説明

ヘッドメンテナンス方法、ヘッドメンテナンス装置、及びプリンタ

【課題】待機状態が続いてもクリーニング動作によるインクの消費量を少なく抑えつつ印刷ヘッドを良好な状態に維持する。
【解決手段】本発明に係るヘッドメンテナンス方法は、インクノズルを有する印刷ヘッド21に対して、インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作、インクノズルから通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作、インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作の何れかのクリーニング動作を、設定された条件に応じて選択的に行う方法であって、クリーニング動作を終えてからの経過時間をクリーニング終了タイマー53により計測し、クリーニング終了タイマー53により計測した経過時間Tfが所定時間になったときに、制御部52は微量フラッシングモード用駆動制御回路57を起動させて微量フラッシング動作を行い、クリーニング終了タイマー53をリセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドをクリーニング動作によりメンテナンスするヘッドメンテナンス方法、ヘッドメンテナンス装置、及びプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドを備えた装置として、インクノズルからインク液を吐出することにより、印刷媒体上に所望の印刷を行うインクジェットプリンタが挙げられる。
このようなインクジェットプリンタは、待機状態などにおいてインクノズルからインク液が吐出されない状態が一定時間以上継続すると、インク液の溶媒である水分が蒸発してインクノズル内のインク液の粘度が増加し、さらにはインクノズルが目詰まりを起こし、インク液が吐出されなかったり、吐出されても本来の大きさやスピードのインク液ではなく、印刷不良が発生したりすることがある(以下、ドット抜けと称する)。
また、印刷ヘッドの使用状態によっては、例えば、印刷ヘッドの往復移動が繰り返し行なわれると、各インクノズル内のインクメニスカスが壊れることがあり、その結果、ドット抜けが生じることもある。
【0003】
このため、インクジェットプリンタでは、印刷ヘッドが待機位置に退避している時には、印刷ヘッドのインクノズルをキャップで覆って、インクノズル内のインク液の粘度増加を防ぐようにしている。
しかし、待機時等に印刷ヘッドをキャップで覆うだけでは、長期に渡って印刷処理が実施されない場合等には、インクノズル内のインク液の粘度増加を防ぎきれない。また、印刷処理が長時間連続実施された場合などには、印刷途中でインクノズル内のインクメニスカスが壊れて、ドット抜けが発生することがある。
そこで、インクジェットプリンタには、インクノズル内の粘度増加したインク液を強制排除したり、インクメニスカスの壊れを回復したりするクリーニング機構が備えられている。
【0004】
このようなクリーニング機構により行われるクリーニング動作としては、インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作、インクノズルから通常フラッシング動作より微量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作、キャップ側に接続されたインク吸引ポンプを駆動して印刷ヘッド内に残留しているインク液の吸引を一定時間実施することにより、インクノズル内の増粘インクや気泡を外部に排除すると同時に新しいインク液を各インクノズルに供給し直す吸引吐出動作、等がある。
【0005】
従来のインクジェットプリンタとして、記録開始前に、前回の回復動作(クリーニング動作)後、それまでに経過した時間とこれから行う記録のための記録所要時間との和を求め、その和の値が回復動作実施のために設定された時間間隔より大きい場合は記録開始に先立って回復動作を行うようにし、スタンバイ中でも回復動作が必要と考えられる時間が経過すると、回復手段が起動されて記録ヘッドに対する回復動作が実施されるとともに、連続して記録が行われる途中で回復動作が必要になるのを予測することによって記録開始前に回復動作を行うようになしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平3−297657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の特許文献1などの従来のプリンタでは、所定の経過時間においてクリーニング動作を行うが、印刷が行われない待機状態が長く続いた場合には、何度もクリーニング動作が行われてその度にインクノズルからインクが吐出されるため、消費されるインク量が多くなってしまう。
【0008】
例えば、業務用に使用されるプリンタなどでは、常時電源がオンの状態とされるような使用形態があり、その場合には夜間や休業日などに待機状態が長く続くことが考えられ、メンテナンスのためのインクの消費量が多くなりやすい状況となる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、待機状態が続いてもクリーニング動作によるインクの消費量を少なく抑えつつ印刷ヘッドを良好な状態に維持することができるヘッドメンテナンス方法、ヘッドメンテナンス装置、及びプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明に係るヘッドメンテナンス方法は、インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドに対して、前記インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作、前記インクノズルから前記通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作、前記インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作の何れかのクリーニング動作を、設定された条件に応じて選択的に行うヘッドメンテナンス方法であって、前記クリーニング動作を終えてからの経過時間をクリーニング終了タイマーにより計測し、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間が所定時間になったときに、前記微量フラッシング動作を行い、前記クリーニング終了タイマーをリセットすることを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係るヘッドメンテナンス装置は、インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドをクリーニングするためのクリーニング機構と、前記クリーニング機構に、前記インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作を行わせる通常フラッシングモード用駆動制御回路と、前記クリーニング機構に、前記インクノズルから前記通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作を行わせる微量フラッシングモード用駆動制御回路と、前記クリーニング機構に、前記インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作を行わせる吸引吐出モード用駆動制御回路と、前記クリーニング機構を動作させてからの経過時間を計測するクリーニング終了タイマーと、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間が所定時間になったときに前記微量フラッシングモード用駆動制御回路を起動するとともに前記クリーニング終了タイマーをリセットする制御部と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
これらのヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス装置によれば、インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作、インクノズルから通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作、インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作の何れかのクリーニング動作を終えてからの経過時間が所定時間になったときに、微量フラッシング動作を行い、さらに所定時間が経過する度に微量フラッシング動作が行われる。そのため、印刷ヘッドの待機状態が長く継続しても、微量フラッシング動作を所定時間毎に行うことによって、通常フラッシングを行う場合と比較して極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができる。
【0013】
本発明のヘッドメンテナンス方法において、印刷を開始する前に、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間の増加に応じて、前記微量フラッシング動作、前記通常フラッシング動作、前記吸引吐出動作の順に何れかが選択されて印刷前クリーニング動作を行うように設定されており、前記所定時間は、前記印刷前クリーニング動作が前記微量フラッシング動作から前記通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明のヘッドメンテナンス装置において、前記制御部は、印刷を開始する前に、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間の増加に応じて、前記通常フラッシングモード用駆動制御回路、前記微量フラッシングモード用駆動制御回路、前記吸引吐出モード用駆動制御回路の順に何れかを選択的に起動して、前記クリーニング機構に印刷前クリーニング動作を行わせるとともに、前記所定時間は、前記印刷前クリーニング動作が前記微量フラッシング動作から前記通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されていることが好ましい。
【0015】
これらのヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス装置によれば、電源がオフとなった状態で時間が経過していくと、電源がオンになって印刷が開始される際に、クリーニング終了タイマーによる計測時間の増加に応じて、微量フラッシング動作、通常フラッシング動作、吸引吐出動作の順に何れかが選択されて印刷前クリーニング動作が行われるようになる。
また、前記所定時間が、印刷前クリーニング動作が微量フラッシング動作から通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されているため、常時電源がオンの状態のままであれば、上記のように所定時間が経過する度に微量フラッシング動作を行ってヘッドメンテナンスを行うとともに、通常フラッシング動作を行う時間となる前にクリーニング終了タイマーがリセットされて、印刷前クリーニング動作として常に微量フラッシング動作を行うこととなる。また、印刷ヘッドの待機状態が長く継続したときに微量フラッシング動作を行うまでの時間を長くすることができ、待機状態におけるクリーニング動作の回数を少なくできる。そして、待機状態におけるクリーニング動作及び印刷前クリーニング動作を微量フラッシング動作のみにより行うようになるため、インクの消費量を少なく抑えることができる。
【0016】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係るプリンタは、上記の本発明に係るヘッドメンテナンス装置を備えていることを特徴としている。
【0017】
このようなプリンタによれば、印刷ヘッドに対するクリーニング動作として微量フラッシング動作を好ましいタイミングで行い、極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができる。したがって、高品質な印刷状態を維持できるとともに、廃インクとなる無駄なインク消費を少なくしてプリンタのランニングコストを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明に係るヘッドメンテナンス方法、ヘッドメンテナンス装置、及びプリンタによれば、前回のクリーニング動作を終えてからの経過時間が所定時間になったときに微量フラッシング動作を行い、さらに所定時間が経過する度に微量フラッシング動作が行われるようになっている。そのため、印刷ヘッドの待機状態が長く継続しても、微量フラッシング動作を所定時間毎に行うことによって、通常フラッシングを行う場合と比較して極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができる。したがって、インクの無駄を極力少なく抑えつつ印刷品質を良好な状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係るヘッドメンテナンス方法、ヘッドメンテナンス装置、及びプリンタを詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るヘッドメンテナンス方法を実施するヘッドメンテナンス装置を備えたプリンタの外観斜視図、図2は図1に示したプリンタのロール紙カバーとカートリッジカバーとを開いた状態の斜視図、図3は図2に示したプリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図、図4は図1に示したプリンタにおけるクリーニング機構を説明する為のブロック図、図5は図4に示したプリンタに搭載されている制御部で実施されるクリーニング動作の手順を示すフローチャートである。
【0020】
本実施形態のプリンタ1は、複数種のカラーインク液を使用してロール紙にカラー印刷するインクジェットプリンタであり、図1に示すように、プリンタ本体を覆うプリンタケース2の前面には、ロール紙カバー5及びインクカートリッジカバー7が開閉自在に装備されている。更に、プリンタケース2の前面には、電源スイッチ3と共にクリーニングボタン37やフィードスイッチ38、4つの表示ランプ41〜44等も配置されている。クリーニングボタン37は、印刷ヘッド21の目詰まり等の不具合を解消するために印刷ヘッド21のクリーニング処理を手動で実行する為の操作部材である。
【0021】
ロール紙カバー5を開くと、図2に示すように、印刷用紙であるロール紙11を収容した用紙収容部13が開放状態になって、用紙の交換が可能になる。
また、インクカートリッジカバー7を開くと、図2に示すように、カートリッジ装着部15が開放状態になり、該カートリッジ装着部15へのインクカートリッジ17の着脱が可能になる。
【0022】
インクカートリッジ17は、カートリッジケース18内に複数個のカラーインクパックを収容したものである。本実施形態のプリンタ1の場合は、インクカートリッジカバー7を開く動作に連動して、カートリッジ装着部15の前方にインクカートリッジ17が所定距離だけ引き出される構成になっている。
【0023】
プリンタケース2内の用紙収容部13の上方には、図3に示すように、印刷ヘッド21を搭載したキャリッジ23が装備される。キャリッジ23は、ロール紙11の幅方向に沿って延在するガイド部材25によって用紙幅方向に移動自在に支持されると共に、ロール紙11の幅方向に延在する無端ベルト26aと該無端ベルト26aを駆動するキャリッジモータ26bとによって、プラテン28の上方をロール紙11の幅方向に往復移動可能になっている。
【0024】
図示のように、カートリッジ装着部15の上方が、往復移動するキャリッジ23の待機位置(ホームポジション)となっている。そして、この待機位置の下方には、キャリッジ23の下面に露出する印刷ヘッド21のインクノズルを覆うキャップ27と、キャップ27を介して印刷ヘッド21の各インクノズル内のインクを吸引して廃棄するインク吸引機構29とが装備されている。
【0025】
インクカートリッジ17内の各インクパックは、インクカートリッジ17をカートリッジ装着部15に装着した際に、カートリッジ装着部15側に装備されたインク供給針がインクパックのインク供給口に差込接続される。カートリッジ装着部15のインク供給針には、プリンタケース2内に固定されたインク流路31が接続され、このインク流路31には、可撓性のインクチューブ33の一端が接続されている。インクチューブ33の他端は、印刷ヘッド21上に装備された背圧調整ユニット35を介して、印刷ヘッド21の各インクノズルに接続されている。
【0026】
即ち、インクカートリッジ17内の各インクパックのインク液は、カートリッジ装着部15のインク供給針から、インク流路31、インクチューブ33、背圧調整ユニット35を経て、印刷ヘッド21上の各インクノズルに供給されるようになっている。
【0027】
本実施形態のプリンタ1は、図4に示すヘッドメンテナンス装置51を備えている。
このヘッドメンテナンス装置51は、印刷ヘッド21における各インクノズル内のインク液の粘度増大やインクメニスカスの壊れによってドット抜け等の印刷不良が発生することを防止するために、印刷ヘッド21に対してクリーニング動作を実施するものである。
【0028】
ヘッドメンテナンス装置51は、印刷ヘッド21をクリーニングするためのクリーニング機構59と、クリーニング機構59を通常フラッシングモードで動作させる通常フラッシングモード用駆動制御回路56と、クリーニング機構59を微量フラッシングモードで動作させる微量フラッシングモード用駆動制御回路57と、クリーニング機構59を吸引吐出モードで動作させる吸引吐出モード用駆動制御回路58と、クリーニング機構59を動作させてからの経過時間を計測するクリーニング終了タイマー53と、印刷ヘッド21による累積印刷時間を計測する累積印刷タイマー54と、EEPROMなどから構成されるメモリ55と、通常フラッシングモード用駆動制御回路56または微量フラッシングモード用駆動制御回路57あるいは吸引吐出モード用駆動制御回路58を設定された条件に応じて選択的に起動する制御部52と、を備えている。
【0029】
クリーニング機構59は、インクノズル内の残留インクをインク吸引ポンプで吸引するインク吸引機構29(図3参照)やインクノズル先端をワイパブレードにより払拭するワイピング機構30(図3参照)や全てのインクノズルから微量のインク液を吐出させるフラッシング機構(図示省略)などで構成される。
【0030】
通常フラッシングモード用駆動制御回路56による通常フラッシングモードでのクリーニング動作は、インク吸引機構29による吸引吐出処理を含まず、全てのインクノズルから微量のインク液を吐出させる通常フラッシング動作を行うものである。
【0031】
微量フラッシングモード用駆動制御回路57による微量フラッシングモードでのクリーニング動作は、インク吸引機構29による吸引吐出処理を含まず、全てのインクノズルから通常フラッシングモードよりさらに少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作を行うものである。
微量フラッシング動作では、通常フラッシング動作と比較してインク滴の吐出数(ドット数)が少なく設定されているとともに、1ドットあたりのインク重量も少なく設定されている。例えば、通常フラッシング動作におけるドット数は印刷ヘッド21を駆動するCPUにおいて612セグメントで規定されており、微量フラッシング動作におけるドット数は468セグメントで規定されている。また、通常フラッシング動作においては各インクノズルの開口径全体から1ドットのインク滴を吐出するのに対して、微量フラッシング動作においては各インクノズルからその開口径より小さいインク滴を吐出するようにしており、例えば微量フラッシング動作における1ドットあたりのインク重量を通常フラッシング動作の0.09倍となるように設定している。
【0032】
吸引吐出モード用駆動制御回路58による吸引吐出モードでのクリーニング動作は、印刷ヘッド21におけるインクノズルの目詰まり等の不具合を解消するために、インク吸引機構29のインク吸引ポンプを作動させて、所定量のインク液を印刷ヘッド21のインクノズルから吐出させながら吸引する吸引吐出処理を含み、更に必要に応じて、吸引吐出処理の後に、インクノズルの先端面を払拭するワイピング処理等の規定のクリーニング処理が実行されるものである。吸引吐出処理におけるインク液の吸引量は、インクノズルの目詰まり度等に応じてレベル変更が可能にされている。
【0033】
クリーニング終了タイマー53は、クリーニング機構59が印刷ヘッド21に対してクリーニング動作を終えてからの経過時間を計測するものであり、その計測時間はメモリ55に逐次記憶される。本実施形態のプリンタ1は常時電源オンの状態で使用されることが想定されているが、電源がオフになった場合には、再度電源がオンになってホストコンピュータから送信される時刻情報と、メモリ55に記憶された経過時間とを基に、前回のクリーニング動作を終えてからの実際の経過時間を算出するようになっている。
【0034】
累積印刷タイマー54は、印刷ヘッド21による累積印刷時間を計測するものであるが、実際にはキャップ27が印刷ヘッド21のインクノズルを覆っていない時間を累積して計測しており、この計測値を累積印刷時間とみなしている。また、累積印刷タイマー54により計測された時間はメモリ55に逐次記憶される。
【0035】
制御部52は、通常フラッシングモード用駆動制御回路56または微量フラッシングモード用駆動制御回路57あるいは吸引吐出モード用駆動制御回路58を設定された条件に応じて選択的に起動するものであり、その動作の一つとして、クリーニング終了タイマー53による計測時間が所定時間になったときに微量フラッシングモード用駆動制御回路57を起動するとともにクリーニング終了タイマー53をリセットすることが設定されている。
【0036】
また、制御部52は、印刷ヘッド21により印刷を開始する前に、そのときのクリーニング終了タイマー53による計測時間の増加に応じて、通常フラッシングモード用駆動制御回路56、微量フラッシングモード用駆動制御回路57、吸引吐出モード用駆動制御回路58の順に何れかを選択的に起動して、クリーニング機構59に印刷前クリーニング動作を行わせる。印刷前クリーニング動作の際に起動する制御回路を選択するための条件の一例として、次の表1に示すテーブルが設定されている。なお、表1に示す経過時間Tfは、クリーニング終了タイマー53により計測された経過時間であり、累積印刷時間T3は、累積印刷タイマー54により計測された時間である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1におけるA領域〜D領域のフラッシング動作の判定表の一例を次の表2に示す。なお、この表2中の数値は印刷ヘッド21を駆動するCPUのセグメントを示している。すなわち、吐出されるインク滴のドット数を示している。
【0039】
【表2】

【0040】
表1及び表2を参照して、印刷前クリーニング動作として行われる動作の選択について説明する。
クリーニング終了タイマー53により計測された経過時間Tfが5時間未満では、累積印刷時間T3が2時間未満でA領域のクリーニング動作、すなわち微量フラッシング動作が行われる。経過時間Tfが5時間未満かつ累積印刷時間T3が2時間以上5時間未満では、B領域のクリーニング動作、すなわちフラッシング微振動動作と微量フラッシング動作が行われる。なお、フラッシング微振動動作では、インクノズルからインク滴が吐出されない程度にインクノズル内のインク液を振動させる。
また、経過時間Tfが5時間未満かつ累積印刷時間T3が5時間以上では、吸引吐出モードでのクリーニング動作のうち、通常レベルの吸引吐出動作(表1でTCL5と示す)を行う。なお、吸引吐出モードでのクリーニング動作を行うと、経過時間Tfとともに累積印刷時間T3もリセットされるようになっている。
【0041】
クリーニング終了タイマー53により計測された経過時間Tfが5時間以上192時間未満では、累積印刷時間T3が1時間未満でC領域のクリーニング動作、すなわち通常フラッシング動作が行われる。経過時間Tfが5時間以上192時間未満かつ累積印刷時間T3が1時間以上5時間未満では、D領域のクリーニング動作、すなわちフラッシング微振動動作と微量フラッシング動作と通常フラッシング動作が行われる。
また、経過時間Tfが5時間以上192時間未満かつ累積印刷時間T3が5時間以上では、吸引吐出モードでのクリーニング動作のうち、通常レベルの吸引吐出動作(TCL5)を行う。
【0042】
クリーニング終了タイマー53により計測された経過時間Tfが192時間以上720時間未満では、累積印刷時間T3の大小に拘わらず通常レベルの吸引吐出動作(TCL5)が行われる。
【0043】
クリーニング終了タイマー53により計測された経過時間Tfが720時間以上では、累積印刷時間T3の大小に拘わらず強レベルの吸引吐出動作(表1でTCL6と示す)が行われる。なお、強レベルの吸引吐出動作では、インク吸引機構29のインク吸引ポンプを作動させる際にキャップ27内の空間と外気とを連通させる大気連通路の弁を閉め、キャップ27により覆ったインクノズルの出口側の空間を負圧にすることで、通常レベルの吸引吐出動作の時より強い吸引力をインクノズルに作用させる。
【0044】
また、印刷前クリーニング動作とは別に、印刷ヘッド21の待機状態において、クリーニング終了タイマー53による計測時間が所定時間になったときに、制御部52は微量フラッシングモード用駆動制御回路57を起動してヘッドメンテナンスを行うようになっている。本実施形態では、その所定時間が、印刷前クリーニング動作が微量フラッシング動作から通常フラッシング動作に切り替わる時間、すなわち、上記の経過時間Tf=5時間に設定されている。
【0045】
次に、印刷ヘッド21の待機状態におけるヘッドメンテナンス方法について、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、前回のクリーニング動作が終了してからの経過時間、すなわちクリーニング終了タイマー53による計測時間が、上記所定時間(Tf≧5)になったことを制御部52が検知すると、待機時ヘッドメンテナンス動作のシーケンスが起動される(ステップS01)。それにより、制御部52は微量フラッシングモード用駆動制御回路57を起動させて、クリーニング機構59に微量フラッシング動作を行わせる(ステップS02)。上記所定時間は、前回のクリーニング動作が終了してからインクノズルのインク状態が悪化するより早い時間に設定されており、微量フラッシング動作によるクリーニングで十分なヘッドメンテナンス効果が得られる。
【0046】
微量フラッシング動作が終了したら、制御部52はクリーニング終了時刻をメモリ55に記憶させ、クリーニング終了タイマー53の計測時間(経過時間Tf)をリセットする(ステップS03)。
【0047】
次いで、微量フラッシング動作によりキャップ27内に吐出されて増加したキャップ27内のインク貯留量を算出する(ステップS04)。なお、インク貯留量は、フラッシング時のセグメントを基準にして算出すると良い。例えば、インク貯留量の算出式は、「貯留量[seg]=前回算出された貯留量+468×0.09」で表される。なお、この式中、468は微量フラッシング動作のセグメント数であり、それを0.09倍しているのは、微量フラッシング動作における1ドットあたりのインク重量が通常フラッシング動作の0.09倍であるためである。
【0048】
キャップ27内のインク貯留量を算出したら、それがキャップ27に貯留可能なインク量の閾値以上となっているかどうかを判別する(ステップS05)。なお、このときに用いる閾値は、実際にキャップ27に貯留可能なインク量の最大値に対して多少のマージンを設定した小さい値としておく。
【0049】
ステップS05によりキャップ27内のインク貯留量が閾値以上となっている場合には、キャップ27内のインクを排出する空吸引動作を行う(ステップS06)。空吸引動作では、印刷ヘッド21がインクノズルを覆うキャップ27の直上から外れた位置となるように、キャリッジ23を微速で空吸引ポジション(ホームポジションから側方にずれた位置に設定されている)に移動させ、その後、インク吸引機構29におけるインク吸引ポンプを一定時間(通常の吸引吐出動作時よりも短時間の駆動でよい)作動させる。
空吸引動作を終えたら、待機時ヘッドメンテナンス動作のシーケンスが終了する(ステップS07)。
【0050】
ステップS05によりキャップ27内のインク貯留量が閾値以上となっていない場合には、待機時ヘッドメンテナンス動作のシーケンスが終了する(ステップS07)。
【0051】
このように、待機時ヘッドメンテナンス動作のシーケンスを実施することで、前回のクリーニング動作を終えてからの経過時間Tfが所定時間になったときに、微量フラッシング動作が行われ、さらに所定時間が経過する度に微量フラッシング動作が行われる。そのため、プリンタ1の電源がオンの状態で、印刷ヘッド21の待機状態が長く継続しても、微量フラッシング動作を所定時間毎に行うことによって、通常フラッシング動作を行う場合と比較して極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができる。
【0052】
また、プリンタ1の電源がオフとなった状態で時間が経過した場合には、電源がオンになって印刷が開始される際に、表1に示したようにクリーニング終了タイマー53による計測時間の増加に応じて、微量フラッシング動作、通常フラッシング動作、吸引吐出動作の順に何れかが選択されて印刷前クリーニング動作が行われるようになる。したがって、待機時ヘッドメンテナンス動作が行われない場合には、その時のインクノズルの状態に適した印刷前クリーニング動作が行われる。
【0053】
また、微量フラッシング動作を行う所定時間が、印刷前クリーニング動作が微量フラッシング動作から通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されているため、印刷前クリーニング動作が通常フラッシング動作に切り替わる前に微量フラッシング動作が行われてクリーニング終了タイマーがリセットされる。そのため、待機状態のクリーニング動作のみならず、印刷前クリーニング動作として常に微量フラッシング動作を行うこととなる。
【0054】
また、微量フラッシング動作を行う所定時間を、印刷前クリーニング動作が微量フラッシング動作から通常フラッシング動作に切り替わる時間より早い時間に設定しても良いが、切り替わる時間に設定する方が、印刷ヘッドの待機状態が長く継続したときに微量フラッシング動作を行うまでの時間を長くでき、待機状態におけるクリーニング動作の回数を少なくできる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態のヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス装置51によれば、極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができ、インクの無駄を極力少なく抑えつつ印刷品質を良好な状態に維持することができる。
また、本実施形態のプリンタ1によれば、印刷ヘッド21に対するクリーニング動作として微量フラッシング動作を好ましいタイミングで行い、極めて少ないインク消費量でインクノズルの状態を良好に保つことができる。したがって、高品質な印刷状態を維持できるとともに、廃インクとなる無駄なインク消費を少なくしてプリンタ1のランニングコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係るヘッドメンテナンス方法を実施するヘッドメンテナンス装置を備えたプリンタの外観斜視図である。
【図2】図1に示したプリンタのロール紙カバーとカートリッジカバーとを開いた状態の斜視図である。
【図3】図2に示したプリンタからプリンタケースを取り外した状態の斜視図である。
【図4】図1に示したプリンタにおけるヘッドメンテナンス装置を説明する為のブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るヘッドメンテナンス方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1…プリンタ、2…プリンタケース、3…電源スイッチ、5…ロール紙カバー、7…インクカートリッジカバー、37…クリーニングボタン、41…表示ランプ、51…ヘッドメンテナンス装置、52…制御部、53…クリーニング終了タイマー、54…累積印刷タイマー、55…メモリ、56…通常フラッシングモード用駆動制御回路、57…微量フラッシングモード用駆動制御回路、58…吸引吐出モード用駆動制御回路、59…クリーニング機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドに対して、前記インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作、前記インクノズルから前記通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作、前記インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作の何れかのクリーニング動作を、設定された条件に応じて選択的に行うヘッドメンテナンス方法であって、
前記クリーニング動作を終えてからの経過時間をクリーニング終了タイマーにより計測し、
前記クリーニング終了タイマーによる計測時間が所定時間になったときに、前記微量フラッシング動作を行い、前記クリーニング終了タイマーをリセットすることを特徴とするヘッドメンテナンス方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドメンテナンス方法において、
印刷を開始する前に、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間の増加に応じて、前記微量フラッシング動作、前記通常フラッシング動作、前記吸引吐出動作の順に何れかが選択されて印刷前クリーニング動作を行うように設定されており、
前記所定時間は、前記印刷前クリーニング動作が前記微量フラッシング動作から前記通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されていることを特徴とするヘッドメンテナンス方法。
【請求項3】
インク液を吐出可能なインクノズルを有する印刷ヘッドをクリーニングするためのクリーニング機構と、
前記クリーニング機構に、前記インクノズルからインク液を吐出させる通常フラッシング動作を行わせる通常フラッシングモード用駆動制御回路と、
前記クリーニング機構に、前記インクノズルから前記通常フラッシング動作より少量のインク液を吐出させる微量フラッシング動作を行わせる微量フラッシングモード用駆動制御回路と、
前記クリーニング機構に、前記インクノズルからインク液を吸引して吐出させる吸引吐出動作を行わせる吸引吐出モード用駆動制御回路と、
前記クリーニング機構を動作させてからの経過時間を計測するクリーニング終了タイマーと、
前記クリーニング終了タイマーによる計測時間が所定時間になったときに前記微量フラッシングモード用駆動制御回路を起動するとともに前記クリーニング終了タイマーをリセットする制御部と、を備えていることを特徴とするヘッドメンテナンス装置。
【請求項4】
請求項3に記載のヘッドメンテナンス装置において、
前記制御部は、印刷を開始する前に、前記クリーニング終了タイマーによる計測時間の増加に応じて、前記通常フラッシングモード用駆動制御回路、前記微量フラッシングモード用駆動制御回路、前記吸引吐出モード用駆動制御回路の順に何れかを選択的に起動して、前記クリーニング機構に印刷前クリーニング動作を行わせるとともに、
前記所定時間は、前記印刷前クリーニング動作が前記微量フラッシング動作から前記通常フラッシング動作に切り替わる時間に設定されていることを特徴とするヘッドメンテナンス装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のヘッドメンテナンス装置を備えていることを特徴とするプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−118317(P2007−118317A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311947(P2005−311947)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】