説明

プローブの芯出し方法

【課題】補助試料の形状誤差や取り付け誤差による影響を低減可能で、芯出し誤差を定量的に算出しつつ、高精度かつ短時間で芯出しを行うことができるプローブの芯出し方法を提供する。
【解決手段】球体から成る補助試料30の中心が回転手段10の回転軸10a上に位置するよう、補助試料30を回転手段10に設置し、補助試料30の表面の座標をプローブ20で測定する。測定後、補助試料30をその半径以内の距離だけ、回転軸10aに対して垂直な方向に移動させる。回転手段10を回転させて90度間隔の4つの回転角度の位置で、移動させた補助試料30の表面の座標をプローブ20により測定する。その測定した座標と補助試料30の移動前に測定した座標とに基づいて、回転手段10の回転軸10aとプローブ20の先端の位置とのずれをベクトルとして求める。求めたベクトルに応じて、プローブ20の位置を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転手段に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブの芯出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プローブやスピンドル、直動機構を組み合わせることで三次元形状の計測を行う円筒座標三次元計測機は、プローブや複数の直動機構を組み合わせることで三次元形状の計測を行う極座標三次元計測機の類型であり、その駆動機構の特徴に適した応用が期待されている。
【0003】
このような円筒座標三次元計測機の応用例として、旋盤や研削盤に代表されるスピンドルとリニアステージとから成る非球面加工機を対象とした機上形状計測システムの研究開発が多く見られる。この機上形状計測システムが提供する計測テータをもとに補正加工を行うことで、加工機本来の加工精度を上回る製品精度が期待される。
【0004】
非球面加工機を対象とした機上形状計測システムを実現するにあたって、極座標三次元計測機と同様の機構を非球面加工機へ組み込んだアプローチが見られるが、計測専用のスライドが冗長で付加される構造が非経済的であるという問題があった。これに対し、Z軸方向計測用プローブのみを取り付け、非球面加工機のスピンドルや直動機構を利用して円筒座標三次元計測機を構築する方式は、すべての既存の非球面加工機へ容易に応用できるため、実用性が高い。
【0005】
このようなスピンドル(回転手段)を用いた計測システムでは、計測の原点を明確にするために、プローブの先端をスピンドルの軸芯(回転軸)に位置合わせして座標を記録する、いわゆる芯出しの作業が不可欠である。プローブ先端の磨耗や交換、およびプローブ本体の脱着などによってもプローブ先端の位置は容易にずれるため、芯出しは計測の準備として毎回行う必要がある。
【0006】
芯出しのずれは、形状計測誤差の要因となる。プローブの性能や要求計測精度が向上するのに比例して、必要となる芯出し精度も高くなり、このことはスピンドルを用いた計測システムを高精度化する際の技術的な妨げとなっていた。
【0007】
従来の芯出し方法として、専用のセンサ系を計装するものや、芯出し用の特別な補助試料を用いるものがある。専用のセンサ系を計装する方法として、スピンドルを中空円筒構造にし、その内部に計装された光学系を用いて芯出しを行う方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法は、光学系から光が照射されたときに、スピンドルの軸芯に載せられた球面レンズから反射される光が結ぶ虚像の位置と、プローブの先端球から反射される光が結ぶ虚像の位置とが重なるとき、球面レンズの球心と先端球の球心とが一致することを利用したものである。球面レンズがスピンドル軸芯に位置合わせされており、球面レンズの球心と先端球の球心とが一致するならば、先端球の芯出しが達成されることを原理としている。
【0008】
また、芯出し用の特別な補助試料を用いる方法として、同心円状の溝が彫られた補助試料をスピンドル中央に取り付けて、プローブに試料表面をスキャンさせ、このときに得られた断面形状を確認して、対称に現れる溝の間隔が最大になるようにプローブの調整を行う方法がある(例えば、非特許文献1参照)。この方法では、測定用プローブ自身の出力を用いて芯出し誤差の確認を行っているため、スピンドルに特殊な加工を施す必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−38556号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wei Gao, Jun Aoki, Bing-Feng Ju,Satoshi Kiyono, “Surface profile measurement of a sinusoidal grid using anatomic force microscope on a diamond turning machine”, Precision Engineering, July 2007,Volume 31, Issue 3, p.304-309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、球面レンズの取り付け誤差や、球面レンズの偏心、プローブ先端球の理想的な光学形状からの形状誤差、光学系のアライメントずれが重畳してプローブ芯出し誤差となり、分解能は像の位置検出装置(CCD)によって決定されるため、芯出しの高精度化には限界があるという課題があった。また、スピンドル内部に光学系を有する機構を加工機へ導入する場合、熱や振動によるアライメントずれや、加工油の浸食による部品の劣化が懸念され、これらが芯出しの精度の低下に影響を及ぼすという課題があった。
【0012】
非特許文献1に記載の方法では、確認のたびに反復して断面形状を測る必要があるだけでなく、溝の間隔が最大になるという判断が難しいため、作業に多大な時間を要するという課題があった。また、補助試料の形状誤差や取り付け誤差がプローブの芯出し誤差に残るという課題があった。
【0013】
さらに、特許文献1および非特許文献1に記載の方法では、軸芯付近での芯出し誤差量に対する検出感度がゼロとなるため、実現される芯出し精度が検出装置の精度より劣り、芯出しの高精度化には限界があるという課題があった。また、スピンドル軸芯(回転手段の回転軸)からプローブ先端までの距離、すなわち芯出し誤差が定性的にしか判断できず、システムの形状計測精度を定量的に保証することが困難であるという課題もあった。
【0014】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、補助試料の形状誤差や取り付け誤差による影響を低減可能で、芯出し誤差を定量的に算出しつつ、高精度かつ短時間で芯出しを行うことができるプローブの芯出し方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るプローブの芯出し方法は、回転手段に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブの芯出し方法であって、前記回転手段の回転軸に対して傾斜した傾斜面を有する補助試料を、前記傾斜面を前記プローブ側に配置した状態で前記回転手段に設置し、前記回転手段を回転させて異なる3つ以上の回転角度の位置で前記傾斜面の座標を前記プローブにより測定し、その測定結果に基づいて前記回転手段の回転軸と前記プローブの先端の位置とのずれをベクトルとして求め、そのベクトルに応じて前記プローブの位置を調整することを、特徴とする。
【0016】
本発明に係るプローブの芯出し方法は、以下の原理に基づいて、回転手段の回転軸とプローブの先端の位置とのずれ(芯出し誤差)をベクトルとして求めることができる。図1(a)に示すように、まず、回転手段(スピンドル)10の中央に傾斜面を有する補助試料33を設置し、プローブ20の先端の先端球20aを傾斜面に接触させて、その接触点での高度を測定する。次に、図1(b)に示すように、回転手段10を反転させて、同様にして高度を測定する。仮にプローブ20の先端球20aが回転手段10の回転軸(軸心)10a上に位置していれば、回転手段10の反転の前後で計測値は変化しないが、芯出し誤差が残っている場合には、その誤差に比例した高低差dZが確認される。この高低差dZが無くなるようにプローブ20の位置の調整を行うことにより、プローブ20の芯出し誤差を低減して、高精度で芯出しを行うことができる。
【0017】
図1では、回転角度が180度異なる2つの位置で測定した場合を示しており、1つの方向での芯出ししか行うことができない。しかし、この原理に従って、回転角度が異なる3つ以上の位置で傾斜面の高度を測定することにより、3次元空間における、芯出し誤差の大きさおよび方向をベクトルとして求めることができ、芯出し誤差を定量的に算出することができる。
【0018】
本発明に係るプローブの芯出し方法は、回転手段の回転軸とプローブの先端の位置とのずれを求めるときに、プローブ自身の出力のみを感度を損なわずに利用するため、プローブの精度に準ずる芯出し精度を実現することができ、高精度で芯出しを行うことができる。また、補助試料の位置ずれが、要求される芯出し精度に比べて広く許容されるため、補助試料の取り付け誤差による影響を低減することができる。
【0019】
本発明に係るプローブの芯出し方法は、作業者の判断や勘に頼ることなく定量的に芯出しを行うことができるため、芯出し作業の簡潔化や高速化を図ることができる。芯出し誤差を定量的にベクトルで求めることができるため、明確かつ信頼性の高い芯出しを実現することができる。また、芯出し誤差を定量的に求めることができるため、コンピュータ制御による自動化が可能である。
【0020】
本発明に係るプローブの芯出し方法で、補助試料は、平坦な傾斜面を有するものであっても、傾斜面がプローブに向かって凸状の曲面から成るものであってもよい。補助試料の傾斜面が凸状の曲面から成るものである場合、補助試料の曲面の頂点の位置を、回転手段の回転軸からずらすことにより、回転軸付近での芯出し誤差量に対する検出感度を高い状態に維持することができ、芯出し精度を高めることができる。また、補助試料の曲面の曲率は、算術処理によって除去されるため、芯出し誤差が曲面の寸法精度に依存せず、曲面形状による校正の必要がない。このため、補助試料の形状誤差による影響を低減することができる。
【0021】
本発明に係るプローブの芯出し方法で、前記補助試料は球体から成ることが好ましい。この場合、球体の補助試料が、プローブの先端球以外の箇所と物理的に干渉しにくいため、プローブによる測定を容易かつ高精度に行うことができる。また、機械研磨や化学研磨により球体を製造する方が、特製の傾斜平面を製造することに比べて容易であり、コストを低減することができる。補助試料として市販の安価なベアリング球等を使用することにより、さらにコストを低減することができる。
【0022】
本発明に係るプローブの芯出し方法は、回転手段に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブの芯出し方法であって、球体から成る補助試料の中心が前記回転手段の回転軸上に位置するよう、前記補助試料を前記回転手段に設置する球体設置ステップと、前記球体設置ステップで設置された前記補助試料の表面の座標を前記プローブで測定する移動前測定ステップと、前記補助試料をその半径以内の距離だけ、前記回転軸に対して垂直な方向に移動させる球体移動ステップと、前記球体移動ステップで移動させた前記補助試料の表面の座標を、前記回転手段を回転させて異なる3つ以上の回転角度の位置で前記プローブにより測定する座標測定ステップと、前記移動前測定ステップで測定した座標と前記座標測定ステップで測定した座標とに基づいて、前記回転手段の回転軸と前記プローブの先端の位置とのずれをベクトルとして求めるベクトル決定ステップと、前記ベクトル決定ステップで求めたベクトルに応じて前記プローブの位置を調整するプローブ調整ステップとを、有することが好ましい。この場合、容易かつ短時間で、高精度の芯出しを行うことができる。球体移動ステップで補助試料を移動させる距離は、補助試料の球体の半径の半分程度であることが好ましい。このとき、回転軸付近での芯出し誤差量に対する検出感度が高くなるため、芯出し精度をより高めることができる。
【0023】
本発明に係るプローブの芯出し方法は、前記ベクトル決定ステップで求めたベクトルの大きさが、あらかじめ設定された所定の上限値より小さくなるまで、前記座標測定ステップ、前記ベクトル決定ステップおよび前記プローブ調整ステップを繰り返すことが好ましい。この場合、さらに高精度で芯出しを行うことができる。所定の上限値として、プローブの計測分解能や走査用スライドの移動分解能などを採用することにより、それらの分解能を下回る芯出し誤差にすることができる。
【0024】
本発明に係るプローブの芯出し方法で、前記座標測定ステップは、前記回転手段を回転させて90度間隔の4つの回転角度の位置で、前記補助試料の表面の座標を前記プローブにより測定してもよい。この場合、回転手段の回転軸とプローブの先端の位置とのずれのベクトルを、簡易かつ正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、補助試料の形状誤差や取り付け誤差による影響を低減可能で、芯出し誤差を定量的に算出しつつ、高精度かつ短時間で芯出しを行うことができるプローブの芯出し方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るプローブの芯出し方法の原理を説明する(a)回転手段の反転前の側面図、(b)回転手段の反転後の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法の、大型研削盤への導入の実施例を示す側面図である。
【図5】図4に示すプローブの芯出し方法による芯出し後の、大型球面ミラーの形状計測における形状誤差(○:試行1、×:試行2)を示すグラフである。
【図6】図5に示す2回の試行の差分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図6は、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法を示している。
図2に示すように、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、スピンドルから成る回転手段10に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブ20の芯出し方法である。
【0028】
図3に示すように、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、以下の手順に従って実施される。ここで、図2に示すように、回転手段10は、被測定物を載せる載置面がXY平面に沿って設けられ、Z軸に沿った回転軸10aを中心として回転するようになっている。また、プローブ20は、回転手段10の直上に配置され、先端に設けられた先端球20aにより、測定座標としてZ軸に沿った高さを測定可能になっている。
【0029】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、まず、プローブ20を取り付けた後、球体設置ステップにより、半径Rの球体(小球)から成る補助試料30の中心が回転手段10の回転軸10a上に位置するよう、XYステージ31に載せた補助試料30を回転手段10に設置する(ステップ41)。次に、移動前測定ステップにより、球体設置ステップで設置された補助試料30の表面の高さZpをプローブ20で測定する(ステップ42)。測定後、球体移動ステップにより、補助試料30をその半径の半分程度の距離aだけ、回転軸10aに対して垂直なX軸方向に、XYステージ31により移動させる(ステップ43)。
【0030】
なお、補助試料30を移動させた後、回転手段10を回転させてプローブ20で連続測定を行うと、プローブ20の先端の先端球20aと補助試料30との接触点は楕円を描き、プローブ20の出力に変化が起きる。このとき、芯出し誤差が大きいほど楕円は大きくなり、プローブ20の先端球20aが回転手段10の回転軸10a上に位置する場合(芯出し誤差がゼロの場合)に、楕円は最小(定点)となる。このことを利用して、以下のように芯出しを行う。
【0031】
補助試料30を移動させた後、座標測定ステップにより、回転手段10を回転させて90度間隔の4つの回転角度θ(0度、90度、180度、270度)の位置で、補助試料30の表面の高さZθ(Z、Z90、Z180、Z270)をプローブ20で測定する(ステップ44)。ベクトル決定ステップにより、移動前測定ステップで測定した高さZpと、座標測定ステップで測定した高さZθ(Z、Z90、Z180、Z270)とに基づいて、回転手段10の回転軸10aとプローブ20の先端の位置とのずれ(芯出し誤差)を、以下のようにして求める。
【0032】
まず、プローブ20の先端球20aの球心のXY座標値を(Xp,Yp)とすると、プローブ20の先端球20aと補助試料30との接触点は、球体から成る補助試料30の表面にあるため、(1)式の関係が成り立つ。ここで、厳密には、先端球20aの径を考慮する必要があるが、これは補助試料30の半径Rに含まれていると考えればよい。補助試料30をX軸方向に距離aだけ移動させた場合、(1)式より、(2)式の関係式が成り立つ。さらに、回転手段10を90度ずつ回転させた場合、各回転角θにおいて、Zθの満たす関係式は(3)式〜(6)式となる。
【0033】
【数1】

【0034】
ただし、実際には、プローブ20は球体から成る補助試料30の中心をZ座標の原点としておらず、プローブ20の出力にはオフセットが含まれていることを考慮する必要がある。このオフセットをhとおくと、(3)式〜(6)式はあらためて(7)式〜(10)式と書き直すことができる。
【0035】
【数2】

【0036】
(7)式と(9)式との差から(11)式が、(8)式と(10)式との差から(12)式が得られる。これをそれぞれX,Yについて解くと、(13)式および(14)式が得られる。
【0037】
【数3】

【0038】
ここで、オフセットhの大きさが求まれば、(13)式および(14)式を用いてプローブ20のX軸上およびY軸上の位置を算出することができる。次に、(7)式と(9)式との和から(15)式が、(8)式と(10)式との和から(16)式が得られる。(15)式および(16)式を連立させると、(17)式となりhを求めることができる。
【0039】
【数4】

【0040】
ここで、(17)式の分母に含まれる4つのZθは対称性が高く互いに近い値をとるため、分母が極めて小さくなり、計測誤差に弱い。そこで、(15)式および(16)式を変形して、(18)式および(19)式のように記述すると、その左辺は、(1)式より、補助試料30を移動する前に測定したプローブ20の高さZpの2乗に相当している。ここで、オフセットを考慮して(18)式および(19)式を書きなおすと、(20)式および(21)式が得られる。
【0041】
【数5】

【0042】
(20)式および(21)式をそれぞれhについて解くと、(22)式および(23)式が得られる。ZpおよびZθの幾何関係から、(22)式および(23)式の分母は常に正となるため、(22)式および(23)式は発散せず、(17)式と比べると安定している。そこで、偶然誤差による影響を抑えるために、(22)式および(23)式の加算平均をとったものをオフセットhとして使用する。
【0043】
【数6】

【0044】
(22)式および(23)式からhを求め(ステップ45)、それを(13)式および(14)式に代入することにより、プローブ20の先端球20aのX軸上およびY軸上の位置(Xp,Yp)を算出する(ステップ46)。この値が、回転手段10の回転軸10aとプローブ20の先端の位置とのずれ(芯出し誤差)に該当し、ベクトルとして求められる。プローブ調整ステップにより、求められたXp,Ypに負号を付けた距離だけプローブ20を移動させて、プローブ20の位置を調整する(ステップ47)。これにより、芯出し誤差を小さくすることができる。
【0045】
ここで、ZpおよびZθの計測誤差など、いくつかの幾何的な要因から芯出し誤差の計算値にずれが発生することがあるが、この幾何的な要因の影響量は芯出し誤差量に比例している。このため、一度の調整作業でずれが残ってしまった場合でも、再度芯出し誤差を求めることにより、そのずれは小さくなる。このように、プローブ20の位置調整と芯出し誤差の計算とを繰り返し行うことで、芯出し誤差は0に収束してゆく。このことから、ベクトル決定ステップで求めたベクトルの大きさが、あらかじめ設定された、芯出し誤差が十分に小さいと評価できる所定の上限値より小さくなるまで、ステップ44〜ステップ47を繰り返す。
【0046】
また、Zpの値はプローブ20の位置の調整を行うたびに変化するため、(22)式および(23)式は初回にしか成立しない。しかし、オフセットhは、芯出し作業中は一貫して変化しないため、hを算出するのは初回だけで十分であり、以降はZθのみを繰り返し測定すればよい。
【0047】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、ベクトル決定ステップで求めたベクトルの大きさが、所定の上限値より小さくなるという目標を達成したときに終了する。この上限値として、プローブ20の計測分解能や走査用スライドの移動分解能などを採用することにより、それらの分解能を下回る芯出し誤差にすることができる。こうして、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法により、高精度でプローブ20の芯出しを行うことができる。
【0048】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、3次元空間における、芯出し誤差の大きさおよび方向をベクトルとして求めることができ、芯出し誤差を定量的に算出することができる。芯出し誤差を求めるときに、プローブ20自身の出力のみを感度を損なわずに利用するため、プローブ20の精度に準ずる芯出し精度を実現することができ、高精度で芯出しを行うことができる。
【0049】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法では、補助試料30の球面の曲率は、算術処理によって除去されるため、芯出し誤差が球面の寸法精度に依存せず、球面形状による校正の必要がない。芯出しが達成されていないとき、補助試料30の形状誤差により評価される芯出し誤差量にずれが発生することはあるが、芯出し誤差の算出およびプローブ20の位置の調整を繰り返すことにより、プローブ20の先端の位置が回転手段10の回転軸10aへ収束するように導かれる。また、芯出しが達成されているとき、プローブ20の先端球20aは補助試料30の表面上の定点としか接触しない。このため、補助試料30の形状精度は、芯出し精度の向上を制限する要因とはならない。
【0050】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法では、補助試料30の位置ずれが、要求される芯出し精度に比べて広く許容される。補助試料30を移動した位置が(a,0)からずれた場合でも、そのずれが極端に大きくない限り、芯出し誤差の算出およびプローブ20の位置の調整を繰り返し行うことにより、芯出し誤差は0へ収束してゆく。具体的には、補助試料30の位置を回転手段10の回転軸10aを原点にとる極座標系で見たときに、理想の位置からおよそ50%以上の動径ずれ、もしくは60度以上の偏角ずれが起きない限り、プローブ20の先端球20aの球心は回転手段10の回転軸10aへ収束するように導かれる。例えば、動径ずれが50%を上回ると、芯出し誤差量が2倍以上の大きさで評価されるため、プローブ20の位置の調整を繰り返すことでプローブ20の位置が発散してしまう。また、60度以上の偏角ずれが起きると、プローブ20の位置調整のための移動ベクトルの向きが大きく反れてしまい、プローブ20の位置の調整を行ってもプローブ20の位置は回転手段10の回転軸10aから遠ざかってしまう。このように、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法では、補助試料30の形状誤差や取り付け誤差による影響を低減することができる。
【0051】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法は、作業者の判断や勘に頼ることなく定量的に芯出しを行うことができるため、芯出し作業の簡潔化や高速化を図ることができる。芯出し誤差を定量的にベクトルで求めることができるため、明確かつ信頼性の高い芯出しを実現することができる。また、芯出し誤差を定量的に求めることができるため、コンピュータ制御による自動化が可能である。
【0052】
補助試料30が球体から成るため、プローブ20の先端球20a以外の箇所と物理的に干渉しにくく、プローブ20による測定を容易かつ高精度に行うことができる。これに対し、プローブ20は、傾斜平面へ接触することに対し物理的に不向きであるため、補助試料30が傾斜平面から成る構成での応用は限られる。例えば、原子間力顕微鏡で用いられるプローブ20ではカンチレバーが、タッチトリガ方式のプローブ20では先端球20aの保持具が傾斜平面と衝突しやすい。また、機械研磨や化学研磨により球体を製造する方が、特製の傾斜平面を製造することに比べて容易であり、コストを低減することができる。補助試料30として市販の安価なベアリング球を使用することにより、さらにコストを低減することができる。
【0053】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法では、補助試料30を移動させる距離aが、球体から成る補助試料30の半径の半分程度であるため、回転軸10a付近での芯出し誤差量に対する検出感度が高くなり、芯出し精度をより高めることができる。プローブ20の先端球20aが回転手段10の回転軸10aの近傍にある場合でも、接触点は補助試料30の頂点から離れているため、わずかなずれでもプローブ20の出力は変化し、高い検出感度が維持される。具体的には、接触点における補助試料30の球面の勾配の2倍を係数として、プローブ20の計測感度に積算した値が芯出し誤差検出感度となる。
【0054】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法によれば、特別高価な補助試料やセンサを必要とすることなく、プローブの位置調整精度を向上させることができ、プローブの性能を最大限に発揮させることができる。また、高精度オンマシン計測システムの構築が容易になり、わずかなコストにより既存の生産ラインへの補正加工ルーチンの導入を実現することができる。さらに、芯出し作業が簡潔化されることにより、生産性の向上や高効率化を図ることができる。
【実施例1】
【0055】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法の有効性を確認するため、市販の大型研削盤を用いた機上形状計測による実験を行った。図4に示すように、大型研削盤のアーム12にタッチトリガ方式の計測用プローブ(測長器)20を装着し、プローブ20のプランジャ20bの伸縮およびXスライド11の直動を利用してプローブ20の先端球20aをワークの表面へ離散的に接触させながら、プローブ20のプランジャ20bおよびXスライド11に計装されているエンコーダの信号を記録することにより断面形状計測を行った。
【0056】
計測の準備として、プローブ20の芯出し誤差を、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法を用いて評価し、Xスライド11および手動Yステージ13を用いてプローブ20の位置の調整を行った。本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法の有効性を実験的に確認する手段として、軸対称に加工された同一のワークについて、プローブ20のセッティングや芯出し作業を含めた形状計測実験を2度繰り返し、計測結果を比較して再現性の評価を行った。
【0057】
使用した大型研削盤では、芯出し誤差が無い場合でも、加工されたワークの非対称性や回転手段(スピンドル)10のフェイシャルモーション(スピンドルの揺動)などが原因で、およそ2μm程度の再現誤差が発生し得ることが予め判っている。このため、形状測定結果の再現性が2μmを下回っていれば、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法の有効性が示されると考えられる。
【0058】
用いたプローブ20の先端球20aの径は3.2mm、補助試料30の球体の径は10mmである。補助試料30は、球体移動用の手動XYスライド31および接触式変位計(図示せず)を用いて、回転手段10の中央に取り付けられたのち、手動XYスライド31を用いてX方向へ2mm移動させた。補助試料30の回転手段10の中央への取り付け精度は2μm程度であり、手動XYスライド31の位置決め分解能は10μmであるが、これらの値は補助試料30の位置ずれの許容範囲内(動径ずれ50%以下、偏角ずれ60度以下)である。
【0059】
計測対象のワークは、直径800mm、曲率半径が約2000mmの大型球面ミラーであり、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法を導入した形状計測システムによって補正加工が行われたものである。計測領域における最高点と最低点との高度差は、およそ40mmであり、そのため5μmの芯出し誤差は、1μmの形状計測誤差として現れる。X方向の計測領域は半径位置125mmから395mm、計測ピッチは5mm、計測時間は7分、この間のプローブ20の温度ドリフトは約0.3μmである。プローブ20の姿勢誤差については別の手法で測定を行い、計測結果に補正演算を施してその影響を排除した。
【0060】
実験の結果、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法により算出された芯出し誤差量を、表1に示す。表1には、1回目の測定で算出された芯出し誤差量(「初期位置」)、それに従ってスライドを動かしてプローブ20の位置を調整した後に再度測定して算出された芯出し誤差量(「作業1後」)、さらにプローブ20の位置を調整した後に算出された芯出し誤差量(「作業2後」)を示している。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、2回の試行とも、1回目のプローブ20の位置調整で芯出し誤差量が10%以下に減少し(「作業1後」を参照)、2回目のプローブ20の位置調整で芯出し誤差量が1μmを下回る(「作業2後」を参照)ことが確認された。また、繰り返し性を見るために、2回目のプローブ20の位置調整の後、スライドを動かさずもう一度芯出し誤差量の算出を行ったところ(表1中の「確認」)、直前の芯出し誤差量(「作業2後」)との差がプローブ20の精度である±0.5μmの範囲内におよそ収まることが確認された。
【0063】
用いたプローブ20の計測精度が0.5μmであり、また手動Yステージ13の操作性を考慮すると、1μmがプローブ20の位置調整の限界である。このため、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法により、手動Yステージ13による位置決め限界まで芯出し誤差量を小さくすることができたといえる。
【0064】
なお、補助試料30のセッティングに要する時間は10分程度であり、1回の芯出し誤差の算出およびプローブ20の位置調整に要する時間は2分程度であった。また、2回のプローブ20の位置調整で二軸同時に芯出しを達成したため、芯出し作業時間は合計で15分程度であった。従来の方法では、芯出しに1時間以上かかることが一般的であることを考えると、大幅に作業時間を短縮することができたといえる。
【0065】
本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法による芯出し後に行った大型球面ミラーから成るワークの形状計測結果からワークの設計値を除いたもの、すなわち形状誤差を図5に示す。また、図5に示す2回の試行の差分を、図6に示す。図6に示す差分のうち、高周波成分は表面粗さに由来するものであり、芯出し誤差は低周波成分として影響している。その低周波成分に注目すると、2回の試行による計測結果の差分は、両振幅で1.5μm程度であることが確認された。
【0066】
芯出し作業に伴い回転手段10を1回回転させる必要があるため、形状計測した断面の位置は異なってしまう。このため、これらの結果には、芯出しの残差やプローブ20の精度に加えて、エアスピンドルを静定させたときの回転手段10の回転軸10aの傾きやフェイシャルモーション、ワークの非対称性による影響が大きく含まれている。図6で確認された繰り返し誤差は1.5μmであり、ワークの非対称性やフェイシャルモーションによって発生し得る2μmを下回っていることから、本発明の実施の形態のプローブの芯出し方法の有効性が示されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るプローブの芯出し方法によれば、被測定物の形状計測の前後でプローブを脱着することが作業効率の低下に繋がりにくい。このため、加工中にプローブが邪魔になるような加工機に対してオンマシンシステムを導入したり、複数の加工機の間でひとつのプローブを使い回したりすることもできる。本発明に係るプローブの芯出し方法によれば、既存の加工機に機上計測システムを容易に導入することができ、加工する製品の品質や精度の向上が期待できる。また、スピンドルを用いた走査型顕微鏡への応用による超精密非球面形状計測システムの実現やその改良も期待できる。本発明に係るプローブの芯出し方法は、測定点が離散的なタッチトリガプローブにも、作業効率を損なわないまま応用できる。したがって、三次元計測機のような駆動原理を持つ計測機器に対しても応用が可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 回転手段
10a 回転軸
11 Xスライド
12 アーム
13 手動Yステージ
20 プローブ
20a 先端球
20b プランジャ
30 補助試料
31 XYステージ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転手段に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブの芯出し方法であって、
前記回転手段の回転軸に対して傾斜した傾斜面を有する補助試料を、前記傾斜面を前記プローブ側に配置した状態で前記回転手段に設置し、前記回転手段を回転させて異なる3つ以上の回転角度の位置で前記傾斜面の座標を前記プローブにより測定し、その測定結果に基づいて前記回転手段の回転軸と前記プローブの先端の位置とのずれをベクトルとして求め、そのベクトルに応じて前記プローブの位置を調整することを、特徴とするプローブの芯出し方法。
【請求項2】
前記補助試料は球体から成ることを、特徴とする請求項1記載のプローブの芯出し方法。
【請求項3】
回転手段に設置された被測定物の形状を計測するのに使用されるプローブの芯出し方法であって、
球体から成る補助試料の中心が前記回転手段の回転軸上に位置するよう、前記補助試料を前記回転手段に設置する球体設置ステップと、
前記球体設置ステップで設置された前記補助試料の表面の座標を前記プローブで測定する移動前測定ステップと、
前記補助試料をその半径以内の距離だけ、前記回転軸に対して垂直な方向に移動させる球体移動ステップと、
前記球体移動ステップで移動させた前記補助試料の表面の座標を、前記回転手段を回転させて異なる3つ以上の回転角度の位置で前記プローブにより測定する座標測定ステップと、
前記移動前測定ステップで測定した座標と前記座標測定ステップで測定した座標とに基づいて、前記回転手段の回転軸と前記プローブの先端の位置とのずれをベクトルとして求めるベクトル決定ステップと、
前記ベクトル決定ステップで求めたベクトルに応じて前記プローブの位置を調整するプローブ調整ステップとを、
有することを特徴とするプローブの芯出し方法。
【請求項4】
前記ベクトル決定ステップで求めたベクトルの大きさが、あらかじめ設定された所定の上限値より小さくなるまで、前記座標測定ステップ、前記ベクトル決定ステップおよび前記プローブ調整ステップを繰り返すことを、特徴とする請求項3記載のプローブの芯出し方法。
【請求項5】
前記座標測定ステップは、前記回転手段を回転させて90度間隔の4つの回転角度の位置で、前記補助試料の表面の座標を前記プローブにより測定することを、特徴とする請求項3または4記載のプローブの芯出し方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112894(P2012−112894A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263995(P2010−263995)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(501415752)日本ファインセラミックス株式会社 (4)
【出願人】(510313485)川崎ダイス工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】