説明

ボールバルブ

【課題】簡単な構造で、弁体の全ての回転角においてシートリングと流体流路の内周壁との間でこじりが発生することを確実に防止できるボールバルブの提供。
【解決手段】 ハウジング内に、球面の一部で構成された環状の凸シール面を有する弁体を回転自在に配し、同一球面の一部で構成されるとともに前記凸シール面に摺動する環状の凹シール面を有するシートリングを前記弁体の回転軸と直行する方向に弾性保持(フローティング支持)するボールバルブにおいて、シートリングの弁体側部に弁体の回転軸に係止する係止部材を付設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体の流路の開閉に使用されるボールバルブにかかわり、とくに内燃機関の排気ガスを吸気側に再循環させる再循環(EGR)流量の制御に好適なボールバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
球面の一部で構成された環状の凸シール面を有する弁体と、同一球面の一部で構成されるとともに前記凸シール面と接合してシール面を形成する環状の凹シール面(弁座)を備えた筒状のシートリングと、を組み合わせたボールバルブが公知である(特許文献1)。このシートリングは、流体流路の軸方向に弾性保持(フローティング支持)され、弁体の回転軸とは直交配置されている。凸シール面と凹シール面との摺動位置(当接位置またはスラストの作用位置)は、弁体の開閉動作に伴いシール面の周辺と中心との間を揺動する。この揺動にともない、シートリングは、中心軸から偏った位置にスラストを受け、かつ摺動による摩擦力が球面の接線方向に作用する。このため、シートリングが嵌め込まれた流体流路の内周壁との間でこじりが生じ、作動不良の原因となりやすい。
【0003】
特許文献1に記載の発明では、シートリングが弁体側に軸方向移動(スライド)することを規制する規制部材を設け、こじりの発生を低減させている。しかしながら、規制部材でシートリングの移動が規制されるまでの間は、こじりの発生を完全には防止できない。また、移動が規制されたあとは、弁体の回転角と弁開度との適正な調節が困難となり、急激に弁開度が増大する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−344803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、簡単な構造で、弁体の全ての回転角においてシートリングと流体流路の内周壁との間でこじりが発生することを確実に防止できるボールバルブの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ハウジング内に、球面の一部で構成された環状の凸シール面を有する弁体を回転自在に配し、同一球面の一部で構成されるとともに前記凸シール面に摺動する環状の凹シール面を有するシートリングを前記弁体の回転軸と直交する方向に弾性保持(フローティング支持)するボールバルブにおいて、シートリングの弁体側部に弁体の回転軸に係止する係止部材を付設したことを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、弁体の回転軸に、係止部材が該回転軸方向に移動することを阻止するガイド部材を取り付けている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明では、シートリングの端部など弁体側部に弁体の回転軸に係止する係止部材を付設している。このため、シートリングの端部が回転軸と直交する方向にぶれることが阻止できる。この結果、弁体の全ての回転角においてシートリングと流体流路の内周壁との間でこじりが発生することを確実に防止できる。
【0009】
請求項4に記載の発明では、ガイド部材により係止部材が該回転軸方向に移動することを阻止しているので、シートリングの端部が回転軸と直交する方向および回転軸方向のいずれの方向にもぶれることが阻止できる。これにより、シートリングの摺動面の偏摩耗、シートリングに加わる振動などにより、シートリングと流体流路の内周壁との間でこじりが発生することも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1にかかるボールバルブの正面断面図である。
【図2】実施例1にかかるボールバルブの平面断面図である。
【図3】実施例2および実施例3にかかるシートリングの正面断面図および右側面図である。
【図4】弁軸に装着する係止部材の装着図である。
【図5】ガイド手段の実施例を示す正面図である。
【図6】ガイド手段の他の実施例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明を実施するための形態を、図に示す実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、この発明にかかるボールバルブ1の正面図を示し、エンジンの排気路と吸気路とを連結して排気ガスの一部を吸気側に再循環(EGR)するための排気ガス再循環路10に介装されている。ボールバルブ1はハウジング2を備えており、ハウジング2には排気ガス再循環路10の一部を構成する円筒状のガス流路(流体流路)21が設けられている。ガス流路21は、一端(図示右端)22がエンジンの吸気路に連通した排気ガスの下流側、他端(図示左端)23がエンジンの排気路に連通した上流側となっている。ボールバルブ1は、エンジンの運転条件に合わせて再循環させるガス流量を調整する作用を有する。
【0013】
ハウジング2内には、ガス流路21を開閉するための弁体3と、弁口(弁座)を形成する円筒状のシートリング4とが配設されている。ハウジング2の図示上端には、弁体3を駆動するためのアクチュエータ11が装着されている。弁体3は、ガス流路21を貫通してハウジング2に両端が軸支された弁軸31と、弁軸31に締結手段としてのねじ32により締結された円板状の弁板33とからなる。弁板33の外周は、弁軸31の上に中心Gを有する球面を、中心線Lと直交する2つの平行面で切断した環状の凸シール面34(図2参照)となっている。なお、弁板33は、ねじ32以外の固着手段により弁軸31に固着されていてもよい。
【0014】
弁軸31は、図1に示す上端部がアクチュエータ11に連結され、アクチュエータ11により図2に示す右回りに回動して開弁する。図2に示すボールバルブ1の平面断面図の如く、弁体3の弁板33は、一点鎖線で図示する閉弁(弁開度ゼロ、回転角θ=0)の状態から右周りに回転(開弁)し、二点鎖線で図示する回転角θ=90度(全開)まで回動する。凸シール面34は、回転角θ=0のときガス流路21の中心線L上に中心軸を有する。
【0015】
ガス流路21の内周には、シートリング4が軸方向への変位ないし移動(スライド)可能に遊び嵌めされている。シートリング4の外周には内周突条5が設けられている。シートリング4の上流側にはシートリング4を図示左方に付勢する付勢手段6が設置されている。
【0016】
シートリング4は、図3に示す如く円筒状を呈し、一端につば部41、中間に小外形部42、他端には径大部43が設けられている。径大部43の他端面には、バネ室を形成するための筒部44が形成されている。つば部41からは、この発明の要旨である係止部材7が突設されている。この実施例では、係止部材7は、つば部41の左右両側部に弁軸31の回転面内に突設された一対ずつ計4本のピン71からなる。一対のピン71、71の隙間70は、弁軸31を摺動可能に挟持できる寸法に設定されている。シートリング4は、一端の内周に凸シール面34(図2に示す)に当接する弁座としての凹シール面47が周設されている。
【0017】
内周突条5は、弁軸31および弁板33の外周に位置するテーパー状の拡開部51、その上流側の小内径部52、および段部53からなる。この実施例では、内周突条5はガス流路21の内周を内側に膨出させて突条として形成されているが、リング状の別体をガス流路21の内周に嵌め込んで形成されてもよい。
【0018】
付勢手段6は、ガス流路21の他端側内周に嵌め込まれて固定された矩形断面を有する円環状の支持部材61と、この支持部材61と径大部43の他端面との間に介装された弾性体としてのバネ62とからなる。小内径部52と小外形部42との間には、断面が横U字形の円筒状リップシール63が介装されている。円筒状リップシール63は、弾性体であり、外筒部64が小内径部52の内周壁に当接し、内筒部65が小外形部42に当接して配され、シートリング4をガス流路21の内周壁に弾性支持している。すなわちシートリング4は、付勢手段6および円筒状リップシール63により、ガス流路21内に、軸方向および半径方向に弾性支持またはフローティング支持されている。
【0019】
バネ62は、この実施例では円環板状のウェイブスプリングであり、シートリング4の他端側に形成した筒部44に嵌め込まれている。バネ62は、一端が径大部43の他端面に当接し、他端が支持部材61に当接し、シートリング4を図示右方向に付勢している。弾性体としてのバネ62は、コイルスプリング、皿バネなど他の構造のバネであっても良く、Oリングなどバネ以外の弾性体であってもよい。
【0020】
図2とともに、ボールバルブ1の作動を説明する。一点鎖線の弁板33は回転角θ=0(全閉)の状態の弁体3およびシールリング4の位置関係を示す。回転角θ=0のとき、凸シール面34と凹シール面47とは、全周で接触し接触面積は最大となっており、付勢手段6(バネ62)による当接面の面圧は最低値となっている。
【0021】
回転角θが増大するに伴い、凸シール面34は回動しながら凹シール面47と摺動し、回転角θが小さい間は、接触面(摺動面)は図示上側およひ下側が幅が徐々に狭くなり、さらに回転角θが増大すると、図示上端または下端のいずれか一方または双方の位置に隙間ができ、開口(開弁)して、ガスが流れ始める。
【0022】
シートリング4の凹シール面47と、弁体3の凸シール面34との接触位置(摺動位置)が、開弁当初(回転角θ=0)は図示中央位置(弁軸と同位置)から回転角θの増大に伴い図示上方に移動する。さらに回転角θが増大して弁板33が二点鎖線で示す回転角θ=90度位置(弁板33が中心軸Lと平行となる位置)に達すると、図示Aの位置まで移動する。この位置では、シートリング4は、一端面に中心線Lの位置に対して距離Cだけ偏心した位置から矢印Kの方向にスラストを受ける。
【0023】
このため、シートリング4にはモーメントが加わり、ガス流路21の内周壁とこじりが生じ易い。また、凸シール面34と凹シール面47との接触面の摺動により、中心Gを有する球面の接線方向に摩擦力を受けることによってもシートリング4にはモーメントが加わり、同様に流路21の内周壁にこじりが生じる。シートリング4が流路21の内周壁にこじれると、摩耗して耐久性が低下するほか、凸シール面34と凹シール面47との接触面の機密性が低下する。
【0024】
この発明では、係止部材7である一対のピン71、71が、弁軸31を挟持している。このため、スラストの作用点の偏心または摺動面に加わる摩擦力によりシートリング4に加わるモーメントは、一対のピン71、71により受け持たれる。これにより、回転角θの全範囲において、シートリング4が流路21の内周壁にこじれることを確実に阻止できる。
【0025】
図4は、係止部材7の他の実施例を示す。図4の(イ)は、係止部材7を、つば部41の左右の一端面に突設した横V字形に配された一対の傾斜ピン73、73で形成している。一対の傾斜ピン73、73の間に弁軸31が挟持され、実施例1と同様の作用、効果を奏する。図4の(ロ)は、係止部材7を、つば部41の左右の一端面に固着した略C字形の係止具72で構成している。略C字形の係止具72は、弁軸31に外嵌めされ、実施例1と同様の作用、効果を奏する。
【0026】
図5は、この発明のボールバルブ1の実施例2を示す。この実施例では、弁軸31に係止部材7の弁軸31の軸方向(流路21の中心軸と直交方向)への移動を阻止するCリング状のガイド手段8を固着している。ガイド手段8は、図5の(イ)に示す如く、ピン71、71の両側を支持するもの、図5の(ロ)に示す如くピン71、71の内側のみを支持するもの、さらにはピン71、71の外側のみを係止するもののいずれであってもよい。
【0027】
この実施例2では、シートリング4を上下方向と左右方向とに保持でき、スラストの左右不均一、摩擦の左右不均一、または振動によるアンバランスな外力に対しても、シートリング4のこじりを確実に防止できる利点がある。なお、ガイド手段8の構造は、円環、糸巻、コ字形のなどの部材を弁軸31に付設してもよく、図6に示すごとく弁軸31の外周に係止部材7が係合する溝81または突条を設けてもよい。また、係止部材7は、シートリング4の構造により端面以外の位置に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明のボールバルブ1は、シートリング4に弁軸31に係止する係止部材7を設けているので、シートリング4が流路21の内周壁にこじれることが防止でき、耐久性に優れる。
【符号の説明】
【0029】
1 ボールバルブ
2 ハウジング
3 弁体
30 シール面
31 弁軸
33 弁板
34 凸シール面
4 シートリング
47 凹シール面(弁座)
6 付勢手段
7 係止部材
8 ガイド手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの流体流路に、球面の一部で構成された環状の凸シール面を有する弁体を回転自在に配し、略同一球面の一部で構成されるとともに前記凸シール面に摺動する環状の凹シール面を有するシートリングを弾性保持したボールバルブにおいて、前記シートリングに弁体の回転軸に係止して該シートリングのぶれを阻止する係止部材を付設したことを特徴とするボールバルブ。
【請求項2】
前記係止部材は、前記シートリングの端面に設けられ、前記弁軸を挟持する挟持部材であることを特徴とする請求項1に記載のボールバルブ。
【請求項3】
前記挟持部材は、左右一対のピンからなることを特徴とする請求項2に記載のボールバルブ。
【請求項4】
ハウジングの流体流路に、球面の一部で構成された環状の凸シール面を有する弁体を回転自在に配し、略同一球面の一部で構成されるとともに前記凸シール面に摺動する環状の凹シール面を有するシートリングを弾性保持したボールバルブにおいて、前記シートリングに弁体の回転軸に係止して該シートリングのぶれを阻止する係止部材を付設し、前記回転軸に前記係止部材の該回転軸の軸方向への変位を阻止するガイド手段を設けたことを特徴とするボールバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163423(P2011−163423A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26085(P2010−26085)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】