説明

ヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構ならびにそれを備えた記録装置

【課題】印字ヘッドのインクノズルにおける増粘状態のインクによる吐出不良をなくし、インクノズルを常に良好な状態に維持して高品質な印刷を可能とするヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構ならびに記録装置を提供する。
【解決手段】ノズル形成面にヘッドキャップを密着させてインクノズルからインクを吸引する吸引クリーニング及び印字休止時にヘッドキャップをノズル形成面に密着させて保護するキャッピングを行うヘッドメンテナンス方法であって、電源の投入時に、ノズル形成面の開放時間に基づいて、インクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するキャップセットクリーニング判定を行うとともに、インクカートリッジの交換時にも、キャップセットクリーニング判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタなどの印字ヘッドのメンテナンスを行うヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構ならびにそれを備えた記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、多数枚のブランクCDやDVDなどのメディアにデータの書き込みを行うディスクダビング装置や、データの書き込みとレーベル印刷を行ってメディアを制作して発行可能なCD/DVDパブリッシャなどのメディア処理装置が知られている。この種のメディア処理装置は、メディアへデータを書き込むドライブ及びメディアのレーベル面に印刷を施す記録装置であるプリンタを備えている。
【0003】
一般に、この種のプリンタは、往復移動可能なキャリッジに装填されたインクジェットヘッドが複数のインクノズルからインク滴を所望の位置に噴射することによって印字を行うように構成されている。インクジェットヘッドのノズル形成面には、印字の際にインクやごみ等の異物が付着することがあるため、印宇領域外で適宜クリーニングする必要がある。
【0004】
そこで、インクジェットヘッドによる印字領域から外れたメンテナンス領域にインクジェットヘッドの保守動作を行うヘッドメンテナンス機構を配置し、このヘッドメンテナンス機構によって、インクジェットヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させて増粘状態のインクを吸引する吸引クリーニング、インクジェットヘッドのノズル形成面の汚れを払拭するワイピング、インクノズルの詰まりを防止するためにヘッドキャップをノズル形成面に密着させるキャッピング、インクジェットヘッドのインクノズルでの増粘インクを除去するために、印字開始前あるいは定期的にインクジェットヘッドのインクノズルからインクをヘッドキャップ内に吐出するフラッシングなどを行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−1835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、印刷終了後は、キャッピングによってインクジェットヘッドのインクノズルにヘッドキャップが密着されて保護されるため、通常は、キャッピングが行われた状態で電源がOFFされる。しかし、例えば、印刷中にコンセントが抜かれたような場合、通常の電源OFF時のシーケンスが行われないため、キャッピングが行われない状態となる恐れがある。このため、その後に電源をONしたときに、キャッピングの有無及び電源のOFF状態の時間からインクノズルの開放時間を求め、その開放時間が長時間である場合に、インクジェットヘッドのインクノズルから増粘状態となっているインクを吸引するキャップセットクリーニングを行っている。
【0006】
しかしながら、インクカートリッジの交換作業を行った後に電源をONすると、一律にインクカートリッジの交換時のシーケンスが実行されて簡易的に微量のインクを吸引する程度の交換時クリーニングが実行されるため、前述したようなキャッピングされずに電源がOFFされた後であっても、キャップセットクリーニングが行われないことがあり、増粘状態のインクによる吐出不良が生じる虞があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、印字ヘッドのインクノズルにおける増粘状態のインクによる吐出不良をなくし、インクノズルを常に良好な状態に維持して高品質な印刷を可能とするヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構ならびに記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明に係るヘッドメンテナンス方法は、印字ヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させてインクノズルからインクを吸引する吸引クリーニング及び印字休止時に前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させて保護するキャッピングを行うヘッドメンテナンス方法であって、電源の投入時に、前記印字ヘッドの前記ノズル形成面の開放時間に基づいて、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから強制的にインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するキャップセットクリーニング判定を行うとともに、前記印字ヘッドへ供給するインクが貯留されたインクカートリッジの交換時にも、前記キャップセットクリーニング判定を行うことを特徴とする。
【0009】
このヘッドメンテナンス方法によれば、電源の投入時のみならずインクカートリッジの交換時にも、印字ヘッドのノズル形成面の開放時間に基づいて、印字ヘッドに対してインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するので、例えば、キャッピングが長時間行われていない状態の後における、電源投入時及びインクカートリッジの交換時の何れにおいても、キャップセットクリーニングによってインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引し、インクノズルにおけるインクの乾燥による吐出不良を防止することができる。
また、印刷開始直前にキャップセットクリーニングを行う場合と比較して、印刷開始時におけるユーザの待ち時間を削減することができる。
【0010】
また、印刷開始前に、前記インクカートリッジが交換されている場合に、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングを行うことが好ましい。
この方法によれば、インクカートリッジを交換した場合は、キャップセットクリーニングが行われなくても、印刷開始前に、インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングが行われるので、例えば、インクカートリッジの交換直後における気泡の残留等によるインクの吐出不良も防止することができる。
【0011】
また、前記インクカートリッジの交換時の前記キャップセットクリーニング判定は、前記インクカートリッジの交換時に開閉される開閉扉が閉じられた際に実行されることが好ましい。
この方法によれば、開閉扉を閉じることにより、容易にキャップセットクリーニング判定を実行させることができる。
【0012】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係るヘッドメンテナンス機構は、印字ヘッドのノズル形成面に密着されるヘッドキャップと、このヘッドキャップを前記ノズル形成面に対して接離させる駆動手段と、前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させた状態で前記ヘッドキャップ内を吸引する吸引手段と、駆動手段及び吸引手段を制御する制御手段とを備え、印字ヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させてインクノズルからインクを吸引する吸引クリーニング及び印字休止時に前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させて保護するキャッピングを行うヘッドメンテナンス機構であって、前記制御手段は、電源の投入時に、前記印字ヘッドの前記ノズル形成面の開放時間に基づいて、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから強制的にインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するキャップセットクリーニング判定を行うとともに、前記印字ヘッドへ供給するインクが貯留されたインクカートリッジの交換時にも、前記キャップセットクリーニング判定を行うことを特徴とする。
【0013】
このヘッドメンテナンス機構によれば、電源の投入時のみならずインクカートリッジの交換時にも、印字ヘッドのノズル形成面の開放時間に基づいて、印字ヘッドに対してインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するので、例えば、キャッピングが長時間行われていない状態の後における、電源投入時及びインクカートリッジの交換時の何れにおいても、キャップセットクリーニングによってインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引し、インクノズルにおけるインクの乾燥による吐出不良を防止することができる。
また、印刷開始直前にキャップセットクリーニングを行う場合と比較して、印刷開始時におけるユーザの待ち時間を削減することができる。
【0014】
また、前記制御手段は、印刷開始前に、前記インクカートリッジが交換されている場合に、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングを行うべく、前記駆動手段及び前記吸引手段を制御することが好ましい。
この構成によれば、インクカートリッジを交換した場合は、キャップセットクリーニングが行われなくても、印刷開始前に、インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングが行われるので、例えば、インクカートリッジの交換直後における気泡の残留等によるインクの吐出不良も防止することができる。
【0015】
また、前記制御手段は、前記インクカートリッジの交換時の前記キャップセットクリーニング判定を、前記インクカートリッジの交換時に開閉される開閉扉が閉じられた際に実行することが好ましい。
この構成によれば、開閉扉を閉じることにより、容易にキャップセットクリーニング判定を実行させることができる。
【0016】
また、本発明の記録装置は、上記のヘッドメンテナンス機構を備えていることを特徴とする。
この記録装置によれば、電源投入時及びインクカートリッジの交換時の何れにおいても、キャップセットクリーニングによってインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引し、インクノズルにおけるインクの乾燥による吐出不良を防止することができるので、印字ヘッドのインクノズルを確実に良好な状態に維持し、高品質に印刷処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構ならびにそれを備えた記録装置の実施形態の例について、図面を参照して説明する。
なお、本実施形態では、本発明をパブリッシャからなるメディア処理装置に適用した場合を例示して説明する。
図1はパブリッシャ(メディア処理装置)の外観斜視図、図2はパブリッシャのケースを外した状態の前方側の斜視図、図3はパブリッシャのケースを外した状態の後方側の斜視図、図4はパブリッシャに設置されたレーベルプリンタ部分の斜視図である。
【0018】
パブリッシャ1は、例えばCDあるいはDVD等の円板状のメディアへのデータの書き込みやメディアのレーベル面への印刷を行うメディア処理装置であり、ほぼ直方体形状のケース2を備えている。このケース2の前面には、左右に開閉可能な開閉扉3,4が取り付けられている。ケース2の上側左端部には、表示ランプ、操作ボタンなどが配列された操作面5が設けられており、また、ケース2の下端には、メディア排出口6が設けられている。
【0019】
正面視右側の開閉扉3は、未使用のブランクメディアMAをセットする時、あるいは作成済みメディアMBを取り出すときに開閉する扉である。
また、正面視左側の開閉扉4は、レーベルプリンタ11のインクカートリッジ12の入れ換え時に開閉するためのものであり、この開閉扉4を開けると、鉛直方向に配列された複数のカートリッジホルダ13を有するカートリッジ装着部14(図2参照)が露出するようになっている。
【0020】
図2にも示すように、メディア処理装置1のケース2の内部には、データ書き込み処理が行われていない複数枚の未使用のブランクメディアMAをスタック可能なメディア保管部としてのブランクメディアスタッカ21と、作成済みメディアMBが保管されるメディア保管部としての作成済みメディアスタッカ22が同軸状態で上下に配置されている。ブランクメディアスタッカ21及び作成済みメディアスタッカ22は、それぞれ図2に示した所定位置に対して着脱自在である。
【0021】
ブランクメディアスタッカ21は、左右一対の円弧状の枠板24,25を備えており、これにより、ブランクメディアMAを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で収納可能な構成をなしている。ブランクメディアスタッカ21にブランクメディアMAを収納あるいは補充する作業は、開閉扉3を開けてスタッカを取り出すことにより、簡単に行うことが可能となっている。
【0022】
下側の作成済みメディアスタッカ22も同一構造となっており、左右一対の円弧状の枠板27,28を備えており、これによって、作成済みメディアMBを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で収納可能なスタッカが構成されている。
【0023】
また、開閉扉3からは、作成済みメデイアMB(すなわち、データの書き込み、及びレーベル面印刷が終了したメディア)を取り出すこともできる。
【0024】
これらのブランクメディアスタッカ21及び作成済みメディアスタッカ22の後側には、メディア搬送機構31が配置されている。メディア搬送機構31は、ベース72に取り付けられている水平支持板部34とシャーシ32の天板33との間に垂直に架け渡されている垂直ガイド軸35を有している。この垂直ガイド軸35に搬送アーム36が昇降および旋回可能な状態で支持されている。搬送アーム36は、駆動モータ37によって垂直ガイド軸35に沿って昇降可能であるとともに、垂直ガイド軸35を中心に左右に旋回可能である。メディア搬送機構31によってメディア排出口6に搬送されてきたメディアは、このメディア排出口6から外部に取り出すことが可能である。
【0025】
上下のスタッカ21,22及びメディア搬送機構31の側方の部位には、上下に積層された2つのメディアドライブ41が配置され、これらメディアドライブ41の下側にレーベルプリンタ11の後述するキャリッジ62(図4参照)が移動可能に配置されている。
メディアドライブ41は、メディアへのデータ書き込み位置とメディアの受け取り受け渡しを行うメディア受け渡し位置との間を移動可能なメディアトレイ41aをそれぞれ有している。
【0026】
また、レーベルプリンタ11は、メディアのレーベル面へのレーベル印刷可能な位置とメディアの受け取り受け渡しを行うメディア受け渡し位置との間を移動可能なメディアトレイ51を有している。
【0027】
図2及び図3では、上側のメディアドライブ41のメディアトレイ41aが手前に引き出されてメディア受け渡し位置にある状態及び下側のレーベルプリンタ11のメディアトレイ51が奥側のレーベル印刷可能位置にある状態が示されている。また、レーベルプリンタ11はインクジェットプリンタであり、インク供給機構71として各色(本実施形態ではブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタの6色)のインクカートリッジ12が用いられ、これらのインクカートリッジ12がカートリッジ装着部14の各カートリッジホルダ13に前方から装着されている。
【0028】
ここで、ブランクメディアスタッカ21の左右一対の枠板24,25の間及び作成済みメディアスタッカ22の左右一対の枠板27,28の間には、メディア搬送機構31の搬送アーム36が昇降可能な隙間が形成されている。また、これら上下のブランクメディアスタッカ21と作成済みメディアスタッカ22との間には、メディア搬送機構31の搬送アーム36が水平に旋回して、作成済みメディアスタッカ22の真上に位置できるように隙間が開いている。さらに、メディアトレイ41aをメディアドライブ41に押し込むと、メディア搬送機構31の搬送アーム36を下降させて、メディア受け渡し位置にあるメディアトレイ51にアクセス可能となっている。したがって、搬送アーム36の昇降及び左右への旋回の組み合わせ動作によって、メディアを各部に搬送することが可能とされている。
【0029】
メディアトレイ51のメディア受け渡し位置の下方には、廃棄用メディアMDを保管するための廃棄用スタッカ52が配置されており、この廃棄用スタッカ52には、例えば30枚程度の廃棄用メディアMDが保管可能とされている。メディアトレイ51が廃棄用スタッカ52の上方のメディア受け渡し位置からデータ書き込み位置へ退避した状態でメディア搬送機構31の搬送アーム36により、廃棄用メディアMDを廃棄用スタッカ52に供給可能となっている。
【0030】
まとめると、CDあるいはDVDからなるメディアは、ブランクメディアスタッカ21、作成済みメディアスタッカ22、廃棄用スタッカ52、メディアドライブ41のメディアトレイ41a及びレーベルプリンタ11のメディアトレイ51間を、メディア搬送機構31の搬送アーム36によって搬送される。
【0031】
レーベルプリンタ11は図示略のインク吐出用のノズルを備えたインクジェットヘッド61を有するキャリッジ62を備えており、このキャリッジ62は、図示は略すがキャリッジモータの駆動力でキャリッジガイド軸に沿って水平方向に往復移動する。
【0032】
レーベルプリンタ11は、インクカートリッジ12が装着されるカートリッジ装着部14を有するインク供給機構71を備えている。このインク供給機構71は、縦型構造を有しており、パブリッシャ1のベース72上に立設されて鉛直方向に配設されている。このインク供給機構71には、可撓性を有するインク供給チューブ73の一端が接続されており、このインク供給チューブ73の他端は、キャリッジ62に接続されている。
【0033】
そして、インク供給機構71に装着されるインクカートリッジ12のインクは、インク供給チューブ73を介してキャリッジ62に供給され、このキャリッジ62に設けられた図示しないダンパユニット及び背圧調整ユニットを経てインクジェットヘッド61に供給され図示略のインクノズルから吐出される。
なお、インク供給機構71には、その上部に主部を配置するように加圧機構74が設けられており、この加圧機構74は、インクカートリッジ12内を加圧し、インクカートリッジ12内のインクパックに貯留しているインクを送り出す。
【0034】
また、キャリッジ62のホームポジション(図4に示す位置)における下方側には、ヘッドメンテナンス機構81が設けられている。
このヘッドメンテナンス機構81は、ホームポジションに配置されたキャリッジ62の下面に露出するインクジェットヘッド61のインクノズルを覆うヘッドキャップ82と、インクジェットヘッド61のヘッドクリーニング動作やインク充填動作によってヘッドキャップ82に排出されたインクを吸引する廃インク吸引ポンプ83とを備えている。
【0035】
そして、このヘッドメンテナンス機構81の廃インク吸引ポンプ83によって吸引されたインクは、チューブ84を介して、廃インク吸収タンク85へ送り込まれる。
この廃インク吸収タンク85は、ケース86内に図示略の吸収材を配設したもので、その上面は、複数の通気孔87を有するカバー88によって覆われている。
なお、ヘッドメンテナンス機構81の下方には、廃インク吸収タンク85の一部である廃インク受け部89が設けられ、ヘッドメンテナンス機構81から滴下したインクを受け止め、吸収材によって吸収するようになっている。
【0036】
次に、ヘッドメンテナンス機構81を詳述する。
図5はヘッドメンテナンス機構の構造を説明する斜視図、図6はヘッドメンテナンス機構の構造を説明する正面図、図7はヘッドメンテナンス機構の動作を説明する斜視図、図8はヘッドメンテナンス機構の動作を説明する正面図である。
【0037】
ヘッドメンテナンス機構81は、図5及び図6に示すように、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aを封止するためのヘッドキャップ機構101と、このノズル形成面61aを払拭するためのワイパ機構102を備えている。
【0038】
ヘッドキャップ機構101は、キャップスライダ111を備えている。キャップスライダ111は、ケース状に形成されたもので、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aに対して接近又は離間する方向にスライドするようになっている。
【0039】
キャップスライダ111の上端凹部には、先端部分にヘッドキャップ82が固定されたキャップホルダ112がキャップスライダ111に対し進退移動できるように保持されている。ヘッドキャップ82は、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aを封止可能な大きさの開口を有する箱型状のゴムで形成されたもので、その開口部分には、多層構造の吸収材113が取付けられている。
【0040】
ワイパ機構102は、弾性材であるゴム性の板材からなるワイパ121を有しており、このワイパ121が、インクジェットヘッド61の移動方向に対して直交する方向へ進退可能に支持されたワイパスライダ122に固定されている。
そして、ワイパ121は、ワイパスライダ122の移動により、ノズル形成面61aの汚れを払拭するワイピング処理を行うためにインクジェットヘッド61の移動経路内に配置されたワイピング位置(図5の状態)と、図7に示すように、インクジェットヘッド61の移動経路から外れた退避位置との間を移動できるようになっている。
【0041】
図6に示すように、ワイパ121は、その先端がノズル形成面61aからはみ出し量s分インクジェットヘッド61側に配置されている。これにより、ワイピング位置にワイパ121を配置させた状態で、インクジェットヘッド61をホームポジションから印刷領域へ移動させることにより、図8に示すように、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aに対してワイパ121が接触して擦れ、ワイパ121によってノズル形成面61aが払拭され、ノズル形成面61aに付着しているインク等の異物が除去される。なお、インクの種類によっては、ワイパ121を軟質のプラスチック等により形成しても良い。
【0042】
また、図5及び図7に示すように、ワイパ機構102は、スライドするワイパ121の経路の途中に、吸収材123を備えており、ワイパ121が吸収材123に接触しながらスライドすることにより、ワイパ121に付着したインクが吸収材123によって拭き取られる。
なお、ヘッドキャップ機構101のキャップスライダ111及びワイパ機構102のワイパスライダ122は、何れも廃インク吸引ポンプ83の駆動によってスライドされる。
【0043】
そして、上記レーベルプリンタ11では、ヘッドメンテナンス機構81によってインクジェットヘッド61のクリーニング処理が行われる。なお、このクリーニング処理は、予め設定された所定のタイミングあるいはユーザの操作時に行われるもので、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて廃インク吸引ポンプ83によって内部を吸引してインクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態のインクを吸引するインク吸引クリーニング及びインクジェットヘッド61のノズル形成面61aの汚れをワイパ121によって払拭するワイピングが行われる。
【0044】
また、上記ヘッドメンテナンス機構81を備えたレーベルプリンタ11では、インクジェットヘッド61のインクノズルでの増粘インクを除去するために、印字開始前あるいは定期的にインクジェットヘッド61のインクノズルから所定量のインクをヘッドキャップ82内に吐出するフラッシング、インクノズルの詰まりを防止するために印字休止後でインクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて保護するキャッピングも行う。
【0045】
次に、上記パブリッシャ1のレーベルプリンタ11の制御部による制御について説明する。
(電源投入時シーケンス)
まず、図9に示すフローチャートに沿って電源投入時シーケンスについて説明する。
パブリッシャ1の電源がONされると、レーベルプリンタ11では、各インクカートリッジ12に設けられたICチップの情報の読み取りを行う(ステップS01)。
次いで、このインクカートリッジ12のICチップの情報の読み取り結果に基づいて、カートリッジエラー判定を行う(ステップS02)。
【0046】
ここで、ICチップの情報に基づいて、インクが空となっているインクカートリッジ12がある場合、あるいはカートリッジホルダ13にインクカートリッジ12が装填されておらず、ICチップ自体が読み込めない場合には、カートリッジエラーとする。
そして、このカートリッジエラーの有無を判断し(ステップS03)、カートリッジエラーが有る場合は、交換フラグをセットし(ステップS04)、ユーザにインクカートリッジ12の交換あるいは装填を促すべく、表示あるいは音声等によってエラーを発する(ステップS05)。
【0047】
カートリッジエラーの有無の判断(ステップS03)でカートリッジエラーがないと判断されると、キャップセット判定を行う(ステップS06)。
ここで、前回のパブリッシャ1の動作終了が、例えば、印刷中にコンセントが抜かれて終了し、通常の電源OFF時のシーケンスによるキャッピングが行われていないような場合には、電源のOFF状態の時間が長いと、インクジェットヘッド61のインクノズルの開放時間が長時間となり、インクノズルのインクが乾燥して増粘状態となる。
【0048】
したがって、このような場合には、キャッピングの有無及び電源OFF状態の時間からインクノズルの開放時間を求め、その開放時間に基づいて、インクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態となっているインクを強制的に吸引するキャップセットクリーニングを行うか否かの判断を行う(ステップS07)。
そして、この判断結果から、キャップセットクリーニングが必要であると判断された場合は、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて廃インク吸引ポンプ83によって内部を強制的に吸引してインクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態のインクを吸引するインク吸引クリーニングであるキャップセットクリーニングが行われ(ステップS08)、電源投入時シーケンスが終了する。
なお、キャップセットクリーニングの要否判断結果で(ステップS07)、キャップセットクリーニングが不要と判断された場合は、そのまま電源投入時シーケンスが終了する。
【0049】
(ドアクローズシーケンス)
次に、図10に示すフローチャートに沿ってドアクローズシーケンスについて説明する。
レーベルプリンタ11の制御部は、インクカートリッジ12の入れ換え時に開閉されるパブリッシャ1の正面視左側の開閉扉4(図1参照)を閉じた際に、ドアクローズのシーケンスを実行する。
このドアクローズシーケンスでは、まず、開閉扉4が閉じられると(ステップS11)、レーベルプリンタ11の制御部は、各インクカートリッジ12に設けられたICチップの情報の読み取りを行う(ステップS12)。
【0050】
次いで、このインクカートリッジ12のICチップの情報の読み取り結果に基づいて、カートリッジエラー判定を行う(ステップS13)。
ここで、カートリッジホルダ13にインクカートリッジ12が未だに交換あるいは装填されていない場合には、カートリッジエラーとする。
そして、このカートリッジエラーの有無を判断し(ステップS14)、カートリッジエラーが有る場合は、ユーザにインクカートリッジ12の交換あるいは装填を促すべく、表示あるいは音声等によってエラーを発する(ステップS15)。
【0051】
カートリッジエラーの有無の判断(ステップS14)でカートリッジエラーがないと判断されると、キャップセット判定を行う(ステップS16)。
そして、電源OFF時におけるキャッピングの有無及び電源OFF状態の時間からインクノズルの開放時間を求め、その開放時間に基づいて、インクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態となっているインクを強制的に吸引するキャップセットクリーニングを行うか否かの判断を行う(ステップS17)。
【0052】
そして、この判断結果から、キャップセットクリーニングが必要であると判断された場合は、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて廃インク吸引ポンプ83によって内部を強制的に吸引してインクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態のインクを吸引するインク吸引クリーニングであるキャップセットクリーニングが行われ(ステップS18)、ドアクローズシーケンスが終了する。
なお、キャップセットクリーニングの要否判断結果で(ステップS17)、キャップセットクリーニングが不要と判断された場合は、そのままドアクローズシーケンスが終了する。
【0053】
(印刷開始シーケンス)
次に、図11に示すフローチャートに沿って印刷開始シーケンスについて説明する。
パブリッシャ1では、印刷指令がなされると、レーベルプリンタ11の制御部が印刷開始シーケンスを実行する。
印刷開始シーケンスでは、まず、交換フラグの有無を判定する交換フラグ判定を行う(ステップS21)。
【0054】
この交換フラグ判定では、電源ONシーケンスでカートリッジエラーが生じたことによって交換フラグがセットされているか否かが判断され(ステップS22)、交換フラグがセットされていると判断された場合は、インクカートリッジ12の交換あるいは装填時に行う交換時クリーニングを実行することにより、インクノズルから微量のインクを吸引する(ステップS23)。その後、ヘッドキャップ83内にインクノズルからインクを吐出させるフラッシング(ステップS24)を行い、インクノズルにおける増粘インクを除去し、印刷処理を開始する(ステップS25)。
【0055】
交換フラグ判定で、交換フラグがセットされていないと判断された場合は、交換時クリーニング(ステップS23)を実行することなく、フラッシングを行い(ステップS24)、インクノズルにおける増粘インクを除去し、印刷処理を開始する(ステップS25)。
【0056】
以上、説明したように、本実施形態に係るヘッドメンテナンス方法及びヘッドメンテナンス機構によれば、電源の投入時のみならずインクカートリッジ12の交換時にも、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aの開放時間に基づいて、インクジェットヘッド61に対してインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するので、例えば、キャッピングが長時間行われていない状態の後における、電源投入時及びインクカートリッジ12の交換時の何れにおいても、キャップセットクリーニングによってインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引し、インクノズルにおけるインクの乾燥による吐出不良を防止することができる。
また、印刷開始直前にキャップセットクリーニングを行う場合と比較して、印刷開始時におけるユーザの待ち時間を削減することができる。
【0057】
これにより、ヘッドメンテナンス機構81を備えたレーベルプリンタ11からなる記録装置によれば、電源投入時及びインクカートリッジの交換時の何れにおいても、キャップセットクリーニングによってインクノズルから強制的に増粘状態のインクを吸引し、インクノズルにおけるインクの乾燥による吐出不良を防止することができるので、インクジェットヘッド61のインクノズルを確実に良好な状態に維持し、高品質に印刷処理を行うことができる。
【0058】
また、インクカートリッジ12を交換した場合は、キャップセットクリーニング判定の結果、キャップセットクリーニングが行われなくても、印刷開始前に、インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングが行われるので、例えば、インクカートリッジ12の交換直後における気泡の残留等によるインクの吐出不良も防止することができる。
【0059】
また、開閉扉4を閉じることにより、容易にキャップセットクリーニング判定を実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】パブリッシャ(メディア処理装置)の外観斜視図である。
【図2】パブリッシャのケースを外した状態の前方側の斜視図である。
【図3】パブリッシャのケースを外した状態の後方側の斜視図である。
【図4】パブリッシャに設置されたレーベルプリンタ部分の斜視図である。
【図5】ヘッドメンテナンス機構の構造を説明する斜視図である。
【図6】ヘッドメンテナンス機構の構造を説明する正面図である。
【図7】ヘッドメンテナンス機構の動作を説明する斜視図である。
【図8】ヘッドメンテナンス機構の動作を説明する正面図である。
【図9】電源投入時シーケンスの流れを説明するフローチャートである。
【図10】ドアクローズシーケンスの流れを説明するフローチャートである。
【図11】印刷開始シーケンスの流れを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
4…開閉扉、11…レーベルプリンタ(記録装置)、12…インクカートリッジ、61…インクジェットヘッド(印字ヘッド)、61a…ノズル形成面、81…ヘッドメンテナンス機構、82…ヘッドキャップ、83…廃インク吸引ポンプ(駆動手段、吸引手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字ヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させてインクノズルからインクを吸引する吸引クリーニング及び印字休止時に前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させて保護するキャッピングを行うヘッドメンテナンス方法であって、
電源の投入時に、前記印字ヘッドの前記ノズル形成面の開放時間に基づいて、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから強制的にインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するキャップセットクリーニング判定を行うとともに、
前記印字ヘッドへ供給するインクが貯留されたインクカートリッジの交換時にも、前記キャップセットクリーニング判定を行うことを特徴とするヘッドメンテナンス方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドメンテナンス方法であって、
印刷開始前に、前記インクカートリッジが交換されている場合に、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングを行うことを特徴とするヘッドメンテナンス方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘッドメンテナンス方法であって、
前記インクカートリッジの交換時の前記キャップセットクリーニング判定は、前記インクカートリッジの交換時に開閉される開閉扉が閉じられた際に実行されることを特徴とする記載のヘッドメンテナンス方法。
【請求項4】
印字ヘッドのノズル形成面に密着されるヘッドキャップと、このヘッドキャップを前記ノズル形成面に対して接離させる駆動手段と、前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させた状態で前記ヘッドキャップ内を吸引する吸引手段と、駆動手段及び吸引手段を制御する制御手段とを備え、印字ヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させてインクノズルからインクを吸引する吸引クリーニング及び印字休止時に前記ヘッドキャップを前記ノズル形成面に密着させて保護するキャッピングを行うヘッドメンテナンス機構であって、
前記制御手段は、電源の投入時に、前記印字ヘッドの前記ノズル形成面の開放時間に基づいて、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから強制的にインクを吸引するキャップセットクリーニングの要否を判定するキャップセットクリーニング判定を行うとともに、前記印字ヘッドへ供給するインクが貯留されたインクカートリッジの交換時にも、前記キャップセットクリーニング判定を行うことを特徴とするヘッドメンテナンス機構。
【請求項5】
請求項4に記載のヘッドメンテナンス機構であって、
前記制御手段は、印刷開始前に、前記インクカートリッジが交換されている場合に、前記印字ヘッドに対して前記インクノズルから微量のインクを吸引する交換時クリーニングを行うべく、前記駆動手段及び前記吸引手段を制御することを特徴とするヘッドメンテナンス機構。
【請求項6】
請求項4または5に記載のヘッドメンテナンス機構であって、
前記制御手段は、前記インクカートリッジの交換時の前記キャップセットクリーニング判定を、前記インクカートリッジの交換時に開閉される開閉扉が閉じられた際に実行することを特徴とするヘッドメンテナンス機構。
【請求項7】
請求項4から6の何れか一項に記載のヘッドメンテナンス機構を備えていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−221798(P2008−221798A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67584(P2007−67584)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】