説明

ボールネジ機構におけるグリースの交換方法およびグリース交換装置

【課題】ボールナット内のグリースを機械の稼動中でも安全に、適正な量を保持した状態で、一定量のグリースを確実に交換することができる、グリースの交換方法を提供する。
【解決手段】ボールナット(3)の下方部(9)には定量吸引ポンプ(11)を、上方部(8)には定量グリース吐出バルブ(35)を接続する。定量吸引ポンプ(11)により、定量のグリースをボールナット(3)内から排出する。次いで、排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを定量グリース吐出バルブ(35)からボールナット(3)内に注入する。グリースの交換中は、ボールナット(3)内のグリース(43)は少なくとも1/3以上残存しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構におけるグリースの交換方法およびグリース交換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボモータで駆動される工作機械、産業機械等には、複数のボールネジ機構が設けられている。ボールネジ機構は、周知のように、ボールネジと、複数個のボールを介して前記ボールネジに螺合しているボールナットとから構成されている。したがって、ボールネジとボールナットのうち一方を固定して他方を回転駆動すると、回転運動が変換されて必要な直線運動が得られる。例えば、電動射出成形機には、一対の金型を型締する型締装置、型締された金型に溶融された樹脂を射出する射出装置等が備えられており、これらの装置にもボールネジ機構が設けられている。トグル式型締装置の場合、ボールネジに螺合するボールナットは、トグル機構を構成するクロスヘッドに固定されている。従って、ボールネジを例えばサーボモータにより回転駆動するとクロスヘッドが軸方向に駆動されて、型開閉されることになる。射出装置は、加熱シリンダ、この加熱シリンダの内部に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ等からなり、加熱シリンダの前方には射出ノズルが設けられている。このようなスクリュの後端部は、所定の機構を介して連結板に接続され、連結板にはボールネジと螺合しているボールナットが固定されている。従って、ボールネジを回転駆動すると、連結板と共にスクリュが軸方向に駆動され、加熱シリンダ内の溶融樹脂が射出ノズルから射出されることになる。
【0003】
上記のようなボールネジ機構は、グリースによって潤滑される。図3には、グリースを供給する従来周知の給脂装置51を備えたボールネジ53とボールナット54とが示されている。ボールナット54は、機械の所定の部材56に固定されて回転が規制され、ボールネジ53にボールナット54が螺合している。このようなボールナット54の外周面の上部には、図には示されていないが、ボールナット54の内部に達するグリース注入孔が明けられている。グリース注入孔には給脂口55が取り付けられ、給脂装置51から供給されるグリースがボールナット54の内部に注入されるようになっている。そして、ボールナット54の両端部にはグリースがボールナット54の内部にある程度滞留するようにラビリンスパッキン57、57が設けられている。
【0004】
給脂装置51は、グリースを吐出するグリースポンプ59と、給脂管60を経由してグリースポンプ59から供給されたグリースを分配する集中ブロック61と、集中ブロック61に取り付けられ定量のグリースを吐出する、複数個の定量グリース吐出バルブ62、62、…と、定量グリース吐出バルブ62と給脂口55とを接続している給脂管64と、グリースポンプ59を制御するコントローラ66とからなっている。コントローラ66から指令が出力され、グリースポンプ59が起動すると、グリースが圧送される。そうすると、集中ブロック61に取り付けられた定量グリース吐出バルブ62、62、…から、定量のグリースが吐出され、給脂管64から給脂口55を経由してグリースがボールナット54の内部に注入される。ラビリンスパッキン57、57の気密性あるいは液密性は十分ではないので、ボールナット54の内部に注入されたグリースは矢印68で示されているように少量ずつ外部に漏出する。給脂装置51により定期的にグリースを供給して、漏出したボールナット54内のグリースを補う。このように新しいグリースが定期的に給脂されるので、ボールナット54の内部でグリースが劣化することはなく、潤滑が適切に維持されることになる。漏れ出したグリースは、符号69で示さ電動射出成形機の電力供給方法と電力供給装置を提供することを目的としれているようにボールネジ53に付着する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−28961号公報
【0006】
負荷状況または稼動状況によってボールナット54から漏出するグリースの漏出速度は異なる。ボールナット54内に給脂されるグリースの量が適切に調節されていないと、グリースの給脂量と漏出量とのバランスが崩れてしまい、ボールナット内のグリースの量が適正に保持されない。ボールナット内のグリースの量が少ないと十分に潤滑されず、ボールナットやボールネジが損傷してしまう。グリース不足を防ぐために給脂量を多くしたり高頻度で給脂すると、グリースが無駄になってしまう。本発明者によって特許文献1により、ボールナット内のグリース量を適正に保持するグリースの給脂装置が提案されている。特許文献1に記載の給脂装置は、ボールナットに設けられている温度センサがコントローラに接続され、ボールナットの温度を監視して、所定の温度を超えるとコントローラから指令が出力されてグリースがボールナットに供給されるように構成されている。このように構成されているので、負荷が高くグリースの漏出量が多くても、ボールナットの昇温を素早く検出してグリースが給脂されるので、ボールナット内のグリース量を適正な量に保持することができる。安全は担保されグリースを無駄に供給することもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の給脂装置によれば、比較的安価な装置にもかかわらず、ボールナット内に封入されるグリース量が適正に保持されるので、ボールナットとボールネジは適切に潤滑されて早期に劣化することはないし、グリースが無駄に消費されることもないという効果が得られる。しかしながら、従来周知の給脂装置と同様に、解決すべき問題点も見受けられる。
【0008】
図3の符号69で示されているように、ボールナット54から漏出したグリースはボールネジ53に付着してしまう。このようなグリースはボールネジ53が回転すると遠心力で周囲に飛散して他の部材に付着したり、機械の外部にも飛び散ってしまう。そうすると、付着したグリースで機械のメンテナンスが困難になるし、作業環境も大幅に悪化してしまう。より粘性の高い高性能のグリースを採用して、遠心力によってグリースが飛び散らないようにすることも考えられるが、近年機械の高性能化が進んでボールネジは高速で回転されるようになってきているので、高性能のグリースを採用してもグリースの飛散を防止することは難しい。例えば、高速で射出ができる電動射出成形機の場合、射出機に設けられているボールネジが回転するとき表面の遠心加速度は200G程度になることがあり、最も粘性の高いグリースであってもボールネジに付着しているグリースのほとんどが飛散してしまう。
【0009】
近年、ネジ溝の形状が改良されたボールネジと、このようなネジ溝に密着するシールが設けられたボールナットとが開発されてきている。このようなボールネジとボールナットは、シールによって実質的にグリースの漏出が防止されているので、ボールナット内のグリースが漏出してボールネジに付着することはない。従って、電動射出成形機等の生産機械に、このようなボールナットとボールネジを適用すれば、実質的にグリースが飛散することはなく、グリースの汚れによってメンテナンスが困難になったり作業環境が悪化することはない。しかしながら、このようなボールネジ機構を採用すると、他の問題が生じてしまう。すなわち、グリースは長時間使用されると劣化して潤滑が不十分になるが、グリース漏出防止シールを備えたボールナットからはグリースが漏出しないので、新しいグリースが給脂されずに内部のグリースは劣化してしまう。グリースが劣化しないように、定期的にグリースを交換することも考えられるが、古いグリースを全て排出して新しいグリースを給脂する場合は、電動射出成形機等の機械を停止して実施しなければならないので、機械の稼働率が低下してしまう。さらには、グリースの排出と給脂の作業は煩雑であり、作業工数もかかってしまう。このようなボールナットに格別にグリース排出口、すなわちドレンを設けて内部のグリースを自然排出させると共に、給脂装置から定期的に定量のグリースを給脂すると、グリース交換は比較的容易に実施できる。しかしながら、自然排出は排出量の制御がなされていないし、またボールナットの内部に封入されているグリース量を外部から確認することも困難である。従って、排出されるグリースが多い場合、気付かないうちに内部に封入されているグリース量が減ってしまい、排出されるグリースが少ない場合は、新しいグリースの供給ができず、グリースは劣化する。
【0010】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、ボールネジ機構におけるグリースの交換方法およびグリース交換装置を提供することを目的としており、具体的には、グリースの漏出防止シールが設けられているボールネジ機構において、内部に封入されているグリースを機械の稼動中でも安全に、適正な量を保持した状態で、一定量のグリースを確実に交換することができる、ボールネジ機構におけるグリースの交換方法およびグリース交換装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、ボールナット内に封入されている、所定期間経過したグリースの所定量を残存させて定量のグリースを強制的に排出し、そして実質的に同量の新しいグリースを供給するように構成される。また、グリースの交換装置は、定量のグリースを排出する定量吸引ポンプと、排出されたグリースと実質的に同量の新しいグリースを供給する定量吐出バルブと、定量吐出バルブに新しいグリースを圧送するグリースポンプとから構成される。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構におけるグリースの交換方法であって、前記ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させて前記ボールナットの下方部から定量のグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入するように構成される。請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の交換方法において、新しいグリースは前記ボールナットの上方部または側面部から注入するように、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の交換方法において、ボールネジまたはボールナットが回転しているときに、グリースを排出し、そして注入するように構成される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構用のグリース交換装置であって、該グリース交換装置は、前記ボールナットの下方部に接続され定量のグリースを排出する定量吸引ポンプと、排出された定量のグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入する定量吐出バルブと、前記定量吐出バルブに新しいグリースを圧送するグリースポンプとからなるように構成される。請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の装置において、前記定量吸引ポンプはエア駆動式のピストンポンプからなり、前記定量吐出バルブの給脂管は前記ボールナットの上方部または側面部に開口するように、そして請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載のグリース交換装置において、該装置は、さらに前記定量吸入ポンプと前記グリースポンプとに指令を出力するコントローラを備え、該コントローラからの指令によって、前記定量吸引ポンプが駆動されてグリースが定量排出された後に、前記グリースポンプが駆動されてグリースが供給されるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によると、ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させてボールナットの下方部から定量のグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入するので、グリースは所定量が確実に交換され、ボールナット内で劣化することはなく、ボールネジ機構が潤滑不良により損傷することはない。また、グリースはボールナットの下方部から排出するので、排出するグリースに空気が巻き込まれることがなく、定量のグリースのみが排出されることになる。そして、同量の新しいグリースを注入するので、ボールナット内に封入されているグリースの量はグリースの交換の前後で変動することがなく、最適なグリース量に維持される。さらには、グリースを排出するとき、ボールナット内のグリースの所定量を残存させるので、グリースの交換中であっても最低のグリース量は確保されており、潤滑に支障を来すことはなく、ボールネジ機構を稼働させることができる。すなわち、24時間の連続稼動が要求されていても、稼動中に安全にグリースを交換することができる。他の発明によると、上記したボールネジ機構に接続されるグリース交換装置は、定量のグリースを排出する定量吸引ポンプと、定量のグリースを供給する定量吐出バルブと、定量吐出バルブに新しいグリースを圧送するグリースポンプとを備えるように構成されているので、従来周知のグリースの給脂装置と比較すると定量吸引ポンプが付加されているだけで、安価にグリース交換装置を提供することができる。さらには、定量吸引ポンプがエア駆動式のピストンポンプからなる発明によると、グリース交換装置をさらに安価に提供することができる。また、定量吸入ポンプとグリースポンプとに指令を出力するコントローラが設けられ、コントローラからの指令によって、定量吸引ポンプが駆動されてグリースが排出された後に、グリースポンプが駆動されてグリースが供給される発明によると、グリースの排出、給脂が連動して自動的に実施されるので、誤操作なく安全にグリースを交換することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ボールネジ機構は、ボールネジ6と、このボールネジ6に複数個のボールを介して螺合しているボールナット3とからなっている。図1に示されている実施の形態によると、ボールナット3は、所定の部材4に固定されて回転が規制され、ボールネジ6が回転駆動され、軸方向に往復動的に駆動されるようになっている。このようなボールナット3の両端部には、ボールネジ6のネジ溝に密着する構造を有するグリース漏出防止シール7、7が設けられている。このシール7、7によりボールナット3の内部に封入されているグリースは、実質的に外部には漏出しないようになっている。さらに、ボールナット3の外周面の上部には、図には示されていないが内部まで達するグリース注入孔が明けられ、このグリース注入孔にグリースを外部から給脂する給脂口8が設けられている。同様にボールナット3の外周面の下部にも、図には示されていないが内部まで達するグリース排出孔が明けられ、このグリース排出孔にはグリースを外部に排出する排出口9が設けられている。
【0016】
本実施の形態に係るグリース交換装置1は、概略的には、ボールナット3内に封入されている古いグリースを強制的に吸引して外部に排出する排出装置11と、新しいグリースをボールナット3内に給脂する給脂装置12と、排出装置11と給脂装置12とに指令を出力するコントローラ13とからなっている。排出装置11は、排出口9からグリースを吸引する吸引管15と、吸引管15に接続され、グリースを強制的に吸引するエア駆動式のピストンポンプ16と、ピストンポンプ16の排出管17に介装されている電磁切換弁18と、ピストンポンプ16と電磁切換弁18とに指令を出力する排出コントローラ19とから構成されている。ピストンポンプ16は、シリンダ21と、シリンダ21内に設けられエアで駆動されるピストン22と、シリンダ21の先端部に設けられている逆止弁23とからなっている。ピストンあるいはピストンロッド22を往復動的に駆動するエア式ピストンシリンダユニット、このピストンシリンダユニットに圧縮空気を給排する空気圧回路等は、図1には示されていない。
【0017】
ピストンポンプ16は、上記のように構成されているので、ピストン22を所定距離だけ後方に引くと、シリンダ21内は負圧になって、逆止弁23が開いて所定量のグリースがシリンダ21内に強制的に吸引され、ピストン22を前方に駆動すると、シリンダ21内が加圧されて逆止弁23が閉じ、シリンダ21内のグリースは排出管17から排出される。電磁切換弁18はワンウェイ電磁弁からなっている。電磁切換弁18がXポジションを採ると、ピストンポンプ16の排出管17は遮断され、Yポジションを採ると、排出管17は使用済みグリース溜25に連通し、グリースをグリース溜25に排出することができる。
【0018】
給脂装置12は、従来周知のように、新しいグリースを加圧して圧送するグリースポンプ31と、グリースポンプ31の吐出口に接続されている圧送管32と、圧送管32に接続されグリースを分配するジャンクション、すなわち集中ブロック34と、集中ブロック34に取り付けられ定量のグリースを吐出する、複数個の従来周知の定量グリース吐出バルブ35、35、…と、定量グリース吐出バルブ35と給脂口8とを接続している給脂管37とからなっている。グリースポンプ31には、新しいグリースが供給可能な状態に維持されており、信号ライン41を介してコントローラ13が接続され、コントローラ13からの指令で駆動されるようになっている。排出コントローラ19にも、信号ライン42を介してコントローラ13が接続され、コントローラ13からの指令で排出装置11が駆動されるようになっている。
【0019】
本実施の形態に係るグリース交換装置1の作用について説明する。初期状態においては、図1においてボールナット3の一部が断面で示されているように、ボールナット3の内部には、空隙の40〜60%だけグリース43が封入されている。このようなグリース43は、機械が稼動してボールネジ6が回転中であっても比較的下方に滞留している。従って、ボールナット3の下部に設けられている排出口9からグリース43を吸引するとき、吸引されるグリース量が多くなければ、グリースに空気が混入するようなことはない。
【0020】
機械の稼動時間が所定時間、例えば数ヶ月を経過したら、グリースを交換する。コントローラ13は排出コントローラ19に指令を出力する。指令を受けた排出コントローラ19は最初に電磁弁18をXポジションに切り換える。排出管17が遮断される。次いで、排出コントローラ19からの信号によりピストンポンプ16が駆動され、図2の(ア)に示されているように、ピストン22は設定距離だけ矢印Y1の方向に駆動される。そうすると、シリンダ21内は負圧になって、逆止弁23が開いて、ボールナット3の内部の古いグリース43が吸引管15を経由してシリンダ21内に吸引される。このとき、ボールナット3の内部には、吸引前のグリース量の少なくとも1/3以上、好ましくは1/2以上のグリース43が残存するように実施する。このような量を残して吸引するので、シリンダ21内に吸引されるグリースには空気はほとんど巻き込まれていない。吸引されるグリースに空気は含まれておらず、ピストン22を引く距離は一定であるので、吸引されるグリース43'は定量になる。なお、ボールナット3の内部のグリースの残存量は、直接計量することはできないので、吸引されるグリース43’の量は、予めボールナット3内に封入されているグリース量を考慮して決定される。次に、排出コントローラ19からの信号により、図2の(イ)に示されているように、切換弁18をYポジションに切り替わる。そうすると、排出管17が使用済みグリース溜25に連通する。最後に排出コントローラ19からの信号により、ピストン22は、図2の(ウ)に示されているように、矢印Y2の方向に駆動される。そうすると、シリンダ21内は加圧されて逆止弁23は閉じ、シリンダ21内のグリース43'は排出管17を経由して使用済みグリース溜25に排出される。排出コントローラ19からコントローラ13にグリースの排出の完了が通知される。
【0021】
コントローラ13からの信号により、グリースポンプ31が起動する。そうすると、グリースは圧送管32を経由して集中ブロック34に圧送される。集中ブロック34において分配されたグリースは定量グリース吐出バルブ35から吐出される。吐出量は定量であり、排出装置11で排出されたグリース量と実質的に同量である。吐出されたグリースは給脂管37および給脂口8を経由してシリンダ3内に注入される。これにより、グリースの交換が完了する。なお、集中ブロック34には複数個の定量グリース吐出バルブ35、35、…が接続されているので、図に示されていない他のボールネジ機構にも同時に給脂することができる。
【0022】
グリースがボールナット3内から排出された直後であっても、グリースはボールナット3内に少なくとも1/3以上残存しているし、給脂も速やかに実施されるので、その間の潤滑には支障がなく機械を停止する必要はない。従って、グリースの交換は稼動中でも実施できる。グリースは1/3以上、好ましくは1/2以上残存した状態で交換されるので、古いグリースも残存するが、新しいグリースが給脂されるし、次回にも所定量のグリースが交換されるので、グリースが劣化してしまうことはない。グリースの排出と給脂とは、実質的に同量になるように実施されるが若干の誤差が生じる可能性もある。しかしながら、ボールネジ機構の寿命は数年であるので、数ヵ月毎にグリースの交換を実施しても、ボールネジを交換するまでに実施するグリースの交換回数は多くはない。従って、グリースの交換の度に排出量と給脂量との誤差が累積しても、ボールナット3内に封入されているグリース量の変動は小さく、潤滑には支障を来たすようなことはない。
【0023】
本発明の実施の形態に係るグリース交換装置1は、上記実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、コントローラ13と排出コントローラ19とは独立した2個のコントローラであるように説明されているが、1個のコントローラから構成されていてもよい。このようにすると、グリース交換装置をさらに安価に提供することができる。また、ピストンポンプ16とグリースポンプ31とは、コントローラ13等によって制御されるように説明されているが、それぞれ手動で駆動するようにしてもよい。また、給脂装置12についても変形が可能である。例えば、本実施の形態においては給脂装置12には集中ブロック34が設けられて複数個の定量グリース吐出バルブ35、35、…が接続されて、図には示されていない他のボールネジ機構にも給脂されるようになっているが、これを変形して1本の定量グリース吐出バルブ35に接続して、1個のボールナット3のみに給脂するように構成することもできる。さらには、圧送管32から複数本の分岐管を分岐させ、それぞれの分岐管に開閉弁を介装し、そして定量グリース吐出バルブ35、35、…を接続してもよい。このように実施すると、開閉弁を操作してグリースの給脂対象のボールネジ機構を任意に選択できる。また、上記実施の形態では、新しいグリースはボールナット3の上方部から供給されるようになっているが、下方から供給するようにしても良い。このときは、切替弁を設けるなどして、給排口を共用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態に係るグリース交換装置を模式的に示す平面図である。
【図2】本実施の形態に係るグリース交換装置の排出装置を示す図で、その(ア)〜(ウ)はそれぞれ異なる作用状態にある排出装置を示す平面図である。
【図3】従来のグリース給脂装置を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 グリース交換装置 3 ボールナット
6 ボールネジ 7 グリース漏出防止シール
8 給脂口 9 排出口
13 コントローラ 16 ピストンポンプ
18 切換弁 23 逆止弁
31 グリースポンプ 34 集中ブロック
35 定量グリース吐出バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構におけるグリースの交換方法であって、
前記ボールナット内に封入されているグリースの所定量を残存させて前記ボールナットの下方部から定量のグリースを強制的に排出し、そして排出したグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入することを特徴とする、ボールネジ機構におけるグリースの交換方法
【請求項2】
請求項1に記載の交換方法において、新しいグリースは前記ボールナットの上方部または側面部から注入する、ボールネジ機構におけるグリースの交換方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の交換方法において、ボールネジまたはボールナットが回転しているときに、グリースを排出し、そして注入する、ボールネジ機構におけるグリースの交換方法。
【請求項4】
ボールネジと、該ボールネジに複数個のボールを介して螺合しているボールナットとからなり、前記ボールナット内に潤滑用のグリースが封入され、その両端部がシールされているボールネジ機構用のグリース交換装置であって、
該グリース交換装置は、前記ボールナットの下方部に接続され定量のグリースを排出する定量吸引ポンプと、排出された定量のグリースと実質的に同量の新しいグリースを前記ボールナット内に注入する定量吐出バルブと、前記定量吐出バルブに新しいグリースを圧送するグリースポンプとからなることを特徴とする、ボールネジ機構用のグリース交換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、前記定量吸引ポンプはエア駆動式のピストンポンプからなり、前記定量吐出バルブの給脂管(37)は前記ボールナットの上方部または側面部に開口していることを特徴とする、ボールネジ機構用のグリース交換装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載のグリース交換装置において、該装置は、さらに前記定量吸入ポンプと前記グリースポンプとに指令を出力するコントローラを備え、該コントローラからの指令によって、前記定量吸引ポンプが駆動されてグリースが定量排出された後に、前記グリースポンプが駆動されてグリースが供給されることを特徴とする、ボールネジ機構用のグリース交換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−48292(P2010−48292A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211417(P2008−211417)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】