説明

プローブ装置、プローブ装置の製造方法および触針式表面測定装置

【課題】試料表面の凹凸形状を検出する検出手段の光学的な位置合わせを簡便に行うこと。
【解決手段】触針式プローブ10は、X方向に延在する厚さが薄いレバー11と、レバー11の先端付近に設けられる−Z方向に先鋭化された探針12とを有し、レバー11の基部に設けられるスペーサー13を介してガラス基板20に固定され、レバー11とガラス基板20の間に、スペーサー13の厚さに相当するギャップGが形成されている。探針12を試料Sに接触させると、試料表面の凹凸形状に応じてレバー11が撓み、撓んだ部分のギャップGの間隔が変化する。レーザー光源4からの照明光をガラス基板20を通して触針式プローブ10へ照射すると、ギャップGに起因して干渉縞が現れ、その干渉縞のX方向の位置を顕微鏡2とCCDカメラ3で検出することにより、試料Sの表面の凹凸量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ装置の探針を試料に接触させて試料の表面形状を測定する触針式表面測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
探針を試料表面に接触させて走査し、粗さ、うねり等の表面形状や薄膜の膜厚段差を測定する装置として、触針式表面測定器あるいは触針式膜厚測定装置と呼ばれるものが知られている。この種の装置では、触針支持棒の下端に探針、上端に光反射板を設け、レーザ光を光反射板に当てて試料表面形状に応じて上下する触針支持棒の移動量、すなわち探針の移動量を光学的な三角測量の原理で測定する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−229663号公報(第4頁、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置は、光学的な三角測量の原理で探針の上下方向の移動量を測定するため、レーザ光源や光センサなどの光学的な位置合わせが煩雑であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の請求項1に係る発明のプローブ装置は、片持ちレバーと片持ちレバーの先端に設けられた探針とを有するプローブと、片持ちレバーと所定の間隔で対向配置される透明基板とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2に係る発明は、請求項1に記載のプローブ装置において、プローブが複数設けられていることを特徴とする。
(3)請求項3に係る発明は、請求項2に記載のプローブ装置において、複数のプローブは2次元的に配列されていることを特徴とする。
(4)請求項4に係る発明のプローブ装置の製造方法は、請求項2または3に記載のプローブ装置を製造する方法において、半導体プロセスにより1枚のウエハに複数のプローブを作製する工程と、複数のプローブのそれぞれの基部に所定の間隔を規定する介在層を形成する工程と、介在層と透明基板とを接合する工程とを含むことを特徴とする。
(5)請求項5に係る発明は、請求項4に記載のプローブ装置の製造方法において、介在層はシリコン層であり、透明基板はガラス基板であり、介在層と透明基板との接合に陽極接合を用いることを特徴とする。
(6)請求項6に係る発明の触針式表面測定装置は、片持ちレバーの先端に設けられた探針を試料に接触させることにより片持ちレバーを撓ませて試料の表面形状を測定する触針式表面測定装置において、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプローブ装置と、単色光を透明基板を通して片持ちレバーへ照射する照明手段と、片持ちレバーと透明基板との間隔の変化によって変位する干渉情報を検出する検出手段と、検出手段により検出された干渉情報の位置から試料の表面形状データを算出する演算手段とを備えることを特徴とする。
(7)請求項7に係る発明は、請求項6に記載の触針式表面測定装置において、プローブ装置を保持する保持部と試料を保持するステージとを相対的に移動させる駆動手段をさらに備えることを特徴とする。
(8)請求項8に係る発明は、請求項6または7に記載の触針式表面測定装置において、演算手段は、干渉情報の位置と片持ちレバーと透明基板との間隔との関係を表す位置情報を用いて、検出された干渉情報の位置から片持ちレバーと透明基板との間隔を算出し、試料の表面形状データを算出することを特徴とする。
(9)請求項9に係る発明は、請求項8に記載の触針式表面測定装置において、位置情報は、片持ちレバーの撓み変形を表す理論式を、片持ちレバーに所定の撓み変形を与えたときの干渉情報の位置を実測して得た測定値で校正したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の触針式表面測定装置によれば、プローブの片持ちレバーと透明基板との間隔に起因して発生する干渉情報を検出するので、検出手段の光学的位置合わせ作業が簡便である。また、本発明のプローブ装置の採用により、上記の触針式表面測定装置を実現できる。さらに、本発明の製造方法により、上記のプローブ装置を容易に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態による触針式プローブおよび触針式表面測定装置について図1〜13を参照しながら説明する。図1以下の図面では、必要に応じてXYZ直交座標で方向を表す。
【0008】
図1は、本発明の実施の形態による触針式表面測定装置全体の概略を示す構成図である。
触針式表面測定装置100は、試料Sを載置して移動および傾斜するステージ1と、顕微鏡2と、顕微画像撮影用のCCDカメラ3と、照明用のレーザー光源4と、制御演算部5と、ディスプレイ6と、保持部7と、ピエゾ素子8と、触針式プローブ10と、ガラス基板20とを備えている。触針式プローブ10は、X方向に延在する厚さ(Z方向の寸法)が薄いレバー11と、レバー11の先端付近に設けられ、−Z方向に延びる探針12とを有する。レバー11は片持ちレバーである。ガラス基板20は、その表面がX−Y平面に沿った透明な平行平板であり、所定の平面性を維持できる程度の厚みをもっている。触針式プローブ10は、レバー11の基部においてスペーサー13を介してガラス基板20に固定されており、触針式プローブ10とガラス基板20の間に、スペーサー13の厚さに相当するギャップGが形成されている。図1では図示を省略したが、後述するように、このような触針式プローブ10がガラス基板20の表面に沿って複数個配列されている。
【0009】
ステージ1は、駆動機構1bによりX,Y,Z方向に移動できるとともに、傾斜機構1aにより任意の向きに任意の角度で傾斜できるように構成されている。保持部7は、ガラス基板20を保持しつつ、ピエゾ素子8を介してステージ1と対向配置されている。ピエゾ素子8は、Z方向の圧力を計測するために、ステージ1と保持部7との間に少なくとも3本設けられ、3本以上のピエゾ素子8が一直線とならないように配置されている。ピエゾ素子8で計測された圧力値をフィードバックして、圧力値の差分が零となるように傾斜機構1aによりステージ1を傾斜させ、ガラス基板20とステージ1または試料Sの表面とが平行になるように調整する。
【0010】
顕微鏡2には、CCDカメラ3とレーザー光源4が取り付けられている。CCDカメラ3は制御演算部5に接続されており、CCDカメラ3で撮影された顕微画像は、制御演算部5に接続されたディスプレイ6により観察できる。レーザー光源4は、例えば波長550nmの単色のレーザー光を発する。この単色レーザー光は、対物レンズ2aを通ってガラス基板20を透過し、触針式プローブ10へ照射される。
【0011】
図2は、ガラス基板20に設けられた複数の触針式プローブ10の分布状態の一例を示す上面図である。触針式プローブ10の集合体(以下、マルチプローブ110と呼ぶ)は、図2に示されるように、ガラス基板20中央のX−Y2次元領域にマトリックス状に規則正しく配列している。触針式プローブ10が配列しているプローブ配列領域Aは、レーザー入射領域Bおよび観察視野Cに包含される領域である。すなわち、プローブ配列領域Aにはレーザー光が一括照射され、プローブ配列領域Aを移動させなくてもその全領域に対して同時に顕微鏡観察、すなわち光学的な検出を行うことができる。例えば、プローブ配列領域Aの寸法は5×5mm、マルチプローブ110を構成する触針式プローブ10の数は1万〜5万本である。
【0012】
図3は、マルチプローブ110の構造を模式的に示す斜視図であり、マルチプローブ110の一部分を示すものである。ガラス基板20には、同一形状、同一寸法、同一ギャップ初期間隔g(スペーサー13の厚さに相当するギャップGの初期間隔g)の3個の触針式プローブ10が所定のピッチ間隔で配設されている。今、試料Sを領域A1,A2,A3の3つに分け、領域A1には薄膜が形成されず、領域A2には厚さt1の薄膜F1、領域A3には厚さt2(>t1)の薄膜F2が形成されているとする。
【0013】
試料Sの領域A1,A2,A3に接触している各探針がそれぞれ試料Sにより押し上げられると、領域A1,A2,A3の高さに応じて各レバー11が撓む。レバー11が撓んだとき、レバー11とガラス基板20との間隔d(ギャップ間隔d)は、X方向の位置によって異なる。レバー11が撓んでいないときのギャップ間隔dは、上述したギャップ初期間隔gに等しい。
【0014】
レーザー光をガラス基板20を通して触針式プローブ10へ照射すると、領域A1,A2,A3に対応する干渉縞121,122,123が発生する。干渉縞121,122,123は、レバー11とガラス基板20との間に断面形状が楔形の空気層が形成されることにより発生する明暗パターンであり、例えば、所定のギャップ間隔d1の位置に暗線部が現れる。レバー11の撓み量が変化すると、ギャップ間隔d1となる位置は変化し、X方向に沿って移動する。すなわち、干渉縞121,122,123の位置は、領域A1,A2,A3の高さを反映している。
【0015】
本発明は、具体的には、触針式プローブ10とガラス基板20との間のギャップGに起因して発生する干渉縞の位置を検出することにより、試料Sの表面の凹凸を測定するものである。触針式プローブ10は、試料Sへの接触荷重が極めて軽く、試料表面の形状を忠実に反映するように作製されている。触針式プローブ10の探針12は、試料表面から直接に力を受けるので、AFMの探針のように原子径オーダーで先鋭化されているわけではなく、ある程度の接触面積を有する。
【0016】
〈測定原理〉
図4は、触針式プローブ10の撓みと干渉縞の変位との関係を説明する図であり、図4(a)は触針式プローブ10の上面図、図4(b)は断面図である。図4(b)に示されるように、レバー11の自由端Oを原点とし、横軸をX、縦軸をZとする。xはX軸上の原点からの距離、zはZ軸上の原点からの距離である。探針12は自由端Oにあるものとし、探針12が試料Sに接触していない無負荷状態では、レバー11は、X方向に長さLで延在し、ガラス基板20と平行にギャップ初期間隔gで対向している。この状態では干渉縞は発生しない。
【0017】
先ず、探針12を試料Sに軽く接触させて初期押し込み量zだけz位置を変化させる。このとき、レバー11は、長さLにわたって彎曲変形するが、以下の説明では簡単のため、レバー11とスペーサー13との接点である固定端Eを支点として変形し、変形後のレバー11の上面11Aまたは11Bを斜辺とする三角形に近似する。図4(a)に示されるように、レバー11上の地点aにm次の干渉縞の暗線部が現れるように初期押し込み量zを与える。m次干渉縞を発生させるギャップ間隔(レバー11の上面11Aとガラス基板20との距離)d1は、式(1)で与えられる。また、式(2)の関係が成り立つ。
d1=g−α(L−x)=(2m+1)λ/4n・・・・(1)
α=z/L・・・・(2)
式(1)、(2)より式(3)が導かれ、初期押し込み量zが得られる。
=L(g−d1)/(L−x)・・・・(3)
ここで、αは初期撓み角、xは初期干渉縞位置、λはレーザー光の波長、nはギャップGの屈折率である。
【0018】
次に、試料S上を触針式プローブ10で走査すると、試料S表面の凹凸に応じて探針12のz位置が変化する。初期押し込み量zからさらにΔzだけ探針12が押し上げられると、レバー11の上面が11Aから11Bに移行し、ギャップ間隔がd1となる位置は、+X方向へ移動し、地点aに現れていたm次干渉縞は地点bへ移動する。m次干渉縞の地点aから地点bへの変位量はΔxである。押し込み量(z+Δz)と地点bのX方向の位置(x+Δx)との関係は、式(4)で表される。
+Δz=L(g−d1)/{L−(x+Δx)}・・・・(4)
式(3)、(4)より式(5)が導かれる。
Δz=L(g−d1)/{L−(x+Δx)}−L(g−d1)/(L−x)・・・・(5)
式(5)から、m次干渉縞の変位量であるΔxを測定すれば、Δx以外はすべて既知であるから、押し込み変化量Δz、すなわち試料Sの凹凸段差量を算出することができる。
【0019】
以上は、レバー11の撓み変形を三角形近似により導き出したが、レバー11の撓み変形を厳密に書き表すと式(6)のようになる。
z=Px/6IE−PLx/2IE+PL/3IE・・・・(6)
ここで、Pは自由端Oに加わる集中荷重、Iはレバー11の断面二次モーメント、Eはレバー11のヤング率である。集中荷重P、断面二次モーメントI、ヤング率Eによって自由端Oでの押し込み量zが決まり、そのときの撓み曲線はxの三次関数になる。
【0020】
断面二次モーメントIとヤング率Eは触針式プローブ10の固有の値であるから、上述した押し込み変化量Δzは、自由端Oでの集中荷重Pの変化量で決まり、集中荷重Pの変化量は試料Sの凹凸段差量で決まる。すなわち、押し込み変化量Δzは試料Sの凹凸段差量と同等のものである。式(6)を書き直すと、式(7),(8)となる。
g−d1=z(m)=P(x+Δx)/6IE−PL(x+Δx)/2IE+PL/3IE・・・・(7)
P=6IE(g−d1)/(x−3Lx+2L)・・・・(8)
P=3IE(z+Δz)/L・・・・(9)
Δz=PL/3IE−z・・・・(10)
【0021】
一例を挙げると、触針式プローブ10は、レバー長さL=40.0μm、ギャップ初期間隔g=1.0μmであり、レーザー光の波長λ=0.55μm、空気層であるギャップGの屈折率n=1である。レバー先端の初期押し込み量z=0.05μmのときに、初期干渉縞位置x=7.0μmに3次(m=3)の干渉縞を発生させる条件となるギャップ間隔d1は、式(1)より、d1=0.963μmとなる。これは、式(7)より、z(m=3)=0.037μmでもある。この状態から触針式プローブ10が試料Sの段差分だけ押し上げられ、干渉縞の位置が3.5μm変位(Δx=3.5μm)したと測定されると、レバー11にかかる集中荷重Pが式(8)により算出され、試料Sの段差量に相当する押し込み変化量Δzは、式(9)または式(10)により、Δz=0.01μmとなる。但し、z=0.05μmにおいて、集中荷重P=9.25×10−8(kgm/sec)、断面二次モーメントI=1.44×10−25(m)、ヤング率E=2.74×1011(Pa)である。なお、上述したギャップ初期間隔gがレバー長さLの1/40程度であれば、三角形近似の式である式(5)を用いても、ほぼ正確にΔzを算出できる。
【0022】
次に、触針式表面測定装置100による測定準備作業と試料測定について説明する。測定準備作業としては、ステージ1の平行設定および干渉縞の位置xとギャップ間隔dとの関係を表すx−z配列データ(位置情報)の作成があり、試料測定としては、干渉縞のx位置の測定およびx−z配列データを用いたz位置の算出がある。
【0023】
〈平行設定〉
図5は、実施の形態による触針式表面測定装置100のプローブ配列状態を模式的に示す部分断面図である。図5(a)は、ステージ1の上面1Aとガラス基板20の下面20Aとの平行を設定している状態を示す。図5(a)では、説明の便宜上、ピエゾ素子8も図示している。ステージ1をZ方向に移動させ、3本のピエゾ素子8がそれぞれZ方向の圧力を検出し、傾斜機構1a(図1参照)を動作させ、各検出値が等しくなるように上面1Aと下面20Aとの平行設定を行う。
【0024】
〈x−z配列データの作成〉
先ず、前述した理論式(6)からレバーの撓み変形を表すx−zの値を求めておく。この作業は、例えば、初期押し込み量としてz=0.05μm、押し込み量として0.2μmピッチでz=0.2,0.4,0.6,0.8,1.0μmを選び、各段階について式(6)からx−zの値を算出する。その算出結果を初期値のx−z配列とする。
【0025】
次に、上述した平行設定の後、ステージ1の上面1Aを上昇させて探針12に押し付けることにより、初期押し込み量zおよび異なるいくつかの押し込み量zを与えて、各段階で干渉縞の位置xを測定する。すなわち、初期押し込み量としてz=0.05μm、押し込み量としてz=0.2,0.4,0.6,0.8,1.0μmをレバー11に与える。
図5(b)は、レバー11に押し込み量zを与えている状態を示す。各段階で干渉縞の位置xと押し込み量zとの関係を表すx−z配列を得て、この測定値のx−z配列データを制御演算部5に記憶させる。なお、マルチプローブ110の場合は、各々の触針式プローブ10毎に、この測定値の配列データを取得する。
【0026】
図7は、押し込み量zを段階的に変化させたときの触針式プローブ10の形状変化を模式的に示す側面図である。図7(a)は初期押し込み量z=0.05μm、図7(b)は押し込み量z=0.2μmの場合であり、中間は図示を省略し、図7(c)は押し込み量z=0.8μm、図7(d)は押し込み量z=1.0μmの場合である。
【0027】
測定値のx−z配列を用いて、先に算出した初期値のx−z配列を校正する。
図8は、初期値のx−z配列を測定値のx−z配列で修正する方法を説明するグラフである。縦軸はレバー11のZ方向の位置z、横軸はX方向の位置xである。曲線Aは、ある押し込み量z10を与えたときの理論式(6)によるレバー11のたわみ曲線である。また、曲線Bは、検出された次数の異なる3つの干渉縞の測定値(x1,z10)、(x2,z10)、(x3,z10)により、曲線Aを修正した後の曲線である。測定値(x1,z10)、(x2,z10)、(x3,z10)の組が測定値のx−z配列である。このように、いくつかの測定値(x1,z10)、(x2,z10)、(x3,z10)を用いて理論曲線Aを修正することにより、各触針式プローブ10の製造上のばらつき等による誤差を除去することができ、より正確な測定が可能となる。このような初期値のx−z配列の修正は、異なる押し込み量zの各段階で同様に行う。そして、後述する図9のグラフを得る。
【0028】
〈干渉縞のx位置の測定〉
上述したx−z配列データ取得の後に、ステージ1に試料Sをセットする。図6は、試料Sの表面形状測定中の触針式表面測定装置100の主要部の模式図である。図6では、マルチプローブ110を構成する3個の触針式プローブ10は、X方向にピッチ間隔pで配設されており、レーザー光源4からの単色のレーザー光によりハーフミラー2bを介して一括で照明されている。このレーザー光照射により、触針式プローブ10とガラス基板20の間のギャップGに起因して発生する各々の干渉縞124,125,126は、対物レンズ2aで拡大され、ハーフミラー2bで反射され、リレーレンズ3aを介してCCDカメラ3により顕微画像として一括で撮影される。触針式プローブ10のレバーは、ステージ1に載置された試料Sに押し込まれることによって撓んでおり、その押し込み量zは、各触針式プローブ10が接触している試料Sの凹凸量に応じて触針式プローブ10毎に異なっているので、同一次数の干渉縞124,125,126が観察される位置も触針式プローブ10毎に異なっている。このようにして、触針式プローブ10毎に干渉縞124,125,126の位置xがそれぞれ検出される。
【0029】
各触針式プローブ10を試料Sの凹凸量に応じた押し込み量zで変形させた状態で、各触針式プローブ10に割り当てられた領域の走査を行う。例えば、X方向に走査する場合、触針式プローブ10のピッチ間隔がpであるから、距離pだけ走査すれば所定の形状測定が終了する。Y方向に走査する場合も同様に、触針式プローブ10のY方向におけるピッチ間隔だけ走査すればよい。このように、マルチプローブ110を用いることにより、短い走査距離で広い領域の形状測定が可能となる。換言すれば、短時間で形状測定が可能となる。なお、走査を行わず、マルチプローブ110を試料Sに接触させるだけの測定も勿論可能である。この場合は、さらに短時間で形状測定が可能となる。
【0030】
このような干渉縞の位置測定においては、干渉縞を精度良く検出することが重要である。本実施の形態では、干渉縞の変位が微小であっても変位を精度良く検出できるようにするために、干渉縞の顕微画像を光の強度分布として検出する。干渉縞検出の分解能は、顕微鏡2を含む光学系の拡大倍率とCCDカメラ3のCCDの画素寸法により概ね決まるので、その分解能のピッチで、レバー11の撓み曲線の理論式、すなわち前述した式(6)を用いて押し込み量zとレバー11の撓みとの関係を算出できる。例えば、レバー11の長さをL=40μm、ギャップ初期間隔をg=1.0μmとし、押し込み量zの分解能0.01μmを得るには、光学系の拡大倍率を3倍、CCDの画素寸法を7.4μm(400万画素)とすれば、干渉縞の変位x=3.5μmはCCD上では10.5μmとなるので、十分に変位を認識できる。
【0031】
〈x−z配列データを用いたz位置の算出〉
試料S上の走査位置X1で干渉縞がx=5.0μmの位置に検出され、走査位置X2で干渉縞がx=11.0μmの位置に検出されたときの走査位置X1とX2との段差量は以下のようにして算出される。
図9は、初期値のx−z配列を測定値のx−z配列で修正した結果を表すグラフの一例である。このようなグラフは、校正されたx−z配列データ、すなわち位置情報である。縦軸はガラス基板20からレバー11までの距離(g−z)、横軸はレバー11上のX方向の位置xであり、ギャップ初期間隔g=1.0μmである。グラフ中、曲線C1は図7(a)に、曲線C2は図7(b)に、曲線C5は図7(c)に、曲線C6は図7(d)に、それぞれ対応する。
【0032】
x=5.0μmの測定値を図9に適用すると、この干渉縞はギャップ間隔d1で発生するから、レバー11とガラス基板20との間隔がd1となるのは、押し込み量z=0.60μm、すなわち距離(g−z)=0.40μmとなる曲線C4である。一方、x=11.0μmの測定値を図9に適用すると、レバー11とガラス基板20との間隔がd1となるのは、押し込み量z=0.80μm、すなわち距離(g−z)=0.20μmとなる曲線C5である。したがって、走査位置X1とX2との凹凸段差量Δzは、押し込み量zの差分または距離(g−z)の差分である0.20μmとなる。
【0033】
図9のグラフにおいて数本の曲線C1〜C6で表しているように、0.2μmピッチでx−z配列を作成しているので、配列で与えられる座標値はとびとびの値である。座標値と座標値の間は、理論式である式(6)により埋めることができるので、干渉縞の位置あるいは変位量がどのような値をとったとしても、押し込み量あるいはその変化量を求めることができる。なお、この実施の形態では、初期値のx−z配列を測定値のx−z配列で修正したが、修正を省略して初期値のx−z配列をそのまま使用してもよい。
【0034】
以上説明したような干渉縞の位置xあるいは変位量Δxから押し込み量zあるいは変化量Δzを演算する処理は、制御演算部5において、マルチプローブ110を構成する各々の触針式プローブ10について実行される。このような演算処理は、基本的には、検出された干渉縞の強度分布をビットマップ信号として制御演算部5の記憶部(不図示)に一旦格納し、所定のすべての検出(測定)が終了した時点で干渉縞の強度分布を解析して位置xあるいは変位量Δxとして求め、最終的に押し込み量zあるいは変化量Δzを得る処理である。また、初期値のx−z配列データを測定値のx−z配列データで校正する処理も制御演算部5において実行される。
【0035】
次に、本実施の形態の触針式プローブ10の製造工程について、図10〜13を参照しながら詳しく説明する。
図10は、工程A〜Hにおける触針式プローブ10の状態を示す断面図であり、図10(a)〜図10(h)はそれぞれ工程A〜Hに対応する。同様に、図11は、工程I〜Nにおける触針式プローブ10の状態を示す断面図であり、図11(a)〜図11(f)はそれぞれ工程I〜Nに対応する。図12は、触針式プローブ10の製造工程で用いられるマスクの概略図であり、図12(a)〜図12(c)はそれぞれ工程D、J、Lで用いられるマスクを示し、塗りつぶし部分が遮蔽部分を表す。
【0036】
図10を参照すると、工程Aでは、表面を主面(001)とする単結晶シリコンウエハ50(以下、Siウエハ50と呼ぶ)を用意する。
工程Bでは、Siウエハ50に高温水蒸気を作用させるウエット酸化を行い、Siウエハ50の表裏両面に厚さ0.2μmの酸化膜51a,51bを形成する。
工程Cでは、酸化膜51a,51bの上にレジスト層52a,52bをそれぞれ形成する。
工程Dでは、図12(a)に示すマスク1を用いて露光・現像を行い、レジスト層52aの円形部分Hを除去する。この円形部分Hは、将来、探針12が形成される部分である。
【0037】
工程Eでは、円形部分Hに露出している酸化膜51aを緩衝フッ化水素(BHF)溶液を用いてエッチングする。このとき、Siウエハ50の裏面に形成されているレジスト層52bは、酸化膜51bがエッチングされるのを阻止する保護層として働く。
工程Fでは、TMAH(tetra methyl ammonium hydroxide)溶液を用いて異方性エッチングを行い、円形部分HのSiウエハ50を掘り下げる。そのエッチング除去した形状は逆四角錐となり、その4つの錘面Pは(111)面である。
工程Gでは、Siウエハ50に残っているレジスト層52a,52bおよび酸化膜51a,51bを順次除去し、Siウエハ50の表裏両面を露出させる。
工程Hでは、Siウエハ50の露出している面に、表面保護のための酸化膜53a,53bをウエット酸化法で厚さ0.5μm形成する。
【0038】
続いて図11を参照すると、工程Iでは、酸化膜53a,53bの上に、低圧CVD法でSiN膜54a,54bをそれぞれ厚さ0.8μm形成する。
工程Jでは、図12(b)に示すマスク2を用い、CガスによるRIE(reactive ion etching)でSiN膜54a、酸化膜53aの2層を部分除去する。この工程でレバー本体11の長さLと幅wが規定される(図12(b)参照)。なお、裏面側のSiN膜54b、酸化膜53bの2層は全部除去する。
工程Kでは、Siウエハ50の表面側の全面に、低圧CVD法で多結晶シリコン層55を厚さ1.0μm形成する。多結晶シリコン層55は、パターニングされたSiN膜54aの上とSiウエハ50の露出している面に形成される。
工程Lでは、先ず、図12(c)に示すマスク3を用いてTMAH溶液によるパターンエッチングを行い、レバー本体11上の多結晶シリコン層55のみを部分的に除去する。このパターンエッチングにより、図11(d)に示されるように、レバー本体11の基部側に多結晶シリコン層55が帯状に残る。この多結晶シリコン層55は、紙面に垂直な帯状であり、段差を有する。
【0039】
次に、工程Lでは、レバー本体11とガラス基板60の陽極接合を行う。
図13は、工程Lで行う陽極接合中の触針式プローブ10の状態を示す断面図である。図に示されるように、多結晶シリコン層55のパターンエッチングまで終わったSiウエハ50をホットプレート70上に載置し、Siウエハ50の上にパイレックス(登録商標)ガラス製の基板60を重ねて置く。このガラス基板60は、多結晶シリコン層55のみに接触しているため、ガラス基板60とSiN膜54aとの間には、多結晶シリコン層55の膜厚に等しいギャップ初期間隔1.0μmのギャップGが形成される。また、多結晶シリコン層55の一端55aを直流電源71の正極に、ガラス基板60を直流電源71の負極に接続する。この状態で、ホットプレート70によりSiウエハ50を400〜500℃の温度に保ちながら、直流電源71により多結晶シリコン層55とガラス基板60との間に500V程度の直流電圧を印加する陽極接合を行う。パイレックス(登録商標)ガラス中の正電荷のアルカリイオンが多結晶シリコン層55へ移動して多結晶シリコン層55とガラス基板60とが接合される。
【0040】
図11に戻り、工程Mでは、混合ガス(SF+O)を用いたICP−RIE(inductively coupled plasma - reactive ion etching)によりSiウエハ50の裏面から厚さ方向にエッチングし、Siウエハ50を除去する。ICP−RIEによるエッチング作用は酸化膜53aで停止する。
工程Nでは、緩衝フッ化水素溶液で酸化膜53aを溶解除去する。この工程で、多結晶シリコン層55を介在層としてガラス基板60に接合された触針式プローブ10が完成する。レバー11および探針12は、硬い窒化シリコンから作製されるので、耐久性に優れている。
【0041】
上記の製造工程では、1個の触針式プローブ10についての一連の作製手順を説明したが、実際の製造工程は、Siウエハ単位で行われる、いわゆるバッチ処理である。このバッチ処理では、フォトリソグラフィー法により、1枚のSiウエハから複数のマルチプローブ110を一括で作製することができ、これらの複数のマルチプローブ110を同時に1枚のガラス基板20に接合することができ、大幅な製造コストの削減をもたらすものである。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態による触針式表面測定装置100は次のような作用効果を奏する。
(1)顕微鏡2とCCDカメラ3により、触針式プローブ10とガラス基板20とのギャップによって発生する干渉縞を検出するので、光学的な位置合わせが簡便である。
(2)複数の触針式プローブ10の集合体(マルチプローブ110)を形状測定に使用する場合、光学的な位置合わせは1回で済み、位置合わせ作業が簡便である。
(3)マルチプローブ110を形状測定に使用することにより、広い面積の測定を短時間で行うことができる。
(4)マルチプローブ110を用い、検出された各々の触針式プローブ10からの干渉情報を並列処理することにより、リアルタイムイメージングを実現できる。
【0043】
また、触針式プローブ10あるいはマルチプローブ110は、半導体プロセスを用いて製作されるので、小型化、多数の触針式プローブ10を集積するマルチ化が低コストで容易に実現できる。
【0044】
上記の実施の形態では、ステージ1が、ガラス基板20とステージ1または試料Sの表面とが平行となるように調整するための傾斜機構1aを有するが、ステージ1には傾斜機構1aを設けず、このような傾斜機構を保持部7に設けてもよい。平行出し調整の手法としては、実施の形態に限らず、例えばマルチプローブ110の三隅あるいは四隅に配置された触針式プローブ10に、同時に干渉縞が認められた場合に平行となったと判定する手法を用いてもよい。また、実施の形態では、駆動機構1bによりX,Y,Zの3方向に移動可能なステージ1を用いたが、これらの動きの一部または全部を保持部7に代行させてもよい。つまり、マルチプローブ110と試料Sあるいはステージ1とは相対的に移動できればよい。
【0045】
さらに、実施の形態の顕微鏡2では、ガラス基板20の内側表面に現れる干渉縞に焦点を合わせるが、干渉縞だけではなく試料表面にも焦点を合わせられる長焦点距離の対物レンズを装着すれば、試料表面の観察と干渉縞の観察を迅速に切り替えることができる。
【0046】
本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。マルチプローブ110のみならず、一つの触針式プローブ10を用いる触針式表面測定装置にも本発明は適用できる。
【0047】
なお、特許請求の範囲と実施の形態による構成要素の対応関係については、顕微鏡2とCCDカメラ3が検出手段に、制御演算部5が演算手段に、スペーサー13が介在層に、駆動機構1bが駆動手段にそれぞれ対応する。以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る触針式表面測定装置全体の概略を示す構成図である。
【図2】ガラス基板20に設けられた複数の触針式プローブ10の分布状態の一例を示す上面図である。
【図3】マルチプローブ110の構造を模式的に示す斜視図であり、マルチプローブ110の一部分を示すものである。
【図4】触針式プローブ10の撓みと干渉縞の変位との関係を説明する図であり、図4(a)は触針式プローブ10の上面図、図4(b)は断面図である。
【図5】触針式表面測定装置100のプローブ配列状態を模式的に示す断面図である。
【図6】表面形状測定中の触針式表面測定装置100の主要部の模式図である。
【図7】押し込み量zを段階的に変化させたときの触針式プローブ10の形状変化を模式的に示す側面図である。
【図8】初期値のx−z配列を測定値のx−z配列で修正する方法を説明するグラフである。
【図9】初期値のx−z配列を測定値のx−z配列で修正した結果を表すグラフの一例である。
【図10】工程A〜Hにおける触針式プローブ10の状態を示す断面図であり、図10(a)〜図10(h)はそれぞれ工程A〜Hに対応する。
【図11】工程I〜Nにおける触針式プローブ10の状態を示す断面図であり、図11(a)〜図11(f)はそれぞれ工程I〜Nに対応する。
【図12】触針式プローブ10の製造工程で用いられるマスクの概略図であり、図12(a)〜図12(c)はそれぞれ工程D、J、Lで用いられるマスクの平面図である。
【図13】工程Lで行う陽極接合中の触針式プローブ10の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1:ステージ 2:顕微鏡
3:CCDカメラ 4:レーザー光源
5:制御演算部 7:保持部
8:ピエゾ素子 10:触針式プローブ
11:レバー 12:探針
13:スペーサー 20,60:ガラス基板
50:シリコンウエハ 55:多結晶シリコン層
100:触針式表面測定装置 110:マルチプローブ
121〜127:干渉縞 G:ギャップ
S:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片持ちレバーと前記片持ちレバーの先端に設けられた探針とを有するプローブと、
前記片持ちレバーと所定の間隔で対向配置される透明基板とを備えることを特徴とするプローブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプローブ装置において、
前記プローブが複数設けられていることを特徴とするプローブ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のプローブ装置において、
前記複数のプローブは2次元的に配列されていることを特徴とするプローブ装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のプローブ装置の製造方法において、
半導体プロセスにより1枚のウエハに前記複数のプローブを作製する工程と、
前記複数のプローブのそれぞれの基部に前記所定の間隔を規定する介在層を形成する工程と、
前記介在層と前記透明基板とを接合する工程とを含むことを特徴とするプローブ装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプローブ装置の製造方法において、
前記介在層はシリコン層であり、前記透明基板はガラス基板であり、前記介在層と前記透明基板との接合に陽極接合を用いることを特徴とするプローブ装置の製造方法。
【請求項6】
片持ちレバーの先端に設けられた探針を試料に接触させることにより前記片持ちレバーを撓ませて前記試料の表面形状を測定する触針式表面測定装置において、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプローブ装置と、
単色光を前記透明基板を通して前記片持ちレバーへ照射する照明手段と、
前記片持ちレバーと透明基板との間隔の変化によって変位する干渉情報を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記干渉情報の位置から前記試料の表面形状データを算出する演算手段とを備えることを特徴とする触針式表面測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の触針式表面測定装置において、
前記プローブ装置を保持する保持部と前記試料を保持するステージとを相対的に移動させる駆動手段をさらに備えることを特徴とする触針式表面測定装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の触針式表面測定装置において、
前記演算手段は、前記干渉情報の位置と前記片持ちレバーと透明基板との間隔との関係を表す位置情報を用いて、検出された前記干渉情報の位置から前記片持ちレバーと透明基板との間隔を算出し、前記試料の表面形状データを算出することを特徴とする触針式表面測定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の触針式表面測定装置において、
前記位置情報は、前記片持ちレバーの撓み変形を表す理論式を、前記片持ちレバーに所定の撓み変形を与えたときの前記干渉情報の位置を実測して得た測定値で校正したものであることを特徴とする触針式表面測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−212182(P2007−212182A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29887(P2006−29887)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】