説明

ボタン穴かがりミシン

【課題】被縫製物の位置決め作業の容易化を図る
【解決手段】ミシン1は、送り台11に載置された布を所定方向に送る布送り機構10と、送り台11を挟んで上下に対向配置されるメス受け27及び布切りメス21と該メス受け27を上下方向に駆動して布を切断しボタン穴を形成する布切りパルスモータ26とを有する布切り機構20と、布送り機構10による布送り方向に交差して針を揺動する針振り機構と、前記各構成を制御して布にボタン穴を形成するとともに該ボタン穴の周囲にかがり縫い目を形成する制御部70と、送り台11の載置面の下方に設けられ、当該送り台11に載置される布を下方から撮影するカメラユニット40と、このカメラユニット40により撮影された布の画像を表示する操作パネル50とを有する。操作パネル50に表示される布の柄を確認しながら布の位置決めを行うことで、布の位置決め作業の容易化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタン穴にかがり縫いを施すボタン穴かがりミシンに関し、特に、ボタン穴用の切れ目を形成する布切り機構を備えた穴かがりミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被縫製物たる布にボタン穴用の切れ目を形成して、その切れ目にかがり縫いを施すボタン穴かがりミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このボタン穴かがりミシンは、布を挟んで上下に配置される一対の布切りメスとメス受け(図示省略)とにより、送り台上に載置された布に鳩目ボタン穴(図22(a)参照)用の切れ目を形成する布切り機構と、その布を保持しながら前記布切り機構によって形成される鳩目ボタン穴の形状に沿ってXY方向(水平方向)に布を送る布送り機構と、この布送り機構による布の送り方向と直交する水平方向に縫い針(図示省略)を振る針振り機構と、この針振り機構による縫い針の揺動に同調して縫い針を上下に駆動する針駆動機構と、針駆動機構及び針振り機構と協働してかがり縫い目を形成するルーパ機構とを備えている。そして、布送り機構による布の移動に合わせて針駆動機構、針振り機構及びルーパ機構が一体的に水平旋回することで、鳩目状のボタン穴の縁部に沿ってかがり縫いを施すようになっている。
【0003】
ところで、例えば、柄として図20(b)に示すようなストライプ状或いは図20(c)に示す格子状の規則的に配列された線を有する布にボタン穴を形成する場合、生地の表(いわゆる身表)側に表出される線と平行に又は直交するようにボタン穴を形成することが好ましいとされている。しかしながら、上記従来のボタン穴かがりミシンでかがり縫いを施す場合、送り台に載置される布の下面側すなわち当該送り台の布載置面と接する面側が表となるように縫い目が形成されるため、送り台に布を載置する際には生地の表面(柄面)である身表を下に向け、生地の裏であるいわゆる身返し側の面が上になるように布をセットする必要があった。このため、送り台に載置される布の正確な向きや位置をオペレータの立ち位置である上方から確認することは困難であり、布の位置決めに手間がかかるという問題があった。
【0004】
ここで、送り台に載置される布の位置決めをする際に、送り台に載置された状態で上面側となる身返しに身表側から折り返されて続く柄や線(図21(b)参照)を基準にして布の位置決めをすることも考えられるが、ボタン穴の近傍の布端が必ずしも直線であるとは限らず、身表側の線と身返し側の線とが表と裏で正確に重なり合わない場合にはボタン穴と身表側の柄とにずれが生じる虞がある。このため、従来は、身表側の線に沿って予め捨て縫いを施したり待ち針を打ったりすることで、身返し側に現れた捨て縫いの縫い目や待ち針を基準にしてボタン穴の形成位置すなわち布の位置決めを行っていた。
【特許文献1】特開平4−26434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、布に捨て縫いを施す場合は当該捨て縫いの縫い目を解く手間がかかり、また、待ち針を打つ場合はこの待ち針を抜く手間がかかると共に布が弛むため、ボタン穴用の切れ目を形成するには好ましくない。つまり、何れの場合も工数が増加して布の位置決めに手間がかかり、生産効率の低下を招くという問題があった
【0006】
本発明は、被縫製物の位置決め作業の容易化を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、針を上下動する針上下動機構と、前記針の上下動経路と直交するように被縫製物を載置する載置台を有し、前記載置された被縫製物を所定方向に搬送可能な布送り機構と、前記載置台を挟んで上下に対向してそれぞれ配置されるメス受け及び布切りメスと、前記布送り機構により切断位置に搬送された被縫製物に対し前記メス受け及び布切りメスの少なくとも一方を上下方向に駆動してメス受けと布切りメスとが合致したときに被縫製物を切断しボタン穴を形成する布切り駆動手段とを有する布切り機構と、前記布送り機構による布送り方向に交差して針を揺動する針振り機構と、前記針と協働して前記被縫製物に縫い目形成するルーパ機構と、前記各構成を制御して被縫製物にボタン穴を形成するとともにボタン穴の周囲にかがり縫い目を形成する制御手段とを備えたボタン穴かがりミシンにおいて、前記載置台の布載置面の下方に設けられ、前記載置台に載置される被縫製物を下方から撮影する撮影手段と、前記撮影手段によって撮影された被縫製物の画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記表示手段は、その表面上に前記載置台に被縫製物を載置する際の基準となる基準マークを表示又は付するようになっていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記基準マークは、前記布切り機構により前記被縫製物に形成されるボタン穴の位置を示す画像であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記表示手段は、その表面上にボタン穴に対する前記被縫製物の端部位置を設定する端部位置設定マークを表示又は付するようになっていることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4の何れか一項記載の発明において、前記撮影手段は、前記被縫製物を撮影するカメラと、前記カメラにより撮影するための光を前記被縫製物に照射する発光部材とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5の何れか一項記載の発明において、前記撮影手段と前記布切りメス、又は、前記撮影手段と前記メス受けを保持する土台を有し、前記土台を介して前記撮影手段と布切りメス、又は、前記撮影手段とメス受けをメス受け又は布切りメスの対向位置に相互に移動可能とする駆動手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明において、前記撮影手段は、前記布切りメス又はメス受けの側方近傍に配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明において、前記撮影手段は、前記載置台の布載置面の下方であって前記布切りメス又はメス受けから離隔した位置に配置されていることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項2から請求項8の何れか一項記載の発明において、画面内の所定位置に前記基準マークとして布端マークを表示する布端表示制御手段と、前記布端マークの表示位置を補正するための布端表示位置補正入力手段とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項2から請求項9の何れか一項記載の発明において、画面内の所定位置に前記基準マークとして鳩目穴マークを表示する鳩目穴表示制御手段と、前記鳩目穴マークの表示位置を補正するための鳩目穴表示位置補正入力手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、制御手段によって駆動される布送り機構により、載置台上に載置された被縫製物が切断位置に搬送される。また、制御手段によって駆動される布切り機構により、当該切断位置に搬送された被縫製物にボタン穴が形成される。また、制御手段によって駆動される布送り機構及び針振り機構により、所定方向に搬送される被縫製物のボタン穴の周囲にかがり縫い目が形成される。さらに、請求項1記載の発明によれば、載置台に載置される被縫製物を撮影手段によって下方から撮影することができ、またその画像を表示手段に表示させることができる。つまり、ボタン穴かがりミシンのオペレータは、載置台に被縫製物を載置してボタン穴の位置決めをする際に、表示手段に表示される画像を見ながら当該被縫製物における載置台と接する側の面を容易に認識することができる。従って、被縫製物の位置決めに際して、当該被縫製物を折り返して柄の向きを確認したり、捨て縫いや待ち針を打ってボタン穴用の目印を付けたりする必要がなく、容易に位置決めをすることができる。これにより、被縫製物の位置決めに要する工数及び作業時間を低減することができるため、位置決めの容易化及び生産効率の向上が図られる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、表示手段の表面上に表示又は付された基準マークを指標として被縫製物を位置決めすることにより、載置台に被縫製物を載置する際の位置決め作業をさらに容易に行うことができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、請求項2記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、表示手段の表面上には、布切り機構によって被縫製物に形成されるボタン穴の位置を示す基準マークが表示又は付される。これにより、ボタン穴かがりミシンのオペレータは、基準マークを指標として、載置台に載置される被縫製物のうち該載置台と接する面側に設けられた柄や模様に対するボタン穴の位置を容易に定めることができるため、被縫製物の位置決めを容易に行うことができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、請求項2記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、表示手段の表面上には、ボタン穴に対する被縫製物の端部位置を設定する端部位置設定マークが表示又は付される。つまり、載置台に被縫製物を載置する際に、表示手段に表示される被縫製物の端部がこの端部位置設定マークと合致するように当該被縫製物を位置決めすることで、該被縫製物を容易に位置決めすることができる。また、例えば、載置台に載置される被縫製物のうち、当該載置台と接する面が無地の場合であっても容易に位置決めすることができる。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、請求項1から請求項4の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、撮影手段は、載置台に載置された被縫製物を下方から撮影するカメラを有し、このカメラにより、被縫製物における載置台と接する面側が撮影される。さらに、発光部材により、前記カメラによって被縫製物を撮影するための光を照射することができるため、表示手段に表示される被縫製物の画像をより鮮明に表示することができる。その結果、被縫製物の位置決め作業をさらに容易に行うことが可能となる。
【0022】
請求項6記載の発明によれば、請求項1から請求項5の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、撮影手段と布切りメス、又は、撮影手段とメス受けは、駆動手段により、土台を介してメス受け又は布切りメスの対向位置に相互に移動することができる。従って、駆動手段で土台を移動することで、撮影手段を切断位置と対向する場所に配置することができるため、切断位置近傍を鮮明に撮影することができる。その結果、被縫製物の位置決め作業を容易に、且つ、正確に行うことができる。
【0023】
請求項7記載の発明によれば、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、撮影手段が布切りメス又はメス受けの側方近傍に配置されていることにより、載置台に載置される被縫製物における当該載置台と接する面のうち、布切り機構による切断位置やその近傍を、より鮮明且つ容易に撮影することができる。
【0024】
請求項8記載の発明によれば、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、撮影手段は、載置台の布載置面の下方であって布切りメス又はメス受けから離隔した位置に配置されている。これにより、例えば、布切り機構や布送り機構等の他の機構と干渉しない位置に撮影手段を配置することができるため、当該撮影手段の配置に際して自由度が向上する。そして、例えば、被縫製物に設けられた柄や線等により当該被縫製物の向きを決定することができる場合には、布切りメス又はメス受けから離隔した位置に配置された撮影手段で撮影し、表示手段に表示される画像を確認することで、被縫製物の向きを容易に決定することができる。
【0025】
請求項9記載の発明によれば、請求項2から請求項8の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、布端表示制御手段によって表示手段の画面内の所定位置に基準マークとしての布端マークが表示され、さらに、布端表示位置補正入力手段によって画面内における布端マークの表示位置を補正することができる。これにより、例えば、表示手段の画面上でオペレータが布端とボタン穴との位置関係を認識し易い所望の位置に布端マークを表示させることができる。その結果、被縫製物の位置決め作業の容易化及び生産効率の向上が図られる。
【0026】
請求項10記載の発明によれば、請求項2から請求項9の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、鳩目穴表示制御手段により、表示手段の画面内の所定位置に基準マークとしての鳩目穴マークが表示され、さらに、鳩目穴表示位置補正入力手段によって画面内における鳩目穴マークの表示位置を補正することができる。これにより、表示手段の画面上でオペレータが布端とボタン穴との相対的な位置関係を認識し易い所望の位置に鳩目穴マークを表示させることができる。その結果、被縫製物の位置決め作業の容易化及び生産効率の向上が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図1〜図22を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。但し、以下に述べる第一〜第三実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。また、以下の第一〜第三実施形態においては、各図中に示すXYZ軸を基準にしてミシン1の各部の方向を定めるものとする。ミシン1を水平面に設置した状態において、Z軸方向は鉛直方向となる上下方向を示し、Y軸方向はアーム部5の長手方向と一致する前後方向を示し、X軸方向は水平且つY軸方向に直交する左右方向を示す。
【0028】
(第一実施形態:全体構成)
図1は本発明を適用した第一実施形態たるボタン穴かがりミシン1の外観構造を示す概略図である。ボタン穴かがりミシン1(以下、単にミシン1という)は、被縫製物たる布に、例えば、図22(a)に示すような直線部Lと略円形の滴状部Qとを有するいわゆる鳩目穴や、図22(b)に示す眠り目穴等のボタン穴用の切れ目を形成すると共に、その切れ目の縁にかがり縫いを施すミシンである。
【0029】
かかるミシン1は、図1に示すように、ミシンフレーム2と、該ミシンフレーム2のベッド部3上に布を載置する載置台としての送り台11を有し、この送り台11に載置された布をXY方向(所定方向)に搬送可能な布送り機構10と、送り台11を挟んで上下に対向してそれぞれ配置されるメス受け27及び布切りメス21(図3〜図7参照)を有する布切り機構20と、布送り機構10による布送り方向に交差して縫い針9を揺動する針振り機構と、針振り機構による縫い針9の揺動に同期して当該縫い針9を上下に駆動する図示しない針駆動機構と、針駆動機構及び針振り機構と協働してかがり縫いの縫い目を形成するルーパ機構60(図2〜図4参照)と、送り台11の載置面の下方に設けられ、当該送り台11に載置される布を下方から撮影する撮影手段としてのカメラユニット40(図4〜図7参照)と、このカメラユニット40によって撮影された布の画像を表示する表示手段としての表示部50aとオペレータが各種設定を行うための操作部50bとを有する操作パネル50と、前記各構成を制御して布にボタン穴を形成するとともに該ボタン穴の周囲にかがり縫い目を形成する制御手段たる制御部70とを備えている。
以下、各部を詳しく説明する。
【0030】
(ミシンフレーム)
ミシンフレーム2は、図1に示すように、ミシンテーブル上に載置されたベッド部3と、該ベッド部3から上方に向けて立設された縦胴部4と、該縦胴部4の上部から前方(Y軸方向)に向けて延出するアーム部5とを有し、その外形が正面視にて略コ字状に成形されている。アーム部5内の長手方向におけるほぼ中央部には、ミシンモータ8(図11参照)により回転される図示しないミシン主軸がX軸方向に沿って回転自在に設けられている。
【0031】
(針駆動機構)
図示しない針駆動機構は、ミシン主軸と平行且つ回転自在に設けられた上軸と、この上軸に偏心カムを介して一端が回転自在に連結された連結部材と、一端が該連結部材の他端と回動自在に連結されるとともに他端がアーム部5内の先端まで延出され、長手方向のほぼ中央部においてX軸方向に沿う軸を中心に揺動自在に支持された針棒駆動レバーと、針棒抱きを介して該針棒駆動レバーの他端に連結されるとともにアーム部5内の先端において上下動及び揺動可能に支持され、下端に縫い針9を保持する針棒とを備えている。そして、ミシンモータ8の回転駆動に伴いミシン主軸が回転すると、ギヤを介して上軸が回転され、さらに偏心カム及び連結部材を介して針棒駆動レバーの一端が上下に揺動される。これにより、針棒駆動レバーの他端に連結された針棒とその下端に保持された縫い針9がほぼ上下方向に沿って往復移動するようになっている。
【0032】
(針振り機構)
図示しない針振り機構は、ミシンフレーム2のアーム部5内に配設されており、ミシン主軸の回転に応じて偏心カム及びリンク部材を介して針棒に揺動力を付与する。かかる針振り機構は、図2に示す旋回機構30を介して後述するルーパ機構60と連結されている。
図2に示すように、旋回機構30は、制御部70に連結された旋回用パルスモータ31の駆動により、プーリ37,38及びベルト32を介してルーパ機構60に旋回力を付与するとともに、ベルト32からプーリ35、軸34、プーリ36,39及びベルト33を介して針振り機構に旋回力を付与するようになっている。そして、針棒9aが垂直に支持された状態でこの針棒9aと同軸となるZ軸方向に沿う軸を中心に、針振り機構とルーパ機構60とが連動して同じ方向に同時に旋回するようになっている。
また、針振り機構は、後述する布送り機構10により搬送される布に対して布送り方向と交差する方向に縫い針9を揺動させることで、直線部Lの他、図22(a)に示す鳩目ボタン穴の滴状部Qや、図22(b)に示す眠り目ボタン穴の端部のような放射状の縫い目を形成し、ボタン穴用のかがり縫い目を形成する。
【0033】
(ルーパ機構)
ルーパ機構60は、図示しない針板の下方に配置された左右一対の図示しないルーパと、スプレッダとを備えている。左右のルーパは、縫い針9の上下運動と同期して左右に揺動され、この左右のルーパの揺動運動に同期して左右のスプレッダが開閉運動を行う。そして、ルーパ機構60は、鳩目穴の滴状部Q等の縫製時に旋回機構30によって縫い針9及び針振り機構と連動して旋回することで、上下動及び揺動を行う縫い針9と協働して放射状の縫い目を形成し、ボタン穴にかがり縫いを施すようになっている。
【0034】
(布送り機構)
布送り機構10は、図3及び図4に示すように、縫い針9の上下動経路と直交するように被縫製物を載置する載置台としての送り台11と、この送り台11を水平面内でXY方向に移動する送り駆動手段としてのX軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13(図11参照)と、送り台11上に載置された布を上方から押さえる押え機構14とを備えている。
【0035】
送り台11は、ベッド部3上面の針落ち位置側に設けられており、中空で箱型の水平移動可能な載置台となっている。この送り台11には、押え機構14が搭載されており、当該送り台11の上面に載置された布を押え機構14によって押さえたまま、X軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13の駆動により押え機構14ごと前後左右(水平方向)に移動する。
また、送り台11は、その底部が平面視にて縦胴部4側に向けて開口された略U字状を呈しており、縫い針9と対向するベッド部3の針落ち位置に配設されたルーパ機構60や該ルーパ機構60に隣接する布切り機構20との干渉を回避しつつXY方向に移動できるようになっている。
送り台11の上面には、縫い針9の針落ち位置や布切りメス21を回避するようにして、オペレータの作業位置側すなわちアーム部5先端側から見て左右に分割された押さえ板11a,11aが設けられている(図3参照)。各押さえ板11a,11aにおける縦胴部4側の端部(図3における右端)には、当該各押さえ板11a,11aとの協働により布を挟持する一対の押さえ機構14がそれぞれ配設されている。また、図5に示すように、各押え板11a,11aの布切りメス21のX軸方向両側端部は、メス受け27の布切りメス21への合致を妨げないように十分な隙間Wが設けられている。
【0036】
X軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13は、後述する制御部70と電気的に接続されており、該制御部70からの制御信号に基づき、ベッド部3内に設けられた図示しない駆動ベルト及びX方向,Y方向の各ガイド軸に沿って送り台11を任意のXY座標位置に移動位置決めする。
押え機構14は、X軸方向に沿う軸を中心に基端部が送り台11の上部と回動自在に連結された押さえ腕15と、この押さえ腕15の他端に連結された押さえ足16と、押さえ腕15を揺動することで押さえ足16を上下に駆動する押さえ駆動用エアシリンダ17(図11)とを備えている。かかる押え機構14は、後述する制御部70からの出力信号に応じて電磁弁17a(図11)が開閉することで押さえ駆動用エアシリンダ17が伸縮する。そして、押え機構14は、押さえ腕15の先端(他端)に支持された押さえ足16が下降した際に上方から布を押さえ、また、後述する制御部70に記憶されたプログラムに基づき、縫いの開始前及び縫製動作が終了した際には、押さえ足16が上昇して布の出し入れを妨げないようになっている。なお、本実施形態たるミシン1には、この押え機構14を作動させるための図示しない押さえスイッチが設けられている。
【0037】
(布切り機構)
布切り機構20は、図3〜図7に示すように、送り台11のU字部の間で上述したルーパ機構60と並設されており、このルーパ機構60よりも縦胴部4側のベッド部3上面に搭載されている。かかる布切り機構20は、鳩目穴用の刃先を有する布切りメス21と、この布切りメス21とカメラユニット40(後述する)とを保持する本発明の土台たるメス土台上22と、このメス土台上22をX軸方向に沿って移動可能に支持するメス土台下24と、布切りメス21に対向するアーム部5の先端下部に設けられ、布切りメス21に向かって上下動可能に支持されたメス受け27と、上述した布送り機構10によって切断位置(後述する)に搬送された布に対してメス受け27を上下方向に駆動し、布切りメス21とメス受け27とが合致したときに布を切断してボタン穴を形成する布切り駆動手段としての布切りパルスモータ26(図11参照)とを備えている。
【0038】
メス土台下24は、図7に示すように、止めねじ24aによりベッド部3の上面に取り付けられている。このメス土台下24の上面には、X軸方向に沿ってメス土台下キー部25が設けられている。そして、このメス土台下24の上側には、該メス土台下キー部25に沿って摺動するメス土台上22が、X軸方向に沿って水平移動自在に設けられている。
【0039】
メス土台上22の下面には、X軸方向に沿って上記メス土台下キー部25と摺動自在に嵌合するメス土台上キー溝部23が設けられている。本実施形態におけるメス土台キー溝部23は、図5〜図7に示すように、ハトの尾状のありである上記メス土台下キー部25と嵌合するあり溝形状をなしている。つまり、メス土台上24は、これらメス土台上キー溝部23とメス土台下キー部25とが嵌合することで上下方向の移動が規制されるとともに、メス土台下24の上面から離れることなくX軸方向に沿ってスライド移動自在に設けられている。これにより、該メス土台上22に搭載される布切りメス21とカメラユニット40とは、メス土台上22と一体的に高さを変えることなくX軸方向にのみ移動する。
【0040】
布切りメス21は、図5及び図6に示す固定板21aと止めねじ21b、及び、図5及び図7に示すメスストッパ21cと止めねじ21dとによりメス土台上22に着脱自在に固定されている。この布切りメス21は、図4〜図7に示すように、Y軸方向に沿う刃先21eを上に向け、当該刃先21eが送り台11の上面である載置面とほぼ同じ高さで水平になるように配設されている。また、この布切りメス21は、図3に示すように、押さえ腕15,15に支持された左右一対の押さえ足16,16が下降した際に、各押さえ足16,16の間に位置するように配設されている。
【0041】
メス受け27は、アーム部5に設けられた図示しないリンク機構により上下動可能に支持されている。このメス受け27は、アーム部5内に配設された布切りパルスモータ26の駆動により、上記リンク機構を介して上下に駆動される。そして、メス受け27は、ベッド部3上に設けられた布切りメス21に向かって所定のタイミングで下降され、該布切りメス21との協働により布に鳩目ボタン穴を形成する。
【0042】
布切りパルスモータ26は、後述する制御部70と電気的に接続されており、制御部70からの制御信号に基づき所定のタイミングで正逆回転を行う。これにより、リンク機構を介して布切りメス21に上下動を行うための駆動力が付与されるようになっている。
【0043】
(カメラユニット)
カメラユニット40は、図4〜図7に示すように、送り台11に載置された布の下面を撮影するカメラモジュール41と、このカメラモジュール41により布の下面を撮影するための光を照射する照明手段としての照明装置46と、当該カメラユニット40と上述した布切りメス21とをメス受け27が下降する位置、すなわち、メス受け27の対向位置に相互に移動可能とする駆動手段としてのカメラ移動用エアシリンダ43と、を備えている。
【0044】
カメラモジュール41は、図5〜図7に示すように、布切メス21の側方近傍に配置されており、撮影用のレンズ41aを上方に向けた状態でメス土台上22の上面に取り付けられている。つまり、このカメラモジュール41は、Y軸方向に沿って配置された布切りメス21に対してX軸方向の側方であって、該布切りメス21の上方に位置する布の切断位置を下方から撮影可能な状態で並設されている。このカメラモジュール41から延びるケーブル42は、ミシンテーブルの下方に設けられた図示しないコントロールボックス内の制御部70(後述する)に接続されている(図11参照)。
【0045】
照明装置46は、カメラモジュール41の側方近傍に配置されており、発光部材としてのLEDランプ49を上部に配設したケース47をベッド部3の上面にネジ48で取り付けることにより、上方を照射可能な状態で設けられている。具体的に、LEDランプ49は、メス受け27の下降位置すなわち布切りメス21の上方に位置する布を下方側から照射して、切断位置における布の下面側を照射するようになっている。この照明装置46から延びるケーブル49aは、ミシンテーブルの下方に設けられた図示しないコントロールボックス内の制御部70(後述する)に接続されている(図11参照)。
【0046】
カメラ移動用エアシリンダ43は、止めねじ43aにてメス土台下24に取り付けられている。このカメラ移動用エアシリンダ43のシリンダロッド44は、X軸方向に沿って進退可能に設けられ、その先端がメス土台上22にねじ込まれてナット44aにて固定されている。また、カメラ移動用エアシリンダ43には、継ぎ手43bを介して前進用と後退用の二本のエアチューブ43c、43cが接続されており、各エアチューブ43c、43cは電磁弁45に接続されている(図11参照)。そして、カメラ駆動用エアシリンダ43は、後述する制御部70からの制御信号に基づく電磁弁45の開閉に応じて、シリンダロッド44に連結されたメス土台上22にX軸方向の進退移動力を付与する。
【0047】
ここで、本実施形態におけるカメラユニット40は、シリンダロッド44が最後退位置に配置された状態(図10参照)において、メス受け27の対向位置に布切りメス21が配置され、その側方にカメラモジュール41が退避する配置となるように構成されている。一方、シリンダロッド44が最前進位置に配置された状態(図9参照)においては、メス受け27の対向位置にはメス土台上22に固定されたカメラモジュール41のレンズ41aが配置されるようになっている。つまり、カメラユニット40は、カメラ移動用エアシリンダ43の駆動により、メス土台上22を介して布切りメス21とカメラモジュール41とをメス受け27の対抗位置に相互に移動するようになっている。
【0048】
なお、本実施形態では、カメラユニット40を移動するための駆動源(駆動手段)として、カメラ移動用エアシリンダ43(エアシリンダ)を用いているが、例えば、ソレノイドやパルスモータ等のアクチュエータを駆動源として用いてもよい。また、本実施形態では、メス土台上22を介して布切りメス21とカメラモジュール41とを一つの駆動源(カメラ移動用エアシリンダ43)で移動することとしているが、それぞれ個別の駆動源により移動する構成としてもよい。また、本実施形態では、照明装置46をケース47を介してベッド部3上面に固定しているが、例えば、カメラモジュール41と並設されるようにしてメス土台上22に固定し、カメラ移動用エアシリンダ43の駆動により布切りメス21及びカメラモジュール41とともにX軸方向に移動する構成としてもよい。
【0049】
(操作パネル)
操作パネル50は、ミシン面部側で作業するオペレータが見やすく且つ作業の妨げとならないミシンテーブル上に取り付け板50cを介して固定されている。この操作パネル50は、図示しないケーブルによりコントロールボックス内の制御部70に接続されている。かかる操作パネル50は、図8に示すように、ミシン1の各種設定情報を表示するとともに、カメラユニット40により撮影された布の画像を映し出す表示部としての液晶画面52と、ミシン1の各種設定を行う操作キー群57aと、表示された布の画像の表示状態を調整するための操作キー群57bとを備えている。
液晶画面52は、ケース51のほぼ中央部に設けられた略長方形の表示画面であって、その画面内の上下方向がミシン1のY軸方向に対応するように画像が表示されるようになっている。具体的には、液晶画面52の下方側がベッド部3の先端側を示し、液晶画面52の上方側がベッド部3における縦胴部4側を示すという具合である。つまり、この液晶画面52は、オペレータの立ち位置であるミシン面部側から見た布の配置を、この液晶画面52を見るオペレータが直感的に認識しやすい状態で表示するようになっている。この液晶画面52には、カメラユニット40により撮影された布の下面側の画像が表示される。
操作キー群57bには、画像調整のコマンドを切り替えるためのモードキー53と、各モードにおいて数値を変更するためのプラスキー(+キー)55及びマイナスキー(−キー)56と、変更したコマンドや数値をリセットするためのリセットキー54とが設けられている。
【0050】
そして、本実施形態における操作パネル50は、液晶画面52の画面上すなわち表面上に、後述する制御部70により、送り台11に布を載置する際の基準となる基準マークとしての布端マーク58や鳩目穴マーク59を表示するようになっている。
布端マーク58は、図8に示すように、液晶画面52の上部において横方向(図8における左右方向)に延びる直線として表示される。この布端マーク58は、液晶画面52がその表面上にボタン穴に対する布の端部位置を設定する端部位置設定マークであり、生地の裏側(身返し側)からみた布の端部(図21(b)参照)を合わせる基準線として機能することで、送り台11の上面に載置される布の位置決めをし易くするためのものである。
鳩目穴マーク59は、図8に示すように、液晶画面52のほぼ中央部において画面の上下方向に沿って表示される。この鳩目穴マーク59は、布切り機構20によって布に形成される鳩目ボタン穴の形成位置を示す画像であって、その形成位置に応じて上端の鳩目の滴状部Q(図22(a)参照)が上記布端マーク58から所定距離だけ離れて表示される。
【0051】
さらに、本実施形態における操作パネル50では、上記布端マーク58をモードキー53、プラスキー55及びマイナスキー56によって、上下方向及び斜め方向に位置や傾きを任意に変更して表示できるようになっている。つまり、本実施形態における操作キー群57は、布端マーク58の表示位置を補正するための布端表示位置補正入力手段として機能する。また、操作パネル50は、上記モードキー53、プラスキー55及びマイナスキー56によって、鳩目穴マーク59を画面横方向、縦方向に位置を変更する他、任意の斜め方向に傾きを変更して表示できるようになっている。つまり、本実施形態における操作キー群57は、鳩目穴マークの表示位置を補正するための鳩目穴表示位置補正入力手段として機能するものである。なお、鳩目穴マーク59は、例えば、その一端(図8における上端)が鳩目穴の頂点を示すような、液晶画面52内の上下方向に沿う直線状のマークであってもよいし、鳩目穴の滴状部Qを示す円(丸印)であってもよいし、或いは、滴状部Qの中心を示す十字マークであってもよい。
【0052】
また、操作パネル50は、作業者がミシン1に対する各種設定操作や、各種データ等の入力操作を行うための入力手段として機能する操作キー群57a(図1、図11参照)も備えており、表示部52aにおいて表示されるカーソルやポインターや、送り台11、表示部52aには、その際必要な上表が表示される。なお、操作パネル50において各種キーを介して設定入力された各種データは、後述する制御部70に出力され、後述するEEPROM74に記憶されるようになっている。
【0053】
(制御部)
次に、図11に基づきミシン1の制御系の構成について詳しく説明する。
図11は、本発明たるミシン1の電気的構成を示す制御ブロック図である。図11に示すように、制御部70は、CPU71、ROM72、RAM73、EEPROM74及びI/Oインターフェース75を備えて主要部が構成されている。CPU71には、バスを介して、ROM72、RAM73、EEPROM74及びI/Oインターフェース75が接続されている。
【0054】
CPU71は、操作ペダル6から入力される操作信号、操作パネル50から入力される各種設定、各種データ等に応じて、ROM72に格納されているボタン穴かがりミシン1用の各種制御プログラムやEEPROM74に格納されている各種データに従って各部の動作処理を集中制御し、その処理結果をRAM73内のワークエリアに格納するとともに、操作パネル50の操作により入力された各種データや、RAM73に格納した処理結果を必要に応じてEEPROM74に記憶させる。そして、CPU71は、ミシン1を構成する各部の駆動を制御する。
【0055】
ROM72には、ミシン1が通常のボタン穴かがり縫いを行うための制御プログラム(通常縫製プログラム)や各種縫製に関する設定データ、及び、上述した各アクチュエータ8,12,13,17,26を駆動して所望の縫い目を形成するための基本縫製プログラムが格納され、記憶されている。さらに、本実施形態におけるROM72には、操作パネル50の液晶画面52に、カメラユニット40で撮影された布の画像や布端マーク58及び鳩目穴マーク59を表示させるためのプログラムが格納されている。
【0056】
RAM73には、種々のワークメモリやカウンタなどが設けられており、縫製動作中のワークエリア(作業領域)として使用される。
【0057】
EEPROM74には、各種縫い目形状を形成するために縫い針9や送り台11を動作させるための、複数の縫い目パターンに関する縫製データが記憶されている。各縫製データは、縫いコマンド、空送りコマンド、糸切りコマンドなどの複数種類のコマンドとそのコマンドの実行に要する制御量に関するデータ(例えば、縫い目長さ、主軸モータ回転速度、縫い目長さ(X方向)−主軸回転速度テーブル、縫い目長さ(Y方向)−主軸回転速度テーブル等)が処理を行う順番で記録されている。即ち、縫いコマンドは、一針ごとのX軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13による布送り量(縫い目長さ)が設定され、空送りコマンドは、縫いを伴わないX軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13による布送り量が設定され、糸切りコマンドは、糸切り用エアシリンダ18の電磁弁18aの駆動指令が設定されている。そして、CPU71は、この縫製データを読み込むと、順番にコマンドを実行し、X軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13を駆動させて布を所定位置に移動させたり、所定位置に移動させた布に縫い針9の針落ちを行わせたり、一連の運針が行われた後に縫い糸の切断を行ったりすることで、一つの縫製データに設定された一連の縫製を実行する動作制御を行う。
さらに、本実施形態におけるEEPROM74には、液晶画面52の所定位置に基準マークとしての布端マーク58や鳩目穴マーク59を表示するための基準マーク補正値に関するデータが記憶されている。この基準マーク補正値は、例えば、液晶画面52上にカメラモジュール41による撮影画像に重ねて表示される基準マーク58や鳩目穴マーク59の表示位置を、予め設定された位置(例えば、図8参照)から、操作キー群57bからの入力操作に応じて上下方向或いは左右方向にずらして(移動させて)表示させるための補正値に関するデータである。なお、基準マーク補正値は、液晶画面52上に表示される基準マーク58や鳩目穴マーク59を、例えば、基準位置から傾斜させたり回転させたりして斜めに表示させるためのものであってもよい。
【0058】
I/Oインターフェース75には、ミシンモータ8用のドライバ8aを介してミシンモータ8が接続されている。このミシンモータ8は、該ミシンモータ8の回転数を検出するエンコーダ8bから制御部70に検出信号が入力されることにより、フィードバック制御が可能となっている。また、ドライバ8aには、縫い針9が上昇したことを検知する図示しない縫い針上位置センサが接続されており、縫い針9によって縫い目が形成される際の縫い針数が、制御部70によりカウントされるようになっている。
【0059】
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ12a及び13aを介してX軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13がそれぞれ接続されるとともに、これら両パルスモータ12,13の原点位置を検出するX軸原点センサ12b及びY軸原点センサ13bが接続されている。X軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13は、縫製データ(縫い目パターン)に基づき、送り台11をXY方向に移動させる駆動手段であり、X軸原点センサ12b及びY軸原点センサ13bは、それぞれ駆動手段としてのX軸パルスモータ12及びY軸パルスモータ13の原点位置を検出するセンサであって、それぞれベッド部3内に配置されている。
【0060】
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ31aを介して旋回用パルスモータ31が接続されるとともに、旋回用パルスモータ31の原点位置を検出する原点センサ31bが接続されている。これにより、CPU71が、ROM72に記憶された通常縫製プログラム等の鳩目ボタン穴かがり用のプログラムを実行して旋回用パルスモータ31を所定のタイミングで所定量駆動することが可能となっている。
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ26aを介して布切りパルスモータ26が接続されるとともに、布切りパルスモータ26の原点位置を検出する原点センサ26bが接続されている。これにより、CPU71が、ROM72に記憶された通常縫製プログラム等の鳩目ボタン穴かがり用のプログラムを実行して布切りパルスモータ26を所定のタイミングで所定量駆動することを可能としている。
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ18b及び電磁弁18aを介して糸切り用エアシリンダ18が接続されている。そして、CPU71が、ROM72に記憶された通常縫製プログラム等の鳩目ボタン穴かがり用のプログラムに基づき、ドライバ18bを介して電磁弁18aを所定のタイミングでON/OFF切り替えることにより、糸切りエアシリンダ18が作動して糸切りを行うようになっている。
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ17b及び電磁弁17aを介して押さえ駆動用エアシリンダ17が接続されている。そして、CPU71が、ROM72に記憶された通常縫製プログラム等の鳩目ボタン穴かがり用のプログラムに基づき、ドライバ17bを介して電磁弁17aを所定のタイミングでON/OFF切り替えることにより、押さえ駆動用エアシリンダ17が作動して布押さえを行うようになっている。
また、I/Oインターフェース75には、ドライバ45a及び電磁弁45を介してカメラ移動用エアシリンダ43が接続されている。そして、CPU71が、ROM72に記憶された通常縫製プログラム等の鳩目ボタン穴かがり用のプログラムに基づき、ドライバ45aを介して電磁弁43を所定のタイミングでON/OFF切り替えることにより、カメラ駆動用エアシリンダ43が作動してカメラユニット40を移動させるようになっている。
【0061】
そして、制御部70は、操作ペダル6や操作パネル50、及び、図示しない各種センサからの信号を検出すると、CPU71が、ROM72やEEPROM74に格納されている各種制御プログラムに基づきRAM73を作業領域として種々の演算処理を行い、縫製動作を行う各種アクチュエータ8,12,13,17,26に駆動のための制御信号を出力する。これにより、制御部70は、各アクチュエータ8,12,13,17,26,31を所定のタイミングで駆動するように統括して集中制御するようになっている。
【0062】
さらに、本実施形態における制御部70は、液晶画面52内の所定位置に基準マークとしての布端マーク58を表示する布端表示制御手段として機能する。また、CPU71は、液晶画面52内の所定位置に基準マークとしての鳩目穴マーク59を表示する鳩目穴表示制御手段として機能する。
【0063】
(第一実施形態:動作説明)
次に、図12に示すフローチャートに基づき上記構成を備えるミシン1の動作説明を行う。
ミシン1の主電源が投入されて電源ONの状態(ステップS1)とされた後、操作パネル50に設けられた図示しない準備キーが押されてON(ステップS2)になったことが検出されると、CPU71は、ミシン1の各部に設けられたパルスモータ(例えば、X軸パルスモータ12、Y軸パルスモータ13及び布切りパルスモータ26等)の原点検索を行い各原点の初期化を行う(ステップS3)。このとき、布切りメス21は、図10に示す縫製位置に配置されている。その後、CPU71は、操作パネル50に設けられた図示しない設定スイッチによってカメラモジュール41がONと設定されて有効な状態であるか否かの判定を行う(ステップS4)。
ステップS4において、カメラモジュール41が有効の場合(ステップS4;Yes)、CPU71は、カメラ移動用エアシリンダ43の電磁弁45をON(ステップS5)にした後、照明装置46をON(ステップS6)とし、さらに、操作パネル50によりカメラモジュール41の撮影画像の表示を行う制御を行う(ステップS7)。このとき、電磁弁45がONとされたことにより、カメラ移動用エアシリンダ43が駆動してシリンダロッド44が前進方向(図9及び図10における左方向)に移動する。これに伴い、メス土台上22が、メス土台下キー部25及びメス土台上キー溝部23に沿って布のセット位置となる最前進位置(図9参照)まで移動され、当該メス土台上22を介してカメラモジュール41が布の切断位置、すなわち、メス受け27の対向位置に配置される(図9参照)。この状態で、カメラモジュール41で撮影された画像が操作パネル50の液晶画面52上に表示されることとなる。
【0064】
ここで、オペレータが送り台11の上面に布を載置すると、送り台11に載置された布のうち、布切りメス21とメス受け27とによる布の切断位置の下面側、すなわち、身表側の画像(映像)が各押え板11a,11aの間に設けられた隙間W(図6参照)からカメラモジュール41により撮影され、操作パネル50の液晶画面52に表示される。また、液晶画面52には布を載置する際の位置決めの基準となる布端マーク58及び鳩目穴マーク59が表示されるため、これら各マーク58,59を基準にしてオペレータが布の位置決めを行う。
布の位置決めが完了した後、ミシン1のオペレータによって図示しない押さえスイッチが押下されたことが検出されると、CPU71は、ドライバ17b及び電磁弁17aを介して押さえ駆動用エアシリンダ17を駆動することで、押さえ腕15及び押さえ足16を下降させる制御を行う(ステップS8)。これにより、押さえ足16と送り台11との間に布が挟持され、この布が水平方向に移動可能な状態で保持されることとなる。また、CPU71は、ステップS8で押さえ駆動用エアシリンダ17を駆動した後、電磁弁45をOFFにしてシリンダロッド44を最後退位置まで後退させる制御を行う(ステップS9)。これに伴い、メス土台上22を介して布切メス21が切断位置(図10参照)に配置され、縫製可能な状態となる。
【0065】
次に、CPU71は、操作パネル50へのカメラモジュール41の撮影画像の表示を終了させ(ステップS10)、照明装置46をOFFにする制御を行う(ステップS11)。この段階で、液晶画面52には通常の設定画面が表示される。次に、CPU71は、押さえスイッチが再び押下されたか否かの判断を行う(ステップS12)。このステップS12において、再度押さえスイッチが押下されたことが検出されると(ステップS12;Yes)、CPU71は、ステップS4に移行して再度、カメラモジュール41が有効であるか否かの判断を行う。つまり、ステップS12で再び押さえスイッチが押下されると、ステップS4〜ステップS11における布の位置決め作業(載置作業/セット作業)をやり直すための手順が確保されるものである。
【0066】
ここで、上述したステップS4において、カメラモジュール41が有効ではない状態(ステップS4;No)で押さえスイッチがONとされた場合(ステップS16)、CPU71は、ステップS12に移行して再度押さえスイッチが押下されたか否かの判断を行う。つまり、例えば、図20(a)に示すような無地の布にボタン穴かがり縫いを施す場合や、線又は格子にボタン穴を合わせる必要がない場合など、カメラモジュール41を必要としない場合は、布切りメス21とカメラモジュール41とを入れ替えて布の下面側の画像を撮影することなく、従来通りの布の載置作業を行うようにしたものである。なお、カメラモジュール41を有効とするか否かの設定は、操作パネル50からの入力操作によって、予め切り替え可能に設定することができるようになっている。
【0067】
また、ステップS12において、押さえスイッチが押下されずに(ステップS12;No)、縫製動作を開始するための図示しないスタートスイッチが押下されると(ステップS13)、CPU71は、ROM72やEEPROM74に格納されている各種プログラムに基づき、ミシン1の各部を駆動して縫製作業を行うための制御を実行する(ステップS14)。
この縫製作業の段階で、布切りメス21に対するメス受け27の下降動作が行われてボタン穴用の切れ目が形成されるとともに、針駆動機構や針振り機構による縫い針9の針落ち及び針振り動作と、布送り機構10による布の送り動作とが行われることにより、切れ目の縁に縁かがり縫いが施される。なお、メス受け27の下降による切れ目の形成と、縫い針9によるボタン穴かがり縫いとは、何れを先に行うことも可能である。
その後、CPU71は、再度、準備キーが押下されたか否かの判断を行い(ステップS15)、準備キーが押下された場合(ステップS15;Yes)、ステップS3に移行して各パルスモータの原点を初期化する制御を行う。一方、ステップS15において、準備キーが押下されない場合(ステップS15;No)、CPU71は、ステップS4に移行し、次に準備キーが押下されるまで上述の動作を繰り返し行う。
このように、第一実施形態たるボタン穴かがりミシン1では、送り台11に搭載されて当該送り台11とは別の独立した駆動源であるカメラ移動用エアシリンダ43によって駆動するメス土台上22に布切りメス21とカメラモジュール43とを搭載し、これら布切りメス21とカメラモジュール41とをメス受け27の対向位置に切り替えて配置することで、切断位置の下方(直下)から布の身表側の柄が撮影される。
【0068】
(第一実施形態:効果)
以上のように、第一実施形態たるミシン1によれば、送り台11に載置される布をカメラユニット40によって下方から撮影することができ、またその画像を操作パネル50の液晶画面52に表示させることができる。これにより、ミシン1のオペレータは、送り台11に布を載置してボタン穴の位置決めをする際に、操作パネル50に表示される画像を見ながら当該布における載置台と接する側の面を容易に認識することができる。従って、布の位置決めに際して、この布を折り返して柄の向きを確認したり、捨て縫いや待ち針を打ってボタン穴用の目印を付けたりする必要がなく、容易に位置決めをすることができる。ため、布の位置決めに要する工数及び作業時間を低減することができ、位置決めの容易化及び生産効率の向上が図られる。また、制御部70が、縫製開始前の準備動作に連動して自動的にカメラ移動用エアシリンダ43、照明装置46及び操作パネル50をONにしてカメラモジュール41を切断位置(撮影位置)に配置するとともに、押さえスイッチの押下に連動して自動的にカメラ移動用エアシリンダ43、照明装置46及び操作パネル50をOFFにしてカメラモジュール41を最後退位置に配置することにより、操作パネル50の液晶画面52に布の下面の画像を表示させる動作を極めて簡単に行うことができる。
【0069】
また、液晶画面52の表面上に表示される布端マーク58や鳩目穴マーク59等の基準マークを指標として布を位置決めすることができるため、送り台11に布を載置する際の位置決め作業をさらに容易に行うことができる。特に、布端マーク58と合致するように布を位置決めすることにより、例えば、送り台11に載置される布のうち、当該送り台11の上面と接する身表側の面が図20(a)に示すような無地の場合であっても、布を容易に位置決めすることができる。
また、カメラモジュール41が布切りメス21の側方近傍に配置されていることにより、送り台11に載置される布における当該送り台11と接する面のうち、布切り機構20による切断位置やその近傍を、より鮮明且つ容易に撮影することができる他、照明装置46を備えることにより、操作パネル50に表示される布の画像をより鮮明に表示することができる。その結果、布の位置決め作業の確実性を向上することができる。
【0070】
また、布端表示位置補正入力手段や鳩目穴表示位置補正入力手段として機能する制御部70により、液晶画面52内における布端マーク58や鳩目穴マーク59の表示位置を補正することができることにより、例えば、操作パネル50の液晶画面52上でオペレータが布端とボタン穴との位置関係を認識し易い所望の位置に布端マーク58や鳩目穴マーク59を表示させることができる。その結果、布の位置決め作業の容易化及び生産効率の向上が図られる。
【0071】
(第二実施形態)
次に、図13〜図16に基づき本発明を適用した第二実施形態について詳しく説明する。なお、以下に示す第二実施形態及び第三実施形態では、上記第一実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、重複する記載は省略するものとする。
第二実施形態たるボタン穴かがりミシン101(以下、ミシン101とする)は、撮影手段たるカメラユニット140が、布切りメス21とメス受け27との協働による布の切断位置から離隔した位置でベッド部3の上面に取り付けられているという点において上記第一実施形態と異なっている。
具体的に、本実施形態におけるカメラユニット140は、ルーパ機構60に並設され、該ルーパ機構60よりもベッド部3の先端側、すなわち、ミシン101におけるオペレータの作業位置側(図14における左側)において該ベッド部3の上面に配置されている。このカメラユニット140は、U字型に開口された送り台11の底部によって該送り台11との干渉を回避可能な位置に取り付けられており、図示しないケーブルによって制御部70に接続されたカメラモジュール41と照明装置46とを備えている。
また、布切りメス21は、メス受け27の対向位置に固定されており、該布切りメス21を支持するメス土台122を介してベッド部3の上面に固定されている。つまり、本実施形態では、縫製中に布切りメス21とメス土台122とが移動することがなく、何れもベッド部3の上面に固定されている。
また、制御部70に備わるROM72には、後述する撮影用の制御動作を行うための制御プログラムが格納されている。そして、CPU71は、ROM72に記憶されている制御プログラムに基づいてミシン1各部を駆動することにより、カメラモジュール41で撮影された布の画像を操作パネル50に表示する制御を行うようになっている。
【0072】
次に、図16に示すフローチャートに基づき第二実施形態たるボタン穴かがりミシン101の動作説明を行う。
ミシン101の主電源が投入され、電源ONの状態(ステップS20)とされた後、準備キーが押されてON(ステップS21)になったことが検出されると、CPU71は、第一実施形態と同様に、ミシン101の各部に設けられた各パルスモータの原点検索を行い各原点の初期化を行う(ステップS22)。このとき、送り台11は、図13に示す送り原点位置、すなわち、送り台11が最も縦胴部4側に配置された状態であって、布切りメス21とメス受け27とによる布の切断が行われる切断位置に配置されている。その後、CPU71は、カメラモジュール41がONとされて有効な状態であるか否かの判定を行う(ステップS23)。
ステップS23において、カメラモジュール41が有効の場合(ステップS23;Yes)、CPU71は、Y軸パルスモータ13を駆動して送り台11を縫製位置よりも作業者側である送りセット位置(図15参照)に移動した後(ステップS24)、照明装置46をON(ステップS25)とし、さらに、操作パネル50によりカメラモジュール41の撮影画像の表示を行う制御を行う(ステップS26)。この送りセット位置は、図15に示すように、押え機構14の各押え足16の長手方向略中央部分がカメラモジュール41の上方両側に配置される位置である。この状態で、カメラモジュール41で撮影された画像が操作パネル50の液晶画面52上に表示されることとなる。
【0073】
ここで、オペレータが送り台11の上面に布を載置すると、送り台11に載置された布のうち、該送り台11が布の切断位置(図13参照)に配置される際にメス受け27の対向位置に配置される布の身表面がカメラモジュール41の上方に位置することとなり、その画像(映像)が操作パネル50の液晶画面52に表示される。また、液晶画面52には布を載置する際の位置決めの基準となる布端マーク58及び鳩目穴マーク59が表示されるため、これら各マーク58,59を基準にしてオペレータが布の位置決めを行う。
布の位置決めが完了した後、ミシン101のオペレータによって押さえスイッチが押下されたことが検出されると、CPU71は、ドライバ及び電磁弁17aを介して押さえ駆動用エアシリンダ17を駆動することで、押さえ腕15及び押さえ足16を下降させる制御を行う(ステップS27)。これにより、押さえ足16と送り台11との間に布が挟持され、この布が水平方向に移動可能な状態で保持されることとなる。
【0074】
次に、CPU71は、操作パネル50へのカメラモジュール41の撮影画像の表示を終了させ(ステップS28)、照明装置46をOFFにする制御を行う(ステップS29)。この段階で、液晶画面52には通常の設定画面が表示される。次に、CPU71は、押さえスイッチが再び押下されたか否かの判断を行う(ステップS30)。このステップS30において、再度押さえスイッチが押下されたことが検出されると(ステップS30;Yes)、CPU71は、ステップS23に移行して再度、カメラモジュール41が有効であるか否かの判断を行う。つまり、ステップS30で再び押さえスイッチが押下されると、ステップS23〜ステップS29における布の位置決め作業(載置作業/セット作業)をやり直すための手順が確保される。
【0075】
ここで、上述したステップS23において、カメラモジュール41が有効ではない状態(ステップS23;No)で押さえスイッチがONとされた場合(ステップS34)、CPU71は、ステップS30に移行して再度押さえスイッチが押下されたか否かの判断を行う。つまり、第一実施形態の場合と同様に、カメラモジュール41を必要としない場合は、布の下面側の画像を撮影することなく、従来通りの布の載置作業を行うようにしたものである。カメラモジュール41を有効とするか否かの設定は、操作パネル50からの入力操作によって、予め切り替え可能に設定することができる。
【0076】
また、ステップS30において、押さえスイッチが押下されずに(ステップS30;No)、縫製動作を開始するためのスタートスイッチが押下されると(ステップS31)、CPU71は、ROM72やEEPROM74に格納されている各種プログラムに基づき、ミシン101の各部を駆動して縫製作業を行うための制御を実行する(ステップS32)。
この縫製作業の段階で、布切りメス21に対するメス受け27の下降動作が行われてボタン穴用の切れ目が形成されるとともに、針駆動機構や針振り機構による縫い針9の針落ち及び針振り動作と、布送り機構10による布の送り動作とが行われることにより、切れ目の縁に縁かがり縫いが施される。
その後、CPU71は、再度、準備キーが押下されたか否かの判断を行い(ステップS33)、準備キーが押下された場合(ステップS33;Yes)、ステップS22に移行して各パルスモータの原点を初期化する制御を行う。一方、ステップS33において、準備キーが押下されない場合(ステップS33;No)、CPU71は、ステップS23に移行し、次に準備キーが押下されるまで上述の動作を繰り返し行う。
このように、第二実施形態たるボタン穴かがりミシン101では、カメラモジュール41と照明装置46とをルーパ機構60すなわち針落ち位置よりもオペレータの作業位置側においてベッド部3上面に固定し、このオペレータの作業位置側に送り台11を移動させた状態で下方(直下)から撮影された布の身表側の柄を操作パネル50で確認しながら布を載置する。そして、送り台11を切断位置に移動した状態でボタン穴用の切れ目が形成されるとともに、針落ち位置にて縫製が行われる。
【0077】
上記構成を備える第二実施形態のボタン穴かがりミシン101によれば、カメラモジュール41と照明装置46とをベッド部3の上面に固定するとともに、布の位置決めに際して切断位置から離隔した位置で布の下面を撮影する構成としたことにより、カメラモジュール41や照明装置46を移動させるための別の機構や駆動源を設ける必要がなく、簡易な構成でコストを抑制しつつ、布の載置作業の容易化を図ることができる。また、カメラユニット40を布切りメス21から離隔した位置に配置することにより、例えば、布切り機構20や布送り機構10等の他の機構と干渉しない位置にカメラユニット40を配置することができるため、当該カメラユニット40の配置に際して自由度が向上する。また、カメラモジュール41と照明装置46とをルーパ機構60よりも作業者側に取り付けたことにより、送り台11に布をセットする際のセット位置がオペレータ側に近くなるため、載置作業がしやすくなる。
【0078】
(第三実施形態)
次に、図17〜図19に基づき本発明を適用した第三実施形態について詳しく説明する。
第三実施形態たるボタン穴かがりミシン201は、撮影手段たるカメラユニット240が送り台211に搭載されているという点において上記第一及び第二実施形態と異なっている。かかるカメラユニット240には、図示しないケーブルを介してそれぞれ制御部70に接続されるカメラモジュール41と照明装置46とが設けられており、図17及び図18に示すように、それぞれ止めねじにて送り台11の内部に取り付けられている。カメラモジュール41は、上方に向けて設置されたレンズが、布切りメス21と縫い針9の針落ち位置とを結ぶ、ほぼY軸方向に沿う線の延長線上であって、ルーパ機構60よりもオペレータの作業位置側(図18における左側)に配置されるようになっている。このカメラモジュール41と照明装置46との取り付け位置は、送り台11に載置される布の下側となる何れかの位置に配置されていればよい。また、送り台11は、載置台となる上面部のうちカメラモジュール41の上方に開口部Pが形成されており、当該送り台11に載置された布の下面側をカメラモジュール41によって撮影することができるようになっている。
また、制御部70に備わるROM72には、後述する撮影用の制御動作を行うための制御プログラムが格納されている。そして、CPU71は、ROM72に記憶されている制御プログラムに基づいてミシン1各部を駆動することにより、カメラモジュール41で撮影された布の画像を操作パネル50に表示する制御を行うようになっている。
なお、第三実施形態におけるカメラユニット240は、送り台211と共に移動可能であればよく、例えば、押さえ足16の下方に取り付けられていても良い。
【0079】
次に、図19に示すフローチャートに基づき、第三実施形態たるボタン穴かがりミシン201の動作説明を行う。
ミシン201の主電源が投入されて電源ONの状態(ステップS40)とされた後、準備キーが押されてON(ステップS41)になったことが検出されると、CPU71は、ミシン201の各部に設けられたパルスモータの原点検索を行い各原点の初期化を行う(ステップS42)。このとき、送り台11は、図17に示す切断位置に配置されている。その後、CPU71は、カメラモジュール41がONとされて有効な状態であるか否かの判定を行う(ステップS43)。
ステップS43において、カメラモジュール41が有効の場合(ステップS43;Yes)、CPU71は、照明装置46をON(ステップS44)とした後、操作パネル50によりカメラモジュール41の撮影画像の表示を行う制御を行う(ステップS45)。この状態で、カメラモジュール41で撮影された画像が操作パネル50の液晶画面52上に表示されることとなる。
【0080】
ここで、オペレータが送り台11の上面に布を載置すると、送り台11に載置された布のうち、布切りメス21とメス受け27とによる布の切断位置からY軸方向に沿ってオペレータの作業位置側に離隔した位置の下面側、すなわち、身表側の画像(映像)が操作パネル50の液晶画面52に表示される。また、液晶画面52には布を載置する際の位置決めの基準となる布端マーク58及び鳩目穴マーク59が表示されるため、これら各マーク58,59を基準にしてオペレータが布の位置決めを行う。
布の位置決めが完了した後、CPU71は、押さえスイッチが押下されたか否かの判断を行う(ステップS46)。このステップS46において、押さえスイッチが押下されたことが検出されると(ステップS46;Yes)、CPU71は、ドライバ17b及び電磁弁17aを介して押さえ駆動用エアシリンダ17を駆動することで、押さえ腕15及び押さえ足16を下降させる。これにより、押さえ足16と送り台11との間に布が挟持され、この布が水平方向に移動可能な状態で保持されることとなる。そして、CPU71は、操作パネル50へのカメラモジュール41の撮影画像の表示を終了させ(ステップS47)、照明装置46をOFFにする制御を行う(ステップS48)。この段階で、液晶画面52には通常の設定画面が表示される。
ステップS46において、押さえスイッチが押下されたことが検出されない場合(ステップS46;No)、CPU71は、ステップS43に移行して再度、カメラモジュール41が有効であるか否かの判断を行う。つまり、ステップS46で押さえスイッチが押下されるまで、ステップS43〜ステップS46における布の位置決め作業(載置作業/セット作業)の手順が確保されるものである。
【0081】
ここで、上述したステップS43において、カメラモジュール41が有効ではない状態(ステップS43;No)で押さえスイッチがONとされた場合(ステップS52)、CPU71は、ステップS49に移行する。そして、スタートスイッチが押下されると(ステップS49)、CPU71は、ROM72やEEPROM74に格納されている各種プログラムに基づき、ミシン1の各部を駆動して縫製作業を行うための制御を実行する(ステップS50)。
その後、CPU71は、再度、準備キーが押下されたか否かの判断を行い(ステップS51)、準備キーが押下された場合(ステップS51;Yes)、ステップS42に移行して各パルスモータの原点を初期化する制御を行う。一方、ステップS51において、準備キーが押下されない場合(ステップS51;No)、CPU71は、ステップS43に移行し、次に準備キーが押下されるまで上述の動作を繰り返し行う。
このように、第三実施形態たるボタン穴かがりミシン201では、送り台11に搭載されたカメラモジュール41と照明装置46とにより、切断位置から離隔された位置の下方(直下)から布の身表側の柄が撮影される。
【0082】
上記構成を備える第三実施形態たるボタン穴かがりミシン201によれば、送り台11にカメラモジュール41と照明装置46とを直接取り付けたことにより、簡易な構成とすることができる。また、カメラモジュール41と照明装置46とが直接送り台11に取り付けられていることにより、通常の布のセット位置を、オペレータ側に設定した第二のセット位置でも、カメラモジュール41によって布の下面側を撮影することができる。
【0083】
この場合、上記第一〜第二実施形態に示したように、布切りメス21とメス受け27とによる布の切断位置において布の身表側を撮影することが望ましいが、例えば、身表側に表出される柄が等間隔で規則的に配列されている場合は本実施の形態のように布切りメス21又はメス受け27から離隔した位置に取り付けることとしてもよい。この場合、ボタン穴の形成位置から離れた位置で身表側を撮影しても、布の向きを合わせることができる。
【0084】
(その他)
なお、布切りメス21及びメス受け27は、それぞれの上下位置が逆に設けられていてもよい。すなわち、本実施形態では、布送り台11を挟んで布切りメス21が下方のベッド部3側に配設され、メス受け27が上方のアーム部5側に配設されているが、例えば、布切りメス21をアーム部5側に、メス受け27をベッド部3側に設けて当該布切りメス21が下降しながら布を切断する構成としてもよい。
【0085】
また、発光部材はLEDランプ49に限定されるものではなく、カメラモジュール41による撮影によって布の表側の柄を認識可能とする光源であれば種々のものを採用することができる。また、この発光部材として搭載される光源(例えば、LEDランプ49)は、必要とされる所望の数を搭載することができる。
【0086】
また、本実施形態では、ボタン穴として鳩目ボタン穴(図19(a)参照)を例に説明しているが、例えば、直線部のみで滴状部がない眠り目ボタン穴(図20(b)参照)等、種々のボタン穴に適用可能である。
【0087】
また、本発明の基準マークである布端マーク58や鳩目穴マーク59は、上記第一〜第三実施形態では操作パネル50の液晶画面52上に画像として表示する構成としているが、例えば、液晶画面52の表面上における所定の位置に、布端マーク58や鳩目穴マーク59を貼付又は直接記載することで、送り台11に布を載置する際の基準としてもよい。この場合、布切りメス21とメス受け27とによる布の切断位置と、カメラユニット40で撮影して液晶画面52に表示する画像の位置、及び、液晶画面52に付する基準マークの位置関係を対応させることで、簡易な構成でありながら、送り台11の上面に布を効率よく載置するための基準マークとして機能させることができる。
【0088】
また、上記第一〜第三実施形態では、カメラユニット40で撮影した画像を操作パネル50に表示する構成としたが、例えば、操作パネル50とは別個に表示パネルを設けてカメラユニット40で撮影した布の画像と基準マークとを表示させるとともに、該操作パネル50の操作キー群57bと同様の機能を持たせる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】第一実施形態たるボタン穴かがりミシンの外観構造を示す概略斜視図である。
【図2】第一実施形態における旋回機構を示す概略斜視図である。
【図3】第一実施形態における送り機構を示す平面図である。
【図4】第一実施形態における送り機構を示す概略側面図である。
【図5】第一実施形態の要部構成を示す概略平面図である。
【図6】図5におけるA方向矢視から見た図であり、第一実施形態における要部構成を示す概略正面図である。
【図7】図5におけるB方向矢視から見た図であり、第一実施形態における要部構成を示す概略側面図である。
【図8】第一実施形態における表示パネルの構成を示す概略図である。
【図9】第一実施形態におけるミシンの動作(撮影位置)を示す動作説明図である。
【図10】第一実施形態におけるミシンの動作(切断位置)を示す動作説明図である。
【図11】第一実施形態における制御部の構成を示すブロック図である。
【図12】第一実施形態たるボタン穴かがりミシンの動作を示すフローチャートである。
【図13】第二実施形態たるボタン穴かがりミシンの要部構成を示す平面図である。
【図14】図13におけるC方向矢視から見た概略構成を示す概略側面図である。
【図15】第二実施形態におけるミシンの動作(撮影位置)を示す動作説明図である。
【図16】第二実施形態たるボタン穴かがりミシンの動作を示すフローチャートである。
【図17】第三実施形態たるボタン穴かがりミシンの要部構成を示す平面図である。
【図18】図17におけるD方向矢視から見た概略構成を示す概略側面図である。
【図19】第三実施形態たるボタン穴かがりミシンの動作を示すフローチャートである。
【図20】被縫製物の表面(身表)に表出される種々の柄を示す模式図である。(a)は無地、(b)はストライプ、(c)は格子状の柄を示す。
【図21】被縫製物に形成されるボタン穴の形成位置と柄との関係を示す模式図である。(a)は表面(身表)、(b)は裏面(身返し)を示す。
【図22】(a)は鳩目ボタン穴を示す概略図、(b)は眠り目ボタン穴を示す概略図である。
【符号の説明】
【0090】
1 ミシン(ボタン穴かがりミシン)
2 ミシンフレーム
3 ベッド部
4 縦胴部
5 アーム部
6 操作ペダル
7 操作パネル
8 ミシンモータ
9 縫い針(針)
9a 針棒
10 布送り機構
11 送り台(載置台)
12 X軸パルスモータ(送り駆動手段)
13 Y軸パルスモータ(送り駆動手段)
14 送り押さえ機構
15 押さえ腕
16 押さえ足
17 押さえ駆動用エアシリンダ
18 糸切り用エアシリンダ
20 布切り機構
21 布切りメス
21a 固定板
21b,21d 止めねじ
21c メスストッパ
21e 刃先
22 メス土台上(土台)
23 メス土台上キー溝部
24 メス土台下
24a 止めねじ
25 メス土台下キー部
26 布切りパルスモータ(布切り駆動手段)
27 メス受け
30 旋回機構
40 カメラユニット(撮影手段)
41 カメラモジュール(カメラ)
42 ケーブル
43 カメラ移動用エアシリンダ
43a 止めねじ
43b 継ぎ手
43c エアチューブ
44 シリンダロッド
44 ナット
45 電磁弁
46 照明装置(照明手段)
47 ケース
48 ねじ
49 LEDランプ(発光部材)
49a ケーブル
50 操作パネル(表示手段)
50c 取り付け板
51 ケース
52 液晶画面(表示部)
53 モードキー
54 リセットキー
55 +キー
56 −キー
57 操作キー群(布端表示位置補正手段,鳩目穴表示位置補正手段)
58 布端マーク(基準マーク、端部位置設定マーク)
59 鳩目穴マーク(基準マーク)
60 ルーパ機構
70 制御部(制御手段,布端表示制御手段,鳩目穴表示制御手段)
71 CPU
72 ROM
73 RAM
74 EEPROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針を上下動する針上下動機構と、
前記針の上下動経路と直交するように被縫製物を載置する載置台を有し、前記載置された被縫製物を所定方向に搬送可能な布送り機構と、
前記載置台を挟んで上下に対向してそれぞれ配置されるメス受け及び布切りメスと、前記布送り機構により切断位置に搬送された被縫製物に対し前記メス受け及び布切りメスの少なくとも一方を上下方向に駆動してメス受けと布切りメスとが合致したときに被縫製物を切断しボタン穴を形成する布切り駆動手段とを有する布切り機構と、
前記布送り機構による布送り方向に交差して針を揺動する針振り機構と、
前記針と協働して前記被縫製物に縫い目形成するルーパ機構と、
前記各構成を制御して被縫製物にボタン穴を形成するとともにボタン穴の周囲にかがり縫い目を形成する制御手段とを備えたボタン穴かがりミシンにおいて、
前記載置台の布載置面の下方に設けられ、前記載置台に載置される被縫製物を下方から撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された被縫製物の画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とするボタン穴かがりミシン。
【請求項2】
前記表示手段は、その表面上に前記載置台に被縫製物を載置する際の基準となる基準マークを表示又は付するようになっていることを特徴とする請求項1記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項3】
前記基準マークは、前記布切り機構により前記被縫製物に形成されるボタン穴の位置を示す画像であることを特徴とする請求項2記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項4】
前記表示手段は、その表面上にボタン穴に対する前記被縫製物の端部位置を設定する端部位置設定マークを表示又は付するようになっていることを特徴とする請求項2記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項5】
前記撮影手段は、前記被縫製物を撮影するカメラと、前記カメラにより撮影するための光を前記被縫製物に照射する発光部材とを有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項6】
前記撮影手段と前記布切りメス、又は、前記撮影手段と前記メス受けを保持する土台を有し、前記土台を介して前記撮影手段と布切りメス、又は、前記撮影手段とメス受けをメス受け又は布切りメスの対向位置に相互に移動可能とする駆動手段を有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項7】
前記撮影手段は、前記布切りメス又はメス受けの側方近傍に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項8】
前記撮影手段は、前記載置台の布載置面の下方であって前記布切りメス又はメス受けから離隔した位置に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項9】
画面内の所定位置に前記基準マークとして布端マークを表示する布端表示制御手段と、
前記布端マークの表示位置を補正するための布端表示位置補正入力手段とを有することを特徴とする請求項2から請求項8の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項10】
画面内の所定位置に前記基準マークとして鳩目穴マークを表示する鳩目穴表示制御手段と、前記鳩目穴マークの表示位置を補正するための鳩目穴表示位置補正入力手段とを有することを特徴とする請求項2から請求項9の何れか一項記載のボタン穴かがりミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−295742(P2008−295742A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145168(P2007−145168)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】