説明

プレート積層体の製造方法及び板材の積層構造並びに板材

【課題】連結片の切断時においてプレートの変形を抑制する。
【解決手段】流路ユニットを製造するには、板材101〜106となる金属製の6枚の平板にエッチングを施して、フレーム111、複数の連結片115、所定パターンがそれぞれ形成された複数のプレート11〜16を各平板に形成する。そして、6枚の平板にさらにハーフエッチングを施して、フレーム111の一対の長辺部112aに4本の溝131〜134を形成し、板材101〜106を形成する。次に、板材101〜106を位置決め積層状態で積層された板材101〜106を所定温度まで加熱するとともに積層方向に加圧し互いに拡散接合する。次に、一対の長辺部112aを曲げて複数の連結片115を切断し、フレーム111からプレート11〜16の積層体を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプレートが互いに接合されたプレート積層体の製造方法、及び、複数のプレートを有する板材の積層構造、並びに、板材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧電式インクジェットプリンタヘッドのキャビティユニット(流路ユニット)を構成するためのリードフレーム(板材)の構造について記載されている。キャビティユニットにおいては、複数のノズルを有するノズルプレート、ノズル毎の圧力室を有するベースプレート、インク供給源と各圧力室とをつなぐ共通インク室としてのマニホールド室を有するマニホールドプレートなどが積層固定されることで形成されている。
【0003】
キャビティユニットを製造するには、まず、リードフレームを複数枚準備する。リードフレームは、略矩形状のフレーム枠(枠体)と、フレーム枠の内周側に並設された同一種類の複数のプレートと、複数のプレートとフレーム枠とをつなぐブリッジ片(連結片)とを一体的に形成してなるものである。なお、リードフレームの複数のプレートには、インク流路や圧力室等のインク流路パターンがエッチングにて形成されている。
【0004】
これら複数種類のリードフレームを準備した後、複数のリードフレームを位置合わせしつつ積層し、プレート同士を接着剤を介して固定する。そして、複数のプレート同士が積層固定されたプレート積層体と各リードフレームのフレーム枠とを繋ぐ複数のブリッジ片を、ポンチなどを用いて押圧又は打ち抜く。こうして、プレート積層体をフレーム枠から切り離すことでキャビティユニットが製造される。
【0005】
【特許文献1】特開2005−28641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の技術においては、ブリッジ片のそれぞれにポンチなどを用いて押圧又は打ち抜き力を加えなければならないので、その作業が非常に繁雑となる。しかし、プレート同士が接着剤で接着されており、フレーム枠同士は接着されていないため、ブリッジ片の折曲部分の曲率が小さくなるような状態でブリッジ片を切断するようにフレーム枠をそれぞれプレートに向かう方向に曲げてリードフレーム毎に複数のブリッジ片を切断することができる。ところで、複数のリードフレームを位置合わせしつつ積層した状態で拡散接合した場合では、積層状態で互いに接触する箇所が接合される。つまり、リードフレーム同士の接合箇所を接着剤を塗布した箇所だけとするように選択するのが困難となり、リードフレームのプレート同士及びフレーム枠同士が接合される。このようにプレート同士のみならずフレーム枠同士も拡散接合されると、複数のブリッジ片を切断するときに接合されたフレーム枠を一斉に曲げることになる。フレーム枠を一斉に曲げると、ブリッジ片の折曲部分の曲率が大きくなっていまい、ブリッジ片の変形がプレートにまで及びプレートも変形してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、連結片を切断するために枠体をプレートに向かう方向に曲げてもプレートの変形を抑制することが可能なプレート積層体の製造方法及び板材の積層構造並びに板材を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明のプレート積層体の製造方法は、複数枚のプレートが積層状態で接合されたプレート積層体を形成するプレート積層体の製造方法において、互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレート、前記複数枚のプレートを取り囲む枠体、及び、前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを有する金属製の板材を複数枚形成する板材形成工程と、前記複数枚の板材を積層するとともに互いに接触する前記プレートが位置合わせされた位置決め積層状態で前記複数枚の板材を拡散接合する接合工程と、前記複数の連結片を切断して前記プレートの積層体を前記枠体から分離する分離工程とを備えている。そして、前記板材形成工程は、前記枠体にその枠体を変形しやすくするための凹部又は孔を形成する枠体加工工程を含む。
【0009】
これによると、接合工程において、複数枚の板材を位置決め積層状態にしつつ拡散接合で互いに接合しても、枠体には凹部又は孔が形成されているので、複数の板材の枠体は、互いに接合されないか、又はそれらの接合力がプレートにおける接合力よりも弱くなる。枠体同士が接合されていなければ、各板材の枠体を個々に折り曲げることが可能であり、枠体同士が接合されていてもそれらの接合力が弱ければ、連結片が切断されるように折り曲げたとき、積層された複数枚の板材は枠体の部分においてスリップする。したがって、連結片を折り曲げたときに、複数の板材の枠体は互いに積層された、他の枠体に拘束されないで移動するので、各連結片は曲率を小さいものとすることができる。この結果、分離工程において、複数のプレートの変形を抑制することができる。なお、枠体加工工程は、複数枚の板材の少なくとも1枚について行われればよい。
【0010】
本発明において、前記板材はその長辺が前記一方向に沿った略矩形形状であり、前記枠体は、前記一方向に沿って延在する一対の長手枠部と前記一方向と直交する方向に延在する一対の短手枠部とからなり、前記複数の連結片は、各々が前記長手枠部と前記プレートとの間に設けられて、前記一方向に配列しており、前記枠体加工工程において、前記凹部又は孔が、前記一方向に延在するように前記長手枠部に形成されることが好ましい。これにより、凹部又は孔が連結片に対応した箇所にのみ形成されるので、枠体加工工程を効率よく行うことができる。
【0011】
また、このとき、前記枠体加工工程において、前記凹部が前記一方向に延在する1又は複数本の溝として形成されていてもよい。これにより、溝の加工が容易になるとともに、積層された板材の枠体部分における接合面積を小さくし、複数の連結片の曲率がより小さくなる。
【0012】
また、このとき、前記枠体加工工程において、前記溝は前記複数枚の板材の前記長手枠部にそれぞれ形成されるとともに、前記位置決め積層状態のときに平面視で互いに一致する位置に形成されていてもよい。これにより、積層された板材の枠体部分における接合面積をさらに小さくし、複数の連結片の曲率がより一層小さくなる。
【0013】
また、このとき、前記枠体加工工程において、前記複数枚の板材の各々に対し前記位置決め積層状態のときに平面視で互いに一致する位置に形成される前記溝は、前記位置決め積層状態のときに同じ側となる面にそれぞれ形成されていてもよい。これにより、積層された板材の枠体部分における接合面積をさらに小さくし、連結片の曲率をさらに小さくすることができる。
【0014】
また、このとき、前記枠体加工工程において、前記長手枠部には複数本の溝が形成され、これら複数本の溝は前記長手枠部の幅方向に関して交互に異なる面に形成されていてもよい。これによると、長手枠部をプレート積層体の最外層にあるプレートに向かうように折り曲げたときに、隣接する長手枠部に対してスリップする方向への力がかかりやすくなり、隣接する枠体により拘束されにくくなる。したがって、連結片は曲率をさらに小さいものとすることができる。
【0015】
また、このとき、前記枠体加工工程において、前記長手枠部の幅方向に関して隣接する互いに異なる面に形成される2本の溝は、平面視で部分的に重なり合うように形成されていてもよい。これにより、各板材の長手枠部どうしが互いに接合されなくなる。そのため、長手枠部ごとに曲げることが可能となり、複数の連結片の曲率が大幅に小さくなる。したがって、複数の連結片の切断時に、プレートがほとんど変形しない。
【0016】
また、本発明において、前記板材形成工程は、前記連結片の厚みを前記プレート及び前記枠体よりも薄くする連結片減肉工程を含むことが好ましい。これにより、連結片を切断しやすくなり、プレートがより変形しにくくなる。
【0017】
本発明の板材の積層構造は、互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレート、前記複数枚のプレートを取り囲む枠体、及び、前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを有する金属製の板材が複数枚積層された状態で互いに拡散接合されたものであり、前記連結片を切断することによってプレートが積層された積層体を得ることができる板材の積層構造において、前記板材の前記枠体には、積層方向に隣接する前記枠体との接合面積を小さくするための凹部又は孔が形成されている。
【0018】
これによると、複数枚の板材が拡散接合で互いに接合していても、積層方向に隣接する枠体との接合面積を小さくするための凹部又は孔が形成されているので、複数の連結片を切断するように枠体を曲げたときに、複数の連結片の曲率が小さくなる。したがって、複数の連結片の切断時に、複数のプレートの変形を抑制することができる。
【0019】
本発明の板材は、互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレートと、前記複数枚のプレートを取り囲む枠体と、前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを含むものであって、これらを複数枚積層した状態で拡散接合して前記連結片を切断することによって前記プレートの積層体を得るための金属製の板材である。そして、前記板材の前記枠体には、積層方向に隣接する前記枠体との接合面積を小さくするための凹部又は孔が形成されている。
【0020】
これにより、複数枚のプレートを積層状態で接合し、連結片を切断するように枠体を曲げたときに、連結片の曲率が小さくなる。したがって、連結片の切断時に、プレートの変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
まず、本発明の第1実施形態によるプレート積層体の製造方法により製造された流路ユニット(プレート積層体)を含むインクジェットヘッドについて説明する。図1は、本発明に係る第1実施形態のプレート積層体を含むインクジェットヘッドの分解斜視図である。なお、図中の2点鎖線で示された領域は、アクチュエータユニット20が配置される領域である。インクジェットヘッド6は、用紙上にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンタに適用されるものである。図1に示すように、インクジェットヘッド6は、インクを吐出するヘッド本体21と、このヘッド本体21に駆動信号を供給するフレキシブルプリント回路(FPC:Flexible Printed Circuit)40とを含んでいる。このうち、ヘッド本体21は、内部にインク流路が形成された流路ユニット10と、この流路ユニット10内のインクに吐出エネルギーを付与する圧電型のアクチュエータユニット20とで構成されている。FPC40は、一端部側がアクチュエータユニット20の上面20aに電気的に接続され、他端部側がインクジェットプリンタの制御部(図示せず)に接続されている。これにより、制御部からFPC40を介してアクチュエータユニット20に駆動信号(駆動電圧)が供給されると、ヘッド本体21のインク吐出面6a(図4参照)からインクが吐出されることになる。流路ユニット10の下面、すなわちインク吐出面6aには、ノズル35が多数開口されており、各ノズル35から下向きにインクが吐出される。
【0023】
図2は、流路ユニット10の分解斜視図を、図3は流路ユニット10の部分拡大斜視図を、それぞれ示している。図4は、図1に示すIV−IV線に沿った断面図である。流路ユニット10は、図2に示すように、ノズルプレート11、ダンパプレート12、2枚のマニホールドプレート13,14、スペーサプレート15、ベースプレート16の計6枚の薄い矩形平板状の金属板を積層し、互いに拡散接合した構造とされている。本実施形態において、各プレート11〜16は、ステンレス鋼からなるが他の金属で構成されていてもよい。
【0024】
ノズルプレート11には、図2及び図3に示すように、インクを吐出するためのノズル35が所定の間隔をおいて多数形成されている。これらノズル35は、ノズルプレート11における長手方向に沿って千鳥状配列で2列に穿設されている。
【0025】
図3に示すように、ベースプレート16には、複数の圧力室36がベースプレート16の長手方向に沿って千鳥状配列で2列に穿設されている。各圧力室36は、矩形の平面形状を有し、その長手方向がベースプレート16の長手方向に対して直交するように形成されている。また、ベースプレート16のスペーサプレート15に面する側には、それぞれの圧力室36と接続された絞り部36dと、この絞り部36dと接続された連絡孔36bとが形成されている。ベースプレート16の短手方向中央側に存在する各圧力室36の端部36aは、スペーサプレート15、2枚のマニホールドプレート13,14、ダンパプレート12にそれぞれ千鳥状配列で形成された貫通孔37a,37b,37c,37dを介してノズル35に連通している。なお、ベースプレート16のアクチュエータユニット20と対向する面には、図2に示すように、長手方向に沿って4つの凹溝17が形成されている。これらの凹溝17は、アクチュエータユニット20側に開放し、図4に示すように、圧力室36の形成領域外において、アクチュエータユニット20の両側の縁部とそれぞれ対向して配設されている。
【0026】
図3に示すように、2枚のマニホールドプレートのうちスペーサプレート15に近い側のマニホールドプレート14には、2つのインク室半部14aが貫通状に形成されている。そして、このインク室半部14aの側壁には、連絡孔36bに対応して接続部45が形成されている。一方、ダンパプレート12側のマニホールドプレート13には、二つのインク室半部13aが、他側のマニホールドプレート14に向けてのみ開放するように凹設されている。そして、図4に示すように、2枚のマニホールドプレート13,14とスペーサプレート15の3枚のプレートが積層された状態では、貫通孔37a〜37dの列の両側に1つずつ、2つの共通インク室7が形成されている。
【0027】
図3に示すように、ダンパプレート12には、ダンパ溝12cが凹設されており、このダンパ溝12cはマニホールドプレート13側に向けてのみ開放するように形成され、その平面視での位置および平面形状は共通インク室7と一致している。図2に戻って、ベースプレート16には2つのインク供給孔39aが形成され、スペーサプレート15にも2つのインク供給孔39bが形成されている。ベースプレート16とスペーサプレート15とを接合することで、対応するインク供給孔39a,39bが互いに接続され、2つの共通インク室7に対応するインク供給口39が形成されている。さらに、スペーサプレート15の短手方向両端部側には連絡孔36bと接続部45とを連通させる連通孔38が形成されている。
【0028】
これら6枚のプレート11〜16が積層してなる流路ユニット10には、共通インク室7から、接続部45、連通孔38、連絡孔36b、絞り部36d、圧力室36を経て、連通孔37a〜37dを介してノズル35に至る複数の個別インク流路が形成されている。そして、各個別インク流路において、アクチュエータユニット20により圧力室36内のインクに吐出エネルギーが与えられることで、貫通孔37a〜37dを介してノズル35からインクが吐出される。
【0029】
次に、アクチュエータユニット20について説明する。図5は、図1に示すアクチュエータユニットの分解拡大斜視図である。図4、図5に示すように、アクチュエータユニット20は、2種類の圧電シート21,22と1枚の絶縁シート23とを積層した構造を有する。一方の圧電シート21の上面には、流路ユニット10における圧力室36毎に対応した細幅の複数の駆動電極24が、千鳥状配列で設けられている。図5に示すように、各駆動電極24の一端部24aは、アクチュエータユニット20の側面に露出するように形成されている。
【0030】
他方の圧電シート22の上面には、複数の圧力室36に跨って共通のコモン電極25が設けられている。コモン電極25の一端部25aも、駆動電極24の一端部24aと同様に、アクチュエータユニット20の側面に露出するように形成されている。なお、圧電シート21,22は図示のように1枚ずつ交互に積層するだけでなく、交互に複数枚積層することもできる。そして、各駆動電極24とコモン電極25とに挟まれる圧電シート22におけるそれぞれの領域は、圧力室36ごとに対応した圧力発生部となる。この圧力発生部は、駆動電極24とコモン電極25との間に電圧が加えられると、圧電シートの有する電歪効果に基づいて変位する。ここでは、電界の強度に応じて、圧力発生部が主に積層方向に伸縮する。
【0031】
最上段の絶縁シート23の上面(すなわち、アクチュエータユニット20の上面20a)には、駆動電極24の各々に対応する複数の表面電極26が2列に配列されており、それら表面電極列の列方向に沿った一方の外側にコモン電極25に対応する表面電極27が設けられている。
【0032】
また、アクチュエータユニット20の長手方向に沿う両側面には、各駆動電極24の一端部24aに凹部30が、コモン電極25の一端部25aに凹部31が、それぞれ積層方向に延出されるように設けられている。各凹部30内には、各駆動電極24と各表面電極26とを電気的に接続する側面電極26aが形成され、凹部31内には、コモン電極25と表面電極27とを電気的に接続する側面電極27aが形成されている。なお、符号28及び29の電極は、捨てパターンの電極である。
【0033】
このような構成の流路ユニット10とアクチュエータユニット20とは、圧力室36と駆動電極24とがそれぞれ対向するように積層して固定されている。このとき、アクチュエータユニット20は、図4に示すように、側面電極26a,27aの下端部がベースプレート16の凹溝17と対向する位置に配置され、流路ユニット10と離隔されている。さらに、アクチュエータユニット20の上面20aには、FPC40が積層されており、その配線パターン(図示せず)が対応する各表面電極26,27に半田などで電気的に接合されている。これにより、FPC40を介して、駆動電極24に対して駆動信号を供給可能となり、コモン電極25に対して接地電位が供給可能となる。
【0034】
そして、任意の駆動電極24とコモン電極25との間に駆動電圧(駆動信号)が印加されると、この駆動電極24の部分(即ち圧力発生部)に積層方向の歪みが発生し、この駆動電極24に対応する圧力室36内のインクに吐出エネルギーが与えられる。流路ユニット10においては、インク供給口39から共通インク室7内に流入したインクが、接続部45、連通孔38、絞り部36dを経由して、各圧力室36に供給されている。そして、各圧力室36のインクは吐出エネルギーにより、圧力室36から貫通孔37a〜37dを介してノズル35から吐出される。これにより、用紙への所定の印字が行われる。
【0035】
次に、ヘッド本体21の流路ユニット10を製造する過程において、形成される6枚の板材101〜106の積層構造100について以下に説明する。図6は、本発明の第1実施形態による板材の積層構造の分解斜視図である。図7は、本発明の第1実施形態による板材の積層構造の平面図である。図8は、図7に示すVIII−VIII線における断面図である。図6に示すように、所定パターンが形成されたノズルプレート11、ダンパプレート12、マニホールドプレート13,14、スペーサプレート15、ベースプレート16は、それぞれ板材101〜106に4枚ずつ形成されている。
【0036】
各板材101〜106は、各プレート11〜16の長手方向と直交する方向に長手方向を有する略矩形枠状のフレーム(枠部)111と、フレーム111の内側において同一種類の4枚のプレート11〜16がフレーム111の長手方向に沿って配列されてなるプレート組121〜126と、各プレート組121〜126とフレーム111とそれぞれ一体的に連結する微小幅の複数の連結片115とを備えている。
【0037】
図7に示すように、各板材101〜106のフレーム111は、フレーム111の長手方向に沿って延在した図中上下にある一対の長辺部(長手枠部)112aと、フレーム111の短手方向に沿って延在した図中左右にある一対の短辺部(短手枠部)112bとを有している。一対の長辺部112aのうち下方の長辺部112aには、位置決め用のピン(不図示)を差し込むための位置決め孔113a,113bが形成されている。なお、位置決め孔113aは平面形状が円状となっており、位置決め孔113bは平面形状が楕円状となっている。
【0038】
また、一対の長辺部112aには、図6〜図8に示すように、フレーム111の長手方向に沿って延在した4本の溝(凹部)131〜134がそれぞれ形成されている。図8に示すように、4本の溝131〜134のうち、2本の溝131,133は長辺部112aの上面に形成されており、2本の溝132,134は長辺部112aの下面に形成されている。そして、4本の溝131〜134が、長辺部112aの幅方向(板材の短手方向)に沿って交互に上方及び下方を向いて開くように配置されている。また、4本の溝131〜134は、平面視において、長辺部112aの幅方向に関して隣接する他の溝131〜134と部分的に重なっている。さらに、各長辺部112aに形成された4本の溝131〜134は、各板材101〜106を位置合わせして積層すると、平面視においてそれぞれ一致するようになっており、この一致する溝131〜134が同じ方向を向いて開いている。この構成より、図8に示すように、各板材101〜106を積層したときに、長辺部112aの溝131〜134が形成されていない面がちょうど溝131〜134と対向するので、隣接する板材101〜106同士が長辺部112aにおいて接触しない。すなわち、長辺部112aどうしが互いに固定されないようになっている。
【0039】
図6〜図8に示すように、プレート組121〜126中の各プレートが、4つの連結片115によってそれぞれ一対の長辺部112aと連結されている。より具体的には、1つのプレートの長手方向の両端部と各端部に隣接した長辺部112aとがそれぞれ2つの連結片115によって連結されている。これら連結片115の全域には、図8に示すように、下面側において欠設領域116が形成されている。つまり、連結片115の厚みが、長辺部112aの最大厚み(上面と下面との距離)及びプレートの厚みよりも小さくなっている。これにより、隣接する板材101〜106同士は連結片115において接触しない。なお、欠設領域116の深さは、溝131〜134の深さと同じである。また、平面視において、長辺部112aの幅方向に関して連結片115の欠設領域116と溝131とが部分的に重なっている。つまり、6枚の板材101〜106を積層したときに、隣接する板材101〜106同士は連結片115と長辺部112aとの境界において接触しない。これにより、各板材101〜106のプレート組121〜126及び短辺部112b同士しか互いに接触しない。このような6枚の板材101〜106を互いに積層して各板材101〜106におけるプレート組121〜124及び短辺部112b同士を拡散接合することで、板材101〜106の積層構造100が形成される。
【0040】
続いて、ヘッド本体21の流路ユニット10の製造方法について以下に説明する。図9は、流路ユニットの製造工程図である。図10は、板材の連結片を切断するときの状況図である。図9に示すように、まず、ステップ1(S1)において、板材101〜106となる6枚のステンレス鋼製の平板を準備する。次に、ステップ2(S2)において、位置決め孔113a,113bが形成されたフレーム111、複数の連結片115、所定パターン(圧力室36やノズル35など)がそれぞれ形成されプレート組121〜126を構成するプレート11〜16が形成されるように各平板にフォトレジストをマスクとしたエッチング加工を施す。そして、ステップ3(S3)において、形成していたフォトレジストを除去した後、ステップ2において形成された一対の長辺部112a及び複数の連結片115に、溝131〜134及び欠設領域116が形成されるように、一対の長辺部112aの溝131〜134となる箇所を除いた領域及び連結片115の下面を除いた領域に再度フォトレジストを平板に形成し、ハーフエッチング加工を施す(枠体加工工程,連結片減肉工程)。このとき、溝131〜134が、長辺部112aの長手方向に沿って延在するように、且つ、長辺部112aの幅方向に関して交互に上下方向に向かって開くように長辺部112aに形成される。さらに、複数の溝131〜134が、上述したように板材101〜106が積層されたときに、平面視において一致する位置であって長辺部112aの幅方向に関して隣接する溝同士が部分的に重なる位置、且つ、各長辺部112aにおいて一致する複数の溝131〜134同士が長辺部112aの同じ側の面にそれぞれ形成される。また、このとき、欠設領域116が連結片115の下面側であって、平面視において欠設領域116と溝131が部分的に重なる位置に形成される。このように、連結片115がプレート11〜16の厚みよりも小さくなることで、後述する切断時に切断しやすくなり、プレート11〜16が変形しにくくなる。こうして、6枚の板材101〜106が形成される(板材形成工程)。
【0041】
次に、ステップ4において、各板材101〜106に形成された溝131〜134が平面視において一致するように、各板材101〜106に形成された位置決め孔113a,113bに位置決め用のピンを挿入して位置決めしつつ、図6に示すような板材101〜106の並びで互いに積層する。そして、位置決め状態で積層された板材101〜106(積層体)を所定温度まで加熱するとともに、積層体の上下面を上下一対のプレート状の治具で挟み込み、積層方向(板材の上下面と直交する方向)に加圧する。本実施形態においては、積層体を構成する6枚の板材101〜106が所定温度に達すると同時に加圧しているが、積層体を予め所定温度まで加熱しておいてから加圧してもよいし、積層体を加圧した状態で所定温度になるまで加熱してもよい。こうして、6枚の板材101〜106を互いに拡散接合する(接合工程)。このとき、各板材101〜106の長辺部112a同士及び連結片115同士は上述したように互いに対向する面が接触していないので拡散接合されない。すなわち、各板材101〜106のプレート11〜16及び短辺部112bの互いに対向する面同士だけが拡散接合される。
【0042】
次に、ステップ5(S5)において、図10に示すように、板材106の長辺部112aの外側端部(長辺部112aにおいて最も連結片115から離れた端部)付近を力の作用点として、板材106の長辺部112aが板材105の長辺部112aから離れる方向(板材106の長辺部112aの上面とベースプレート16の上面とが成す角度が小さくなる方向であって長辺部112aがベースプレート16に近づく方向)に板材106を持ち上げる。これによって、板材106が連結片115において曲がる。この曲げを1回〜数回行うことによって板材106の連結片115を破断させ、板材106を連結片115において切断する。このような切断処理を板材106、板材105、板材104、板材103、板材102、板材101の順番で次々と行う。このとき、長辺部112aに4つの溝131〜134が形成されていて隣接する板材101〜106同士が長辺部112a及び連結片115において接合されていないために、各切断処理において、所定条件(例えば長辺部112aの外側端部近傍の上面とベースプレート16の上面とが成す角度が90°となるという条件)を満たすまで長辺部112a及び連結片115を曲げるのに要する力は、隣接する板材101〜106同士が長辺部112a及び連結片115において接合されている場合に比べて小さくなる。したがって、大きな力を要することなく、折曲作業を容易に行うことができる。こうして、各フレーム111とプレート11〜16が接合された積層体とを分離することで、流路ユニット10の製造が完了する。なお、各板材101〜106には同一種類の4枚のプレート11〜16からなるプレート組121〜126が形成されているので、一度に4つの流路ユニット10が形成される。
【0043】
本実施形態においては、ステップ5で各板材101〜106を連結片115のみにおいて切断しているが、以下のような手順で各板材101〜106を連結片115とは異なる場所において切断してから連結片115において切断してもよい。まず、板材101の長辺部112aの外側端部をノズルプレート11の下面に近づく方向に曲げてその長辺部112aの溝133が形成された箇所で切断し、これを各板材102〜106も同様に行う。そして、板材106の切断箇所をベースプレート16の上面に近づく方向に曲げてその長辺部112aの溝132が形成された箇所で切断し、これを各板材101〜105も同様に行う。つまり、各板材101〜106の長辺部112aを外側から順に溝131〜133が形成された箇所で切断する。そして、最終的に各長辺部112aを連結片115で切断することで、本実施形態と同様に流路ユニット10を製造することができる。この場合においても、連結片115の切断時における曲率が同様に小さくなる。
【0044】
以上のように、本実施形態による流路ユニット10の製造方法によると、6枚の板材101〜106を位置決め積層状態において拡散接合で互いに接合しても、長辺部112aには溝131〜134が形成されているので、各板材101〜106の長辺部112aが固着されていない状態となる。このように、各板材101〜106の長辺部112aが固着されていないことによって、固着された状態の6枚の板材101〜106を一斉に折り曲げるのではなく、1枚ずつ分離して折り曲げることができるので、連結片115における折曲部分の曲率を小さくすることができる。したがって、複数のプレート11〜16が、連結片115の切断時において変形するのを抑制することができる。
【0045】
また、長辺部112aの幅方向に関して隣接する溝131〜134は、平面視において、部分的に重なり合っているので、各長辺部112a同士が完全に拡散接合されなくなる。そのため、各板材101〜106の長辺部112a毎に曲げることが可能となり、複数の連結片115の曲率が大幅に小さくなる。したがって、複数の連結片115の切断時に、プレート11〜16がほとんど変形しない。
【0046】
続いて、第2実施形態による板材の積層構造について以下に説明する。図11は、本発明の第2実施形態による板材の積層構造の部分断面図である。なお、本実施形態の板材の積層構造において、第1実施形態と同様なものに関しては、同符号で示し説明を省略する。図11に示すように、板材の積層構造200を構成する6枚の板材201〜206は、第1実施形態の6枚の板材101〜106とほぼ同様であるが、長辺部212aにおいて形成される複数の溝231〜233の形態が異なる。つまり、各板材201〜206の一対の長辺部212aには、図11に示すように、長辺部212aの長手方向(図11中紙面垂直方向)に沿って延在した3本の溝231〜233がそれぞれ形成されている。各長辺部212aにおいて、3本の溝231〜233は、長辺部212aの幅方向に関して交互に上方及び下方を向いて開くように形成されている。また、3本の溝231〜233は、長辺部212aの幅方向に関して隣接する溝231〜233同士が平面視において重ならずわずかに離れている。さらに、各長辺部212aに形成された3本の溝231〜233は、各板材201〜206を位置合わせして積層すると、平面視においてそれぞれ一致するようになっており、各板材201〜206の長辺部212aの溝231〜233が同じ方向を向いて開いている。このような板材201〜206を積層したとき、長辺部212aの溝231〜233が形成されていない領域同士が接触した状態となる。そして、拡散接合することで、長辺部212aの部分的に接触した面同士、短辺部及びプレート同士が接合された板材201〜206の積層構造200が形成される。
【0047】
上述した板材201〜206は、第1実施形態の板材101〜106とほぼ同様な製造工程で製造される。なお、溝231〜233は上述のように第1実施形態とは配置及び形状が若干異なっているため、それに対応したフォトレジストをマスクとしたハーフエッチング加工で形成される。そして、形成された各板材201〜206が位置合わせした状態で、それら板材201〜206の積層体を所定温度に加熱し、上述のように上下一対のプレート状の治具で挟み込んで加圧する。このとき、各長辺部212aは互いに部分的に接触しているので接触面同士が拡散接合される。なお、短辺部及びプレート同士はその全面において拡散接合される。次に、互いに接合された長辺部212aの積層体の外側端部をベースプレート16の上面に近づく方向に曲げる。このとき、長辺部212aには、3つの溝231〜233が形成されているので、各板材201〜206の長辺部212aにおける互いに対向する面の接触面積は小さくなり、長辺部212a同士の接合力は弱いものとなっている。そのため、各板材201〜206の長辺部212aの部分は、隣接する長辺部212aに対してスリップして独立に変位することができる。つまり、各板材201〜206の長辺部212aは、1枚ずつ折り曲げられる場合に近い挙動で変位することができるため、従来のように各板材の長辺部が強固に固着されている場合に比べて連結片215における折曲部分の曲率を小さくすることができる。これにより、各板材201〜206において、連結片215により長辺部212aに連結されたプレート11〜16が連結片215の切断時に曲がるのを抑制することができる。このように、各長辺部212aに形成された溝231〜233が、平面視で互いに一致する位置に形成されているので、長辺部112aにおける接触面積を小さくしてこれらの接合力を弱めることができる。また、各長辺部212aに平面視で一致するように形成された溝231〜233同士が、長辺部212aの同じ側の面に形成されていることで、長辺部112aにおける接触面積をさらに小さくしてこれらの接合力をさらに弱めることができる。また、3つの溝231〜233が長辺部212aの幅方向に関して異なる面に交互に形成されているので、長辺部212aのベースプレート16の上面に近づく方向に折り曲げたときに隣接する長辺部212aのスリップする方向への力がかかりやすくすることができる。
【0048】
続いて、第3実施形態による板材の積層構造について以下に説明する。図12は、本発明の第3実施形態による板材の積層構造の平面図である。図13は、図12に示すXIII−XIIIにおける断面図である。なお、本実施形態の板材の積層構造において、第1実施形態と同様なものに関しては、同符号で示し説明を省略する。図12及び図13に示すように、板材の積層構造300を構成する6枚の板材301〜306は、第1実施形態の6枚の板材101〜106とほぼ同様であるが、長辺部312aには溝ではなく複数の長孔(孔)331が形成されている。つまり、各板材301〜306の一対の長辺部312aには、長辺部312aの長手方向に沿って複数の長孔331が2列に配列されている。複数の長孔331は、図12に示すように、長辺部312aの長手方向に沿って所定の間隔をおいて配列されており、長辺部312aの長孔331の間の領域及び長辺部312aの長手方向に関して最も外側にある長孔331の外側領域が連結片315の延在方向(長辺部312aの幅方向)延長上に配置されている。また、各長辺部312aに形成された複数の長孔331は、各板材301〜306を位置合わせして積層すると、平面視においてそれぞれ一致するようになっている。このような板材301〜306が積層したとき、長辺部312aの上下面において、長孔331が形成されていない領域同士が接触した状態となる。そして、長辺部312aの部分的に接触した面同士、短辺部312b及びプレート11〜16同士を拡散接合することで、板材301〜306の積層構造300が形成される。
【0049】
上述した板材301〜306は、第1実施形態の板材101〜106とほぼ同様な製造工程で製造される。なお、複数の長孔331は、それに対応したフォトレジストをマスクとしたエッチング加工で形成される。そして、形成された各板材301〜306が位置合わせした状態で、それら板材301〜306の積層体を所定温度に加熱し、上述のように上下一対のプレート状の治具で挟み込んで加圧する。このとき、各長辺部312aは互いに部分的に接触しているので接触面同士が拡散接合される。なお、短辺部及びプレート同士はその全面によって拡散接合される。次に、互いに接合された長辺部312aの積層体の外側端部をベースプレート16の上面又はノズルプレート11の下面に近づく方向に曲げて、各板材301〜306の連結片315を切断する。このとき、長辺部312aには、複数の長孔331が形成されているので、各板材301〜306の長辺部312aにおける互いに対向する面の接触面積は小さくなり、長辺部312a同士の接合力は弱いものとなっている。そのため、第2実施形態と同様に、各板材301〜306の長辺部312aは、1枚ずつ折り曲げられる場合に近い挙動で変位することができるため、連結片315の曲率が小さくなる。これにより、各板材301〜306において、連結片315により長辺部312aに連結されたプレート11〜16が連結片315の切断時に曲がるのを抑制することができる。
【0050】
続いて、第4実施形態によるプレート積層体の製造方法により製造されたヘッド本体を備えたインクジェットヘッド400について以下に説明する。図14は、本発明に係る第4実施形態のプレート積層体(ヘッド本体)を含むインクジェットヘッドの分解斜視図である。図15は、図14に示すXV−XV線に沿った断面図である。本実施形態におけるインクジェットヘッド400は、図14に示すように、第1実施形態とはアクチュエータユニット20の構成が異なるだけでそれ以外は同様である。したがって、上述したものと同様なものは同符号で示し説明を省略する。
【0051】
インクジェットヘッド400は、流路ユニット10とアクチュエータユニット420とが固着されたヘッド本体421と、このヘッド本体421に駆動信号を供給するFPC40とを備えている。アクチュエータユニット420は、ベースプレート16とほぼ同じ矩形平面形状を有する振動板431と、振動板431の上面において複数の圧力室36に跨って連続的に形成された圧電層432と、圧電層432の上面において複数の圧力室36にそれぞれ対応して形成された複数の個別電極435とを備えている。
【0052】
振動板431は、ステンレス鋼等の鉄系合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、チタン合金等の金属材料からなり、すべての圧力室36を覆いつつベースプレート16の上面と拡散接合されている。この振動板431は、複数の個別電極435と対向していて個別電極435と振動板431との間の圧電層432に電界を作用させる共通電極を兼ねており、図示しない領域において接地されてグランド電位に保持されている。また、振動板431の一端部側には、インク供給口39とそれぞれ対向して配置された2つの孔439が形成されている。
【0053】
圧電層432は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり、主成分が強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。圧電層432は、振動板431の孔439近傍領域を除く上面に形成されており、複数の圧力室36に跨って連続的に形成されている。そのため、圧電層432をすべての圧力室36に対して一度に形成することができ、圧電層432の形成が容易になる。
【0054】
圧電層432の上面には、圧力室36よりも平面形状が一回り小さい長方形平面形状を有する複数の個別電極435が形成されている。これら複数の個別電極435は、平面視で、対応する圧力室36の中央部に重なる位置にそれぞれ形成されている。つまり、複数の個別電極435も、圧力室36と同様に千鳥状配列で2列に配列されている。個別電極435は、金、銅、銀、パラジウム、白金、チタンなどの導電性材料からなる。
【0055】
このような構成のアクチュエータユニット420の上面には、FPC40が積層されており、その配線パターン(図示せず)が対応する個別電極435に電気的に接続されている。
【0056】
次に、アクチュエータユニット420の作用について説明する。ノズル35からインクを吐出するとき、FPC40を介して駆動信号が各個別電極435に供給される。このとき、振動板431は、グランド電位に保持されているので、振動板431と個別電極435との間には電位差が生じる。すると、圧電層432の個別電極435と振動板431との間に挟まれた領域に厚み方向の電界が生じ、分極方向である厚み方向と垂直な水平方向に収縮する。この収縮に伴って、振動板431及び圧電層432の圧力室36に対向する領域に積層方向の歪みが発生する。これによって圧力室36の容積が変化し圧力室36内のインクに圧力が付与される。こうして、個別電極435に対応するノズル35からインクが吐出し、用紙への所定の印字が行われる。
【0057】
次に、インクジェットヘッド400を製造する過程において、ヘッド本体421を構成する7枚の板材101〜106,451の積層構造について以下に説明する。図16は、本発明の第4実施形態による板材の積層構造の分解斜視図である。図16に示すように、所定パターンが形成されたノズルプレート11、ダンパプレート12、マニホールドプレート13,14、スペーサプレート15、ベースプレート16、振動板431は、それぞれ板材101〜106,451に4枚ずつ形成されている。なお、6枚の板材101〜106は、第1実施形態と同様なため説明を省略する。
【0058】
板材451は、振動板431の長手方向と直交する方向に長手方向を有する略矩形枠状のフレーム(枠部)452と、フレーム452の内側において同一種類の4枚の振動板431がフレーム452の長手方向に沿って配列されてなる振動板組453と、振動板組453とフレーム452とそれぞれ一体的に連結する微小幅の複数の連結片455とを備えている。
【0059】
板材451のフレーム452は、フレーム452の長手方向に沿って延在した一対の長辺部(長手枠部)454aと、フレーム452の短手方向に沿って延在した一対の短辺部(短手枠部)454bとを有している。一対の長辺部454a及び一対の短辺部454bは、図16に示すように、板材101〜106の一対の長辺部112a及び一対の短辺部112bと同様である。つまり、一対の長辺部454aには、位置決め用のピン(不図示)を差し込むための位置決め孔113a,113b及び4本の溝(凹部)131〜134が形成されている。なお、複数の連結片455も板材101〜106の連結片115と同様なものである。このような7枚の板材101〜106、451を互いに積層して各板材101〜106,451におけるプレート組121〜126及び振動板組435同士と短辺部112b,454b同士とを拡散接合し、振動板431の上面に圧電層432を形成し、圧電層432の上面に複数の個別電極435を形成することで、板材101〜106,451の積層構造450が形成される。なお、板材451の一対の長辺部454aは一対の長辺部112aと同様であるため、互いに接触せず拡散接合されない。
【0060】
続いて、インクジェットヘッド400の製造方法について以下に説明する。図17は、インクジェットヘッドの製造工程図である。図18は、振動板431上に圧電層432及び個別電極435が形成される状況を示した図である。図17に示すように、まず、ステップ1(T1)において、板材101〜106,451となる7枚のステンレス鋼製の平板を準備する。次に、ステップ2(T2)において、第1実施形態と同様に、位置決め孔113a,113bが形成されたフレーム111,452、複数の連結片115,455、所定パターン(圧力室36やノズル35など)がそれぞれ形成されプレート組121〜126を構成するプレート11〜16及び振動板組453を構成する振動板431が形成されるように7枚の平板のそれぞれにフォトレジストをマスクとしたエッチング加工を施す。
【0061】
次に、ステップ3(T3)において、形成していたフォトレジストを除去した後、ステップ2(T2)において形成された一対の長辺部112a,454a及び複数の連結片115,455に、溝131〜134及び欠設領域116が形成されるように、一対の長辺部112a,454aの溝131〜134となる箇所を除いた領域及び連結片115,455の下面を除いた領域に再度フォトレジストを平板に形成し、ハーフエッチング加工を施す(枠体加工工程,連結片減肉工程)。このとき、溝131〜134が、長辺部112a,454aの長手方向に沿って延在するように、且つ、長辺部112a,454aの幅方向に関して交互に上下方向に向かって開くように長辺部112a,454aに形成される。さらに、複数の溝131〜134が、上述したように板材101〜106,451が積層されたときに、平面視において一致する位置であって長辺部112a,454aの幅方向に関して隣接する溝同士が部分的に重なる位置、且つ、各長辺部112a,454aにおいて一致する複数の溝131〜134同士が長辺部112a,454aの同じ側の面にそれぞれ形成される。また、このとき、欠設領域116が連結片115,455の下面側であって、平面視において欠設領域116と溝131が部分的に重なる位置に形成される。このように、連結片115,455がプレート11〜16及び振動板431の厚みよりも小さくなることで、後述する切断時に切断しやすくなり、プレート11〜16及び振動板431が変形しにくくなる。こうして、7枚の板材101〜106,451が形成される(板材形成工程)。
【0062】
次に、ステップ4において、各板材101〜106,451に形成された溝131〜134が平面視において一致するように、各板材101〜106,451に形成された位置決め孔113a,113bに位置決め用のピンを挿入して位置決めしつつ、図16に示すような板材101〜106,451の並びで互いに積層する。そして、位置決め状態で積層された板材101〜106,451(積層体)を所定温度まで加熱するとともに、積層体の上下面を上下一対のプレート状の治具で挟み込み、積層方向に加圧する。こうして、7枚の板材101〜106,451を互いに拡散接合する(接合工程)。このとき、各板材101〜106,451の長辺部112a,454a同士及び連結片115,455同士は互いに対向する面が接触しないので拡散接合されない。すなわち、各板材101〜106,451のプレート11〜16、振動板431及び短辺部112b,454bの互いに対向する面同士だけが拡散接合される。
【0063】
次に、ステップ5(T5)において、図18(a)に示すように、ベースプレート16に拡散接合された振動板451の上面にそれぞれ圧電層432となる堆積層461を形成する。ここで、堆積層461を形成する工程においては、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)法や、エアロゾルデポジション法(AD法)等により、PZTの粒子を上方から振動板431の上面において複数の圧力室36を連続して跨るように堆積させることにより堆積層461を形成する。このとき、振動板431はベースプレート16と拡散接合されて剛性が高められているので、PZTの粒子の衝突により振動板431に衝撃が加わっても反り返り等の変形が生じることはない。
【0064】
次に、ステップ6(T6)において、図18(b)に示すように、圧電層432の上面において、平面視で複数の圧力室36にそれぞれ重なる領域に、スクリーン印刷法、蒸着法、あるいはスパッタ法などを用いて複数の個別電極435を形成する。そして、ステップ7(T7)において、堆積層461が形成され互いに拡散接合された7枚の板材101〜106,451を所定温度に加熱して堆積層461を焼成するアニール工程を行い、圧電層432を形成する。このアニール工程の際に7枚の板材101〜106,451が加熱されるため、これらが接着剤で接合されていると、接着剤が溶けて剥がれるおそれがあるが、上述のように7枚の板材101〜106,451は拡散接合によって接合されているためアニール工程の際に剥離が生じることはない。こうして、振動板431、圧電層432及び複数の個別電極435からなるアクチュエータユニット420が形成されるとともに、4つのヘッド本体421を有する板材101〜106,451の積層構造450が形成される。
【0065】
次に、ステップ8(S8)において、第1実施形態のステップ5(S5)と同じ方法で、連結片115,455を折り曲げて破断させ、各フレーム111,451とプレート11〜16及び振動板431とを分離させる。こうして、一度に4つのヘッド本体421の製造が完了する。そして、ステップ9(S9)ヘッド本体421の複数の個別電極435とFPC40の配線パターンとを半田などで電気的に接続することで、インクジェットヘッド400の製造が完了する。
【0066】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した各実施形態では、板材101〜106,201〜206,301〜306,451の長辺部112a,212a,312a,454aに、長辺部112a,212a,312a,454aの長手方向に沿って延在した複数の溝131〜134,231〜233及び複数の長孔331が形成されているが、溝や孔が長手方向に沿って延在していなくてもよいし、1つだけ形成されていてもよい。つまり、板材のフレームのどこかに溝又は孔が形成され、その形成された溝又は孔によって、長辺部112a,212a,312a,454aの接合力が弱められ、連結片115,215,315,455の切断時における曲率が小さくなるようにフレーム自体が曲げやすくなればよい。また、各長辺部に形成された溝131〜134、231〜233及び長孔331が、平面視において互いに一致していなくてもよい。さらに、溝131〜134,231〜233が、長辺部112a,212a,454aの幅方向に関して交互に規則的に上下に向かって開いていなくてもよい。つまり、すべての溝が上又は下のいずれか、又は、不規則に上又は下に向かって開いていてもよい。また、連結片115,215,315,455は、その厚みが減じられる欠設領域が形成されていなくてもよい。また、欠設領域は、連結片の下部だけではなく、上部だけ又は上部及び下部の両方に形成されていてもよい。また、欠設領域の深さが溝131〜134,231〜233の深さと異なっていてもよい。しかし、連結片の曲げ強度が長辺部112a,212a,454aの曲げ強度よりも小さいことが好ましい。また、上述した第1〜第3実施形態においてはインクジェットヘッドの流路ユニットに、第4実施形態においてはヘッド本体に、本発明が適用されているが、複数のプレートを積層して構成されるもの全般に本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る第1実施形態のプレート積層体を含むインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1に示す流路ユニットの分解斜視図である。
【図3】図1に示す流路ユニットの部分拡大斜視図である。
【図4】図1に示すIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】図1に示すアクチュエータユニットの分解拡大斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態による板材の積層構造の分解斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態による板材の積層構造の平面図である。
【図8】図7に示すVIII−VIII線における断面図である。
【図9】流路ユニットの製造工程図である。
【図10】板材の連結片を切断するときの状況図である。
【図11】本発明の第2実施形態による板材の積層構造の部分断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による板材の積層構造の平面図である。
【図13】図12に示すXIII−XIIIにおける断面図である。
【図14】本発明に係る第4実施形態のプレート積層体を含むインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図15】図14に示すXV−XV線に沿った断面図である。
【図16】本発明の第4実施形態による板材の積層構造の分解斜視図である。
【図17】インクジェットヘッドの製造工程図である。
【図18】振動板上に圧電層及び個別電極が形成される状況を示した図である。
【符号の説明】
【0068】
6,400 インクジェットヘッド
10 流路ユニット(プレート積層体)
11 ノズルプレート
12 ダンパプレート
13,14 マニホールドプレート
15 スペーサプレート
16 ベースプレート
101〜106 板材
111 フレーム(枠体)
112a,212a,312a,454a 長辺部(長手枠部)
112b,312b,454b 短辺部(短手枠部)
115,215,315,455 連結片
131〜134,231〜233 溝(凹部)
331 長孔(孔)
431 振動板(プレート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のプレートが積層状態で接合されたプレート積層体を形成するプレート積層体の製造方法において、
互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレート、前記複数枚のプレートを取り囲む枠体、及び、前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを有する金属製の板材を複数枚形成する板材形成工程と、
前記複数枚の板材を積層するとともに互いに接触する前記プレートが位置合わせされた位置決め積層状態で前記複数枚の板材を拡散接合する接合工程と、
前記複数の連結片を切断して前記プレートの積層体を前記枠体から分離する分離工程とを備えており、
前記板材形成工程は、前記枠体にその枠体を変形しやすくするための凹部又は孔を形成する枠体加工工程を含むことを特徴とするプレート積層体の製造方法。
【請求項2】
前記板材はその長辺が前記一方向に沿った略矩形形状であり、
前記枠体は、前記一方向に沿って延在する一対の長手枠部と前記一方向と直交する方向に延在する一対の短手枠部とからなり、
前記複数の連結片は、各々が前記長手枠部と前記プレートとの間に設けられて、前記一方向に配列しており、
前記枠体加工工程において、前記凹部又は孔が、前記一方向に延在するように前記長手枠部に形成されることを特徴とする請求項1に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項3】
前記枠体加工工程において、前記凹部が前記一方向に延在する1又は複数本の溝として形成されることを特徴とする請求項2に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項4】
前記枠体加工工程において、前記溝は前記複数枚の板材の前記長手枠部にそれぞれ形成されるとともに、前記位置決め積層状態のときに平面視で互いに一致する位置に形成されることを特徴とする請求項3に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項5】
前記枠体加工工程において、前記複数枚の板材の各々に対し前記位置決め積層状態のときに平面視で互いに一致する位置に形成される前記溝は、前記位置決め積層状態のときに同じ側となる面にそれぞれ形成されることを特徴とする請求項4に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項6】
前記枠体加工工程において、前記長手枠部には複数の本の溝が形成され、これら複数の本の溝は前記長手枠部の幅方向に関して交互に異なる面に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項7】
前記枠体加工工程において、前記長手枠部の幅方向に関して隣接する互いに異なる面に形成される2本の溝は、平面視で部分的に重なり合うように形成されることを特徴とする請求項6に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項8】
前記板材形成工程は、前記連結片の厚みを前記プレート及び前記枠体よりも薄くする連結片減肉工程を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプレート積層体の製造方法。
【請求項9】
互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレート、前記複数枚のプレートを取り囲む枠体、及び、前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを有する金属製の板材が複数枚積層された状態で互いに拡散接合されたものであり、前記連結片を切断することによってプレートが積層された積層体を得ることができる板材の積層構造において、
前記板材の前記枠体には、積層方向に隣接する前記枠体との接合面積を小さくするための凹部又は孔が形成されていることを特徴とする板材の積層構造。
【請求項10】
互いに間隔をおいて一方向に配列された複数枚のプレートと、
前記複数枚のプレートを取り囲む枠体と、
前記複数枚のプレートのいずれかと前記枠体とを連結する複数の連結片とを含むものであって、これらを複数枚積層した状態で拡散接合して前記連結片を切断することによって前記プレートの積層体を得るための金属製の板材において、
前記板材の前記枠体には、積層方向に隣接する前記枠体との接合面積を小さくするための凹部又は孔が形成されていることを特徴とする板材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2007−105896(P2007−105896A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296103(P2005−296103)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】