説明

ボルトの共回り防止装置

【課題】 簡単な操作でボルトの共回りを防止可能な共回り防止装置を提供する。
【解決手段】 隣接するボルト頭部BHの相互に接近した内側面に対して係合可能な係合部11,12を有する1組の係合部材2,3と、1組の係合部材2,3を接近方向と離間方向とにレバー部材26の操作により移動させ、両係合部11,12を隣接するボルト頭部BHの内側面にそれぞれ圧接係合させてボルトBの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部BHに対する両係合部11,12の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材2,3を位置切り換え可能な操作手段4とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、ボルトからナットを取り外すに際して、ボルトがナットと共回りしないようにボルト頭部を保持するボルトの共回り防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】建築物の鉄骨を連結するためのボルトとして、ネジ軸の端部にピンテールを形成し、ピンテールの外周部にスプラインを形成し、ネジ軸とピンテール間に環状の破断溝を形成したトルシア形高力ボルトが広く採用されている。このトルシア形高力ボルトでは、鉄骨等の取付孔にネジ軸を挿通させて、ネジ軸の端部に座金を装着してからナットを取り付け、この状態でボルト締結装置の内スリーブをボルトのピンテールに外嵌装着するとともに外スリーブをナットに外嵌装着し、外スリーブを固定した状態で、内スリーブを回転させてボルトを締め付けることで、ボルトとナットの共回りを防止しつつボルトとナットを締結し、更に大きな一定のトルクでボルトを締め付けると、破断溝においてピンテールがネジ軸から破断して、所望の締め付けトルクでボルトとナットが結合されるように構成されている。また、このトルシア形高力ボルトでは、その締結時にボルト頭部を操作する必要がないので、ボルト頭部は任意の形状に構成することが可能で、通常は扁平な半球状に形成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、建築物の補修や解体のため、鉄骨からボルト及びナットを取り外す際には、ナットランナーによりナットを解螺して行っており、錆等によりボルトがナットと共回りする場合には、ボルト頭部をレンチで保持しながら、ナットランナーによりナットを解螺しているが、前記トルシア形高力ボルトではボルト頭部が扁平な半球状に形成され、ボルト頭部をレンチ等で保持できないので、ボルトとナットとが共回りする場合には、複数のボルト頭部にわたって帯板を溶接して、ボルトの回転を規制した状態でナットを解螺している。しかし、この溶接作業は大変煩雑なものであるので、従来から簡単な操作によりボルトの共回りを防止し得るような工具が要望されていた。
【0004】本発明の目的は、簡単な操作でボルトの共回りを防止可能な共回り防止装置を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段及びその作用】本発明に係る第1のボルトの共回り防止装置は、隣接するボルト頭部の相互に接近した内側面に対して係合可能な係合部を有する1組の係合部材と、前記1組の係合部材を接近方向と離間方向とにレバー部材の操作により移動させ、両係合部を隣接するボルト頭部の内側面にそれぞれ圧接係合させてボルトの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部に対する両係合部の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材を位置切り換え可能な操作手段とを備えたものである。
【0006】この第1の共回り防止装置を用いてボルト及びナットを取り外す際には、先ず係合部が隣接するボルト頭部の内側に位置するように共回り防止装置を配置させ、この状態で操作手段のレバー部材を操作して、1組の係合部材を相互に離間させ、両係合部を隣接するボルト頭部の内側面にそれぞれ圧接係合させて、2本のボルト頭部にわたって共回り防止装置を固定することで、共回り防止装置を介して2本のボルトの回転を相互に規制することになる。こうして2本のボルトの回転を規制した状態で、該ボルトに螺合されたナットをナットランナーにより順次解螺することで、ボルト及びナットを2本ずつ取り外すことになる。
【0007】このように、この第1の共回り防止装置では、レバー部材の操作により、ナットの解螺時におけるボルトの共回りを容易に且つ確実に防止することが可能となる。しかも、隣接するボルト頭部の内側面に係合部材をそれぞれ圧接係合させて、ボルトの回転を規制したので、ボルト頭部の形状に依存することなく、ボルトの共回りを確実に防止でき、ボルト頭部が扁平な半球状のトルシア形高力ボルトでも容易に解螺することが可能となる。更に、係合部材を相互に離間する方向へ操作して、両係合部材をボルト頭部に圧接係合させるので、2つのボルト頭部に対して係合部材を同時に且つ同じ荷重で圧接係合させることが可能となり、ボルト頭部に対する係合部材の圧接力を個別に調整する場合と比較して、圧接力の調整作業が容易になる。
【0008】本発明に係る第2のボルトの共回り防止装置は、隣接するボルト頭部の相互に離間した外側面に対して係合可能な係合部を有する1組の係合部材と、前記1組の係合部材を接近方向と離間方向とにレバー部材の操作により移動させ、両係合部を隣接するボルト頭部の外側面にそれぞれ圧接係合させてボルトの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部に対する両係合部の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材を位置切り換え可能な操作手段とを備えたものである。
【0009】この第2の共回り防止装置を用いてボルト及びナットを取り外す際には、先ず係合部が隣接するボルト頭部の外側に位置するように共回り防止装置を配置させ、この状態で操作手段のレバー部材を操作して、1組の係合部材を相互に接近させ、両係合部を隣接するボルト頭部の外側面にそれぞれ圧接係合させて、2本のボルト頭部にわたって共回り防止装置を固定することで、共回り防止装置を介して2本のボルトの回転を相互に規制することになる。こうして2本のボルトの回転を規制した状態で、該ボルトに螺合されたナットをナットランナーにより順次解螺することで、ボルト及びナットを2本ずつ取り外すことになる。
【0010】このように、この第2の共回り防止装置では、レバー部材の操作により、ナットの解螺時におけるボルトの共回りを容易に且つ確実に防止することが可能となる。しかも、隣接するボルト頭部の外側面に係合部材をそれぞれ圧接係合させて、ボルトの回転を規制したので、ボルト頭部の形状に依存することなく、ボルトの共回りを確実に防止でき、ボルト頭部が扁平な半球状のトルシア形高力ボルトでも容易に解螺することが可能となる。更に、係合部材を相互に接近する方向へ操作して、両係合部材をボルト頭部に圧接係合させるので、2つのボルト頭部に対して係合部材を同時に且つ同じ荷重で圧接係合させることが可能となり、ボルト頭部に対する係合部材の圧接力を個別に調整する場合と比較して、圧接力の調整作業が容易になる。
【0011】ここで、前記操作手段として、両係合部材を連結する1対のリンク部材と、リンク部材を操作するレバー部材とを備え、レバー部材の操作により係合部材を接近方向と離間方向とに操作可能で且つ回転規制位置において両係合部材の解除位置側への移動を規制可能なトグル機構を用いてもよい。この場合には、レバー部材の操作抵抗を低く抑えつつ、係合部材を大きな力でボルト頭部に圧接係合させて、ボルトの共回りを防止できる。また、係合部材を回転規制位置に保持できるので、操作手段のレバー部材から手を放してナットを解螺することが可能となり、ボルトの取外作業の作業性を格段に向上できる。
【0012】鉄骨等に対する固定用の永久磁石を設けてもよい。このように構成すると、共回り防止装置を永久磁石により鉄骨等に固定した状態で、レバー部材を操作して係合部材をボルト頭部に圧接係合できるので、鉄骨等に対する共回り防止装置の組付性を向上できる。
【0013】前記係合部材が回転規制位置に保持されるようにレバー部材をロックするロック手段を設けてもよい。この場合には、両係合部材を回転規制位置に保持できるので、レバー部材から手を放してナットを解螺することが可能となり、ボルトの取外作業の作業性を格段に向上できる。しかも、レバー部材の回動をロック手段によりロックして、係合部材を回転規制位置に保持できるので、レバー部材に他物が引っ掛かって係合部材が不用意に解除位置へ移動することを防止できる。
【0014】前記両係合部材の間隔を調整する間隔調整手段を設けてもよい。ボルト頭部の製作誤差や、錆などによるボルト頭部の変形や破損により、回転規制位置における両係合部材間の距離が多少変動するので、両係合部材の間隔を調整する間隔調整手段を設けて、係合部がボルト頭部に十分に圧接係合するように構成することが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1〜図5に示すように、共回り防止装置1は、隣接するボルト頭部BHの相互に接近した内側面に係合可能な係合部11,12を有する前後1組の係合部材2,3と、レバー部材26の操作により両係合部材2,3を図1,図4,図5に実線で図示の回転規制位置と仮想線で図示の解除位置とに位置切り換え可能な操作手段4と、回転規制位置において両係合部11,12がボルト頭部BHに相対回転不能に圧接係合するように両係合部材2,3の間隔を調整する間隔調整手段5と、両係合部材2,3が回転規制位置に保持されるようにレバー部材26をロックするロック手段6とを備えている。そして、図4に示すように、鋼板Pを介して鉄骨S同士を連結する連結部等において、ボルトB及びナットNを除去する際には、隣接する1対のボルトBのボルト頭部BHにこの共回り防止装置1を組み付けた状態で、該ボルトBのナットNを図示外のナットランナーにより順次除去し、この作業を繰り返してボルトB及びナットNを除去することになる。
【0016】前部係合部材2にはボルト頭部BHに遊嵌可能な装着孔10が形成され、装着孔10の内面の後部には複数の歯からなる三角波状の左右1対の係合部11が形成され、後部係合部材3の後部には台形状の切欠部16が形成され、切欠部16の左右の斜辺にはボルト頭部BHの内側面に係合する複数の歯からなる三角波状の係合部12がそれぞれ形成されている。
【0017】但し、両係合部材2,3に形成する係合部11,12の個数は任意に設定可能であるが、前述のように両係合部材2,3に対してそれぞれ左右1対設けると、係合部11,12をボルト頭部BHに対して安定性よく係合できるので好ましい。また、係合部11,12は、ボルト頭部BHに対する圧接により、ナットNの解螺時におけるボルト頭部BHの回転を規制できるものであれば、任意の形状のものを採用でき、例えばナットNの解螺動作によりボルト頭部BHに係合するような方向の鋸波状に形成してもよい。更に、係合部11,12は、係合部材2,3と一体的に構成してもよいが、ボルト頭部BHとの圧接係合により摩耗することが考えられるので、係合部材2,3とは別部材で構成して、ビス等で係合部材2,3に交換可能に取り付けることが好ましい。
【0018】前部係合部材2の後部には後面側を開放した前後方向に延びる左右1対の貫通孔13が形成され、前部係合部材2には後方へ延びる左右1対のガイド軸14がその前半部を貫通孔13に圧入装着して固定されている。後部係合部材3にはガイド軸14が前後移動自在に挿通する1対の挿通孔15が形成され、前部係合部材2と後部係合部材3とはガイド軸14を介して相互に接近離間可能に案内されている。尚、ガイド軸14の本数及び形状は任意に設定可能である。また、ガイド軸に代えてガイドレールを用いたガイド手段など、任意の構成のガイド手段で前後の係合部材2,3を相互に接近離間可能に案内することが可能である。
【0019】操作手段4は、周知のトグル機構を主体にして、次のように構成されている。但し、トグル機構以外のリンク機構やカム機構等を用いて操作手段4を構成することも可能である。
【0020】前部係合部材2上にはガセットプレート20を介して左右1対のベース板21が設けられ、左右のベース板21の相互に接近する側縁には相互に重ね合わされる縦壁部22が上方へ突出状に形成されている。縦壁部22の前端部には第1リンク部材23が第1軸部材24を介して回動自在に連結され、第1リンク部材23には2本の固定ピン25を介してレバー部材26が固定されている。縦壁部22の後端部には支持スリーブ27が固定され、支持スリーブ27には操作ロッド28が前後方向に移動自在に装着されている。
【0021】操作ロッド28の前端部と第1リンク部材23の途中部間には第2リンク部材29が第2軸部材30及び第3軸部材31を介して回動自在に連結され、レバー部材26は実線で図示の操作位置と仮想線で図示の解除位置とにわたって回動自在に支持されている。そして、レバー部材26を操作位置側へ操作すると、操作ロッド28が後方へ移動して、間隔調整手段5を介して前後の係合部材2,3が相互に離間した回転規制位置に操作され、レバー部材26を解除位置側へ操作すると、操作ロッド28が前方へ移動して、間隔調整手段5を介して前後の係合部材2,3が相互に接近した解除位置へ操作される。また、レバー部材26を操作位置に操作した状態では、第2軸部材30の中心が第1軸部材24の中心と第3軸部材31の中心を通る線分よりも多少下側に配置され、操作ロッド28に対する前方への反力でレバー部材26が解除位置側へ回動しないように構成されている。
【0022】間隔調整手段5について説明すると、後部係合部材3上には支持ブラケット40が固定され、支持ブラケット40には前後方向に延びる取付孔41が形成され、取付孔41にはカラー42が組み付けられ、カラー42には操作ロッド28の後端部が前後移動自在に装着支持されている。操作ロッド28には後方へ延びる六角穴付きの調整ネジ43が螺合され、カラー42は調整ネジ43の途中部に螺合され、支持ブラケット40の後側において調整ネジ43には外周にローレットを形成した調整つまみ44が螺合され、調整ネジ43の後端部にはスプリングワッシャ45を介してナット46が固定され、カラー42と調整つまみ44とスプリングワッシャ45とはナット46の締め付けにより調整ネジ43に一体的に固定されている。そして、調整つまみ44を回転操作すると、調整つまみ44とともに調整ネジ43が回転して、操作ロッド28に対する後部係合部材3の位置関係が前後方向に微調整され、回転規制位置における前後の係合部材2,3の間隔が調整されるように構成されている。
【0023】ロック手段6は、操作位置に操作したレバー部材26が解除位置側へ不用意に回動しないように、レバー部材26を操作位置に保持するためのもので、縦壁部22の前端下部には軸部材50が設けられ、軸部材50には縦壁部22の前端部を覆うカバー部材51が、図1に実線で図示のロック位置と、仮想線で図示の解除位置とにわたって回動自在に支持され、カバー部材51は軸部材50に外装した捩りコイルバネ52によりロック位置側へ常時付勢されている。ベース板21にはカバー部材51の側壁の後側に延びる規制部材53が固定され、カバー部材51はその側壁の後縁が規制部材53に当接することでロック位置に保持され、またカバー部材51の基部に形成した突起55が規制部材53の凹部に係合することで解除位置に保持される。カバー部材51の上端部には後方へ延びる係合部54が形成され、レバー部材26を操作位置に操作すると、カバー部材51がロック位置に回動して、係合部54が第1リンク部材23の前部上縁に係合し、カバー部材51を解除位置側へ操作しないと、第1軸部材24と中心とした第1リンク部材23の解除位置側への回動が規制されるように構成されている。
【0024】前部係合部材2の後部には左右1対の取付孔56が形成され、取付孔56には永久磁石57が埋設状に設けられ、この永久磁石57を鉄骨Sに吸着させて共回り防止装置1を鉄骨Sに着脱自在に固定できるように構成されている。但し、永久磁石57は鉄骨Sに吸着できる位置であれば、共回り防止装置1の任意の位置に、任意の個数設けることが可能である。
【0025】次に、共回り防止装置1の使用方法について説明する。先ず、図1に示すように、隣接するボルトBの相互に対面する内側面に前後係合部材2,3の係合部11,12がそれぞれ対面するように、前部係合部材2の装着孔10にボルト頭部BHを挿入させて、ボルト頭部BHに前部係合部材2を外装するとともに、後部係合部材3の外側にボルト頭部BHを対面するように、永久磁石57により共回り防止装置1を鉄骨Sに固定する。
【0026】次に、レバー部材26を図4に仮想線で図示の解除位置から実線で図示の操作位置へ操作して、図5R>5に示すように、両係合部材2,3を相互に離間した回転規制位置へ移動させ、両係合部材2,3の係合部11,12を隣接するボルト頭部BHの内側面にそれぞれ圧接係合させる。尚、操作位置へのレバー部材26の操作抵抗が極端に小さく、ボルト頭部BHに対する係合部11,12の圧接力が十分に得られない場合や、係合部11,12がボルト頭部BHに対して過剰に圧接されて、レバー部材26を操作位置まで操作できない場合には、レバー部材26を解除位置へ操作して、間隔調整手段5の調整ネジ43により両係合部材2,3を離間を調整してから、再度レバー部材26を操作位置へ操作し、係合部11,12が適度な圧接力でボルト頭部BHに圧接係合されて、係合部材2,3とボルト頭部BH間に滑りが発生しないように、間隔調整手段5の調整ネジ43を調整することになる。
【0027】次に、図1に実線で示すようにカバー部材51をロック位置へ操作して、レバー部材26が不用意に解除位置側へ回動して係合部11,12とボルト頭部BHの係合が解除されないように、レバー部材26の回動を規制する。
【0028】こうして、共回り防止装置1を2本のボルトBに組み付けた状態で、該ボルトBに螺合されているナットNをナットランナーで取り外すことになる。また、2つのナットNを除去してから、カバー部材51を解除位置側へ操作して、レバー部材26を解除位置側へ操作し、両係合部材2,3とボルト頭部BHとの係合を解除して、次のボルト頭部BHに共回り防止装置1を組み付け、ボルトB及びナットNを順次取り外すことになる。
【0029】以上のように、この共回り防止装置1では、レバー部材26の操作により、ナットNの解螺時におけるボルトBの共回りを容易に且つ確実に防止することが可能となる。しかも、隣接するボルト頭部BHの内側面に係合部材2,3をそれぞれ圧接係合させて、ボルトBの回転を規制したので、ボルト頭部BHの形状に依存することなく、ボルトBの共回りを確実に防止でき、トルシア形高力ボルトでも容易に解螺することが可能となる。更に、隣接する2本のボルト頭部BHの内側面に係合部11,12をそれぞれ圧接係合させて、ボルトBの回転を規制するので、両ボルト頭部BHに対して略同じ荷重で係合部11,12を圧接係合させて、ボルトBの回転を規制することが可能となる。更にまた、レバー部材26を操作位置にロックできるので、他物との接触等によりレバー部材26が不用意に解除位置側へ回動するという不具合を確実に防止しつつ、レバー部材26から手を放してナットNの解螺作業を行うことが可能となる。また、永久磁石57で共回り防止装置1を鉄骨Sに固定できるので、ボルト頭部BHに対する共回り防止装置1の組み付けが容易に行える。
【0030】次に、前記共回り防止装置60の他の実施例について説明する。尚、前記実施例と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。図6に示すように、この共回り防止装置60は、隣接するボルト頭部BHの相互に離間した外側面に係合可能な係合部11,12を有する1組の係合部材61,62と、1組の係合部材61,62を接近方向と離間方向とにレバー部材63の操作により移動させて、両係合部11,12が隣接するボルト頭部BHの外側面にそれぞれ圧接係合し、ボルトBの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部BHに対する両係合部11,12の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材61,62を位置切り換え可能な操作手段64とを備えている。
【0031】前部係合部材61にはボルト頭部BHに遊嵌可能な装着孔10が形成され、装着孔10の内面の前部にはボルト頭部BHの外側面に係合する係合部11が形成され、後部係合部材62の前部には台形状の切欠部16が形成され、切欠部16の左右の斜辺にはボルト頭部BHの外側面に係合する係合部12がそれぞれ形成されている。但し、両係合部材61,62に形成する係合部11,12の個数は、前記実施例と同様に任意に設定可能である。
【0032】操作手段64について説明すると、前部係合部材61の後部にはブラケット部材65が上方へ突出状に固定され、ブラケット部材65の上端部には枢支ピン66を介してレバー部材63が、図6に実線で図示の解除位置と、仮想線で図示の操作位置とにわたって回動自在に支持されている。後部係合部材62には上方へ延びる支持ブラケット67が立設固定され、支持ブラケット67の上端近傍部には略水平に前方へ延びる操作ロッド68が1対のナット69を介して固定され、操作ロッド68の前端部は連結ピン70を介してレバー部材63の途中部に回動自在に連結されている。但し、操作手段64としては、前後の係合部材61,62を回転規制位置と解除位置とに位置切り換え可能なものであれば、前記実施例で採用したようなトグル機構を用いたものなど、任意の構成の操作手段を採用することが可能である。
【0033】この共回り防止装置60を用いてボルトB及びナットNを除去する際には、レバー部材63を矢印の方向へ回動操作して、操作手段64を介して前後の係合部材61,62を相互に接近する方向へ引き寄せ、隣接するボルト頭部BHの外側面に前後の係合部材61,62の係合部11,12をそれぞれ圧接係合させて、ボルトBの回転を規制した状態で、該ボルトBのナットNをナットランナーにより解螺することになる。
【0034】尚、この共回り防止装置60においても、前記実施例と同様に、係合部材61,62の間隔を調整する間隔調整手段を設けたり、レバー部材63を操作位置にロックするロック手段を設けたり、共回り防止装置60を鉄骨Sに固定するための永久磁石を設けたりすることが可能である。
【0035】
【発明の効果】本発明に係るボルトの共回り防止装置によれば、レバー部材の操作により、ナットの解螺時におけるボルトの共回りを容易に且つ確実に防止することが可能となる。しかも、隣接するボルト頭部の内側面或いは外側面に係合部材をそれぞれ圧接係合させて、ボルトの回転を規制したので、ボルト頭部の形状に依存することなく、ボルトの共回りを確実に防止でき、ボルト頭部が扁平な半球状のトルシア形高力ボルトでも容易に解螺することが可能となる。更に、係合部材を相互に離間する方向或いは相互に離間する方向へ操作して、両係合部材をボルト頭部に圧接係合させるので、2つのボルト頭部に対して係合部材を同時に且つ同じ荷重で圧接係合させることが可能となり、ボルト頭部に対する係合部材の圧接力を個別に調整する場合と比較して、圧接力の調整作業が容易になる。
【0036】ここで、操作手段としてトグル機構を用いると、レバー部材の操作抵抗を低く抑えつつ、係合部材を大きな力でボルト頭部に圧接係合させて、ボルトの共回りを防止できる。また、係合部材を回転規制位置に保持できるので、操作手段のレバー部材から手を放してナットを解螺することが可能となり、ボルトの取外作業の作業性を格段に向上できる。
【0037】鉄骨等に対する固定用の永久磁石を設けると、共回り防止装置を永久磁石により鉄骨等に固定した状態で、レバー部材を操作して係合部材をボルト頭部に圧接係合できるので、鉄骨等に対する共回り防止装置の組付性を向上できる。
【0038】係合部材が回転規制位置に保持されるようにレバー部材をロックするロック手段を設けると、両係合部材を回転規制位置に保持できるので、レバー部材から手を放してナットを解螺することが可能となり、ボルトの取外作業の作業性を格段に向上できる。しかも、レバー部材の回動をロック手段によりロックして、係合部材を回転規制位置に保持できるので、レバー部材に他物が引っ掛かって係合部材が不用意に解除位置へ移動することを防止できる。
【0039】両係合部材の間隔を調整する間隔調整手段を設けると、ボルト頭部の製作誤差や、錆などによるボルト頭部の変形や破損により、回転規制位置における両係合部材間の距離が多少変動するので、両係合部材の間隔を調整する間隔調整手段を設けて、係合部がボルト頭部に十分に圧接係合するように構成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 共回り防止装置の側面図
【図2】 共回り防止装置の平面図
【図3】 共回り防止装置の底面図
【図4】 ボルト頭部に組み付けた状態における図2のIV-IV線断面図
【図5】 図4のV-V線断面図
【図6】 他の実施例に係る共回り防止装置の図4相当図
【符号の説明】
B ボルト BH ボルト頭部
N ナット S 鉄骨
P 鋼板
1 共回り防止装置 2 前部係合部材
3 後部係合部材 4 操作手段
5 間隔調整手段 6 ロック手段
10 装着孔 11 係合部
12 係合部 13 貫通孔
14 ガイド軸 15 挿通孔
16 切欠部
20 ガセットプレート 21 ベース板
22 縦壁部 23 リンク部材
24 第1軸部材 25 固定ピン
26 レバー部材 27 支持スリーブ
28 操作ロッド 29 リンク部材
30 第2軸部材 31 第3軸部材
40 支持ブラケット 41 取付孔
42 カラー 43 調整ネジ
44 調整つまみ
45 スプリングワッシャ
46 ナット
50 軸部材 51 カバー部材
52 コイルバネ 53 規制部材
54 係合部 55 突起
56 取付孔 57 永久磁石
60 共回り防止装置 61 前部係合部材
62 後部係合部材 63 レバー部材
64 操作手段 65 ブラケット部材
66 枢支ピン 67 支持ブラケット
68 操作ロッド 69 ナット
70 連結ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 隣接するボルト頭部の相互に接近した内側面に対して係合可能な係合部を有する1組の係合部材と、前記1組の係合部材を接近方向と離間方向とにレバー部材の操作により移動させ、両係合部を隣接するボルト頭部の内側面にそれぞれ圧接係合させてボルトの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部に対する両係合部の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材を位置切り換え可能な操作手段と、を備えたことを特徴とするボルトの共回り防止装置。
【請求項2】 隣接するボルト頭部の相互に離間した外側面に対して係合可能な係合部を有する1組の係合部材と、前記1組の係合部材を接近方向と離間方向とにレバー部材の操作により移動させ、両係合部を隣接するボルト頭部の外側面にそれぞれ圧接係合させてボルトの回転を規制した回転規制位置と、隣接するボルト頭部に対する両係合部の圧接係合を解除した解除位置とに、両係合部材を位置切り換え可能な操作手段と、を備えたことを特徴とするボルトの共回り防止装置。
【請求項3】 前記操作手段として、両係合部材を連結する1対のリンク部材と、リンク部材を操作するレバー部材とを備え、レバー部材の操作により係合部材を接近方向と離間方向とに操作可能で且つ回転規制位置において両係合部材の解除位置側への移動を規制可能なトグル機構を用いた請求項1又は2記載のボルトの共回り防止装置。
【請求項4】 鉄骨等に対する固定用の永久磁石を設けた請求項1〜3のいずれか1項記載のボルトの共回り防止装置。
【請求項5】 前記係合部材が回転規制位置に保持されるようにレバー部材をロックするロック手段を設けた請求項1〜4のいずれか1項記載のボルトの共回り防止装置。
【請求項6】 前記両係合部材の間隔を調整する間隔調整手段を設けた請求項1〜5のいずれか1項記載のボルトの共回り防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2003−130030(P2003−130030A)
【公開日】平成15年5月8日(2003.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−332153(P2001−332153)
【出願日】平成13年10月30日(2001.10.30)
【出願人】(398075781)ジロー株式會社 (16)
【出願人】(390030328)イーグルクランプ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】