説明

ホイール式建設機械の油圧駆動装置

【課題】低温環境におけるエンジンの始動に際して、比較的速やかにアキュムレータに蓄圧できるとともに、エンジンの始動後におけるアキュムレータの圧力降下に伴う蓄圧時に、必要流量を分岐管路を介して専用管路に分流させることができる。
【解決手段】圧油供給管路に含まれる管路30と、分岐管路34との分岐点の下流に位置する管路31部分であって、アキュムレータ14,15の圧力を保持する逆止弁16,17の上流に位置する管路31部分に、アキュムレータ14,15の圧力がエンジン10の始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力、すなわちカットイン圧に満たないときには、管路31を流れる圧油の流量が多くなるように制御し、アキュムレータ14,15の圧力がカットイン圧以上のときには、管路31部分を流れる圧油の流量が少なくなるように制御する流量制御弁40を備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ弁と、このブレーキ弁に供給される圧油を蓄えるアキュムレータとを備えたホイールローダ等のホイール式建設機械の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は従来のホイール式建設機械の油圧駆動装置を示す油圧回路図、図6は図5に示す従来のホイール式建設機械の油圧駆動装置においてエンジン始動時に得られる蓄圧特性を示す図である。この図6の縦軸は、アキュムレータに蓄えられる圧力を示し、横軸はアキュムレータに許容最大圧力、すなわちカットアウト圧が蓄えられるまでの時間を示している。
【0003】
図5に示す従来技術は、ホイール式建設機械例えばホイールローダに備えられる油圧駆動装置であり、図示しないエンジンスタータによって起動するエンジン10と、このエンジン10によって駆動される油圧ポンプ、例えばパイロットポンプ11とを備えている。図示しないが、エンジン10には、作業に関係する各種アクチュエータに圧油を供給する容量の大きな主ポンプも接続されている。また、このホイールローダは、その前輪、後輪に油圧式のブレーキ装置を備え、このブレーキ装置は、運転室内に設けられるブレーキペダルの踏み込み操作により後述のブレーキ弁がその操作量に応じた作動圧力を生成することにより作動する。ブレーキ装置は、パイロットポンプ11から吐出される圧油によって作動する走行系のブレーキ弁12と、このブレーキ弁12を操作するブレーキペダル13と、パイロットポンプ11とブレーキ弁12とを連絡する圧油供給管路、すなわち、管路30と、この管路30に接続される管路31と、この管路31に接続される管路32及び管路33とを備えている。
【0004】
また、圧油供給管路に含まれる管路32に供給された圧油を蓄える前輪ブレーキ用の第1アキュムレータ14と、管路33に供給された圧油を蓄える後輪ブレーキ用の第2アキュムレータ15と、第1アキュムレータ14の圧力を保持する第1逆止弁16と、第2アキュムレータ15の圧力を保持する第2逆止弁17とを備えている。また、第1逆止弁16及び第2逆止弁17の上流に位置する管路31部分に絞り18を設けてあり、この絞り18の上流に位置する管路31部分にこの管路31の圧力を保持する逆止弁19を設けてある。
【0005】
また、圧油供給管路に含まれる管路30から分岐させた分岐管路34と、この分岐管路34に設けられ、アキュムレータ14,15の圧力降下時に、該当するアキュムレータ14,15に蓄圧させるように制御する蓄圧制御弁21とを備えている。上述した絞り18は、分岐管路34への圧油の流入を補償するものである。
【0006】
蓄圧制御弁21は、閉位置である第1切換位置21aと開位置である第2切換位置21bとを有している。また、アキュムレータ14,15の圧力降下に伴って作動する減圧弁20を備え、蓄圧制御弁21は減圧弁20の作動によって、切り換えられるようになっている。すなわち、アキュムレータ14,15の圧力が低いときには、減圧弁20の開口量が小さく、蓄圧制御弁21のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも弱く、これによりスプールは閉位置である第1切換位置21a側に切り換えられる傾向となり、管路30に導かれたパイロットポンプ11の圧油が管路31,32,33を介してアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に蓄圧される。逆に、アキュムレータ14,15の圧力が高いときには、減圧弁20の開口量が大きくなり、蓄圧制御弁21のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも強くなり、これによりスプールは開位置である第2切換位置21b側に切り換えられる傾向となり、管路30に導かれたパイロットポンプ11の圧油の分岐管路34側への流入が促進される。
【0007】
また、分岐管路34に接続される専用管路、例えばステアリング操作装置22に圧油を導くステアリング操作管路35と、このステアリング操作管路35の圧力を規定するリリーフ弁23を備えている。
【0008】
このように構成される従来技術では、アキュムレータ14,15で蓄圧される圧力がゼロの状態からのエンジン10の始動に際して、図示しないエンジンスタータが操作されると、エンジンスタータに係る負荷に伴ってエンジン10の始動は直ちにはなされないものの、エンジンクランク軸等を介してパイロットポンプ11が回転し、このパイロットポンプ11から吐出される圧油が管路30,31、逆止弁19、絞り18、逆止弁16,17を介してアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に蓄圧がなされる。この間、アキュムレータ14,15の低い圧力に応じて減圧弁20は閉じ気味に制御され、ばねの力によって蓄圧制御弁21は閉位置である第1切換位置21aに切り換えられる傾向となる。アキュムレータ14,15の圧力が、前述した許容最大圧力、すなわちカットアウト圧となったときには、リリーフ弁20は開放され、蓄圧制御弁21は開位置である第2切換位置21bとなり、パイロットポンプ11の圧油は、分岐管路34、蓄圧制御弁21を介してステアリング管路35に導かれ、ステアリング操作が行われない状態では、リリーフ弁20を介してタンクに戻される。したがって、パイロットポンプ11の負荷が軽くなり、これに伴ってエンジンスタータにかかる負荷が軽減し、エンジン10が始動する。
【0009】
エンジン10の始動後に、走行が実施されて、この走行の間にブレーキペダル13が踏み込まれるとブレーキ弁12が作動する。このとき、アキュムレータ14,15の圧力がブレーキ弁12に供給され、前輪、後輪の制動がなされる。このようにブレーキ弁12の作動に伴って、あるいは経時的にアキュムレータ14,15の圧力がカットアウト圧から、エンジン10の始動後、すなわちアキュムレータ14,15のカットアウト圧までの蓄圧後の予め設定される蓄圧開始圧力である所定圧力、すなわちカットイン圧まで降下すると、蓄圧制御弁21がわずかながら閉位置である第1切換位置21a方向に切り換えられた状態となり、パイロットポンプ11から吐出される圧油は一部が管路31、逆止弁19、絞り18、管路32,33、逆止弁16,17を介してアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に圧油が蓄圧される。また、パイロットポンプ11から吐出される圧油の残りは分岐管路34、蓄圧制御弁21を介してステアリング操作管路35に導かれる。したがって、作業中の上述したアキュムレータ14,15のカットイン圧からカットアウト圧まで圧力を上昇させる蓄圧時にあっても、ステアリング操作管路35への圧油の流れを絞り18によって確保でき、これによってステアリング操作装置22の安定した操作が可能となる。
【0010】
なお、ホイール式建設機械にあって、ブレーキ弁と、このブレーキ弁に供給される圧油を蓄圧するアキュムレータとを備えた油圧駆動装置として、従来、特許文献1に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−89506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した図5に示す従来技術は、分岐管路34を介してステアリング操作管路35にパイロットポンプ11から吐出された圧油を分流させて、ステアリング操作装置22の操作を実現させるために、管路31に絞り18を設けた構成にしてある。この絞り18の開口量は、ステアリング操作装置22の安定した操作を確保させるために一義的に設定されている。
【0013】
ところで、アキュムレータ14,15の圧力がゼロとなっている状態におけるエンジン10の始動に際しては、上述したようにエンジンスタータが操作されることによりエンジンクランク軸等を介してパイロットポンプ11が回転し、アキュムレータ14,15への蓄圧が開始されるが、低温環境にあって作動油の粘性抵抗が大きい場合には、パイロットポンプ11の負荷が大きく、この大きな負荷がエンジンスタータにかかることから、図6に示すように、アキュムレータ14,15に上述したカットアウト圧が蓄圧されるまで時間がかかり、このためになかなかエンジン11を始動させられないことがある。すなわち低温環境にあっては、図5に示す従来技術の構成では、図6においてアキュムレータ14,15の圧力がゼロの状態から、カットアウト圧に至るまでの比較的長い時間、エンジン11を始動させることができず、エンジン10の始動性が悪くなりやすい問題があった。
【0014】
なお、低温環境時におけるエンジン10の始動性を良くすることを考慮して、絞り18の開口量を大きく設定すれば、エンジン10の始動性は改善されるが、このようにするとエンジン10の始動後の通常作業中のアキュムレータ14,15の圧力降下に伴う蓄圧時に、アキュムレータ14,15への圧油の供給は円滑に行われるものの、分岐管路34を介してステアリング管路35に導かれる圧油が少なくなる事態を生じ、ステアリング操作が不安定になってしまう。このように図5に示す従来技術は、作業中のアキュムレータ14,15の蓄圧時におけるステアリング操作の安定を考慮して絞り18の開口量を設定せざるを得ず、このために低温環境時にあってはエンジン10の良好な始動性を確保し難い問題があった。
【0015】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、低温環境にあって、アキュムレータに蓄圧される圧力がゼロとなっている状況におけるエンジンの始動に際して、比較的速やかにアキュムレータに圧油を供給し蓄圧することができるとともに、エンジンの始動後におけるアキュムレータの圧力降下に伴う蓄圧時に、必要流量を分岐管路を介して専用管路に分流させることができホイール式建設機械の油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために、本発明に係るホイール式建設機械の油圧駆動装置は、ホイール式建設機械に設けられ、エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油によって作動するブレーキ弁と、上記油圧ポンプと上記ブレーキ弁とを連絡する圧油供給管路と、この圧油供給管路に供給された圧油を蓄えるアキュムレータと、このアキュムレータの圧力を保持する逆止弁と、上記圧油供給管路から分岐させた分岐管路と、この分岐管路に設けられ、上記アキュムレータの圧力降下時に上記アキュムレータに蓄圧させるように制御する蓄圧制御弁と、上記分岐管路に接続される専用管路とを備えたホイール式建設機械の油圧駆動装置において、上記圧油供給管路と上記分岐管路との分岐点の下流に位置する上記圧油供給管路部分であって、上記アキュムレータの圧力を保持する上記逆止弁の上流に位置する圧油供給管路部分に、上記アキュムレータの圧力が上記エンジンの始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力に満たないときには、上記圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御し、上記アキュムレータの圧力が所定圧力以上のときには、上記圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が少なくなるように制御する流量制御弁を備えたことを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、低温環境にあって、アキュムレータに蓄圧される圧力がゼロとなっている状態におけるエンジンの始動に際しては、エンジンスタータの操作に伴って、負荷がかかることによりエンジンは始動されない状態に保たれるものの、油圧ポンプが回転し、アキュムレータに蓄圧がなされる。このとき、アキュムレータの圧力がエンジンの始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力に満たないときには、流量制御弁によって、アキュムレータに圧油を供給する圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御される。アキュムレータの圧力が所定圧力以上となったときには、流量制御弁によって、アキュムレータに圧油を供給する圧油供給管路部分を流れる圧油の流量がそれまでよりも少なくなるように制御される。これにより、アキュムレータの圧力が所定圧力になったときから最大許容圧力となるまでの間は、わずかながら時間がかかる傾向となる。しかしながら、アキュムレータの圧力がゼロの状態から所定圧力に至るまでの間は、上述したように流量制御弁により圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が多くなることから、低温環境にあってもアキュムレータに速やかに圧油を供給し蓄圧することができる。これに伴って油圧ポンプの負荷を短時間のうちに軽くし、これによりエンジンスタータにかかる負荷を軽減し、エンジンを比較的短時間のうちに始動させることができる。
【0018】
また、エンジンの始動後における作業中に、ブレーキペダルの操作によるブレーキ弁の作動によって、あるいは経時的に、アキュムレータの圧力が許容最大圧力からエンジン始動後における蓄圧開始圧力、すなわち所定圧力まで降下すると、流量制御弁の制御により、油圧ポンプの圧油のうちの一部が比較的少ない抑えられた流量ながらアキュムレータに供給され、アキュムレータに蓄圧される。この間、油圧ポンプの圧油のうちの残りが分岐管路を介して専用管路に供給される。すなわち、必要流量を分岐管路を介して専用管路に分流させることができる。
【0019】
また、本発明は、上記発明において、上記流量制御弁は、上記アキュムレータの圧力を保持する逆止弁と上記流量制御弁との間に位置する上記圧油供給管路部分の圧力に応じて制御されるものから成ることを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、上記流量制御弁は、外部圧力に応じて制御されるものから成ることを特徴としている。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、上記ホイール式建設機械は、ホイールローダまたはホイール式油圧ショベルから成り、上記ブレーキ弁を操作するブレーキペダルを備え、上記油圧ポンプはパイロットポンプから成り、上記分岐管路に接続される上記専用管路は、ステアリング操作装置に圧油を導くステアリング操作管路から成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、油圧ポンプの圧力をブレーキ弁に供給する圧油供給管路と分岐管路との分岐点の下流に位置する圧油供給管路部分であって、アキュムレータの圧力を保持する逆止弁の上流に位置する圧油供給管路部分に、アキュムレータの圧力がエンジンの始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力に満たないときには、圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御し、アキュムレータの圧力が所定圧力以上のときには、圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が少なくなるように制御する流量制御弁を備えたことから、低温環境にあって、アキュムレータに蓄圧される圧力がゼロとなっている状況におけるエンジンの始動に際して、比較的速やかにアキュムレータに圧油を供給し蓄圧することができ、これにより従来に比べてエンジンの始動性を向上させることができ、また、エンジンの始動後におけるアキュムレータの圧力降下に伴う蓄圧時に、必要流量を分岐管路を介して専用管路に分流させることができ、これにより専用管路に導かれる圧油による操作を安定して行わせることができる。すなわち、本発明は、良好なエンジンの始動性と、専用管路に導かれる圧油による良好な操作性の双方を確保でき、従来よりも信頼性の高い油圧駆動装置を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る油圧駆動装置の一実施形態が備えられるホイール式建設機械の一例として挙げたホイールローダを示す側面図である。
【図2】図1に示すホイールローダに示される本発明の油圧駆動装置の一実施形態を示す油圧回路図である。
【図3】エンジン始動に際して得られる本実施形態に係る蓄圧特性を示す図である。
【図4】エンジン始動後の作業中に得られる本実施形態に係る蓄圧特性を示す図である。
【図5】従来のホイール式建設機械の油圧駆動装置を示す油圧回路図である。
【図6】図5に示す従来のホイール式建設機械の油圧駆動装置においてエンジン始動時に得られる蓄圧特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るホイール式建設機械の油圧駆動装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る油圧駆動装置の一実施形態が備えられるホイール式建設機械の一例として挙げたホイールローダを示す側面図である。
【0026】
本実施形態に係る油圧駆動装置が備えられるホイール式建設機械は、例えば図1に示すホイールローダであり、前輪、後輪を形成するタイヤ1a,1a、及び運転室1bを有する本体1と、この本体1に上下方向の回動可能に取り付けられるアーム2と、このアーム2の先端に取り付けられ、上下方向の回動が可能で土砂等の掘削作業に活用されるバケット3とを備えている。
【0027】
図2は、図1に示すホイールローダに示される本発明の油圧駆動装置の一実施形態を示す油圧回路図、図3は、エンジン始動に際して得られる本実施形態に係る蓄圧特性を示す図、図4は、エンジン始動後の作業中に得られる本実施形態に係る蓄圧特性を示す図である。なお、図3の縦軸は、アキュムレータに蓄えられる圧力を示し、横軸はアキュムレータに所定圧力すなわちカットイン圧が蓄えられるまでの時間、及びアキュムレータに許容最大圧力すなわちカットアウト圧が蓄えられるまでの時間を示している。また、図4の縦軸は、エンジンの始動後におけるアキュムレータに蓄えられる圧力、すなわちカットイン圧からカットアウト圧までの圧力を示し、横軸はアキュムレータの圧力降下に伴って蓄圧される際のカットイン圧からカットアウト圧までに要する時間を示している。
【0028】
図1に示すホイールローダに備えられる本実施形態に係る油圧駆動装置の基本構成は、前述した図5に示すものと同等である。すなわち説明が図5に示すものと重複するが、本実施形態に係る油圧駆動装置も、図2に示すように、図示しないエンジンスタータによって起動するエンジン10と、このエンジン10によって駆動される油圧ポンプ、例えばパイロットポンプ11とを備えている。図示しないが、エンジン10には、作業に関係する各種アクチュエータに圧油を供給する容量の大きな主ポンプも接続されている。また、パイロットポンプ11から吐出される圧油によって作動する走行系のブレーキ弁12と、図1に示す運転室1b内に配置され、ブレーキ弁12を操作するブレーキペダル13と、パイロットポンプ11とブレーキ弁12とを連絡する圧油供給管路、すなわち、管路30と、この管路30に接続される管路31と、この管路31に接続される管路32及び管路33とを備えている。
【0029】
また、圧油供給管路に含まれる管路32に供給された圧油を蓄え、前輪のタイヤ1aの制動に関連して設けられる第1アキュムレータ14と、管路33に供給された圧油を蓄え、後輪のタイヤ1aの制動に関連して設けられる第2アキュムレータ15と、第1アキュムレータ14の圧力を保持する第1逆止弁16と、第2アキュムレータ15の圧力を保持する第2逆止弁17とを備えている。また、管路31部分にこの管路31の圧力を保持する逆止弁19を設けてある。
【0030】
また、圧油供給管路に含まれる管路30から分岐させた分岐管路34と、この分岐管路34に設けられ、アキュムレータ14,15の圧力降下時に、該当するアキュムレータ14,15に蓄圧させるように制御する蓄圧制御弁21とを備えている。
【0031】
蓄圧制御弁21は、閉位置である第1切換位置21aと開位置である第2切換位置21bとを有している。また、アキュムレータ14,15の圧力降下に伴って作動する減圧弁20を備え、蓄圧制御弁21は減圧弁20の作動によって、切り換えられるようになっている。すなわち、アキュムレータ14,15の圧力が低いときには、減圧弁20の開口量が小さく、蓄圧制御弁21のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも弱く、これによりスプールは閉位置である第1切換位置21a側に切り換えられる傾向となり、管路30に導かれたパイロットポンプ11の圧油が管路31,32,33を介してアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に蓄圧される。逆に、アキュムレータ14,15の圧力が高いときには、減圧弁20の開口量が大きくなり、蓄圧制御弁21のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも強くなり、これによりスプールは開位置である第2切換位置21b側に切り換えられる傾向となり、管路30に導かれたパイロットポンプ11の圧油の分岐管路34側への流入が促進される。
【0032】
また、分岐管路34に接続される専用管路、例えばステアリング操作装置22に圧油を導くステアリング操作管路35と、このステアリング操作管路35の圧力を規定するリリーフ弁23を備えている。これらの構成については、前述した図5に示したものと同等である。
【0033】
本実施形態が前述した図5に示したものと異なるのは、圧油供給管路に含まれる管路30と、分岐管路34との分岐点の下流、すなわち逆止弁19の下流に位置する圧油供給管路に含まれる管路31部分であって、アキュムレータ14,15の圧力を保持する逆止弁16,17の上流に位置する管路31部分に、アキュムレータ14,15の圧力がエンジン10の始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力、すなわち図3に示すカットイン圧に満たないときには、管路31部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御し、アキュムレータ14,15の圧力が所定圧力以上、すなわちカットイン圧以上のときには、管路31部分を流れる圧油の流量が少なくなるように制御する流量制御弁40を備えたことである。
【0034】
この流量制御弁40は、例えば、アキュムレータ14,15の圧力を保持する逆止弁16,17と流量制御弁40との間に位置する管路31部分の圧力に応じて制御されるものから成っている。この流量制御弁40は、アキュムレータ14,15の圧力が低いときには、この流量制御弁40のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも弱く、これによりスプールは開位置である第1切換位置21a側に切り換えられる傾向となり、管路31に導かれたパイロットポンプ11の圧油が管路31,32,33、及び逆止弁16,17を介してアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に蓄圧される。逆に、アキュムレータ14,15の圧力が高いときには、この流量制御弁40のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも強くなり、これによりスプールは絞りを有する第2切換位置21b側に切り換えられる傾向となり、管路30に導かれたパイロットポンプ11の圧油の分岐管路34側への流入が促進される。なお、この流量制御弁40の第2切換位置40bに設けられる絞りの開口量は、例えば前述した図5に示した絞り18の開口量と同等の大きさに設定してある。
【0035】
このように構成した本実施形態に係る油圧駆動装置は、例えば低温環境でパイロットポンプ11から吐出される作動油の粘性抵抗が大きくなっている状況にあって、アキュムレータ14,15に蓄圧される圧力がゼロとなっている状態におけるエンジン10の始動に際しては、図示しないエンジンスタータの操作に伴って、負荷がかかることによりエンジン10は始動されない状態に保たれるものの、エンジンクランク軸等を介してパイロットポンプ11が回転し、アキュムレータに蓄圧がなされる。
【0036】
このとき、アキュムレータ14,15の圧力がエンジン10の始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力、すなわち図3に示すカットイン圧に満たないときには、流量制御弁40のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも弱く、これによりスプールは開位置である第1切換位置40aに切り換えられ、この流量制御弁40によって、アキュムレータ14,15に圧油を供給する圧油供給管路部分、すなわち管路31部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御される。
【0037】
アキュムレータの圧力が所定圧力以上、すなわちカットイン圧以上となったときには、流量制御弁40のばねの力に対向するようにスプールに与えられる力はばねの力よりも強くなり、これによりスプールは絞りを有する第2切換位置40bに切り換えられ、この流量制御弁40によって、アキュムレータ14,15に圧油を供給する管路31部分を流れる圧油の流量がそれまでよりも少なくなるように制御される。これにより図3に示すように、アキュムレータ14,15の圧力がカットイン圧になったときから、最大許容圧力すなわちカットアウト圧となるまでの間は、わずかながら時間がかかる傾向となる。
【0038】
しかしながら、アキュムレータ14,15の圧力がゼロの状態からカットイン圧に至るまでの間は、上述したように流量制御弁40により管路31部分を流れる圧油の流量が多くなることから、低温環境にあってもアキュムレータ14,15に速やかに圧油を供給し蓄圧することができる。これに伴ってパイロットポンプ11の負荷を短時間のうちに軽くし、これによりエンジンスタータにかかる負荷を軽減し、エンジン10を比較的短時間のうちに始動させることができる。
【0039】
また、エンジン10の始動後における作業中に、ブレーキペダル13の踏み込み操作によるブレーキ弁12の作動によって、あるいは経時的に、図4に示すように、アキュムレータ14,15の圧力がカットアウト圧からエンジン始動後における蓄圧開始圧力、すなわちカットイン圧まで降下すると、絞りを有する第2切換位置40bに保持されている流量制御弁40の制御により、パイロットポンプ11の圧油のうちの一部が比較的少ない抑えられた流量ながらアキュムレータ14,15に供給され、これらのアキュムレータ14,15に蓄圧される。この間、パイロットポンプ11の圧油のうちの残りが分岐管路34を介してステアリング操作管路35に供給される。すなわち、ステアリング操作装置22の操作に必要な流量を分岐管路34を介してステアリング操作管路35に安定して分流させることができる。
【0040】
なお、環境温度が比較的高い通常環境時にあっては、パイロットポンプ11から吐出される作動油の粘性抵抗は小さく、アキュムレータ14,15に速やかにカットアウト圧が蓄えられる傾向となる。したがって、図示しないエンジンスタータが操作されてから、アキュムレータ14,15にカットアウト圧が蓄えられ、パイロットポンプ11の負荷が軽くなって、エンジン10が始動するまでの時間は、低温環境時に比べれば短時間で済む。
【0041】
このように構成した本実施形態によれば、流量制御弁40を備えたことから、上述したように、低温環境にあって、アキュムレータ14,15に蓄圧される圧力がゼロとなっている状況におけるエンジン10の始動に際して、比較的速やかにアキュムレータ14,15に圧油を供給し蓄圧することができ、これによりエンジン10の始動性を向上させることができ、また、エンジン10の始動後におけるアキュムレータ14,15の圧力降下に伴う蓄圧時に、必要流量を分岐管路34を介してステアリング操作管路35に分流させることができ、これによりステアリング操作装置22の操作を安定して行わせることができる。すなわち、本実施形態は、良好なエンジン10の始動性と、ステアリング操作管路35に導かれる圧油による良好なステアリング操作性の双方を確保でき、信頼性の高い油圧駆動装置を実現させることができる。
【0042】
なお、上記実施形態は、流量制御弁40が、アキュムレータ14,15の圧力を保持する逆止弁16,17と流量制御弁40との間に位置する管路31部分の圧力に応じて制御されるものから成っているが、本発明は、このように構成することには限られず、流量制御弁40が、外部圧力によって切り換えられるものから成る構成にしてもよい。例えば、アキュムレータ14,15のカットイン圧を検出する検出器と、流量制御弁40を第2切換位置40bに切り換える外部圧力を流量制御弁40の制御部に供給可能な外部圧力供給手段とを備え、上述した検出器がカットイン圧を検出したときに、上述の外部圧力供給手段によって外部圧力を流量制御弁40の制御部に供給し、この流量制御弁40を第2切換位置40bに切り換えるように構成にしてもよい。このように構成したものも、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
また、上記実施形態は、ホイールローダに備えたものであるが、本発明は、このようにホイールローダに備えることには限られず、ホイール式油圧ショベル等のように、ホイール、ブレーキ弁、このブレーキ弁に圧油を供給するアキュムレータを有する各種のホイール式建設機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 本体
1a タイヤ
2 アーム
3 バケット
10 エンジン
11 パイロットポンプ(油圧ポンプ)
12 ブレーキ弁
13 ブレーキペダル
14 第1アキュムレータ
15 第2アキュムレータ
16 第1逆止弁
17 第2逆止弁
19 逆止弁
20 減圧弁
21 蓄圧制御弁
21a 第1切換位置
21b 第2切換位置
22 ステアリング操作装置
23 リリーフ弁
30 管路(圧油供給管路)
31 管路(圧油供給管路)
32 管路(圧油供給管路)
33 管路(圧油供給管路)
34 分岐管路
35 ステアリング操作管路(専用管路)
40 流量制御弁
40a 第1切換位置
40b 第2切換位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール式建設機械に設けられ、エンジンと、このエンジンによって駆動される油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出される圧油によって作動するブレーキ弁と、上記油圧ポンプと上記ブレーキ弁とを連絡する圧油供給管路と、この圧油供給管路に供給された圧油を蓄えるアキュムレータと、このアキュムレータの圧力を保持する逆止弁と、上記圧油供給管路から分岐させた分岐管路と、この分岐管路に設けられ、上記アキュムレータの圧力降下時に上記アキュムレータに蓄圧させるように制御する蓄圧制御弁と、上記分岐管路に接続される専用管路とを備えたホイール式建設機械の油圧駆動装置において、
上記圧油供給管路と上記分岐管路との分岐点の下流に位置する上記圧油供給管路部分であって、上記アキュムレータの圧力を保持する上記逆止弁の上流に位置する圧油供給管路部分に、上記アキュムレータの圧力が上記エンジンの始動後における蓄圧開始圧力に相当する所定圧力に満たないときには、上記圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が多くなるように制御し、上記アキュムレータの圧力が所定圧力以上のときには、上記圧油供給管路部分を流れる圧油の流量が少なくなるように制御する流量制御弁を備えたことを特徴とするホイール式建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホイール式建設機械の油圧駆動装置において、
上記流量制御弁は、上記アキュムレータの圧力を保持する逆止弁と上記流量制御弁との間に位置する上記圧油供給管路部分の圧力に応じて制御されるものから成ることを特徴とするホイール式建設機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載のホイール式建設機械の油圧駆動装置において、
上記流量制御弁は、外部圧力に応じて制御されるものから成ることを特徴とするホイール式建設機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のホイール式建設機械の油圧駆動装置において、
上記ホイール式建設機械は、ホイールローダまたはホイール式油圧ショベルから成り、
上記ブレーキ弁を操作するブレーキペダルを備え、
上記油圧ポンプはパイロットポンプから成り、
上記分岐管路に接続される上記専用管路は、ステアリング操作装置に圧油を導くステアリング操作管路から成ることを特徴とするホイール式建設機械の油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−80540(P2011−80540A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233596(P2009−233596)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】