説明

ポックスウイルス腫瘍細胞崩壊性ベクター

本発明は、欠損I4Lおよび/またはF4L遺伝子を含んでなるポックスウイルス、そのポックスウイルスを含んでなる組成物、ならびに治療目的、より詳細には癌治療のための、そのような組成物およびポックスウイルスの方法および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
腫瘍細胞崩壊性ウイルスとは、腫瘍依存性の自己永続という固有の性質を有する、癌の治療に用いられる新規な治療薬の一種である(HERMISTON. A demand for next-generation oncolytic adenoviruses. Current opinion in molecular therapeutics. 2006, vol.8, no.4, p.322-30.)。腫瘍細胞崩壊性ウイルスは、悪性細胞中において、選択的に複製が可能であり、従って従来の癌治療より潜在的にはるかに高いレベルの効力および特異性を提供する(FISHER. Striking out at disseminated metastases: the systemic delivery of oncolytic viruses. Current opinion in molecular therapeutics. 2006, vol.8, no.4, p.301-13.)。これらのウイルスを用いることにより、ウイルスが複製する際にウイルスの宿主細胞を溶解するとの利点を有する。癌細胞は、抗ウイルス性インターフェロン経路が不活性化されているか、またはウイルス複製が妨げられずに進行することを可能とする腫瘍抑制遺伝子の変異を有することから、多くのウイルスにとって理想的な宿主である(CHERNAJOVSKY, et al. Fighting cancer with oncolytic viruses. British medical journal 2006, vol.332, no.7534, p.170-2.)。
【0002】
腫瘍細胞中での選択的複製が天然で可能なウイルスもあるが、天然に存在するウイルスを修飾することにより腫瘍細胞崩壊性ウイルスを得ることもできる。この目的のため、ウイルス修飾に現在使用されている主な戦略として、必須ウイルス遺伝子の機能欠失、これらのウイルス遺伝子の発現を制御するために使用される腫瘍または組織特異的プロモーター、およびアデノウイルスを癌細胞表面方向へ向けるための親和性修飾が挙げられる。近い将来、腫瘍細胞崩壊性アデノウイルスは、重要な抗癌ツールとしての可能性を十分に実現させ、これにより悪性神経膠腫の患者の予後を向上させるために最適化される必要がある(JIANG, et al. Oncolytic adenoviruses as antiglioma agents. Expert review of anticancer therapy. 2006, vol.6, no.5, p.697-708.)。
【0003】
例えば、ONYX−015、p53突然変異を内包する細胞中で選択的に複製しそれらの細胞を死滅させるように修飾されたアデノウイルスは、頭頸部腫瘍、胃腸腫瘍、および膵臓腫瘍を含む種々の固形腫瘍の治療可能性について、オニキスファーマシューティカルズ(Onyx Pharmaceuticals)社が開発中である。それはE1B遺伝子座の機能喪失突然変異を保持する組換えアデノウイルスであり、E1B遺伝子座の産物はp53腫瘍抑制タンパク質に結合し、それを不活性化する55kDaタンパク質である。従って、ONYX−015アデノウイルスは、正常細胞には影響を及ぼさないと考えられる。p53癌抑制遺伝子の突然変異は、癌の中で最も一般的な種類の遺伝子異常であり、主な癌種、全ての過半数に生じている。従って、これらの細胞は、容易に複製し細胞死を引き起こす可能性があるウイルスに感受性である。ONYX−015は、再発性頭頸部癌の治療については第III相試験が進行中であり、結腸直腸腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、および口腔腫瘍については第II相試験、ならびに消化器系疾患、食道腫瘍、および肝腫瘍については第I相試験にある(COHEN, et al. ONYX-015. Onyx Pharmaceuticals. Current opinion in investigational drugs. 2001, vol.2, no.12, p.1770-5.)。
【0004】
天然腫瘍細胞崩壊性ウイルスは、腫瘍細胞に選択的に感染し死滅させる先天的な能力を有する複製可能なウイルスである。生きたウイルスを用いて癌を治療しようとした50年前の当初の試みにおいて使用されたにも関わらず、癌治療剤としては遺伝子操作されたアデノウイルスおよびヘルペスウイルスが支持されているため、天然腫瘍細胞崩壊性ウイルスへの関心は高まっていない。しかしながら、最近、これらの天然に存在する作用剤の効力および選択性の高さに新たな関心が高まっている(ROBERTS, et al. Naturally oncolytic viruses. Current opinion in molecular therapeutics. 2006, vol.8, no.4, p.314-21.)。
【0005】
天然腫瘍細胞崩壊性ウイルスの中でも、ワクシニアウイルス(ポックスウイルス科)は、腫瘍細胞崩壊性ウイルス療法での使用に理想的なウイルス骨格に要求される重要な属性を数多く有している。これらの属性には、ライフサイクルが短く急速に細胞間で蔓延すること、強力な細胞溶解能力、強力なクローニング能力、および分子生物学的に詳細に明らかにされていることが挙げられる。加えて、ワクシニアウイルスは、ヒト細胞中で複製可能であるが、自然発生的な健康障害とは見なされず、特に詳細に特徴づけられており、天然痘根絶キャンペーン中に何百万もの個人に配られた。ワクチン株または遺伝子改変ワクシニア株のいずれかを使用した初期の臨床結果は、抗腫瘍効果を実証している(THORNE, et al. Vaccinia virus and oncolytic virotherapy of cancer. Current opinion in molecular therapeutics. 2005, vol.7, no.4, p.359-65.)。
【0006】
対照的に、ポックスウイルス粘液腫ウイルスは、ウサギ目(ウサギ)に対して明確で絶対的な宿主種親和性を有することから、ヒトにおける直接的な使用歴を有していない新規の腫瘍細胞崩壊性の候補である。粘液腫ウイルスは、ヒト腫瘍細胞にも選択的に感染し死滅させることができ、大多数のヒト癌に見出される細胞内シグナル伝達経路の調節異常と関係する固有の親和性を持つことが、最近になって示されてきた。この総説によれば、ヒト癌細胞に対する粘液腫ウイルスの親和性に関する既存の知識、ならびに癌の動物モデルの腫瘍に感染しそれを除去する粘液腫ウイルスの能力を示す前臨床データが概説されている(STANFORD, et al. Myxoma virus and oncolytic virotherapy: a new biologic weapon in the war against cancer. Expert opinion on biological therapy. 2007, vol.7, no.9, p.1415-25.)。
【0007】
技術的問題
【0008】
抗腫瘍効果を達成するためには、高用量のポックスウイルスを注射することが必要であり、毒性の問題が提起された。大多数の有害事象は軽症であり、ワクシニアウイルスに通常関係する有害反応は自己限定性であり、発熱、頭痛、疲労、筋痛、悪寒、局所的皮膚反応、非特異性発疹、多形性紅斑、リンパ節症、および予防接種部位の疼痛が挙げられる。他の反応は、追加的な治療(例えば、VIG、一次治療、およびシドホビル(cidofovir)、二次治療)を必要とする場合がある。更なる評価または治療を必要とする可能性がある有害反応には、偶発性接種、汎発性種痘疹(GV)、種痘性湿疹(EV)、進行性痘疹(PV)、種痘後の中枢神経系疾患、および胎児ワクシニア症が挙げられる(CONO, et al. Smallpox vaccination and adverse reactions. Guidance for clinicians. MMWR. Recommendations and reports: Morbidity and mortality weekly report. Recommendations and reports / Centers for Disease Control. 2003, vol.52, no.RR-4, p.1-28.)。
【0009】
従って、それらの天然の対応物と同等の腫瘍細胞崩壊活性を有する安全なポックスウイルスが希求されている。
【0010】
背景技術
米国特許第5364773号(バイロジェネティクスコーポレーション(VIROGENETICS CORPORATION)社(トロイ、米国ニューヨーク州)15/11/1994には、修飾された組換えポックスウイルス、より詳細には組換えポックスウイルスが、病原性の弱毒化および安全性の増強を示すように、不活性化された、必須でないウイルスコード化コード遺伝子機能を有するワクシニアウイルスが記載されている。具体的には、病原性因子をコードするオープンリーディングフレームを欠失させることにより、または病原性因子をコードするオープンリーディングフレームの挿入による不活化により、遺伝子機能が不活化される。より詳細には、この特許には、J2R、B13R+B14R、A26L、A56R、C7L−K1L、およびI4Lのオープンリーディングフレームが不活化されているワクシニアウイルスが記載されている。このウイルス(NYVAC)は外来核酸用のベクターとして遺伝子操作することができ、宿主動物に免疫学的応答を誘導するためのワクチンとして使用することができる。しかしながら、NYVACは、ほとんどの哺乳類細胞中において効率的に複製することができず、腫瘍細胞崩壊性ウイルスとして使用することができない(XIANGZHI, et al. Vaccinia virus K1L protein supports viral replication in human and rabbit cells through a cell-type-specific set of its ankyrin repeat residues that are distinct from its binding site for ACAP2. Journal of virology. 2006, vol.353, no.1, p.220-233.)。
【0011】
国際公開第2004/014314号(KIRN DAVID(米国))19/02/2004においては、そのウイルスゲノムに一つまたは複数の突然変異を含んでなる、改変ワクシニアウイルスが記載されている。記載されている突然変異は、以下のクラスのポリペプチドの一つまたは複数に存在する:1)インターフェロン調節ポリペプチド、2)補体制御ポリペプチド、3)TNFまたはケモカイン調節ポリペプチド、4)セリンプロテアーゼ阻害剤、5)IL−Ip調節ポリペプチド、6)非感染性EEV型ポリペプチド、および7)細胞からの伝染性ウイルスの放出を阻害するように作用するウイルス性ポリペプチド(抗伝染性ウイルス型ポリペプチド)。加えて、ワクシニアウイルスのA41LまたはC11Rにおける突然変異も開示されている。
【0012】
より詳細には、A34R、A41L、A53R、B5R、B7R、B8R、B13R、B15R、B18R、B22R、B28R、B29R、CUR、E3L、K2L、N1L、vC12L、およびvCKBP等のワクシニアゲノム領域が、この出願に記載されている。本発明の方法は、本明細書中で考察されているポックスウイルスのいずれかを使用することが含まれる。本発明者らは、有効量のこの改変ワクシニアウイルスを癌細胞または癌患者に投与することによって癌を治療する方法も開示する。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、欠損I4Lおよび/またはF4L遺伝子を含んでなるポックスウイルスは、安全性プロファイルを向上されるが、同等の腫瘍崩壊活性が維持される(それらの天然対応物と比較して)ことを見出した。
【0014】
本発明は、欠損I4Lおよび/またはF4L遺伝子を含み、但し前記ポックスウイルスがNYVACではないポックスウイルスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ワクシニアウイルス感染ヒト結腸直腸腫瘍細胞(LoVo)の5−FCに対するin vitro感受性を示す図である。0.0001MOIで表示ウイルスに感染させたLoVo細胞(擬似(●)、VVTK−/FCU1(黒四角)、またはVVTK−F2L−/FCU1(△))を種々の濃度の5−FCに曝露させた。細胞生存を感染5日後に測定した。結果は、薬物の存在下または非存在下での細胞生存率のパーセンテージで表わされた。数値は、ウイルスの複製による細胞死以外の3回の個別測定の平均±SDで表わされる。
【図2】ワクシニアウイルス感染ヒト結腸直腸腫瘍細胞(LoVo)の5−FCに対するin vitro感受性を示す図である。0.0001MOIの表示ウイルスに感染させたLoVo細胞(擬似(●)、VVTK−/FCU1(黒四角)、またはVVTK−F4L−/FCU1(◇))を、種々の濃度の5−FCに曝露させた。細胞生存を感染5日後に測定した。結果は、薬物の存在下または非存在下での細胞生存率のパーセンテージにより表わされる。数値は、ウイルスの複製による細胞死以外の3回の個別測定の平均±SDにより表わされる。
【図3】0.0001MOIの表示ウイルスに感染させたLoVoにおける、感染後5日目のVVTK−/FCU1およびVVTK−I4L−/FCU1のin vitro複製効率を示す図である。数値は、3回の個別測定の平均±SDで表される。
【図4】0.0001MOIの表示ウイルスに感染させたLoVoにおける、感染後5日目のVVTK−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1のin vitro複製効率を示す図である。数値は、3回の個別測定の平均±SDで表される。
【図5】ウイルスを静脈内注射した後のSwissヌードマウスの皮下LoVoの平均腫瘍体積±SEMを示す図である。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した7日後、10pfuの緩衝液+生理食塩水(◇)、緩衝液+5−FC(◆)、VVTK−I4L−/FCU1+生理食塩水(△)、またはVVTK−I4L−/FCU1+5−FC(▲)により、マウスを処置した。動物を、ウイルス注射7日後に、経口の胃管栄養法により1日2回で3週間、生理食塩水または100mg/kg/jの5−FCで処置した。腫瘍体積を週2回測定した。
【図6】ウイルスを静脈内注射した後のSwissヌードマウスの皮下LoVoの平均腫瘍体積±SEMを示す図である。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した7日後、10pfuの緩衝液+生理食塩水(◇)、緩衝液+5−FC(◆)、VVTK−F4L−/FCU1+生理食塩水(□)、またはVVTK−F4L−/FCU1+5−FC(黒四角)により、マウスを処置した。動物を、ウイルス注射7日後に、経口の胃管栄養法により1日2回で3週間、生理食塩水または100mg/kg/jの5−FCで処置した。腫瘍体積を週2回測定した。
【図7】ウイルスを静脈内注射した後のSwissヌードマウスの皮下LoVoの平均腫瘍体積±SEMを示す図である。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した11日後に、緩衝液+HO(◇)、または緩衝液+5−FC(◆)、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HO(○)の1回の注射、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FCの1回の注射(5−FCはウイルス注射の7日後および3週間の間投与された)(●)、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HOの2回の注射(□)(11日目および33日目)、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FCの2回の注射(11日目および33日目)(5−FCは18日目から32日目まで、および40日目から54日目まで投与された)(黒四角)で、マウスを処置した。動物を、100mg/kgの5−FCで1日2回、経口の胃管栄養法により処置した。腫瘍体積を週2回測定した。
【図8】ウイルスを静脈内注射した後のSwissヌードマウスの皮下U87−MG(神経膠芽腫腫瘍細胞)の平均腫瘍体積±SEMを示す図である。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した11日後に、緩衝液+HO(◇)、緩衝液+5−FC(◆)、10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HO(○)、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FC(●)により、マウスを処置した。動物を、ウイルス注射7日後に、経口の胃管栄養法により1日2回で3週間、100mg/kgの5−FCで処置した。腫瘍体積を週2回測定した。
【図9】コンフルエント細胞でのウイルス収量に対する、分裂細胞でのウイルス収量の比率を示す図である。PANC1(膵臓ヒト腫瘍)、H1299(肺ヒト腫瘍)、またはU118MG(神経膠腫ヒト腫瘍)細胞を、100pfuの(黒四角)VVTK−/FCU1、または(□)VVTK−I4L−/FCU1に感染させる。感染48時間後に、ウイルス力価を決定した。数値は、コンフルエント細胞でのウイルス収量に対する、分裂細胞でのウイルス収量の比率である。
【図10】コンフルエント細胞でのウイルス収量に対する、分裂細胞でのウイルス収量の比率を示す図である。PANC1(膵臓ヒト腫瘍)、H1299(肺ヒト腫瘍)、またはU118MG(神経膠腫ヒト腫瘍)細胞を、100pfuの(黒四角)VVTK−/FCU1または(□)VVTK−F4L−/FCU1に感染させる。感染48時間後に、ウイルス力価を決定した。数値は、コンフルエント細胞でのウイルス収量に対する、分裂細胞でのウイルス収量の比率である。
【図11】皮下ヒト腫瘍を保持するSwissヌードマウスに1×10PFUのVVTK−/FCU1(黒四角)またはVVTK−I4L−/FCU1(□)を静脈内感染させた後の6日目および21日目の器官または腫瘍におけるウイルス力価(組織1mg当たりのpfu)を示す図である。
【図12】皮下ヒト腫瘍を保持するSwissヌードマウスに1×10PFUのVVTK−/FCU1(黒四角)またはVVTK−F4L−/FCU1(□)を静脈内感染させた後の6日目および21日目の器官または腫瘍におけるウイルス力価(組織1mg当たりのpfu)を示す図である。
【図13】静脈内注射による1×10pfuのVVTK−/FCU1(黒四角)またはVVTK−I4L−/FCU1(○)処置後のSwissヌードマウスの生存率を示す図である。
【図14】静脈注射による1×10pfu(A)または1×10pfu(B)のVVTK−/FCU1(黒四角)またはVVTK−I4L−/FCU1(◇)処置後の免疫応答性B6D2マウスの生存率を示す図である。
【図15】Swissヌードマウスに1×10pfuのVVTK−/FCU1またはVVTK−I4L−/FCU1を静脈内注射した後の、感染後13日目および感染後34日目における尾部の痘疹の平均量を示す図である。
【図16】Swissヌードマウスに1×10pfuのVVTK−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1を静脈注射した後の、感染後13日目および感染後34日目における尾部の痘疹の平均量を示す図である。
【図17】Swissヌードマウスに1×10pfuのVVTK−/FCU1またはVVTK−I4L−/FCU1を静脈内注射した後の、感染後15日目および感染後31日目における尾部の痘疹の平均量を示す図である。
【図18】Swissヌードマウスに1×10pfuのVVTK−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1を静脈内注射した後の、感染後15日目および感染後31日目における尾部の痘疹の平均量を示す図である。
【発明の具体的説明】
【0016】
本出願の全体にわたって使用される場合、「一つの(a)」および「一つの(an)」という用語は、文脈がそうでないと明白に要求しない限り、参照されている成分または工程の「少なくとも一つの」、「少なくとも第1の」、「一つまたは複数の」、または「複数の」を意味するという意味で使用される。例えば、「細胞(a cell)」という用語には、その混合物を含む複数の細胞が包含される。
【0017】
「および/または」という用語には、本明細書中のどこで使用されようとも、「および」、「または」、および「前記用語により接続される要素の全てまたは任意の他の組合せ」という意味が包含される。
【0018】
「約」または「およそ」という用語は、本明細書中で使用される場合、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、およびより好ましくは5%以内を意味する。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「含んでなる(comprising)」および「含んでなる(comprise)」という用語は、産物、組成物、および方法が、参照されている成分または工程を含むが、他を除外しないことを意味する。産物、組成物、および方法を定義するために使用される場合の「本質的にからなる」は、任意の本質的な意義を持つ他の成分または工程を除外することを意味する。従って、列挙された成分から本質的になる組成物は、微量染物質および薬学上許容される担体を除外しない。「からなる」は、他の成分または工程の微量を超える要素を除外することを意味する。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「欠損遺伝子を含んでなるポックスウイルス」という用語は、欠損遺伝子の一つまたは複数の核酸の欠失、置換、もしくは付加、またはそれらの可能性の任意の組合せを含んでなるポックスウイルスを指し、前記修飾は、未修飾遺伝子によって産生されるタンパク質の活性を有するタンパク質を、ウイルスが産生できなくなることに結びつく。本発明の好ましい実施形態では、欠損遺伝子を含むポックスウイルスは、遺伝子配列全体が欠失したポックスウイルスを示す。突然変異は、組換え技術を使用して、当業者に公知である数多くの方法で作製することができる。ポックスウイルスのゲノムを修飾するための方法は、当技術分野で利用可能である。例えば、MCCART, et al. Systemic cancer therapy with a tumor selective vaccinia virus mutant lacking thymidine kinase and vaccinia growth factor genes.. Cancer res.. 2001, no.61, p.8751-57、KIM, et al. Systemic armed oncolytic ans immunologic therapy for cancer with JX-594, a targeted poxvirus expressing GM-CSF. Molecular Therapeutic. 2006, no.14, p.361-70、国際公開第2004/014314号(KIRN DAVID(米国))19/02/2004および米国特許第5364773号(バイロジェネティクスコーポレーション社(トロイ、米国ニューヨーク州))15/11/1994で開示された方法を用いて、本発明のポックスウイルスを産生することができる。本出願の例で開示されている方法は、特に本発明によるポックスウイルスを産生することに関する。種々のポックスウイルスのゲノム配列は、当技術分野において入手可能であり、例えば、ワクシニアウイルスゲノム、牛痘ウイルスゲノム、カナリア痘ウイルスゲノム、エクトロメリアウイルスゲノム、粘液腫ウイルスゲノムは、Genbankにおいて入手可能である(受入番号は、それぞれNC_006998、NC_003663、NC_005309、NC_004105、NC_001132である)。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「ポックスウイルス」という用語は、ポックスウイルス科に属するウイルスを指す。好ましい実施形態によると、本発明によるポックスウイルスは、チョルドポックスウイルス亜科(Chordopoxvirinae)に属し、より好ましくはオルソポックスウイルス属に属し、更により好ましくはワクシニアウイルス種に属する。
【0022】
例えば、ワクシニアウイルス株ダイレンI(Dairen I)、IHD−J、L−IPV、LC16M8、LC16MO、リステリア(Lister)、LIVP、タシケント(Tashkent)、WR65−16、ワイス(Wyeth)、アンカラ(Ankara)、コペンハーゲン(Copenhagen)、チアンタン(Tian Tan)、およびWRを使用することができる。特に好ましい実施形態によると、本発明によるポックスウイルスは、ワクシニアウイルス株コペンハーゲンである。
【0023】
ポックスウイルスワクシニアは、大型二重鎖DNAゲノム(187キロベース対)を含有しており、感染細胞の細胞質中で複製するDNAウイルスの唯一知られているファミリーのメンバーである。感染細胞は大量のDNA前駆体を細胞質内複製部位に送達しなければならないため、ウイルスは、リボヌクレオチドレダクターゼおよびデオキシウリジン5’−三リン酸ヌクレオチドヒドロラーゼ(dUTPase)を含む、DNA代謝および合成に必要な数多くの酵素活性をコードおよび発現する。
【0024】
リボヌクレオチドレダクターゼ(EC1.17.4.1)は、リボヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドへの還元、DNA生合成の最初に関与する工程に相当する反応を触媒する。ウイルス酵素は、サブユニット構造が哺乳類酵素に類似しており、R1およびR2と称される二つの非相同性サブユニットから構成される。ウイルスリボヌクレオチドレダクターゼサブユニットをコードする遺伝子は、ワクシニアゲノム上で35キロベース離れた位置に並んでおり局在化している(SLABAUGH, et al. . Journal of virology. 1988, vol.62, p.519-27.、TENGELSEN, et al. . Virology. 1988, no.164, p.121 -31.、SCHMITT, et al. . Journal of virology. 1988, no.62, p.1889-97.)。ワクシニアウイルス大型サブユニットの単量体(R1と称され、I4L遺伝子によってコードされている)は、86kDaのポリペプチドであり、ヌクレオチド基質であるアロステリックエフェクターの結合部位を含有している(SLABAUGH, et al. . Journal of virology. 1984, no.52, p.507-14.、SLABAUGH, et al. . Journal of virology. 1984, no.52, p.501 -6.)。小型サブユニット(R2と称され、F4L遺伝子によってコードされている)は、二つの37kDaポリペプチドを含んでなるホモ二量体であり、各ポリペプチドは、触媒作用に必要な鉄安定化タンパク質に基づくフリーラジカルを含有している(HOWELL, et al. . Journal of Biological Chemistry. 1992, no.267, p.1705-11.)。I4LおよびF4L遺伝子の配列、ならびに種々のポックスウイルスのゲノムにおけるそれらの位置は、例えば、受入番号DQ437594、DQ437593、DQ377804、AH015635、AY313847、AY313848、NC_003391、NC_003389、NC_003310、M35027、AY243312、DQ011157、DQ011156、DQ011155、DQ011154、DQ011153、Y16780、X71982、AF438165、U60315、AF410153、AF380138、U86916、L22579、NC_006998、DQ121394、およびNC_008291により、公開データベースで入手可能である。
【0025】
本明細書中に使用されている遺伝子命名法は、コペンハーゲンワクシニア株に用いられ、特に限定されない限り、他のポックスウイルス科の相同性遺伝子にも用いられる。しかしながら、遺伝子命名法は、ポックス株によって異なっている場合もある。ちなみに、コペンハーゲン遺伝子と、MVA遺伝子との対応関係は、ANTOINE. . Virology. 1998, no.244, p.365-396の表Iに見出すことができる。
【0026】
好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、欠損J2R遺伝子を更に含んでなる。
【0027】
J2R遺伝子は、ピリミジンデオキシリボヌクレオチド合成の再利用経路の一部を形成するチミジンキナーゼ(TK)をコードする。TKによって触媒される反応は、γ−ホスホリル部分をATPから2’デオキシ−チミジン(dThd)へと転移させて、チミジン5’一リン酸(dTMP)を産生することに関与する。ワクシニアウイルスTKは2型である。2型TKは、1型と比較してより小さなポリペプチド鎖を有しており、約25KDaであるが、ホモ四量体を形成する。それらは、代謝経路の最後に産生されるフィードバック阻害剤dTDPまたはdTTPに感受性がある。2型TKは、1型TKと比較してはるかに狭い基質特異性を有し、2’デオキシウリジン(dU)および/またはdThdのみをリン酸化する(EL OMARI, et al. Structure of vaccinia virus thymidine kinase in complex with dTTP: insights for drug design. BMC structural biology. 2006, no.6, p.22.)。
【0028】
J2R領域を欠損するポックスウイルス、およびそれらを取得する方法は、当技術分野で利用可能である。例えば、MCCART, et al. Systemic cancer therapy with a tumor-selective vaccinia virus mutant lacking thymidine kinase and vaccinia growth factor genes. cancer research. 2001, vol.61, no.24, p.8751-7、PUHLMANN, et al. Vaccinia as a vector for tumor-directed gene therapy: biodistribution of a thymidine kinase-deleted mutant. Cancer gene therapy. 2000, vol.7, no.1, p.66-73、GNANT, et al. Systemic administration of a recombinant vaccinia virus expressing the cytosine deaminase gene and subsequent treatment with 5-fluorocytosine leads to tumor-specific gene expression and prolongation of survival in mice. Cancer Research. 1999, vol.59, no.14, p.3396-403の教示に従って、J2R領域を欠失するポックスウイルスを産生することができる。
【0029】
好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、欠損F2L遺伝子を更に含んでなる。
【0030】
デオキシウリジン5’−三リン酸ヌクレオチドヒドロラーゼ(dUTPase、EC3.6.1.23)は、Mg(2+)イオンの存在下で、dUTPの、dUMPおよびピロリン酸への加水分解を触媒する。dNTP貯留からdUTPを除去しdUMPを生成するdUTPaseは、DNA複製の正確性の維持、およびチミジル酸シンターゼによりTMPを産生するための前駆体の提供の両方に関与している。ワクシニアdUTPaseは、F2L遺伝子によってコードされた15kDaのタンパク質である(MCGEOGH. . Nucleic Acids Research. 1990, no.18, p.4105-10.、BROYLES. . Virology. 1993, no.195, p.863-5.)。ワクシニアウイルスのF2L遺伝子の配列は、受入番号M25392によりgenbankで入手可能であり、種々のポックスウイルスゲノムにおけるF2L遺伝子の配列および位置も、例えば、受入番号NC_006998、DQ121394、NC_001611、AY689436、AY689437、NC_008291、DQ437594、DQ437593、AY313847、AY313848、NC_006966、NC_005309、NC_003391、NC_003389、NC_001132、NC_003310、NC_002188、M35027、AY243312、AF170726、DQ011157、DQ011156、DQ011155、DQ011154、DQ011153、X94355、Y16780、AY318871、U94848、AF198100、およびM34368により、genbankにおいて入手可能である。
【0031】
好ましい実施形態によると、本発明によるポックスウイルスは、目的の核酸を更に含んでなる。
【0032】
好ましい実施形態においては、目的の核酸は、治療用分子(つまり治療用遺伝子)である遺伝子産物をコードする少なくとも一つの目的の配列を含有する。「治療用分子」とは、患者に、特に疾患または疾病状態に苦しんでいる患者、またはこの疾患もしくは状態から保護すべき患者に適切に投与されると、薬理学的または保護的活性を示すものである。そのような薬理学的または保護的活性とは、前記疾患または前記状態の経過または症状に対する有益な効果に関連すると期待されるものである。当業者が本発明の過程で治療用分子をコードする遺伝子を選択する場合、一般的に、当業者であれば、以前に得られた結果を自らの選択と関連づけ、特許請求の範囲にあるように本発明を実行する以外の過度の実験をすることなく、そのような薬理学的性質を取得することが合理的に期待できる。本発明によると、目的の配列は、それが導入される標的細胞に相同的であってもよくまたは非相同的であってもよい。有利には、前記目的の配列は、ポリペプチド、特に治療的または予防的特性を与える治療用または予防用ポリペプチドの全てまたは一部をコードする。ポリペプチドは、大きさに関わらず、およびグリコシル化されているかどうかに関わらず、ポリヌクレオチドの任意の翻訳産物であると理解され、ペプチドおよびタンパク質を包含する。治療用ポリペプチドには、主な例として、動物またはヒト生体の欠損または欠乏タンパク質を補完することができるそれらのポリペプチド、または毒性効果により作用して有害細胞を制限もしくは体内から除去するものが挙げられる。それらは、内因性抗原として作用して体液性もしくは細胞性応答またはその両方を誘発する免疫付与ポリペプチドであってもよい。
【0033】
治療用遺伝子によってコードされたポリペプチドの例としては、サイトカイン(アルファ、ベータ、またはガンマインターフェロン、インターロイキン、特にIL−2、IL−6、IL−10、またはIL−12、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子GM−CSF、C−CSF、M−CSF...)、免疫賦活性ポリペプチド(B7.1、およびB7.2等)、凝固因子(FVIII、FIX...)、増殖因子(形質転換増殖因子TGF、および線維芽細胞増殖因子FGF等)、酵素(ウレアーゼ、レニン、トロンビン、メタロプロテイナーゼ、一酸化窒素合成酵素NOS、SOD、カタラーゼ...)、酵素阻害剤(アルファ1アンチトリプシン、抗トロンビンIII、ウイルスプロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤PAI−1)、CFTR(嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子)タンパク質、インスリン、ジストロフィン、クラスIまたはIIのMHC抗原、細胞遺伝子の発現を調節/制御することができるポリペプチド、細菌性、寄生虫性、もしくはウイルス性感染またはその発症を阻害することが可能なポリペプチド(抗原性ポリペプチド、抗原性エピトープ、競合によって天然タンパク質の作用を阻害するトランスドミナント変異体)、アポトーシス誘発因子または阻害剤(Bax、Bcl2、BclX...)、細胞増殖抑制剤(p21、p16、Rb...)、アポリポタンパク質(ApoAI、ApoAIV、ApoE...)、血管新生の阻害剤(アンギオスタチン、エンドスタチン...)、血管新生ポリペプチド(血管内皮増殖因子VEGFのファミリー、FGFファミリー、CTGF、Cyr6l、およびNovを含むCCNファミリー)、酸素ラジカル捕捉剤、抗腫瘍効果を有するポリペプチド、抗体、毒素、免疫毒素、およびマーカー(ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ...)をコードする遺伝子、または当技術分野で臨床状態の治療もしくは予防に有用であると認められる任意の他の目的遺伝子が挙げられる。
【0034】
好適な抗腫瘍遺伝子には、それらに限定されないが、腫瘍抑制遺伝子(例えば、Rb、p53、DCC、NF−1、ウィルムス腫瘍、NM23、BRUSH−1、p16、p21、p56、p73、ならびにそれらのそれぞれの突然変異)、自殺遺伝子産物、抗体、細胞分裂、または伝達シグナルを阻害するポリペプチドをコードするものが挙げられる。
【0035】
特に好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、自殺遺伝子を更に含んでなる。
【0036】
自殺遺伝子とは、薬物の前駆体を細胞毒性化合物に変換することができるタンパク質をコードする遺伝子を指す。
【0037】
自殺遺伝子は、これらに限定されないが、シトシンデアミナーゼ活性、チミジンキナーゼ活性、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ活性、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性、および/またはチミジル酸キナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含んでなる。
【0038】
自殺遺伝子、および対応する一つの核酸塩基部分を含んでなる薬物の前駆体の例を以下の表に開示する。
【0039】
【表1】

【0040】
本発明の好ましい実施形態によると、自殺遺伝子は、少なくともCDase活性を有するタンパク質をコードするものである。CDaseは、外来性シトシンが加水分解性脱アミノ化によってウラシルに変換されるピリミジン代謝経路に関与する。CDase活性は、原核生物および下等真核生物で実証されている一方で(JUND, et al. . Journal of Bacteriology. 1970, no.102, p.607-15.、BECK, et al. . Journal of Bacteriology. 1972, no.110, p.219-28.、HOEPRICH, et al. . Journal of Infectious Diseases. 1974, no.130, p.112-18.、ESDERS, et al. . J. biol. chem.. 1985, no.260, p.3915-22.)、哺乳類には存在しない(KOECHLIN, et al. . Biochemical pharmacology. 1966, no.15, p.435-46.、POLAK, et al. . Chemotherapy. 1976, no.22, p.137-53.)。
【0041】
また、CDaseは、シトシンの類似体、つまり5−フルオロシトシン(5−FC)を脱アミノ化し、それにより、5−フルオロ−UMP(5−FUMP)に変換されると、細胞毒性が高い化合物である5−フルオロウラシル(5−FU)を形成する。酵素をコードする遺伝子を不活性化する突然変異のためか、この酵素が天然で欠乏しているためかのいずれかにより、哺乳類細胞のようにCDase活性を欠く細胞は、5−FCに耐性である(JUND, et al. . Journal of Bacteriology. 1970, no.102, p.607-15.、KILLSTRUP, et al. . Journal of Bacteriology. 1989, no.171, p.2124-2127.)。対照的に、CDase活性をコードする配列が移入された哺乳類細胞は、5−FCに感受性となる(HUBER, et al. . Cancer Research. 1993, no.53, p.4619-4626.、MULLEN, et al. . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 1992, no.89, p.33-37.、国際公開第93/01281号(USヘルス(US HEALTH)社)。加えて、近隣の未形質転換細胞も、5−FCに感受性になる(HUBER, et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 1994, no.91, p.8302-6.)。傍観者効果と名づけられているこの現象は、5−FUを分泌するCDase活性を発現している細胞が原因であり、その後単純な拡散により原形質膜を越えて近隣細胞を毒性化する。受動的拡散という5−FUのこの特性は、tkを発現している細胞とそこで接触することが傍観者効果に必要であるtk/GCV参照系と比較して利点を表す(MESNIL, et al. . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 1996, no.93, p.1831-35.)。従って、遺伝子治療、特に抗癌遺伝子治療との関連でCDaseが提供する利点は全て、容易に理解することができる。
【0042】
これらの二つの生物のCDaseをそれぞれコードするサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(S.セレビシエ)FCY1、カンジダ・アルビカンス(Candida Albicans)FCA1、および大腸菌(E. coli)codAの遺伝子は、公知であり、それらの配列は公開されている(それぞれ、配列番号4、配列番号5、配列番号6)。
【0043】
この点で、本発明のより好ましい実施形態によると、CDase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子は、FCY1、FCA1、もしくはcodA、またはそれらの類似体である。これらの遺伝子の類似体とは、親遺伝子の核酸配列と70%を超える、有利には80%を超える、好ましくは90%を超える、および最も好ましくは95%を超える同一性の程度を少なくとも示す核酸配列を有する遺伝子を表す。
【0044】
特許国際公開第2005/007857号においては、CDase活性が向上したタンパク質をコードする遺伝子が開示されている。このポリペプチドは、アミノ酸配列の付加によって天然CDaseから誘導された。本発明の別の好ましい実施形態によると、CDase活性を有するタンパク質は、国際公開第2005/007857号において開示されているポリペプチドであり、より好ましくは配列番号2に表されているFCU1−8ポリペプチドおよびその類似体である。
【0045】
原核生物および下等真核生物においては、ウラシルは、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)の作用によってUMPに変換される。この酵素は、5−FUを5−FUMPに変換する。本発明の別の好ましい実施形態によると、自殺遺伝子は、UPRTase活性を有するタンパク質をコードする。
【0046】
問題のUPRTaseは、由来が任意であってよく、特に原核生物、真菌、または酵母由来であってもよい。実例として、大腸菌(ANDERSEN, et al. Characterization of the upp gene encoding uracil phosphoribosyltransferase of Escherichia coli K12. European Journal of Biochemistry. 1992, no.204, p.51-56.)ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)(MARTINUSSEN, et al. Cloning and characterization of upp, a gene encoding uracil phosphoribosyltransferase from Lactococcus lactis. Journal of Bacteriology. 1994, vol.176, no.21, p.6457-63.)、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)(KIM, et al. Complete sequence of the UPP gene encoding uracil phosphoribosyltransferase from Mycobacterium bovis BCG. Biochemistry and molecular biology international. 1997, vol.41, no.6, p.1117-24.)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)(MARTINUSSEN, et al. Two genes encoding uracil phosphoribosyltransferase are present in Bacillus subtilis. Journal of Bacteriology. 1995, vol.177, no.1, p.271-4.)に由来するUPRTaseをコードする核酸配列を、本発明との関連で用いることができる。しかしながら、酵母UPRTaseを使用することが特に最も好ましく、特に、その配列がKERN, et al. The FUR1 gene of Sacc
haromyces cerevisiae: cloning, structure and expression of wild-type and mutant alleles. Gene. 1990, vol.88, no.2, p.149-57に開示されているS.セレビシエFUR1遺伝子によってコードされているものは、引用することにより本明細書の開示の範囲とされる。参考として、遺伝子の配列および対応するUPRTaseの配列は、文献および専門データバンク(SWISSPROT、EMBL、Genbank、およびMedline等)に見出すことができる。
【0047】
欧州特許出願公開第0998568A号においては、N末端位置の最初の35残基が欠失し、天然タンパク質では36位のメチオニンから始まるUPRTaseの合成を可能にする、コード部分の5’にある105個のヌクレオチドを欠如するFUR1遺伝子について記載されている。FUR1Δ105と呼ばれる突然変異遺伝子の発現産物は、S.セレビシエのfur1突然変異体を補完することが可能である。加えて、欠失変異体(truncated mutant)は、天然酵素の活性より高いUPRTase活性を示す。従って、本発明の特に有利な実施形態によると、自殺遺伝子は、天然UPRTaseの欠失変異体をコードする。欠失は、好ましくは元々のUPRTaseのN末端領域に位置する。欠失は、完全であってもよく(前記N末端領域の全残基が影響を受ける)、または部分的であってもよい(一次構造の一つまたは複数の連続または不連続残基が影響を受ける)。一般的に、ポリペプチドは、N末端部分、中央部分、およびC末端部分からなり、各々は分子の約3分の1に相当する。例えば、S.セレビシエUPRTaseは251個のアミノ酸を有し、そのN末端部分は、天然型の第1位に位置するいわゆる開始メチオニンから始まる最初の83残基からなる。大腸菌UPRTaseの場合、そのN末端部分は1から69位を包含する。
【0048】
UPRTase活性を有する好ましいタンパク質は、欧州特許出願公開第0998568A号の配列番号1に表されるアミノ酸配列を実質的に含んでなり、1位のMet残基から始まり、216位のVal残基で終わる。「実質的に」という用語は、欧州特許出願公開第0998568A号に記載の前記配列番号1と、70%を超える、有利には80%を超える、好ましくは90%を超える、および最も好ましくは95%を超える同一性の程度を示す。更により好ましくは、それは、欧州特許出願公開第0998568A号の配列番号1に表されているアミノ酸配列を含んでなる。上記で言及したように、それは追加的な突然変異を含んでなっていてもよい。2位のセリン残基(天然UPRTaseでは37位)のアラニン残基による置換に、特に言及することができる。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態によれは、自殺遺伝子は、少なくとも一つのCDase活性と、一つのUPRTase活性を有するタンパク質とをコードする。特許出願国際公開第96/16183号および欧州特許出願公開第0998568A号においては、CDase活性およびUPRTase活性を有する二つのドメインを有する酵素をコードする融合タンパク質の使用が記載されており、発現プラスミドにより保持されたハイブリッド遺伝子codA::uppまたはFCY1::FUR1またはFCY1::FUR1Δ105(つまりFCU1)の移入が、形質移入されたB16細胞の5−FCに対する感受性を増加させることを実証している。本発明のより好ましい実施形態によると、自殺遺伝子は、配列番号3(coda::upp)、配列番号1(FCU1)、またはFCY1::FUR1に表されるアミノ酸配列を実質的に含んでなるポリペプチドをコードする。「実質的に」という用語は、前記配列と、70%を超える、有利には80%を超える、好ましくは90%を超える、および最も好ましくは95%を超える同一性の程度を指す。更により好ましくは、それは、配列番号3(coda::upp)、配列番号1(FCU1)、またはFCY1::FUR1に表されるアミノ酸配列を含んでなる。上記で言及したように、それは追加的な突然変異を含んでいてもよい。
【0050】
核酸配列は、クローニングによって、PCRによって、または用いられている従来技術による化学合成によって容易に取得することができる。それらは、天然の遺伝子であってもよく、或いは一つもしくは複数のヌクレオチドの突然変異、欠失、置換、および/または付加によって後者から誘導される遺伝子であってもよい。更に、それらの配列は、当業者であれば調べることができる文献に広く記載される。
【0051】
当業者であれば、公開されたデータからCDase配列またはUPRTase配列をクローニングすること、考え得る突然変異を実行すること、従来技術によりまたは欧州特許出願公開第0998568A号に示されているプロトコールに基づき、無細胞または細胞系において突然変異型の酵素活性を試験すること、ならびにCDase活性およびUPRTase活性を有するポリペプチドおよび結果的には対応する遺伝子の全てまたは一部を、特にインフェーズで融合することが可能である。
【0052】
より好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、パーミアーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列を更に含んでなる。
【0053】
パーミアーゼとは、一つの核酸塩基部分を含んでなる薬物またはその前駆体の、細胞膜を通した移動に関与する膜貫通型タンパク質を指す。
【0054】
パーミアーゼは、これらに限定されないが、プリンパーミアーゼ、シトシンパーミアーゼ、およびヌクレオシド輸送体を含んでなる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、パーミアーゼは、S.セレビシエのプリンパーミアーゼまたはシトシンパーミアーゼである。S.セレビシエの核酸塩基輸送体は、FCY2として知られているプリン−シトシンパーミアーゼ、およびFUR4として知られているウラシルパーミアーゼからなる。プリン−シトシンパーミアーゼ、FCY2は、酵母原形質膜を横切るプロトンおよびアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、およびシトシンの共輸送を媒介する(Grenson 1969、Jund and Lacroute 1970、Polak and Grenson 1973、Chevallier et al. 1975、Hopkins et al. 1988)。FCY2タンパク質は、5−フルオロシトシン、シトシンの類似体の輸送も媒介する(Grenson 1969、Jund and Lacroute 1970)。FCY2遺伝子は、10〜12個の膜貫通ドメイン(Weber et al. 1990)を有すると当初は予測され、今では9個であることが支持されている533個のアミノ酸(58kDa)のタンパク質をコードする(Ferreira et al. 1999)。FCY2は、プリン核酸塩基およびシトシンに対して同様の親和性を示す(Brethes et al. 1992)。ウラシルのS.セレビシエへの取り込みは、ウラシルパーミアーゼ、FUR4によって媒介される(Jund and Lacroute 1970、Jund et al. 1977)。FUR4は、10個の膜貫通ドメインおよび長鎖細胞質内親水性NおよびC末端尾部を有する633個のアミノ酸(71.7kDa)のタンパク質であると予測されている(Jund et al. 1988、Garnier et al. 1996)ウラシル−プロトン共輸送体(Hopkins et al. 1988)である。FUR4タンパク質は、5−フルオロウラシル、ウラシルの類似体の輸送も媒介することができる(Jund and Lacroute 1970)。
【0056】
FCY2およびFur4のアミノ酸配列は、特にswissprotデータベース(それぞれ、受入番号P17064およびP05316)において入手可能である。好ましくは、パーミアーゼは、特許出願国際公開第2006/048768号に開示されているアミノ酸配列の配列番号1および配列番号2を含んでなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0057】
この点に関して、本発明の好ましい実施形態によると、パーミアーゼは、FCY2およびFur4ならびにそれらの類似体を含んでなる群から選択される。Fur4およびFCY2の類似体とは、本明細書中で上記に記述される親タンパク質のアミノ酸配列と、70%を超える、有利には80%を超える、好ましくは90%を超える、および最も好ましくは95%を超える同一性の程度を少なくとも有し、一つの核酸塩基部分を含んでなる薬物を、細胞膜を通して輸送する能力を保持するポリペプチドを指す。
【0058】
当業者であれば、一つの核酸塩基部分を含んでなる薬物または薬物の前駆体に関連する可能性があるパーミアーゼを選択することができる。例えば、FCY2およびFur4は、好ましくは5−フルオロシトシン(5−FC)と関連している。
【0059】
より好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、目的の核酸の発現に必要なエレメントを更に含んでなっていてもよい。
【0060】
より好ましい実施形態によると、本発明のポックスウイルスは、パーミアーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列の発現に必要なエレメントを更に含んでなっていてもよい。
【0061】
目的の核酸および/またはパーミアーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列の発現に必要なこれらの要素は、前記DNAのmRNAへの転写、および必要に応じてmRNAのポリペプチドへの翻訳に必要なエレメントを含んでなる。種々の脊椎動物系で使用するのに好適な転写プロモーターは、文献に広く記述されている。例えば、好適なプロモーターには、RSV、MPSV、SV40、CMVまたは7.5k、ワクシニアプロモーター、誘導可能なプロモーター等のウイルスプロモーターが挙げられる。好ましいプロモーターは、ポックスウイルスから単離され、例えば、ワクシニアウイルスの7.5K、H5R、TK、p28、p11、またはK1Lである。或いは、CHAKRABARTI. . Biotechniques. 1997, no.23, p.1094-97.、HAMMOND, et al. . Journal of Virological Methods. 1997, no.66, p.135-38.、およびKUMAR. . Virology. 1990, no. 179, p.151-8に記述されているもの等の合成プロモーター、ならびに初期ポックスウイルスプロモーターと、後期ポックスウイルスプロモーターとのキメラプロモーターを用いてもよい。
【0062】
目的の核酸配列、およびパーミアーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列は、イントロン配列、標的化配列、輸送配列、分泌シグナル、核移行シグナル、IRES、ポリA転写終結配列、トリパタイト(tripartite)リーダー配列、複製または組み込みに関与する配列等の追加的な、機能的エレメントを更に含んでなっていてもよい。前記配列は文献に報告されており、当業者であれば容易に取得することができる。
【0063】
本発明は、本発明によるポックスウイルスを製造方法に関し、この製造方法は、
(i)本発明によるポックスウイルスを細胞へ導入する工程、
(ii)前記細胞を、前記ポックスウイルスの産生を可能にする適切な条件下において培養する工程、および
(iii)前記ポックスウイルスを細胞培養から回収する工程
を含む。
【0064】
ポックスウイルスは、当然、培養上清から回収できるが、細胞からも回収することができる。一般に使用される方法の一つは、溶解上清中のビリオンを収集するために、凍結/解凍サイクルを繰り返すことによって細胞を溶解することがある。その後、ビリオンを増幅し、当技術分野の技術(クロマトグラフ法、特に塩化セシウム勾配による超遠心分離法等)を用いて精製することができる。
【0065】
本発明は、また薬学上許容される賦形剤と組み合わせて、本発明によるポックスウイルスを含んでなる組成物に関する。
【0066】
本発明による組成物は、より具体的には遺伝子治療による疾患の予防または治療処置を目的としており、より具体的には増殖性疾患(癌、腫瘍、再狭窄等)を標的するか、または破骨細胞活性の増加(例えば、関節リウマチ、骨粗しょう症)に関連する疾患を標的とする。
【0067】
本発明による組成物は、それを局所的に、非経口的に、または消化経路によって投与することを目的として、従来通りに作製することができる。特に、治療上有効量の本発明の組換えベクターまたはポックスウイルスは、薬学上許容される賦形剤と組み合わされる。数多くの投与経路を起想することが可能である。言及することができる例は、胃内、皮下、心臓内、筋肉内、静脈内、腹腔内、腫瘍内、鼻腔内、肺内、および気管内経路である。これらの後者三つの実施形態の場合は、エアロゾルまたは滴下によって投与を行うことが有利である。投与は、単回投与、または特定の時間的間隔後の一つもしくは複数の機会に繰り返される投与として行うことができる。適切な投与経路および用量は、様々なパラメーター、例えば治療される個体、治療される疾患、または移入される目的遺伝子(一つまたは複数)に依存して変動する。本発明によるウイルス粒子に基づく調製物は、10から1014pfu(プラーク形成単位)、有利には10から1013pfu、好ましくは10から1012pfu、より好ましくは10から10の用量の形態で処方することができる。
【0068】
組成物としては、薬学上の視点から許容される希釈剤、アジュバント、または賦形剤、ならびに可溶化剤、安定化剤、および保存剤も挙げることができる。注射可能な投与の場合には、水性、非水性、または等張性溶液中の製剤が好ましい。それは、適切な希釈剤を使用して使用時に再構成することができる液体または乾燥(粉末、凍結乾燥物等)形態により、単回用量または複数用量として提供することができる。
【0069】
本発明は、人体または動物体を遺伝子治療によって治療することを目的とする薬剤を製造するための、本発明によるポックスウイルスまたは組成物の使用にも関する。薬剤は、in vivoにおいて直接的に(例えば、静脈内注射によってアクセス可能な腫瘍へ、エアロゾルによって肺中へ、適切なカテーテルを使用して脈管系へ等)投与することができる。好ましい使用は、望まれない細胞増殖に起因する癌、腫瘍、および疾患の治療または予防にある。言及することができる考え得る応用は、乳癌、子宮癌(特に、乳頭腫ウイルスによって誘発されるもの)、前立腺癌、肺癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、膵臓癌、胃癌、食道癌、喉頭癌、中枢神経系の癌(例えば、神経膠芽腫)、および血液の癌(リンパ腫、白血病等)である。他の好ましい使用は、関節リウマチ、骨粗しょう症、および破骨細胞活性の増加に関連する他の疾患の治療または予防である。それは、例えば、血管壁の平滑筋細胞の増殖(再狭窄)を阻害または遅延させるために、心血管疾患との関連でも使用することができる。最後に、感染症の場合には、エイズに適用されている薬剤を起想することが可能である。
【0070】
本発明のポックスウイルス、組成物、または方法が癌の治療に用いられる場合、本発明によるポックスウイルスは、腫瘍細胞を特異的に標的とすることができるため、好ましい投与経路は全身経路である。
【0071】
本発明は、本発明によるポックスウイルス、組成物が、その治療を必要とする宿主生物または細胞に投与されることを特徴とする、疾患の治療方法にも及ぶ。
【0072】
有利な実施形態によれば、治療上の使用または治療方法は、薬学上許容される量のプロドラッグ、有利にはシトシンの類似体、特に5−FCが宿主生物または細胞に投与される追加の工程も含んでなる。実例として、50から500mg/kg/日までの用量を使用することが可能であり、200mg/kg/日または100mg/kg/日の用量が好ましい。本発明との関連では、プロドラッグは、標準的技法に従って(例えば、経口により、系統的に)投与される。
【0073】
好ましくは、本発明による治療薬の投与後に、本発明による治療薬を投与した好ましくは少なくとも3日後、より好ましくは少なくとも4日後、および更により好ましくは少なくとも5日後に投与される。本発明の更により好ましい実施形態によると、プロドラッグは、治療薬投与の7日後に投与される。経口経路が好ましい。単回用量のプロドラッグ、または宿主生物または細胞内で毒性代謝産物の産生が可能になるのに十分な長さの時間繰り返される用量のプロドラッグを投与することが可能である。
【0074】
更に、本発明による組成物または方法は、5−FUの細胞毒性効果を増強する一つまたは複数の物質と組み合わせることができる。特に言及することができるのは、ピリミジンのデノボ生合成経路の酵素を阻害する薬物(例えば、下記で言及されているもの)、5−FU(5FdUMP)の代謝産物の存在下において、チミジル酸シンターゼの阻害を強め、複製に必要であるdTMPの貯留を減少させる結果となるロイコボリン等の薬物(Waxman et al., 1982, Eur. J. Cancer Clin. Oncol. 18, 685-692)、および最後には、ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し、PRPP(ホスホリボシルピロリン酸)の貯留を増加させることによって、5−FUの細胞RNAへの組み込みの増加をもたらすメトトレキサート等の薬物(Cadman et al., 1979, Science 250, 1135-1137)である。
【0075】
本発明によると、ピリミジンのデノボ生合成経路の酵素を阻害する薬物は、好ましくは、PALA(N−(ホスホノアセチル)−L−アスパラギン酸、Moore et al., 1982, Biochem. Pharmacol. 31, 3317-3321)、レフルノミド、A771726(active metabolite of Leflunomide; Davis et al., 1996, Biochem. 35, 1270-1273)、およびブレキナル(Chen et al., 1992, Cancer Res. 52, 3251-3257)からなる群から選択されるものである。
【0076】
本発明による組成物または方法は、抗癌療法に有効な一つまたは複数の物質と組み合わせることができる。本発明による組成物と一緒にまたは組み合わせて使用することができる抗癌療法に有効な医薬物質の中では、例えばマイトマイシンC、シクロホスファミド、ブスルファン、イホスファミド、イソスファミド(isosfamide)、メルファラン、ヘキサメチルメラミン、チオテパ、クロラムブシル、またはダカルバジン等のアルキル化剤、例えばゲムシタビン、カペシタビン、5−フルオロウラシル、シタラビン、2−フルオロデオキシシチジン、メトトレキサート、イダトレキサート(idatrexate)、トムデックス、またはトリメトレキサート等の代謝拮抗剤、例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、テニポシド、またはミトキサントロン等のトポイソメラーゼII阻害剤、例えば、イリノテカン(CPT−11)、7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン(SN−38)、またはトポテカン等のトポイソメラーゼI阻害剤、例えば、パクリタキセル、ドセタセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン等の抗有糸分裂薬、および例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、スピロプラチナム(spiroplatinum)、カルボプラチナム(carboplatinum)等の白金誘導体に言及することができる。
【0077】
本発明による組成物または方法は、また放射線療法と組み合わせて使用することができる。
【0078】
本発明による組成物または方法は、これらに限定されないが、例えば、アルファ、ベータ、もしくはガンマインターフェロン、インターロイキン(特に、IL−2、IL−6、IL−10、またはIL−12)、または腫瘍壊死因子等の免疫調節剤、例えば、上皮成長因子受容体の阻害剤(特に、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、またはラパチニブ)、またはヒト上皮成長因子受容体−2の阻害剤(特に、トラスツズマブ)等の細胞表面受容体の調節に影響を与える作用剤、および例えば、血管内皮増殖因子の阻害剤(特に、ベバシズマブまたはラニビズマブ)等の血管新生に影響を与える作用剤を含む一つまたは複数の他の作用剤と組み合わせても使用することができる。
【実施例】
【0079】
ベクタープラスミドの構築
I4Lを欠失させるためのシャトルプラスミドは、チミジンキナーゼ遺伝子上で欠失され、ワクシニア合成プロモーターp11K7.5の制御下でFCU1遺伝子を発現するワクシニアウイルス株コペンハーゲン(受入番号M35027)のDNAを使用して構築された。I4LのDNA隣接領域をPCRによって増幅した。I4Lの下流隣接領域のプライマーは、5’−TCC CCC GGG TTA ACC ACT GCA TGA TGT ACA−3’(配列番号7、下線はSmaI部位)、および5’−GCC GAG CTC GAG GTA GCC GTT TGT AAT TCT−3’(配列番号8、下線はSacI部位)であった。上流領域用のプライマーは、5’−GCC TGG CCA TAA CTC CAG GCC GTT−3’(配列番号9、下線はMscI部位)、および5’−GCC CAG CTG ATC GAG CCG TAA CGA TTT TCA−3’(配列番号10、下線はPvuII部位)であった。増幅されたDNA断片を、制限酵素SmaI/SacIまたはMscI/PvuIIで消化し、PpolyIIIプラスミドの対応する部位にライゲーションした。I4Lの下流隣接領域の反復領域を、プライマー5’−GCC GCA TGC ATC CTT GAA CAC CAA TAC CGA−3’(配列番号11、下線はSphI部位)、および5’−GCT CTA GAG AGG TAG CCG TTT GTA ATC TG−3’(配列番号12、下線はXbaI部位)を用いて、PCRによって増幅し、PpolyIIIプラスミドに挿入した。反復領域は、欠失ウイルスの産生中に選択カセットを除去するために用いられる。pH5Rワクシニアプロモーターの制御下でGFP/GPT融合遺伝子に対応する選択カセットを、PpolyIIIプラスミドのSacI/SphI部位に挿入した。取得されたプラスミドは、I4L遺伝子を欠失しているためpΔI4Lと名づけられた組換えシャトルプラスミドである。
【0080】
F4Lを欠失させるためのシャトルプラスミドを、ワクシニアウイルス株コペンハーゲン(受入番号M35027)のDNAを使用して構築した。F4LのDNA隣接領域をPCRによって増幅した。F4Lの下流隣接領域のプライマーは、5’−CGC GGA TCC TTT GGT ACA GTC TAG TAT CCA−3’(配列番号13、下線はBamHI部位)および5’−TCC CCC GGG TTA TAA CAG ATG CAG TAT CCA−3’(配列番号14、下線はSmaI部位)であった。上流領域用のプライマーは、5’−GCC CAG CTG TTC AAT GGC CAT CTG AAA TCC−3’(配列番号15、下線はPvuII部位)および5’−GAA GAT CTA GTA TCG CAT CTA AAA GAT GG−3’(配列番号16、下線はBglII部位)であった。増幅されたDNA断片を、制限酵素BamHI/SmaIまたはBglII/PvuIIで消化し、PpolyIIIプラスミドの対応する部位にライゲーションした。I4Lの下流隣接領域の反復領域を、プライマー5’−GCC GAG CTC ACC CAC ACG TTT TTC GAA AAA−3’(配列番号17、下線はSacI部位)、および5’−GCC GCA TGC TTA TAA CAG ATG CAG TAT CAA−3’(配列番号18、下線はSphI部位)を用いて、PCRによって増幅し、PpolyIIIプラスミドに挿入した。反復領域は、欠失ウイルスの産生中に選択カセットを除去するために使用される。pH5Rワクシニアプロモーターの制御下でGFP/GPT融合遺伝子に対応する選択カセットを、PpolyIIIプラスミドのSacI/SmaI部位に挿入した。取得されたプラスミドは、F4L遺伝子を欠失するためpΔF4Lと名づけられた組換えシャトルプラスミドである。
【0081】
組換えワクシニアウイルスの産生
CEF細胞を、VVTK−FCU1(ワクシニアウイルス、J2Rキナーゼ遺伝子欠損、合成プロモーターp11k7.5の制御下でFCU1遺伝子を発現する)コペンハーゲン株に0.1MOIで感染させ、2時間37℃でインキュベートし、その後組換えシャトルプラスミド(0.2μg)のCaCl共沈物で形質移入した。細胞を48時間37℃でインキュベートした。その後、出現ウイルスの希釈液を使用して、終濃度が15μg/mlのヒポキサンチン、終濃度が250μg/mlのキサンチン、および終濃度が250μg/mlのミコフェノール酸を含有する選択培地中でCEF細胞を感染させた。蛍光性(GFP)および陽性(GPT選択)プラークを単離し、GPT選択培地の存在下でCEF細胞の選択を数ラウンド行って選択した。VVTK−FCU1の存在下または非存在を、欠失領域内部のプライマーを用いた40サイクルのPCRによって決定した。親ウイルスの除去後、2重欠失ウイルスを使用して、GPT選択培地を用いずにCEFに感染させ、選択カセットを除去した。非蛍光性プラークを単離し、2サイクルでCEFを選択した。最終組換えVVウイルスをCEF中で増幅させて精製し、ウイルス株をプラークアッセイによりCEFに滴定した。
【0082】
5−FCに対するin vitro細胞感受性
ヒト腫瘍細胞を、0.0001MOIのそれぞれの組換えVVを用いて形質導入した。合計3×10細胞/ウエルを、6ウエル培養皿上の、種々の濃度の5−FCを含有する2ml培地にプレーティングした。その後、細胞を5日間37℃で培養し、生細胞をトリパンブルー排除法によって計数した。図1、2、3、および4に記載された結果は、FCU1活性が、I4LおよびJ2R遺伝子を欠損するウイルスまたはF4LおよびJ2R遺伝子を欠損するウイルスよりも、J2R遺伝子を欠損するウイルスと等しいことを示す。
【0083】
培養細胞のin vitro複製
分裂細胞またはコンフルエント細胞を、6−ウエルプラーク中で、100PFUのウイルス(MOIがほぼ0.0005)に感染させた。10%FCSで補完された2mLの培地を分裂細胞に、補完されていない培地をコンフルエント細胞に添加した。細胞を、感染48時間後に回収した。細胞を−20℃で保管し、超音波処理してウイルスを放出させ、CEF細胞にプラーク滴定することによってウイルスも定量化した。分裂細胞とコンフルエント細胞との比率は、全ての細胞で類似している。両ウイルスVVTK−/FCU1、VVTK−I4L−/FCU1、およびVVTK−F4L−/FCU1は、コンフルエント細胞よりも分裂細胞においてより多く複製する。
【0084】
複製ウイルス特異性をアッセイする間接的な手段として、コンフルエント腫瘍細胞(膵臓ヒト腫瘍PANC1、肺ヒト腫瘍H1299、神経膠腫ヒト腫瘍U118MG)と比べた、分裂細胞で産生されたウイルス収量を決定した。コンフルエント細胞を1×10細胞/ウエルでプレーティングし、完全培地で7日間培養し、次いで、感染の1日前に細胞を洗浄し、無血清培地で培養した。分裂細胞を、感染の1日前に3×10細胞/ウエルでプレーティングした。細胞分裂のレベルを評価するために、核酸に組み込まれた滴定チミジンの量を、細胞をプレーティングした5時間後、24時間後、および48時間後に測定した。この期間中のチミジン組み込みは、コンフルエント細胞では比較的一定であったが、分裂細胞では、組み込みの増加が時間と共に見られた。その後、細胞を100pfuのウイルスに感染させ、感染48時間後に、分裂腫瘍細胞で産生されたウイルス収量と、コンフルエント腫瘍細胞で産生されたウイルス収量との比率を、CEFでのプラーク滴定によって決定した。図9および10に記載された結果は、両ウイルスVVTK−/FCU1、VVTK−I4L−/FCU1、およびVVTK−F4L−/FCU1が、コンフルエント細胞より分裂細胞においてより多く複製することを示す。更に、図9および10に記載された結果は、VVTK−/FCU1と比較して、両ウイルスVVTK−I4L−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1の場合、全ての異なる種類の細胞において比率が増加したことを示す。異なる種類の細胞全てにおいて比率がこのように増加したことは、コンフルエント細胞において、両ウイルスVVTK−I4L−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1の複製がより少なかったことに起因する。これらの結果により、両ウイルスVVTK−I4L−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1が、VVTK−/FCU1と比較して、分裂細胞に対する特異性の増加を示すことが実証された。
【0085】
皮下腫瘍モデル
雌Swissヌードマウスは、チャールスリバーラボラトリーズ(Charles River Laboratories)社から取得した。本研究で使用された動物は、年齢が同じ(6週齢)であり、体重は23〜26gの範囲であった。Swissヌードマウスの側腹に、5×10LoVo細胞を皮下(s.c.)注射した。腫瘍の直径が50〜70mmに達した時、in vivo実験用に、マウスを盲検法で無作為化し、表示ベクターで処置した。
【0086】
ウイルスの生体内分布
種々のウイルスの存在を、腫瘍試料および器官試料のウイルス滴定によって評価した。1×10PFUのVV−FCU1、VVTK−I4L−/FCU1、またはVVTK−F4L−/FCU1を、確立した皮下LoVo腫瘍を保持するヌードマウスの尾部静脈に注射することによって静脈内(i.v.)注射した。指示された時点でマウスを屠殺し、腫瘍および他の器官を収集および計量した。腫瘍および器官をPBS中でホモジナイズし、これまでに記述されているように、力価をCEFで決定した。ウイルス力価を、ミリグラムの組織に標準化した。ウイルス力価を、ミリグラムの組織に標準化した。表2、3、4、および5に記載された結果(ウイルス力価の範囲は、組織1mg当たりのpfuで示されている)は、14日後には、本発明によるウイルスがほとんどの腫瘍で見出されることを示す。図11および12に記載された結果は、両ウイルスVVTK−/FCU1、VVTK−I4L−/FCU1、およびVVTK−F4L−/FCU1が、VVTK−/FCU1の場合の尾部を除き、分析された他の器官より腫瘍において約1000から10000倍多いウイルスで腫瘍を標的にすることを示す。少量のVVTK−/FCU1が、肺、脾臓、腎臓、およびリンパ節(10pfu/mg未満)で検出され、6日目の皮膚、尾部、および骨髄、ならびに21日目の皮膚および尾部でより多くが検出される。対照的に、VVTK−I4L−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1は両方とも、より高い腫瘍特異性を示し、6日目のリンパ節および尾部、ならびに21日目の腫瘍に少量だけ検出される。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
皮下腫瘍モデルにおける本発明のポックスウイルスの抗腫瘍活性
確立した皮下LoVo腫瘍(50〜70mm)を保持するヌードマウスを、静脈内で1回(尾部静脈により)、それぞれ1.10PFUの用量の表示ベクターで処置した。ウイルス注射後の7日目から開始し、100mg/kg(0.5mlの水中0.5%5−FC)の5−FCを、経口の胃管栄養法によって1日2回で3週間与えた。腫瘍サイズは、週2回カリパスを使用して測定した。腫瘍体積は、式(p/6)(長さ×幅)を使用して、mmで計算した。図5および6に記載された結果により、種々のウイルスが、腫瘍の増殖を制御することができる腫瘍崩壊活性(p<0.05)および腫瘍成長の制御を更に向上させることができる5−FC投与との併用活性(ウイルスの腫瘍崩壊およびFCU1遺伝子の治療)(p<0.01)と同様の効能を有することが示された。
【0092】
確立した皮下LoVo腫瘍(50〜70mm)を保持するヌードマウスも、下記のように、1.10PFUの用量の表示ベクターを、静脈内に(尾部静脈により)処置した。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した11日後に、緩衝液+HO、または緩衝液+5−FC、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HOの1回の注射、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FC(5−FCは、ウイルス注射7日後、および3週間の間投与された)の1回の注射、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HOの2回の注射剤(11日目および33日目)、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FC(5−FCは、18日目から32日目まで、および40日目から54日目まで投与された)の2回の注射(11日目および33日目)で、マウスを処置した。動物を、100mg/kgの5−FCで1日2回、経口の胃管栄養法により処置した。腫瘍サイズは、週2回カリパスを使用して測定した。腫瘍体積は、式(p/6)(長さ×幅)を使用して、mmで計算した。図7に記載された結果は、1回または2回の注射後にウイルス単独では抗腫瘍活性がなかったことを示す。50日目までの媒体群とウイルス単独(5−FC無し)とを比較すると、5−FC処置を追加することにより、統計学的に有意な腫瘍成長の阻害が示される(p<0.05)。単回注射1回の場合と同様に、VVTK−I4L−/FCU1+5−FCの2回の静脈内注射により、媒体群とウイルス単独(5−FC無し)の2回注射とを比較すると、有意な抗腫瘍活性が示される(p<0.05)。更に、腫瘍進展における有意差は、5−FC処置と組み合わせたウイルスの1回注射と2回注射との間で56日目から観察される(p<0.05)。
【0093】
確立した皮下U87−MG(神経膠芽腫腫瘍細胞)を保持するヌードマウスを、1.10PFUの用量の表示ベクターで静脈内(尾部静脈)に、以下のように処置した。腫瘍(触知可能な腫瘍)を接種した11日後に、マウスを、緩衝液+HO、または緩衝液+5−FC、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+HO、または10pfuのVVTK−I4L−/FCU1+5−FCにより処理した。動物を、ウイルス注射7日後に、経口の胃管栄養法により1日2回で3週間、100mg/kgの5−FCで処置した。腫瘍サイズは、週2回カリパスを使用して測定した。腫瘍体積は、式(π/6)(長さ×幅)を使用して、mmで計算した。図8に記載された結果により、U87−MG細胞に対するVVTK−I4L−/FCU1の高い腫瘍崩壊活性が示され(p<0.0001)、それは強力な抗腫瘍活性に帰着する。経口の胃管栄養法による5−FC追加の併用活性は、同様の活性に帰着する(p<0.0001)。
【0094】
ウイルス病原性
ウイルス病原性を、Swissヌードマウス(図13)および免疫応答性B6D2マウス(図14)の両方に対して行なった生存研究で評価した。マウス1匹当たり100μlの緩衝液中の1.10または1.10PFUの全VVTK−/FCU1およびVVTK−I4L−/FCU1をマウスに注射した。実験期間中はマウスを毎日観察した。Swissヌードマウス(図13)においては、1×10PFUのVVTK−/FCU1を注射すると、感染3日後には動物の40%が死亡する結果となった。残りのマウスは、感染後50日目から80日目の間に死亡した。VVTK−I4L−/FCU1の投与は、それほど病原性ではなく、大多数の動物は65日目から140日目の間に死亡した(p<0.01)。毒性があるという証拠は、10pfuの両ウイルスでは観察されていない(図14(A))。10pfuのVVTK−/FCU1を静脈内注射した後、マウスは全て死亡した(図14(B))。VVTK−I4L−/FCU1処置群は、VVTK−/FCU1感染マウスと比較して、生存率が70%にまで著しく延長した(図14(B))。従って、この結果により、二重欠失ウイルスVVTK−I4L−/FCU1を用いた場合の毒性の減少が実証された。
【0095】
痘疹尾部病変モデル
Swissヌードマウスに、1.10図15および16)または1.10図17および18)PFUの各ウイルスを静脈内注射した。尾部病変を週1回計数した。図15(A)および図16(A)に示されているように、VVTK−/FCU1を注射され、感染後13日目のマウスでは平均8個の痘疹を有するマウスと比較して(p<0.001)、1.10PFUのVVTK−I4L−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1を注射されたマウスは、マウス1匹当たり1個未満の痘疹を有する。結果は、図15(B)および図16(B)に示されているように、注射後34日目では類似しており、VVTK−I4L−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1の場合のほぼ1個と比較して(p<0.0001)、VVTK−/FCU1では痘疹は平均4個である。感染後15日目では、平均10個の痘疹/マウスを有する1.10PFUのVVTK−/FCU1を注射されたマウスと比較して、1.10PFUのVVTK−I4L−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1を注射されたマウスは、平均3個の痘疹/マウスおよび平均2個の痘疹/マウスをそれぞれ有する(図17(A)および図18(A))。感染後31日目では、平均7個の痘疹/マウスを有するVVTK−/FCU1を注射されたマウスと比較して、VVTK−I4L−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1を注射されたマウスは、平均1.5個の痘疹/マウスおよび平均2個の痘疹/マウスをそれぞれ有する(図17(B)および図18(B))。VVTK−/FCU1とVVTK−l4L−/FCU1およびVVTK−F4L−/FCU1の両方との間の痘疹数の差は、統計学的に有意である(p<0.01)。痘疹形成は、尾部におけるウイルス複製と相関しており、病原性および毒性とも相関している。VVTK−I4L−/FCU1またはVVTK−F4L−/FCU1の静脈内注射は、単一欠失TKウイルスより毒性が少ない。
【0096】
統計分析
【0097】
統計分析は、ノンパラメトリックのマンホイットニーU検定およびSTATISTICA 7.1ソフトウェア(スタットソフト(StatSoft, Inc.)社製)を用いて実施した。P<0.05は、統計学的に有意であるとみなした。
【0098】
参考文献





【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠損I4Lおよび/またはF4L遺伝子を含んでなるポックスウイルスであって、但し前記ポックスウイルスがNYVACではない、ポックスウイルス。
【請求項2】
前記ポックスウイルスが、欠損J2R遺伝子を更に含んでなる、請求項1に記載のポックスウイルス。
【請求項3】
前記ポックスウイルスが、欠損F2L遺伝子を更に含んでなる、請求項1または2に記載のポックスウイルス。
【請求項4】
前記ポックスウイルスが、チョルドポックスウイルス亜科に属するものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポックスウイルス。
【請求項5】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス種に属するものである、請求項4に記載のポックスウイルス。
【請求項6】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス株コペンハーゲンである、請求項5に記載のポックスウイルス。
【請求項7】
前記ポックスウイルスが、目的の核酸を更に含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポックスウイルス。
【請求項8】
前記目的の核酸が、治療用分子をコードする少なくとも一つの目的の配列を含んでなる、請求項7に記載のポックスウイルス。
【請求項9】
前記目的の核酸が自殺遺伝子を含んでなる、請求項8に記載のポックスウイルス。
【請求項10】
前記自殺遺伝子が、少なくともシトシンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものである、請求項9に記載のポックスウイルス。
【請求項11】
前記自殺遺伝子が、FCY1、FCA1、もしくはCodA、またはそれらの類似体である、請求項10に記載のポックスウイルス。
【請求項12】
少なくともシトシンデアミナーゼ活性を有する前記タンパク質が、配列番号2に表されているFCU1−8ポリペプチドおよびその類似体である、請求項10に記載のポックスウイルス。
【請求項13】
前記自殺遺伝子が、少なくとも一つのシトシンデアミナーゼ活性と、一つのウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ活性とを有するタンパク質をコードするものである、請求項9に記載のポックスウイルス。
【請求項14】
前記自殺遺伝子が、配列番号3(coda::upp)、配列番号1(FCU1)、またはFCY1::FUR1のアミノ酸配列に表されるアミノ酸配列を実質的に含んでなるポリペプチドをコードするものである、請求項13に記載のポックスウイルス。
【請求項15】
前記ポックスウイルスが、パーミアーゼをコードする遺伝子を含む核酸配列を更に含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のポックスウイルス。
【請求項16】
パーミアーゼが、S.セレビシエのプリンパーミアーゼまたはシトシンペレミアーゼである、請求項15に記載のポックスウイルス。
【請求項17】
パーミアーゼが、FCY2およびFur4ならびにそれらの類似体を含んでなる群から選択されるものである、請求項16に記載のポックスウイルス。
【請求項18】
前記ポックスウイルスが、前記目的の核酸の発現に必要なエレメントを更に含んでなる、請求項7〜14のいずれか一項に記載のポックスウイルス。
【請求項19】
前記ポックスウイルスが、パーミアーゼをコードする遺伝子を含んでなる核酸配列の発現に必要なエレメントを更に含んでなる、請求項15〜17のいずれか一項に記載のポックスウイルス。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のポックスウイルスの製造方法であって、
(i)請求項1〜19のいずれか一項に記載のポックスウイルスを細胞へ導入する工程、
(ii)前記細胞を、前記ポックスウイルスの産生を可能にする適切な条件下で培養する工程、および
(iii)前記ポックスウイルスを前記細胞培養から回収する工程
を含む、製造方法。
【請求項21】
薬学上許容される賦形剤と組み合わせて、本請求項1〜19のいずれか一項に記載のポックスウイルスを含んでなる、組成物。
【請求項22】
5−フルオロシトシンの細胞毒性効果を増強する一つまたは複数の物質と組み合わせた、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
5−フルオロシトシンの細胞毒性効果を増強する前記物質が、好ましくはPALA、レフルノミド、およびA771726からなる群から選択されるピリミジンのデノボ生合成経路の酵素を阻害する薬物である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
5−フルオロシトシンの細胞毒性効果を増強する前記物質がメトトレキサートである、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
薬剤を製造するための、請求項1〜19のいずれか一項に記載のポックスウイルスまたは請求項21〜24のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項26】
癌治療用の薬剤を製造するための、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のポックスウイルスまたは請求項21〜24のいずれか一項に記載の組成物が、その治療を必要とする宿主生物または細胞に投与されることを特徴とする、疾患の治療方法。
【請求項28】
前記ポックスウイルスまたは組成物が、全身経路により投与されるものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
薬学上許容される量のプロドラッグが前記宿主生物または細胞に投与される追加の工程を更に含んでなる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記プロドラッグが、前記ポックスウイルスまたは組成物投与の好ましくは少なくとも3日後、より好ましくは少なくとも4日後、および更により好ましくは少なくとも5日後に投与されるものである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記プロドラッグが、前記ポックスウイルスまたは組成物投与の7日後に投与されるものである、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−504104(P2011−504104A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533510(P2010−533510)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009720
【国際公開番号】WO2009/065546
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(599082883)トランジェーヌ、ソシエテ、アノニム (32)
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE S.A.
【Fターム(参考)】