説明

ヘッドモーショントラッカシステム及びそれに用いられるキャリブレーション装置

【課題】 カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を正確に設定することができるヘッドモーショントラッカシステム及びそれに用いられるキャリブレーション装置を提供する。
【解決手段】 カメラ装置2に対する光学マーカー51の現在位置である光学マーカー位置情報を算出して記憶させる光学マーカー位置情報算出部22と、光学マーカー位置情報に基づいて、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系を設定する座標系設定部27とを備えるヘッドモーショントラッカシステムであって、光学マーカー51をXYZ方向に移動させるステージ機構52を備え、カメラ装置制御部28は、光学マーカー51をX方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカー51をY方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカー51をZ方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカー51を移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定することにより、カメラ座標系に対する測定対象物の現在位置や現在角度を測定するためのヘッドモーショントラッカシステム(以下、HMTシステムともいう)及びそれに用いられるキャリブレーション装置に関する。本発明は、特に、ゲーム機や乗物等の移動体に配置されたカメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定することにより、カメラ座標系に対する搭乗者に装着される頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度(すなわち、頭部の現在位置や現在角度)を常に測定するために、角速度センサや加速度センサを組み合わせたHMTシステム等に利用される。
【背景技術】
【0002】
時々刻々と変動する物体(測定対象物)の現在位置や現在角度を正確に測定する技術は、様々な分野で利用されている。例えば、ゲーム機では、バーチャルリアリティ(VR)を実現するために、頭部装着型表示装置付ヘルメットを用いることにより、映像を表示することがなされている。このとき、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度に合わせて、映像を変化させる必要がある。よって、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するために、ヘッドモーショントラッカ装置(以下、HMT装置ともいう)が利用されている。
【0003】
また、救難飛行艇による救難活動において、発見した救難目標を見失うことがないようにするため、頭部装着型表示装置付ヘルメットにより表示される照準画像と救難目標とが対応した時にロックすることにより、ロックされた救難目標の位置を演算することが行われている。このとき、その救難目標の位置を演算するために、飛行体(救難飛行艇)の緯度、経度、高度、姿勢に加えて、飛行体に対するパイロットの頭部の現在角度及び現在位置を測定している。このため、HMT装置が利用されている。
【0004】
頭部装着型表示装置付ヘルメットに利用されるHMT装置としては、光学的に頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、複数の反射板を頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に取り付けるとともに、光源とカメラ装置(第一カメラ及び第二カメラ)とを飛行体に固定することにより、光源から光を照射したときの反射板からの反射光をカメラ装置でモニタする。また、発光体を互いに離隔するようにして複数箇所に取り付けた光学方式のHMT装置もある(例えば、特許文献2参照)。例えば、頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に、発光体であるLED(発光ダイオード)を互いに離隔するようにして3箇所に取り付け、これら3個のLEDの位置関係をHMT装置に予め記憶させておく。そして、これら3個のLEDを、立体視が可能でかつ飛行体に固定された第一カメラ及び第二カメラで同時に撮影することで、所謂、三角測量の原理により、現在の3個のLEDの位置関係を測定している。これにより、カメラ装置に対する頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を特定している。
【特許文献1】特表平9−506194号公報
【特許文献2】特願2005−106418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、本出願人は、ジャイロセンサ(角速度センサ)や加速度センサを組み合わせたHMT装置を開発した。これにより、第一カメラ及び第二カメラによる撮影と撮影との間隔時間にも、ジャイロセンサ(角速度センサ)や加速度センサの測定結果を用いて、飛行体に対する頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を算出することができるようにした。
ところで、上述したようなHMT装置では、カメラ装置で測定された現在の3個のLEDの位置関係を空間座標で表現するために、予めカメラ装置の撮影領域にカメラ座標系が設定されて用いられている。ここで、カメラ装置2(第一カメラ2a及び第二カメラ2b)の撮影領域にカメラ座標系を設定する従来の方法について図7及び図8を用いて説明する。
カメラ座標系は、原点及び各XYZ座標軸の方向を、飛行体に予め設定された基準座標系と一致するように設定される。これにより、頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に取り付けられた反射板やLEDの位置をカメラ座標系で表現するとともに、そのままの値を用いて基準座標系で表現することができるようになっている。また、ジャイロセンサや加速度センサを組み合わせたHMT装置においても、ジャイロセンサや加速度センサも基準座標系と位置合わせされて固定されているので、ジャイロセンサや加速度センサの測定結果と、カメラ装置での測定結果とを容易に組み合わせることが可能となっている。
【0006】
そこで、カメラ装置2の撮影領域に、基準座標系と一致したカメラ座標系を設定するために、図7に示すような各頂点にLED61a〜61hが配置されかつ各辺62a〜62lが設定距離となる立方格子60を作製して用いている。このような立方格子60を飛行体に予め定められた設定位置に取り付けることにより、LED61aの位置からLED61bの位置への方向をX軸方向とし、LED61aの位置からLED61dの位置への方向をY軸方向とし、LED61aの位置からLED61hの位置への方向をZ軸方向とするように設定している。また、LED61aの位置からLED61bの位置までの距離と、LED61aの位置からLED61dの位置までの距離と、LED61aの位置からLED61hの位置までの距離とが各座標軸における基準距離となるように設定している。
【0007】
しかしながら、立方格子60を作製する際に使用した設計情報(設定距離等の立方格子の大きさ情報)を用いて各LED61a〜61hの位置関係を記憶させることになるが、カメラ座標系と基準座標系とが完全に一致しないという問題があった。
ここで、図9は、一般的なLEDの概略構成を示す断面図である。LED61は、半導体部71と、反射板72と、レンズ73とを有する。図9に示すように、LED61の外形形状から求めた中心と、実際にLED61が発光している中心とに、LED61の製造の際に生じた差異が存在する。そして、LED61の位置を記憶させるときには、カメラ装置2でLED61から出射された光線を検出するため、LED61が発光している中心がLED61の位置として記憶されることになる。一方、立方格子60は、LED61の製造の際に生じた差異を容易に確認することができず、LED61の外形形状の中心を容易に確認することができるため、LED61の外形形状の中心が立方格子60の頂点となるように作製されている。よって、設計情報を用いてLED61の位置関係を記憶させても、カメラ座標系と基準座標系との位置がずれることになっていた。
そこで、本発明は、カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を正確に設定することができるヘッドモーショントラッカシステム及びそれに用いられるキャリブレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のヘッドモーショントラッカシステムは、光学マーカーと、前記光学マーカーを撮影する第一カメラと、前記第一カメラと異なる方向から光学マーカーを撮影する第二カメラとを有するカメラ装置と、前記第一カメラにより撮影された第一画像と、前記第一カメラが撮影すると同時に第二カメラにより撮影された第二画像とを取得するカメラ装置制御部と、前記第一画像及び第二画像に基づいて、前記カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して、当該光学マーカー位置情報を光学マーカー位置情報記憶部に記憶させる光学マーカー位置情報算出部と、前記光学マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する座標系設定部と、前記カメラ座標系に対する測定対象物の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカシステムであって、前記カメラ装置の撮影領域中の設定位置に取り付け取り外し可能とされるとともに、前記光学マーカーをXYZ方向に移動させるステージ機構を備え、前記カメラ装置制御部は、前記光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーを移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像を取得するようにしている。
【0009】
ここで、「光学マーカー」としては、例えば、発光体(ランプ、LED等)、反射体、蛍光体等が挙げられる。
本発明のHMTシステムによれば、まず、光学マーカーをXYZ方向に移動させることが可能なステージ機構を、カメラ装置の撮影領域中の設定位置に取り付ける。そして、カメラ装置制御部は、第一画像と第二画像とを取得する。これにより、カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して記憶させる。次に、光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後、カメラ装置制御部は、第一画像と第二画像とを取得する。これにより、カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して記憶させる。次に、光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後、カメラ装置制御部は、第一画像と第二画像とを取得する。これにより、カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して記憶させる。次に、光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後、カメラ装置制御部は、第一画像と第二画像とを取得する。これにより、カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して記憶させる。そして、座標系設定部は、記憶された光学マーカー位置情報に基づいて、カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する。最後に、ステージ機構を設定位置から取り外す。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のHMTシステムによれば、カメラ装置制御部は、光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後と、光学マーカーを移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像を取得する。つまり、1個の光学マーカーをXYZ方向に移動させることにより、光学マーカーの外形形状から求めた中心と、実際に光学マーカーが発光している中心とに、光学マーカーの製造の際に生じた差異が存在することがあっても、移動方向や移動量には差異は生じないので、カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を正確に設定することができる。
【0011】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記課題を解決するためになされた本発明のキャリブレーション装置は、光学マーカーを撮影する第一カメラと、前記第一カメラと異なる方向から光学マーカーを撮影する第二カメラとを有するカメラ装置と、前記第一カメラにより撮影された第一画像と、前記第一カメラが撮影すると同時に第二カメラにより撮影された第二画像とを取得するカメラ装置制御部と、前記第一画像及び第二画像に基づいて、前記カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して、当該光学マーカー位置情報を光学マーカー位置情報記憶部に記憶させる光学マーカー位置情報算出部と、前記光学マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する座標系設定部と、前記カメラ座標系に対する測定対象物の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカ装置に用いられるキャリブレーション装置であって、前記光学マーカーと、前記カメラ装置の撮影領域中の設定位置に取り付け取り外し可能とされるとともに、前記光学マーカーをXYZ方向に移動させるステージ機構を備え、前記カメラ装置制御部によって、前記光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーを移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像が取得されるようにしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0013】
本発明の一実施形態であるHMTシステムは、HMT装置1とキャリブレーション装置50とからなる。図1は、本発明に係るHMT装置1の概略構成を示す図であり、図2は、図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメット(測定対象物)10の平面図である。また、図3は、本発明の一実施形態であるキャリブレーション装置50の概略構成を示す図であり、図4は、HMT装置1の設定位置30bにキャリブレーション装置50を取り付けた図である。なお、HMT装置1は、カメラ装置2に設定されるカメラ座標系(XYZ座標系)に対するパイロット(搭乗者)3の頭部位置(Xh、Yh、Zh)及び頭部角度(Θh、Φh、Ψh)を含む相対情報を算出するものである。つまり、搭乗体30に設定されたカメラ座標系(XYZ座標系)に対する、パイロット3が着用する頭部装着型表示装置付ヘルメット10に設定されたヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)の位置及び角度を算出する。また、キャリブレーション装置50は、パイロット(搭乗者)3の頭部位置(Xh、Yh、Zh)及び頭部角度(Θh、Φh、Ψh)を含む相対情報を算出するために、搭乗体30に配置されたカメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を予め設定するためのものである。
【0014】
HMT装置1は、パイロット3の頭部に装着される頭部装着型表示装置付ヘルメット10と、搭乗体30に固定されたカメラ装置2と、コンピュータにより構成される制御部20とから構成される。
頭部装着型表示装置付ヘルメット10は、表示器(図示せず)と、表示器から出射される画像表示光を反射することにより、パイロット3の目に導くコンバイナ8と、LED群7とを有する。なお、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3は、表示器による表示画像とコンバイナ8の前方実在物とを視認することが可能となっている。
【0015】
LED群7は、図2に示すように、互いに異なる波長の赤外光を発光する3個のLED7a、7b、7cが互いに離隔するようにして、頭部装着型表示装置付ヘルメット10の外周面上に取り付けられものである。
ここで、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)は、原点及び各座標軸の方向を任意に定めることができるが、本実施形態では図2に示すように、原点をLED7aの位置とし、前方方向をX’軸方向とし、前方方向に垂直方向をY’軸方向とし、X’軸方向及びY’軸方向に垂直方向をZ’軸方向とするように定義するように、後述するデータ記憶部45に設定されている。また、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)上での3個のLED7a、7b、7cの位置関係(初期データ)も、データ記憶部45に記憶されている。これにより、後述する三角測量の手法で、現時点における3個のLED7a、7b、7cの位置を算出し、初期データを参照することで、頭部装着型表示装置ヘルメット10の現在位置及び現在角度が、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)を用いて表現されるようになっている。
【0016】
搭乗体30は、パイロット3が搭乗する飛行体のコックピットであり、パイロット3が着席する座席30aと、キャリブレーション装置50を取り付けるための設定位置30b(後述する)を備える。
カメラ装置2は、第一カメラ2aと第二カメラ2bとからなる。第一カメラ2aと第二カメラ2bとは、撮影方向が異なりかつ立体視が可能な一定の距離(d1)を隔てるように、座席30aに固定されている。
ここで、図5に示すように、カメラ装置2に対するLED7aの位置は、第一カメラ2aと第二カメラ2bとに撮影された第一画像と第二画像中に映し出されているLED7aの位置を抽出し、さらに第一カメラ2aからの方向角度(α)と第二カメラ2bからの方向角度(β)とを抽出し、第一カメラ2aと第二カメラ2bとの間の距離(d1)を用いることにより、三角測量の手法で算出することができる。他のLED7b、7cのカメラ装置2に対する位置についても、同様に算出される。
【0017】
このときの各LED7a、7b、7cの位置を、空間座標で表現することができるようにするために、キャリブレーション装置50を用いてカメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定している。なお、キャリブレーション装置50を用いてカメラ座標系を設定する設定方法や、カメラ座標系の具体的な原点位置やXYZ軸方向の説明については後述する。
カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系が設定されていれば、上述したように三角測量の手法で算出することで、LED7a、7b、7cの位置座標は、カメラ座標系を用いて表現できる。そして、3個のLED7a、7b、7cの位置座標が特定されれば、LED7a、7b、7cが位置決めされて取り付けられている頭部装着型表示装置付ヘルメット10の位置及び角度は、カメラ座標系に対するヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)の位置(Xh、Yh、Zh)及び角度(Θh、Φh、Ψh)を用いて表現できるようになる。なお、角度(Θh)は、ロール方向(X軸に対する回転)の角度であり、角度(Φh)は、エレベーション方向(Y軸に対する回転)の角度であり、角度(Ψh)は、アジマス方向(Z軸に対する回転)の角度である。また、頭部装着型表示装置付ヘルメット10の位置(Xh、Yh、Zh)は、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)の原点であるLED7aの現在の位置座標で表現することとする。
なお、本実施形態では、後述する設定方法でカメラ座標系を設定するため、搭乗体30に予め設定されている基準座標系とカメラ座標系とが完全に一致している。このため、カメラ座標系に対するヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)の位置(Xh、Yh、Zh)及び角度(Θh、Φh、Ψh)は、そのままの値を用いて、基準座標系に対するヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)の位置(Xh、Yh、Zh)及び角度(Θh、Φh、Ψh)として表現することができるようになる。
【0018】
制御部20は、CPU21、メモリ41等からなるコンピュータにより構成され、各種の制御や演算処理を行う。制御部20のCPU21が実行する処理を、機能ブロックごとに分けて説明すると、カメラ装置制御部28と、光学マーカー位置情報算出部22と、相対情報算出部23と、座標系設定部27と、駆動信号発生部26と、映像表示部25とからなる。
また、メモリ41は、制御部20が処理を実行するために必要な種々のデータを蓄積する領域が形成してあり、基準座標系を記憶する基準座標系記憶部43と、カメラ座標系を記憶するカメラ座標系記憶部44と、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)を記憶するデータ記憶部45と、光学マーカー位置情報を順次記憶する光学マーカー位置情報記憶部46とを有する。
【0019】
なお、データ記憶部45は、ヘルメット座標系(X’Y’Z’座標系)を記憶し、さらに、X’Y’Z’座標系上での3個のLED7a、7b、7cの位置関係(初期データ)も記憶している。
基準座標系は、搭乗体30とともに移動する座標系であり、原点及び各座標軸の方向を任意に予め定められているが、本実施形態では、キャリブレーション装置50を取り付けるための設定位置30bのある点を原点とし、前方方向をX軸方向とし、前方方向に垂直方向をY軸方向とし、X軸方向及びY軸方向に垂直方向をZ軸方向とするように、後述する基準座標系記憶部43に予め設定されているものとする。
次に、カメラ座標系(XYZ座標系)について説明する。カメラ座標系は、原点及び各XYZ座標軸の方向を、搭乗体30に設定された基準座標系と一致するように設定される。これにより、搭乗体30に設定された基準座標系と位置合わせされた加速度センサや加速度センサ(図示せず)の測定結果と組み合わせることが可能となる。
なお、キャリブレーション装置50を用いてカメラ座標系を設定する設定方法や、カメラ座標系の具体的な原点位置やXYZ軸方向の説明については後述する。
【0020】
カメラ装置制御部28は、第一カメラ2aにより撮影された第一画像と、第一カメラ2aが撮影すると同時に第二カメラ2bにより撮影された第二画像とを取得する制御を行うものである。
光学マーカー位置情報算出部22は、第一画像と第二画像とに基づいて、カメラ装置2に対するLED7a、7b、7c又はLED51(後述する)の現在位置である光学マーカー位置情報を算出して、光学マーカー位置情報を光学マーカー位置情報記憶部46に順次記憶させる制御を行うものである。
例えば、LED7aのカメラ装置2に対する位置は、第一カメラ2aと第二カメラ2bとに撮影された第一画像と第二画像中に映し出されているLED7aの位置を抽出し、さらに第一カメラ2aからの方向角度(α)と第二カメラ2bからの方向角度(β)とを抽出し、第一カメラ2aと第二カメラ2bとの間の距離(d1)を用いることにより、三角測量の手法で算出する。
【0021】
相対情報算出部23は、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)が設定された後には、カメラ装置2(カメラ座標系)に対するLED7a、7b、7cの現在位置である光学マーカー位置情報を用いて、カメラ座標系に対する頭部装着型表示装置付ヘルメット10の現在位置(Xh、Yh、Zh)及び現在角度(Θh、Φh、Ψh)を含む相対情報を算出する制御を行うものである。
具体的には、カメラ装置2(カメラ座標系)に対するLED7a、7b、7cの現在位置である光学マーカー位置情報と、データ記憶部45に記憶されている初期データとを比較することにより、LED群7が固定された頭部装着型表示装置付ヘルメット10のカメラ座標系(XYZ座標系)に対する位置(Xh、Yh、Zh)及び角度(Θh、Φh、Ψh)を算出する。
映像表示部25は、頭部装着型表示装置付ヘルメット10の位置(Xh、Yh、Zh)及び角度(Θh、Φh、Ψh)を含む相対情報に基づいて、表示器から映像表示光を出射する制御を行うものである。これにより、パイロット3は、表示器による表示映像を視認することになる。
【0022】
ここで、キャリブレーション装置50により、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定する設定方法について図3、図4及び図6を用いて説明する。
本実施形態では、赤外光を発光する1個のLED51と、1個のLED51をXYZ方向に移動させることが可能なステージ機構52を備えるキャリブレーション装置50を用いる(図3参照)。
ステージ機構52は、上部板状体52aと中軸体52bと下部板状体52cと設置部材52dとからなる。LED51は、上部板状体52a上に固定されている。上部板状体52aは、中軸体52bに対してZ方向に移動可能となるようにしてあり、上部板状体52aに固定されたLED51をZ方向に移動させることができる。また、中軸体62bは、上部板状体52aとともに下部板状体52cに対してX方向への並進移動が可能となるようにしてあり、上部板状体52aに固定されたLED51をX方向に移動させることができる。さらに、下部板状体52cは、上部板状体52aと中軸体62bとともに設置部材52dに対してY方向への並進移動が可能となるようにしてあり、上部板状体52aに固定されたLED51をY方向に移動させることができる。そして、設置部材52dは、設定位置30bに位置決めされて取り付け取り外し可能に形成されている。
なお、ステージ機構52の制御は、キャリブレーション50とコンピュータ20とを配線コード53で連結することで、コンピュータ20の駆動信号発生部26から出力された駆動信号が与えられることによって実行される。
そして、キャリブレーション装置50により、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定する際には、図4に示すように、カメラ装置2の撮影領域中にキャリブレーション装置50を取り付けることになる。このとき、基準座標系の原点にLED51が配置され、基準座標系のX軸方向とステージ機構52のX方向とが位置合わせされ、基準座標系のY軸方向とステージ機構52のY方向とが位置合わせされ、基準座標系のZ軸方向とステージ機構52のZ方向とが位置合わせされて取り付けられる。そして、キャリブレーション装置50により、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定した後には、カメラ装置2の撮影領域中からキャリブレーション装置50を取り外すことになる。
【0023】
駆動信号発生部26は、入力装置(図示せず)等によるキャリブレーション信号を受信することによって、キャリブレーション装置50のステージ機構52に駆動信号を出力する制御を行うものである。
例えば、図6に示すように、キャリブレーション信号を受信することによって、まず、LED51の初期位置51aとして、カメラ装置制御部28に第二画像と第二画像とを取得させる。次に、ステージ機構62にLED51をX方向に設定距離で移動させる駆動信号を出力した後、LED51の第二位置51bとして、カメラ装置制御部28に第二画像と第二画像とを取得させる。このように、LED51を予め定められた位置に移動させる駆動信号を出力した後、LED51の各位置として、カメラ装置制御部28に第二画像と第二画像とを順に取得させていき、立方格子の各頂点に対応する合計8箇所の位置51a〜51hのLED51を撮影することにより、第二画像と第二画像とを取得する。
【0024】
座標系設定部27は、カメラ装置2(カメラ座標系)に対するLED51の各位置である光学マーカー位置情報に基づいて、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定する制御を行うものである。
具体的には、LED51の初期位置51aからLED51の第二位置51bへの方向をX軸方向とし、LED51の初期位置51aからLED51の第四位置51dへの方向をY軸方向とし、LED51の初期位置51aからLED51の第八位置51hへの方向をZ軸方向とするように設定している。また、LED51の初期位置51aからLED51の第二位置51bまでの距離と、LED51の初期位置51aからLED51の第四位置51dまでの距離と、LED51の初期位置からLED51の第八位置51hまでの距離とが各座標軸における基準距離となるように設定する。
【0025】
以上のように、本発明のHMTシステムによれば、カメラ装置制御部28は、LED51をX方向に設定距離で移動させた後と、LED51をY方向に設定距離で移動させた後と、LED51をZ方向に設定距離で移動させた後と、LED51を移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像を取得する。つまり、1個のLED51をXYZ方向に移動させることにより、LED51の外形形状から求めた中心と、実際にLED51が発光している中心とに、LED51の製造の際に生じた差異が存在することがあっても、移動方向や移動量には差異は生じないので、カメラ装置2の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を正確に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、飛行体に設定された基準座標系に対する頭部角度や頭部位置を測定するためのヘッドモーショントラッカ装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るHMT装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメットの平面図である。
【図3】本発明の一実施形態であるキャリブレーション装置の概略構成を示す図である。
【図4】HMT装置の設定位置にキャリブレーション装置を取り付けた図である。
【図5】カメラ装置に対するLEDの位置を算出する算出方法を説明するための図である。
【図6】カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系(XYZ座標系)を設定する設定方法について説明するための図である。
【図7】カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する従来の方法について説明するための図である。
【図8】カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する従来の方法について説明するための図である。
【図9】LEDの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ヘッドモーショントラッカ装置(HMT装置)
2 カメラ装置
2a 第一カメラ
2b 第二カメラ
3 パイロット
7 LED群
10 頭部装着型表示装置付ヘルメット
22 光学マーカー位置情報算出部
23 相対情報算出部
27 座標系設定部
28 カメラ装置制御部
30 搭乗体
46 光学マーカー位置情報記憶部
51 LED(光学マーカー)
52 ステージ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学マーカーと、
前記光学マーカーを撮影する第一カメラと、前記第一カメラと異なる方向から光学マーカーを撮影する第二カメラとを有するカメラ装置と、
前記第一カメラにより撮影された第一画像と、前記第一カメラが撮影すると同時に第二カメラにより撮影された第二画像とを取得するカメラ装置制御部と、
前記第一画像及び第二画像に基づいて、前記カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して、当該光学マーカー位置情報を光学マーカー位置情報記憶部に記憶させる光学マーカー位置情報算出部と、
前記光学マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する座標系設定部と、
前記カメラ座標系に対する測定対象物の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカシステムであって、
前記カメラ装置の撮影領域中の設定位置に取り付け取り外し可能とされるとともに、前記光学マーカーをXYZ方向に移動させるステージ機構を備え、
前記カメラ装置制御部は、前記光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーを移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像を取得することを特徴とするヘッドモーショントラッカシステム。
【請求項2】
光学マーカーを撮影する第一カメラと、前記第一カメラと異なる方向から光学マーカーを撮影する第二カメラとを有するカメラ装置と、
前記第一カメラにより撮影された第一画像と、前記第一カメラが撮影すると同時に第二カメラにより撮影された第二画像とを取得するカメラ装置制御部と、
前記第一画像及び第二画像に基づいて、前記カメラ装置に対する光学マーカーの現在位置である光学マーカー位置情報を算出して、当該光学マーカー位置情報を光学マーカー位置情報記憶部に記憶させる光学マーカー位置情報算出部と、
前記光学マーカー位置情報に基づいて、前記カメラ装置の撮影領域にカメラ座標系を設定する座標系設定部と、
前記カメラ座標系に対する測定対象物の現在位置及び現在角度を含む相対情報を算出する相対情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカ装置に用いられるキャリブレーション装置であって、
前記光学マーカーと、
前記カメラ装置の撮影領域中の設定位置に取り付け取り外し可能とされるとともに、前記光学マーカーをXYZ方向に移動させるステージ機構を備え、
前記カメラ装置制御部によって、前記光学マーカーをX方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをY方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーをZ方向に設定距離で移動させた後と、前記光学マーカーを移動させる前に、それぞれ第一画像及び第二画像が取得されることを特徴とするキャリブレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−85806(P2009−85806A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257146(P2007−257146)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】