説明

プーリ及びそのめっき方法

【課題】 めっきの処理残しを低減させることができるプーリ及びそのめっき方法を提供する。
【解決手段】 プーリ11は、有底筒状のシャフト部12と、シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部13と、フランジ部の外周縁部に連続してシャフト部と同方向に開口する筒状のベルト掛け部14とが一体形成され、フランジ部の径方向外側端部に軽量化用の貫通孔22が形成されている。フランジ部及びベルト掛け部のなす角部には、貫通孔が頂部に配置されるように面取り部23が形成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリ及びそのめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プーリとして種々のものが提案されている(例えば特許文献1など)。図3は、こうしたプーリの一例を示す断面図である。同図に示されるように、このプーリ90は、有底筒状のシャフト部91と、シャフト部91の開口端に連続して外径方向に延出する段付き形状のフランジ部92と、フランジ部92の外周縁部に連続してシャフト部91と同方向に開口する筒状のベルト掛け部93とが一体形成されている。そして、フランジ部92の径方向外側端部には、軽量化用の貫通孔94が形成されている。プーリ90は、フランジ部92において図示しないボデーベアリングに回転可能に支持され、ベルト掛け部93に掛けられるベルトにより動力伝達されて回転駆動される。
【特許文献1】特開2003−314491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このプーリ90は、耐食性を確保するために表面にめっき処理が施される。図4は、このプーリ90に対するめっき処理態様を示す模式図である。図4(a)に示されるように、このプーリ90は、シャフト部91が下方に開口するように同シャフト部91を上向きにして、めっき槽97内に浸される。
【0004】
このとき、有底筒状のシャフト部91の内部空間には空気が残留したままである。一方、フランジ部92及びベルト掛け部93にて形成される内部空間には、貫通孔94から空気が抜けることで全体にめっき液が行き渡る。これにより、プーリ90の表面にめっき処理が施される。このような姿勢でプーリ90の表面にめっき処理するのは、めっき槽97からプーリ90を取り出すときに、フランジ部92に形成された孔98から不必要なめっき液を滴下させるためである。これにより、例えばプーリ90の形成する適宜の空間にめっき液が溜まってしまう場合に必須となる、めっき液を汲み出したり、この汲み出しを回避するために同空間の開口をシール部材で密閉したりする工程を割愛することができる。なお、内壁面にめっき処理が施されないシャフト部91は、腐食による強度劣化の影響の少ない部位となっている。
【0005】
しかしながら、図4(b)に拡大して示したように、フランジ部92及びベルト掛け部93のなす範囲Aで示した角部は、前記貫通孔94よりも径方向外側で、同貫通孔94の上端に連続するように配置されて、ポケット形状を呈している。従って、めっき処理の際、フランジ部92及びベルト掛け部93にて形成される内部空間に溜まった空気は、径方向外側へ、且つ、上方へと移動することから、上記角部に空気の溜まり部(エアポケット)が形成されてしまう。そして、この溜まり部の空気が抜けないことで、当該部へのめっき処理ができなくなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、めっきの処理残しを低減させることができるプーリ及びそのめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、有底筒状のシャフト部と、該シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部と、該フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と同方向に開口する筒状のベルト掛け部とが一体形成され、前記フランジ部の径方向外側端部に貫通孔が形成されたプーリにおいて、前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部には、前記貫通孔が頂部に配置されるように面取り部が形成されていることを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプーリにおいて、前記フランジ部は、透孔を有し、前記シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出する環状の第1フランジ部と、前記第1フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と逆方向に開口する筒状のベアリング保持部と、前記貫通孔を有し、前記ベアリング保持部の開口端に連続して外径方向に延出し、外周縁部において前記ベルト掛け部に連続する環状の第2フランジ部とからなることを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、有底筒状のシャフト部と、該シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部と、該フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と同方向に開口する筒状のベルト掛け部とが一体形成され、前記フランジ部の径方向外側端部に貫通孔が形成されたプーリを、前記シャフト部が下方に開口するように該シャフト部を上向きにして、めっき槽内に浸すプーリのめっき方法において、前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部には、前記貫通孔が頂部に配置されるように面取り部が形成されていることを要旨とする。
【0010】
(作用)
請求項1又は2に記載の発明によれば、例えば、このプーリにめっき処理を施す場合、該プーリは、前記シャフト部が下方に開口するように該シャフト部を上向きにして、めっき槽内に浸される。この際、前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部に溜まった空気は、前記面取り部に沿って頂部に配置された前記貫通孔から円滑に抜けていくため、めっきの処理残しが低減される。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部に溜まった空気は、前記面取り部に沿って頂部に配置された前記貫通孔から円滑に抜けていくため、めっきの処理残しが低減される。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したように、請求項1乃至3に記載の発明では、めっきの処理残しを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1(a)は、自動車のエンジンルーム内に搭載されるウォータポンプが備えるプーリ11を示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)の拡大図である。同図に示されるように、このプーリ11は、有底筒状のシャフト部12と、同シャフト部12の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部13と、同フランジ部13の外周縁部に連続して前記シャフト部12と同方向に開口する円筒状のベルト掛け部14とが一体形成されている。上記プーリ11は、前記シャフト部12及びベルト掛け部14が同心となるように、綱板の板材をプレス加工することで成形される。
【0014】
前記シャフト部12は、基端側(図1の左側)で拡径される段付き円筒形状を呈している。前記フランジ部13は、前記シャフト部12の開口端に連続して外径方向に延出する円環状の第1フランジ部15と、同第1フランジ部15の外周縁部に連続して前記シャフト部12と逆方向に開口する円筒状のベアリング保持部16と、同ベアリング保持部16の開口端に連続して外径方向に延出し、外周縁部において前記ベルト掛け部14に連続する円環状の第2フランジ部17とからなっている。つまり、上記フランジ部13は、ベアリング保持部16を介して段付き形状を呈している。
【0015】
上記第1フランジ部15には、軸線と平行に貫通する複数(例えば3個)の工具挿入用の透孔21が所定角度ごとに配設されている。上記第2フランジ部17は、シャフト部12の突出側に向かいながら拡径する円錐形状を呈している。そして、この第2フランジ部17の径方向外側端部には、軸線と平行に貫通する複数(例えば3個)の軽量化用の貫通孔22が所定角度ごとに配設されている。
【0016】
なお、図1(b)に示したように、これら貫通孔22は、上記フランジ部13(第2フランジ部17)及びベルト掛け部14の境界位置から離隔配置されている。これは、貫通孔22のプレス加工(穴開け加工)に係る金型の短寿命化を防止するためである。そして、上記フランジ部13(第2フランジ部17)及びベルト掛け部14のなす角部には、前記貫通孔22が頂部に配置されるように曲成させた面取り部23が形成されている。つまり、この面取り部23は、前記第2フランジ部17との間で形成する稜線上に貫通孔22が配置されるように形成されている。
【0017】
このような形状をなすプーリ11は、前記ベアリング保持部16においてウォータポンプのボデー31にベアリング32を介して回転可能に支持される。すなわち、このベアリング32は、インナーレースが上記ボデー31の形成する筒部の外周面に圧入にて固定されており、アウターレースがベアリング保持部16の内周面に圧入にて固定されている。なお、前記透孔21はベアリング32に対向して開口しており、同ベアリング32のインナーレースは、この透孔21から挿入される圧入工具にて直接押圧されることで、前記ボデー31の形成する筒部の外周面に圧入される。これは、ベアリング32を圧入する際、同ベアリング32のボールに不要な応力が加わってベアリング32の寿命が低下することを防止するためである。
【0018】
また、前記シャフト部12の軸方向先端部には、インペラ33が一体回転可能に嵌着されている。さらに、前記ベルト掛け部14には、外部の駆動源の動力を伝達するためのベルト34が掛けられている。プーリ11は、ベルト掛け部14に掛けられるベルト34により外部の駆動源から動力伝達されて回転駆動される。
【0019】
さて、上記プーリ11は、耐食性を確保するために表面にめっき処理が施される。図2は、プーリ11に対するめっき処理態様を示す模式図である。図2(a)に示されるように、このプーリ11は、シャフト部12が下方に開口するように同シャフト部12を上向きにして、めっき槽42内に浸される。本実施形態では、プーリ11は、軸線Oを鉛直方向に一致させてめっき槽42内で支持される。
【0020】
なお、プーリ11をめっき槽42内に浸した状態では、有底筒状のシャフト部12の内部空間には空気が残留したままである。一方、フランジ部13及びベルト掛け部14にて形成される内部空間に溜まった空気は、径方向外側へ、且つ、上方への移動に伴い貫通孔22等から抜ける。特に、前記面取り部23の形成により頂部に配置された貫通孔22は、フランジ部13において鉛直方向の高さが最大となる位置に配置されることから、図2(b)に拡大して示したように、前記フランジ部13及び前記ベルト掛け部14のなす角部に溜まった空気は、前記面取り部23に沿って前記貫通孔22から抜けていく。以上により、フランジ部13及びベルト掛け部14にて形成される内部空間には、全体にめっき液が行き渡る。この状態で、プーリ11をめっき槽42内で搬送することで、プーリ11の表面にめっき処理が施される。
【0021】
めっき処理を施したプーリ11をめっき槽42から取り出すと、不要なめっき液は滴下する。例えば、シャフト部12の外周面、ベアリング保持部16の内周面及び第1フランジ部15によって形成されるカップ状の空間に溜まっためっき液は、前記透孔21から抜けて滴下する。つまり、プーリ11をめっき槽42から取り出すのみで不要なめっき液が滴下するため、例えばプーリ11の形成する適宜の空間にめっき液が溜まってしまう場合に必須となる、めっき液を汲み出したり、この汲み出しを回避するために同空間の開口をシール部材で密閉したりする工程が不要となる。
【0022】
なお、内壁面にめっき処理が施されないシャフト部12は前記インペラ33を保持しうる強度を有すればよく、腐食による強度劣化の影響の少ない部位となっている。
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
【0023】
(1)本実施形態では、前記フランジ部13及び前記ベルト掛け部14のなす角部に溜まった空気は、前記面取り部23に沿って頂部に配置された前記貫通孔22から円滑に抜けていくため、めっきの処理残しが低減される。以上により、めっき不良率低減が可能となる。
【0024】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態において、フランジ部13は、段付き形状でなくてもよい。例えば、フランジ部13を円環状に成形してもよい。ただし、めっき槽42に浸した際、フランジ部13及びベルト掛け部14の形成する内部空間に溜まる空気を貫通孔22から円滑に抜くため、フランジ部13において同貫通孔22の鉛直方向の高さが最大となるように同フランジ部13を曲成させることが好ましい。
【0025】
・前記実施形態において、プーリ11をめっき槽42に浸す際、同プーリ11の軸線Oを必ずしも鉛直方向に一致させる必要はなく、シャフト部12内にめっき液が浸入しない範囲で傾斜させてもよい。つまり、シャフト部12を「上向き」にするとは、同シャフト部12を鉛直方向に一致させることを意味するものではなく、少なくともシャフト部12を水平方向よりも上方(好ましくは、鉛直方向に対し45度の傾斜角度までの範囲で上方)に向けることを意味する。ただし、このようにプーリ11を傾斜させてめっき槽42に浸す場合、フランジ部13及びベルト掛け部14の形成する内部空間に溜まる空気を貫通孔22から円滑に抜くため、フランジ部13において同貫通孔22の鉛直方向の高さが最大となるような傾斜角度を設定することが好ましい。あるいは、所定の傾斜角度に合わせて、上記を満足するように前記面取り部23等の形状を調整する。いずれにせよ、めっき処理の際、プーリ11の傾斜が許容される分、当該処理の自由度が増大される。
【0026】
・前記実施形態において、シャフト部12は、段付き形状でなくてもよい。例えば、シャフト部12は、有底円筒状や有底多角筒状であってもよい。
・前記実施形態において、ベルト掛け部14は、段階的に拡開される段付き円筒形状(いわゆる段車に相当する形状)や、徐々に拡開される円錐形状(いわゆる円錐ベルト車に相当する形状)を呈していてもよい。
【0027】
・前記実施形態において、ベルト掛け部14は、外部の駆動源の動力をベルト34を介して受ける従動側の機能を有したが、例えば外部機器にベルト34を介して動力を付与する駆動側の機能を有してもよい。
【0028】
・本発明は、ウォータポンプ以外の適宜の装置(機械)に適用してもよい。例えば、シャフト部12に、他の回転機器を回転可能に支持させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)(b)は、本発明の一実施形態を示す断面図及び拡大図。
【図2】(a)(b)は、同実施形態のめっき処理態様を示す模式図。
【図3】従来例を示す断面図。
【図4】(a)(b)は、従来例のめっき処理態様を示す模式図。
【符号の説明】
【0030】
11…プーリ、12…シャフト部、13…フランジ部、14…ベルト掛け部、15…第1フランジ部、16…ベアリング保持部、17…第2フランジ部、21…透孔、22…貫通孔、23…面取り部、42…めっき槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のシャフト部と、該シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部と、該フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と同方向に開口する筒状のベルト掛け部とが一体形成され、前記フランジ部の径方向外側端部に貫通孔が形成されたプーリにおいて、
前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部には、前記貫通孔が頂部に配置されるように面取り部が形成されていることを特徴とするプーリ。
【請求項2】
請求項1に記載のプーリにおいて、
前記フランジ部は、
透孔を有し、前記シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出する環状の第1フランジ部と、
前記第1フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と逆方向に開口する筒状のベアリング保持部と、
前記貫通孔を有し、前記ベアリング保持部の開口端に連続して外径方向に延出し、外周縁部において前記ベルト掛け部に連続する環状の第2フランジ部とからなることを特徴とするプーリ。
【請求項3】
有底筒状のシャフト部と、該シャフト部の開口端に連続して外径方向に延出するフランジ部と、該フランジ部の外周縁部に連続して前記シャフト部と同方向に開口する筒状のベルト掛け部とが一体形成され、前記フランジ部の径方向外側端部に貫通孔が形成されたプーリを、
前記シャフト部が下方に開口するように該シャフト部を上向きにして、めっき槽内に浸すプーリのめっき方法において、
前記フランジ部及び前記ベルト掛け部のなす角部には、前記貫通孔が頂部に配置されるように面取り部が形成されていることを特徴とするプーリのめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−266419(P2006−266419A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86907(P2005−86907)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】