説明

ホイール式クレーンの流体圧回路

【課題】構造を簡素化し、且つコスト低減と燃費低減を図る。
【解決手段】ホイール式クレーンの油圧回路は、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と、前軸走行モータ8と、油圧ポンプ3と、切換弁12とを備える。当該切換弁12は、油圧ポンプ3と作業用油圧シリンダ(伸縮用シリンダ10、起伏用シリンダ11)との間であって、且つ油圧ポンプ3と前軸走行モータ8との間に配置されている。そして、切換弁12は、油圧ポンプ3からの圧油を伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に供給可能な第1切換位置と、油圧ポンプ3からの圧油を前軸走行モータ8に供給可能な第2切換位置と、油圧ポンプ3からの圧油を前軸走行モータ8に供給し、且つ前軸走行モータ8から切換弁12に戻る作動油を伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に供給可能な第3切換位置とに切換可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイール式クレーンの流体圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の建設機械の油圧回路を図6に示す。図6に示すように、当該油圧回路は、原動機1(エンジン)に設置されたギアボックス2に、起伏・伸縮用切換弁24を介して作業用油圧アクチュエータである伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に作動油を供給するポンプ70aと、主巻・補巻用切換弁25を介して作業用油圧アクチュエータである主巻モータ74及び補巻モータ75に作動油を供給するポンプ70bが設けられている。尚、起伏・伸縮用切換弁24は、ポンプ70aから供給される作動油の流量及び方向を制御し、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11の運動を制御する。主巻・補巻用切換弁25は、ポンプ70bから供給される作動油の流量及び方向を制御し、主巻モータ74及び補巻モータ75の運動を制御する。また、旋回用切換弁29を介して旋回モータ(図示せず)に作動油を供給するポンプ71が設けられている。尚、旋回用切換弁29は、ポンプ71から供給される作動油の流量及び方向を制御し、旋回モータの運動を制御する。さらに、上記ポンプとは独立し、車輌全体の移動を行うため設けられた走行用油圧アクチュエータである前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9と、当該モータ8、9に作動油を供給するポンプ72a、72bを有して構成される2組の走行系油圧伝動装置(以下走行HSTという)を追設した構成となっている。
【0003】
そして、当該2組の走行HSTのポンプ72a、72bから前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9に供給される作動油により、前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9が回転し、車輌が走行する。尚、ポンプ72a、72b及び走行モータ8、9の傾転角を制御することでポンプ容量及びモータ容量を制御している。これにより、車輌の速度及び加速度を制御している。なお、油圧ショベルの油圧回路が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2776702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した図6に示す油圧回路では、作業用油圧アクチュエータと走行用油圧アクチュエータを駆動するポンプが別個に必要であるため、動力伝達するギアボックス2の構造が複雑になる。また、各ポンプが油を吸い込む太い配管が別個に必要であり部品点数が多くなることに加え、作業用油圧アクチュエータを駆動するポンプ70a、70bはポンプ容量を制御する制御装置を備えたものを使用するため高価である。そのため、コスト高となる。また、車輌が走行中の場合において、作業用油圧アクチュエータを駆動するポンプ70a、70bは空転するため動力損失が発生し、走行燃料消費量が増大するという問題がある。さらに、クレーン作業中において、走行用油圧アクチュエータを駆動するポンプ72a、72bは空転するため動力損失が発生し、クレーン作業燃料消費量が増大するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、構造を簡素化し、且つコスト低減と燃費低減を図ることができるホイール式クレーンの流体圧回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ホイール式クレーンの流体圧回路に関するものである。そして、本発明に係る流体圧回路は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の流体圧回路は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0008】
前記課題を解決するための本発明に係る流体圧回路の第1の特徴は、作業用流体圧アクチュエータと、走行用流体圧アクチュエータと、前記作業用流体圧アクチュエータ及び前記走行用流体圧アクチュエータに作動流体を供給可能な流体圧ポンプと、前記作業用流体圧アクチュエータ及び前記走行用流体圧アクチュエータと、前記流体圧ポンプとの間に設けられた切換手段とを備え、前記切換手段は、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第1状態と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給可能な第2状態と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータと前記作業用流体圧アクチュエータとに同時に供給可能な第3状態とに切換可能である。
【0009】
この構成によると、一の流体圧ポンプにより作業用流体圧アクチュエータ及び走行用流体圧アクチュエータを駆動するのでポンプ数が減少する。そのため、流体圧回路の構造を簡素化することができる。また、クレーン作業をする場合や走行する場合において、ポンプ数の減少により従来の油圧回路に比し消費動力を削減することで、燃費低減を図ることできる。さらに、ポンプ数の減少と流体圧回路の構造の簡素化でコスト低減が可能となる。
【0010】
また、本発明に係る流体圧回路の第2の特徴は、前記切換手段は、前記作業用流体圧アクチュエータと前記流体圧ポンプとの間に設けられた第1開閉弁と、前記走行用流体圧アクチュエータと前記流体圧ポンプとの間に設けられた第2開閉弁と、を備える。
なお、開閉弁とは、弁が開いた状態、弁が閉じた状態、及びこれらの中間の状態(弁が絞られた状態)に切り換えが可能な弁である。
【0011】
この構成では、流体圧回路は、作業用流体圧アクチュエータ側に設けられた第1開閉弁と、走行用流体圧アクチュエータ側に設けられた第2開閉弁とを備える。よって、作業用流体圧アクチュエータと走行用流体圧アクチュエータとに同時に作動流体が供給される場合(第3状態の場合)であって、上記の2つのアクチュエータのうち一方の負荷が低い場合に、負荷の低いアクチュエータ側に設けられた開閉弁のみの弁開度を絞る(有効な圧損を加える)ことができる。したがって、上記の2つのアクチュエータのうち一方のアクチュエータの負荷が低い場合に、他方のアクチュエータに高い負荷をかけることができる。
【0012】
また、本発明に係る流体圧回路の第3の特徴は、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁がポペット弁である。
【0013】
この構成によると、第1開閉弁および第2開閉弁がポペット弁であるため、スプール弁に比べ圧力損失が少ない。したがって、第1開閉弁または第2開閉弁がスプール弁である場合に比べ、流体圧回路の効率が良い。
【0014】
また、本発明に係る流体圧回路の第4の特徴は、前記切換手段が、3位置切換弁であり、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第1切換位置と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給可能な第2切換位置と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給し、且つ前記走行用流体圧アクチュエータから前記切換弁に戻る作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第3切換位置とに切換可能である。
【0015】
この構成のように、切り換え手段として3位置切換弁を用いることで、第1の特徴を得られる。
【0016】
また、本発明に係る流体圧回路の第5の特徴は、前記流体圧ポンプの作動流体吸入側にインペラ式遠心ポンプを接続したことである。
【0017】
この構成によると、インペラ式遠心ポンプにより流体圧ポンプの作動流体吸入側に作動流体を供給することで、流体圧ポンプの作動流体吸入側の流体圧の低下を抑制することができる。そのため、キャビテーションを防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る流体圧回路の第6の特徴は、前記インペラ式遠心ポンプの駆動軸を、クラッチを介して前記流体圧ポンプの駆動軸に接続したことである。
【0019】
この構成によると、流体圧ポンプの作動流体吸入側の流体圧の低下を抑制する必要がない場合に、クラッチを分離状態とすることでインペラ式遠心ポンプの回転を止めることができる。したがって、インペラ式遠心ポンプの空転動力を軽減でき、燃費の悪化を抑制できる。
【0020】
また、本発明に係る流体圧回路の第7の特徴は、前記流体圧ポンプを駆動する第1原動機と、前記インペラ式遠心ポンプを駆動する第2原動機とを備えることである。
【0021】
この構成によると、流体圧ポンプを駆動する第1原動機とは別に、インペラ式遠心ポンプを駆動する第2原動機を備えるので、流体圧ポンプの軸上にインペラ式遠心ポンプを設置する必要がない。したがって、インペラ式遠心ポンプの配置が容易となり、全体レイアウトの設計自由度が得られる。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明に述べたように本発明に係る流体圧回路は、特に、作業用流体圧アクチュエータ及び走行用流体圧アクチュエータと流体圧ポンプとの間に設けられた切換手段を備え、この切換手段は上述した第1状態〜第3状態に切換可能である構成により、ポンプ数が減少する。そのため、流体圧回路の構造を簡素化することができる。また、ポンプ数の減少により従来の油圧回路に比し消費動力を削減することで、燃費低減を図ることできる。さらに、ポンプ数の減少と流体圧回路の構造の簡素化でコスト低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路を示した図である。
【図2】図1に示すC部位の拡大図である。
【図3】第2実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路を示した図である。
【図4】第3実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路を示した図である。
【図5】第4実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路を示した図である。
【図6】従来の建設機械の油圧回路を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路(流体圧回路)を示した図である。図2は、図1に示すC部位の拡大図である。図1に示すように、ホイール式クレーンの油圧回路は、原動機1を備えている。そして、原動機1によりギアボックス2を介して油圧ポンプ3、4(流体圧ポンプ)及び旋回用油圧ポンプ5が駆動される。
【0026】
油圧ポンプ3、4は、双方向型の可変容量型ポンプとして構成されており、当該油圧ポンプ3、4の傾転角は各レギュレータ7により制御される。レギュレータ7は、電磁切換弁6を介してパイロット圧源28に接続されており、当該電磁切換弁6にはコントローラ(図示せず)が電気的に接続されている。コントローラは電磁切換弁6に制御信号を出力することにより、各レギュレータ7の作動ストロークを変化させて油圧ポンプ3、4の傾転角を制御する。これにより、油圧ポンプ3、4のポンプ容量を制御することができる。
【0027】
そして、油圧ポンプ3から供給される作動油(作動流体)により、前軸走行モータ8(走行用流体圧アクチュエータ)と伸縮用シリンダ10(作業用流体圧アクチュエータ)及び起伏用シリンダ11(作業用流体圧アクチュエータ)が駆動される。また、油圧ポンプ4から供給される作動油により、後軸走行モータ9(走行用流体圧アクチュエータ)と主巻モータ74(作業用流体圧アクチュエータ)及び補巻モータ75(作業用流体圧アクチュエータ)が駆動される。尚、前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9には、当該前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9の回転力を減速して走行駆動輪に伝える走行減速機(図示せず)が接続されている。
【0028】
一方、旋回用油圧ポンプ5は、固定容量型ポンプとして構成されている。当該旋回用油圧ポンプ5と上部本体を旋回させる旋回モータ(図示せず)に作動油を供給する旋回用切換弁29とは油路50により接続されており、旋回用油圧ポンプ5がサクション油路60を介してタンクTから吸い上げた作動油により、旋回モータ(図示せず)が駆動される。旋回モータの駆動に供された作動油はリターン油路61を介してタンクTに戻される。
【0029】
本実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路には、油圧ポンプ3を油圧源として前軸走行モータ8を駆動するためのHST(Hydro Static Transmission)システム(以下HSTシステムという)を構成する油圧回路と、油圧ポンプ4を油圧源として後軸走行モー
タ9を駆動するためのHSTシステムを構成する油圧回路が設けられている。
【0030】
図1に示すように、油圧ポンプ3を油圧源として前軸走行モータ8を駆動するためのHSTシステムを構成する油圧回路は、ポンプ回路A1とモータ回路B1とから構成されている。また、油圧ポンプ4を油圧源として後軸走行モータ9を駆動するためのHSTシステムを構成する油圧回路は、ポンプ回路A2とモータ回路B2とから構成されている。尚、前軸走行モータ8と油圧ポンプ3との間には、油路を切り換えることができる切換弁12(切換手段)が配置されており、後軸走行モータ9と油圧ポンプ4との間には、油路を切り換えることができる切換弁13(切換手段)が配置されている。
【0031】
ポンプ回路A1には、油圧ポンプ3と、油圧ポンプ3と前軸走行モータ8との間の回路の圧力の最大値を規制する一対のオーバーロードリリーフ弁15a、15bと、各オーバーロードリリーフ弁15a、15bと並列に設けられたチェック弁16a、16bと、リリーフ弁14とが設けられている。油圧ポンプ3には、ポート3a、3bが設けられている。尚、図2に示す油圧ポンプ3のポート3aが吐出ポート、ポート3bが吸入ポートの場合において、油圧ポンプ3と前軸走行モータ8(図1参照)との間の回路の油圧が所定の圧力を超えた場合、オーバーロードリリーフ弁15aが開放されることで作動油が油路39に排出される。これにより、チェック弁16bを介して吸入ポートであるポート3bに作動油が供給される構成となっている。また、油路39の油圧が高い場合は、リリーフ弁14が開放されることで作動油の一部がタンクTに戻される。
【0032】
ポンプ回路A2は、上述したポンプ回路A1と同様の構成であるため説明を省略する。尚、インペラ式遠心ポンプ19が、ポンプ回路A1及びポンプ回路A2に接続されており、インペラ式遠心ポンプ19によりサクション油路60を介してタンクTから吸い上げられた作動油が、ポンプ回路A1及びポンプ回路A2に供給される。また、インペラ式遠心ポンプ19側に作動油が逆流するのを阻止するためにチェック弁17が設けられている。当該インペラ式遠心ポンプ19は、図6に示すギアポンプ73に比べて薄型に形成することができるため、ギアポンプ73に比べて大きな設置スペースを設ける必要がない。
【0033】
モータ回路B1には、図1に示す前軸走行モータ8と回路内の余剰油を回路外に排出するためのフラッシングバルブ20と、リリーフ弁21と、電磁切換弁22とが設けられている。
【0034】
モータ回路B2は、上述したモータ回路B1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0035】
切換弁12は、3位置5ポートの切換弁であり、スプール式であり、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と油圧ポンプ3との間に配置されている。切換弁12における油圧ポンプ3側の2つのポートには、油圧ポンプ3に連通する油路30、31がそれぞれ接続されている。また、切換弁12における前軸走行モータ8側の3つのポートには、前軸走行モータ8に連通する油路32、33と、ブームを伸縮させる伸縮用シリンダ10及びブームを起伏させる起伏用シリンダ11に作動油を供給する起伏・伸縮用切換弁24に連通する油路34とがそれぞれ接続されている。切換弁12の両側に設けられた比例弁23a、23bには、パイロット圧源28に接続されたパイロット配管62と、ドレン配管63aが接続されている。
【0036】
切換弁13は、3位置5ポートの切換弁であり、スプール式であり、主巻モータ74及び補巻モータ75と油圧ポンプ4との間に配置されている。切換弁13における油圧ポンプ4側の2つのポートには、油圧ポンプ4に連通する油路40、41がそれぞれ接続されている。また、切換弁13における後軸走行モータ9側の3つのポートには、後軸走行モータ9に連通する油路42、43と、主巻モータ74及び補巻モータ75に作動油を供給する主巻・補巻用切換弁25に連通する油路44とがそれぞれ接続されている。切換弁13の両側に設けられた比例弁23c、23dには、パイロット圧源28に接続されたパイロット配管62と、ドレン配管63aが接続されている。
【0037】
切換弁12は、作業者によるシフトレバー(図示せず)の操作に基づいて、第1位置12a(第1状態、第1切換位置)、第2位置12b(第2状態、第2切換位置)、第3位置12c(第3状態、第3切換位置)のいずれかに切り換えることができ、切換弁13は、第1位置13a(第1状態、第1切換位置)、第2位置13b(第2状態、第2切換位置)、第3位置13c(第3状態、第3切換位置)のいずれかに切り換えることができる。具体的には、パイロット圧源28から供給されるパイロット圧(1次圧)を、比例弁23a、23bに流す電流によりパイロット圧(2次圧)に変化させる。これにより、比例弁23aと比例弁23bとの間に圧力差が生じ当該圧力差に基づいて、切換弁12が切り換えられる。同様に、比例弁23cと比例弁23dとの圧力差に基づいて、切換弁13が切り換えられる。
【0038】
切換弁12の第1位置12aにおいては、油路30と油路34とが連通され、油路32と油路33とが連通され、油路31が接続されるポートは遮断される。第2位置12bにおいては、油路30と油路32とが連通され、油路31と油路33とが連通され、油路34が接続されるポートは遮断される。第3位置12cにおいては、油路31と油路33とが連通され、油路32と油路34とが連通され、油路30が接続されるポートは遮断される。
【0039】
切換弁13の第1位置13aにおいては、油路41と油路44とが連通され、油路42と油路43とが連通され、油路40が接続されるポートは遮断される。第2位置13bにおいては、油路41と油路42とが連通され、油路40と油路43とが連通され、油路44が接続されるポートは遮断される。第3位置13cにおいては、油路40と油路43とが連通され、油路42と油路44とが連通され、油路41が接続されるポートは遮断される。
【0040】
起伏・伸縮用切換弁24は、伸縮用シリンダ10に作動油を供給する伸縮用切換弁24aと起伏用シリンダ11に作動油を供給する起伏用切換弁24bとで構成されている。そして、伸縮用切換弁24aには、伸縮用シリンダ10のボトム室10aに連通する油路35及びロッド室10bに連通する油路36が接続されており、起伏用切換弁24bには、起伏用シリンダ11のボトム室11aに連通する油路37及びロッド室11bに連通する油路38が接続されている。また、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11から排出された作動油は、リターン油路61を介してタンクTに戻される。尚、起伏・伸縮用切換弁24は、油圧ポンプ3から供給される作動油の流量及び方向を制御し、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11の運動を制御する。
【0041】
主巻・補巻用切換弁25は、主巻モータ74に作動油を供給する主巻用切換弁25aと補巻モータ75に作動油を供給する補巻用切換弁25bとで構成されている。そして、主巻用切換弁25aには、主巻モータ74に連通する油路74aが接続されており、補巻用切換弁25bには、補巻モータ75に連通する油路75aが接続されている。また、主巻モータ74及び補巻モータ75の駆動に供された作動油は、リターン油路61を介してタンクTに戻される。尚、主巻・補巻用切換弁25は、油圧ポンプ4から供給される作動油の流量及び方向を制御し、主巻モータ74及び補巻モータ75の運動を制御する。
【0042】
このような切換弁12、13の構成により、油圧ポンプ3には切換弁12を介して前軸走行モータ8と、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11が接続される。また、油圧ポンプ4には切換弁13を介して後軸走行モータ9と、主巻モータ74及び補巻モータ75とが接続される。
【0043】
切換弁12を第1位置12aに切り換えることで、油圧ポンプ3からの圧油が切換弁12を介して起伏・伸縮用切換弁24に供給される。そして、当該圧油が伸縮用シリンダ10のボトム室10aに供給されるとともに、伸縮用シリンダ10のロッド室10bの作動油がリターン油路61に排出される。これにより、伸縮用シリンダ10を伸長させ、ブームを伸長させることができる。一方、当該圧油が伸縮用シリンダ10のロッド室10bに供給されるとともに、伸縮用シリンダ10のボトム室10aの作動油がリターン油路61に排出される。これにより、伸縮用シリンダ10を収縮させ、ブームを収縮させることができる。また、切換弁13を第1位置13aに切り換えることで、油圧ポンプ4からの圧油が切換弁13を介して主巻・補巻用切換弁25に供給された後、主巻モータ74及び補巻モータ75へ供給される。これにより、主巻モータ74及び補巻モータ75が駆動される。その後、主巻モータ74及び補巻モータ75の駆動に供された作動油は、リターン油路61に排出される。
【0044】
切換弁12を第2位置12bに切り換えることで、油圧ポンプ3からの圧油が切換弁12を介して前軸走行モータ8に供給される。これにより、前軸走行モータ8が駆動される。また、切換弁13を第2位置13bに切り換えることで、油圧ポンプ4からの圧油が切換弁13を介して後軸走行モータ9に供給される。これにより、後軸走行モータ9が駆動される。
【0045】
切換弁12を第3位置12cに切り換えることで、油圧ポンプ3からの圧油が切換弁12を介して前軸走行モータ8に供給される。その後、前軸走行モータ8で使用された作動油が油路32を通って切換弁12に戻り、当該戻り油が切換弁12を介して起伏・伸縮用切換弁24に供給される。すなわち油圧ポンプ3からの作動油は、前軸走行モータ8と起伏・伸縮用切換弁24とに同時に供給される。これにより、前軸走行モータ8の駆動に連動して、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11を駆動することができる。また、切換弁13を第3位置13cに切り換えることで、油圧ポンプ4からの圧油が切換弁13を介して後軸走行モータ9に供給される。その後、後軸走行モータ9で使用された作動油が油路42を通って切換弁13に戻り、当該戻り油が切換弁13を介して主巻・補巻用切換弁25に供給される。すなわち油圧ポンプ4からの作動油は、後軸走行モータ9と主巻・補巻用切換弁25とに同時に供給される。これにより、前軸走行モータ8の駆動に連動して、主巻モータ74及び補巻モータ75を駆動することができる。
【0046】
フラッシングバルブ20にはドレン配管63bが接続されており、当該フラッシングバルブ20を介して排出された作動油がリターン油路61を介してタンクTに戻される。尚、ドレン配管63bには電磁切換弁22とリリーフ弁21が設けられており、当該電磁切換弁22はコントローラからの信号に基づきドレン配管63bを遮断する。即ち、コントローラは、作業者がシフトレバーを操作し、切換弁12を第3位置12cに切り換えた場合に連動して電磁切換弁22に信号を送ることで、ドレン配管63bを遮断する。これにより、油圧ポンプ3から前軸走行モータ8に供給される作動油がドレン配管63bを介してタンクTに排出されることがなくなるので、切換弁12を介して伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に供給される作動油の流量の低減を抑制することができる。その結果、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11の運動が阻害されることがなくなる。
【0047】
また、コントローラは、作業者がシフトレバーを操作し、切換弁13を第3位置13cに切り換えた場合に連動して電磁切換弁22に信号を送ることで、ドレン配管63bを遮断する。これにより、油圧ポンプ4から後軸走行モータ9に供給される作動油がドレン配管63bを介してタンクTに排出されることがなくなるので、切換弁13を介して主巻モータ74及び補巻モータ75に供給される作動油の流量の低減を抑制することができる。その結果、主巻モータ74及び補巻モータ75の運動が阻害されることがなくなる。尚、走行単独で走行中に走行系統は閉回路を構成するので、高油温となる。これを冷却する為リリーフ弁21は、駆動高圧側と反対側の低圧側油路の油圧が所定の圧力を超えると、ドレン配管63bに作動油を開放する。
【0048】
油圧回路のリターン油路61には、オイルクーラー26が設けられる。伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11から排出される作動油や、主巻モータ74及び補巻モータ75から排出される作動油が当該オイルクーラー26により冷却されてタンクTに戻る。また、リターン油路61における当該オイルクーラー26よりもタンクT側には、作動油に混入した不純物を取り除くためのフィルタ27と、チェック弁18とが並列に設けられている。
【0049】
上記構成において、アクセル(図示せず)が操作されると、その操作信号に基づくコントローラからの信号によって電磁切換弁6が切り換わり作動し、油圧ポンプ3、4の傾転角が増加する。これにより、油圧ポンプ3、4から吐出された作動油が前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9に送られて当該前軸走行モータ8及び後軸走行モータ9が回転し、車輌が走行する。
【0050】
(本実施形態のホイール式クレーンの流体圧回路の特徴)
以上説明したように、本実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路は、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と、前軸走行モータ8と、油圧ポンプ3と、切換弁12とを備える。また、主巻モータ74及び補巻モータ75と、後軸走行モータ9と、油圧ポンプ4と、切換弁13とを備える。
【0051】
切換弁12は、油圧ポンプ3と作業用油圧シリンダ(伸縮用シリンダ10、起伏用シリンダ11)との間であって、且つ油圧ポンプ3と前軸走行モータ8との間に配置されている。尚、切換弁12は、油圧ポンプ3からの圧油を伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に供給可能な第1位置12aと、油圧ポンプ3からの圧油を前軸走行モータ8に供給可能な第2位置12bと、油圧ポンプ3からの圧油を前軸走行モータ8に供給し、且つ前軸走行モータ8から切換弁12に戻る作動油を伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11に供給可能(油圧ポンプ3からの圧油を前軸走行モータ8と、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11とに同時に供給可能)な第3位置12cとに切換可能である。
【0052】
また、切換弁13は、油圧ポンプ4と作業用油圧モータ(主巻モータ74、補巻モータ75)との間であって、且つ油圧ポンプ4と後軸走行モータ9との間に配置されている。尚、切換弁13は、油圧ポンプ4からの圧油を主巻モータ74及び補巻モータ75に供給可能な第1位置13aと、油圧ポンプ4からの圧油を後軸走行モータ9に供給可能な第2位置13bと、油圧ポンプ4からの圧油を後軸走行モータ9に供給し、且つ後軸走行モータ9から切換弁13に戻る作動油を主巻モータ74及び補巻モータ75に供給可能(油圧ポンプ4からの圧油を後軸走行モータ9と、主巻モータ74及び補巻モータ75とに同時に供給可能)な第3位置13cとに切換可能である。
【0053】
この構成によると、切換弁12を切り換えることで、一の油圧ポンプ3により供給される作動油を伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と前軸走行モータ8に供給することができるので、一の油圧ポンプ3により伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と前軸走行モータ8とを駆動することができる。また、切換弁13を切り換えることで、一の油圧ポンプ4により供給される作動油を主巻モータ74及び補巻モータ75と後軸走行モータ9に供給することができるので、一の油圧ポンプ4により主巻モータ74及び補巻モータ75と後軸走行モータ9とを駆動することができる。そのため、ポンプ数が減少し、油圧回路の構造を簡素化することができる。また、ポンプ数の減少により、ポンプに動力を伝達するギアボックス2の構造を簡素化することができる。また、一のポンプで作業系統と走行系統とに圧油が供給されるので、従来の油圧回路のように空転してしまうポンプがない。これにより、燃費低減を図ることができる。さらに、ポンプ数の減少と油圧回路の構造の簡素化でコスト低減が可能となる。
【0054】
また、切換弁12及び13は、3位置切換弁である。
【0055】
この構成のように、切換弁12及び13として3位置切換弁を用いることで、上述した特徴を得られる。
【0056】
また、油圧ポンプ3、4の作動油吸入側にインペラ式遠心ポンプ19を接続している。
【0057】
この構成によると、インペラ式遠心ポンプ19により作動油を油圧ポンプ3、4の作動油吸入側に供給することで、油圧ポンプ3、4の作動流体吸入側の油圧の低下を抑制することができるので、キャビテーションを防止することができる。
【0058】
(第2実施形態)
図3に第2実施形態に係る油圧回路を示す。第1実施形態と第2実施形態との主な相違点は次の2点である。
図1に示す第1実施形態では3位置切換弁12及び13を用いて第1状態〜第3状態に切り換えた。一方で図3に示す第2実施形態では切換手段112および切換手段113を用いて第1状態〜第3状態に切り換える。
また、第1実施形態では、図1に示すように、インペラ式遠心ポンプ19の駆動軸は油圧ポンプ3及び4の駆動軸に直接接続された。一方で図3に示す第2実施形態ではインペラ式遠心ポンプ19の駆動軸はクラッチ119aを介して油圧ポンプ3及びび4の駆動軸に接続される。
以下、図3を参照して上記の相違点について説明する。その他の構成については第1実施形態と同様であるので、同一符号を付してその説明を省略する。
【0059】
切換手段112は、第1状態〜第3状態の切り換えが可能である(切り換え動作については後述する)。この切換手段112は、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11と油圧ポンプ3との間に設けられた開閉弁112a(第1開閉弁)と、前軸走行モータ8と油圧ポンプ3との間に設けられた開閉弁112b(第2開閉弁)とを備える。ここで開閉弁とは、弁が開いた状態、弁が閉じた状態、及びこれらの中間の状態(弁が絞られた状態)に切り換え可能な弁である。具体的には例えば次に述べるポペット式のロジック弁である。
【0060】
開閉弁112a(第1開閉弁)および開閉弁112b(第2開閉弁)は、ポペット弁(弁体が弁座に対して垂直に移動する弁)である(ポペット式のロジック弁である)。このポペット弁はスプール弁に比べて圧力損失が少なく、油圧回路の効率を良くできる。また開閉弁112aおよび開閉弁112bは、それぞれ弁開度を絞ることで負荷を調整できる。具体的には、弁体を弁座に押し付ける圧力を比例弁などを用いて調整することで弁の弁開度を絞ることができる。
【0061】
切換手段113は、第1状態〜第3状態の切り換えが可能である(切り換え動作については後述する)。この切換手段113は、主巻モータ74及び補巻モータ75と油圧ポンプ4との間に設けられた開閉弁113a(第1開閉弁)と、後軸走行モータ9と油圧ポンプ4との間に設けられた開閉弁113b(第2開閉弁)とを備える。
【0062】
開閉弁113a(第1開閉弁)および開閉弁113b(第2開閉弁)は、開閉弁112aおよび開閉弁112bと同一の機能を有するので詳細な説明は省略する。
【0063】
クラッチ119aは、インペラ式遠心ポンプ19を回転および停止させるために設けられる。すなわち、インペラ式遠心ポンプ19の駆動軸を、クラッチ119aを介して油圧ポンプ3、4の駆動軸に接続している。このクラッチ119aを分離状態とすれば、インペラ式遠心ポンプ19の回転が止まる。これにより、インペラ式遠心ポンプ19を回転(空転)させた場合の動力損失を抑制できる(どのような場合にクラッチ119aを結合および分離させるかについては後述する)。またクラッチ119aは、油圧湿式、電磁式、または乾式の何れでも良い。
【0064】
なお、第2実施形態に係る油圧回路では、図1に示す第1実施形態と異なり、ギアポンプ73を備えている。図6に示す従来の油圧回路と同様に、ギアポンプ73は油圧回路に作動油を供給するポンプである。
【0065】
(開閉弁およびクラッチの動作)
次に、図3に示す切換手段112、113、及びクラッチ119aの動作について説明する。具体的には、まず切換手段112及び113を第2状態に切り換える場合について説明し、次に切換手段112を第1状態および第3状態に切り換える場合について説明し、次に切換手段113を第1状態および第3状態に切り換える場合について説明する。
【0066】
まず切換手段112及び113を第2状態にする場合について説明する。すなわち、油圧ポンプ3からの作動油を前軸走行モータ8のみに供給する場合、及び、油圧ポンプ4からの作動油を後軸走行モータ9のみに供給する場合について説明する。切換手段112については、開閉弁112bを開くとともに開閉弁112aを閉止する。また切換手段113については、開閉弁113bを開くとともに開閉弁113aを閉止する。さらに、クラッチ119aを分離状態としてインペラ式遠心ポンプ19の回転を止める。
【0067】
クラッチ119aを分離状態とするのは次の理由による。走行系統の回路は閉回路を構成する。すなわち、油路32から前軸走行モータ8に供給された作動油はほぼ漏れることなく油路33及び31を通って油圧ポンプ3の吸入側ポート3bに戻る。また、油路42から後軸走行モータ9に供給された作動油はほぼ漏れることなく油路43及び41を通って油圧ポンプ4の吸入側ポートに戻る。よって油圧ポンプ3または4の作動油吸入側の油圧は十分高い。したがって、インペラ式遠心ポンプ19により油圧ポンプ3または4の作動油吸入側に作動油を供給してキャビテーションを防止する必要がない。そこで、クラッチ119aを分離状態としてインペラ式遠心ポンプ19の回転を止める。
【0068】
次に切換手段112を第1状態に切り換える場合について説明する。すなわち、油圧ポンプ3からの作動油を起伏・伸縮用切換弁24のみに供給する場合について説明する。この場合は、開閉弁112aを開くとともに開閉弁112bを閉止する。さらに、クラッチ119aは結合状態とし、インペラ式遠心ポンプ19でポンプ3の作動油吸入側ポート3bに圧油を供給する。なお、上述した走行系統の回路と異なり、作業系統の回路は開回路である(作動油はリターン油路61を通ってタンクTに戻る)。そこで、インペラ式遠心ポンプ19で油圧ポンプ3の作動油吸入側ポート3bに圧油を供給してキャビテーションを防止している。
【0069】
次に切換手段112を第3状態に切り換える場合について説明する。すなわち、油圧ポンプ3からの作動油を、前軸走行モータ8と、起伏・伸縮用切換弁24とに同時に供給する場合について説明する。この場合、開閉弁112a及び112bを両方開く。さらにクラッチ119aは結合状態とする。
【0070】
このとき、開閉弁112a及び112bのうち低圧側の弁開度を絞る制御を行う。さらに詳しくは次の制御を行う。伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11側(作業側)の負荷圧、および、前軸走行モータ8側(走行側)の負荷圧を圧力センサーなどで感知する。そして作業側および走行側のうち低圧側のアクチュエータに接続された開閉弁の弁開度を絞る(有効な圧損を加える)制御を行う。より好ましくは、低圧側のアクチュエータの負荷圧と弁開度を絞った開閉弁の有効な圧損との和が、高圧側のアクチュエータの負荷圧と等しくなるように制御を行う。これにより、高圧側のアクチュエータに高い負荷を掛けることができる。一方でこの制御を行わなければ、開閉弁112aと112bとは油路30を介して連結されているため、高圧側のアクチュエータの負荷圧は、低圧側のアクチュエータの負荷圧まで低下してしまう。
【0071】
さらに具体的に説明すると、例えば吊荷を掴んで運ぶ作業(pick & carry)で走行が微速の場合、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11側の負荷圧よりも、前軸走行モータ8側の負荷圧は低い。そこで開閉弁112bの弁開度を絞ることで、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11側に高い負荷圧を掛けることができ、これらのシリンダの速度が遅くならない。
なお、作業側アクチュエータ(伸縮用シリンダ10や起伏用シリンダ11)の速度を遅くせずに走行を行うためには、開閉弁112bを閉止し(切換手段112を第1状態とし)前軸走行モータ8側の傾転角をゼロとして、後軸走行モータ9のみで走行させても良い。
【0072】
次に切換手段113を第1状態に切り換える場合について説明する。すなわち、油圧ポンプ4からの作動油を、主巻・補巻用切換弁25にのみ供給する場合について説明する。この場合、開閉弁113aを開き、開閉弁113bを閉止する。さらにクラッチ119aを結合状態とし、インペラ式遠心ポンプ19で油圧ポンプ4の作動油吸入側に圧油を供給する。
【0073】
次に切換手段113を第3状態に切り換える場合について説明する。すなわち、油圧ポンプ4からの作動油を、後軸走行モータ9と主巻・補巻用切換弁25とに同時に供給する場合について説明する。この場合は、開閉弁113a及び113bを両方開く。さらにクラッチ119aは結合状態とする。また、切換手段112を第3状態に切り換える場合と同様に、低負荷圧側のアクチュエータに接続された開閉弁の弁開度を絞る制御を行う。なお、作業側アクチュエータ(主巻モータ74や補巻モータ75)の速度を遅くせずに走行を行うためには、開閉弁113bを閉止し(切換手段113を第1状態とし)後軸走行モータ9側の傾転角をゼロとして、前軸走行モータ8のみで走行させても良い。
【0074】
(本実施形態のホイール式クレーンの流体圧回路の特徴)
以上説明したように、本実施形態に係るホイール式クレーンの油圧回路は、次の特徴を有する。
【0075】
本実施形態に係る油圧回路は、伸縮用シリンダ10及び起伏用シリンダ11側に設けられた開閉弁112aと、前軸走行モータ8側に設けられた開閉弁112bとを備える。よって、伸縮用シリンダ10または起伏用シリンダ11の少なくともいずれか(作業用油圧アクチュエータ)と、前軸走行モータ8(走行用油圧アクチュエータ)とに同時に作動油が供給される場合(第3状態の場合)であって、上記の2種(作業用および走行用)のアクチュエータのうち一方の負荷が低い場合に、負荷の低いアクチュエータ側に設けられた開閉弁のみ(開閉弁112aまたは112bのうちいずれか一方のみ)の弁開度を絞る(有効な圧損を加える)ことができる。
また、本実施形態に係る油圧回路は、主巻モータ74及び補巻モータ75側に設けられた開閉弁113aと、後軸走行モータ9側に設けられた開閉弁113bとを備える。よって、主巻モータ74または補巻モータ75の少なくともいずれか(作業用油圧アクチュエータ)と、後軸走行モータ9(走行用油圧アクチュエータ)とに同時に作動油が供給される場合(第3状態の場合)であって、上記の2種(作業用および走行用)のアクチュエータのうち一方の負荷が低い場合に、負荷の低いアクチュエータ側に設けられた開閉弁のみ(開閉弁113aまたは113bのうちいずれか一方のみ)の弁開度を絞る(有効な圧損を加える)ことができる。
したがって、上記の2種(作業用および走行用)のアクチュエータのうち一方のアクチュエータの負荷が低い場合に、他方のアクチュエータに高い負荷をかけることができる。
【0076】
また、開閉弁112aおよび開閉弁112bはポペット弁であるため、スプール弁に比べ圧力損失が少ない。したがって、開閉弁112aおよび開閉弁112bがスプール弁である場合に比べ、油圧回路の効率が良い。なお、開閉弁113aおよび開閉弁113bについても同様の特徴を有する。
【0077】
また、インペラ式遠心ポンプ19の駆動軸が、クラッチ119aを介して油圧ポンプ3及び4の駆動軸に接続される。よって、油圧ポンプ3または4の作動油吸入側の油圧の低下を抑制する必要がない場合に、クラッチ119aを分離状態とすることでインペラ式遠心ポンプ19の回転を止めることができる。したがって、インペラ式遠心ポンプ19の空転動力を軽減でき、燃費の悪化を抑制できる。
【0078】
(第3実施形態)
図4に第3実施形態に係る油圧回路を示す。第2実施形態と第3実施形態との相違点は次の2点である。
図3に示す第2実施形態では、主巻・補巻用切換弁25から吐出された作動油はリターン油路61を通ってタンクTへ戻る。一方で図4に示す第3実施形態ではリターン油路61に背圧チェック弁264が設置されるとともに、主巻・補巻用切換弁25と油圧ポンプ4の作動油吸入側とを繋ぐ油路261が追加される。
また、図3に示す第2実施形態では、インペラ式遠心ポンプ19から油圧ポンプ4に圧油が供給される。一方で図4に示す第3実施形態では、インペラ式遠心ポンプ19から油圧ポンプ4に圧油が供給されない。
以下、図4を参照して上記の相違点について説明する。その他の構成については第2実施形態と同様であるので、同一符号を付して(または煩雑を避けるため適宜符号を省略して)その説明を省略する。
【0079】
上述したように、主巻・補巻用切換弁25とタンクTとを連通するリターン油路61に背圧チェック弁264が設置されるとともに、主巻・補巻用切換弁25と油圧ポンプ4の作動油吸入側とを繋ぐ油路261が形成される。これにより、主巻・補巻用切換弁25から吐出された作動油のほとんどは、リターン油路61を通らず、油路261および油路261aを通って油圧ポンプ4の作動油吸入側へ戻される。また、小容量のギアポンプ73aからも油圧ポンプ4へ作動油が補給される。よって、油圧ポンプ4のキャビテーションが防止される。
【0080】
また、このように油圧ポンプ4のキャビテーションが防止されるため、インペラ式遠心ポンプ19により油圧ポンプ4の作動油吸入側に作動油を供給する必要がない。そこで、インペラ式遠心ポンプ19と油圧ポンプ4とを連通する油路を設けていない。
これにより、インペラ式遠心ポンプ19により油圧ポンプ3及び4に作動油を供給する場合に比べ、インペラ式遠心ポンプ19の容量を小さくできる。
【0081】
なお、ギアポンプ73aはHST走行回路(油圧ポンプ4を油圧源として後軸走行モータ9を駆動する回路)への作動油の補給を目的としたものであり、走行単独操作時には油圧ポンプ4のキャビテーション防止に役立つ。
また、起伏・伸縮用切換弁24とタンクTとの間のリターン油路61aには背圧チェック弁を設置していない。これは次の理由による。すなわち、伸縮用シリンダ10や起伏用シリンダ11のシリンダ伸び操作時には、ロッド側(ロッド室10b、11b側)から吐出される作動油は、ヘッド側(ボトム室10a、11a側であり、油圧ポンプ3吐出側)へ供給される作動油と比べて油量が大幅に少なくなる。よって、上述した背圧チェック弁を用いた油供給では十分な量の圧油を油圧ポンプ3に供給できない。そこでインペラ式遠心ポンプ19により圧油を油圧ポンプ3に供給している。
【0082】
(第4実施形態)
図5に第4実施形態に係る油圧回路を示す。図4に示す第3実施形態では原動機1(第1原動機)でインペラ式遠心ポンプ19を駆動した。一方で図5に示す第4実施形態では電動モータ301(第2原動機)でインペラ式遠心ポンプ19を駆動する。
以下、図4を参照して上記の相違点について説明する。その他の構成については第3実施形態と同様であるので、同一符号を付して(または煩雑を避けるため適宜符号を省略して)その説明を省略する。
【0083】
電動モータ301(第2原動機)は、インペラ式遠心ポンプ19を駆動する原動機である。電動モータ301をオン・オフさせることで、図4に示す第3実施形態に係るクラッチ119aを結合・分離させるのと同様の機能を持たせることができる。また、図5に示すように、電動モータ301は、油圧ポンプ3及び4の軸上からずれた位置に配置される。よって油圧ポンプ3、4、およびインペラ式遠心ポンプ19を1つの軸上に配置した場合に比べ、軸方向の長さを短くできる。
【0084】
(本実施形態のホイール式クレーンの流体圧回路の特徴)
本実施形態に係る油圧回路では、油圧ポンプ3及び4を駆動する原動機1とは別に、インペラ式遠心ポンプ19を駆動する電動モータ301を備えるので、油圧ポンプ3及び4の軸上にインペラ式遠心ポンプ19を設置する必要がない。したがって、インペラ式遠心ポンプ19の配置が容易となり、全体レイアウトの設計自由度が得られる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0086】
例えば、図3〜図5に示す第2実施形態〜第4実施形態では開閉弁112a、112b、113a、及び113bにポペット弁を用いた。しかしながら、1の入力と1の出力の2つのポートを備え、弁が開く位置、弁が閉じる位置、及びこれらの中間の位置(弁が絞られた位置)に切り換えが可能な弁であればポペット弁でなくても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 原動機(第1原動機)
2 ギアボックス
3、4 油圧ポンプ(流体圧ポンプ)
8 前軸走行モータ(走行用流体圧アクチュエータ)
9 後軸走行モータ(走行用流体圧アクチュエータ)
10 伸縮用シリンダ(作業用流体圧アクチュエータ)
11 起伏用シリンダ(作業用流体圧アクチュエータ)
12、13 切換弁(切換手段)
19 インペラ式遠心ポンプ
22 電磁切換弁
23a、23b、23c、23d 比例弁
24 起伏・伸縮用切換弁
25 主巻・補巻用切換弁
28 パイロット圧源
74 主巻モータ(作業用流体圧アクチュエータ)
75 補巻モータ(作業用流体圧アクチュエータ)
112、113 切換手段
112a、113a 開閉弁(第1開閉弁)
112b、113b 開閉弁(第2開閉弁)
119a クラッチ
301 電動モータ(第2原動機)
A1、A2 ポンプ回路
B1、B2 モータ回路
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業用流体圧アクチュエータと、
走行用流体圧アクチュエータと、
前記作業用流体圧アクチュエータ及び前記走行用流体圧アクチュエータに作動流体を供給可能な流体圧ポンプと、
前記作業用流体圧アクチュエータ及び前記走行用流体圧アクチュエータと、前記流体圧ポンプとの間に設けられた切換手段とを備え、
前記切換手段は、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第1状態と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給可能な第2状態と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータと前記作業用流体圧アクチュエータとに同時に供給可能な第3状態とに切換可能であることを特徴とするホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項2】
前記切換手段は、前記作業用流体圧アクチュエータと前記流体圧ポンプとの間に設けられた第1開閉弁と、前記走行用流体圧アクチュエータと前記流体圧ポンプとの間に設けられた第2開閉弁と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項3】
前記第1開閉弁および前記第2開閉弁はポペット弁であることを特徴とする請求項2に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項4】
前記切換手段は、3位置切換弁であり、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第1切換位置と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給可能な第2切換位置と、前記流体圧ポンプからの作動流体を前記走行用流体圧アクチュエータに供給し、且つ前記走行用流体圧アクチュエータから前記切換弁に戻る作動流体を前記作業用流体圧アクチュエータに供給可能な第3切換位置とに切換可能であることを特徴とする請求項1に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項5】
前記流体圧ポンプの作動流体吸入側にインペラ式遠心ポンプを接続したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項6】
前記インペラ式遠心ポンプの駆動軸を、クラッチを介して前記流体圧ポンプの駆動軸に接続したことを特徴とする請求項5に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。
【請求項7】
前記流体圧ポンプを駆動する第1原動機と、前記インペラ式遠心ポンプを駆動する第2原動機とを備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のホイール式クレーンの流体圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−150043(P2010−150043A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266982(P2009−266982)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】