説明

ポリイミド樹脂及びその製造方法、ポリイミドフィルム、並びにポリイミドフィルムを用いた積層体及びその製造方法

【課題】有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂において、金属箔との接着強度の改善を図る。
【解決手段】ポリアミック酸が有するアミド酸基のイミド化により生成するポリイミド樹脂において、前記アミド酸基に由来するカルボキシル基の一部が残存しており、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量が前記ポリアミック酸中の全ての前記アミド酸基が脱水閉環したときに生成する水の質量に対して10質量%以下である、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂及びその製造方法、ポリイミドフィルム、並びにポリイミドフィルムを用いた積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、その優れた絶縁性と耐熱性から、フレキシブル印刷配線板用のベースフィルムの用途等において幅広く利用され、近年電子機器の小型化、高密度化を達成する手段として多用されている。
【0003】
しかしながら、ポリイミド樹脂は金属箔との接着力が必ずしも十分でなく、ポリイミド樹脂の接着力を改良するために様々な方法が提案されている。例えば、ポリイミドフィルムと金属箔とを、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等の接着剤を用いて接着する方法が知られている(特許文献1)。この方法で得られる、金属箔とポリイミドフィルムとが接着剤を介して接着された積層体の場合、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気特性、密着性といった特性のレベルが、使用する接着剤の特性に支配されてしまうため、ポリイミド樹脂の優れた特性を十分に生かすことができなかった。また、接着剤に対する接着力の向上のため、ポリイミドフィルム表面に様々な電気的、物理的、化学的な処理を施すことが試みられてきたが、これらの処理はその処理工程に多くの試薬、時間、労力等を要すという問題があった。
【0004】
ポリイミドフィルムと金属箔を直接接着する方法として、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸の溶液を銅箔へキャストした後、加熱によりポリアミック酸からポリイミド樹脂へ変換する方法が広く用いられている(特許文献2)。また、ポリイミドフィルム上に設けられた半硬化状態のポリアミック酸層に銅箔を圧着した後、加熱によりイミド化する方法も知られている(特許文献3)。しかしこれらの方法の場合、ポリアミック酸からポリイミドに変換する過程で脱水を伴うために、複数の金属箔の積層を行うときにふくれを生じるという問題があった。また、固体状態でイミド化を行うためには一般に200℃以上の高温を要することから、イミド化のための特殊な装置が必要であった。
【0005】
この他、ポリイミドフィルムの表面にスパッタリングや無電解メッキにより金属の薄いシード層を形成した後、電解銅メッキで金属層を形成する方法が知られている(特許文献4)。この方法によれば、ポリイミドフィルムの両面に任意に金属箔を形成することが可能である。ただしこの方法は、接着力が弱いという欠点を有している。
【0006】
接着剤を介することなくポリイミドフィルムと金属箔を積層するために、加熱条件下で流動性を有するポリイミド樹脂を用いる方法も提案されている(特許文献5)。このようなポリイミド樹脂は一般に熱可塑性ポリイミドと呼ばれており、流動性が発現する温度まで加熱して金属箔と接着させることを特徴としている。
【0007】
低温でポリイミドフィルムを金属箔等の基材上に形成できる方法として、ポリイミド樹脂を溶剤に可溶にすることも検討されている(特許文献6)。
【0008】
一方、カルボキシル基を有するジアミンを用いて得られる、カルボキシル基を有するポリイミド樹脂が知られている(特許文献7)。このポリイミド樹脂は、ポリイミドフィルムを接着剤を介して金属箔と圧着したときの剥離強度を強くすることを目的として用いられている。
【特許文献1】特開2004−136631号公報
【特許文献2】特公平3−61351号公報
【特許文献3】特許第2653582号公報
【特許文献4】特許第3447070号公報
【特許文献5】特公平6−93537号公報
【特許文献6】特開2001−114891号公報
【特許文献7】特開2005−53222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂は、ポリアミック酸を用いる場合のように高温での処理を必要とすることなく、比較的低温でポリイミドフィルムの形成が可能ではあるものの、形成されるポリイミドフィルムの金属箔に対する接着強度の点で必ずしも十分満足できるものではなかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂において、金属箔との接着強度の改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの側面において、本発明はポリアミック酸が有するアミド酸基のイミド化により生成するポリイミド樹脂に関する。本発明に係るポリイミド樹脂は、アミド酸基に由来するカルボキシル基の一部が残存しており、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量がポリアミック酸中の全てのアミド酸基が脱水閉環したときに生成する水の質量に対して10質量%以下である、有機溶剤に可溶なものである。
【0012】
上記本発明に係るポリイミド樹脂は、イミド環を形成しなかったアミド酸基に由来するカルボキシル基を有しており、その量は、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量がポリアミック酸中の全てのアミド酸基が脱水閉環したときに生成する水の質量(以下、場合により「理論脱水量」という。)に対して10質量%以下となるような程度に調整されている。これにより、ポリイミド樹脂が、金属箔との高い接着強度を有するものとなる。
【0013】
別の側面において、本発明は、ポリアミック酸が有するアミド酸基のイミド化によりポリイミド樹脂を生成させる工程を備えるポリイミド樹脂の製造方法に関する。本発明に係る製造方法においては、イミド化により、アミド酸基に由来するカルボキシル基の一部が残存しており、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量が理論脱水量に対して10質量%以下である、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂を生成させる。
【0014】
上記本発明に係る製造方法によれば、金属箔との高い接着強度を有するポリイミド樹脂が得られる。
【0015】
上記イミド化は、150〜210℃での3時間以上の加熱により行われることが好ましい。これにより、上記特定のカルボキシル基当量及び重量減少量を有するポリイミド樹脂をより容易に得ることができる。上記温度範囲において、温度が高くなるほどカルボキシル基当量は大きくなり、重量減少量は小さくなる傾向がある。
【0016】
また、ポリアミック酸が、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物又はその誘導体を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により生成するものであることも好ましい。このような特定の構造を有するポリアミック酸を用いることによっても、上記特定のカルボキシル基当量及び重量減少量を有するポリイミド樹脂をより容易に得ることができる。
【0017】
更に別の側面において、本発明はポリイミドフィルムに関する。本発明に係るポリイミドフィルムは、上記本発明に係るポリイミド樹脂を含んでおり、金属箔との高い接着強度を有する。
【0018】
更に別の側面において、本発明はポリイミドフィルムを用いた積層体に関する。本発明に係る積層体は、金属箔と、該金属箔上に積層された、上記本発明に係るポリイミドフィルムとを備える。本発明に係る積層体においては、金属箔とポリイミドフィルムとが十分に高い接着強度で接着されている。また、ポリイミドフィルムに別の金属箔を熱圧着により高い接着強度で積層することも可能である。
【0019】
更に別の側面において、本発明は、金属箔と、該金属箔上に積層されたポリイミドフィルムとを備える積層体の製造方法に関する。本発明に係る積層体の製造方法は、有機溶剤及び該有機溶剤に溶解している上記本発明に係るポリイミド樹脂を含むポリイミド樹脂溶液を金属箔に塗付する工程と、塗布されたポリイミド樹脂溶液から有機溶剤を除去してポリイミド樹脂を含むポリイミドフィルムを形成させる工程とを備える。係る製造方法は、金属箔上に形成されたポリイミドフィルムに、他の金属箔を熱圧着させる工程を更に備えていてもよい。
【0020】
上記本発明に係る製造方法によれば、金属箔とポリイミドフィルムとが高い接着強度で接着された積層体が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、金属箔との接着強度が改善された、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂が得られる。有機溶剤に可溶であることにより、低温でポリイミドフィルムを形成することが可能であり、他の部材への熱による損傷を抑制できる。また、ポリアミック酸の溶液を用いる場合のような、脱水に伴うふくれの発生を回避できる。
【0022】
更に、カルボキシル基を有するジアミンを用いてポリイミド樹脂にカルボキシル基を導入する方法と比較して、ポリイミド樹脂を合成するために用いるジアミンの選択の自由度が高い。これにより、例えば、金属箔とのより高い剥離強度が得られるようにジアミンの組成を最適化することがより容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、ポリアミック酸が有するアミド酸基をイミド化することより生成する。
【0025】
ポリアミック酸は、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により得られる。また、縮合剤を用いて、ジカルボン酸とジアミンとを反応させることによっても得られる。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物としては、特に制限は無いが、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ピロメリット酸二無水物、ジフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−2,3,3’,3’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルメタン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボン酸無水物フェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボン酸無水物フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ジフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス{4−(3,4−ジカルボン酸無水物フェノキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−(3,4−ジカルボン酸無水物フェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物又はその誘導体をテトラカルボン酸二無水物として用いることが好ましい。上記誘導体としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物の芳香族環にアルキル基等が置換したものが挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ジアミンとしては、特に制限はないが、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン及びシロキサンジアミンが挙げられる。芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、2,6,2’,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミン、5,5’−ジメチル−2,2’−スルフォニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’―ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’―ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられ、脂肪族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ポリプロピレンオキサイドジアミン(商品名ジェファーミン)が挙げられ、シロキサンジアミンとしては、ポリジメチルシロキサンジアミン(シリコーンオイルX−22−161AS(アミン当量450)、X−22−161A(アミン当量840)、X−22−161B(アミン当量1500)、X−22−9409(アミン当量700)、X−22−1660B−3(アミン当量2200)(以上、信越化学工業株式会社製))が挙げられる。これらの中でも、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ジェファーミン等をジアミンとして用いることが好ましい。これらのジアミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
ポリアミック酸を生成する反応におけるテトラカルボン酸二無水物とジアミンのモル比は、90:100〜100:90が好ましい。モル比が上記範囲外であると、適当な分子量のポリアミック酸が得られにくくなる傾向にある。
【0029】
ポリアミック酸を生成する反応における反応溶液中のテトラカルボン酸二無水物とジアミンの合計濃度は、特に制限されないが、15〜30質量%とすることが好ましい。合計濃度が高くなるほど、生成したポリアミック酸を更にイミド化した際に得られるポリイミド樹脂のカルボキシル基当量が小さくなる。すなわち、合計濃度が高くなるほど、イミド化反応後の溶液中のカルボキシル基の濃度が高くなる。また、用いるテトラカルボン酸二無水物とジアミンによって異なるが、合計濃度が30質量%より高いと、反応溶液の粘度が高くなり十分な撹拌を行うことができなくなる傾向があり、15質量%より小さいと経済的に不利となる傾向がある。
【0030】
ポリアミック酸は下記一般式(1)で表される構成単位を有する。式中、Arは上述のテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の芳香族残基を示し、Rは上述のジアミンに由来する2価の有機基を示す。
【0031】
【化1】

【0032】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、150〜210℃での3時間以上の加熱により、式(1)で表されるポリアミック酸をイミド化して得られる。このような条件でイミド化を行うことにより、特定のカルボキシル基当量及び重量減少量を有するポリイミド樹脂をより容易に得ることができる。上記温度範囲において、温度が高くなるほど、カルボキシル基当量は大きくなり、重量減少量は小さくなる。
【0033】
上記イミド化により、ポリアミック酸が有するアミド酸基の一部がイミド環を形成し、下記一般式(2)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂が生成する。式中、Ar及びRは上記と同じものを示す。
【0034】
【化2】

【0035】
上記ポリイミド樹脂は、カルボキシル基を有する構成単位として、式(1)で表される構成単位と共に、下記一般式(3)で表される構成単位をも有する場合がある。式(3)中、Ar及びRは上記と同じものを示し、nは自然数を示す。すなわち、本実施形態に係るポリイミド樹脂には、イミド環を形成しなかったアミド酸基に由来するカルボキシル基が残存している。本発明において、「アミド酸基に由来するカルボキシル基」は、式(1)におけるカルボキシル基及び式(3)におけるカルボキシル基を含む。
【0036】
【化3】

【0037】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、アミド酸基に由来するカルボキシル基以外のカルボキシル基を有していてもよい。例えば、ポリイミド樹脂は、ジアミンに由来するカルボキシル基を有していてもよい。ただし、ジアミンに由来するカルボキシル基を実質的に有さない方が好ましい。
【0038】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、カルボキシル基当量が6000g/モル以下となる量でカルボキシル基を含み、有機溶剤に可溶である。ポリイミド樹脂は、他の可溶性ポリイミド樹脂と混合して使用することも可能である。その場合、混合した後に計算されるカルボキシル基当量が6000g/モル以下であることが好ましい。また、カルボキシル基当量は1000g/モル以上であることが好ましい。カルボキシル基当量が1000g/モル以下であると、金属箔との接着や経時変化により縮合水が発生しやすくなる傾向にある。
【0039】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量が、理論脱水量に対して10質量%以下である。上記重量減少量は、ポリイミド樹脂に残存するアミド酸基がイミド化する際の脱水量に相当し、その理論脱水量に対する割合は、ポリアミック酸が有するアミド酸基のうちイミド環を形成しなかったものの割合に実質的に相当する。この割合が10質量%より大きいと、金属箔との接着や経時変化により縮合水が発生しやすくなる傾向にある。また、理論脱水量に対する重量減少量の割合は、0.1質量%以上であることが好ましい。この割合が0.1質量%より小さいと、90度引き剥がし強さが弱くなる傾向にある。
【0040】
ポリイミド樹脂の分子量に制限はないが、ポリイミドフィルムを形成した場合に、基体から剥がして自己支持フィルムとして用いるためには、分子量が20000以上であることが好ましい。分子量が20000未満であると、フィルムがもろくなり自己支持フィルムとして扱いにくくなる傾向にある。ただし、ポリイミドフィルムを基体から剥がさない場合はこの限りでない。
【0041】
ポリイミド樹脂は、カルボキシル基と反応する化合物と混合して用いることもできる。カルボキシル基と反応する化合物としては、グリシジル基又はイソシアヌル基を含む化合物が挙げられる。
【0042】
また、ポリイミド樹脂に、エポキシ化合物、アクリル化合物、ジイソシアナート化合物、フェノール化合物等の架橋性の成分や、難燃剤、フィラー、粒子、色材、レベリング剤、カップリング剤等の添加成分を任意に混合して用いることも可能である。
【0043】
本実施形態に係るポリイミド樹脂を用いて、ポリイミドフィルム及びそれを用いた積層体を製造することができる。図1は、積層体の一実施形態を示す端面図である。図1に示した積層体10は、金属箔20と、該金属箔20上に積層されたポリイミドフィルム30とを備える。
【0044】
本実施形態に係るポリイミド樹脂は、有機溶剤に可溶であるため、有機溶剤及び該有機溶剤に溶解しているポリイミド樹脂を含むポリイミド樹脂溶液を金属箔20に塗布した後、有機溶剤を除去することにより、ポリイミドフィルム30を形成し、積層体10を製造することができる。
【0045】
上記ポリイミド樹脂溶液において、ポリイミド樹脂を溶解する有機溶剤としては、特に制限されないが、メチルエチルケトン、アセトン、メチルブチルケトン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、γ−ブチルラクトン、シクロヘキサン、ジメチルスルホキサイド、硫酸ジメチル、スルホラン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0046】
本発明において「有機溶剤に可溶」とは、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド及びγ−ブチルラクトンのいずれかに対して50質量%以上の濃度で溶解することを意味する。有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂は、分子量や用いるテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類を適宜選択することにより得ることができる。
【0047】
ポリイミド樹脂溶液は、取り扱い上の観点から1質量%〜50質量%濃度であることが好ましい。1質量%濃度未満であると均一な皮膜を有するポリイミドフィルム30を形成することが難しく、50質量%濃度を超えると粘度が高くなり取り扱いが難しくなる傾向にある。
【0048】
ポリイミド樹脂溶液を金属箔20に塗布する際には、ロールコータ、コンマコータ、ナイフコータ、ドクタープレードフローコータ、密閉コータ、ダイコータ、リップコータ等を用いることができる。また、2種類以上のポリイミド樹脂溶液を重ねて塗布することも可能である。更に、金属箔20上に形成されたポリイミドフィルム30上に、ポリイミド樹脂溶液を重ねて塗布することも可能である。
【0049】
金属箔20は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロム、モリブデン等の金属やこれらの金属を含む合金からなる金属箔である。金属箔20に代えて、ポリイミド樹脂溶液を塗布する基体として、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、シリコン樹脂等の樹脂フィルム、これらの樹脂をガラスクロス、紙、不織布等に含浸させた複合物、セラミックス等の無機化合物からなる基体等を用いることもできる。
【0050】
更に、金属箔20上に積層されたポリイミドフィルム30に、他の金属箔を接着させることができる。また、ポリイミドフィルム30を金属箔20から剥がして、自己支持フィルムとして他の金属箔と接着させることもできる。
【0051】
上記他の金属箔としては、金属箔20として例示した金属及び合金であれば種類や厚みに制限はないが、取り扱い上の観点から厚さ1μm〜1000μmのアルミ箔、銅箔、ステンレス箔等が好ましい。更に、ポリイミドフィルム30との接着力を高めるために、化学的粗化、コロナ放電、サンデイング、メッキ、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等によってその表面を機械的又は化学的に処理したものであってもよい。
【0052】
ポリイミドフィルム30と上記金属箔を接着する方法としては、ポリイミドフィルム30と金属箔を重ね合わせて熱圧着することが好ましい。圧着機としてはプレス機やラミネート機が挙げられる。
【0053】
ポリイミドフィルム30と金属箔との接着力は、配線板として用いる場合には、90度引き剥がし試験において、0.5kN/m以上であることが好ましい。0.5kN/m以下である場合は、配線の剥がれ等を引き起こしやすくなる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[ポリイミド樹脂のNMP溶液の調製]
(実施例1)
環流冷却器を連結したコック付き25mL水分定量受器、温度計及び撹拌器を備えた500mLセパラブルフラスコに、約200mL/分の流速にて窒素を流しながら、メタフェニレンジアミン6.5g(0.060mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル9.6g(0.048mol)、プロピレンオキサイドジアミンとしてジェファーミンD400(三井化学ファイン株式会社製、商品名)4.8g(0.012mol)、及び非プロトン性極性溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)240gを仕込み、室温にて1時間撹拌した。撹拌後、フラスコ内の溶液に、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物62.5g(0.12mol)を加え、50℃にて1時間撹拌した。
【0056】
更に、水と共沸可能な芳香族炭化水素としてキシレン100mLを投入した後、約165℃にて3時間環流させた。水分定量受器に理論量の水が溜まり、水の流出が見られなくなっていることを確認した後、水分定量受器に溜まっている留出液を除去しながら、約190℃まで昇温し、キシレンを除去して、実施例1のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
【0057】
(実施例2)
原料を以下の量で用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、実施例2のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
メタフェニレンジアミン:5.2g(0.048mol)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:2.8g(0.014mol)
ジェファーミンD400:2.8g(0.007mol)
2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物:36.0g(0.07mol)
【0058】
(実施例3)
原料を以下の量で用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、実施例3のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
メタフェニレンジアミン:4.1g(0.038mol)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:7.5g(0.038mol)
2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物:39.0g(0.075mol)
【0059】
(比較例1)
原料を以下の量で用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、比較例1のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
メタフェニレンジアミン:15.6g(0.144mol)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:7.2g(0.036mol)
3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物:64.5g(0.18mol)
【0060】
(比較例2)
原料を以下の量で用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で反応を行い、比較例2のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
メタフェニレンジアミン:8.2g(0.075mol)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル:12.0g(0.06mol)
ジェファーミンD400:6g(0.015mol)
3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物:53.7g(0.15mol)
【0061】
(比較例3)
環流冷却器を連結したコック付き25mL水分定量受器、温度計及び撹拌器を備えた500mLセパラブルフラスコに、約200mL/分の窒素を流しながら、パラフェニレンジアミン7.9g(0.072mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル3.6g(0.018mol)及びNMP250gを仕込み、室温にて1時間撹拌した。フラスコを水冷してフラスコ内の溶液の温度を50℃に保ちながら、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物26.5g(0.018mol)をフラスコ内の溶液に徐々に加え、重合反応を進行させた。ワニスの回転粘度が25Pa・sになるまで80℃にてクッキングを行い、比較例3のポリイミド樹脂のNMP溶液を得た。
【0062】
得られた比較例3のポリイミド樹脂のNMP溶液に、キシレン100mLを投入した後、約165℃にて3時間環流させたところ、イミド化反応の進行に伴って反応系が懸濁した。水分定量受器に理論量の水が溜まり、水の流出が見られなくなっていることを確認した後、水分定量受器に溜まっている留出液を除去しながら、約190℃まで昇温し、キシレンを除去したところ、不溶解分が沈殿し、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂は得られなかった。
【0063】
[カルボキシル基当量]
実施例1〜3及び比較例1〜3のポリイミド樹脂のNMP溶液を、アルコール性水酸化カリウム溶液によって滴定した。その際、指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を用いた。得られた滴定量と樹脂重量とからカルボキシル基当量(g/mol)を計算した。結果を表1に示す。
【0064】
[理論脱水量に対する重量減少量の割合]
実施例1〜3及び比較例1〜3のポリイミド樹脂のNMP溶液からNMPを除去したサンプルを用い、150℃から300℃まで加熱したときの重量減少量を測定した。測定は、TG−DTAを用いて、昇温速度10℃/分にて行った。得られた重量減少量の、理論脱水量に対する割合(質量%)を計算した。理論脱水量は、ポリイミド樹脂合成時の仕込み量から計算した。結果を表1に示す。
【0065】
[90度引き剥がし強さ]
実施例1〜3及び比較例1〜3のポリイミド樹脂のNMP溶液を、銅箔(電解銅箔F2−WS−12、古河サーキットフォイル株式会社製、商品名)に約25μmの厚さで塗布し、温風循環型乾燥機により150℃にて30分間乾燥させて、銅箔上にポリイミドフィルムを形成した。形成されたポリイミドフィルムの銅箔と反対側の表面に、別の銅箔を熱圧着させ、両面銅箔付ポリイミド積層体を作製した。熱圧着は、真空ポットプレスを用いて、温度230℃、昇温速度5℃/分、保持時間60分間、圧力4MPaの条件で行った。得られた両面銅箔付ポリイミド積層体の銅箔を、1mm幅でマスクした状態でエッチングすることにより、1mm幅の銅箔を有する試験片を作製した。JIS−C6471に準じ、1mm幅の銅箔部分を剥離角90度、剥離速度50mm/分、室温(25℃)の条件で剥離したときの荷重を測定し、そのときの最大荷重を90度引き剥がし強さとした。結果を表1に示す。なお、比較例3については、両面銅箔付ポリイミド積層体をエッチングした際に膜強度が優れなかったため、90度引き剥がし強さは測定できなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、実施例1〜3のポリイミド樹脂は、カルボキシル基当量が6000g/mol以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量の理論脱水量に対する割合が10質量%以下であり、金属箔との接着強度が良好であった。これに対して、比較例1及び2のポリイミド樹脂は、理論脱水量に対する重量減少量の割合は10質量%以下であったが、カルボキシル基当量が6000g/molより多く、金属箔との接着強度は不良であった。また、比較例3のポリイミド樹脂は、カルボキシル基当量は6000g/mol以下であったが、理論脱水量に対する重量減少量の割合が10質量%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、金属箔との接着強度が改善された、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂が得られる。有機溶剤に可溶であることにより、低温でポリイミドフィルムを形成することが可能であり、他の部材への熱による損傷を抑制できる。また、ポリアミック酸の溶液を用いる場合のような、脱水に伴うふくれの発生を回避できる。
【0069】
更に、カルボキシル基を有するジアミンを用いてポリイミド樹脂にカルボキシル基を導入する方法と比較して、ポリイミド樹脂を合成するために用いるジアミンの選択の自由度が高い。これにより、例えば、金属箔とのより高い剥離強度が得られるようにジアミンの組成を最適化することがより容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る積層体の一実施形態を示す端面図である。
【符号の説明】
【0071】
10…積層体、20…金属箔、30…ポリイミドフィルム。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸が有するアミド酸基のイミド化により生成するポリイミド樹脂において、
前記アミド酸基に由来するカルボキシル基の一部が残存しており、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量が前記ポリアミック酸中の全ての前記アミド酸基が脱水閉環したときに生成する水の質量に対して10質量%以下である、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂。
【請求項2】
前記イミド化が、150〜210℃での3時間以上の加熱により行われる、請求項1記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
前記ポリアミック酸が、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物又はその誘導体を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により生成するものである、請求項1又は2記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
ポリアミック酸が有するアミド酸基のイミド化によりポリイミド樹脂を生成させる工程を備えるポリイミド樹脂の製造方法において、
前記イミド化により、
前記アミド酸基に由来するカルボキシル基の一部が残存しており、カルボキシル基当量が6000g/モル以下であり、150℃から300℃まで加熱されたときの重量減少量が前記ポリアミック酸中の全ての前記アミド酸基が脱水閉環したときに生成する水の質量に対して10質量%以下である、有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂を生成させる、製造方法。
【請求項5】
前記イミド化が、150〜210℃での3時間以上の加熱により行われる、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミック酸が、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物又はその誘導体を含むテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により生成するものである、請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂を含むポリイミドフィルム。
【請求項8】
金属箔と、該金属箔上に積層された請求項7記載のポリイミドフィルムと、を備える積層体。
【請求項9】
金属箔と、該金属箔上に積層されたポリイミドフィルムと、を備える積層体の製造方法において、
有機溶剤及び該有機溶剤に溶解している請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂を含むポリイミド樹脂溶液を金属箔に塗付する工程と、
塗布された前記ポリイミド樹脂溶液から前記有機溶剤を除去して前記ポリイミド樹脂を含むポリイミドフィルムを形成させる工程と、
を備える製造方法。
【請求項10】
前記金属箔上に積層されたポリイミドフィルムに、他の金属箔を熱圧着させる工程を更に備える、請求項9記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−285642(P2008−285642A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217520(P2007−217520)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】