説明

ペルオキシラジカル消去剤

【課題】大気中又はタバコの煙等に含まれるペルオキシラジカルを気相で有効に消去でき、かつ人体に安全に使用できるペルオキシラジカル消去剤を提供する。
【解決手段】チオレドキシンを有効成分として含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオレドキシンを有効成分として含有するペルオキシラジカル消去剤に関する。また、本発明は、前記ペルオキシラジカル消去剤を活用した、タバコの煙等に含まれる有害成分を除去するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の疾病メカニズムの解明が進む中で、活性酸素等の化学反応性が極めて高いフリーラジカルが疾病の発症において重要な役割を果たしていることが確認されてきた。特にタバコの煙には、一酸化炭素(NO)、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、ペルオキシラジカル等、種々のフリーラジカルが多く含まれている。これらのフリーラジカルに起因すると考えられる健康被害(例えば、慢性気管支炎、肺気腫及び肺がん等)は深刻なものとなっている。そこで、フリーラジカルによる問題を解決するため、様々なフリーラジカル除去製品が提案されている。例えば、特許文献1には、L−グルタチオン、L−セレノメチオニン、ビタミンC、ビタミンE等を含有する組成物が開示されている。
【0003】
前記フリーラジカルの中でも、健康に与える悪影響が最も大きいと考えられているのはペルオキシラジカルである。非特許文献1には、ペルオキシラジカルが他の活性酸素種に比べて極めて長い半減期を有し、化学的選択性が高く、チミンと反応し突然変異性の強い物質を生じること等が記載されている。
【0004】
しかしながら、前記フリーラジカル除去製品等は、ペルオキシラジカル消去能が十分であるとはいえず、より有効なペルオキシラジカル消去剤が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−516771号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chem. Res. Toxicol., Vol.10(1997), p.234-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、大気中又はタバコの煙等に含まれるペルオキシラジカルを気相で有効に消去でき、かつ人体に安全に使用できるペルオキシラジカル消去剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、ペルオキシラジカル消去剤としてチオレドキシンが顕著な効果を有することを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]チオレドキシンを有効成分として含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去剤、
[2]チオレドキシンが、酵母由来であることを特徴とする前記[1]に記載のペルオキシラジカル消去剤、
[3]前記[1]又は[2]に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去フィルタ、
[4]タバコ用であることを特徴とする前記[3]に記載のペルオキシラジカル消去フィルタ、
[5]空気清浄機用であることを特徴とする前記[3]に記載のペルオキシラジカル消去フィルタ、
[6]前記[1]又は[2]に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とする医薬、
[7]前記[1]又は[2]に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とする飲食品、及び
[8]チオレドキシンをペルオキシラジカルと接触させる工程を含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペルオキシラジカル消去剤は、チオレドキシンを有効成分として含有することで、従来得られていなかった高いペルオキシラジカル消去能を有するものである。また、チオレドキシンを酵母等の食品から得ることによって、人体に安全なペルオキシラジカル消去剤が得られる。さらに、酵母チオレドキシンは製造が簡便であり、安価にペルオキシラジカル消去剤を製造できるため、工業的に非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】喫煙実験装置を示す模式図である。
【図2】DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)ラジカル量を示すESRスペクトルである。
【図3】図2におけるDPPHシグナルの第1ピークの強度を、タバコ煙と未反応時のDPPHシグナルに対する割合で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明のペルオキシラジカル(ROO・)消去剤は、チオレドキシンを有効成分として含有することを特徴とする。チオレドキシンは、ペルオキシラジカルと接触することで前記ペルオキシラジカル(ROO・)を消去することができる。
【0013】
チオレドキシンとは、通常分子量が12kDa程度であって、一般的に活性中心にCys−X−Y−Cysの構造を有し(X及びYは、同一又は異なってもよいアミノ酸を表す。)、生体内の種々の酸化還元反応に関わる、ほとんどの生物の細胞中に存在する電子伝達タンパク質の総称(TRXファミリー)である。TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、例えば、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−、−Cys−Pro−Tyr−Cys−、−Cys−Pro−His−Cys−、−Cys−Pro−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が挙げられ、これらの中でも、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が好ましい。
【0014】
本発明においてチオレドキシンは、本発明の効果を妨げない限り、その製法及び給源等は特に限定されない。すなわち本発明のチオレドキシンとしては、天然由来のもの、遺伝子工学的手法により生産される組換えタンパク質、あるいは化学合成タンパク質等であってもよい。特に、安全性確認が容易である点から、天然供給源から得られるチオレドキシンが好ましく、容易に入手できる点から、酵母由来のチオレドキシン(以下、酵母チオレドキシンともいう。)がさらに好ましい。前記酵母としては、例えば、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母及び味噌醤油酵母等の食用酵母が好ましく挙げられる。
【0015】
前記食用酵母としては、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属等が挙げられる。これらの酵母のうち、パン酵母(サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))が特に好ましい。
【0016】
酵母チオレドキシンは、通常、酵母サッカロミセスセレビシエのTRX2タンパク質のアミノ酸配列(Genbank登録番号AAA85584(U40843),thioredox…[gi:1165214],Jae Mahn Songら、24-Jan-1996:配列番号1)に記載のように、104アミノ酸により構成された配列を有する。しかしながら、天然のタンパク質の中にはそれを生産する生物種の品種の違い、生態系の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在等に起因して1乃至数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知であり、例えばサッカロミセス属の他の種に属する酵母、あるいは他の属、例えば、ピキア属等に属する種の酵母由来のチオレドキシン等も本発明において使用しうる。前記「アミノ酸変異」とは、1乃至数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加等を意味する。前記数個とは、2〜10個程度、好ましくは2〜6個、より好ましくは2〜3個を意味する。本発明の酵母チオレドキシンは典型的には上記Genbank登録番号AAA85584(U40843)に記載のアミノ酸配列を有するが、その配列を有するタンパク質のみに限定されるわけではなく、本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含んでよい。
【0017】
前記チオレドキシンは、広く公知の方法を用いて得ることができ、市販のものを用いてもよい。本発明のペルオキシラジカル消去剤は、前記チオレドキシンを有効成分として含有するものであり、例えば、チオレドキシンとして、チオレドキシン含有酵母抽出物を含有するものであってもよい。前記チオレドキシン含有酵母抽出物の製造方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、チオレドキシン高含有酵母の菌体を破砕して得た酵母細胞抽出液を遠心分離し、得られた上清画分を限外濾過膜を用いて濾過する工程を含む製造方法等が挙げられる。
【0018】
前記酵母の培養方法としては、公知の方法を用いてよく、例えば、回分培養法、流加培養法、連続培養法等が挙げられ、具体的には、特許第4412658号に記載の方法を用いてもよい。培養装置としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ジャーファーメンターが好適に挙げられる。培養における条件としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、特に効率性の点において、培養温度としては28〜33℃程度が好ましい。培養時間としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、1〜120時間程度が好ましい。pHとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、6〜9程度が好ましい。通気量としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、0〜5vvm程度が好ましい。攪拌速度としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、100〜700rpm程度が好ましい。
【0019】
前記酵母の培養において用いる培地としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、LB培地、H培地、SOB培地、SOC培地、NZYM培地、TB培地、YT培地、トリプトン培地、TYGPN培地、λ培地、スーパーブロス培地、M9培地、M63培地、A培地、SD培地、YPD培地、YPAD培地等が挙げられ、H培地が好ましく挙げられる。これらの培地は、市販品を使用してもよく、公知の方法により製造してもよい。
【0020】
また、前記酵母の培養において、培地中に各種ストレス性物質を添加する等の手段により、酵母菌体内のチオレドキシン含有量を高めておくことが好ましく、通常の2倍程度(300μg/g)以上に高めておくことがより好ましい。前記ストレス性物質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、茶成分(例えば、緑茶抽出物等)、過酸化水素・t-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。これらのストレス性物質を添加することによって酵母にストレスを強制的に負荷し、酵母中のチオレドキシン含有量を高めることができる。前記ストレス性物質の添加量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば前記茶成分の場合、酵母に対し通常0.01〜5.0重量%程度、好ましくは0.03〜4.0重量%程度、さらに好ましくは0.1〜3.0重量%程度添加してよい。
【0021】
酵母の培養に用いる培地及び流加培養の際に用いる流加液としては、特に制限はなく、目的に応じて公知のものから適宜選択することができ、例えば、廃糖蜜等が好適に挙げられる。前記培地及び流加液は、炭素源、窒素源等を適宜含んでいてもよい。
【0022】
酵母細胞の破砕の方法としては、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなればよく、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結−解凍の繰り返し、音波処理、機械的崩壊、又は細胞溶解剤の使用を含む適当な慣用的方法であってもよい。例えば、湿式媒体撹拌ミル(ビーズミル)を用いる方法等が好適に挙げられる。酵母細胞を破砕して得られた破砕液の上清成分からチオレドキシンを濾過し、チオレドキシン含有酵母抽出物が得られる。
【0023】
前記濾過手段としては、例えば限外濾過が好ましく挙げられる。前記限外濾過に用いる限外濾過膜としては、平膜式、管状膜式、中空糸膜式等が挙げられる。特に、チオレドキシンの回収が迅速にできる点から、平膜式の限外濾過膜が好ましい。また、限外濾過膜による濾過を行った後、所望により、塩析、イオン交換、アフィニティ精製又はゲル濾過精製、RP−HPLC等の慣用される方法から選ばれる1以上を組み合わせることによって精製を行ってもよい。
【0024】
得られたチオレドキシン含有酵母抽出物は、本発明のペルオキシラジカル消去剤の成分としてそのまま用いてもよく、乾燥させて用いてもよい。前記チオレドキシン含有酵母抽出物において、総タンパク質に占めるチオレドキシン含有量は、ペルオキシラジカル消去活性の点から、約0.1重量%以上が好ましく、約1重量%以上がより好ましい。
【0025】
本発明のペルオキシラジカル消去剤におけるチオレドキシン含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、用途に応じて、0を超えて100質量%以下の範囲で適宜設定できる。また、本発明のペルオキシラジカル消去剤は、所望により溶媒等に溶解又は分散された形態で提供されてもよい。前記溶媒としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n−ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2−エチルブタノール、n−オクチルアルコール等のアルコール類、グリセリン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等の多価アルコール又はその誘導体等から選択される1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒が使用できる。これらの溶媒の中でも、人体に安全に使用できる点から、エタノール及び/又は水が好ましく用いられる。また、前記溶媒に無機塩類、界面活性剤等を添加して用いても良い。
【0026】
本発明のペルオキシラジカル消去剤としては、特に限定されず、前記チオレドキシン以外にも所望に応じてL−グルタチオン、L−セレノメチオニン、ビタミンC、ビタミンE、シコニン、アルカンニン等のペルオキシラジカル消去能をもつ物質を含んでいてもよい。特に、シコニン、アルカンニンを加えた場合、ペルオキシラジカルを失活させるに従って、シコニン、アルカンニン自体が赤〜赤紫色から無色へと変色するため、ペルオキシラジカルの除去状況が目視で確認できる点で、好ましい。
【0027】
また、本発明のペルオキシラジカル消去剤は、本発明の効果を妨げない範囲で、色素、消臭剤、香料、安定化剤、吸湿剤(塩化カルシウム、高吸水性高分子等)、賦形剤(乳糖等)等の配合剤を1種以上含有していてもよい。
【0028】
前記色素としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、染料、レーキ、有機顔料等の有機合成色素(タール色素)、天然色素等が知られており、具体的には、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、プラム色素、ノリ色素、デュベリー色素、ブドウ果汁色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、マルベリー色素、モレロチェリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、パブリカ粉末、麦芽エキス、ルチン、フラボノイド、アカキャベツ色素、アカダイコン色素、アズキ色素、ウコン色素、オリーブ茶、カウベリー色素、クロレラ末、サフラン色素、シソ色素、ストロベリー色素、チコリ色素、ペカンナッツ色素、ベニコウジ色素、ベニバナ色素、ムラサキイモ色素、ラック色素、スピルリナ色素、タマネギ色素、タマリンド色素、トウガラシ色素、クチナシ色素、シコン色素、シタン色素、オキアミ色素、オレンジ色素、ニンジンカロテン、カルメル、二酸化チタン、鉄クロロフィリンナトリウム、リボフラビン、ノルビキシンカリウム、ノルビキシンナトリウム、アラマンス、エリスロシン、ニューコクシン、フロキシンB、ローズベンガル、アシッドレッド、クートラジン、サンセットエロー、ファストグリーン、プリリアントブルー、インジゴカルミン、レーキレッドC、リソールレッド、ローダミン、フロキシン、インジゴ、ポンソー、オレンジI、スダンブルー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、無水ケイ酸、酸化アルミニウム、ベンガラ、酸化鉄、群青、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化亜鉛、雲母、オキシ塩化ビスマス、窒化ホウ素、フォトクロミック顔料、微粒子複合粉体(ハイブリッドファインパウダー)、合成マイカ等が挙げられる。
【0029】
前記消臭剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、脱硫作用による消臭剤(硫酸第一鉄等の硫酸鉄、塩酸鉄等)、化学反応作用による消臭剤(酸性剤、アルカリ性剤、酸化剤、還元剤等)、付加・縮合作用による消臭剤(付加剤:(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸エステル等、縮合剤:グリオキシザール等)、イオン交換作用による消臭剤(イオン交換樹脂の両性活性剤、カチオン剤、アニオン剤等)、薬剤添着吸着作用による消臭剤(アルカリ性又は酸性添着活性炭、活性炭と化学反応剤との混合物等)、吸着作用による消臭剤(中性活性炭、繊維化炭素吸着剤、ゼオライト、活性白土等の多孔質の吸着剤等)、吸収作用による消臭剤(アルコール、ヘキサン等の有機溶剤系、水、及び界面活性剤等)、酵素作用による消臭剤(消化酵素、口内善玉菌LS-1乳酸菌、酵母、土壌細菌等)、防腐・殺菌作用による消臭剤(クロラミンT、パラベン系、フェノール系等)、ポリフェノール系消臭剤(柿ポリフェノール、茶カテキン、ローズマリー抽出物、ウーロン茶抽出物、ヨモギ抽出物、ウラジロガシ葉抽出物、米糠・大豆焙煎抽出物等)、サイクロデキストリン、シャンピニオンエキス、ルイボス抽出物、鉄クロロフィンナトリウム、活性炭、ゼオライト等が挙げられる。
【0030】
また、香料(フレーバー、フレグランス等)を本発明のペルオキシラジカル消去剤に配合してもよい。その結果、心地よい香気を付与することができる。香料の含有量は、本発明のペルオキシラジカル消去剤の適用対象、使用方法等により変動するが、通常ペルオキシラジカル消去剤に対して0.001重量%〜20重量%程度とすることが好ましい。
【0031】
前記フレーバーとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、フラン類、炭化水素類、酸類等の合成香料;及び天然香料等が挙げられる。
【0032】
前記フレグランスとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、炭化水素類、アルコール類、フェノール類、アルデヒド類及び/又はアセタール類、ケトン類及び/又はケタール類、エーテル類、合成ムスク類、酸類、ラクトン類、エステル類、含ハロゲン化合物、天然香料等が挙げられる。
【0033】
本発明のペルオキシラジカル消去剤は、例えば、フィルタに含ませることにより利用することもできる。前記フィルタは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、タバコ用フィルタ、空気清浄機用フィルタ及びエアコンディショナー用フィルタ等に用いることができる。本発明のペルオキシラジカル消去剤をフィルタに含ませて使用することにより、気相でペルオキシラジカルが消去され、人体に接触するペルオキシラジカル量を有意に低減することができる。
【0034】
本発明のペルオキシラジカル消去剤をフィルタに含ませる方法としては、広く公知の方法を採用することができる。特に、フィルタの除去効率を高める点から、固相フィルタに含浸させる方法を採用するのが好ましい。固相フィルタに含浸させることによって、フィルタを通過する気体にまんべんなくペルオキシラジカル消去剤が作用し、効率よくペルオキシラジカルを除去できる。本発明でいう固相とは、固体状のものからなる相をいう。前記固相は、1つの連続体であってもよいし、複数の固体、粒子及び粉体等の集合物等であってもよい。また、本発明のペルオキシラジカル消去剤を前記フィルタに含浸させた後、任意の方法で乾燥を行ってもよい。前記乾燥方法としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、チオレドキシン等の有効成分の変性を防止できる点から、凍結乾燥が好ましく挙げられる。
【0035】
フィルタに含ませるペルオキシラジカル消去剤の量は、除去するペルオキシラジカルの量に併せて適宜設定することができるが、例えば、タバコ用フィルタの場合、ペルオキシラジカル消去活性が高い点から、フィルタ1cmあたりチオレドキシン換算で0.1μg〜25000μg程度含有するものが好ましく、1μg〜2500μg程度含有するものがより好ましい。空気清浄機用フィルタの場合、ペルオキシラジカル消去活性が高い点から、フィルタ1cmあたり0.01μg〜2500μg程度含有するものが好ましく、0.1μg〜250μg程度含有する物がより好ましい。
【0036】
本発明のペルオキシラジカル消去フィルタに用いる素材としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではなく、例えば、アセテート類、ポリプロピレン類、ポリアミド類、ポリビニルアルコール類、ポリスチレン類、綿、絹、紙、レーヨン等、広く採用することができる。また、活性炭等フィルタ技術で一般的に知られている材料を併用することができる。タバコ用フィルタとしては、製造コスト及び吸着能の点から、例えば、セルロースジアセテート等が好ましく用いられる。
【0037】
前記タバコ用フィルタは、タバコの煙に含まれるペルオキシラジカルが消去されるように構成されている限り特に限定されず、例えば、市販のフィルタ内蔵タバコにおけるフィルタ、市販のタバコに装着する外付けフィルタにおけるフィルタ基材等であってもよい。前記外付けフィルタとしては、例えば、タバコの吸い口側を着脱自在に取付けるタバコ着脱口と、前記タバコ着脱口に連通して煙を通す煙道と、前記煙道に連通され喫煙者が口に含む吸引口とを有し、ペルオキシラジカル消去フィルタを、フィルタ基材として前記煙道の途中に設け、タバコの煙に含まれるペルオキシラジカルを有効に消去できるように構成されたものであってもよい。また、喫煙者の周囲に発生する喫煙時のタバコの煙を吸引除去する吸煙装置の前記タバコの煙の通過経路途中に、前記フィルタが着脱自在に取り付け可能に形成されていてもよい。
【0038】
前記空気清浄機用フィルタとは、空気中に含まれるペルオキシラジカルが消去されるように構成されている限り特に限定されず、例えば、空気清浄機に着脱可能であるように構成されていてもよい。より具体的には、例えば、空気中の塵埃を除去するプレフィルタ、脱臭フィルタに積層して用いられるものであってもよい。また、前記積層が、前記プレフィルタ、前記脱臭フィルタ、ペルオキシラジカル消去フィルタの順であって、前記プレフィルタによって空気中の塵埃が除去され、前記脱臭フィルタでタバコ臭等が除去された後、ペルオキシラジカル消去フィルタでペルオキシラジカルが消去されるように構成されていてもよい。
【0039】
本発明のペルオキシラジカル消去剤を添加配合することができる対象としては、前記フィルタ以外に、例えば、飲食品、香粧品(フレグランス製品、基礎化粧品、頭髪化粧品、トイレタリー製品、浴用剤、ボディケア製品、洗剤、仕上げ剤、芳香消臭剤等)、口腔用品、医薬品等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記飲食品としては、例えば、果汁飲料、無果汁飲料、茶系飲料、乳酸飲料、粉末飲料等の飲料;アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト等のデザート類;ガム、キャンデー、錠菓等の製菓、水産練り製品等が挙げられる。
【0041】
前記フレグランス製品としては、例えば、香水、オードトワレ、オーデコロン、シャワーコロン等が挙げられる。
【0042】
前記基礎化粧品としては、例えば、スキンクリーム、クレンジングクリーム、化粧水、アフターシェーブローション、ファンデーション、口紅、タルカムパウダー等が挙げられる。
【0043】
前記頭髪化粧品としては、例えば、シャンプー、リンス、コンディショナー、リンスインシャンプー、トリートメント等の洗髪製剤、ポマード、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアジェル等の整髪剤、育毛剤、染髪剤、コールドウェーブ剤等が挙げられる。
【0044】
前記トイレタリー製品としては、例えば、化粧石鹸、浴用石鹸、透明石鹸等が挙げられる。
【0045】
前記洗剤としては、例えば、衣類用粉末洗剤、衣類用液体洗剤、柔軟仕上げ剤、台所用洗剤、トイレ用洗剤、浴室用洗剤、ガラスクリーナー、カビ取剤等が挙げられる。
【0046】
前記浴用剤としては、例えば、粉末入浴剤、固形入浴剤、固形発泡入浴剤、バスオイル、バブルバス等が挙げられる。
【0047】
前記芳香消臭剤としては、例えば、ゲル状芳香消臭剤、ミストタイプ芳香消臭剤、含浸型エアゾール芳香消臭剤等が挙げられる。
【0048】
前記医薬品としては、例えば、錠剤、液状の薬、カプセルタイプの薬、顆粒状の薬等が挙げられる。
【0049】
口腔用品としては、例えば、洗口剤、歯磨き粉、オーラルケア用ガム、オーラルケア用キャンデー等が挙げられる。
【0050】
本発明のペルオキシラジカル消去剤を飲食品、香粧品、口腔用品、医薬品に添加配合する量は、対象物により大幅に異なるものであるが、例えば、食品であればチオレドキシン換算で0.001重量%〜10重量%程度とすることが好ましく、0.01重量%〜1重量%程度とすることがさらに好ましく、飲料品であれば、チオレドキシン換算で0.000001重量%〜0.01重量%程度とすることが好ましく、0.00001重量%〜0.001重量%程度とすることがさらに好ましい。約0.000001重量%以下ではペルオキシラジカル消去能が十分ではなく、約10重量%以上添加するとペルオキシラジカル消去能は十分であるが経済的な点で不都合である。医薬品であれば、チオレドキシン換算で1重量%〜100重量%程度とすることが好ましく、10重量%〜100重量%程度とすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例、試験例等を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
チオレドキシン含有酵母抽出物(黄桜社製、チオレドキシン0.2重量%含有)を、蒸留水を用いて0.5重量%となるように希釈し、ペルオキシラジカル消去剤を調製した。得られたペルオキシラジカル消去剤に、市販のタバコ(日本たばこ社製 商品名:ピース)から取り出したフィルタを10分間浸漬した。フィルタを取り出し、−80℃で60分間冷凍した後、凍結乾燥機(東京理化器械社製 FDU−2100)を用いて凍結乾燥させ、チオレドキシン含浸フィルタ(以下、フィルタaともいう)を得た。
【0053】
(比較例1)
チオレドキシン含有酵母抽出物の代わりにグルタチオン(和光純薬社製 製品番号:#073-02013)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタbを得た。
【0054】
(比較例2)
チオレドキシン含有酵母抽出物の代わりにアスコルビン酸(和光純薬社製 製品番号:#016-04805)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタcを得た。
【0055】
(比較例3)
チオレドキシン含有酵母抽出物の代わりにエピガロカテキンガレート(DSMニュートリションジャパン社製 商品名:TEAVIGO)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルタdを得た。
【0056】
(試験例)
図1に示す喫煙実験装置を用い、喫煙実験を行った。本実験では、DPPHラジカルを用いてペルオキシラジカルの検出を行った(Chem. Pharm. Bull., Vol.53(2005), p.796-799に記載の方法を参照した。)。DPPH溶液5としては、1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazyl(和光純薬社製 #047-04051)をエタノール(和光純薬工業社製 #324-00015)で1mMに希釈したものを用いた。ポリプロピレン製チューブ4としては、Falcon#35-2059(Becton Dickinson社製)を用いた。タバコ1としては、市販のタバコ(日本たばこ社製 商品名:ピース)からフィルタを除去したものを用いた。また、フィルタ2としては、前記フィルタa、b、c、d又は空フィルタ(何も含浸させていないもの)を用いた。タバコ1の装置と反対側の端に点火し、0.9L/minで90秒間タバコの煙を装置内に通過させた。
【0057】
喫煙実験後のDPPH溶液に関し、電子スピン測定装置(日本電子社製 JES-TE100)を用いて残存DPPHラジカルの測定を行った。装置の設定は以下の通りである。
Temp:Room temperature
Frequency:9.4500GHz
Power:4mW
C.field:335.7mT
Sweep width:5mT
Mod. width:0.1mT
Amp.:50
Time constant:0.1sec
Mn挿入位置:90.0mm
【0058】
図2に前記フィルタa〜d及び空フィルタを用いた場合のそれぞれにおける残存DPPHラジカル量(ESRスペクトル)を、タバコの煙と未反応のDPPH溶液中のDPPHラジカル量と併せて示す。フィルタ2通過時に消去されなかったペルオキシラジカルは、DPPH溶液5中のDPPHラジカルを補足・消去するため、ペルオキシラジカルの残存量が多いほど、DPPHラジカルの残存量は少なくなり、シグナルは弱くなる。
【0059】
図3には図2におけるDPPHシグナルの第1ピーク16(横軸335.1mT付近)の強度を、タバコ煙と未反応時のDPPHシグナルに対する割合(ペルオキシラジカル消去活性)で示す。TRXはチオレドキシン含有酵母抽出物(フィルタa)を、GSHはグルタチオン(フィルタb)を、VCはアスコルビン酸(フィルタc)を、EGCGはエピガロカテキンガレート(フィルタd)を、コントロールは空フィルタを表す。
【0060】
チオレドキシン含有酵母抽出物を含浸させたフィルタを用いた場合に、残存DPPHラジカルのシグナルが最も強く、タバコの煙に含まれるペルオキシラジカルを最も効率よく消去することが示された。このことから、チオレドキシンはペルオキシラジカル消去剤として顕著な効果を有することが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のペルオキシラジカル消去剤は、チオレドキシンを有効成分として含有することで非常に高いペルオキシラジカル消去能を有し、特にタバコ、空気清浄器等のフィルタに有用である。また、酵母チオレドキシンを用いることで、安価かつ人体に安全なペルオキシラジカル消去剤を製造できる。
【符号の説明】
【0062】
1 タバコ
2 フィルタ
3 パスツールピペット
4 ポリプロピレン製丸底チューブ
5 DPPH含有エタノール溶液(1mM)
6 煙トラップ用活性炭
7 流量計
8 水流ポンプ
9 未反応のDPPH溶液(1mM)のスペクトル
10 フィルタa使用時のスペクトル
11 フィルタb使用時のスペクトル
12 フィルタc使用時のスペクトル
13 空フィルタ使用時のスペクトル
14 フィルタd使用時のスペクトル
15 DPPHシグナルの第1ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオレドキシンを有効成分として含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去剤。
【請求項2】
チオレドキシンが、酵母由来であることを特徴とする請求項1に記載のペルオキシラジカル消去剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去フィルタ。
【請求項4】
タバコ用であることを特徴とする請求項3に記載のペルオキシラジカル消去フィルタ。
【請求項5】
空気清浄機用であることを特徴とする請求項3に記載のペルオキシラジカル消去フィルタ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とする医薬。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペルオキシラジカル消去剤を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項8】
チオレドキシンをペルオキシラジカルと接触させる工程を含有することを特徴とするペルオキシラジカル消去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180393(P2012−180393A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42458(P2011−42458)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(500101243)株式会社ファーマフーズ (30)
【出願人】(591253227)
【Fターム(参考)】