説明

ポリイミド樹脂、及びこれを用いたポリイミド樹脂層、光学部材

【課題】 本発明は、可視光領域おいて長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さい性質を有する可溶性ポリイミド樹脂層を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者は鋭意検討した結果、高透明性を有し、可視光領域おいて長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さい性質を有するポリイミド樹脂として、1,4'-ジアミノシクロへキサン(CHDA)を含有する、他の部位は脂肪族酸二無水物、及び、脂肪族ジアミンから構成されているポリイミド樹脂を提供した。本ポリイミド樹脂によれば、ポリイミド樹脂本来の優れた特性と、上記光学特性を有した光学用材料を有機溶剤に溶解させコーティング樹脂層として提供できることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れ、着色の少ないポリイミドフィルム樹脂、更にはこれを用いたワニス、樹脂層、光学補償部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置には、光学補償を目的として位相差フィルムが使用されるのが一般的である。従来STN液晶の補償にポリカーボネートが使用されていた。ここにおいて、従来位相差フィルムとして延伸処理した高分子フィルムが使用されてきたが、この代替として、例えばポリイミド樹脂を用いたコーティング層を使用することが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。フィルムをコーティング層とすることで、薄型化が可能な上、フィルム製造・偏光板への貼合工程が省略できることから、製造コストを抑えることが可能となる。
【0003】
しかしながら、光学補償の際、従来の芳香族ポリイミド樹脂を用いたコーティング層においては、可視光領域において長波長から短波長までのレターデーションの変化量が大きく、このような波長分散を示すポリイミド樹脂層を使った液晶表示装置で黒表示をする場合、バックライトからの光を完全に遮光することができずコントラストや諧調表示の低下を招くおそれがあった。
【特許文献1】特表平8-511812号公報
【特許文献2】特表2000−511296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術が有する上記課題に鑑みてなされたものであり、可視光領域において長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さいポリイミド樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1)そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表されるユニットと、下記一般式(2)で表されるユニットからなり、一般式(1)で表されるユニットのモル分率をA、一般式(2)で表されるユニットの割合Bとして表した時に、0.5<A≦1.0が成り立ち、同時に、0≦B<0.5(但し、0.5<A+B≦1)が成り立つことを特徴とするポリイミド樹脂を提供した。これによれば、可視光領域おいて長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さい性質を有する可溶性ポリイミド樹脂を提供できることとなる。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

(ここでR1は、下記一般式群(3)で表される群から選ばれる1以上の構造であり、式中のXは、O、SO2、CH2、C(CH32、C(CF32から選ばれる置換基であり、式中のYはそれぞれ独立して、H、F、Cl、Br,CF3、CCl3、CBr3から選ばれる置換基であり、R1は炭素数が1〜20である炭化水素からなり、イミド基が結合している炭素が、脂肪族炭素であり、R2は、イミド基が結合している炭素が、芳香族炭素である。)
【0008】
【化3】

2)また、一般式(1)が、下記一般式(4)である前記ポリイミド樹脂を提供した。
【0009】
【化4】

3)また、一般式(2)のR2が下記一般式郡(5)で表される少なくとも1種のジアミンを含有した前記ポリイミド樹脂を提供した。
【0010】
【化5】

(但し、式中のXは、O、SO2、CH2、C(CH22、C(CF32から選ばれる置換基であり、式中のYはそれぞれ独立した、H、F、Cl、Br,CF3、CCl3、CBr3から選ばれる置換基である。)
4)すなわち、本発明者は、上記ポリイミド樹脂において、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)においてポリエチレングリコール換算したときの重量平均分子量が20,000以上、150,000以下であるポリイミド樹脂を提供した。
【0011】
5)更に、前記ポリイミド樹脂のイミド化率が95%以上であるポリイミド樹脂を提供した。
【0012】
6)また、ポリイミド樹脂のガラス転移温度が250℃以上である前記ポリイミド樹脂を提供した。
【0013】
7)また、アミド系溶媒、ハロゲン化アルキル溶媒、ケトン系溶媒、エーテル溶媒から選ばれる少なくとも1以上の溶媒に、固形成分濃度5重量濃度%以上の濃度で可溶であることを特徴とする前記ポリイミド樹脂を提供した。
【0014】
8)また、前記ポリイミド樹脂が、アミド系溶媒、ハロゲン化アルキル溶媒、ケトン系溶媒、エーテル溶媒から選ばれる少なくとも1以上の溶媒に固形成分濃度5重量濃度%以上で溶解して形成されていることを特徴とするポリイミドワニスを提供した。
【0015】
9)また、前記記載のポリイミド樹脂を含有して形成されたことを特徴とする、ポリイミド樹脂層を提供した。
【0016】
10)また、前記記載のポリイミド樹脂層と、プラスティックフィルム基盤からなることを特徴とする、積層体を提供した。
【0017】
11)また、前記記載のポリイミド樹脂又はポリイミド樹脂層および積層体を含有して形成されたことを特徴とする、光学補償部材を提供した。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリイミド樹脂は、可視光領域において長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さく、優れた光学特性を併せ持つ樹脂を提供することができる。
【0019】
一方、本発明のポリイミド樹脂を、液晶表示装置等の光学補償部材として使用した場合、黒表示時等におけるバックライトからの光の漏れを低減することができ、コントラストや階調表示の低下を低減することが可能となり、有用である。
【0020】
また、本発明のポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂に由来する耐熱性、寸法安定性等の各種優れた特性をも有しており、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、下記一般式(1)で表されるユニットと、下記一般式(2)で表されるユニットを含有し、一般式(1)で表されるユニットのモル分率をA、一般式(2)で表されるユニットのモル分率をBとして表した時に、0.5<A≦1.0が成り立ち、同時に、0≦B<0.5(但し、0.5<A+B≦1)が成り立つことを特徴とするポリイミド樹脂に関するものである。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

(ここでR1は、下記一般式群(3)で表される群から選ばれる1以上の構造であり、式中のXは、O、SO2、CH2、C(CH32、C(CF32から選ばれる置換基であり、式中のYはそれぞれ独立して、H、F、Cl、Br,CF3、CCl3、CBr3から選ばれる置換基であり、R2は炭素数が1〜20である炭化水素からなり、イミド基が結合している炭素が、芳香族炭素である。)
【0024】
【化8】

上記一般式(1)を形成する方法としては、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させる方法(より具体的には、一度ポリアミド酸を合成した後、これを脱水閉環してポリイミド樹脂とする方法)が一般的であるが、特にテトラカルボン酸二無水物としては、カルボニル基が結合している炭素が、脂肪族炭素であるものを使用することが好ましい(以下、この様な酸二無水物を脂肪族テトラカルボン酸二無水物ということがある。)。ここで脂肪族炭素とは、隣接する原子との結合が全て一重結合である炭素原子のことである(即ち、ここでは脂肪族系の炭素のみならず、脂環式の炭素も含むものとする。)。本発明においては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を使用することにより、ポリイミド樹脂の分子内共役及び電荷移動吸収が抑制され、結果として透明性を高め、また、波長変化によるレターデーションの変化量が大きいポリイミド樹脂となることを抑制しているものと推定される。
【0025】
上記肪族炭素を有し好適に使用できる具体例としては、3,4−ジカルボキシテトラリン−1−コハク酸二無水物、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1−メチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1−エチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジエチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラエチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジフェニル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラフェニルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジアリール−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ジアリール−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2,2,2] −オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,1] −ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシテトラリン−1−コハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−コハク酸二無水物等が挙げられる。尚、他の特性を調整する等の為に、これらの内複数の酸二無水物を併用して用いることも可能である。
【0026】
これらのうちでも、特に3,4−ジカルボキシテトラリン−1−コハク酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジエチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラエチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジフェニル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラフェニルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−コハク酸二無水物を使用することが好ましく、特にポリイミド樹脂に溶解性を付与できる観点から、テトラカルボン酸二無水物として3,4−ジカルボキシテトラリン−1−コハク酸二無水物を使用することが好ましい(尚、本発明の本質を損なわない範囲で、この酸二無水物内に置換基を導入することも可能である。)。
【0027】
一方、本発明において、一般式(1)のユニットを形成するために使用するジアミンとしては、イミド基が結合している炭素が、脂肪族炭素であるジアミン(以下、この様なジアミンを脂肪族ジアミンということがある。)を使用することが好ましい。ここで脂肪族炭素とは、隣接する原子との結合が全て一重結合である炭素原子のことである(即ち、ここでは脂肪族系の炭素のみならず、脂環式の炭素も含むものとする。)。特に本発明においては、脂肪族ジアミンを使用することで、ポリイミド樹脂の分子内共役及び電荷移動吸収が抑制され、結果として、脂肪族酸二無水物と組み合わせることで、より透明性を高め、また、波長変化によるレターデーションの変化量が大きいポリイミド樹脂となることを抑制することが可能となっていると推定される。この様な脂肪族ジアミンで、特に一般式(1)のユニットを形成するために好適に用いることができるものとしては、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロへキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロへキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルエーテル、2,2´−ジメチル−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリクロロメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリブロモメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジフルオロ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジブロモ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2-ビス(4−アミノシクロへキシル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,3−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,2−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼン等が挙げられる。尚、他の特性を調整する等の為に、これらの内複数のジアミンを併用して用いることも可能である。
【0028】
これらの内、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロへキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロへキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)スルホン、4,4´−ジアミノジシクロヘキシルエーテル、2,2´−ジメチル−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリクロロメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ビス(トリブロモメチル)−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジフルオロ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジクロロ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2´−ジブロモ−4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、4,4´−ジアミノジシクロヘキサン、2,2-ビス(4−アミノシクロへキシル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,3−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼンが好ましい。尚、構造式で表すと、以下の様に表せる。
【0029】
【化9】

ここで、特に1,4−ジアミノシクロヘキサンが、複屈折発現性が優れており、好ましく使用できる。本発明者の推定によれば、1,4−ジアミノシクロヘキサンの様な剛直な構造により複屈折発現性が優れていると考えている。特にこの考えの元では、1,4−ジアミノシクロヘキサンの中でもtrans体を用いることが好ましい。
【0030】
更に、位相差発現性が必要とされる際には(例えば、位相差発現性が低いと、所望の位相差を得るために膜厚を大きくする必要があり、装置の薄肉化等が困難となる)、上記一般式(1)のユニット以外に、下記一般式(2)を含有して形成されていることが好ましい。
【0031】
【化10】

(ここでR2は炭素数が1〜20である炭化水素からなり、イミド基が結合している炭素が、芳香族炭素である。)
ここで、イミド基が結合している炭素が、芳香族炭素であるジアミン(以下、芳香族ジアミンと言うことがある)であることにより、複屈折を発現しやすくすることができる。例えば、芳香族ジアミンとして、2,2´−ジメチル−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ビス(トリクロロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ビス(トリブロモメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ジフルオロ−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ジクロロ−4,4´−ジアミノビフェニル、2,2´−ジブロモ−4,4´−ジアミノビフェニル、4,4´−ジアミノビフェニル、4,4´−ジアミノ−ベンゾフェノン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、4,4´−ジアミノジフェニルプロパン、2,2-ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,4´−ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0032】
さらに、4,4´−ジアミノジフェニルエーテル、4,4´−ジアミノジフェニルメタン、4,4´−ジアミノジフェニルプロパン、2,2-ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,4´−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、または、フッ素基を導入した2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)を使用することが上記ポリイミド樹脂の溶解性、複屈折性を同時に付与させる目的で好ましく、さらに好ましくは、2,2´−ビス(トリフルオロメチル)−4,4´−ジアミノビフェニル(TFMB)が好ましい。例えば、NMP(2−メチルピロリドン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)等のアミド系溶媒等の特定の高沸点溶媒しか溶解しないポリイミド樹脂の系に対し、TFMB由来のユニットを挿入することで、各種低沸点溶媒に可溶とすることができ、コーティング法等を使用する際に有効である。
【0033】
ここで、一般式(1)で表されるユニットのモル分率をA、一般式(2)で表されるユニットのモル分率をBとして表した時に、0.5<A≦1.0であり、同時に、0≦B<0.5(但し、0.5<A+B≦1)であることが、可視光領域において長波長から短波長までのレターデーションの変化量を小さくするために好ましく、特に、位相差発現性が必要とされる際にはBの割合をこの範囲内で大きく設定することが好ましい。
【0034】
ここで、本発明で述べているレターデーション値(Re(λ))とは、図1に示した様に水平面を基準面とした時に、ポリイミド樹脂を用いて形成した層を、基準面に対し、層の進相軸を軸として40°傾けた配置とし、一方で波長λnmの測定光を基準面に対する垂線方向から照射して測定した、”層を形成する平面に対し40°傾いた平面内の面内レターデーション(nm)”を表す。この値は、ポリイミド樹脂を液晶表示装置等の光学補償層として使用し、黒表示時をさせた際の、バックライトからの光の漏れを低減する性能を評価する為に有効な指標となる。尚、実際の測定には、Kobra−WR(王子計測)を使用した。
【0035】
本発明においては、可視光領域おいて長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さい性質を有していることが望ましく、下記数式1を満たしていることが望ましい。
【0036】
【数1】

上記数式1の上限が1.03以下であることにより、上記効果がより優れることとなる。例えば、”Re(450)/Re(550)”として表される値は、樹脂におけるレターデーションの波長依存性を示す指標として用いることができる。本発明においては、樹脂の組成を適宜選択することにより、所望の値に調整することができる。
【0037】
本発明のポリイミド樹脂をポリイミド樹脂層として形成したとき、得られる複屈折(△n)は0.005以上が望ましく、更に望ましくは0.010以上が望ましい。ここで複屈折(△n)とは、水平面を基準面とした時に、ポリイミド層を形成する平面に対し40°傾いた平面内の屈折率をnx、nyとし、この面に対して垂直方向の屈折率をnzとした場合、下記数式2で示される値であり、
【0038】
【数2】

尚、実際には、Kobra−WRにて、40°傾けた状態と傾けなかった状態で位相差値を求め、これを用いてKobra−RE(王子計測)により算出した。 一方、本発明のポリイミド樹脂の重量平均分子量は、GPCのPEG(ポリエチレングリコール)換算で測定した値が20,000以上、150,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が20,000未満であれば、耐久性に問題が生じることがある。また、重量平均分子量が2150,000より大きい場合、有機溶媒への溶解性が低下するため、可溶性ポリイミド樹脂を有機溶媒へ溶解させて使用する用途では用いることが難しいことがある。
【0039】
また、本発明におけるポリイミド樹脂は、各種有機溶剤に溶解可能であることが好ましい。ここで有機溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解させる溶媒であれば特に限定されないが、ポリイミド樹脂層の形成工程において、高分子から成る支持体フィルムへの影響(例えば、特性や均一性を損なう程度の溶解や膨潤)が少ないものを使用することが好ましい。例えば、NMP(2−メチルピロリドン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)等のアミド系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、ジオキソラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒から選ばれる1以上の溶媒に、固形分濃度5重量%以上の濃度で溶解可能なポリイミド樹脂であることが特に好ましい(いわゆる可溶性ポリイミド樹脂であることが好ましい。)。また、ポリイミド樹脂を溶解する範囲であれば、通常ポリイミド樹脂を溶解しない非溶媒又は溶解させにくい貧溶媒を混合溶媒として適時混合して使用しても良い。
【0040】
更に、本発明に関わるポリイミド樹脂のイミド化率は95%以上が好ましく、さらに好ましくは98%以上であることが好ましい。これは、イミド化率が低いと、ポリイミド樹脂層として光学材料として用いた時に、耐久性、膜の靭性を低下させることがあり好ましくない。
【0041】
また、本発明のポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、200度以上が好ましく、さらに好ましくは、ディスプレイパネルに組み込んだ場合、バックライトからの放熱による耐熱性をもつために250℃以上が好ましい。上記の性質を有することで、他の光学補償フィルム、例えば脂環構造の環状オレフィン系高分子を用いた光学補償フィルムより、耐熱性および靭性を有することが可能となる。
【0042】
本発明に係るポリイミド樹脂は、各種有機溶媒に溶解した溶液(製膜効率の点で、固形分濃度5重量%以上の濃度であることが好ましい。)を用いて、各種方法でポリイミド樹脂層とすることができる。例えば、フィルムとして一旦形成した上でプラスティック基盤に貼り付けてポリイミド樹脂層を得る方法、コーティング層等の様に直接プラスティック基盤上に層を形成する方法(以下、コーティング層と言うことがある。)、または一旦支持体上にコーティング層を形成した後に対象物上に転写して層を形成する方法(以下、転写法ということがある。)などが挙げられる。特に、この様にして得られたポリイミド樹脂層は、例えば光学補償部材として好適に用いることもできる。例えば、支持体フィルムとsしてTAC(トリアセチルセルロース)又は、耐溶剤性に優れたノルボルネン系ポリマーなどの脂環構造の環状オレフィン系高分子等を使用し、これに対しポリイミド樹脂をコーティングして光学補償部材として用いることができる。尚、対象物(プラスティックフィルム基盤)としては各種材料が使用できるが、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、脂環構造の環状オレフィン、セルロールアシレート、セルロースエーテル、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0043】
ここで、形成するポリイミド樹脂層の厚みは、1μm以上、40μm未満であることが好ましく、1μm以上、20μm未満であることが更に好ましい。この様な厚みとすることにより、光学補償部材等の光学層として使用した際に、これを用いた装置を薄くすることができる。一方、この様な厚みを達成する為には、特に前記コーティング法、転写法等の方法が好適に使用できる。
【0044】
また、ポリイミド樹脂層は延伸して用いることができる。延伸する場合は、製膜途中で延伸することも、ポリイミド樹脂層形成後に延伸することも可能である。延伸方法は、使用用途に合わせ、公知の技術を用いることができる。例えば、ポリイミド樹脂層単体を、ポリイミド樹脂層のガラス転移温度より高い温度雰囲気下で延伸する方法、支持体にポリイミド樹脂層を形成した後に支持体と一緒にポリイミド樹脂層のガラス転移温度より高い温度雰囲気下で延伸する方法等がある。しかし、要求特性が発現するのであれば、ポリイミド樹脂層は、ガラス転移温度より高い温度雰囲気下で延伸することが必須ではない。尚、延伸時のポリイミド樹脂層の実質的なガラス転移温度は、ポリイミド樹脂層に含まれる溶媒量、添加剤量により変化することがある。このため、その影響を考慮し決定することが好ましい。
【0045】
また、上記のポリイミドフィルムまたはポリイミド樹脂層は、本発明の効果を発現しうる状態であれば、単独で用いられても良いし、他のプラスティックフィルムと積層して用いられても良く、さらにその積層体の上にフィルムを貼合してもよく、もしくは、コーティングにより、上記ポリイミド層に積層しても良い。
【0046】
本発明のポリイミド樹脂の使用用途は特に限定されるものではないが、光学材料として好適に使用することができる。また、特に好適に使用できる光学用途としては、レンズ用途、通信の光導波路用途、透明基板用途、液晶表示装置の光学補償用途、透明電極の封止剤用途などが挙げられる。この中でも特に、液晶表示装置等の光学補償部材として使用する際には、可視光領域において長波長から短波長までのレターデーションの変化量が小さい特性を有することで、従来の短波長ほどレターデーション値が大きな特性を有する―正の波長分散特性のポリイミド樹脂を用いたときより、黒表示時等におけるバックライトからの光の漏れを低減することができ、コントラストや階調表示の低下を低減することが可能となる。
【0047】
次にポリイミド樹脂の製造方法について説明する。ポリイミド樹脂の製造方法は、一般的には(1)ポリアミド酸の形成、(2)ポリアミド酸のイミド化(3)ポリイミド樹脂の抽出の三工程を含む(但し、これに限定されるものではない。)。以下、これらについて例を挙げて説明する。
【0048】
(1)ポリアミド酸の形成
ポリアミド酸の製造方法は下記方法に特定されるものではなく、種々の方法を用いることが可能である。その一例を以下に示す。
【0049】
ジアミンを溶解した有機溶媒中に、酸二無水物を分散し、攪拌することで完全に溶解させ重合させる方法、酸二無水物を有機溶媒中に溶解及び/または分散させた後、ジアミンを用いて重合させる方法、酸二無水物とジアミンの混合物を有機溶媒中で反応させて重合する方法などがあるが、酸二無水物の有機溶媒への溶解性が乏しい場合、ジアミンを溶解した有機溶媒中に酸二無水物を分散させる方が均一に反応を進める点で好ましい。
【0050】
反応装置には、反応温度を制御するための温度調製装置を備えていることが好ましく、反応溶液温度として60℃以下が好ましく、さらに、40℃以下であることが反応を制御する点で好ましい。
【0051】
ポリアミド酸の重合に使用される有機溶媒としては、ポリアミド酸を溶解しポリアミド酸の重合反応が進行すれば特に制限されないが、例えば、テトラメチル尿素、N,N−ジメチルエチルウレアのようなウレア類、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォンのようなスルホキシドあるいはスルホン類、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ―ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、またはホスホリルアミド類の非プロトン性溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、フェノール、クレゾールなどのフェノール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられることができ、通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いても良い。これらのうちDMF、DMAc、NMPなどのアミド類が好ましく使用される。また、最終的に得られるポリイミド樹脂も十分溶解し得る有機溶媒が好ましい。
【0052】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の重量%は、有機溶媒中に5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%であることが、取り扱い性の面から好ましい。
【0053】
ポリアミド酸の重合に用いられる酸二無水物類とジアミン類の反応モル比率(使用する酸二無水物の全モル数/使用するジアミンの全モル数)は、0.9以上、1.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.95以上、1.3以下であることが好ましく、特に好ましくは、0.98以上、1.2以下であることがポリアミド酸溶液から得られるポリイミド樹脂中の未反応の酸二無水物やジアミンを減少させる上で好ましい。
【0054】
(2)ポリアミド酸のイミド化
ポリアミド酸をイミド化する方法について記載する。ポリアミド酸をイミド化する方法として、公知の各種方法を使用することができる。例えば、熱的に脱水閉環する熱的イミド化法や、脱水剤を用いる化学的イミド化法が使用できる。
【0055】
熱的イミド化法は、イミド化反応時に生成する水と共沸するトルエン等の共沸溶媒をポリアミド酸溶液に添加後、加熱して行うことが一般的である。熱的イミド化法ではイミド化促進剤を併用することができる。
【0056】
一般的に化学的イミド化法は、熱的イミド化法よりもイミド化反応が進行しやすく、加熱時のポリアミド酸の分解を抑制し、イミド化できる点で好ましい。
【0057】
化学的イミド化法ではイミド化促進剤を用いることが、反応を短時間で終了させる点で好ましい。
イミド化促進剤としては、各種三級アミンが使用可能であるが、特にピリジン、3−メチル−ピリジン、キノリン、イソキノリンなどの複素環式第3級アミン類などが高いイミド化率を有するポリイミド樹脂が得られる点で好ましい。
【0058】
化学的イミド化法で用いる脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物や芳香族酸無水物などが挙げられる。無水酢酸を用いることがポリイミド樹脂の析出工程に適しているという点から好ましい。
【0059】
ポリアミド酸に対するイミド化促進剤の添加量は、イミド化促進剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比で0.5〜5、より好ましくは、1〜5、さらに好ましくは2〜4であるように用いることが好ましい。イミド化促進剤/ポリアミック酸中アミド基のモル比が小さすぎるとイミド化が十分に進行しない場合がある。逆に大きすぎると、ポリイミド樹脂粉体の析出で用いる貧溶媒にもよるが、イミド化率を低下させる傾向にある。
【0060】
ポリアミド酸に対する脱水剤の添加量は、脱水剤/ポリアミド酸中のアミド基のモル比で1.2〜4.0となるよう用いることが好ましい。脱水剤の量が脱水剤/ポリアミック酸中のアミド基のモル比で1.2未満だとイミド化が十分に進行しない場合があり、逆に脱水剤/ポリアミド酸中のアミド基のモル比で4より大きいと分子量の低下や着色を引き起こすことがある。
【0061】
(3)ポリイミド樹脂の抽出
イミド樹脂の析出方法について記載する。上記(1)(2)のようにして得られたポリイミド樹脂を含む溶液から、ポリイミド樹脂を析出する方法としては、公知の各種方法が選択できるが、例えば、ポリイミド樹脂、脱水剤、イミド化促進剤などを含有するポリイミド樹脂の溶液をポリイミド樹脂の貧溶媒中に投入すること、もしくはポリイミド樹脂の溶液に貧溶媒を投入することでポリイミド樹脂を固形状態で得ることができる。ポリイミド樹脂の溶液に貧溶媒を投入する方法としては、液滴で投入する方法や糸状に投入する方法などがあるが、貧溶媒中にポリイミド樹脂が沈殿するのであれば、特に制限するものではない。析出時の形状は、糸状、粉末状、フレーク状等、種々の形態で析出させることができる。また、これらを必要により粉砕して使用することができる。
【0062】
本発明で用いられるポリイミド樹脂の貧溶媒は、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂を溶解する溶媒として使用した反応溶媒と混和するものが好ましく例えば水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、2−ブチルアルコール、2−プロピルアルコール、2−ヘキシルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、フェノール、t−ブチルアルコールなどが挙げられる。上記アルコールの中でもイソプロピルアルコール、2−ブチルアルコール、2−ペンチルアルコール、フェノール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、t−ブチルアルコール等の2級又は3級アルコールが、得られるポリイミド樹脂のイミド化率を高位に安定化させるという観点から好ましく、2−プロピルアルコールがさらに好ましい。貧溶媒量はポリイミド樹脂の溶液の2倍以上、さらに好ましくは3倍以上の量で抽出することが好ましい。
【0063】
ポリイミド樹脂の溶液からポリイミド樹脂を析出させ分離するだけでは、乾燥後に所望の形状(有機溶媒に溶解しやすい形状)のポリイミド樹脂を得ることが難しいことがある。これはポリイミド樹脂に反応溶媒が多く含有されていることによるものであり、ポリイミド樹脂を前記貧溶媒で洗浄することで反応溶媒をほとんど含有しない所望のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0064】
本発明で凝固させた樹脂固形物の乾燥方法は、真空乾燥によってもよいし熱風乾燥によってもよい。ただし、光学用途に用いる場合、乾燥時の着色が問題となる場合があるので、150℃以下で行うことが望ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
(1−1)ポリアミド酸の形成
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、窒素導入管を備えた容積300mLのガラス製セパラブルフラスコを備え、攪拌翼としては4枚羽根を備えた反応装置を用いてポリアミック酸を製造した。
【0067】
上記セパラブルフラスコに、trans−1,4−ジアミノシクロヘキサン(CHDA)5.45g(47.7ミリモル)と4,4‘−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)6.55g(20.4ミリモル)を入れ、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを仕込み攪拌した後、この溶液に、TDA(3,4−ジカルボキシテトラリン−1−コハク酸二無水物、新日本理化(株)製、商品名リカジットTDA−100)20.46g(68.0ミリモル)を加え、25℃の水温下で攪拌した。それを、室温で60時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。なお、この反応溶液における脂肪族ジアミン化合物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して30重量%となっていた。
【0068】
(1−2)ポリアミド酸のイミド化
上記溶液にDMFを7.92g加えた後、さらにイミド化触媒として3−メチル−ピリジンを25.384g(イミド化促進剤/ポリアミド酸中アミド基のモル比=2.0)添加して、完全に分散させた。分散させた溶液中に無水酢酸を16.699g(脱水剤/ポリアアミド酸中アミド基のモル比=1.2)を添加して攪拌し、100℃で20分間加熱後、室温に戻したうえで、4時間攪拌を行った。
【0069】
(1−3)ポリイミド樹脂の抽出
200回転以上に撹拌翼で撹拌したポリイミド樹脂溶液中に、穴の直径が約5mmの滴下漏斗から300mlの貧溶媒2−プロピルアルコールを、ポリイミド樹脂溶液中に滴下した。滴下後、攪拌翼を100回転に下げ、20分攪拌した。攪拌後、回転を止めこの樹脂固形分を静沈した後、溶媒をろ過した。さらに、残った樹脂固形成分を2-プロピルアルコール300mlで洗浄を行い、ジメチルホルムアミド及び3−メチル−ピリジンを除去した。洗浄を5回実施した後に、真空乾燥装置で100℃に加熱乾燥して、ポリイミド樹脂として取り出した。
【0070】
(評価方法)
(位相差値の波長分散)
得られたポリイミド樹脂をDMFに溶解してポリイミド樹脂が25重量%含有されているポリイミド樹脂溶液を作製し、マツナミカバーグラス(35×50mm)上に均一な膜厚を持ったポリイミド樹脂溶液膜として塗布した後、90℃で20分間乾燥させ、さらに、200℃で20分間乾燥させて作成した。
【0071】
このコーティングしたサンプルを、王子計測機器製自動複屈折計KOBRA−wRにより、位相差の波長分散を測定し、その測定値を元に装置付属のプログラムによりRe(450)、Re(550)、Re(750)を算出した。
【0072】
斜め方向(入射角40°)から入射したときのレターデーション値Re(λ)を表3に示した。
【0073】
(複屈折)
本発明における複屈折(△n)とは、ポリイミド層の面内の屈折率をnx、nyとし、厚み方向の屈折率をnzとした場合、式1で示される値である。
△n=[(nx+ny)/2]−nx
複屈折は、ポリイミド層の鉛直方向を0°とした場合の40°の角度で入射させた光の位相差をKobra−WRで測定し、その位相差値を用い、Kobra−RE(王子計測)で得られた屈折率から複屈折(△n)を算出した。
【0074】
(分子量)
表1の条件にて重量平均分子量(Mw)を評価した。評価結果を表3に記載する。
【0075】
【表1】

(ガラス転移温度)DSC(示差走査熱量計)用いて測定を行った。評価結果を表3に記載する。
【0076】
(イミド化率)
NMR法にて表2の条件で評価した。芳香族プロトンの積分値、アミドのプロトンの積分値をBとし、以下の計算式にて算出した。評価結果を表3に示す。
イミド化率(モル%)=((A/5.8−B/2)/(A/5.8))×100
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

(実施例2)
ジアミンの割合をCHDA:TFMB=80.0%:20.0%として、CHDA6.53g(57.2ミリモル)、TFMB4.58g(14.3ミリモル)、TDA21.47g(71.5ミリモル)用いること以外は実施例1と同様にして製造した。
【0079】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0080】
(実施例3)
ジアミンの割合をCHDA:TFMB=55.0%:45.0%として、CHDA4.00g(35.0ミリモル)、TFMB9.18g(28.7ミリモル)、TDA19.12g(63.7ミリモル)用いること以外は実施例1と同様にして製造した。
【0081】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0082】
(実施例4)
ジアミンの割合をCHDA:TFMB=100.0%:0.0%として、CHDA9.05g(79.3ミリモル)を用い、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)55.24gとβ−ピコリン14.77g(158.5ミリモル)を仕込み攪拌した後、この溶液に、TDA23.80g(79.3ミリモル)を加え、25℃の水温下で攪拌した。それを、室温で6時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。以下の操作は、実施例1の同様にして製造した。
【0083】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0084】
(比較例1)
ジアミンの割合をCHDA:TFMB=0.0%:100.0%として、TFMB16.44(51.3ミリモル)、TDA15.41(51.3ミリモル)を用いること以外は実施例1と同様にして製造した。
【0085】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0086】
(比較例2)
酸二無水物としてTDA、ジアミンとして4,4´−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用い、ODA12.93g(64.6ミリモル)、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを仕込み攪拌した後、この溶液に、TDA23.80g(79.3ミリモル)を加え、25℃の水温下で攪拌した。それを、室温で6時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。以下の操作は、実施例1の同様にして製造した。
【0087】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0088】
(比較例3)
酸二無水物としてTDA、ジアミンとしてCHDA:ODA=50.0%:50.0%の割合で、CHDA4.06g(35.6ミリモル)、ODA7.13g(35.6ミリモル)を用い、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを仕込み攪拌した後、この溶液に、TDA21.37g(71.2ミリモル)を加え、25℃の水温下で攪拌した。それを、室温で6時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。以下の操作は、実施例1の同様にして製造した。
【0089】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【0090】
(比較例4)
酸二無水物としてTDA:2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)=50.0%:50.0%の割合で、ジアミンとしてCHDAを用い、CHDA7.61g(66.6ミリモル)と重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを仕込み攪拌した後、この溶液に、TDA10.00g(33.3ミリモル)、6FDA14.79g(33.3ミリモル)を加え、25℃の水温下で攪拌した。それを、室温で6時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。以下の操作は、実施例1の同様にして製造した。
【0091】
実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表3に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】レターデーション値(Re(λ))の測定方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるユニットと、下記一般式(2)で表されるユニットを含んでなり、一般式(1)で表されるユニットのモル分率をA、一般式(2)で表されるユニットのモル分率をBとして表した時に、0.5<A≦1.0が成り立ち、同時に、0≦B<0.5(但し、0.5<A+B≦1)が成り立つことを特徴とするポリイミド樹脂。
【化1】

【化2】

(ここでR1は、下記一般式群(3)で表される群から選ばれる1以上の構造であり、式中のXは、O、SO2、CH2、C(CH32、C(CF32から選ばれる置換基であり、式中のYはそれぞれ独立して、H、F、Cl、Br,CF3、CCl3、CBr3から選ばれる置換基であり、R2は炭素数が1〜20である炭化水素からなり、イミド基が結合している炭素が、芳香族炭素である。)
【化3】

【請求項2】
一般式(1)が、下記一般式(4)であることを特徴とする、請求項1記載のポリイミド樹脂。
【化4】

【請求項3】
一般式(2)のR2が下記一般式群(5)で表される群から選ばれる1以上の構造であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【化5】

(但し、式中のXは、O、SO2、CH2、C(CH22、C(CF32から選ばれる置換基であり、式中のYはそれぞれ独立して、H、F、Cl、Br,CF3、CCl3、CBr3から選ばれる置換基である。)
【請求項4】
GPC(ポリエチレングリコール換算)による重量平均分子量が20,000以上、150,000以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
ポリイミド樹脂のイミド化率が95%以上であること特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
ポリイミド樹脂のガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項7】
アミド系溶媒、ハロゲン化アルキル溶媒、ケトン系溶媒、エーテル溶媒から選ばれる少なくとも1以上の溶媒に、固形成分濃度5重量濃度%以上の濃度で可溶であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂が、アミド系溶媒、ハロゲン化アルキル溶媒、ケトン系溶媒、エーテル溶媒から選ばれる少なくとも1以上の溶媒に固形成分濃度5重量濃度%以上で溶解して形成されていることを特徴とするポリイミドワニス。
【請求項9】
上記請求項1〜7の何れか1項に記載のポリイミド樹脂を含有して形成されたことを特徴とする、ポリイミド樹脂層。
【請求項10】
請求項9に記載のポリイミド樹脂層と、プラスティックフィルム基盤からなることを特徴とする、積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の積層体を、プラスティックフィルム基盤上にポリイミド樹脂層を塗布、乾燥して形成することを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の積層体を、プラスティックフィルム基盤上にポリイミド樹脂層を転写して形成することを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜7、9、10のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂又はポリイミド樹脂層および積層体を含有して形成されたことを特徴とする、光学補償部材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−31268(P2008−31268A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205447(P2006−205447)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】