説明

ポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法

【課題】無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂基材の表面に形成することができるポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂基材1の表面に、所定のパターン形状のマイクロ流路溝2を有するマスク材3を密着させてマイクロ流路4を形成する(1)工程。マイクロ流路4内にアルカリ溶液5を供給して、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させた改質層6を形成する(2)工程。マイクロ流路4内に金属イオン含有溶液7を供給して、改質層6に金属イオン含有溶液7を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる(3)工程。マイクロ流路4内に還元溶液、還元ガス、不活性ガス、又は活性ガスを供給して、前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物あるいは半導体として、析出させて無機薄膜9を形成する(4)工程。これらの工程から無機薄膜パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂基材の表面に無機薄膜パターンを形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムなどポリイミド樹脂で形成される絶縁基材の表面に回路パターンを形成する方法として、各種方法が提案されている。その中で、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスが、密着信頼性に優れた微細な回路パターンを良好に形成することが可能な方法として知られているが、これらの方法は高価な装置を必要とし、しかも同時に生産性が低く、高コストであるという問題を有する。
【0003】
そこで現在、最も一般的な回路パターン形成方法としては、予めポリイミド樹脂の基材の表面全体を金属薄膜で被覆して金属被覆材を作製し、フォトリソグラフ法により不必要な部位の金属薄膜をエッチング処理して除去するサブトラクティブ法が広く採用されている。金属被覆材における基材と金属薄膜との間の密着力は、基材の表面を粗化することに伴うアンカー効果、もしくは接着剤により確保されている。このサブトラクティブ法は、生産性に優れ、比較的簡便に回路パターンを形成するのに有用な方法であるが、回路パターンを作製する際に多量の金属薄膜を除去する必要があるため、金属材料の無駄が多く発生するという問題がある。それに加え、近年、電子回路基板の高密度化に伴ってより一層微細な回路パターンが要求されているが、サブトラクティブ法では、オーバーエッチングの発生や基材の表面の粗化による凹凸や接着剤の存在などにより、要求される微細回路パターン形成に対応することが困難であるという問題もある。
【0004】
このため、サブトラクティブ法に代わる回路パターン形成法が盛んに研究されている。例えばフォトリソグラフ法の一種であるアディティブ法は、例えば、ポリイミド樹脂の基材の表面の全面に感光性樹脂を塗布し、回路形成部位以外に紫外線照射することによって、回路形成部位以外を硬化させた後、未硬化部分を溶剤で回路パターン形状に除去し、無電解めっき法を用いて基材の表面に回路パターンを直接形成する方法である。無電解めっき法は溶液内の酸化還元反応を利用し、めっき触媒核が付与された基材表面に金属薄膜を形成する方法である。このアディティブ法は、前記のドライプロセスに比べて優れた生産性を有し、またサブトラクティブ法に比べて微細な回路パターン形成が可能であるが、基材と金属薄膜間の密着力を確保することが難しいため、密着信頼性に劣るといった問題点がある。また、アディティブ法は工程が複雑である上、微細な回路パターンを形成するためには高価な生産設備を必要とし、高コストになるという問題もある。
【0005】
さらに、微細な回路パターンを簡便かつ安価に形成する方法として、インクジェット方式が注目されている。インクジェット方式は、ポリイミド樹脂の基材の表面に金属ナノ粒子から構成されるインキをインクジェットノズルよりパターン形状に噴霧して、塗布した後、アニーリング処理して微細な金属薄膜からなる回路パターンを形成するようにしたものである。しかし、インクジェット方式で金属ナノ粒子を噴霧、塗布する際に、基材の表面の単位面積あたりの金属ナノ粒子数が不十分であると、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により、得られる金属薄膜が断線する可能性があり、逆に金属ナノ粒子数が過剰であると、アニーリング後に形成する金属薄膜の表面平滑性が失われる可能性があり、基材上への金属ナノ粒子の塗布量の制御が極めてシビアであるという問題点がある。また、基材と金属ナノ粒子の金属成分はその物性上、十分な密着信頼性を得ることが難しく、さらに、アニーリング時の金属ナノ粒子間の焼結に伴う収縮により寸法精度にも問題を有するものである。
【0006】
そして近年、優れた密着信頼性を有する回路パターン形成技術として、ポリイミド樹脂の基材の表面をアルカリ溶液で処理してカルボキシル基を生成させ、該カルボキシル基に金属イオンを配位させてカルボキシル基の金属塩を形成したのち、フォトマスクを介して紫外線を該ポリイミド樹脂基材上に照射することによって、選択的に金属イオンを還元して金属薄膜を析出させ、必要に応じてめっき法により金属薄膜を増膜するようにした技術が提案されている(例えば特許文献1等参照)。この方法で形成された金属薄膜はその一部がポリイミド樹脂基材の樹脂中に埋包されており、ポリイミド樹脂基材の表面に対する金属薄膜の密着信頼性を高く得ることができるのである。
【特許文献1】特開2001−73159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の発明のように、フォトマスクを介した紫外線照射によるパターン形成法では、回路基板の高密度化に伴って要望される極めて微細な回路パターンに対応することが困難である。また、めっき法により金属薄膜を増膜する際、めっき膜の成長は等方性であるため、めっき膜の析出に伴って配線幅が大きくなり、この点でも微細な回路パターンに対応することが困難になるという問題点を有するものである。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、無機薄膜を密着信頼性及びパターン精度高くポリイミド樹脂基材の表面に形成することができるポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法は、ポリイミド樹脂基材1の表面に、所定のパターンで形成されたマイクロ流路溝2を有するマスク材3を密着させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表面とマイクロ流路溝2とで囲まれるマイクロ流路4を形成する(1)工程と、このマイクロ流路4内にアルカリ溶液5を供給することによって、ポリイミド樹脂基材1のアルカリ溶液5と接触する部位の表面において、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させた改質層6を形成する(2)工程と、マイクロ流路4からアルカリ溶液5を排出した後、マイクロ流路4内に金属イオン含有溶液7を供給することによって、前記改質層6に金属イオン含有溶液7を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる(3)工程と、マイクロ流路4から金属イオン含有溶液7を排出した後、マイクロ流路4内に還元溶液、還元ガス、不活性ガス、活性ガスのうち少なくとも一種を供給することによって、前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物あるいは半導体として、析出させて無機薄膜9を形成する(4)工程と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、ポリイミド樹脂基材1の表面に、マイクロ流路溝2と同じパターンで金属もしくは金属酸化物或いは半導体として析出させて無機薄膜9を形成することができるものであり、無機薄膜9を密着信頼性高く、且つパターン精度高く形成することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、(4)工程の後に、マイクロ流路4から還元溶液、還元ガス、不活性ガス、又は活性ガスを排出した後、マイクロ流路4内に無電解めっき液10を供給することによって、無機薄膜9の表面にめっき膜11を形成する(5)工程、を有することを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、マイクロ流路4内において無電解めっき液10とポリイミド樹脂基材1の表面との接触を制限しつつ無機薄膜9の表面にめっき膜11を形成することができるものであり、マイクロ流路溝2のパターンで形成された無機薄膜9のパターン精度を損なうことなく、めっき膜11で増膜することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項2において、(5)工程において形成されためっき膜11が、アスペクト比が0.5〜3であり、上辺/底辺の幅比が0.8〜1.0であることを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、マイクロ流路4により無電解めっき液10とポリイミド樹脂基材1の表面との接触面を制限しながらめっきを行なうことができるので、本来等方性に成長するめっき膜11を、ポリイミド樹脂基材1の表面と平行方向への成長を抑制して形成することができ、アスペクト比が0.5〜3、上辺/底辺の幅比が0.8〜1.0のめっき膜11を形成することが可能になるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、(3)工程よりも後に、改質層6を再イミド化する(6)工程、を有することを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、(3)工程においてアルカリ溶液5でポリアミド酸に改質された改質層6を再イミド化してポリイミド樹脂に戻すことで、耐電圧特性や耐イオンマイグレーション性などの絶縁信頼性を高めることができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項4において、(6)工程は、改質層6を形成したポリイミド樹脂基材1を300℃以上500℃以下で加熱処理することにより行なうことを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、改質層6の再イミド化を簡単な処理で容易に行なうことができるものである。
【0019】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、(1)工程で使用されるマスク材3が、石英ガラス、サファイア、シリコン樹脂、耐アルカリ性ポリイミド樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂から少なくとも1種選ばれる耐アルカリ性材料で形成されたものであることを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、マスク材3に耐アルカリ性の素材を用いることで、アルカリ溶液5によって劣化することなく繰り返して使用することが可能になると共に、マイクロ流路溝2を微細に形成して使用することが可能になるものであり、また、高濃度のアルカリ溶液5をマイクロ流路4に供給することが可能になって、(2)工程での改質層6の形成を効率良く行なうことができるものである。
【0021】
また請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかにおいて、(1)工程で使用されるマスク材3が、マイクロ流路溝2の表面に耐アルカリ性保護膜が形成されたものであることを特徴とするものである。
【0022】
この発明によれば、マスク材3のマイクロ流路溝2をアルカリから保護することができ、アルカリ溶液5によって劣化することなく繰り返して使用することが可能になると共に、マイクロ流路溝2を微細に形成して使用することが可能になるものであり、また、高濃度のアルカリ溶液5をマイクロ流路4に供給することが可能になって、(2)工程での改質層6の形成を効率良く行なうことができるものである。
【0023】
また請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれかにおいて、(2)工程で形成される改質層6の厚みが2〜50μmであることを特徴とするものである。
【0024】
この発明によれば、改質層6の厚みを2〜50μmの範囲に制限することによって、連続した無機薄膜9の形成が可能になると共に、(5)工程で形成される無電解めっき膜の均一性を得ることが容易になるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ポリイミド樹脂基材1の表面に、マイクロ流路溝2と同じパターンで金属もしくは金属酸化物或いは半導体として析出させて無機薄膜9を形成することができるものであり、無機薄膜9を密着信頼性高く、且つパターン精度高くポリイミド樹脂基材1に形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0027】
ポリイミド樹脂は、主鎖に環状イミド構造を持ったポリマーであって、例えばポリアミック酸をイミド化することにより得られるものであり、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、難燃性、電気絶縁性等に優れた熱硬化性樹脂である。本発明ではこのポリイミド樹脂のフィルムや成形板などを基材1として用いることができるものであり、特に形態上の制限はない。
【0028】
そして本発明は、まず(1)工程で、表面にマイクロ流路溝2を設けたマスク材3を、そのマイクロ流路溝2を設けた面でポリイミド樹脂基材1の表面に密着させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表面とマイクロ流路溝2とで囲まれるマイクロ流路4を形成する。マイクロ流路溝2は、ポリイミド樹脂基材1の表面に形成する無機薄膜9のパターンに対応したパターンで形成されるものであり、従ってポリイミド樹脂基材1の表面にマスク材3を密着させることによって、ポリイミド樹脂基材1の無機薄膜9を形成する部位にマイクロ流路4が形成されるものである。マイクロ溝2の溝幅や溝深さは特に限定されるものではなく任意であるが、例えば、溝幅20〜30μm、溝深さ1〜50μm程度が好ましい。
【0029】
マスク材3の材質は特に限定されるものではないが、石英ガラス、サファイア、シリコン樹脂、耐アルカリ性ポリイミド樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂などの耐アルカリ性材質のものを用いるのが好ましく、これらから選ばれた少なくとも1種のものを用いることができる。また、マスク材3の表面に耐アルカリ性保護膜を形成することで、表面平滑性を高めると共に耐アルカリ性を付与することも可能であり、この場合にはマスク材3の材料として耐アルカリ性のものに制限されることなく使用することができるものである。例えば蒸着法で耐アルカリ性保護膜を形成する場合、金、銀、アルミニウム、鉄、錫、銅、チタン、ニッケル、タングステン、タンタル、コバルト、亜鉛、クロム、マンガンから選ばれた少なくとも1種を含む金属薄膜で耐アルカリ性保護膜を形成することができるものである。
【0030】
また、ポリイミド樹脂基材1とマスク材3との密着方法は限定されるものではないが、接着剤等の永久的な接合によるものではなく、物理的な接合によって密着させることが好ましい。このとき、ポリイミド樹脂基材1とマスク材3の密着面の表面粗さRaは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下である。またマスク材3の密着面を弾性体でコーティングすることによって、ポリイミド樹脂基材1との密着特性を高めることができるものである。
【0031】
上記のように(1)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面に、マイクロ流路溝2を有するマスク材3を密着させることによって、図1(a)のようにポリイミド樹脂基材1とマスク材3との間にマイクロ流路4が形成されるものであり、ポリイミド樹脂基材1の無機薄膜形成部位の表面がマイクロ流路4内に露出し、ポリイミド樹脂基材1のその他の部位はマスク材3によって覆われるものである。
【0032】
次に(2)工程で、マイクロ流路4内にアルカリ溶液5を供給して充填することによって、無機薄膜形成部位のポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ溶液5を作用させ、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂してカルボキシル基を生成させて、ポリイミド樹脂基材1の表面に改質層6を形成する。ここで、ポリイミド樹脂基材1の表面にアルカリ溶液5を作用させると、特許文献1に記載されているように、化学反応式1にみられるようなポリイミド樹脂の分子構造中のイミド環の開裂により、カルボキシル基(−COOA:カルボン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩)とアミド結合(−CONH−)が生成され、ポリイミド樹脂基材1の表面に改質層6が形成されるものである。
【0033】
【化1】

【0034】
アルカリ溶液5のアルカリ濃度は特に限定されるものではないが、0.01〜10Mの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜6Mである。アルカリ溶液としては特に制限されるものではないが、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、エチレンジアミン水溶液が好ましい。このアルカリ溶液5には、バインダー樹脂、有機溶剤、無機フィラー、増粘剤、レベリング剤などから選ばれる助剤を加えて、粘度、ポリイミド樹脂基材1との濡れ性、平滑性、揮発性を制御することができる。これらはマイクロ流路4のパターン、流路幅に応じて選択されることが望ましい。尚、マイクロ流路4内のアルカリ溶液5は、マイクロポンプ等により流動させるのが好ましい。このようにマイクロ流路4内でアルカリ溶液5を流動させることによって、マイクロ流路4内にフレッシュなアルカリ溶液5を連続的に供給することができ、改質層6の形成を効率良く行なうことができるものである。
【0035】
そして(2)工程では、マイクロ流路4内にアルカリ溶液5を供給することによって、アルカリ溶液5をポリイミド樹脂基材1の表面に選択的に接触させるようにしているので、ポリイミド樹脂基材1の表面に改質層6を図1(b)のように、マイクロ流路溝2のパターン形状で、無機薄膜形成部位にのみ形成することができるものである。
【0036】
ここで、上記のようにポリイミド樹脂基材1の表面に部分的に接触したアルカリ溶液5がポリイミド樹脂基材1の表面内に浸透するに従って、カルボキシル基を生成させるポリイミド樹脂の改質が進行するものであり、従って、マイクロ流路4にアルカリ溶液5を供給した後の接触時間を長くしたり、ポリイミド樹脂基材1を加熱処理したりすることによって、生成される改質層6の厚みを増大させることができるものである。アルカリ溶液5をポリイミド樹脂基材1の表面に接触させる際の処理温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは15〜60℃である。また接触させる処理時間は5〜1800秒が好ましく、より好ましくは30〜600秒である。このようにして形成される改質層6の厚みは2〜50μm程度である。
【0037】
上記のように(2)工程で、ポリイミド樹脂基材1の表面の無機薄膜形成部位にカルボキシル基を生成させて改質層6を形成し、次いで(3)工程で、マイクロ流路4からアルカリ溶液5を排出した後、マイクロ流路4内に金属イオン含有溶液7を供給することによって、改質層6に金属イオン含有溶液7を接触させる。このとき、マイクロ流路4からアルカリ溶液5を排出した後、マイクロ流路4内に蒸留水を供給することによってマイクロ流路4内のポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄し、不要なアルカリ溶液5を除去することが望ましい。
【0038】
金属イオン含有溶液7において、金属イオンとしては、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体、タングステンイオン、金イオン、銀イオン、銅イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、錫イオン、鉄イオン、ルテニウムイオン、インジウムイオン、カドミウムイオン、テルルイオン、セレンイオン、クロムイオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、そしてバナジウムイオンから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。これらの金属イオンのうち、白金アンミン錯体、パラジウムアンミン錯体はアルカリ溶液の状態で、それ以外の金属イオンは酸性溶液の状態で使用されるものである。
【0039】
そして、このようにマイクロ流路4に金属イオン含有溶液7を供給して、ポリイミド樹脂基材1のカルボキシル基を生成させた改質層6に金属イオン含有溶液7を接触させることによって、例えば
−COO…M2+…−OOC
のようにカルボキシル基に金属イオン(M2+)を配位させてカルボキシル基の金属塩(カルボン酸の金属塩)を生成させることができるものであり、図1(c)のように改質層6は金属イオン含有改質層15となるものである。ここで、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの間の配位子交換を進行させるために、水酸基やアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の解離度を増加させる必要がある。このためにはポリイミド樹脂基材1を酸性状態に保つことが必要であり、従ってこの場合には金属イオン含有溶液7として金属イオン含有酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0040】
また、金属イオン含有溶液7中の金属イオン濃度は、ポリイミド樹脂に生成させたカルボキシル基中の水酸基、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と、金属イオンとの配位子置換反応に密接な相関を示す。金属イオン種により異なるが、金属イオン濃度は1〜1000mMが好ましく、より好ましくは10〜500mMである。金属イオン濃度が低くなると、配位子置換の反応が平衡に達するまでの時間がかかるため好ましくない。ポリイミド樹脂基材1の改質層6の表面への金属イオン含有溶液7の接触時間は10〜600秒が好ましく、より好ましくは30〜420秒である。尚、マイクロ流路4内の金属イオン含有溶液7は、マイクロポンプ等により流動させるのが好ましい。このようにマイクロ流路4内で金属イオン含有溶液7を流動させることによって、マイクロ流路4内にフレッシュな金属イオン含有溶液7を連続的に供給することができ、金属イオン含有改質層15の形成を効率良く行なうことができるものである。
【0041】
上記のように(3)の工程で、ポリイミド樹脂基材1の改質層6に金属イオン含有溶液7を接触させ、改質層6をカルボキシル基の金属塩を生成させた金属イオン含有改質層15にし、次いで(4)の工程で、マイクロ流路4から金属イオン含有溶液7を排出した後、マイクロ流路4内に還元溶液、還元ガス、不活性ガス、活性ガスの少なくとも一つを供給することによって、金属イオン含有改質層15の金属塩を金属として、もしくは金属酸化物あるいは半導体として、金属イオン含有改質層15の表層部に析出させる。
【0042】
具体的には、マイクロ流路4内に還元溶液8等を供給することによって、ポリイミド樹脂基材1の金属イオン含有改質層15の表面に図1(d)に示すように、金属からなる無機薄膜9、もしくは金属酸化物あるいは半導体からなる無機薄膜9を形成することができるものである。このとき、マイクロ流路4から金属イオン含有溶液7を排出した後、マイクロ流路4内に蒸留水を供給することによって、マイクロ流路4内のポリイミド樹脂基材1の表面を洗浄し、不要な金属イオンを除去することが望ましい。
【0043】
ここで、金属イオン含有改質層15に金属塩を金属として析出させて、金属からなる無機薄膜9を形成する場合には、金属塩を還元処理することによって行なうことができる。還元処理は、マイクロ流路4内に、還元溶液、還元ガス、又は不活性ガスを供給することによって、金属イオン含有改質層15に還元溶液、還元ガス、又は不活性ガスを接触せしめ、所望の部位のみに金属薄膜を析出させるようにして行なうことができるものである。還元条件は金属イオン種により異なるが、還元溶液で処理する場合、還元剤としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸及びその塩、ジメチルアミンボラン等を使用することができる。還元ガスや不活性ガスで処理する場合は、還元ガスや不活性ガスをマイクロ流路4に供給しながらポリイミド樹脂基材1を熱処理することによって還元を行なう。還元ガスで処理する場合、還元ガスとして、例えば水素及びその混合ガス、ボラン−窒素混合ガス等を使用することができ、不活性ガスで処理する場合、不活性ガスとして、例えば窒素ガス、アルゴンガス等を使用することができる。
【0044】
また、金属イオン含有改質層15の金属塩を金属酸化物あるいは半導体として析出させて、金属酸化物あるいは半導体からなる無機薄膜9を形成する場合には、マイクロ流路4内に活性ガスを供給することによって、金属イオン含有改質層15に活性ガスを接触させ、金属イオン含有改質層15の表面に金属酸化物薄膜あるいは半導体薄膜を析出させるようにして行なうことができる。処理条件は金属イオン種により異なるが、活性ガスとして、例えば酸素及びその混合ガス、窒素及びその混合ガス、硫黄及びその混合ガス等を使用し、ポリイミド樹脂基材1の金属イオン含有改質層15の表面に活性ガスを接触させることによって、処理を行なうことができるものである。
【0045】
ここで、無機薄膜9を形成する金属酸化物としては、例えば酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、インジウム−錫複合酸化物、ニッケル−鉄複合酸化物、コバルト−鉄複合酸化物、などを挙げることができるものであり、このように金属酸化物からなる無機薄膜9をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、コンデンサー、透明導電膜、放熱材、磁気記録材料、エレクトロクロミズム素子、センサー、触媒、発光材料などとして使用することができるものである。
【0046】
また無機薄膜9を形成する半導体としては、例えば硫化カドミウム、テルル化カドミウム、セレン化カドミウム、硫化銀、硫化銅、リン化インジウム、などを挙げることができるものであり、このように半導体からなる無機薄膜9をポリイミド樹脂基材1の表面に形成することによって、例えば、発光材料、トランジスタ、メモリー材料、などとして使用することができるものである。
【0047】
尚、このように金属イオン含有改質層15の金属イオンを、金属として、もしくは金属酸化物あるいは半導体として析出させると、金属イオン含有改質層15は金属イオンを含有しない改質層6となるものである。
【0048】
上記のように(4)の工程で形成される無機薄膜9を構成する金属、もしくは金属酸化物あるいは半導体は、粒径2〜100nmのナノ粒子で構成されている。この無機ナノ粒子は、その極めて高い表面エネルギーのため容易に凝集され、無機ナノ粒子の集合体として存在するものである。そしてこのとき、上記の金属イオン濃度、還元剤濃度、雰囲気温度、活性ガス濃度の条件などにより程度は異なるものの、無機ナノ粒子の集合体の一部が改質層6の樹脂内で安定化しており、すなわち、無機ナノ粒子の集合体の一部が改質層6の樹脂の表層部内に埋包された状態となり、この際のアンカーロッキング効果によって、改質層6と無機ナノ粒子の集合体からなる無機薄膜9とを強固に密着させることができるものである。特に、基材表面を化学的、もしくは物理的に粗化することにより得られる一般的なアンカーロッキング効果では、その表面粗さがμmオーダーであるが、本発明におけるような無機ナノ粒子と改質層6とのアンカーロッキング効果は、表面粗さがナノスケールで優れた密着特性を得ることができるものであり、高周波領域の電子信号を伝達するための配線材料に適しているものである。
【0049】
上記のようにしてポリイミド樹脂基材1の無機薄膜形成部位に無機薄膜9を形成することができるものであり、無機薄膜形成部位を回路パターン形状に設定しておくことによって、無機薄膜9で回路パターンを形成することができ、ポリイミド樹脂基材1を電子回路基板などの電子部品として加工することができるものである。
【0050】
ここで、上記の(4)工程で形成される無機薄膜9は膜厚が10〜500nm程度である。一方、電子回路基板において回路は概ねμm単位の膜厚が必要である。このために、電子回路基板として使用する場合には、無機薄膜9に増膜を施して、回路の膜厚を厚く形成することが好ましい。すなわち、上記の(4)工程で無機薄膜9を形成し、次いで(5)工程で、マイクロ流路4から還元溶液、還元ガス、不活性ガス、又は活性ガスを排出した後、マイクロ流路4内に無電解めっき液10を供給することによって、無機薄膜9の表面にめっき膜11を形成し、増膜することができるものである。
【0051】
(5)工程の無電解めっきは、マイクロ流路4内において無機薄膜9に無電解めっき液10を接触させることによって、無機薄膜9を構成している上記の無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として、無機薄膜9の表面に図1(e)のように無電解めっき膜11を析出させるようにして行なうことができるものである。すなわち、無機ナノ粒子の集合体は、極めて広大な比表面積を有するので、優れた触媒活性を示すものであり、無電解めっき膜11を析出させるための析出核として利用する場合、多くの点から均一にめっき膜の析出が始まるため、良好な密着性と電気特性を示す無電解めっき膜11を得ることができるものである。このように無機ナノ粒子集合体をめっきの析出核として無機薄膜9の表面に無電解めっき膜11を析出させることによって、ポリイミド樹脂基材1の表面のうち、無機薄膜9の表面にのみ選択的に無電解めっき膜11を形成することができるものである。しかも、無機薄膜9に無電解めっき膜11を増膜して回路を形成するにあたって、マスク材3の存在により、めっき膜11のポリイミド樹脂基材1の表面方向への成長が抑制されるものであり、マイクロ流路4内においてのみめっき膜11が形成されることになって、増膜に伴うパターン精度の劣化を防ぐことができるものである。
【0052】
この結果、従来のサブトラクティブ法などでは得ることが出来なかった高精度かつ高アスペクト比を有する回路パターンを形成できるものであり、アスペクト比(厚み/線幅)が0.5〜3、上辺/底辺の幅比が0.8〜1.0のめっき膜11を形成することができ、微細な回路形成が可能となるものである。また、例えば市販の無電解銅めっき液は、アルカリ性であるため、ポリイミド樹脂基材1の全面に無電解銅めっき液が接触すると、無機薄膜9以外のポリイミド樹脂基材1の表面のポリイミド樹脂までもが、アルカリによって改質されてしまい、回路パターン間の耐電圧特性や耐イオンマイグレーション特性の劣化が引き起こされるおそれがあり、このために特殊な中性無電解銅めっき液しか使用することができない。しかし、本発明ではポリイミド樹脂基材1の表面をマスク材3で被覆した状態で、マイクロ流路4内に無電解銅めっき液を供給するので、ポリイミド樹脂基材1の表面のうち無機薄膜9が析出した領域のみに無電解銅めっき液が接触して、無電解銅めっきをおこなうため、このような制限を受けず、汎用の無電解銅めっき浴を使用すること可能になるものである。
【0053】
更に、上記の(3)工程よりも後に、(6)工程において、改質層6を再イミド化することができる。例えば、無電解めっきを行なう(5)工程の後に、(6)工程で改質層6を再イミド化することによって、ポリイミド樹脂のイミド環が開裂したカルボキシル基を有する改質層6は、ポリミド樹脂に戻って再改質層17となる(図1(f)参照)。このようにアルカリ溶液5でポリアミド酸に改質された部位を再イミド化することで、無機薄膜9で形成される回路パターン間の耐電圧特性や耐イオンマイグレーション性を高めることができるものである。具体的には、改質層6を形成したポリイミド樹脂基材1を加熱処理もしくは化学処理することにより再イミド化することができるものであり、例えば加熱処理の場合は、改質層6を形成したポリイミド樹脂基材1を300℃以上500℃以下で1〜2時間熱処理することにより再イミド化することができるものである。
【実施例】
【0054】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
サファイア基板の表面に電子線リソグラフィー装置を用いて、回路パターン形状で幅10μm、深度15μmの溝を形成し、マイクロ流路溝を形成したマスク材を作製した。このマスク材の表面粗さはRa=0.08μmであった。
【0056】
一方、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名「カプトン200−H」)をエタノール溶液に浸漬し、5分間超音波洗浄を施したのち、オーブン中で100℃、60分乾燥することにより、ポリイミドフィルムの表面を清浄化した。
【0057】
次に、ポリイミドフィルムにマスク材を張り合わせた後、50℃に加熱したホットプレート上に5分間静置した(図1(a)参照)。その後、マイクロ流路内に50℃に浴温された5M濃度のKOH水溶液を供給して充填することで、ポリイミドフィルムの表面の一部にKOH水溶液を3分間接触させ、厚み20μmの改質層を形成した(図1(b)参照)。
【0058】
そして、マイクロポンプを用いてKOH水溶液をマイクロ流路より除去した後、蒸留水を3分間マイクロ流路内に供給して充填することで、KOH成分を完全に除去した。次にマイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路より除去した後、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のCuSO水溶液をマイクロ流路内に供給して充填し、5分間静置することで、改質層にCuイオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した(図1(c)参照)。
【0059】
この後、マイクロポンプを用いてCuSO水溶液を流路内より除去し、さらに蒸留水を3分間マイクロ流路内に供給して充填することで、CuSO成分を完全に除去した。次に、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、還元溶液として5mM濃度のNaBH水溶液をマイクロ流路内に供給して充填して、5分間静置したところ、銅薄膜の析出が確認された(図1(d)参照)。この銅薄膜の厚みは200nm、線幅は10μmであり、マイクロ流路と同形状を有する銅回路パターンを形成することができた。
【0060】
そして、マイクロポンプにてNaBH水溶液を流路内より除去した後、蒸留水を3分間マイクロ流路内に供給して充填することで、NaBH成分を完全に除去した。その後、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、55℃に加温されたホットプレート上にポリイミドフィルムを5分間静置し、55℃で浴温された無電解銅めっき液(上村工業製、商品名「スルカップELC−SR」)をマイクロ流路内に充填し、60分間マイクロポンプにて無電解銅めっき液を循環させたところ、銅のめっき膜がマイクロ流路内で成長し、上記の銅薄膜の表面に、厚み5μm、線幅10μm(アスペクト比0.5)、上辺/底辺が0.95の銅めっき膜が形成され、優れた形状を示す回路パターンが形成できた(図1(e)参照)。
【0061】
(実施例2)
ポリジメチルシロキサン基板をマイクロスタンプ法により成形することで、幅20μm、深度15μmの溝を形成した。次に溝を形成した面に金薄膜を蒸着法にて0.3μmの厚みでめっきして積層して、マイクロ流路溝を形成したマスク材を作製した。このマスク材の表面粗さはRa=0.05μmであった。
【0062】
次に、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムにマスク材を合わせた後、30℃に加熱したホットプレート上に5分間静置した(図1(a)参照)。その後、マイクロ流路内に30℃に浴温された1M濃度のNaOH水溶液を供給して充填することで、ポリイミドフィルムの表面の一部にNaOH水溶液を2分間接触させ、厚み3μmの改質層を形成した(図1(b)参照)。
【0063】
そして、マイクロポンプを用いてNaOH水溶液をマイクロ流路内より除去した後、蒸留水を3分間マイクロ流路内に供給して充填することで、NaOH成分を完全に除去した。次に、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、0.1M濃度の硫酸インジウム水溶液と0.1M濃度の硫酸錫水溶液を混合して、インジウムイオンと錫イオンのモル比がインジウム/錫=15/85からなる金属イオン含有酸性水溶液を調製し、これをマイクロ流路に供給して充填し、5分間静置することで、改質層にインジウムイオン並びに錫イオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した(図1(c)参照)。
【0064】
この後、マイクロポンプにて、金属イオン含有酸性水溶液をマイクロ流路内より除去し、さらに蒸留水を3分間マイクロ流路内に供給して充填することで、金属イオン成分を完全に除去した。次に、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、マイクロ流路に水素を供給して充填しながら、ポリイミドフィルムを350℃、3時間加熱処理することによって、インジウム−錫合金からなるナノ粒子集合体の薄膜を改質層の表面に析出させた。このナノ粒子集合体の薄膜の膜厚は50nmであった。この後、ポリイミドフィルムを空気雰囲気下で300℃、6時間の条件で熱処理して、インジウム−錫合金を酸素と反応させることによって、ITO薄膜を形成させた(図1(d)参照)。このITO薄膜は線幅が20μm、シート抵抗が0.9Ω/□であった。
【0065】
(実施例3)
アクリル樹脂基板の表面にUVレーザ装置を用いて、幅5μm、深度10μmの溝を形成した。次に、溝を形成した面にポリスチレンを0.3μmの厚みでコーティングして、マイクロ流路溝を形成したマスク材を作製した。このマスク材の表面粗さはRa=0.02μmであった。
【0066】
次に、実施例1と同様に表面清浄化したポリイミドフィルムにマスク材を張り合わせた後、60℃に加熱したホットプレート上に5分間静置した(図1(a)参照)。その後、マイクロ流路内に60℃に浴温された5M濃度のエチレンジアミン溶液をマイクロポンプで供給して充填することで、ポリイミドフィルムの表面の一部にエチレンジアミン溶液を10分間接触させることで、厚み48μmの改質層を形成した(図1(b)参照)。
【0067】
そして、マイクロポンプにて、エチレンジアミン溶液を流路内より除去した後、蒸留水を3分間流路内に充填することで、エチレンジアミン成分を完全に除去した。次にマイクロポンプにて、蒸留水を除去した後、金属イオン含有酸性溶液として50mMの濃度のNiSO水溶液をマイクロ流路内に供給して充填し、5分間静置することで、改質層にNiイオンを配位して、金属イオン含有改質層を形成した(図1(c)参照)。
【0068】
次にマイクロポンプにて、NiSO水溶液をマイクロ流路内より除去した後、蒸留水を3分間マイクロ流路内に充填することで、NiSO成分を完全に除去した。次いで、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、還元溶液として10mM濃度のジメチルアミンボラン溶液をマイクロ流路内に供給して充填し、5分間静置したところ、改質層の表面にニッケル薄膜の析出が確認された(図1(d)参照)。このニッケル薄膜の厚みは300nm、線幅は10μmであり、マイクロ流路と同形状を有するニッケル回路パターンを形成することができた。
【0069】
そしてマイクロポンプにて、ジメチルアミンボラン溶液をマイクロ流路内より除去した後、蒸留水を3分間マイクロ流路内に充填することで、ジメチルアミンボラン成分を完全に除去した。その後、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、85℃に加温されたホットプレート上にマスク材を張り合わせたポリイミドフィルムを5分間静置し、85℃で浴温された無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、商品名「ニムデンLPX」)をマイクロ流路内に供給して充填しながら、70分間マイクロポンプにて無電解ニッケルめっき液を循環させたところ、ニッケルのめっき膜がマイクロ流路内で成長し、上記のニッケル薄膜の表面に、厚み9μm、線幅10μm(アスペクト比0.9)、上辺/底辺が0.90のニッケルめっき膜が形成され、優れた形状を示す回路パターンが形成できた(図1(e)参照)。
【0070】
次に、マイクロポンプにて、無電解ニッケルめっき液をマイクロ流路内より除去した後、蒸留水を3分間流路内に充填することで、無電解ニッケルめっき液を完全に除去した。その後、マイクロポンプを用いて蒸留水をマイクロ流路から除去した後、無電解金めっき液(奥野製薬工業製、商品名「ELGB511」)をマイクロ流路内に充填し、20分間マイクロポンプにて液を循環させたところ、金のめっき膜がニッケルめっき膜の上に厚み0.3μmで均一に析出していた。
【0071】
この後、ポリイミドフィルムからマスク材を取り外し、蒸留水で洗浄後、350℃、30分間、大気雰囲気下で加熱処理を行ったところ、改質層(ポリアミド酸)が再イミド化していることが確認された(図1(f)参照)。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、電子部品、機械部品、特にフレキシブル回路板、フレックスリジッド回路板、TAB用キャリアなどの回路板の製造に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)乃至(f)はそれぞれ概略断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 ポリイミド樹脂基材
2 マイクロ流路溝
3 マスク材
4 マイクロ流路
5 アルカリ溶液
6 改質層
7 金属イオン含有溶液
8 還元溶液等
9 無機薄膜
10 無電解めっき液
11 めっき膜
15 金属イオン含有改質層
17 再改質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂基材の表面に、所定のパターンで形成されたマイクロ流路溝を有するマスク材を密着させることによって、ポリイミド樹脂基材の表面とマイクロ流路溝とで囲まれるマイクロ流路を形成する(1)工程と、このマイクロ流路内にアルカリ溶液を供給することによって、ポリイミド樹脂基材のアルカリ溶液と接触する部位の表面において、ポリイミド樹脂のイミド環を開裂させてカルボキシル基を生成させた改質層を形成する(2)工程と、マイクロ流路からアルカリ溶液を排出した後、マイクロ流路内に金属イオン含有溶液を供給することによって、前記改質層に金属イオン含有溶液を接触させてカルボキシル基の金属塩を生成させる(3)工程と、マイクロ流路から金属イオン含有溶液を排出した後、マイクロ流路内に還元溶液、還元ガス、不活性ガス、活性ガスのうち少なくとも一種を供給することによって、前記金属塩を金属として、もしくは金属酸化物あるいは半導体として、析出させて無機薄膜を形成する(4)工程と、を有することを特徴とするポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項2】
上記の(4)工程の後に、マイクロ流路から還元溶液、還元ガス、不活性ガス、又は活性ガスを排出した後、マイクロ流路内に無電解めっき液を供給することによって、無機薄膜の表面にめっき膜を形成する(5)工程、を有することを特徴とする請求項1記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項3】
上記の(5)工程において形成されためっき膜が、アスペクト比が0.5〜3であり、上辺/底辺の幅比が0.8〜1.0であることを特徴とする請求項2記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項4】
上記の(3)工程よりも後に、改質層を再イミド化する(6)工程、を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項5】
上記の(6)工程は、改質層を形成したポリイミド樹脂基材を300℃以上500℃以下で加熱処理することにより行なうことを特徴とする請求項4記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項6】
上記の(1)工程で使用するマスク材が、石英ガラス、サファイア、シリコン樹脂、耐アルカリ性ポリイミド樹脂、ポリスチレン、フッ素樹脂から少なくとも1種選ばれる耐アルカリ性材料で形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項7】
上記の(1)工程で使用するマスク材が、マイクロ流路溝の表面に耐アルカリ性保護膜が形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。
【請求項8】
上記の(2)工程で形成される改質層の厚みが2〜50μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のポリイミド樹脂基材の無機薄膜パターン形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−103479(P2007−103479A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288615(P2005−288615)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】