説明

ポジ型感光性組成物およびこれを用いたレジストパターン形成方法

【課題】紫外線、エキシマレーザー光、電子線等を使用する半導体素子等の微細加工における性能向上技術の課題を解決することであり、高感度かつ高解像性、良好なパターン形状を満足するポジ型感光性組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、高エネルギー線の照射により酸を発生する酸発生剤と、分子内にオキサノルボルナジエン骨格、特にオキサベンゾノルボルナジエン骨格を有し、酸発生剤から生じた酸により異性化されるマトリックス成分と、を含んで成ることを特徴とするポジ型感光性組成物を提供する。かかる発明においては、レジスト材料の極性変化の際に、脱保護反応ではなく、オキサノルボルナジエン類からフェノール類への異性化反応、特にオキサベンゾノルボルナジエン類からナフトール類への異性化反応が利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI等のマイクロリソグラフィープロセスに好適に用いられる感光性組成物に係り、更に詳しくは高エネルギー線を使用して高精細化したレジストパターンを形成し得るポジ型感光性組成物およびこれを用いたレジストパターン形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体デバイスの製造プロセスにおいては、フォトレジスト組成物を用いたリソグラフィーによる微細加工が行われている。近年、集積回路の高集積化に伴い、サブミクロン領域の超微細パターン形成が要求されるようになってきており、それに伴って露光波長もg線、i線からKrF、ArFエキシマレーザー光へ、というように短波長化されてきている。現在では、次世代のリソグラフィー技術としてエキシマレーザー光以外にも、電子線やX線、あるいはEUV光を用いたリソグラフィーも開発が活発に進められている。
特に電子線およびEUVリソグラフィーは、次世代のリソグラフィープロセスとして位置付けられており、高感度、高解像性を目指して活発に研究開発が行われている(例えば、下記の特許文献1〜6)。
上記プロセスは高真空下で行われるため、レジスト材料から発生するアウトガスの問題が非常に深刻である。露光装置の光学系の汚染を最小限にするためにも脱ガスの少ない材料開発は非常に重要な課題である。
【0003】
【特許文献1】特開2002−131908号公報
【特許文献2】特開2002−202601号公報
【特許文献3】特開2002−236354号公報
【特許文献4】特開2002−311585号公報
【特許文献5】特開2003−5355号公報
【特許文献6】特開2004−62044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レジスト材料によるパターン形成は、高エネルギー線の照射により材料のマトリックス成分が化学変化を起こし、アルカリ水溶液や有機溶剤に対する溶解性が変化することを利用している。一般に、マトリックス成分の化学変化には水酸基或いはカルボキシル基に保護基をかけた化合物の脱保護反応が利用されているが、脱保護によってマトリックス成分から脱離する保護基由来のガス成分が露光装置を汚染することが大きな問題となっている。脱ガス特性に優れたレジスト材料として、極性変化用保護基に嵩高く揮発性の少ない化合物を用いた例(2005年日本化学会年会春季年会講演 3K403)も報告されているが、かかる例はアセタールの加水分解によるアセトアルデヒドの発生が避けられないため、脱ガス特性が必ずしも良好でないことが問題となっている。
【0005】
従って、本発明の目的とするところは、紫外線、エキシマレーザー光、電子線等の高エネルギー線を使用する半導体素子の微細加工における性能向上技術の課題を解決することであり、レジスト材料からの脱ガスの発生がなく、高感度、良好なパターン形状を満足するポジ型感光性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、従来技術の課題は、オキサノルボルナジエン骨格、特にオキサベンゾノルボルナジエン骨格を有するマトリックス成分を含むポジ型感光性組成物によって解決されることを見いだした。すなわち、本発明は、高エネルギー線の照射により酸を発生する酸発生剤と、分子内にオキサノルボルナジエン骨格、特にオキサベンゾノルボルナジエン骨格を有し、酸発生剤から生じた酸により異性化されるマトリックス成分と、を含んで成ることを特徴とするポジ型感光性組成物を提供する。かかる発明においては、レジスト材料の極性変化の際に、脱保護反応ではなく、オキサノルボルナジエン類からフェノール類への異性化反応、特にオキサベンゾノルボルナジエン類からナフトール類への異性化反応が利用される。
【0007】
また、前記構成における、オキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分として、下記の一般式(1)で表される化合物を用いたものである。但し、式(1)中、Xはヒドロキシフェニル基を有する多価フェノール残基、Yは−C(=O)−で表されるカルボニル基または−CH2−で表されるメチレン基を示す。Yはオキサベンゾノルボルナジエン骨格の2位または3位のいずれかに結合する。Zは水素原子、あるいはXとエステル基またはエーテル基を介して結合されるフラン環を示す。R1〜R4は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。nは1〜3の整数を示す。
【化1】

【0008】
また、前記構成における、一般式(1)中の多価フェノール残基Xとして、α,α,α'−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンの残基、1,1,1 −トリス(4−ヒドロキシフェニル)−メタンの残基、または1,1,1 −トリス(4−ヒドロキシフェニル)−エタンの残基のいずれかひとつを用いたものである。
【0009】
そして、上記構成における、オキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分として、下記一般式(2)で表される化合物を用いたものである。但し、式(2)中、Yは−C(=O)−で表されるカルボニル基或いは−CH2−で表されるメチレン基を示し、オキサベンゾノルボルナジエンおよびフラン環の2位または3位のいずれかに結合する。R5〜R12は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。p,m,lはそれぞれ1以上の整数であり、p+m+l≦1000である。
【化2】

【0010】
更に、前記の各構成における酸発生剤として、芳香族系化合物のスルホニウム塩またはヨードニウム塩のいずれかを用いたものである。
【0011】
そして、本発明に係るレジストパターン形成方法は、前記各構成のポジ型感光性組成物の膜を基板上に形成する工程と、所望パターンに対応して前記膜に高エネルギー線を照射する工程と、高エネルギー線を照射された膜を現像液を用いて現像する工程とを含んで成るものである。
【0012】
また、前記レジストパターン形成方法における高エネルギー線として電子線を用いたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、レジスト材料の極性変化の際に、脱保護反応ではなく、オキサノルボルナジエン類からフェノール類への異性化反応、特にオキサベンゾノルボルナジエン類からナフトール類への異性化反応を利用していることから、従来技術のような脱保護基によるアウトガスの発生がなく、特に脱ガス特性に優れたレジスト材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施形態を詳細に説明する。
まず、本発明において使用するマトリックス成分は、分子内にオキサノルボルナジエン構造を有する化合物である。
【0015】
前記したオキサノルボルナジエン構造を有する化合物を下記の一般式(3)に示す。式(3)中で、R15およびR16はアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、またはシアノ基のいずれかひとつを示し、R15およびR16が飽和炭素結合乃至不飽和炭素結合を通じて環構造を形成していてもよい。但し、合成方法の容易なアルコキシカルボニル基やシアノ基等の電子吸引基を有する化合物や環構造として芳香環を有する化合物がより望ましい。R13およびR14は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、アルコキシカルボニル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。
【化3】

【0016】
オキサノルボルナジエン類は、酸触媒の存在下で、対応するフェノール類に容易に変換される。フェノール類は酸性度の高いヒドロキシル基を有していることから、レジスト材料の現像液として利用されているアルカリ水溶液に可溶となる。すなわち、オキサノルボルナジエンからフェノールへの異性化反応を利用することで、脱保護による脱ガスを一切発生させることなしに、レジスト材料の極性変換を行うことが可能となる。
このようなオキサノルボルナジエン類は公知の方法、例えばフラン類とアセチレン誘導体を用いたディールズアルダー反応を利用した合成方法(非特許文献:J.Am.Chem. Soc, 2001, 123, 5213-5220参照)によって容易に合成される。
【0017】
本発明で使用されるオキサノルボルナジエン類の内、特に好ましいものとして一般式(3)においてR15およびR16が芳香環を形成しているオキサベンゾノルボルナジエン類を挙げることができる。
前記したオキサベンゾノルボルナジエン類は一般式(4)に示されるベンゼン環を含む三環性の化合物の総称である。式(4)中で、ベンゼン環上の置換基R19〜R22は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、カルボキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。また、置換基R17および置換基R18は水素原子、アルキル基、カルボキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。
【化4】

【0018】
このオキサベンゾノルボルナジエン類は、酸触媒の存在下で、対応するナフトール類に容易に変換されることが知られている。ナフトール類は酸性度の高いヒドロキシル基を有していることから、レジスト材料の現像液として利用されているアルカリ水溶液に可溶となる。すなわち、オキサベンゾノルボルナジエン類からナフトール類への異性化反応を利用することで、脱保護により生じるガスを一切発生させることなしに、レジスト材料の極性変換を行うことが可能となる。
このようなオキサベンゾノルボルナジエン類は公知の方法を用いて容易に合成することができる。すなわち、フラン類とベンザイン類を用いたディールズアルダー反応を利用した合成方法(非特許文献:J.Am.Chem. Soc, 2001, 123, 5213-5220; Org. Lett., 2004, 6, 1589-1592; Org. Lett., 2004, 6, 3581-3584; Angew. Chem. Int Ed. 2004, 43, 4364-4366参照)を例示することができる。ベンザイン類は非常に高活性な化合物であるため、これらを如何に効率よく調製するかが鍵となるが、これも文献公知の方法(非特許文献: J. Org.Chem., 1988, 53, 5595-5596; J. Org.Chem., 1990, 55, 929-935; J. Org.Chem., 2001, 66, 2932-2936参照)を利用することで可能である。
【0019】
請求項3に係る発明のマトリックス成分における中心成分に望ましい化合物として、高分子系化合物ではポリヒドロキシスチレン類、ポリアクリル酸エステル類等が挙げられ、単一の分子量を有する化合物では少なくとも3つ以上のフェノール性水酸基を有する多価フェノール類が挙げられる。
前記の高分子系化合物では、オキサノルボルナジエン類との結合の容易さを考慮すると、ポリヒドロキシスチレン類が望ましい。このようなポリヒドロキシスチレン類としては、下記の一般式(5),(6),(7)で表されるものを利用することができる。また、式(5),(6),(7)で表される化合物の共重合体も利用することができる。式(5),(6),(7)において、R23〜R34は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子のいずれかを示す。qは一般式(2)中のp+m+lの数であり1000以下の整数である。
【化5】

【0020】
一方で近年、ナノメーターオーダーの加工においては分子量のバラツキがパターン荒さに影響を及ぼすことが指摘されており、このような観点から材料設計を行う場合には単一の分子量を有する化合物が望ましい。一般に、単一の分子量を有する低分子化合物は結晶性を示しやすいことから、製膜性にすぐれたアモルファス材料とするためには、分子量がある程度大きく且つ非平面構造をとりやすい構造が好ましい。また、良好な耐熱性を保有するためには剛直な骨格を有することが望ましい。
このような構造を有する多価フェノール類として具体的には、それぞれ単一分子からなる、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、 1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α,α'−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル4−イソプロピルベンゼン、カリックスアレーン類、カリックスレゾルシナレン類、エラグ酸等が、より望ましい化合物として挙げられる。
【0021】
また、中心骨格である多価フェノール類と、末端に存在するオキサノルボルナジエン類との結合には、エステルあるいはエーテル結合が利用される。但し、現像液として強いアルカリ溶液を利用する場合は、結合部分の加水分解を抑えるという観点からエーテル結合を利用することが望ましい。
本発明のマトリックス成分のうち、オキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分の合成方法としては、中心骨格となる多価フェノール類とフラン環を結合させた後にベンザイン類と反応させる方法と、予めフラン環とベンザイン類とを反応させオキサベンゾノルボルナジエン類を合成し、続いて多価フェノール類と反応させる方法とを例示することができる。但し、オキサベンゾノルボルナジエン類の安定性を考慮すれば、前者の合成方法がより望ましい。
【0022】
ここで、上記のオキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分として特に望ましい化合物をA−1〜A−8として以下に挙げるが、本発明においては、これらの化合物に限定されるものではない。
【化6】

上記したマトリックス成分A−1〜A−8は分子全体でみるといずれも新規な化合物である。
【0023】
そして、本発明に用いる酸発生剤は高エネルギー線の照射により酸を発生する。ここで、高エネルギー線とは、例えば紫外線、波長150〜250nmのエキシマレーザー光、電子線 、X線、EUV光等をいう。かかる酸発生剤は公知の化合物を適宜選択して使用することができるが、発生する酸の酸強度が高く且つ毒性の低いものとしてスルホン酸発生剤が好ましい。このスルホン酸発生剤は高エネルギー線の照射によりスルホン酸またはトリフルオロメタンスルホン酸を発生する化合物である。
このような酸発生剤としては、例えば芳香族系化合物のジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等を挙げることができるが、これらの中で特に好ましい化合物としてはスルホニウム塩及びヨードニウム塩である。
【0024】
具体的に、前記のスルホニウム塩としては、トリフェニルスルフォニウム トリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル−4−メチルフェニルスルフォニウム トリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル−2,4,6−トリメチルフェニルスルフォニウム p−トルエンスルフォネート、(4−フェノキシフェニル)ジフェニルスルフォニウム トリフレート、トリ−p−トリルスルフォニウム トリフルオロメタンスルホネート、(4−メチルチオフェニル)メチルフェニルスルフォニウム トリフレート、tert−ブトキシカルボニルメトキシナフチル)−ジフェニルスルフォニウム トリフレート等が挙げられる。
また、前記のヨードニウム塩としては、例えばジフェニルヨードニウム−9,10−ジメトキシアントラセン2−スルフォネート、ジフェニルヨードニウムp−トルエンスルフォネート、ジフェニルヨードニウム トリフレート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム トリフルオロメタンスルホネート、 ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム p−トルエンスルフォネート等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用される酸発生剤の添加量は、ポジ型感光性組成物全体量に対し1〜40重量%が好ましく、特に3〜20重量%がより好ましい。すなわち、アルカリ溶剤に対して充分な溶解性を得るという観点から1重量%以上が望ましく、良好な薄膜形成という観点から40重量%以下が望ましい。本発明において、酸発生剤は単独で用いてよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
また、本発明では、リソグラフィー性能向上や保存安定性向上の観点から、含窒素塩基性化合物を用いることができる。かかる含窒素塩基性化合物としては、例えば2,4,5−トリフェニルイミダゾール、1,5−ジアザビシクロ{4,3,0}ノナ−5−エン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ{5,4,0}ウンデカ−7−エン、N−シクロヘキシル−N'−モルホリノエチルチオウレア、トリオクチルアミン等、公知のものを幅広く用いることができる。
【0027】
本発明のポジ型感光性組成物は、含有成分を溶解可能な溶媒に溶かした状態で基板上に塗布されてレジスト膜を形成する。ここで使用する溶媒としては、例えばシクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン メチルエチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、クロロホルム等が挙げられ、これらの溶媒を単独または混合して使用することができる。
【0028】
本発明のポジ型感光性組成物を用いたレジストパターン形成方法は、一般的に広く行われているレジストパターン形成方法でよい。すなわち、ポジ型感光性組成物の膜を基板上に形成する工程と、所望パターンに対応して前記膜に高エネルギー線を照射する工程と、高エネルギー線を照射された膜を現像液を用いて現像する工程とを含む。まず、膜形成工程としては、ポジ型感光性組成物が基板(シリコン/二酸化シリコン被膜の積層基板、ガラス基板、窒化シリコン基板、窒化チタン基板等)上に、直接に、あるいは予め基板上に塗設した反射防止膜を介して塗布された後、ホットプレート上で乾燥されてレジスト膜が形成される。次に、照射工程として、高エネルギー線を光源とし直接またはマスクを介して所望パターンに対応する照射が行われる。そして、現像工程として、ホットプレートによる60〜120℃の加熱が行なわれた後、現像液を用いたレジスト現像処理、リンス処理、ホットプレートを用いた乾燥処理が順次なされてレジストパターンが形成される。照射工程で用いる高エネルギー線としては、マトリックス成分となる化合物に吸収されにくく反応に使用されやすい点で紫外線または電子線が好ましく、特に電子線は本発明のマトリックス成分によるエネルギー吸収が少ないためより好ましい。
【0029】
上記の現像工程で使用される現像液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩の水溶液や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドやテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩の水溶液を利用することができる。これらのなかで特に好ましいものは、比較的入手しやすく無機塩と比べて金属分が混入しにくいテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液である。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明の内容がこれらの実施例により限定されるものではない。
「実施例1:下記化学式(A−1)で表されるマトリックス成分の合成」
【化7】

α,α,α'−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン 3.4g、トリフェニルフォスフィン 7.4g、3−フランメタノール(2.28ml)のトルエン(40ml)溶液に、氷冷下でジイソプロピルアゾジカルボキシレート(40%トルエン溶液)16.4mlをゆっくり滴下した。滴下終了後、氷浴をはずし室温で一昼夜撹拌した。析出した固体を濾過した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、α,α,α'−トリス(4−(3−フリルメトキシ)フェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン 3.3gを得た。
α,α,α'−トリス(4−(3−フリルメトキシ)フェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン(860mg)のジクロロメタン(50ml)溶液に、氷冷下で、1−アミノベンゾトリアゾール(1.2g)のジクロロメタン(20ml)溶液、および四酢酸鉛(3.96g)のジクロロメタン(20ml)溶液を同時にゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で一時間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、さらに抽出溶媒として酢酸エチルを加えた。有機層を洗浄、乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより精製物 690mgを得た。得られた精製物は以下の構造解析結果から、マトリックス成分A−1(ジアステレオマー混合物)であると同定された。
1H NMR(400MHz, CDCl3)δ 6.72-7.24 (28H, m), 5.75 (3H, brs), 5.68 (3H, br
s), 4.73 (3H, d, J=12.0Hz), 4.67 (3H, d, J=12.0Hz), 2.07(3H,s),1.63(6H,s);13CNMR(100MHz,CDCl3)δ156.32,156.18,153.82,153.73,148.84,148.17,146.35,143.28,14
2.05,137.86,137.76,129.61,128.04,127.74,126.03,125.26,124.99,120.35,119.94,113.91,113.68,82.90,82.84,64.45,64.41,50.82,41.87,30.83,30.56;ESI-TOF-MS m/e calcd for [M+Na]+ C62H52NaO6 915.4 found, 915.4.
【実施例2】
【0031】
「実施例2:下記化学式(A−2)で表されるマトリックス成分の合成」
【化8】

α,α,α'−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン(849mg)のピリジン(10ml)溶液に、氷冷下で2−フランカルボン酸クロリド(0.65ml)をゆっくり滴下した。滴下終了後、氷浴をはずし室温で一昼夜撹拌した。その後、反応溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液に注ぎ、さらに抽出溶媒として酢酸エチルを加えた。有機層を洗浄、乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、α,α,α'−トリス(4−(2−フリルカルボキシ)フェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン 930mgを得た。
α,α,α'−トリス(4−(2−フリルカルボキシ)フェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン(73mg)のジクロロメタン(5ml)溶液に、氷冷下で、1−アミノベンゾトリアゾール(94mg)のジクロロメタン(5ml)溶液、および四酢酸鉛(310mg)のジクロロメタン溶液(5ml)を同時にゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で三時間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、さらに抽出溶媒として酢酸エチルを加えた。有機層を洗浄、乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより精製物 50mgを得た。得られた精製物は以下の構造解析結果から、マトリックス成分A−2,A−3,A−4の混合物であると同定された。スペクトルの各シグナルの積分値より、ベンザインとの反応率は約70%であった。
1H NMR(400MHz, CDCl3)δ 7.68(m), 7.48(m), 7.38(m), 7.31(m), 7.03-7.31(m)
, 6.58(m), 5.89(brs), 2.20(brs), 1.70(brs); ESI-TOF-MS m/e calcd for [M+Na]+ A-2(C62H46NaO9 ) 957.3, A-3 (C56H42NaO9 ) 881.3, A-4 (C50H38NaO9 ) 805.3, found 957.4, 881.5, 805.5.
【実施例3】
【0032】
「実施例3:オキサベンゾノルボルナジエン骨格を有するポリヒドロキシスチレン類の合成」
ポリp-ヒドロキシスチレン(平均分子量8000)1.0gをピリジン 20mlに溶解し、この溶液に氷冷下で2−フランカルボン酸クロリド 0.99mlをゆっくり滴下した。滴下終了後、氷浴をはずし室温で一昼夜撹拌した。その後、反応溶液をヘキサンに注ぎ、生じた沈殿物をヘキサン/テトラヒドロフラン系で3回再沈殿精製した。得られた固形分を減圧下乾燥することにより固体の化合物1.57gを得た。NMR積分値の比較より、フラン環の導入率は97%であった。
1H NMR(400MHz, CDCl3) δ 7.54 (1H, brs), 6.47-6.95 (6H, m), 1.2-1.9 (3H,
m).
上記化合物 240mgにジクロロメタン 20mlを加えた溶液に、氷冷下で、1−アミノベンゾトリアゾール 270mgにジクロロメタン 10mlを加えた溶液、および四酢酸鉛 900mgにジクロロメタン 10mlを加えた溶液を同時にゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で30分間撹拌した。反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注ぎ、さらに抽出溶媒として酢酸エチルを加えた。有機層を洗浄、乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をクロロホルム/ヘキサン系で再沈殿精製を行うことにより固体の精製物 238mgを得た。得られた精製物は以下の構造解析結果から、マトリックス成分であるオキサベンゾノルボルナジエン骨格を有するポリヒドロキシスチレン類であると同定された。NMR積分値の比較より、オキサベンゾノルボルナジエン骨格の導入率は43%であった。
1H NMR(400MHz, CDCl3)δ 7.43 (brs), 6.40-7.20 (m), 5.73 (brs), 1.23-2.00 (m).
【実施例4】
【0033】
「実施例4:ポジ型感光性組成物としての評価1」
マトリックス成分(A−1)10mg、酸発生剤(ジフェニルヨードニウム−9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホネート)1mgをクロロホルム 0.5mlに溶解させ、得られた溶液を0.2μm口径のメンブレンフィルターで精密ろ過してレジスト溶液を得た。
このレジスト溶液をシリコンウェーハ製の基板上にスピンコーターを用いて塗布し、60℃、1分間ホットプレート上で乾燥して、膜厚約0.3μmのレジスト膜を得た。
このレジスト膜に、紫外線スポットライトを用いて紫外線(365nm, 5.4J/cm2)を照射した。照射後80℃、10分間ホットプレート上で加熱した。続いて、現像液としての10wt%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に60秒間浸漬した結果、シリコンウエーハ上のレジスト膜が現像液に溶解していることを確認した。
【実施例5】
【0034】
「実施例5:ポジ型感光性組成物としての評価2」
マトリックス成分(A−1)10mg、酸発生剤(ジフェニルヨードニウム トリフレート)1.5mgをテトラヒドロフラン 0.4mlに溶解させ、得られた溶液を0.2μm口径のメンブレンフィルターで精密ろ過して、レジスト溶液を得た。
このレジスト溶液をシリコンウェハー製の基板上にスピンコーターを用いて塗布し、60℃、1分間ホットプレート上で乾燥して、膜厚約0.3μmのレジスト膜を得た。
このレジスト膜に電子線照射(40keV)を行った後、80℃、10分間ホットプレート上で加熱した。現像液として10wt%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて3分間浸漬した後、乾燥した。現像前後の膜厚の変化(残膜率)と電子線照射量(μC/cm2)との関係から、図1に示すレジスト感度曲線を作成した。図1から明らかなように、この実施例のレジスト膜は、照射光量4μC/cm2以下で十分現像液に溶解することから、高感度なレジストとして作用することがわかる。
【実施例6】
【0035】
「実施例6:ラインパターン形成」
実施例5のレジスト組成物を用いてシリコンウェハー上に形成したレジスト膜に対して、電子線描画装置(日本電子株式会社製JBX−5000SI、加速電圧50keV)による所定のレジストパターンに対応する電子線照射を行った。照射後に60℃、10分間ホットプレート上で加熱した。現像液としての10wt%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に3分間浸漬した後、乾燥させた。得られたラインパターンの形状を走査型電子顕微鏡により確認した。撮影した電子顕微鏡写真を図2に示す。図2から明らかなように、膜が残った部分と、現像液により膜が溶出した部分とにより、ラインパターンが形成されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るポジ型感光性組成物の膜に対する照射光量と残膜率の関係を示すグラフである。
【図2】前記ポジ型感光性組成物の膜に形成されたラインパターンを示した電子顕微鏡写真の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギー線の照射により酸を発生する酸発生剤と、分子内にオキサノルボルナジエン構造を有し酸発生剤から生じた酸により異性化されるマトリックス成分とを含んで成ることを特徴とするポジ型感光性組成物。
【請求項2】
オキサノルボルナジエン構造が、オキサベンゾノルボルナジエン構造であることを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項3】
オキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分が、下記の一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載のポジ型感光性組成物(但し、式(1)中、Xはヒドロキシフェニル基を有する多価フェノール残基、Yは−C(=O)−で表されるカルボニル基または−CH2−で表されるメチレン基を示す。Yはオキサベンゾノルボルナジエン骨格の2位または3位のいずれかに結合する。Zは水素原子、あるいはXとエステル基またはエーテル基を介して結合されるフラン環を示す。R1〜R4は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。nは1〜3の整数を示す。)。
【化1】

【請求項4】
一般式(1)中の多価フェノール残基Xが、α,α,α'−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンの残基、1,1,1 −トリス(4−ヒドロキシフェニル)−メタンの残基、または1,1,1 −トリス(4−ヒドロキシフェニル)−エタンの残基のいずれかひとつである請求項3に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項5】
オキサベンゾノルボルナジエン構造を有するマトリックス成分が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載のポジ型感光性組成物。(但し、式(2)中、Yは−C(=O)−で表されるカルボニル基或いは−CH2−で表されるメチレン基を示し、オキサベンゾノルボルナジエンおよびフラン環の2位または3位のいずれかに結合する。R5〜R12は水素原子、アルキル基、アルコキシル基、またはハロゲン原子のいずれかひとつを示す。p,m,lはそれぞれ1以上の整数であり、p+m+l≦1000である。)
【化2】

【請求項6】
酸発生剤が芳香族系化合物のスルホニウム塩またはヨードニウム塩のいずれかである請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のポジ型感光性組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のポジ型感光性組成物の膜を基板上に形成する工程と、所望パターンに対応して前記膜に高エネルギー線を照射する工程と、高エネルギー線を照射された膜を現像液を用いて現像する工程とを含んで成るレジストパターン形成方法。
【請求項8】
高エネルギー線が電子線である請求項7に記載のレジストパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−264040(P2007−264040A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85291(P2006−85291)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】