説明

ポリイミドフィルムの製造法

【課題】高強度の配向ポリイミドフィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアミック酸の溶媒中溶液(1)を調製し、該溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなる溶液中に溶液(1)を支持体上に流延して得られたフイルムを支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フイルムを形成し、得られたフイルムを支持体から分離し、二軸延伸し、熱処理するポリイミドフイルムの製造法。この方法の基本はゲル状フィルムを延伸した後、イミド化することである。ゲル状フィルムはポリアミック酸溶液を縮合剤溶液中に導入することによって形成されそして延伸に際してゲル状フィルムが溶剤によって膨潤されている。
【効果】高配向化による機械的性質、特にヤング率の改善されたポリイミドフイルムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高度に機械特性の改善されたポリイミドフィルムの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリイミドはその優れた耐熱性や機械物性から幅広く工業的に利用され、特にそのフィルムは電子実装用途をはじめとする薄層電子部品の基材として重要な位置を占めるにいたっている。近年電子部品の小型化への強い要請から、より厚さの薄いポリイミドフィルムが要求されているが、厚みの減少にともない高い剛性を有することがフィルムの実用上あるいはハンドリング上不可欠の条件となる。全芳香族ポリイミドフィルムは剛直な構造を有するものの、例えば全芳香族ポリアミドフィルムと比較して必ずしも高ヤング率が実現されているとはいえず、市販される最高のヤング率のポリイミドフィルムでさえたかだか9GPaのレベルにとどまるのが現状である。
【0003】
全芳香族ポリイミドフィルムで高ヤング率を実現する方法として、(1)ポリイミドを構成する分子骨格を剛直かつ直線性の高い化学構造とすること、(2)ポリイミドを物理的な方法で分子配向させること、が考えられる。(1)の化学構造としては酸成分としてピロメリット酸あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、アミン成分としてパラフェニレンジアミン、ベンジジンあるいはそれらの核置換体のさまざまな組合せで素材検討がなされてきた。このなかでポリパラフェニレンピロメリットイミドは最も理論弾性率が高く(非特許文献1参照)かつ原料が安価であることから高ヤング率フィルム素材として最も期待される素材である。しかしそのポテンシャルにもかかわらず、これまでポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムとしては極めて脆いものしか得られておらず、またバランスのとれた高ヤング率フィルムとしても実現にいたっていないのが現状である。
【0004】
これを克服する方法として特許文献1ではパラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液を化学環化することによる方法が提案されているが、これで得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのヤング率は高々8.5GPaにすぎない。
特許文献2では核置換パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミド酸溶液に無水酢酸を大量に添加したドープを流延し、低温で減圧下に乾燥したのち熱処理することにより、ヤング率20.1GPaのフィルムが得られることが記載されている。しかしこの方法は低温で数時間の乾燥処理を必要とすることから工業的には非現実的な技術であり、またこの技術をポリパラフェニレンピロメリットイミドに適用した場合には機械測定すら不可能な脆弱なフィルムしか得られないことが記載されていることから、その効果は限定されたものである。したがって、剛直な芳香族ポリイミドに広く適用可能な高ヤング率フィルムの実現技術は未完成であり、特に高ヤング率かつ実用的な靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムは知られていない。
【0005】
一方、ポリイミドを延伸配向させる方法として、非特許文献2にポリパラフェニレンピロメリットイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を製膜後乾燥し、得られたポリアミド酸フィルムを溶剤中で一軸に延伸したのちイミド化する方法が提案されまたPolymer Preprint Japan,Vol41,No.9 (1992) 3752 においては長鎖(炭素数10〜18)のエステル基をポリマー鎖に導入した前駆体ポリアミドエステルを湿式紡糸したものを延伸配向したのち加熱によりイミド化する方法が提案されている。いずれも面内にバランスのとれた二軸延伸については記述されていない。
したがって、面内のバランスのとれた高ヤング率ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムはいまだ知られていない。
【特許文献1】特開平1−282219号公報
【特許文献2】特開平6−172529号公報
【非特許文献1】田代ら、繊維学会誌43巻、78項 (1987)
【非特許文献2】高分子論文集Vol.65,No.5,PP282−290
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の技術では実現できなかった高配向化による機械的性質、特にヤング率の改善されたポリイミドフィルムを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高ヤング率ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、本発明の上記フィルムを製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなるイソイミド化溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する、
ことを特徴とするポリイミドフィルムの製造法(以下、第1製造法ということがある)によって達成される。
【0011】
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなりそして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種と無水酢酸と有機アミン化合物の混合溶媒中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する、
ことを特徴とするポリイミドフィルムの製造法(以下、第2製造法ということがある)によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリイミドフィルムについて先ず説明する。
【0013】
ポリイミドを構成するジアミン成分はp−フェニレンジアミンおよびそれとは異なる芳香族ジアミンである。
p−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミン成分としては、例えばm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
【0014】
ジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
また、ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸およびそれと異なる芳香族テトラカルボン酸である。
【0015】
ピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物等が挙げられる。
【0016】
テトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
p−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる本発明のフィルムは、より好ましいヤング率を発現する。
本発明のポリイミドフィルムのポリイミドのイミド基分率は95%以上が好ましい。イミド基分率が95%未満ではポリイミドフィルムの耐加水分解性が低下する。なお、イミド基分率は実施例において定義されている。
【0017】
本発明のポリイミドフィルムはこれまでにない高いヤング率と、ヤング率のフィルム面内におけるバランスに優れるという実用的に優れた特性を有する。すなわちヤング率がいずれも10GPaを超える直交する2方向がフィルム面内に存在する。好ましくはヤング率が12GPaを超える直交する二方向がフィルム面内に存在する。
このような高いヤング率を有しかつ従来知られているポリパラフェニレンピロメリットイミドの脆さを克服することを、本発明者らは特殊な微細構造を該ポリイミドフィルムに付与することで解決できることを見出すに至った。すなわち本発明のポリイミドフィルムでは、好ましくは、フィルム面に垂直な方向の屈折率nzとフィルムの密度dとの間に下記関係式(1)、(2)および(3)が成立する。
1.61>nz>1.55 …(1)
1.57>d>1.46 …(2)
2.0d−1.33>nz>1.5d−0.77 …(3)
【0018】
nzはポリイミドの分子の配向の尺度でありこれが小さくなることは面配向が高くなることを示す。nzが1.61以上では配向が不足のためヤング率の発現が低く、また1.55以下では配向過剰となりフィルムが低伸度化する。密度dはポリイミドの結晶性および微細構造の緻密度に関わる尺度であり、dが1.57をこえる場合フィルムの靱性が不足し、1.46より小さい場合結晶性が不足し吸水性が増大し寸法安定性に欠けたものとなる。一般の高分子では配向をあげることで高い密度が得られることが知られている。本発明のポリイミドフィルムの場合驚くべきことに、配向によりnzが低下するとともにより低い密度dとなるとき、高い強度と高いヤング率をあわせ持つポリイミドフィルムを実現することができる。nzが2.0d−1.33を超える範囲では結晶性に対し配向が不足のためフィルムが脆いものとなり、nzが1.5d−0.77より小さい範囲では配向に対し結晶性が不足のため吸水性が増大し寸法安定性に欠けたものとなる。
このときdが1.57を超える場合フィルムの靱性が不足し、1.46より小さい場合結晶性が不足し吸水性が増大し寸法安定性に欠けたものとなる。
本発明のポリイミドフィルムは一方向における引張り強度が0.3GPa以上であることが好ましい。一方向における引張り強度が0.4GPa以上であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明者らは、剛直な構造を有する芳香族ポリイミドを高度に延伸し分子配向させる技術を検討した結果、前駆体アミド酸を特定の方法で化学処理することによって調製されたゲル体が室温付近の低温で高い延伸性を有することから、このゲル体を膨潤状態で延伸後熱処理することでヤング率の大幅に改善された面内の機械的性質のバランスのとれたポリイミドフィルムが得られることを見出した。またこのゲル調製法およびゲルの延伸方法をポリパラフェニレンピロメリットイミドに適用することにより、従来到達不可能であったバランスのとれた高ヤング率と実用的な強度・靭性をあわせもつポリパラフェニレンピロメリットイミドが得られることを見出し本発明に到達した。
【0020】
次に、本発明のポリイミドフィルムを製造する方法を詳述する。
【0021】
本発明の第1製造法は下記の工程(1)〜(4)からなる。
【0022】
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなるイソイミド化溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0023】
工程(1)では、ポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。ポリアミック酸は、上記の如きジアミン成分とテトラカルボン酸成分からなる。ジアミン成分を構成するp−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミンおよびピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸としては、ポリイミドについて前記したと同じ具体例を挙げることができる。ポリアミック酸のジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族ジアミンが20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
また、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合、好ましくは90モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満、好ましくは10モル%未満からなる。
【0024】
また、ポリアミック酸を製造する際、これらのジアミンと酸無水物は、ジアミン対酸無水物のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
このポリアミド酸の末端は封止されることが好ましい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えば無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンが用いられる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上組合せて使用することができる。
工程(1)によれば、好ましくは、固形分濃度0.5〜30重量%、より好ましくは2〜15重量%のポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。
【0025】
次いで、工程(2)において、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、イソイミド化溶液中に浸漬する。
上記工程(1)で得られた溶液を支持体上に流延するには、一般に知られている湿式ならびに乾湿式成形方法等のいかなる製膜方法を用いてもよい。この製膜方法としてはダイ押し出しによる工法、アプリケーターを用いたキャスティング、コーターを用いる方法などが例示される。ポリアミド酸の流延に際して支持体として金属性のベルト、キャステイングドラムなどを用いることができる。またポリエステルやポリプロピレンのような有機高分子フィルム上に流延しそのまま縮合剤溶液に導入することもできる。これらの工程は低湿度雰囲気下で行うことが好ましい。イソイミド化溶液は工程(1)で用いたと同じ溶媒から選ばれる溶媒の少なくとも1種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解せしめて調製される。
【0026】
イソイミド化溶液中のヘキシルカルボジイミドの濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。また反応温度は、特に規定するものではないが、イソイミド化溶液の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
この工程(2)において、ポリアミック酸の少なくとも1部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムが形成される。ゲル状フィルムのイソイミド基分率が90%以上であるとき高い延伸倍率が得られ好ましい。
第1製造法は、この工程(2)において、均質かつ高度に膨潤した延伸性に富む未延伸ゲル状フィルムを得るところに最大の特徴の1つを有すると言える。
【0027】
工程(3)では、工程(2)で得られた未延伸ゲル状フィルムを支持体から分離したのち二軸延伸に付す。二軸延伸は、未延伸フィルムを支持体から分離したのち、洗浄してから行っても、未洗浄のまま行ってもよい。洗浄には、例えば工程(1)で用いられた溶媒と同様の溶媒が用いられる。
延伸は、縦横それぞれの方向に1.1〜6.0倍の倍率で行うことができる。延伸温度は、特に限定するものではないが、溶剤が揮発し延伸性が低下しない程度であればよく、例えば−20℃〜+80℃が好ましい。なお、延伸は逐次あるいは同時二軸延伸のいずれの方式で行ってもよい。延伸は溶剤中、空気中、不活性雰囲気中、また低温加熱した状態でもよい。
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムは300〜5,000%の膨潤度を持つことが好ましい。これにより高い延伸倍率が得られる。300%以下では延伸性が不十分であり、5,000%以上ではゲルの強度が低下しハンドリングが困難となる。
【0028】
最後に、工程(4)では、工程(3)で得られた二軸延伸フィルムを熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
熱処理方法としては熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱の他、熱板、ホットロールを用いた接触による加熱などが例示できる。この際段階的に温度をあげることでイミド化を進行させることが好ましい。
これにより95%を超えるイミド基分率を配向緩和を抑制して実現しうる。
【0029】
なお、熱処理前に二軸延伸フィルムを洗浄して溶媒を除去することができる。洗浄には、溶媒を溶解しうる例えばイソプロパノールの如き低級アルコール、オクチルアルコールの如き高級アルコール、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素、ジオキシサンの如きエーテル系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトンの如きケトン系溶媒等を挙げることができる。
【0030】
次に、本発明の第2製造法について説明する。第2製造法は下記工程(1)〜(4)からなる。
【0031】
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミンが80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種に、無水酢酸と有機アミン化合物を溶解してなる溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドまたはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
【0032】
工程(1)は第1製造法の工程(1)と同じである。
次いで、工程(2)において、上記(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを支持体と一緒に、無水酢酸と有機アミンを溶解してなる溶液中に浸漬する。この溶液を調製するための溶媒としては、工程(1)で用いられたと同じ溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒が用いられる。
【0033】
用いられる有機アミン化合物は無水酢酸とポリアミック酸の反応触媒として働くものであり、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミンといった三級脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、1,8−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ナフタレンの如き芳香族アミン、ピリジンおよびその誘導体、ピコリンおよびその誘導体、ルチジン、キノリン、イソキノリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、N,N−ジメチルアミノピリジンの如き複素環式化合物を用いることができる。このなかで経済性からはピリジンおよびピコリンが好ましい。またトリエチレンジアミンおよびN,N−ジメチルアミノピリジンは無水酢酸との組合せにおいて、極めて高いイミド基分率が実現可能であり、水に対する耐性の高いゲルフィルムを与えることから好ましく用いられる。この際有機アミン化合物の無水酢酸に対する量としては特に既定するものではないが、0.5モル%以上より好ましくは10モル%以上である。
【0034】
混合溶液中の無水酢酸の濃度は特定するものではないが、反応を十分に進行させるためには、好ましくは0.5重量%以上99重量%以下である。さらに好ましくは30重量%以上99重量%である。また反応温度は、特に規定するものではないが、混合溶液中の凝固点以上、沸点以下の温度を用いることができる。
第2製造法は、この工程(2)においてポリアミック酸を溶解しうる溶媒中で無水酢酸とポリアミック酸を有機アミン化合物の触媒存在下に反応させることで、均質かつ高度に膨潤した延伸性に富む未延伸ゲルフィルムを得るところに最大の特徴の1つを有するといえる。
【0035】
第2製造法では次いで工程(3)および工程(4)が順次実施されるが、これらの工程は第1製造法の工程(3)および工程(4)と同じである。
上記の如くして、第1製造法および第2製造法で得られた二軸配向ポリイミドフィルムは分子鎖がフィルム面内に強く配向し、面内のバランスに優れた高ヤング率ポリイミドフィルムとなり面内の直交するニ方向に測定したヤング率の値が10Gpa、さらに好ましくは12Gpaを超え、かつ延伸配向により特殊な微細構造が形成されることにより強度の改善されたフィルムである。このような高ヤング率ポリイミドフィルムは剛性の高さから厚みが10μm以下の薄いフィルムであっても電子用途、例えば銅薄が積層された電気配線板の支持体などに好適に用いることができる。またフレキシブル回路基板、TAB(テープオートメイテッドボンディング)用テープ、LOC(リードオンチップ)用テープの支持体としても用いることができる。また磁気記録テープのベースフィルムとして用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
なおポリアミド酸の対数粘度は、NMP中ポリマー濃度0.5g/100mlで35℃で測定したものである。また膨潤度は膨潤した状態と乾燥した状態の重量の比から算出した。すなわち、乾燥状態の重さをW1、膨潤時の重さをW2とした場合
膨潤度=( W2 / W1 − 1) × 100
として算出した。また強伸度測定は50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/minで行いオリエンテックUCT−1Tによって測定を行ったものである。
【0037】
イソイミド基分率およびイミド基分率は、フーリエ変換赤外分光計(Nicolet Magna 750)を使用し、透過法により測定したピーク強度比から以下のように決定した。

イソイミド基分率(%)=(A920/A1024)/11.3 × 100
920:サンプルの920cm−1イソイミド結合由来ピークの吸収強度
1024:サンプルの1024cm−1ベンゼン環由来ピークの吸収強度
イミド基分率(%)=(A720/A1024)/5.1 × 100
720:サンプルの720cm−1イミド結合由来ピークの吸収強度
1024:サンプルの1024cm−1ベンゼン環由来ピークの吸収強度
【0038】
実施例1
温度計・攪拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下モレキュラーシーブスで脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)910mlを入れ、さらにパラフェニルジアミン19.9gを加えた後に完全に溶解し、その後、氷浴下冷却した。この冷却したジアミン溶液に無水ピロメリット酸二無水物40.1gを添加し一時間反応させ、さらに室温下2時間反応後、アニリン0.011gを添加しさらに30分反応させた。得られたポリアミド酸溶液の対数粘度は4.12であった。
このアミド酸溶液をガラス板上に厚み1.5mmのドクターブレードを用いてキャストし、DCC濃度28wt%のN−メチル−2−ピロリドン溶液からなるジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)浴に導入し8分反応固化させたのちガラス板から剥離し、さらに12分反応させ、ゲル状フィルムを得た。このゲル状フィルムのイソイミド基分率は98%であり、そしてイミド基は検出できなかった。
【0039】
ポリイミド前駆体を膨潤溶媒であるNMPに室温下15分浸漬させた後、フィルムをチャックで固定し直交する二方向にそれぞれ2,3倍の倍率で同時二軸延伸した。延伸後フィルムをイソプロパノールで浸漬しイミド前駆体から膨潤溶媒などを抽出した。
延伸後のフィルムは枠固定した後200℃で乾燥した。さらに段階的に熱処理イミド化を行い最終的には450℃まで昇温させ、ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを得た。得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムの厚みは7.0μm、引張り弾性率は直交する延伸方向について20.3GPaおよび21.7GPa、引張り強度はそれぞれ0.37GPaおよび0.37Gpa、伸度はそれぞれ2.6%および2.7%であった。厚み方向の屈折率nz=1.599、密度は1.523g/cmであった。またイミド基分率は99%であった。
【0040】
実施例2〜5
同時二軸延伸の倍率および最終の熱処理温度をのぞき実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。その結果を表1に示す。
【0041】
実施例6
実施例1と同様の方法を用いてポリアミック酸溶液を調製した。
このポリアミック酸溶液を、ガラス基板上に厚み1.0mmのドクターブレードを用いてキャストし、NMP800ml、無水酢酸600mlおよびピリジン300mlからなる脱水縮合浴に導入し10分間浸漬してゲル化させた。その後ガラス基板から剥離しゲル状フィルムを得た。このゲル状フィルムのイミド基分率は43%およびイソイミド基分率は35%であった。
得られたゲルフィルムをNMPに室温下15分浸漬させた後、両端をチャックで固定し、室温下2軸方向に各1.9倍に5mm/secの速度で同時ニ軸延伸した。延伸開始時のゲルフィルムの膨潤度は1,810%であった。
延伸後のゲルフィルムを枠固定し熱風循環式オーブンを用い160℃と450℃の間で段階的に温度を上げ乾燥および熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚みは9μm、面内の直交する二方向に測定した引張り弾性率は17.9GPaおよび16.0GPa、引張り強度は0.39GPaおよび0.35GPa、伸度は5.1%および4.9%であった。また、厚み方向の屈折率nz=1.573、密度は1.508g/cmであった。またイミド基分率は99%であった。
【0042】
実施例7および8
最終の熱処理温度をのぞき実施例6と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例9
実施例1と同様の方法を用いてポリアミック酸溶液を調製した。
このポリアミック酸溶液を、PETフィルム上に厚み0.6mmのドクターブレードを用いてキャストし、無水酢酸100ml、トリエチレンジアミン25gおよびN−メチル−2−ピロリドン800mlからなる浴に導入し10分反応固化させた。その後PETフィルムから剥離し、さらに10分間計20分間反応させることでゲル状フィルムを得た。アミド結合由来のピークは観察されず、イミド基分率は99%であった。得られたゲル状フィルムをNMPに室温下15分浸漬させた後、両端をチャックで固定し、室温下二軸方向に各1.2倍に5mm/secの速度で同時ニ軸延伸した。延伸開始時のゲルフィルムの膨潤度は1,600%であった。
【0044】
延伸後のゲル状フィルムを枠固定し熱風循環式オーブンを用いて200℃で20分乾燥した後、450℃まで徐々に温度を上げ、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚みは9μm、面内の直交する二方向に測定した引張弾性率は13.8GPaおよび16.9GPa、伸度は13.1%および10.0%、引張強度は0.37GPaおよび0.40GPaであった。厚み方向の屈折率nz=1.555、密度は1.490g/cmであった。またイミド基分率は99%であった。 実施例10および11
同時二軸延伸の倍率をのぞき実施例9と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。その結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
実施例3と全く同様の方法でゲル状フィルムを調製し、延伸することなく250℃で20分乾燥し、さらに200℃で20分熱処理しポリイミドフィルムを得た。
フィルムの厚みは6μm、面内の直交する二方向に測定した引張弾性率は8.22GPaおよび7.9GPa、伸度は7.6%および7.2%、引張強度は0.16GPaおよび0.16GPaであった。厚み方向の屈折率nz=1.665、密度は1.588g/cmであった。またイミド基分率は100%であった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種にジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解してなるイソイミド化溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する、
ことを特徴とするポリイミドフィルムの製造法。
【請求項2】
工程(2)において、ゲル状フィルムのイソイミド基分率が90%以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムが300〜5,000%の膨潤度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(4)の熱処理を定長ないし緊張下に300〜550℃の温度で実施する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(1)ポリアミック酸の溶媒中溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が80モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上20モル%未満からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分からなりそして溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記溶媒から選ばれる少なくとも一種に、無水酢酸と有機アミン化合物を溶解してなる溶液中に、上記工程(1)で調製した溶液を支持体上に流延して得られたフィルムを該支持体と一緒に浸漬してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを形成し;
(3)得られたゲル状フィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し、次いで
(4)得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する、
ことを特徴とするポリイミドフィルムの製造法。
【請求項6】
工程(2)において、ゲル状フィルムのイミド基分率とイソイミド基分率をあわせたものが20%〜100%である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムが300〜5,000%の膨潤度を有する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
工程(4)の熱処理を定長ないし緊張下に300〜550℃の温度で実施する請求項5に記載の方法。
【請求項9】
工程(2)において用いられる有機アミン化合物がピリジンまたはピコリンである請求項5に記載の方法。
【請求項10】
工程(2)において用いられる有機アミン化合物がトリエチレンジアミンまたは4−ジメチルアミノピリジンである請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2006−328411(P2006−328411A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179558(P2006−179558)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【分割の表示】特願2001−578537(P2001−578537)の分割
【原出願日】平成13年4月20日(2001.4.20)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】