設し、当該コンクリート10の硬化後、長ナット17を外し、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を解体すると共に、スリーブセッター13を撤去して、図9に示すプレキャストコンクリート部材1を製造するのである。図9に示す9は、スリーブ継手2内へのコンクリート10の流入を防止するためのシール材、7は、スリーブ継手2のグラウト注排出口8に連通するグラウト注排出路である。図10に示す19は、グラウト注排出口8に差し込まれたグラウト注排出路形成用型枠である。
【0007】
従来のプレキャストコンクリート部材1では、上記の通り、スリーブ継手2の一端の開口aがプレキャストコンクリート部材1のコンクリート表面Sと面一状であるため、後述する通り、柱梁接合部をプレキャスト化した串刺し工法、殊に、逆串刺し工法において、次のような問題が生じていた。
【0008】
即ち、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串刺し工法では、図11に示すように、柱用のプレキャストコンクリート部材1の上に梁用のプレキャストコンクリート部材4を載置
し、この状態で、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込んで、当該プレキャストコンクリート部材1の下端面から突出している柱用の主筋3を、梁用のプレキャストコンクリート部材4に埋設されたシース管5を経て、下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1に埋設されているスリーブ継手2に挿入し、しかる後、スリーブ継手2及びシース管5へのグラウト作業を行うことになる。
【0009】
この場合、製作誤差や主筋の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置が微妙に食い違うと、即ち、全部の主筋3と全部のスリーブ継手2の位置が夫々合致しないと、何れかの主筋3がコンクリート表面Sやスリーブ継手2に当ることになり、主筋3をスリーブ継手2に挿入できないので、それ以上、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすことができない。
【0010】
ところが、逆串刺し工法では、主筋3の下端部やスリーブ継手2が梁用のプレキャストコンクリート部材4で視覚的に隠蔽された状態となっているので、どの主筋3が当たっているかの目視確認ができない。そのため、枠組足場(図示せず)に載置した油圧ジャッキで、一旦、梁用のプレキャストコンクリート部材4を適当距離持ち上げ、この状態で、どの主筋3が当たっているか確認し、梁用のプレキャストコンクリート部材4と下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1との隙間に鉄筋棒等を差し入れて、当たる主筋3の位置を修正しつつ上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすといった非常に面倒で時間の掛かる作業を強いられるのである。
【0011】
この点、串刺し工法においては、図12に示すように、柱用のプレキャストコンクリート部材1の上に梁用のプレキャストコンクリート部材4を、柱用の主筋3が梁用のプレキャストコンクリート部材4を下から上へ貫通した状態に載置し、梁用のプレキャストコンクリート部材4から上方へ突出した主筋3に、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1に埋設されたスリーブ継手2を嵌合させることになり、主筋位置とスリーブ継手位置に食い違いがあっても、どの主筋3が当たるか目視で確認できる。そして、当たる主筋3があれば、その位置を修正した後、シース管5の内部にグラウトを行って、下階の主筋3位置を確定した後、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込むことができる。
【0012】
従って、主筋位置とスリーブ継手位置の食い違いが、逆串刺し工法の場合ほど問題にはならないが、当たる主筋3の位置を修正しなければならない点では、逆串刺し工法の場合と同じである。また、主筋位置の修正後、シース管5にグラウトを行い、グラウトの硬化後、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り込んで、スリーブ継手2へのグラウトを行う必要があり、シース管5に対するグラウト作業とスリーブ継手2に対するグラウト作業を、一連の作業として連続して行うことができないといった問題点もある。
【0013】
尚、特許文献1に見られるように、上下に対面させて接合されるプレキャストコンクリート部材のうち、下方のプレキャスコンクリート部材の両側面に、外広がりに傾斜した案内面を持ったガイド部材を取り付けておき、ガイド部材で案内しつつ上方のプレキャストコンクリート部材を吊り降ろす接合方法も知られている。しかしながら、この方法では、プレキャスコンクリート部材の全体をガイド部材で案内しても、個々の主筋とスリーブ継手の位置ずれには対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−209334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の問題点を踏まえて成されたものであって、その目的とするところは、プレキャストコンクリート部材に埋設されたスリーブ継手と主筋の位置が微妙に食い違っていても、プレキャストコンクリート部材組付け時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えるようにしたプレキャストコンクリート部材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために本発明が講じた技術的手段は、次のとおりである。即ち、請求項1に記載の発明によるプレキャストコンクリート部材の製造方法は、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材を製造するにあたり、スリーブ継手の一端の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠を当て付ける一方、スリーブ継手の他端の開口にスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋の一端を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリートを打設し、当該コンクリートの硬化後、プレキャストコンクリート部材製造用型枠及び案内面成形用型枠を取り外して、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造することを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によるプレキャストコンクリート部材は、請求項1に記載の製造方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材であって、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されていることを特徴としている。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部と、円筒状の板部の先端に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴としている。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材が得られる。
【0021】
このプレキャストコンクリート部材においては、請求項2に記載の通り、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されているので、埋設されたスリーブ継手と主筋の位置が微妙に食い違っていても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えることになる。
【0022】
例えば、このプレキャストコンクリート部材を、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串
刺し工法における柱用のプレキャストコンクリート部材として適用した場合、製作誤差や主筋の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材を吊り下ろすことによって、位置ずれしている主筋の下端部が下階の柱用のプレキャストコンクリート部材における外広がりの円錐状案内面に当接し、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材の重量と、前記円錐状案内面による自動調芯作用とによって、梁用プレキャストコンクリート部材に埋設されたシース管との融通間隙の範囲内で主筋を水平方向へ変位させ、スリーブ継手の開口へと案内し、確実に挿入することができる。
【0023】
また、このような円錐状案内面による自動調芯作用は、スリーブ継手自体を開口縁部が外広がりの円錐状となった形状とすることによっても、発揮させることができるが、このような形状のスリーブ継手では、製造費が高くなるばかりでなく、次のような不都合が生じることになる。即ち、スリーブ継手の開口縁部が太径となるので、隣り合うスリーブ継手の太径部分同士の間に必要寸法の「鉄筋のあき」を確保することによって、主筋同士の間隔が必要以上に広くなって、主筋群に巻き掛けるせんだん補強筋の重量増やコンクリートの重量増を招いたり、スリーブ継手の太径部分でコンクリート被り厚が不足する虞がある。
【0024】
この点、本発明のプレキャストコンクリート部材によれば、スリーブ継手の一端の開口をコンクリート表面より後退して位置させ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔を形成するので、スリーブ継手としては、従来通りの外径の一定したもので足り、上記のような不都合を回避できるのである。
【0025】
また、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手と主筋の挿入作業を容易に行えるので、スリーブ継手位置と主筋位置の誤差精度の許容値に余裕ができることになり、プレキャストコンクリート部材の製造も容易である。
【0026】
請求項3に記載の発明や請求項4に記載の発明によれば、グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材の製造に用いられているゴム製スリーブセッターのボルトを、案内面成形用型枠における垂直板部中央の貫通孔に挿通し、ナットで案内面成形用型枠をゴム製スリーブセッターの外端面に仮固定しておくことにより、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態に固定でき、案内面成形用型枠とそれを仮固定するナットを付加するだけで、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造でき、請求項1に記載の製造方法を容易に実施できる効果がある。
【0027】
案内面成形用型枠の材質としては、金属、ゴム等、適宜選択できるが、請求項4に記載の発明による案内面成形用型枠は、断面形状が単純であるため、鋼板のプレス加工によって容易に製造できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート部材を示す概略断面図である。
【図2】要部の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る案内面成形用型枠の一部を破断して示す斜視図である。
【図4】本発明に係るプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図5】図4に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図6】図5に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示すプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図8】図7に続くプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図9】従来のプレキャストコンクリート部材を示す要部の拡大断面図である。
【図10】従来のプレキャストコンクリート部材の製造方法の説明図である。
【図11】逆串刺し工法における問題点を説明する概略断面図である。
【図12】串刺し工法における問題点を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1において、1は本発明に係るプレキャストコンクリート部材の一例を示す。このプレキャストコンクリート部材1は、柱梁接合部をプレキャスト化した逆串刺し工法における柱用のプレキャストコンクリート部材1として実施されたものである。2はプレキャストコンクリート部材1に埋設されたグラウト方式のスリーブ継手、3は一端がスリーブ継手2にスリーブ継手軸長の半分程度まで挿入され、他端がプレキャストコンクリート部材1から突出した柱用の主筋(これは異形鉄筋、ねじ節鉄筋の何れでもよい。)である。4は梁用のプレキャストコンクリート部材であり、主筋3を挿通するためのシース管5が埋設されている。
【0030】
図2に示すように、スリーブ継手2の一端の開口aは、接合面となるコンクリート表面Sより後退して位置し、且つ、スリーブ継手2の一端の開口aからコンクリート表面Sまでのコンクリート部分には、外広がりの円錐状案内面S1を持った主筋挿入用孔6が形成されている。図2に示す7はスリーブ継手2のグラウト注排出口8に連通するグラウト注排出路、9はスリーブ継手2内へのコンクリート10の流入を防止するためのシール材である。
【0031】
図3の(A)、(B)は、夫々、上記プレキャストコンクリート部材1の製造方法に用いられる案内面成形用型枠11を示す。図3の(A)に示す案内面成形用型枠11は、外広がりの裁頭円錐状の板部11aと、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部11bと、円筒状の板部11bの先端に延設された軸芯に対して垂直な垂直板部11cとで構成され、垂直板部11cの中央にはボルト挿通用の貫通孔12が形成されている。
【0032】
図3の(B)に示す案内面成形用型枠11は、外広がりの裁頭円錐状の板部11aと、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直な垂直板部11cとで構成され、垂直板部11cの中央にはボルト挿通用の貫通孔12が形成されている。
【0033】
次に、上記のプレキャストコンクリート部材1の製造方法を説明する。先ず、図4の(A)、(B)に示すように、ゴム製のスリーブセッター13の外端面から突出させてあるボルト14を案内面成形用型枠11の貫通孔12に挿通し、ボルト14に螺合するナット15で案内面成形用型枠11をスリーブセッター13の外端面に当接した状態に仮固定する。この状態で、スリーブセッター13及び案内面成形用型枠11の円筒状の板部11bをスリーブ継手2の一端の開口aに裁頭円錐状の板部11aが開口aの縁部に当接する深さまで挿入する。
【0034】
しかる後、図5に示すように、スリーブセッター13のボルト14を鋼製のプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の貫通孔に内側から挿通し、次いで、ボルト14の型枠外方へ突出した部分に長ナット17をねじ込み、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を支えにしてボルト14を引き出す。これにより、ゴム製のスリーブセッター13がボルト14先端の座金18とプレキャストコンクリート部材製造用型枠16とで軸線方向に圧縮される。
【0035】
この軸線方向への圧縮に伴い、ゴム製のスリーブセッター13が直径方向にも弾性変形して拡径するので、スリーブ継手2の内面に圧接し、スリーブ継手2が案内面成形用型枠11の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に押し当てた状態に固定される。19は、グラウト注排出口8に差し込まれたグラウト注排出路形成用型枠である。
【0036】
この状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部に、プレキャストコンクリート部材用の配筋を行い、スリーブ継手2の他端の開口bに主筋3の一端をスリーブ継手軸長の中程まで挿入する。
【0037】
しかる後、図6に示すように、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内部にコンクリート10を打設し、当該コンクリート10の硬化後、長ナット17を外し、プレキャストコンクリート部材製造用型枠16を解体すると共に、スリーブセッター13等を撤去して、図1、図2に示したプレキャストコンクリート部材1を製造するのである。撤去した案内面成形用型枠11やナット15は、スリーブセッター13等と共に転用されることになる。
【0038】
上記の製造方法によれば、スリーブ継手2を型枠内面に固定するためのスリーブセッター13、ボルト14、長ナット17、座金18等の既存の部品に、案内面成形用型枠11とそれを仮固定するナット15を付加するだけの簡単な構成によって、スリーブ継手2の一端の開口aがコンクリート表面Sより後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口aからコンクリート表面Sまでのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面S1を持った主筋挿入用孔6が形成されたプレキャストコンクリート部材1を製造できるのである。
【0039】
このプレキャストコンクリート部材1を、図1に示したように、逆串刺し工法に用いることにより、製作誤差や主筋3の変形など、何らかの原因で、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り下ろすことによって、位置ずれしている主筋3の下端部が下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1における外広がりの円錐状案内面S1に当接し、上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1の重量(多くの場合、重量は2トン程度である。)と、前記円錐状案内面S1による自動調芯作用とによって、梁用プレキャストコンクリート部材4に埋設されたシース管5との融通間隙の範囲内で主筋3を水平方向へ変位させ、スリーブ継手2の開口aへと案内し、確実に挿入することができる。
【0040】
従って、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、枠組足場に載置した油圧ジャッキで、一旦、梁用のプレキャストコンクリート部材4を適当距離持ち上げて、どの主筋3が当たっているか確認し、梁用のプレキャストコンクリート部材4と下階の柱用のプレキャストコンクリート部材1との隙間に鉄筋棒等を差し入れて、当たる主筋3の位置を修正しつつ上階の柱用のプレキャストコンクリート部材1を吊り降ろすといった非常に面倒で時間の掛かる作業は、一切不要である。
【0041】
また、主筋位置とスリーブ継手位置に微妙な食い違いがあっても、プレキャストコンクリート部材の接合時におけるスリーブ継手2と主筋3の挿入作業を容易に行えるので、スリーブ継手位置と主筋位置の誤差精度の許容値に余裕ができることになり、プレキャストコンクリート部材1の製造も容易である。
【0042】
図7、図8は、本発明の他の実施形態を示し、図3の(B)で示した案内面成形用型枠11を用いた点に特徴がある。その他の構成、作用は、先の実施形態と同じであるため、
説明を省略する。
【0043】
尚、案内面成形用型枠11の材質としては、金属、ゴム等、適宜選択できるが、スリーブセッター13を軸線方向に圧縮すると同時に拡径変形させて、スリーブ継手2を固定する際、案内面成形用型枠11の外端がプレキャストコンクリート部材製造用型枠16の内面に強く押し当てられても容易に変形しない強度が必要であり、鋼板、鋳鉄、硬質ゴム等が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法は、柱用のプレキャストコンクリート部材1の他、梁用のプレキャストコンクリート部材4の製造にも利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 柱用のプレキャストコンクリート部材
2 スリーブ継手
3 主筋
4 梁用のプレキャストコンクリート部材
5 シース管
6 主筋挿入用孔
7 グラウト注排出路
8 グラウト注排出口
9 シール材
10 コンクリート
11 案内面成形用型枠
11a 裁頭円錐状の板部
11b 円筒状の板部
11c 垂直板部
12 貫通孔
13 ゴム製のスリーブセッター
14 ボルト
15 ナット
16 プレキャストコンクリート部材製造用型枠
17 長ナット
18 座金
19 グラウト注排出路形成用型枠
S コンクリート表面
S1 円錐状案内面
a 一端の開口
b 他端の開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材を製造するにあたり、スリーブ継手の一端の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠を当て付ける一方、スリーブ継手の他端の開口にスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋の一端を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリートを打設し、当該コンクリートの硬化後、プレキャストコンクリート部材製造用型枠及び案内面成形用型枠を取り外して、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材であって、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部と、円筒状の板部の先端に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴とする案内面成形用型枠。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴とする案内面成形用型枠。
【請求項1】
グラウト方式のスリーブ継手が埋設されたプレキャストコンクリート部材を製造するにあたり、スリーブ継手の一端の開口縁部に外広がりの裁頭円錐状の外周面を持った案内面成形用型枠を当て付ける一方、スリーブ継手の他端の開口にスリーブ継手軸長の半分程度まで主筋の一端を挿入し、案内面成形用型枠の外端をプレキャストコンクリート部材製造用型枠の内面に押し当てた状態で、プレキャストコンクリート部材製造用型枠の内部にプレキャストコンクリート部材用のコンクリートを打設し、当該コンクリートの硬化後、プレキャストコンクリート部材製造用型枠及び案内面成形用型枠を取り外して、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されたプレキャストコンクリート部材を製造することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造されたプレキャストコンクリート部材であって、スリーブ継手の一端の開口がコンクリート表面より後退して位置し、且つ、スリーブ継手の一端の開口からコンクリート表面までのコンクリート部分に外広がりの円錐状案内面を持った主筋挿入用孔が形成されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部から軸方向に延設された円筒状の板部と、円筒状の板部の先端に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴とする案内面成形用型枠。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法に用いる案内面成形用型枠であって、外広がりの裁頭円錐状の板部と、その小径側端部に延設された軸芯に対して垂直で且つ中央にボルト挿通用の貫通孔が形成された垂直板部とで構成されていることを特徴とする案内面成形用型枠。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−17208(P2011−17208A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163362(P2009−163362)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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