説明

ポリアミド樹脂板状体

【課題】優れた摺動性及び機械的強度を有するポリアミド樹脂板状体を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂層(11)と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層(12)とからなるポリアミド樹脂板状体(1)であって、少なくとも片面がポリアミド樹脂層(11)であり、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂層(11)の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体(1)の総厚みに対して10〜50%である、ポリアミド樹脂板状体(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂板状体に関し、詳しくは、優れた摺動性及び機械的強度を有するポリアミド樹脂板状体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド、特にモノマーキャストナイロンは自己潤滑性があり、磨耗に耐えるので、無給油で使用する軸受けや各種摺動部材等の材料として用いられている。ポリアミドの摩擦係数低減、磨耗量の低減等を目的として、マイクロクリスタリンワックス等のワックス類を添加することがなされている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、ワックス類と原料であるε−カプロラクタムとの相溶性が悪く、摺動性、特にスティック−スリップ現象を改良するためにワックス類を増量すると、製品成形時にワックスとε−カプロラクタムとが分離してしまい、添加量が40質量部を超えると、外観および品質面で良好な製品を得られにくくなる場合があり、また、ワックス添加量の増加と共に機械的強度も低下し、ナイロンの強度を保持することができなくなる。さらに、添加量が著しく多い場合には、重合反応が進まず、成形体を得ることができないこともある。
【0003】
最近、上記モノマーキャストナイロンを使用した摺動部材の用途として、地震発生時に建築物等に加わる応力を減少させるためのすべり免震装置への適用や、クレーン等における摺動部分のガイドへの適用が検討されている。このような用途では、低速かつ高荷重という使用条件となるために、要求特性として優れた摺動性及び機械的特性が要求され、いわゆるスティック−スリップ現象が発生しないことが要求される。
【0004】
スティック−スリップ現象の発生のメカニズムは、以下の(a)〜(d)の現象の繰り返しによる振動現象が要因であると推察される。
(a)面圧がかかった摺動体が、摺動相手材に密着している状態で外力が加わると摺動体が弾性変形する。
(b)相手材との密着面は、静摩擦力によりすぐには動かない。
(c)さらに運動外力が加わると、密着面は静摩擦力に耐え切れずに相手材上を瞬間的(弾性挙動的)に滑る。
(d)外力から開放されると同時に、動摩擦力で相手面に再度密着する。
スティック−スリップ現象の抑制のためには、(a)〜(c)に見られるような現象を抑制させる必要があり、具体的には、静摩擦係数と動摩擦係数との差(Δμ)を小さくさせる必要がある。また、(d)に見られるような再度相手材へ密着しにくくさせるために、動摩擦係数の振れ幅を小さくさせる必要がある。
【0005】
ポリアミド樹脂での機械的強度を向上させる手段として、ガラス繊維等の無機充填剤や炭素繊維等を樹脂中に分散させることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、無機充填剤を樹脂中に分散させた場合、機械的強度は向上するが、摩擦係数が増大して摺動性が低下するという問題があり、満足な特性が得られにくかった。炭素繊維を添加する場合には、機械的強度と摺動性は改善させることができるが、モノマーキャストナイロン成形の特性上、沈降や分散不良の問題が発生し、均一な成形体を得ることはできない。
なお、摺動部材としてはフッ素系材料も知られているが(例えば、特許文献3を参照)、フッ素系材料はポリアミド樹脂に比べて機械的強度が低いため、前記用途に用いることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−143975号公報
【特許文献2】特開2007−224118号公報
【特許文献3】特開2004−190804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、優れた摺動性及び機械的強度を有するポリアミド樹脂板状体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のポリアミド樹脂板状体を提供する。
[1]ポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層とからなるポリアミド樹脂板状体であって、少なくとも片面がポリアミド樹脂層であり、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%である、ポリアミド樹脂板状体。
[2]前記ポリアミド樹脂が、環状アミドを重合してなるモノマーキャストナイロンである、前記[1]に記載のポリアミド樹脂板状体。
[3]前記ポリアミド樹脂が、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンである、前記[1]又は[2]に記載のポリアミド樹脂板状体。
[4]前記繊維布がガラスクロスである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
[5]前記ポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)が0.015以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
[6]厚さが3〜30mmである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂板状体は、優れた摺動性及び機械的強度を有し、すべり免震装置やクレーン等における摺動部分のガイド等の用途に好ましく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリアミド樹脂板状体の好ましい一実施形態の断面図である。
【図2】本発明のポリアミド樹脂板状体の別の好ましい一実施形態の断面図である。
【図3】本発明のポリアミド樹脂板状体の製造方法の好ましい一実施形態を示す概略工程図であり、図3(a)は、外型内に繊維布を載置した後に重合用組成物を外型内に注型する工程を示し、図3(b)は、外型内に内型を嵌合し、重合用組成物を重合・成形させる工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施態様について、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図の説明において同一の要素には同一の符号を付す。
【0012】
[ポリアミド樹脂板状体]
図1は、本発明のポリアミド樹脂板状体の好ましい一実施形態の断面図である。本発明のポリアミド樹脂板状体1は、ポリアミド樹脂層11と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層12とからなり、ポリアミド樹脂層11と繊維布強化層12とは一体化している。
なお、板状体の形状は図示したような平面状のものでも、若干湾曲した曲面状のものでもよい。また、本発明のポリアミド樹脂板状体1は、少なくとも片面がポリアミド樹脂層11であり、図示したように片面のみがポリアミド樹脂層11であってもよく、繊維布強化層12を挟むように2層のポリアミド樹脂層11を配置し、両面がポリアミド樹脂層であってもよい。
【0013】
本発明のポリアミド樹脂板状体は、摺動性、機械的強度及び成形性の観点から、ポリアミド樹脂板状体中のポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部、好ましくは10〜20質量部を含有する。
ワックス類としてはポリアミド樹脂に通常使用されるものが使用でき、例えば、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムワックス、水添ポリ−α−オレフィンワックス、パラフィンワックス、イソパラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
ワックス類は、重合用組成物中に含有させて重合を行うことで、ポリアミド樹脂中に分散させることができる。重合用組成物中のワックス類の含有量は、使用するワックスの種類等により異なるが、摺動性及び成形性の観点から、ポリアミド樹脂のモノマーである環状アミド100質量部に対して、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは10〜20質量部である。ワックス類の含有量が5質量部未満の場合には、スティック−スリップ現象が発生して摺動性能が発現せず、40質量部を超えた場合には、ワックスの分離および重合反応性の低下により、良好な成形体を得ることができない。
【0015】
ポリアミド樹脂層11の厚さは、機械的強度及び摺動性の観点から、0.5mm以上であり、好ましくは1.0〜5.0mm、より好ましくは1.0〜2.0mmであり、また、板状体1の総厚みに対して10〜50%であり、好ましくは10〜30%、より好ましくは10〜20%である。
ポリアミド樹脂板状体1全体の厚さは、特に限定されず、用途に応じて適宜決定することができるが、好ましくは3〜30mm、より好ましくは5〜15mmである。
【0016】
(ポリアミド樹脂層)
ポリアミド樹脂層11は、本発明のポリアミド樹脂板状体1において優れた摺動性を奏する役割を果たす。ポリアミド樹脂層11は、摺動性の観点から、繊維を含有しない。
ポリアミド樹脂層11を構成するポリアミド樹脂は、摺動性及び機械的強度の観点、並びに効率的な製造の観点から、モノマーキャストナイロンであることが好ましく、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンであることが好ましい。モノマーキャストナイロンは、後述するように環状アミドをモノマーキャスト法により重合させて製造することができる。環状アミドとしては、炭素数4〜12のω−ラクタム、γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクタム、ω−エナントラクタム、ω−カプリロラクタム、ω−ラウロラクタム、又はこれら2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ε−カプロラクタムが好ましい。
【0017】
(繊維布強化層)
繊維布強化層12は、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維強化樹脂層である。
本発明において、「ポリアミド樹脂が含浸した」とは、繊維布をポリアミド樹脂で完全に浸すことにより、ポリアミド樹脂が繊維布の細部まで入り込み、繊維布の内部に空隙が存在しない状態、好ましくは重合している状態をいう。
【0018】
繊維布は、熱処理によってサイジング剤を除去した後、ポリアミド樹脂とガラス繊維布との接着性を強化させるシランカップリング処理等を行ったものを使用することが好ましい。繊維布強化層12は、本発明のポリアミド樹脂板状体1において機械的強度を向上させる役割を果たす。
【0019】
繊維布強化層12を構成するポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂板状体1を効率的に製造する観点、並びに高荷重条件下での使用の際にポリアミド樹脂層11と繊維布強化層12とが分離するのを防止する観点から、ポリアミド樹脂層11を構成するポリアミド樹脂と同一のポリアミド樹脂である。
【0020】
本発明に用いられる繊維布は、織布(織物)であっても不織布であってもよいが、織物であることが好ましい。本発明のポリアミド樹脂板状体は、後述するようにモノマーキャスト法により製造されるため、短繊維やフィラー等を用いた場合には、板状体全体が繊維強化樹脂となってしまい、繊維を含有しないポリアミド樹脂層を形成することができない。
本発明に用いることができる繊維布としては、有機繊維布であっても無機繊維布であってもよいが、吸湿性のものや、ポリアミド樹脂の重合反応を阻害するものは好ましくない。本発明に用いることができる繊維布の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維等からなる繊維布を挙げることができる。中でも、機械的強度及び経済性の観点から、ガラス繊維又は炭素繊維からなる繊維布が好ましく、ガラス繊維からなる繊維布がより好ましく、ガラスクロスが好適に使用できる。ガラスクロスはガラス繊維を縦横に編んで、平織等の布状にしたものである。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂板状体の別の好ましい一実施形態として図2に示すように、本発明のポリアミド樹脂板状体における繊維布強化層12側の面は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有せずポリアミド樹脂からなる部分を有していてもよい。
【0022】
[ポリアミド樹脂板状体の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂板状体は、特に限定されないが、好ましくは以下の工程(a)及び(b)を有する方法により製造することができる。
工程(a):外型内に繊維布を載置した後、環状アミド、重合触媒、重合助触媒及びワックス類を含有する重合用組成物を、前記繊維布が完全に浸り、ポリアミド樹脂層が得られるように前記外型内に注型する工程。
工程(b):前記外型内に内型を嵌合し、加熱・加圧下で前記重合用組成物を重合・成形させる工程。
上記方法は、モノマーキャスト法を利用した方法であり、液状の環状アミドを使用して、繊維布にポリアミド樹脂を含浸させるのと同時にポリアミド樹脂板状体を成形することができ、工程数が少なく、また繊維の細部までポリアミド樹脂を含浸させることができるため好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂板状体の製造方法の好ましい一実施形態について、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明のポリアミド樹脂板状体の製造方法の好ましい一実施形態を示す概略工程図であり、図3(a)は、外型内に繊維布を載置した後に重合用組成物を外型内に注型する工程を示し、図3(b)は、外型内に内型を嵌合し、重合用組成物を重合・成形させる工程を示す。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂板状体は、外型21と、該外型21内に嵌合する内型22とからなる成型器2を用いて製造される。内型22において、外型21と接触する部分には、パッキング部材23を設けることが好ましい。成型器2は、加熱手段を備えることが好ましい。
【0025】
(工程(a))
まず、図3(a)に示すように、外型21内に繊維布3を載置する。載置される繊維布3の厚さは、得られるポリアミド樹脂板状体の厚さや用途等に応じて適宜決定される。ポリアミド層の厚みを制御する方法として、注型する前に一度型締めし、繊維布表面を平滑にし、付与させるポリアミド層の厚みが均一になるようにすることが好ましい。
外型21内に繊維布3を載置した後、環状アミド、重合触媒、重合助触媒及びワックス類を含有する重合用組成物4を、繊維布3が完全に浸り、ポリアミド樹脂層が得られるように外型21内に注型する。重合触媒及び重合助触媒としては、任意のものを使用することができる。
【0026】
重合触媒としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれら金属の水素化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、アルキル化物、アルコキシドやグリニャール化合物、及びこれらとω−ラクタムとの反応生成物等が挙げられる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、メチルナトリウム、エチルナトリウム、メチルカリウム、エチルカリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート、メチルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムブロマイド等が挙げられる。これらの重合触媒は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
重合用組成物4中の重合触媒の含有量は、環状アミドに対して、好ましくは0.1〜15モル%であり、より好ましくは3〜8モル%である。
【0027】
重合助触媒としては、イソシアネート類、アシルラクタム類、カルバミドラクタム類、酸ハライド類、尿素誘導体等を挙げることができ、単官能性のものや二官能性のものを挙げることができる。例えば、単官能性の重合助触媒としては、n−ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、オクチルイソシアネート、N−アセチル−ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンビスカルバミドカプロラクタム、1,3−ジフェニル尿素等が挙げられる。また、二官能性の重合助触媒としては、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらの重合助触媒は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
重合用組成物4中の重合助触媒の含有量は、環状アミドに対して、好ましくは0.02〜1モル%であり、より好ましくは0.1〜0.5モル%である。
【0028】
重合用組成物4中のワックス類の含有量については、上述のとおりである。
【0029】
(工程(b))
次に、図3(b)に示すように、外型21内に内型22を嵌合し、加熱・加圧下で重合用組成物4を重合・成形させる。これにより、ポリアミド樹脂の重合と同時にポリアミド樹脂板状体を成形することができ、特に、摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が平滑で摺動性に優れたポリアミド樹脂板状体を成形することができる。反応条件は、モノマー及び重合触媒の種類、並びに得られるポリアミド樹脂板状体の大きさ及び形状等に応じて適宜決定される。反応温度は、通常130〜200℃である。圧力は、好ましくは0.1〜1.0MPa程度である。反応時間は、好ましくは10分〜1時間程度である。
【0030】
また、本発明のポリアミド樹脂板状体は、上記方法以外の方法で製造することもできる。上記方法では、重合用組成物を大気下で外型内に注入してから外型内に内型を嵌合して加圧しているが、重合用組成物の注入方法は特に限定されない。例えば、外型内にガラス繊維布を載置してから内型を嵌合した後に型内を負圧にし、その差圧を利用して重合用組成物を型内に注入することもできる。また、窒素等の不活性ガスを用いた圧力もしくは液送ポンプによって重合用組成物を型内へ注入することもできる。
【0031】
[ポリアミド樹脂板状体の物性]
本発明のポリアミド樹脂板状体は、摺動性に優れたポリアミド樹脂層と、機械的強度を有する繊維布強化層とからなり、優れた摺動性及び機械的強度の両方を有する。
本発明のポリアミド樹脂板状体におけるポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2(19.6MPa)における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)は、相手材が無潤滑の鉄プレートである場合、好ましくは0.015以下、より好ましくは0.010以下、更に好ましくは0.005以下である。本発明のポリアミド樹脂板状体は、低速かつ高荷重条件下でスティック−スリップ現象が発生しない。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂板状体は、優れた摺動性及び機械的強度を有し、すべり免震装置やクレーン等における摺動部分のガイド等の用途に好ましく適用することができる。本発明のポリアミド樹脂板状体の中でも、1層のポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層とからなる2層構造の板状体の場合、一方の面(ポリアミド樹脂層側の面)のみが摺動性に優れ、他方の面(繊維布強化層側の面)は摺動性が低い。そのため、例えば建物等のすべり免震装置等の用途に適用したときに、所定の位置への固定をより確実なものとすることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例及び比較例で行った性能評価方法について示す。
[性能評価方法]
(1)成形性
得られたポリアミド樹脂板状体の外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:ポリアミド樹脂層及び繊維布強化層に含有されるワックスが均一に分散し、繊維布強化層においてガラス繊維の内部までポリアミド樹脂が均一に含浸し、得られた板状体の外観に問題なかった。
×:ポリアミド樹脂層表面に凹凸が見られ、また、繊維布強化層の表面に、ガラス繊維へのポリアミド樹脂の含浸が不十分な部分が見られた。
【0035】
(2)スティック−スリップ特性(動摩擦係数の変位)
スティック−スリップ評価用試験片として、得られた所定の厚さのポリアミド樹脂板状体を幅25mm×長さ40mmに切り出したものを用いた。測定面は、#320で研磨後、表面粗さRaが0.6〜1.0の範囲に入るように調整した。無潤滑の鉄製プレート(S45Cプレート、#320で研磨、表面粗さRa=0.1)を相手材として用いた。測定は、23℃で行った。
水平に配置した鉄製プレート上に、摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が下になるように試験片を配置し、面圧100kg/cm2(9.8MPa)で試験片を加圧した状態で、上記鉄製プレートを片道400mmの距離を速度5cm/分にて往復運動させたときの摩擦力を測定し、動摩擦係数μk=f(摩擦力)/[F(面圧)×s(摺動面積)]の関係式に従って動摩擦係数を算出した。
動摩擦係数について経時的にモニタリングして、以下の基準でスティック−スリップ特性を評価した。
○:鉄製プレートを片道400mm運動させたときの動摩擦係数の最大変位が±0.005未満であり、スティック−スリップ現象が発生しない。
×:鉄製プレートを片道400mm運動させたときの動摩擦係数の最大変位が±0.005以上であり、スティック−スリップ現象が発生する。
【0036】
(3)スティック−スリップ特性(静摩擦係数及び動摩擦係数)
摩擦係数測定用試験片として、得られた所定の厚さのポリアミド樹脂板状体を幅25mm×長さ40mmに切り出したものを用いた。測定面は、#320で研磨後、表面粗さRaが0.6〜1.0の範囲に入るように調整した。無潤滑の鉄製プレート(S45Cプレート、#320で研磨、表面粗さRa=0.1)を相手材として用いた。測定は、23℃で行った。
万能試験機(商品名:UH−500kNA、島津製作所社製)を用いて静摩擦係数及び動摩擦係数の測定を行った。試験片を2つ用意して、鉄製プレートを両側から挟むように2つの試験片を配置した。このとき、それぞれの試験片の摺動面(ポリアミド樹脂層側の面)が鉄製プレートに接触するように配置した。試験片をそれぞれ面圧200kg/cm2(19.6MPa)で加圧した状態で、上記鉄製プレートを速度5mm/分にて摺動させたときの摩擦力を測定し、摩擦係数μ=f(摩擦力)/[2×F(面圧)×s(摺動面積)]の関係式に従って静摩擦係数及び動摩擦係数を算出した。
【0037】
実施例1
(ポリアミド樹脂板状体の製造)
ステンレス鋼製ビーカーに無水のε−カプロラクタム50質量部を採り、140〜150℃に調整した。これに重合助触媒のトリレンジイソシアネート0.7質量部を加えた。更に予め溶融しておいた石油系ワックス(1)(商品名:Hi−Mic1080、日本精鑞社製、融点84℃)及び石油系ワックス(2)(商品名:NPS−9210、日本精鑞社製、融点75℃)を、それぞれε−カプロラクタム100質量部に対してワックス(1)15質量部及びワックス(2)2質量部で配合し、均一に撹拌した。
別のステンレス鋼製ビーカーに無水のε−カプロラクタム50質量部を採り、これに重合触媒のラクタム酸ナトリウム(濃度20質量%)5質量部を加え、120〜130℃に調整し、系を均一化した。
ついで、165℃に加熱保持した凹金型内部にガラス繊維平織クロス(ユニチカ社製、商品名:ガラスロービングクロス)を7mm厚さに載置し、ガラス繊維平織クロスへの含浸量及び所定の樹脂層厚さに相当する量の上記配合組成物を金型内部に注入し、型締めを行った。注入は1分で完了した。圧力として0.3MPaを加え、金型温度を165℃に保持したまま、30分間保持した。その後に脱型し、ポリアミド樹脂板状体を得た(全厚さ:8mm、ポリアミド樹脂層の厚さ:1mm)。
【0038】
実施例2及び3、並びに比較例1及び2
ポリアミド樹脂層の厚さを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
【0039】
実施例4及び比較例3
板状体全体の厚さを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例3と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
【0040】
実施例5及び6、並びに比較例4及び5
ワックス(1)の含有量を表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
【0041】
実施例7
ポリアミド樹脂層の厚さと板状体の総厚みを表1に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂板状体を得た。
【0042】
実施例1〜7及び比較例1〜5で得られた板状体について、スティック−スリップ特性及び摩擦係数についての評価を行い、その結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、ポリアミド樹脂層の厚さが、板状体の全体の厚さに対して10〜50%の範囲外である比較例1〜3のポリアミド樹脂板状体は、スティック−スリップ現象が発生して摺動性に劣るか、もしくは成形性が不十分である。また、ワックス類の含有量が少なすぎる比較例4では、スティック−スリップ現象が発生して摺動性に劣り、ワックス類の含有量が多すぎる比較例5では成形性に劣り、ポリアミド樹脂板状体のポリアミド樹脂層側の表面に凹凸が生じ、摺動部材製品として品質に劣ることがわかる。
これらに対し、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%の範囲内である実施例1〜7のポリアミド樹脂板状体は、スティック−スリップ現象が発生せず、優れた摺動性を有し、しかも成形性に優れ、摺動部材製品として品質に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
1 ポリアミド樹脂板状体
11 ポリアミド樹脂層
12 繊維布強化層
2 成型器
21 外型
22 内型
23 パッキング部材
3 繊維布
4 重合用組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂層と、ポリアミド樹脂が含浸した繊維布を含有する繊維布強化層とからなるポリアミド樹脂板状体であって、少なくとも片面がポリアミド樹脂層であり、ポリアミド樹脂100質量部に対してワックス類5〜40質量部を含有し、前記ポリアミド樹脂層の厚さが0.5mm以上、かつ、板状体の総厚みに対して10〜50%である、ポリアミド樹脂板状体。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が、環状アミドを重合してなるモノマーキャストナイロンである、請求項1に記載のポリアミド樹脂板状体。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、ε−カプロラクタムを重合してなるモノマーキャストナイロンである、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂板状体。
【請求項4】
前記繊維布がガラスクロスである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂層の、面圧200kgf/cm2における静摩擦係数と動摩擦係数との差(静摩擦係数−動摩擦係数)が0.015以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。
【請求項6】
厚さが3〜30mmである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂板状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235633(P2011−235633A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88458(P2011−88458)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(591182101)日本ポリペンコ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】