説明

ポリエステル系樹脂組成物、並びに該組成物を用いた熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル及び該ラベルを装着した容器

【課題】良好な収縮特性を示し、フィルムの収縮加工時に、収縮仕上がりが良好であり、耐熱性に優れ、経時的劣化の少ないポリエステル系熱収縮性フィルムに好適に用いられるポリエステル系樹脂組成物、熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル及び容器の提供。
【解決手段】所定のポリエステル系樹脂(A)、及び下記のポリエステル系樹脂(B)を、所定量ずつ含有するポリエステル系樹脂組成物を用いる。
(A)所定量の脂環式ジカルボン酸残基を含むジカルボン酸残基成分と、エチレングリコール残基を主成分とするジオール残基成分とからなるポリエステル系樹脂。
(B)イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とするジカルボン酸残基成分と所定の脂肪族ジオール残基、及び必要に応じて脂環式ジオール残基を主成分とするジオール残基成分とからなるポリエステル系樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル系樹脂組成物、並びに該組成物で構成されるポリエステル系熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを備えた容器に関する。より詳しくは、本発明は、熱収縮性フィルムに成形した場合、熱収縮加工後に収縮斑、しわ、歪み等の不具合が発生せず、収縮仕上がりが良好で、耐熱性に優れ、該フィルムに形成されたミシン目に沿ってフィルムを容易に切断し、剥離することができ、さらに熱収縮性フィルムの主収縮方向と直交する方向の破断伸度が大きく、熱収縮性フィルムの製造工程において、熱収縮性フィルムの破断トラブルがほとんどなく、高速加工が可能である収縮ラベルや食品包装などに好適に使用されるポリエステル系樹脂組成物、並びに該組成物で構成されるポリエステル系熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを備えた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス瓶やポリエチレンテレフタレートボトル(PETボトル)に使用される収縮ラベルや食品包装用の収縮フィルムとしては、ポリ塩化ビニル又はポリスチレンからなる延伸フィルムが主に使用されてきた。これに対し、近年、安全衛生性や耐薬品性に優れたポリエステル系樹脂を使用した熱収縮性フィルムが要望されており、ポリエステル系樹脂からなる延伸フィルムの使用が増加しつつある。
【0003】
しかしながら、現在使用されているポリエステル系熱収縮性フィルムは、温度上昇に伴い収縮率が急激に増大するため、PETペットボトル等に被覆した場合、フィルムにしわ等が発生し、収縮仕上がり不良を起こす等の問題があった。
【0004】
また、近年、PETボトルのリサイクルに伴い、熱収縮性ラベルにミシン目が施されるようになり、そのミシン目の切れ性が良好であることが熱収縮性ラベルの重要な物性となっている。しかし、現在使用されているポリエステル系熱収縮性フィルムは、ミシン目切れ性が良くない等の問題があった。
【0005】
また、製膜時にフィルム主収縮方向に直交する方向(熱収縮性フィルムの製造・加工工程における流れ方向)でフィルムが破断し易く、印刷工程、チュービング加工工程、又はラベル加工工程においてフィルムが破断する等という問題があった。さらに、フィルムを被覆収縮させた容器等が外部から衝撃等を受けた場合に、フィルムが破断する等の問題があった。
【0006】
前記破断現象は、フィルム製造後の経過時間や保管時間が長くなればなるほど、特に保管環境温度が高温になればなるほど、より顕著になる傾向がある。昨今、経済性の観点から、熱収縮性フィルムの薄肉化、高速加工化の要請は高まっており、前記破断を起こし難くするための耐破断性の向上は、ポリエステル系熱収縮性フィルムにおける重大な課題となっている。
【0007】
前記様々な問題点に対し、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上80℃以下のポリエチレンテレフタレート系ポリマーに芳香族ポリカーボネート樹脂を5質量%以上10質量%以下配合することにより、収縮開始温度以降の熱収縮を緩慢にし、収縮温度の範囲を広げる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。さらに、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるポリエステル樹脂100質量部に対し、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上異なる樹脂1質量部以上50質量部以下を混合する方法(例えば特許文献2参照)が提案されている。さらに、ポリエステル樹脂約50質量%以上約99質量%以下と、本質的に直鎖のランダム脂肪族−芳香族コポリエステル又はその分岐鎖及び/若しくは連鎖延長コポリエステル約1質量%以上約50質量%以下とを用いる方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0008】
さらに、予熱工程を経ないでも良好な外観が得られるように、ポリブチレンテレフタレート共重合体と特定の変性種を共重合したポリエチレンテレフタレート共重合体からなる組成物を成形する方法(例えば特許文献4参照)や、高温収縮工程で良好な収縮性を得るため、ポリブチレンテレフタレート変性体とポリエチレンテレフタレート変性体とを配合して成形する方法(例えば特許文献5参照)も提案されている。
【0009】
また、30℃相対湿度85%環境下で2週間保管し、特定条件下の引張試験を行ったときの破断伸度が5%以下である試験片数が全試験片数の10%以下である、フィルムの主収縮方向に直交する方向の耐破断性に優れたポリエステル系熱収縮性フィルムが提案されている(例えば特許文献6参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−25294号公報
【特許文献2】特開平4−50238号公報
【特許文献3】特表2004−536192号公報
【特許文献4】特開2001−151908号公報
【特許文献5】特開2002−212405号公報
【特許文献6】特開2003−41028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の熱収縮性フィルムは、いずれも収縮仕上がりが未だ不十分であり、またミシン目を施したラベルの切れ性が劣っているという問題があった。また、特許文献4や特許文献5に記載の熱収縮フィルムは、いずれも収縮仕上がりが未だ不十分であり、また延伸後の脆性が劣るという問題があった。さらに、特許文献6に記載のフィルムは、保管試験後に、破断伸度の極めて小さい試験片が発生する割合が抑えられているにすぎず、また破断伸度5%以上の試験片の破断伸度の大きさにも何ら言及されておらず、必ずしも耐破れ性が優れたものとはいえない。したがって、このフィルムは、前記各種の状況におけるフィルム破断等の経時的脆性劣化の問題を解決するには十分対応できるものではなかった。
【0012】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、本発明の課題は、熱収縮性フィルムに成形した場合に、フィルムの収縮仕上がりが良好であり、経時的脆性劣化が少なく、耐熱性と耐破断性に優れ、さらに該フィルムに形成されたミシン目に沿ってフィルムを容易に切断し、剥離することができるポリエステル系熱収縮性フィルム、並びに該組成物で構成されるポリエステル系熱収縮性フィルム、熱収縮性ラベル、及び該ラベルを装着した容器を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、所定量の脂環式ジカルボン酸成分を含む共重合ポリエステル系樹脂(A)と、イソフタル酸成分以外の芳香族ジカルボン酸成分と、所定の脂肪族ジオール成分及び/又は脂環式ジオール成分を主成分とするジオール成分とからなるポリエステル系樹脂(B)をある所定の比率で含む樹脂組成物を成形してなるポリエステル系熱収縮性フィルムが、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の課題は、下記のポリエステル系樹脂(A)、及び下記のポリエステル系樹脂(B)を、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対し、ポリエステル系樹脂(B)を100質量部以上1900質量部以下含有することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
(A)脂環式ジカルボン酸残基を含むジカルボン酸残基成分と、エチレングリコール残基を主成分とするジオール残基成分とからなり、前記脂環式ジカルボン酸残基を、全ジカルボン酸残基成分の5モル%以上50モル%以下含有するポリエステル系樹脂。
(B)イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とするジカルボン酸残基成分と、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基とを主成分とするジオール残基成分とからなるポリエステル系樹脂。
【0015】
(2) 前記ポリエステル系樹脂(A)がイソフタル酸残基成分を含まないポリエステル系樹脂である前記(1)に記載のポリエステル系樹脂組成物。
(3)前記ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上80℃以下である(1)又は(2)に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【0016】
(4) 前記脂環式ジカルボン酸残基が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基である前記(1)乃至(3)のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
(5) 前記脂環式ジオール残基が1,4−シクロヘキサンジメタノール残基である前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
(6) 前記(1)乃至(5)のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物からなり、かつ少なくとも一軸方向に延伸され、80℃温の水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向における熱収縮率が20%以上であることを特徴とするポリエステル系熱収縮性フィルム。
【0017】
(7) 前記(6)に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムを少なくとも1層有するポリエステル系熱収縮性多層フィルム。
(8) 前記(6)に記載のポリエステル系熱収縮性フィルム又は前記(7)に記載のポリエステル系熱収縮性多層フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
(9) 前記(8)に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、少なくとも2種類の所定のポリエステル系樹脂を含むため、熱収縮性フィルムに成形した場合、該フィルムに良好な収縮特性を付与できる。そのため本発明によれば、収縮仕上がりが良好であり、耐熱性と耐破断性に優れ、かつ熱収縮加工後、予め形成されたミシン目に沿って容易に切断し、フィルムを容易に剥離可能な熱収縮性フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、良好な収縮特性、ミシン目切れ性、耐熱性及び耐破断性を併有する熱収縮性ラベル及び該ラベルを付した容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のポリエステル系樹脂組成物(以下「本発明の組成物」ともいう)、該組成物からなるポリエステル系熱収縮性フィルム(以下「本発明のフィルム」ともいう)、熱収縮性ラベル(以下「本発明のラベル」ともいう)、及び該ラベルを装着した容器(以下「本発明の容器」ともいう)について説明する。
【0020】
〔ポリエステル系樹脂組成物〕
本発明の組成物は、下記のポリエステル系樹脂(A)、及び下記のポリエステル系樹脂(B)を、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対し、ポリエステル系樹脂(B)を100質量部以上1900質量部以下含有する組成物である。
(A)脂環式ジカルボン酸残基を含むジカルボン酸残基成分と、エチレングリコール残基を主成分とするジオール残基成分とからなり、前記脂環式ジカルボン酸残基を、全ジカルボン酸残基成分の5モル%以上50モル%以下含有するポリエステル系樹脂。
(B)イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とするジカルボン酸残基成分と、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基を主成分とするジオール残基成分、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基を主成分とするジオール残基成分とからなるポリエステル系樹脂。
【0021】
なお、本明細書において、「主成分」とは、含有割合が50モル%以上の成分をいう。具体的には、前記のポリエステル系樹脂(A)における「エチレングリコール残基を主成分とする」とは、全ジオール残基成分を100モル%としたとき、エチレングリコール残基の含有割合が50モル%以上であることをいう。さらに、前記のポリエステル系樹脂(B)における「イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とする」とは、全ジカルボン酸残基成分を100モル%としたとき、イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸残基の含有割合が50モル%以上であることをいう。また、前記のポリエステル系樹脂(B)における「炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基を主成分とする」とは、全ジオール残基を100モル%としたとき、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基の含有割合が50モル%以上であることをいう。さらにまた、前記のポリエステル系樹脂(B)における「炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基を主成分とする」とは、全ジオール残基成分を100モル%としたとき、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基の含有割合が50モル%以上であることをいう。
【0022】
<ポリエステル系樹脂(A)>
ポリエステル系樹脂(A)は、脂環式ジカルボン酸残基を含むジカルボン酸残基成分と、エチレングリコール残基を主成分とするジオール残基成分とからなる。
【0023】
ポリエステル系樹脂(A)のジカルボン酸残基成分中に含まれる脂環式ジカルボン酸残基は特に限定されず、例えば1,2−シ゛クロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、又はそれらのエステル誘導体から誘導される残基を挙げることができる。シクロヘキサンジカルボン酸には、シス体とトランス体の立体配置があるが、シス体100%からトランス体100%までのいずれの範囲のものであってもよく、シス体−トランス体の全ての組み合わせが含まれる。これらのうち、熱収縮性と耐熱性の観点から、トランス体が20%以上100%以下である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基又はそのエステル誘導体残基であることが好ましい。
【0024】
また、ポリエステル系樹脂(A)のジカルボン酸残基成分中に含まれる脂環式ジカルボン酸残基以外のジカルボン酸残基成分は、芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましく、イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基であることが特に好ましい。イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を含むポリエステル系樹脂を用いることにより、熱収縮性フィルムに成形した場合、該フィルムの経時的な脆性劣化を抑え、フィルムに耐破断性を付与することができる。前記芳香族ジカルボン酸残基としては、例えば、テレフタル酸、オルトフタル酸、フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、又はそれらのエステル誘導体等から誘導される残基を例示でき、中でもテレフタル酸残基又はそのエステル誘導体残基が特に好ましい。
【0025】
前記脂環式ジカルボン酸残基は、ジカルボン酸化合物とジオール化合物とを反応させてポリエステル系樹脂(A)を得る際に、ジカルボン酸化合物中に脂環式ジカルボン酸残基を誘導し得る脂環式ジカルボン酸化合物を混合させることにより、単一の共重合体成分として含有させることができる。
【0026】
前記脂環式ジカルボン酸残基の含有率は、全ジカルボン酸残基成分(100モル%)中、5モル%以上であり、上限は50モル%、好ましくは40モル%、さらに好ましくは25モル%である。脂環式ジカルボン酸残基の含有率の上限が50モル%であれば、得られる熱収縮性フィルムのヘーズと耐熱性を両立することができる。脂環式ジカルボン酸残基の含有率の下限が5モル%であれば、得られる熱収縮性フィルムの良好な収縮特性が得られる。
【0027】
さらに、ポリエステル系樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ジカルボン酸残基成分以外のジカルボン酸残基を共重合させたものであってもよい。そのようなジカルボン酸残基としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのエステル誘導体等から誘導される残基、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等から誘導される三官能以上の多官能カルボン酸残基又はそれらのエステル誘導体残基を例示できる。
【0028】
ポリエステル系樹脂(A)のジオール残基中に含まれるジオール残基としては、収縮仕上がりの観点からエチレングリコール残基を主成分として用いることが好ましい。エチレングリコール残基の含有率は、全ジオール残基成分(100モル%)中、50モル%以上であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であるこがさらに好ましい。エチレングリコール成分の含有率が50モル%以上であれば、良好な収縮仕上がりを維持することができる。
【0029】
さらに、ポリエステル系樹脂(A)のジオール残基成分は、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等から誘導される各種のジオール残基成分を共重合させてもよく、中でも1,2−ブタンジオール残基又は1,4−ブタンジオール残基が好ましい。
【0030】
また、ポリエステル系樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等から誘導される単官能残基成分、トリカルバリル酸、ヘキサントリカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロール等から誘導される3官能以上の多官能残基成分を共重合させることもできる。
【0031】
ポリエステル系樹脂(A)は、得られる熱収縮性フィルムに耐熱性を付与する観点から、示差走査熱量分析計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)は60℃以上であることが好ましい。一方、上限は特に制限はないが、成形の容易性の観点からTgは80℃以下であることが望ましい。ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、ポリエステル系樹脂(A)を280℃で5分間溶融し、次いで液体窒素中で浸漬して急冷させ、非結晶化したものを試料とし、昇温速度20℃/分でDSCを用いて測定することができる。
【0032】
<ポリエステル系樹脂(B)>
本発明の組成物を構成するポリエステル系樹脂(B)は、イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸成分を主成分とするジカルボン酸成分と、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール成分を主成分とするジオール残基成分、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基を主成分とするジオール残基成分とからなる。
ポリエステル系樹脂(B)を構成するジカルボン酸残基成分は、イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とする。イソフタル酸残基成分以外の芳香族ジカルボン酸残基成分を主成分として用いることにより、熱収縮性フィルムに成形した場合、該フィルムの経時的な脆化を効率的に抑え、該フィルムに耐破断性を付与することができる。
【0033】
前記芳香族ジカルボン酸残基としては、テレフタル酸、オルトフタル酸、フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、又はそれらのエステル誘導体等から誘導される残基を例示でき、中でもテレフタル酸残基又はそのエステル誘導体残基が好ましい。
【0034】
前記芳香族ジカルボン酸残基の含有率は、全ジカルボン酸残基成分中50モル%以上であり、好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、最も好ましくは90モル%以上である。また、前記含有率の上限は特に制限はなく100モル%以下であればよい。芳香族ジカルボン酸残基の含有率が50モル%以上であれば、得られる熱収縮性フィルムに良好な耐熱性を付与できる。
【0035】
ポリエステル系樹脂(B)を構成するジカルボン酸残基成分は、発明の効果を損なわない範囲であれば、前記芳香族ジカルボン酸残基成分以外のジカルボン酸残基成分を本共重合させることもできる。かかるジカルボン酸残基としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル誘導体から誘導される残基、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等から誘導される三官能以上の多官能カルボン酸残基又はそれらのエステル誘導体残基等を例示できる。
【0036】
また ポリエステル系樹脂(B)を構成するジオール残基成分は、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基を主成分とする。かかるジオール残基としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール等から誘導される脂肪族ジオール残基や、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等から誘導される脂環式ジオール残基を例示できる。中でもジオール残基成分中にエチレングリコール残基及び1,4−シクロヘキサンジメタノール残基が主成分として含まれていることが好ましい。なお、シクロヘキサンジメタノールにはシス体とトランス体の立体配置があるが、シス体100%からトランス体100%間でのいずれの範囲のものであってもよく、その間の全ての組み合わせのものが含まれる。これらのうち、熱収縮性の観点からは、トランス体が20%以上100%以下の1,4−シクロヘキサンジメタノールであることが好ましい。
【0037】
ジオール残基成分中に含まれる炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基の含有率、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基と脂環式ジオール残基の合計の含有率は、全ジオール残基成分(100モル%)に対して50モル%以上であり、60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基の含有率、並びに炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基と脂環式ジオール残基との合計の含有率が50モル%以上であれば、良好な収縮仕上がりを維持することができる。また、脂環式ジオール残基の全ジオール残基成分に対する含有率は、3モル%以上、好ましくは8モル%以上であり、かつ50モル%未満、好ましくは40モル%以下である。
【0038】
ポリエステル系樹脂(B)は、ポリエーテル残基成分をさらに含有することもできる。ポリエーテル残基成分の種類は特に制限はないが、熱収縮性フィルムにおける収縮仕上がりの観点からは、ポリアルキレングリコール残基が好ましい。ポリアルキレングリコール残基としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック又はランダム共重合体等から誘導されるポリアルキレングリコール残基を例示できる。これらの中で、ポリエチレングリコール残基、ポリテトラメチレングリコール残基が好ましく、ポリエステル系樹脂(B)における重合度を高め、得られるポリエステル系熱収縮性フィルムの収縮仕上がりを向上させる観点からは、ポリテトラメチレングリコール残基が特に好ましい。ポリエーテル残基成分は、単独で共重合させてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて共重合させることもできる。
【0039】
ポリエーテル残基成分がポリアルキレングリコール残基を含む場合、ポリアルキレングリコール残基を誘導し得るポリアルキレングリコールの数平均分子量は、500以上、好ましくは600以上であり、かつ6,000以下、好ましくは4,000以下、さらに好ましくは3,000以下の範囲であることが望ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が500以上であれば、得られるポリエステル系熱収縮性フィルムの引張弾性率が高くなり過ぎることがなく、一方、上限が6,000であれば、得られるポリエステル系熱収縮性フィルムの透明性が良好となる。
【0040】
また、前記ポリアルキレングリコールは、数平均分子量の異なるものを複数種併用することもできる。複数種併用する場合は、均一に混合した状態での数平均分子量が前記範囲内であることが好ましい。なお、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー等の一般的な方法により測定することができる。
【0041】
ポリエステル系樹脂(B)が前記ポリアルキレングリコール残基成分を含有する場合、ポリアルキレングリコール残基の含有率は、全ジオール残基成分中0.5モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、かつ5モル%未満、好ましくは3モル%未満であることが望ましい。ポリアルキレングリコールの含有率が5モル%未満であれば、ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度の極端な低下を抑えることができ、さらに伸び経時劣化を抑えることもできる。
【0042】
また、ポリエステル系樹脂(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等から誘導される単官能残基成分、トリカルバリル酸、ヘキサントリカルボン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロール等から誘導される3官能以上の多官能残基成分を共重合させることもできる。
【0043】
前記ポリエステル系樹脂(A)及び(B)は、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比1対1)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定した固有粘度が、通常0.4dl/g以上、好ましくは0.6dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上であり、1.5dl/g以下、好ましくは1.2dl/g以下、さらに好ましくは1.1dl/g以下の範囲であることが好ましい。固有粘度が0.4dl/g以上であれば、十分な機械的特性が得られ、また1.5dl/g以下であれば、成形品を成形する際に成形が容易である。
【0044】
本発明の組成物を構成するポリエステル系樹脂(A)及び(B)は、ポリエステル系樹脂の慣用の製造方法、すなわち、直接重合法又はエステル交換法等により、回分式又は連続式によって製造することができる。ここで、前述の任意の共重合体成分は、重縮合反応過程の任意の段階で添加することができる。また、ジカルボン酸化合物とジオール化合物とから低重合度のオリゴマーを製造しておき、これと前述の任意の共重合体成分を重縮合させてポリエステル系樹脂(A)及び(B)を製造することもできる。
【0045】
重縮合反応により得られた樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら、又は水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。さらに、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重縮合させることにより、さらに高重合度化させ得ると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0046】
前記製造方法において、エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル化反応触媒を使用して行うことができ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩や有機金属化合物等のエステル交換反応触媒を使用して行うことができる。
【0047】
また、重縮合反応は、例えば、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、及びこれらのエステルや有機酸塩等の燐化合物の存在下、及び、例えば、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、あるいは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト等の有機酸塩や有機金属化合物等の重縮合触媒の存在下でなされる。これらの重縮合触媒のうち、特にテトラブトキシチタネート、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウムから選択される1種以上が好適に使用される。触媒量は、エステル化反応触媒、エステル交換反応触媒、及び重縮合触媒とも、得られるポリエステル系樹脂の理論収量に対して、金属量(原子換算量)として通常5質量ppm以上2000質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以上500質量ppm以下の範囲で用いられる。
【0048】
本発明の組成物は、熱収縮性フィルムにした際に、耐ブロッキング性及び易滑性を付与する観点から、無機及び/又は有機の微粒子をさらに含有していてもよい。該微粒子の含有量は、全組成物の質量に対して、0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、かつ1質量%以下、好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下の範囲であることが望ましい。
【0049】
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、弗化リチウム、カーボンブラック、及びポリエステル重合時のアルカリ金属、アルカリ土類金属、燐化合物等の触媒等に起因する析出物等が挙げられる。また、有機微粒子としては、例えば、各種の架橋ポリマー等が挙げられる。
【0050】
前記有機又は無機微粒子の平均粒子径は、前述した耐ブロッキング性及び易滑性の効果を得る観点から、0.001μm以上、好ましくは0.005μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上であり、かつ6μm以下、好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下の範囲であることが望ましい。
なお、ここでいう「平均粒子径」とは、レーザー回折法、動的光散乱法等の電磁波散乱法、遠心沈降式等の光透過法などの方法で測定した50%体積平均粒子径(d50)を意味するが、測定方法によって差異が生じる場合は、レーザー回折法による値を用いる。
【0051】
前記有機又は無機微粒子の混合方法は特に限定されず、ポリエステル系樹脂の重合過程で添加することもできるし、ポリエステル系樹脂組成物の製造過程や、ポリエステル系熱収縮性フィルムの成形過程で混合することもできる。
【0052】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂を含有していてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの無水マレイン酸変性物、アイオノマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0053】
さらに、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、フェノール系、リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系等の光安定剤、無機系又は有機系の結晶核剤、分子量調整剤、耐加水分解剤、帯電防止剤、滑材、離型剤、可塑剤、難燃剤、難燃補助剤、発泡剤、着色剤、分散助剤などの添加剤やガラス繊維、カーボンファイバー、マイカ、チタン酸カリファイバー等の強化材を含有していてもよい。
【0054】
本発明の組成物は、前記ポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)とを同時又は逐次混合させることにより得られる。ポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)との混合量は、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対して、ポリエステル系樹脂(B)を100質量部以上、好ましくは200質量部以上、さらに好ましくは400質量部以上であり、かつ上限を1900質量部、好ましくは1500質量部、さらに好ましくは1000質量部とすることが望ましい。両ポリエステル系樹脂の配合量を前記範囲内とすることにより、熱収縮性フィルムに成形した場合に、良好な収縮仕上がりを熱収縮性フィルムに付与できる。なお、前記ポリエステル系樹脂(A)及び(B)の混合時の温度、圧力等の条件は、従来のポリエステル系樹脂組成物の製造方法で用いられる条件を適用することができる。
【0055】
〔ポリエステル系熱収縮性フィルム〕
本発明のフィルムは、前記ポリエステル系樹脂(A)と前記ポリエステル系樹脂(B)とを含有する組成物より成形されてなるフィルムであり、80℃の温水中で10秒間浸漬したときのフィルム主収縮方向の熱収縮率は20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。本発明のフィルムは、比較的高温である80℃温水中において、フィルム主収縮方向の熱収縮率が20%以上と適度な収縮率が得られるため、通常の容器に装着して収縮、被覆することができる。本発明のフィルムの熱収縮率は、本発明の組成物のポリエステル系樹脂(A)に含まれる脂環式ジカルボン酸残基成分の含有率を増減することにより調整できる。例えば、ポリエステル系樹脂(A)に含まれる脂環式ジカルボン酸残基成分の含有率を増加させることによりフィルムの熱収縮率を増加させることができる。
なお、本明細書において「主収縮方向」とは、縦方向(長手方向)と横方向(幅方向)のうち熱収縮率の大きい方向を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向を意味し、「直交方向」とは主収縮方向と直交する方向を意味する。
【0056】
また本発明のフィルムは、70℃から90℃までの温水中で10秒間浸漬したときのフィルムの直交方向の平均収縮率は5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下であることが望ましい。本発明のフィルムは、前記温度範囲でフィルム直交方向の平均収縮率が5%以下であれば、ラベル成形時におけるラベル垂直方向のひけの発生を抑えることができ、特に70℃から90℃までの温度範囲で収縮斑やしわの発生を抑え、収縮特性と商品価値を向上させることができる。
【0057】
本発明のフィルムの主収縮方向及び直交方向の自然収縮率は、例えば、30℃で30日保存後において2.0%以下、好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。前記条件下における自然収縮率が2.0%以下であれば、本発明のフィルムは長期保存した場合においても容器等に安定して装着することができ、実用上問題を生じにくい。
【0058】
本発明のフィルムは、主収縮方向(TD)の引張弾性率は2,500MPa以上、好ましくは3,000MPa以上、さらに好ましくは3,500Mpa以上であり、上限は7,000MPa、好ましくは6,000MPa、さらに好ましくは5,500MPaである。また本発明のフィルムの主収縮方向と直交方向(MD)の引張弾性率は1,000MPa以上、好ましくは1,300MPa以上、さらに好ましくは1,500MPa以上であり、上限は3,500MPa、好ましくは3,000MPa、さらに好ましくは2,500MPaである。引張弾性率は、直交方向(MD)及び主収縮方向(TD)にそれぞれ幅5mm、長さ70mmの試験片を採取し、該試験片をチャック間50mmで23℃50RH%の恒温室に設置した引張試験機にセットした後、応力−歪曲線を引張試験速度5mm/分で求めて、試験開始直後の直線部分において下記式(1)より引張弾性率を求めることができる。
引張弾性率=直線上の2点間の元の平均断面積による応力差/同じ2点間の歪差…(1)
【0059】
本発明のフィルムは、JIS K7128−3に準拠して測定した直角引裂強度が直交方向(MD)で100N/mm以上、好ましくは150N/mm以上、さらに好ましくは200N/mm以上であり、また主収縮方向(TD)で200N/mm以上、好ましくは300N/mm以上、さらに好ましくは350N/mm以上である。
【0060】
本発明のフィルムの耐破断性は、引張伸びにより評価され、0℃環境下の引張試験において、特にラベル用途ではフィルムの直交方向(MD)で伸び率が100%以上、好ましくは200%以上、さらに好ましくは300%以上である。
【0061】
本発明のフィルムの透明性は、例えば、厚み50μmのフィルムをJIS K7105に準拠して測定した場合、ヘーズ値は10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ヘーズ値が10%以下であれば、フィルムの透明性が得られ、ディスプレー効果を奏することができる。
【0062】
本発明のフィルムの厚さは10μm以上、好ましくは20μm以上であり、かつ100μm以下、好ましくは80μm以下の範囲であることが好ましい。フィルムの厚さが10μm以上であれば、二次加工が容易であるという利点があり、またフィルムの厚さが100μm以下であれば、良好なフィルムの加工性を維持することができる。
【0063】
本発明のフィルムの耐熱性は、融着する温度(融着開始温度)により評価することができる。ホットウォーマー用やホットベンダー用のPETボトルにおいては、局所的にボトルに装着したラベルが高温にさらされ、相互に融着することがある。これを防止するため、本発明のフィルムの融着開始温度は、90℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明のフィルムのミシン目切れ性は、所定の大きさのミシン目が刻設された熱収縮性フィルムを該ミシン目に沿って引き裂き、切れ目がミシン目に沿って引裂かれるか否かにより評価することができる。ミシン目切れ性は、ポリエステル系樹脂(A)中の脂環式ジカルボン酸残基の含有率と脂環式ジオール残基を含むポリエステル系樹脂(B)中の脂環式ジオール残基の含有率、及び両樹脂の配合量を増減することにより調整できる。例えば、ポリエステル系樹(A)中の脂環式ジカルボン酸残基の含有率(好ましくは10モル%以上)とポリエステル系樹脂(B)中の脂環式ジオール残基の含有率(好ましくは20モル%以上)とをそれぞれ増加させることにより、ミシン目切れ性を向上させることができる。また、例えばポリエステル系樹脂(B)の配合量をポリエステル系樹脂(A)の配合量の2.3倍以上となるように調整することによりミシン目切れ性を向上させることができる。
【0065】
ここで「ミシン目」とは、例えば、熱収縮性フィルム(又は熱収縮性ラベル)の場合、直交方向及び/又は主収縮方向に刻設され、前記熱収縮性フィルムで被覆された容器から使用後に前記フィルムを分離する際にその脱離を容易にするために設けられるミシン目線状の連続した小孔群をいう。
【0066】
前記ミシン目の大きさ及び形状は特に制限はなく、例えば、縦0.05乃至2mm、横0.5乃至2mmの矩形状又は長方形状の、あるいは直径又は長軸長0.05乃至2mm程度の円形又は楕円形状のミシン目が挙げられ、好ましくは0.5乃至1mm程度の矩形のミシン目である。ミシン目は、針状突起を多数突設した円盤を押し付けることより形成することができ、例えば、針状突起の形状及び間隔を適宜調整することにより、フィルムに一定間隔毎に各種形状のミシン目を形成することができる。
前記ミシン目切れ性の評価方法は、例えば、所定の大きさに切り取った本発明のフィルムを円筒状に成形し、ボトルに被覆し、熱収縮加工後に、ミシン目に沿って指先で引き裂き、ミシン目の途中で切断が発生したか否かを目視により確認する方法で評価することができる。
【0067】
本発明のフィルムの伸び経時変化は、30℃のギヤオーブンに30日間放置した所定の大きさのフィルムを、直交方向(MD)にチャック間20mm、引張速度200mm/分の条件下で50%以上(すなわち、降伏点を超えて)伸びる本数で表すことができる。例えば、30℃で30日間保存後、フィルムの主収縮方向(TD)に15mm、直交方向(MD)に50mm以上150mm以下、好ましくは50mm以上100mm以下、さらに好ましくは100mmで切り出した試験片を、チャック間距離20mm、23℃50%RH、引張速度200mm/分の条件下で引張試験を行ったときに50%以上伸びる本数は、本発明のフィルムの場合、全試験片の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0068】
次に本発明のフィルムの製造方法について具体的に説明するが、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されない。
本発明のフィルムは、従来公知の製造方法を用いて製造することができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、原料となる前記ポリエステル系樹脂(A)及び(B)を予め200℃以上300℃以下の温度範囲で溶融押出し、カッティングしてペレット状とし、次いで該ペレット状のポリエステル系樹脂組成物を200℃以上300℃以下の温度範囲で溶融押出し、熱収縮性フィルムを製造することができる。また、前記ポリエステル系樹脂(A)及び(B)を200℃以上300℃以下の温度範囲で溶融押出することにより、直接フィルムを製造することもできる。押出方法としては、特に限定されず、Tダイ法、チューブラー法等を用いることができる。
【0069】
Tダイ法を用いて1軸延伸フィルムを製造する場合、押出後、表面温度が15℃以上80℃以下の温度範囲のキャスティングドラム上で急冷し、厚さ30μm以上300μm以下の未延伸フィルムを形成する。次いで、加熱縦延伸ロールを使用し、ロール温度60℃以上120℃以下、延伸倍率1.0倍以上1.3倍以下、好ましくは1.0倍以上1.1倍以下の条件下、未延伸フィルムを延伸する。次いで、テンターを使用し、延伸温度60℃以上120℃以下、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下の条件下で延伸した後、55℃以上100℃以下の温度で熱処理して巻き取る。
【0070】
また、Tダイ法を用いて2軸延伸フィルムを製造する場合、押出後、表面温度が15℃以上80℃以下の温度範囲のキャスティングドラム上で急冷し、厚さ40μm以上900μm以下の未延伸フィルムを形成する。次いで、加熱縦延伸ロールを使用し、ロール温度60℃以上120℃以下、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下、好ましくは2.5倍以上6.0倍以下の条件下、未延伸フィルムを延伸する。次いで、テンターを使用し、延伸温度60℃以上120℃以下、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下、好ましくは2.5倍以上6.0倍以下の条件下で、延伸した後、55℃以上100℃以下の温度で熱処理して巻き取る。
【0071】
〔ポリエステル系熱収縮性多層フィルム〕
本発明のフィルムは、異質材料又は同質材料からなる他層を積層して多層フィルムとすることができる。本発明の多層フィルムは、本発明のフィルム(単層)を少なくとも1層含めばよく、例えば、本発明のフィルム以外に1種類又は2種類の異質材料からなる2種3層、3種5層、4種7層など、用途に応じて複数の層で構成することができる。中でも、中間層として本発明のフィルムを用いた2種3層又は3種5層が好適である。例えば、表裏層は印刷、シール適性に優れた樹脂からなる層とし、収縮特性を付与させるため中間層に本発明のフィルムを用いることが好ましい。
【0072】
本発明の多層フィルムは、表裏層に用いる樹脂として結晶性の少ない樹脂が好ましく、例えば、ポリエステル系樹脂を用いる場合には、ジオール残基成分中に含まれるジオール残基が1,4−ブタンジオールであり、かつその含有率が全ジオール残基成分中において25モル%以下であり、さらに1,4−シクロヘキサジメタノール残基の含有率が全ジオール残基成分中において25モル%以上である樹脂を用いることが望ましい。
【0073】
本発明の多層フィルムの厚さ比は、例えば、2種3層の場合、表裏層:中間層:表裏層=1:2:1乃至1:10:1の範囲の厚さ比とすることができる。また3種5層の場合、[表裏層:接着層]:中間層:[接着層:表裏層]=[1]:2:[1]乃至[1]:10:[1]の範囲の厚さ比とすることができ、その場合、[表裏層:接着層]の厚さ比は1:1乃至5:1の範囲とすることができる。
【0074】
本発明の多層フィルムにおいて、フィルム全体の厚みは、用途に応じて適宜選択でき、通常10μm以上600μm以下の範囲内である。例えば、食品、飲料、医薬品などの包装用途の場合、フィルム全体の厚さは15μm以上400μm以下、好ましくは15μm以上200μm以下の範囲である。また、ポリエステルボトル、ガラス瓶などのボトルやその他のプラスチック容器などのラベルとして用いる場合には、厚さは20μm以上であり、かつ100μm以下、好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下の範囲であることが好適である。
【0075】
[熱収縮ラベル及び該ラベルを装着した容器]
本発明のフィルムは、優れた収縮仕上がり性、自然収縮、透明性、フィルムの腰(常温における剛性)、耐破断性等の機械的強度等を有しており、その用途が特に制限されるものではないが、ペットボトル(300ミリリットル〜2リットル程度の丸型、角型ボトル)の収縮ラベル用途、各種食品や物品の収縮包装、収縮結束包装用途、各種容器のキャップシール用途、各種食品や物品の収縮チューブなどに、熱収縮ラベルとして好適に用いることができ、この収縮ラベルを装着した容器を得ることができる。そして、本発明の熱収縮性ラベル及び該ラベルを装着した容器は、従来公知の方法を用いて作製することができる。
【0076】
本発明のフィルムは、プラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた容器の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0077】
本発明のフィルムが利用できる容器は特に限定されないが、プラスチック容器を好適に用いることができる。プラスチック容器を構成する材質としては、前記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【実施例】
【0078】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
【0079】
A.測定方法
各実施例及び比較例で用いるポリエステル系樹脂の組成分析、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下「CHDA」と略記する。)のシス体/トランス体含有率、固有粘度、及びガラス転移温度の測定は以下の方法で行った。
【0080】
(ポリエステル系樹脂の組成分析)
各種のポリエステル系樹脂を重クロロホルム(溶媒)に溶解させた溶液(試料濃度:100mg/1ml溶媒)を試料とし、この試料を核磁気共鳴装置(NMR)によりHをモニターすることにより分析した。ジカルボン酸残基に関しては、分析の対象となる化合物の全ジカルボン酸残基成分に対するモル%を、ジオール残基に関しては、分析の対象となる化合物の全ジオール残基に対するモル%をそれぞれ求めた。
【0081】
(CHDAのシス体/トランス体含有率の測定方法)
50mlのメスフラスコ中でCHDA0.2gを4M(4規定)の水酸化ナトリウム1.2ml中に溶解した。次いで、得られた溶液に精製水40mlを加えて、リン酸200μlでpH5に調整した後、純水を加えて50mlにした。これを液体クロマトグラフィを用いて下記条件で測定し、トランス体及びシス体由来のピークの面積より、トランス体及びシス体の含有率を求めた。
測定装置:島津製作所社製LC−10AD
カラム:J’shere ODS−H80 4.6mm×250mm
測定温度:50℃
移動層:アクリロニトリル/純水/HPO=200/800/4(体積比)
流量:0.6ml/min
検出器:UV(210nm)
注入量:20μl
【0082】
(固有粘度の測定)
ポリエステル系樹脂チップ試料0.5gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合液を溶媒とし、濃度(c)を1.0g/dlとなるように110℃で30分間の溶解条件で溶液を調製した。得られた溶液を30℃でウベローデ型粘度計を用いて、溶媒のみ(c=0)に対する相対粘度(ηrel )を測定し、この相対粘度(ηrel)−1を比粘度(ηsp)とし濃度(c)との比(ηsp/c)を求めた。同様にして濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとして、それぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0083】
(ガラス転移温度の測定)
各種のポリエステル系樹脂約10mgを280℃で5分間溶融し、次いで液体窒素中に浸漬急冷し非晶質化したものを試料として、メトラートレド社製示差走査熱量分析装置「DSC822e」を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0084】
B.測定方法
各実施例及び比較例で作製したポリエステル系熱収縮性フィルムについて、以下の方法で評価を行った。
【0085】
(評価方法)
(1)熱収縮率
各実施例及び比較例で得られたポリエステル系熱収縮性フィルムを、主収縮方向に70mm、これに対する直交方向に10mmの大きさに切り取り、試料を作製した。試料の主収縮方向に50mm間隔の標線を付し、80℃の温水浴に10秒間浸漬させ、その後30秒間23℃の冷水に浸漬した後の標線間隔(A)を測定し、下式(2)により熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=100×(50−A)/50…(2)
【0086】
(2)収縮仕上がり
各実施例及び比較例で得られたポリエステル系熱収縮性フィルムを主収縮方向が横方向となるよう円筒状にし、次いでこの円筒状のフィルムを水を充填した350mlのペットボトルにかぶせて、80℃から90℃までの温度範囲で調整された蒸気シュリンクトンネルを5秒間で通過させた後、フィルムの収縮状態を観察し、以下の基準で判定した。
○: 収縮ムラやしわのない綺麗な外観を有するもの
△: 収縮ムラやしわが僅かにある外観を有するもの
×: 収縮ムラやしわが著しい外観を有するもの
【0087】
(3)ミシン目切れ性
各実施例及び比較例で得られたポリエステル系熱収縮性フィルムから主収縮方向に60mm、これに対する直交方向に300mmの大きさに切り出し、105mmの折り径で円筒状に加工して熱収縮性ラベルを作製した。次いで、この熱収縮性ラベルに刃の大きさが0.7mm×0.7mm、刃と刃の間隔が0.7mmであるミシン刃を用いて直交方向に矩形のミシン目を1本形成した。次いでスチームトンネル(ケーユーシステム株式会社製「SKT−3000」)を用いて、水を充填した350mlのPETボトルに底部から首部まで前記熱収縮性ラベルを被覆させた。その後、このボトルを5℃に冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルについて、ラベルのミシン目を指先で裂き、その際の、ミシン目の途中で切断が発生したか否かを目視で観察した。測定回数を5回とし、以下の判断基準で判定した。
○:ミシン目に沿って問題なく又はボトル底部まで途中で抵抗を感じながらも切れたものが3本以上の場合
△:ミシン目に沿ってある程度切れるが、底部に到達する前にリンゴの皮むき状態になったものが3本以上の場合
×:殆どミシン目に沿って切れず、リンゴの皮むき状態になったものが3本以上の場合
【0088】
(4)伸び経時劣化
30℃のギヤオーブンに30日間放置したポリエステル系熱収縮性フィルムを主収縮方向に15mm、直交方向に50mmの大きさにフェザー刃で慎重に切り出し、インテスコ社製TM−20を用いて、直交方向にチャック間20mm、引張速度200mm/minで10本測定し、50%以上伸びる本数を測定した。全試料中、50%以上伸びる本数が9本以上10本以下であるものを◎、7本以上8本以下であるものを○、5本以上6本以下であるものを△、4本以下であるものを×として表した。
【0089】
(5)融着開始温度
各実施例及び比較例で得られたポリエステル系熱収縮性フィルムを主収縮方向に60mm、これに対する直交方向に300mmの大きさに切り出し、2枚のフィルムを重ねて、テスター産業(株)製「TP−701−A型ヒートシールテスター」で融着開始温度を測定した。温度設定を70℃から170℃までの範囲で、5℃間隔で行い、各温度で圧力0.1MPa×1分間加圧後、融着の有無を確認し、融着が生じる最低温度である融着開始温度が90℃未満である場合は×、90℃以上120℃未満を△、120℃以上140℃未満を○、140℃以上のものを◎とした。
【0090】
C.原料ポリエステル系樹脂の作製
(1)ポリエステル系樹脂1(PET1)
以下に記載する製造例1の方法でポリエステル系樹脂1を作製した。ポリエステル系樹脂1の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分中10モル%がCHDA残基であり、90モル%がテレフタル酸(以下「TPA」と略記する。)であり、ジオール残基成分中98モル%がエチレングリコール(以下「EG」と略記する。)残基であり、2モル%がジエチレングリコール(以下「DEG」と略記する。)残基であった。また、ポリエステル系樹脂1の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.84dl/gであった。
【0091】
<製造例1>
スラリー調製槽、エステル化反応槽、重縮合槽、及びペレット化装置を備えた回分式重合装置を用い、エステル化反応物50kgを入れたエステル化反応槽に、スラリー槽で予め調製したTPA:38.8kg(233.6モル)、上述した方法にて測定したトランス体含有率95%のCHDA:4.5kg(26.2モル)、EG:19.3kg{311モル(ジカルボン酸:EGのモル比=1:1.2)}からなるスラリーを15.7kg/hrの速度で連続的に添加し、、250℃、常圧にて生成する水を連続的に留出させながらエステル化反応を行った。エステル化反応はスラリーフィード終了後、さらに15分間エステル化反応を継続して終了させた。エステル化反応終了後、エステル化反応物の50kgをエステル化反応槽に残して重縮合槽に移送した。
引き続いて、安定剤としてエチルアシッドフォスフェート(以下「EAP」と略記する。)を添加し、重合触媒として酢酸コバルト・4水和物(以下「酢酸Co」と略記する。)とテトラブトキシチタン(以下「TBT」と略記する。)を添加した(何れもEG溶液として添加)。 EAP、酢酸Co、TBTの添加量はそれぞれ、ポリエステルの理論収量に対して、12質量ppm、100質量ppm、21.3質量ppmとした。
次いで重縮合槽内を約100分かけて常圧から1mmHgまで減圧すると共に、内温を約250℃から約280℃まで上昇させ、EGを留出させながら溶融重縮合反応を行った。減圧開始後4時間経過したところで復圧し、重縮合反応を終了した。重縮合槽を復圧後、槽下部よりポリエステル系樹脂をストランド状に取り出し、水冷後、カッターにてペレット化することにより、ポリエステル系樹脂ペレットを得た。
【0092】
(2)ポリエステル系樹脂2(PET2)
以下に記載する製造例2の方法でポリエステル系樹脂2を作製した。ポリエステル系樹脂2の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分中20モル%がCHDA残基であり、80モル%がTPA残基であり、ジオール残基成分中98モル%がEG残基であり、2モル%がDEG残基であった。また、ポリエステル系樹脂2の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.83dl/gであった。
【0093】
<製造例2>
エステル化反応時にTPA:34.4kg(207モル)、トランス体含有率95%のCHDA:8.9kg(51.7モル)、EG:20.9kg{336.7モル(ジカルボン酸:EGのモル比=1:1.3)}からなるスラリーを16.1kg/hrの速度で連続的に添加してエステル化反応を行った以外は、製造例1と同様の方法にてポリエステル系樹脂2を作製した。
【0094】
(3)ポリエステル系樹脂3(PET3)
以下に記載する製造例3の方法でポリエステル系樹脂3を作製した。ポリエステル系樹脂3の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分中30モル%がCHDA残基であり、70モル%がTPA残基であり、ジオール残基成分中98モル%がEG残基であり、2モル%がDEG残基であった。また、ポリエステル系樹脂3の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.85dl/gであった。
【0095】
<製造例3>
エステル化反応時にTPA:30.0kg(180.6モル)、トランス体含有率95%のCHDA:13.3kg(77.3モル)、EG:20.8kg{335.1モル(ジカルボン酸:EGのモル比=1:1.3)}からなるスラリーを16.0kg/hrの速度で連続的に添加してエステル化反応を行った以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル系樹脂3を作製した。
【0096】
(4)ポリエステル系樹脂4(PET4)
三菱化学社製「NOVAPEX PS600」をポリエステル系樹脂4として使用した。該ポリエステル系樹脂4の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分中70モル%がTPA残基であり、30モル%がイソフタル酸残基であり、またジオール残基成分中98モル%がEG残基であり、2モル%がDEG残基であった。また、ポリエステル系樹脂4の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.72dl/gであった。
【0097】
(5)ポリエステル系樹脂5(PET5)
イーストマン・ケミカル社製「EASTAR PETG Copolyester6763」をポリエステル系樹脂5として使用した。ポリエステル系樹脂5の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分はTPA残基100モル%であり、ジオール残基成分は、全ジオール残基成分中66モル%がEG残基であり、2モル%がDEG残基であり、32モル%がCHDM残基であった。また、該ポリエステル系樹脂の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.78dl/gであった。
【0098】
(6)ポリエステル系樹脂6(PET6)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVADURAN 5008」をポリエステル系樹脂6として使用した。ポリエステル系樹脂6の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分はTPA残基100モル%であり、ジオール残基成分は1,4−ブタンジオール残基(以下、「BD」と略記する。)100モル%であった。また、ポリエステル系樹脂6の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.85dl/gであった。
【0099】
(7)ポリエステル系樹脂7(PET7)
イーストマン・ケミカル社製「EMBRACE Copolyester」をポリエステル系樹脂7として使用した。ポリエステル系樹脂7の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分がTPA残基100モル%であり、ジオール残基成分は、全ジオール残基中72モル%がEG残基であり、20モル%がCHDM残基であり、8モル%がDEG残基であった。また、ポリエステル系樹脂7の固有粘度を前記方法で測定した結果、0.83dl/gであった。
【0100】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂1(PET1)を100質量部、ポリエステル系樹脂5(PET5)を215質量部、及びポリエステル系樹脂6(PET6)を56質量部配合し、60℃で24時間乾燥した後に東芝機械社製TEM58mm2軸押出機により、幅300mmのTダイ口金から時間吐出量30kgで冷却ロール上に押出し、幅250mm、厚さ0.20mmのシートを得た。その後、前記シートを京都機械社製フィルムテンターを使用し、予熱90℃にて20秒間通過後、延伸温度75℃、延伸速度500%/分でキャスティング押出方向に対して垂直方向に4倍延伸を行った後、81℃にて20秒間熱処理を施し、厚さ50μmのポリエステル系熱収縮性フィルムを得た。該ポリエステル系熱収縮性フィルムについて、前記方法にて評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例2乃至3、比較例1乃至4)
表1に示す配合量で原料ポリエステル系樹脂(A)及び/又はポリエステル系樹脂(B)を配合し、表1に示す延伸温度で延伸し、表1に示す熱処理温度で熱処理したことを除いて、実施例1と同様にしてポリエステル系熱収縮性フィルムを得て、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例4)
中間層の製造には、ポリエステル系樹脂1(PET1)を100質量部、ポリエステル系樹脂5(PET5)を150質量部の割合で配合した混合ポリエステルチップを用いた。また、表裏層の製造には、ポリエステル系樹脂5(PET5)を63質量部からなるペレットを用いた。中間層の混合ポリエステルチップを時間吐出量30kgでTEM58mm押出機(東芝機械製)により、両外層の混合ポリエステルチップを時間吐出量7.5kgで40mm押出機(住友重機械工業製)により、幅200mmの2種3層Tダイ口金から、真空ベントを引きつつ、冷却ロール上に270℃で共押出し、幅150mm、両外層の厚さが各々0.025mm、中間層の厚さが0.20mmの3層構造の未延伸シートを得た。次いで、前記シートを実施例1と同様に延伸を施し、厚さ50μm(両外層の厚さが各々5μm、中間層の厚さが40μm)の積層熱収縮性フィルムを得た。
得られた積層熱収縮性フィルムについて前記方法で評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例5)
以下に記載する製造例4の方法で共重合ポリエステル系樹脂を製造した。該共重合ポリエステル樹脂の組成を前記方法で分析した結果、ジカルボン酸残基成分中15モル%がCHDA残基であり、85モル%がTPA残基であり、またジオール残基成分中79モル%がEG残基であり、20モル%がCHDM残基であり、1モル%がDEG残基であった。また、該共重合ポリエステル系樹脂の固有粘度を前述の方法で測定した結果、0.75dl/gであった。
【0104】
<製造例4>
ジメチルテレフタレート:39.4kg(202.9モル)、トランス体含有率40%のジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート:7.16kg(35.8モル)、及びEG:28.2kg(454.3モル)、CHDM:6.88kg(47.7モル)、酢酸マンガン・4水和物を共重合ポリエステル系樹脂の理論収量に対して、マンガン原子換算で42質量ppmとなる量を、それぞれ攪拌機、温度計、溜出管を装備したエステル交換反応槽に加え、170℃から230℃まで、4時間で漸次昇温し、生成するメタノールを溜出除去しながらエステル交換反応を行った。このエステル交換反応物を全量、攪拌機、温度計、溜出管を装備した重縮合反応槽に移送し、正リン酸、酢酸Co、TBTをいずれもEG溶液として添加した。正リン酸、酢酸Co、TBTの添加量はそれぞれ、共重合ポリエステル系樹脂の理論収量に対して、リン原子換算で300質量ppm、コバルト原子換算で60質量ppm、チタン原子換算で5質量ppmとなる量とした。次いで内温を230℃から徐々に昇温するとともに、重縮合反応槽内を漸次減圧にし、280℃、1.0mmHgの真空下、5時間重縮合反応を行った。重縮合終了後、重合槽下部より共重合ポリエステル系樹脂をストランド状に取り出し、水冷後、カッターにてペレット化し、共重合ポリエステル系樹脂を得た。
次いで前記共重合ポリエステル系樹脂を用い、表1に示す延伸温度で延伸し、表1に示す熱処理温度で熱処理したことを除いて、実施例1と同様にしてポリエステル系熱収縮性フィルムを得、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
表1より本発明の組成物で構成された熱収縮性フィルムは、単層の場合(実施例1乃至3)及び多層の場合(実施例4)のいずれの場合も良好な収縮仕上がり性、ミシン目切れ性と高い融着開始温度を示し、かつ伸び経時劣化が小さいことが分かる。
これに対し、本発明におけるポリエステル系樹脂(A)に相当する樹脂が含まれていないフィルムの場合(比較例4)には、収縮性仕上がり性とミシン目切れ性、特にミシン目切れ性が本発明のフィルム(実施例1乃至4)より劣っていることが分かる。また、ポリエステル系樹脂(A)とポリエステル系樹脂(B)の配合割合が本発明の範囲外であるフィルムの場合(比較例2及び3)には、収縮仕上がり性とミシン目切れ性は本発明のフィルムと同等であったが、伸び経時劣化と融着開始温度が本発明のフィルムより劣っていた。また、共重合ポリエステル系樹脂を用いたフィルムの場合(比較例5)には、収縮仕上がり性、ミシン目切れ性、伸び経時劣化、及び融着開始温度のいずれも本発明のフィルムより劣っていた。
これより、本発明の組成物で構成されたフィルムは、従来の熱収縮性フィルムと比較して良好な収縮仕上がり性、ミシン目切れ性、耐熱性及び耐破断性を併有する熱収縮性フィルムであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の組成物は、熱収縮性フィルムに成形した場合に、フィルムの収縮仕上がりが良好であり、耐熱性及び耐破断性に優れ、さらに該フィルムに形成されたミシン目に沿ってフィルムを容易に切断し、剥離することができるため、各種の熱収縮性フィルム、熱収縮ラベル、食品包装等の用途を有するフィルムとして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のポリエステル系樹脂(A)、及び下記のポリエステル系樹脂(B)を、ポリエステル系樹脂(A)100質量部に対し、ポリエステル系樹脂(B)を100質量部以上1900質量部以下含有することを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
(A)脂環式ジカルボン酸残基を含むジカルボン酸残基成分と、エチレングリコール残基を主成分とするジオール残基成分とからなり、前記脂環式ジカルボン酸残基を、全ジカルボン酸残基成分の5モル%以上50モル%以下含有するポリエステル系樹脂。
(B)イソフタル酸残基以外の芳香族ジカルボン酸残基を主成分とするジカルボン酸残基成分と、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基を主成分とするジオール残基成分、又は炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール残基及び脂環式ジオール残基を主成分とするジオール残基成分とからなるポリエステル系樹脂。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂(A)がイソフタル酸残基成分を含まないポリエステル系樹脂である請求項1に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が60℃以上80℃以下である請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂環式ジカルボン酸残基が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸残基である請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂環式ジオール残基が1,4−シクロヘキサンジメタノール残基である請求項1乃至4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物からなり、かつ少なくとも一軸方向に延伸され、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向における熱収縮率が20%以上であることを特徴とするポリエステル系熱収縮性フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエステル系熱収縮性フィルムを少なくとも1層有するポリエステル系熱収縮性多層フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載のポリエステル系熱収縮性フィルム又は請求項7に記載のポリエステル系熱収縮性多層フィルムを用いた熱収縮性ラベル。
【請求項9】
請求項8に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。

【公開番号】特開2006−233092(P2006−233092A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51713(P2005−51713)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】