説明

ポリアミドイミド樹脂組成物及びこれを用い硬化させた硬化物、塗料、摺動用部品

【課題】 基材が変形した際に基材から界面剥離を抑制できる基材との密着性に優れ、耐熱性を有するポリアミドイミド樹脂組成物と、それを用いた硬化物、保護コート用塗料、摺動用部品を提供する。
【解決手段】 ポリアミドイミド樹脂100単位あたりにポリユリア構造(―NHCOHN―)を1〜10単位含むように反応させて得られる数平均分子量が15,000〜50,000のポリアミドイミド樹脂を含むポリアミドイミド樹脂組成物。ジイソシアネート化合物とジアミン化合物を反応させ、さらに酸無水物基を有する3価のカルボン酸と反応させポリアミドイミド樹脂を合成することが好ましい。酸無水物基を有する3価のカルボン酸が、トリメリット酸無水物で、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物が、ジフェニルメタン構造誘導体、ビフェニル構造誘導体、ナフタレン構造誘導体のいずれか1以上であると好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱樹脂であるポリアミドイミド樹脂組成物及びこれを用い硬化させた硬化物、塗料、摺動用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、その良好な耐熱性、耐溶剤性(耐薬品性)、機械的性質などから電気絶縁用塗料や各種基材のコーティング材、摺動部のバインダー樹脂として広く用いられている。通常のポリアミドイミド樹脂は、三価のカルボン酸と、アミン又はイソシアネート類と反応させて合成される。得られたポリアミドイミド樹脂(ポリマー)は、線状になり、加熱することによって反応し硬化する。硬化したポリアミドイミド樹脂は、硬く、基材に塗布した塗膜は硬すぎると基材が変形した際、界面剥離する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-277336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基材が変形した際に基材から界面剥離を抑制できる基材との密着性に優れ、耐熱性を有するポリアミドイミド樹脂組成物と、それを用いた硬化物、保護コート用塗料、摺動用部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂構造中にポリユリア構造を導入することにより、高温でユリア構造を分解させ(水によるアタックもある)、アミノ基やカルボキシル基を増やし、分解により低分子量化したポリアミドイミド樹脂の硬化時に架橋の割合を増加させ、硬さを柔らかくし、ガラス転移温度を下げる手法である。硬さが柔らかくなり、接着性に寄与する官能基を増やし、基材が変形した際に基材から界面剥離を防ぐものと推定する。
ポリアミドイミド樹脂の構造中にポリユリア構造を導入するため、ポリアミドイミド樹脂合成として、ジアミンとイソシアネート化合物を反応させた後、三価のカルボン酸を反応させユリア構造を有するポリアミドイミドを得ることができる。
本発明は、[1]ポリアミドイミド樹脂100単位あたりにポリユリア構造(―NHCOHN―)を1〜10単位含むように反応させて得られる数平均分子量が15,000〜50,000のポリアミドイミド樹脂を含むポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[2]ジイソシアネート化合物とジアミン化合物を反応させ、さらに酸無水物基を有する3価のカルボン酸と反応させる上記[1]に記載のポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[3]酸無水物基を有する3価のカルボン酸が、トリメリット酸無水物である上記[1]又は[2]に記載のポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[4]ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物が、ジフェニルメタン構造誘導体、ビフェニル構造誘導体、ナフタレン構造誘導体のいずれか1以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物に関する。
また、本発明は、[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を硬化させた硬化物に関する。
また、本発明は、[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を被塗物に塗布し、硬化させた保護コート用塗料に関する。
また、本発明は、[7]上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物をバインダーとして用いた摺動用部品に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、基材の変形した際の密着性が良好であることから、塗装後基材を変形させる用途、熱で基材が変形する用途などで非常に有効である。そのため、本発明のポリアミドイミド樹脂構造中にポリユリア構造を導入したポリアミドイミド樹脂を用いた硬化物、それを塗料、バインダーとして用いた摺動用部品も同様に熱と共に変形が加わる用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物の主成分であるポリアミドイミド樹脂(以降PAI樹脂ということもある)の製造には、一般に酸無水物基を有する3価のカルボン酸成分と、イソシアネートとジアミンを使用することができる。
本発明では、前記3価のカルボン酸成分として、屈曲性、保存安定性およびコストの点でトリメリット酸無水物が好ましい。また、該トリメリット酸無水物と、その他のイソシアネート基とアミノ基と反応する酸無水物基を有する3価のカルボン酸の誘導体を併用することができる。このような誘導体としては、例えば式(I)、(II)で示す化合物を好ましいものとして使用することができる。
【0008】
【化1】

(ただし、両式中、Rは水素を示し、Yは−CH2−、−CO−、−SO2−、又は−O−を示す。)
【0009】
本発明で用いるジイソシアネート化合物とジアミン化合物としては、ジフェニルメタン構造誘導体やビフェニル構造誘導体、ナフタレン構造誘導体のイソシアネートとアミンを必須成分として用いる。
また、イソシアネート単体でも、水と反応させることによって、ユリア構造を作製することが可能である。これを必須成分とすることにより、寸法安定性及び機械的特性の強度、弾性率を向上させる効果を奏する。
例えば、ジイソシアネート化合物として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-ジフェニルメタンイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジフェニルメタンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
ジアミン化合物として、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4-ジアミノジフェニルメタン、3,4-ジアミノジフェニル、2,4-ジアミノビフェニル、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、3,3’-ヒドロキシル-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
また、柔軟性を持たせるため、1,4-ジアミノブタン等脂肪族のアミンを用いることができる。またイソシアネートとしては、ブロック剤でイソシアネート基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0010】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、上記のジイソシアネート化合物とジアミン化合物を反応させる、又はジイソシアネート化合物のみに水を加えて作製したポリユリア構造に、さらに酸無水物基を有する3価のカルボン酸を反応させて得ることができる。また、この反応は、ジイソシアネート化合物とジアミン化合物と酸無水物基を有する3価のカルボン酸存在下でも可能で、後者の1段又は前者の2段で合成できる。
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、上記で得られるポリアミドイミド樹脂を主成分とし、未反応物や中間反応物や溶剤、添加剤を含むものである。
【0011】
本発明は、前記ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、15,000〜50,000のものであるポリアミドイミド樹脂を含むポリアミドイミド樹脂組成物である。数平均分子量が、15,000未満であると、硬化後の塗膜が脆くなる傾向にある。一方、50,000を超えると、フィルムとしての成形性、厚み精度等において劣る傾向がある。さらに、貯蔵安定性が著しく悪くなる傾向にある。
【0012】
また、本発明のポリアミドイミド樹脂は、アミド基/イミド基の量を変化させることが可能で、アミド基を増加させる場合は、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等)等や脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等)、また、アクリル変性の末端カルボン酸など変性カルボン酸を用いることができる。
イミド基を増加させる場合は、酸無水物として、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-[2,2,2]-オクト-7-エン-2:3:5:6-テトラカルボン酸二無水物等を用いることができる。
【0013】
本発明のポリアミドイミド樹脂のアミド基/イミド基の比率は、75/25〜30/70が好ましく、70/30〜37/63が最も好ましい。このアミド基とイミド基の比率は、フィルムの伸び性や柔軟性を向上させる場合にはアミド基を増加させると効果が大きく、フィルムの加熱質量減少からの耐熱性を向上させる場合やガラス転移温度を向上させる場合には、イミド基を増加させると効果が大きい。
ポリユリア構造(ウレア構造)は、150℃付近から解離結合反応を起こす。そのことは、硬化しない樹脂粉末を加熱することによって確認ができる。
【0014】
ジイソシアネート化合物とジアミン化合物そして酸無水物基を有する3価のカルボン酸との配合割合、又は、ジイソシアネート化合物と水そして酸無水物基を有する3価のカルボン酸の配合割合は、該酸成分のカルボキシル基及び酸無水物基の総数に対するイソシアネート基又はアミノ基の総数比(イソシアネート基又はアミノ基の総数/酸成分のカルボキシル基及び酸無水物基の総数)が、0.8〜1.2となるようにすることが好ましく、0.9〜1.1となるようにすることがより好ましく、0.95〜1.05となるようにすることが特に好ましい。0.8未満又は1.2を超えると、ポリアミドイミド樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向がある。
【0015】
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準スチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより管理される。
【0016】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物中のポリアミドイミド樹脂を加熱することで、硬化させることができ、物体の表面にポリアミドイミド樹脂組成物を形成し、溶剤を除去して加熱することでポリアミドイミド樹脂の硬化物を得ることができる。これをそのまま、あるいは、染料や顔料を混合し保護コート用塗料とすることができる。ポリアミドイミド樹脂中の末端に存在するアミノ基、カルボキシル基、さらには、分子鎖中のアミド基が分子間、分子内で反応し架橋する。さらに、硬化剤としては多官能エポキシ化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物等を配合し、より硬化させることができる。これらの硬化剤の中では多官能エポキシ化合物が好ましくビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、フェノキシ型、ビフェノール型等が挙げられ、その中でもビスフェノールA型、フェノールノボラック型、ビフェノール型が硬化性、耐摩耗性から好ましい。これらの硬化剤の配合量は硬化剤にもよるが、ポリアミドイミド樹脂固形物100質量部に対して1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部である
【0017】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物をバインダーとして、固体潤滑剤が金属硫化物、フッ素化合物、グラファイト等から選ばれる少なくとも1種以上を選び配合することで摺動用部品を得ることができる。一般的には、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、固体潤滑剤を5〜500質量部を配合する。例えば、MoS(二硫化モリブデン)とグラファイトを分散させ、高荷重の摺動特性に優れた被膜や成形品とした摺動用部品を作製できる。上記の固体潤滑剤の金属硫化物として、二硫化モリブデン、二硫化タングステンが挙げられ、フッ素化合物として、ポリテロラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、トリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、さらに粒子径が0.1μm〜10μmの窒化珪素、アルミナ、炭化珪素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、およびシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を、5〜200質量部含有することもできる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
数平均分子量が15,000〜50,000のポリアミドイミド樹脂の合成
(合成例1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに酸成分としてトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)とイソシアネート成分として、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート262.8g(1.05モル)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン9.9g(0.05モル)、N−メチル−2−ピロリドン945.5gを仕込み、130℃まで昇温し、約7時間反応させて数平均分子量19,000のポリアミドイミド(PAI)樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液をN−メチル−2−ピロリドンで希釈して粘度2.4Pa・s(25℃)、不揮発分29.0質量%のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液を樹脂1とする。
【0020】
(合成例2)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにイソシアネート成分として3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル105.7g(0.40モル)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン9.9g(0.05モル)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート155.2g(0.62モル)をN−メチル−2−ピロリドン406.2g中で、70℃で1時間合成する。酸成分としてトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、N−メチル−2−ピロリドン288.2gを仕込み、130℃まで昇温し、約6時間反応させて数平均分子量22,000のPAIを得た。このPAI樹脂溶液をN−メチル−2−ピロリドンで希釈しての、粘度2.6Pa・s(25℃)、不揮発分28.0質量%のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液を樹脂2とする。
【0021】
(合成例3)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに酸成分としてのトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、イソシアネート成分として3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル105.7g(0.40モル)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン19.8g(0.1モル)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート175.2g(0.7モル)及びN−メチル−2−ピロリドン739gを仕込み、130℃まで昇温し、8時間反応させて数平均分子量19,500のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液をN−メチル−2−ピロリドンで希釈して粘度3.2Pa・s(25℃)、不揮発分30.0質量%のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液を樹脂3とする。
【0022】
(合成例4)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに酸成分としてのトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、イソシアネート成分としてトルエンジイソシアネート69.7g(0.40モル)、4,4'−ジアミノジフェニルメタン19.8g(0.1モル)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート175.2g(0.7モル)及びN−メチル−2−ピロリドン685gを仕込み、130℃まで昇温し、8時間反応させて数平均分子量19,500のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液をN−メチル−2−ピロリドンで希釈して粘度3.2Pa・s(25℃)、不揮発分30.0質量%のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液を樹脂4とする。
【0023】
(比較例1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに酸成分としてトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)とイソシアネート成分として、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート250.3g(1.0モル)N−メチル−2−ピロリドン667gを仕込み、130℃まで昇温し、約6時間反応させて数平均分子量18,000のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液をN−メチル−2−ピロリドンで希釈して粘度2.9Pa・s(25℃)、不揮発分29.0質量%のPAI樹脂溶液を得た。このPAI樹脂溶液を比較例1とする。
【0024】
<試験方法>
(1)引っかき強度(鉛筆法)
PAI樹脂溶液をアルミニウム板A1050P(寸法;1mm×50mm×150mm)上に塗布した後、200℃で60分間加熱硬化し、膜厚が約20μmの塗膜を形成した。得られた塗膜板を用いて鉛筆による引っかき強度試験を行い、塗膜に傷がつかない鉛筆硬度を記載した。
【0025】
(2)密着性試験(クロスカット試験)
PAI樹脂溶液をアルミニウム板A1050P(寸法;1mm×50mm×150mm)上に塗布した後、200℃で60分間加熱硬化し、膜厚が約20μmの塗膜を形成した。カッターで1mmの碁盤目100個(10個×10個)を作り、セロハンテープにより剥離試験を5回行い、剥離していない碁盤目の割合(クロスカット残率;%)を測定した。
【0026】
(3)機械的特性(機械的強度、弾性率及び伸び率の測定)
PAI樹脂溶液をガラス板上に塗布し、200℃で30分間加熱硬化し、ガラス板から剥がし、膜厚が約20μm、幅10mm、長さが60mmの塗膜を形成した。得られた塗膜を、引張試験機を用いて、チャック間長さ20mm、引張速度5mm/分の条件で引張試験を行い、機械的特性を求めた。
【0027】
(4)エリクセン試験
アルミニウム板A1050P(寸法;1mm×50mm×150mm)上に塗布し下記のように加熱硬化し膜厚が約20μmの塗膜を形成した。
塗膜硬化条件:80℃のホットプレートで30分間硬化させ、さらに、熱風箱型乾燥機中270℃で30分間硬化させた。膜厚が約15μm。エリクセン試験器で基板を5mm押し出し、押し出した部位でカッターで1mmの碁盤目100個(10個×10個)を作り、セロハンテープにより剥離試験を5回行い、剥離していない碁盤目の割合(クロスカット残率;%)を測定した。
【0028】
(5)熱特性
塗膜硬化条件:80℃のホットプレートで30分間硬化させ、さらに、熱風箱型乾燥機中240℃で30分間硬化させた。膜厚が約35μm、5質量%質量減少温度をエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TG-DTA測定装置で空気気流下、10℃/分で昇温し、初期から5%質量減少した温度を測定した。
(6)ガラス転移温度
TMA(熱機械分析装置)を用い、Extensionモードで10℃/分で昇温しガラス転移温度を測定した。
【0029】
上記で合成したPAI樹脂溶液の樹脂1、2、3、4をそれぞれ実施例1〜4とし、上記試験方法で得られた測定結果をまとめて表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1のエリクセン試験結果より、ウレア結合を導入した実施例1〜4のポリアミドイミド樹脂は基材が変形した際の密着性が向上していることが分かる。また、ガラス転移温度や機械的特性に大きな変化がないと判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂100単位あたりにポリユリア構造(―NHCOHN―)を1〜10単位含むように反応させて得られる数平均分子量が15,000〜50,000のポリアミドイミド樹脂を含むポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項2】
ジイソシアネート化合物とジアミン化合物を反応させ、さらに酸無水物基を有する3価のカルボン酸と反応させる請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項3】
酸無水物基を有する3価のカルボン酸が、トリメリット酸無水物である請求項1又は請求項2に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項4】
ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物が、ジフェニルメタン構造誘導体、ビフェニル構造誘導体、ナフタレン構造誘導体のいずれか1以上である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を硬化させた硬化物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を被塗物に塗布し、硬化させた保護コート用塗料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物をバインダーとして用いた摺動用部品。

【公開番号】特開2012−153821(P2012−153821A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15154(P2011−15154)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】