説明

ポリエステル組成物およびそれからなる繊維構造物

【課題】難燃性の高いポリエステル組成物および繊維構造物の提供。
【解決手段】下記(A)、(B)、(C)、(D)を少なくとも含むポリエステル樹脂組成物。
(A)80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエステル樹脂40〜90重量%
(B)300℃での加熱減量率が5重量%以下のポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上を3〜20重量%
(C)300℃での加熱減量率が5重量%以下で、分子内に窒素原子を一つ以上含む化合物を3〜20重量%
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン樹脂を0.5〜20重量%
(Cm1m2SiX(4−m1−m2−n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のリン化合物、分子内に窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物、フェニル基を有するオルガノポリシロキサン樹脂の相乗効果により、燃焼時のドリップが抑制され、難燃性の高いポリエステル組成物およびそれからなる繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、易燃焼性樹脂、易燃焼性繊維などの素材の難燃化手法として、含塩素系難燃剤、含臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、またはハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を含有させた素材が数多く提案されている。しかしながら、これらの素材は難燃性には優れるもののハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン化ガスを発生する懸念があるなどの問題があり、これらの問題を解決するために数多くの検討がなされている。
【0003】
例えばハロゲン元素やアンチモン元素を含まない難燃剤としてリン化合物を用いた検討がされている。リン酸エステルを使用したリン系難燃剤を含有した素材が数多く提案されているが、難燃性はハロゲン系、アンチモン系難燃剤よりも低く、難燃性能は不十分であること、燃焼時にドリップするという課題があった。
【0004】
また、リン化合物としてポリリン酸アンモニウム、ホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩を添加する技術が開示されている(特許文献1、2参照)。オレフィン、バイオプラスチック等に該リン化合物に加えて、難燃助剤であるメラミン化合物との併用技術が記載されているが、成形温度の高いポリエチレンテレフタレートでは難燃剤の耐熱性の点、難燃性の性能の点で十分といえない。
【0005】
一方、シリコーン系化合物難燃剤として使用した検討が行われている。このシリコーン系化合物とは1官能性のRSiO0.5(M単位)、2官能性のRSiO1.0(D単位)、3官能性のRSiO1.5(T単位)、4官能性のSiO2.0(Q単位)で示される構造単位のいずれかから構成されるものである。芳香環を含有する非シリコーン樹脂と、式R2 SiO1.0で示される単位と式RSiO1.5で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であるシリコーン樹脂とを含有する難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。ある程度の難燃性を発現することが可能であるが、難燃性能は十分ではなく、製造時の熱によりシリコーン樹脂の縮合反応が起こり、シリコーン樹脂の物性変化による難燃性の低下や生産安定性を満足することはできないといった課題がある。
【0006】
すなわち、難燃性能、得られたポリエステル樹脂組成物および繊維物性の点で十分なものがないというのが現状である。
【特許文献1】特開平8−227719号公報
【特許文献2】特開2005−36229号公報
【特許文献3】特開2007−231184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記の従来技術に鑑み、難燃性の高いポリエステル組成物および繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、次の構成を有するものである。
【0009】
本発明の第1の発明は、(A)、(B)、(C)、(D)を少なくとも含むことを特徴とするポリエステル樹脂組成物である。
(A)少なくとも80モル%以上をエチレンテレフタレート単位が占めるポリエステル樹脂40〜90重量%
(B)300℃での加熱減量率が5重量%以下のポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上を3〜20重量%
(C)300℃での加熱減量率が5重量%以下で、分子内に窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物を3〜20重量%
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン樹脂を0.5〜20重量%
(Cm1m2SiX(4−m1−m2−n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
本発明の第2の発明は上述のポリエステル樹脂組成物からなる繊維構造物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性樹脂素材や難燃繊維素材として、具体的には、産業用途、衣料用途、非衣料用途などにおいて、難燃性が高く、ドリップ抑制の効果に優れ、かつ生産安定性の高いポリエステル樹脂組成物および繊維構造物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のポリエステル樹脂組成物について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、(A)、(B)、(C)、(D)を少なくとも含むことを特徴とする。
(A)少なくとも80モル%以上をエチレンテレフタレート単位が占めるポリエステル樹脂40〜90重量%
(B)300℃での加熱減量率が5重量%以下のポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上を3〜20重量%
(C)300℃での加熱減量率が5重量%以下で、分子内に窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物を3〜20重量%
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン樹脂を0.5〜20重量%
(Cm1m2SiX(4−m1−m2−n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、少なくとも80モル%以上をエチレンテレフタレート単位が占めることを特徴とする。エチレンテレフタレート単位が80モル%以上であることで、該樹脂を繊維用途に用いた場合に力学特性の優れた繊維を得ることができる。90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
【0013】
本発明において、ポリエステル樹脂(A)はエチレンテレフタレート単位が上述の範囲を満たす範囲で共重合することができる。共重合成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物などが挙げられる。また、好ましいジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、スルホン酸金属塩基を有するイソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などを挙げることができる。また、ジカルボン酸エステル誘導体としては上記ジカルボン酸化合物のエステル化物、たとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどを挙げることができる。
【0014】
これらの中でも、ジカルボン酸化合物としては、スルホン酸金属塩基を有するイソフタル酸、もしくはこれらのジメチルエステル誘導体を好ましく用いることができる。また、グリコール化合物としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール、ビスフェノールAを共重合成分として好ましく用いることができる。
【0015】
本発明において、ポリエステル樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)は40〜90重量%であることが必要である。40重量%以上であることで、該樹脂を繊維用途に用いた場合にポリエステル由来の優れた力学特性を有する繊維が得られる。また、90重量%以下にすることで、他に用いる難燃剤により優れた難燃性能が得られる。60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。85重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
【0016】
本発明におけるポリエステル樹脂組成物は300℃での加熱減量率が5重量%以下のポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上のリン化合物(B)を含む。
【0017】
300℃での加熱減量率とは、化合物に付着している水分を取り除いたサンプルを窒素雰囲気下で室温から10℃/minの昇温速度で昇温した時に、300℃における重量減少率の割合を示し、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA)などで測定することができる。300℃での加熱減量率が5重量%以下であることが必要である。300℃での加熱減量率が5重量%以下であることで、本発明のポリエステル樹脂の成形において、物性が低下を抑制できるからである。300℃での加熱減量率は3重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。
【0018】
本発明において、ポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上のリン化合物(B)は3〜20重量%用いる。3重量%以上用いることで十分な難燃性が得られ、20重量%以下用いることで、樹脂およびそれを用いて繊維化した場合には繊維の物性が低下しないからである。5重量%以上がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明において、ポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上のリン化合物(B)の平均粒子径は0.5〜15ミクロンであることが好ましい。平均粒子径が15ミクロン以下であることにより、本発明のポリエステル樹脂を用いて繊維化した際に繊維の力学特性の低下を抑制できるため好ましい。1ミクロン以上であることが好ましく、10ミクロン以下であることが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー光回折法などにより粒度分布測定装置などを用いて、重量平均値(又はメジアン径)などとして求めることができる。
【0020】
本発明で用いられるポリリン酸アンモニウムは、下記一般式(2)で表される化合物であり、例えば、Budenheim社製“TERRAJU”など、市販されているものなどを用いることができる。
【0021】
【化1】

【0022】
一般式(2)中、qはポリリン酸アンモニウムの重合度を表す。重合度qは1000〜3000であることが好ましく、1500〜2000であることがより好ましい。分子量が1000より高くなることで、熱分解温度が高くなり、水溶解性が低下するからである。ポリエステル樹脂中での分散性の観点から3000以下が好ましい。
【0023】
本発明で用いられるリン酸金属塩は、リン酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩、ホスフィン酸塩、亜ホスホン酸塩、亜ホスフィン酸塩及びその二量体、三量体、四量体を選択することができる。その中でも、特に下記式(3)のジホスフィン酸塩、下記式(4)のホスフィン酸塩、下記式(5)のポリリン酸塩が好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
、R、R、Rは、同一あるいは異なっていても構わないが、炭素数1〜6の直鎖状あるいは分岐状アルキルまたはアリール基であるのが好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第三ブチル、n−ペンチル、フェニルから選ばれる一つ以上であることがより好ましい。
【0028】
は炭素数1〜10の直鎖状あるいは分岐状アルキレン、アリーレン、アルキルアリーレン、アリールアルキレンであることが好ましく、メチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、第三ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレンまたはn−ドデシレン、フェニレン、ナフチレンであることがより好ましい。
【0029】
Mは, リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属,マンガン、チタン、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムが好ましく、カルシウム、アルミニウムまたは亜鉛がより好ましい。
【0030】
ポリリン酸塩の場合は、ピロリン酸塩(t=1)、トリリン酸塩(t=2)、テトラリン酸塩(t=3)が好ましく、その一種であっても複数であっても構わない。
【0031】
本発明において、ポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上のリン化合物(B)は、被覆したものを用いることができる。被覆は無機酸化物微粒子、熱硬化性樹脂が好ましく、目的に応じて選択することができる。
【0032】
被覆する熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂が好ましい。特に、相乗効果により難燃性を向上させるメラミン樹脂はさらに好ましい。
【0033】
本発明において、ポリエステル樹脂組成物は300℃での加熱減量率が5重量%以下の窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)を含む。300℃での加熱減量率が5重量%以下であることで、本発明のポリエステル樹脂の成形において、物性が低下を抑制できるからである。300℃での加熱減量率は3重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。
【0034】
本発明において、窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)は3〜20重量%用いる。3重量%以上用いることで十分な難燃性が得られ、20重量%以下用いることで、樹脂およびそれを用いて繊維化した場合には繊維の物性が低下しないからである。5重量%以上がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明において、窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)の平均粒子径は0.5〜15ミクロンであることが好ましい。平均粒子径が15ミクロン以下であることにより、本発明のポリエステル樹脂を用いて繊維化した際に繊維の力学特性の低下を抑制できるため好ましい。1ミクロン以上であることが好ましく、10ミクロン以下であることが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー光回折法などにより粒度分布測定装置などを用いて、重量平均値(又はメジアン径)などとして求めることができる。
【0036】
窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)としては、窒素含有環状化合物、尿素化合物が好ましく用いられるが、耐熱性の観点から窒素含有環状化合物が好ましい。窒素含有環状化合物には、イミダゾール、チアジアゾール、チアジアゾリン、フラザン、トリアゾール、チアジアジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、プリンなどが挙げられるが、トリアゾール化合物、トリアジン化合物がより好ましい。
【0037】
トリアゾール化合物としては、1,2,3−トリアゾール類(1H−1,2,3−トリアゾール類;2H−1,2,3−トリアゾール類など)、および1,2,4−トリアゾール類(グアナゾールなどの1H−1,2,4−トリアゾール類;グアナジンなどの4H−1,2,4−トリアゾール類など)が例示でき、アミノ基はトリアゾール環の適当な部位(窒素原子および炭素原子、特に炭素原子)に置換していてもよい。アミノ基の個数は、特に制限されず、1〜3個、特に1〜2個程度である。
【0038】
トリアジン化合物としては、1,3,5−トリアジン類[メラミン、置換メラミン(2−メチルメラミンなどのアルキルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−メラミン樹脂,ベンゾグアナミン−メラミン樹脂,芳香族ポリアミン−メラミン樹脂など)などのメラミン又はその誘導体;アンメリン、アンメリドなどのシアヌール酸アミド類;グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、CTU−グアナミンなどのグアナミン又はその誘導体など]、アミノ基含有1,2,3−トリアジン類(5−位、4,5−位、4,5,6−位などにアミノ基が置換した1,2,3−トリアジン、4−アミノ−ベンゾ−1,2,3−トリアジンなど)、アミノ基含有1,2,4−トリアジン類(3−位、5−位、3,5−位などにアミノ基が置換した1,2,4−トリアジンなど)などの各種アミノトリアジン類が挙げられる。アミノ基は、トリアジン環の適当な部位(窒素原子および炭素原子、特に炭素原子)に置換していてもよい。アミノ基の個数は特に制限されず、1〜4個、特に1〜3個(例えば、1〜2個)程度である。これらのうち、アミノ基含有トリアジン化合物、特にアミノ基含有1,3,5−トリアジン類が好ましい。
【0039】
1,3,5−トリアジン類の中でもポリリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、硫酸メラミン、メラミンシアヌレートが耐熱性、難燃性能の点から好ましい。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、下記一般式(1)を満たすオルガノポリシロキサン樹脂(D)を一種類または二種類以上含有することを特徴とする。
(Cm1m2SiX(4−m1−m2−n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
一般式(1)のオルガノポリシロキサンを選択することにより、リン化合物(B)、窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)との相乗効果により、ポリエステル樹脂に優れた難燃性およびドリップ抑制を与えることが可能となる。
【0041】
上記Rは水素原子またはフェニル基を除いた一価の有機基であり、炭素原子数1以上10以下の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基が好ましい。
【0042】
上記官能基Xは、シラノール基(−OH)またはシラノール基(−OH)の水素原子が所定の官能基R’で置換されてなる加水分解性基(−OR’)であり、かかる官能基Xは、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の難燃性、ドリップ抑制の効果および生産安定性を改善するために必須となる官能基である。上記官能基(−OR’)に代えて、例えばトリメチルシロキシ基(−OSi(CH)のような加水分解性を持たない官能基を選択した場合、該オルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性が低下し、燃焼時のドリップが発生する場合がある。
【0043】
上記官能基X中のシラノール基(−OH)の水素原子が所定の官能基R’で置換されてなる加水分解性基(−OR’)の比率は0.5以上が生産安定性の点から好ましく、0.8以上がより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。
【0044】
官能基R’は、炭素数8〜21の直鎖状アルキル基またはアリール基から選択される1種類または2種類以上の基であることが好ましい。これらの官能基を用いると、高温下でもオルガノポリシロキサンの分子量増加、ガラス転移点の消失の抑制効果が大きく、且つ該オルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の難燃性が向上し、燃焼時のドリップが抑制される。
【0045】
官能基R’のアルキル基の具体例としてとして、n−オクチル基、2オクチル基、ノニル基、2−ノニル基、3−ノニル基、4−ノニル基、5−ノニル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、2−ウンデシル基、ドデシル基、2−ドデシル基などが挙げられる。アリール基であるR’の具体例として、フェニル基、o−ヒドロキシフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2−ビニルフェニル基、4−ビニルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−アリルフェニル基、2−n−プロピルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2−イソプロピル−5−メチルフェニル基、3−メチル−4−イソプロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、2−s−ブチルフェニル基、4−s−ブチルフェニル基、3−t−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、2,6−ジ−s−ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2,6−ジ−t−ブチルフェニル基、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル基、4−n−ペンチルフェニル基、4−t−ペンチルフェニル基、2,4−ジ−t−ペンチルフェニル基、4−n−ヘキシルフェニル基、4−n−ヘプチルフェニル基、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル基、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル基、4−n−オクチルフェニル基、4−t−オクチルフェニル基、4−ノニルフェニル基、2,4−ジ−ノニルフェニル基、4−ドデシルフェニル基、2−フェニルフェニル基、4−フェニルフェニル基、4−α−クミルフェニル基、2,4,6−トリ(α−メチルベンジル)フェノール1−ナフチル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基などが挙げられるがフェノール系化合物であればこの限りではない。中でも、p−フェニルフェニル基、p−α−クミルフェニル基、3−メチル−4−イソプロピルフェニル基、オクチル基が得られたオルガノポリシロキサンを含有したポリエステル樹脂の難燃性、ドリップ抑制性、溶融成形性が良好であり好ましい。
【0046】
本発明において、オルガノポリシロキサン樹脂(D)は0.5〜20重量%用いる。
0.5重量%以上用いることで、十分な難燃性が得られ、20重量%以下用いることで樹脂およびそれを用いて繊維化した場合には繊維の物性が低下しないからである。5重量%以上が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0047】
前記の一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンは、その重量平均分子量(Mw)が1500〜10000の範囲にあることが好ましく、2000〜7500の範囲であることがさらに好ましく、2000〜5000であることが特に好ましい。重量平均分子量とはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定され、ポリスチレン換算で求められる。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が前記範囲にある場合、オルガノポリシロキサンが適度な溶融粘度で軟化するため異物となることがなく分散性が良好となり、熱可塑性樹脂組成物の良好な加工性を発現することができる。また、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が5000以上10000未満の範囲にあることが、得られる熱可塑性樹脂組成物の難燃性が向上し、ドリップ性の抑制および加工性(生産安定性)の点から、特に好ましい。
【0048】
一方、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が前記上限を超えると、溶融混練の際にオルガノポリシロキサンの粘度が高くオルガノポリシロキサンの分散性が悪化したり、オルガノポリシロキサンの軟化点が消失してオルガノポリシロキサンが異物となり加工性が悪化する。また、該オルガノポリシロキサンの重量平均分子量が前記下限未満では、オルガノポリシロキサンの溶融粘度が低下し分散性が悪化し、該オルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物の加工性が悪化するという問題がある。
【0049】
オルガノポリシロキサンのガラス転移点は70℃以上290℃以下であると熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が良好となり好ましい。オルガノポリシロキサンのガラス転移点が290℃を超えると成形加工の際にオルガノポリシロキサンが軟化せずに異物となり成形加工性が低下する場合があり好ましくない。成型加工性の点から、より好ましいガラス転移点の範囲は80℃以上200℃以下、さらに好ましい範囲は100℃以上150℃以下である。
【0050】
本発明にかかるオルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物は、樹脂が経時で変化して難燃性、ドリップ抑制の効果、生産安定性を悪化させることを防止される。また、本発明にかかるオルガノポリシロキサンは製造時などに受ける熱によってオルガノポリシロキサン樹脂の縮合反応が容易に進行しないため、分子量の増加が抑制され、軟化点が維持される。このため、本発明にかかるオルガノポリシロキサンを含む熱可塑性樹脂組成物は、二軸混練機や紡糸機を用いた加工時にフィルター詰まりによる濾過圧力の上昇や分散不良を起こすことなく、容易に繊維構造物の形状に加工することができ、生産性に優れるという利点がある。
【0051】
前記オルガノポリシロキサンの製造方法は特に限定されるものではない。例えば、目的とするオルガノポリシロキサンの分子構造および分子量に従ってフェニルクロロシラン類およびフェニルアルコキシシラン類からなる群から選択される少なくとも1種のフェニル基を有するオルガノシラン類および任意でそれ以外のオルガノクロロシラン類に適宜の水を反応させた後、必要に応じて縮合反応促進触媒を用いて更に高分子量化し、また、添加した有機溶媒、副生する塩酸や低沸点化合物を除去することによってシラノール基(−OH)を含有したオルガノポリシロキサンを得ることができる。更に、アルコール系化合物またはフェノール系化合物を添加して、オルガノポリシロキサン中のシラノール基(−OH)の一部または全部と反応させることにより、オルガノポリシロキサン中に、該シラノール基の水素原子を置換して、アルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンを製造することができる。
【0052】
フェニルクロロシラン類の具体例として、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、フェニルメチルジクロロシランなどが例示される。
【0053】
フェニルアルコキシシラン類の具体例として、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシランなどが例示される。
【0054】
その他のオルガノクロロシラン類の具体例として、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどのアルキルクロロシラン;トリフルオロプロピルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシランなどのフッ化アルキルクロロシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランなどのアルキルアルコキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジエトキシシランなどのフッ化アルキルアルコキシシランが例示される。
【0055】
中でも、難燃性の観点から該オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロロシランを100/0〜1/99の比で混合したものであり、オルガノアルコキシシランがフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを100/0〜1/99の比で混合したものであることが好ましい。ここで、フェニルクロロシラン、アルキルクロロシラン、フェニルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシランは前記に例示したシラン類が例示される。オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロクロロシランの混合比あるいはフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランの混合比は100/0〜50/50であることが更に好ましく、100/0〜90/10であることが難燃性の点から特に好ましい。
【0056】
上記のオルガノポリシロキサン原料を調製するための縮合反応促進触媒は、公知の縮合触媒を用いることができる。具体的には有機酸スズ塩、有機酸チタン塩、有機酸ジルコニウム塩、有機酸アルミニウム塩などの有機酸金属塩、ホスフィンオキシドであるリン化合物が挙げられる。特にホスフィンオキシドなどのリン化合物が好ましい。
【0057】
加水分解縮合反応または縮合反応の温度と時間は、原料の反応性や、実施スケールにより変化する場合があるが、通常は10〜150℃の温度で1〜29時間の反応時間を選択することができる。
【0058】
また、上記加水分解縮合反応または縮合反応に用いる有機溶媒は、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などの溶剤から選択することができる。
【0059】
本発明において、難燃助剤として多価アルコールを用いることができる。本発明に使用できる多価アルコール類としては、例えば、カテコール、レゾルシン、1,3−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、O,O’−ビフェノール、p,p’−ビフェノール、1,1’−ビ−2−ナフトール、ビスフェノールA、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートや、でんぷん、セルロースなどの多糖類、グルクトース、マンニトール、ソルビトール、フルクトースなどの単糖類あるいは二糖類、糖アルコールなどを挙げることができる。
【0060】
本発明においては、(B)(C)(D)以外の難燃剤を用いることができる。
【0061】
本発明においては一般的に難燃剤として用いられている化合物から選択できる。具体的には、水酸化マグネシウムなどの水和金属系難燃剤、モンモリロナイトなどの層状珪酸塩、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛などの亜鉛化合物を挙げることができる。
【0062】
本発明の組成物には、その特性を阻害しない範囲で、難燃剤以外にもその目的に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、光安定剤、相溶化剤、他種のノンハロゲン難燃剤、滑剤、充填剤、接着助剤、防錆剤などを挙げることができる。
【0063】
本発明において使用可能な酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチル−メチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,5,7,8−テトラメチル−2(4,8,12−トリメチルデシル)クロマン−2−オール、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタンなどが挙げられる。
【0064】
本発明において使用可能な安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛などの各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系やメルカプト系各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛などの各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油などのエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイトなどのホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸などのβ−ジケトン化合物、ハイドロタルサイト類やゼオライト類などを挙げることができる。
【0065】
本発明において使用可能な光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。
【0066】
本発明において使用可能な相溶化剤としては、アクリルオルガノポリシロキサン共重合体、シリカとオルガノポリシロキサンの部分架橋物、シリコーンパウダー、無水マレイン化グラフト変性ポリオレフィン、カルボン酸化グラフト変性ポリオレフィン、ポリオレフィングラフト変性オルガノポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0067】
本発明においては、ヒンダードフェノール系安定剤を必要に応じて添加することができる。その際のヒンダードフェノール系安定剤の添加量はポリエステル樹脂組成物に対して、0.01〜3重量%、好ましくは0.01〜1重量%で添加することができる。
【0068】
本発明において、本発明の目的を損なわない範囲であれば少量の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体などのオレフィン系共重合体、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエステルエラストマーなどを添加することもできる。
【0069】
次に本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0070】
本発明のポリエステル樹脂組成物は前記したリン化合物(B)、窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)、オルガノポリシロキサン(D)を少なくとも含むであり、公知の方法によりポリエステル脂組成物中に添加することができる。例えば、二軸押し出し機やバンバリーミキサーなどによりポリエステル樹脂と各種添加剤を混合する方法が挙げられるが、熱可塑性樹脂中に混合、分散できればこれに限るものではない。
【0071】
次に本発明のポリエステル樹脂組成物からなる繊維構造物について説明する。繊維構造物に対して上述したポリエステル樹脂組成物を70重量%以上含有していることが好ましいがこの限りではなく、ドリップ抑制の効果や難燃性、樹脂組成物の物性低下や加工特性の低下が無い範囲で他の繊維との混紡や混繊などが可能である。
【0072】
また、本発明の繊維構造物はフィラメントやステープルとして好適に用いることが可能であり、例えば衣料用途のフィラメントとしては単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度として50dtexから300dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は50g/m以上500g/m以下の範囲である。
【0073】
また、例えば産業用途のフィラメントとしては単糸繊度が十数dtexから数百dtexの範囲であり、総繊度として数百dtexから数千dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは衣料用途と同様に例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は300g/m以上1500g/m以下の範囲である。
【0074】
このようにして本発明のポリエステル樹脂組成物からなる繊維は織物や編み物、不織布などの布帛形態として得ることが可能であり、繊維製品として特にドリップ抑制の効果や難燃性が必要な繊維製品、例えばカーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材などでドリップが抑制され、且つ難燃性を発現する繊維製品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。実施例中の各特性値は、次の方法で求めたものである。
A.重量平均分子量
下記分析装置により平均分子量ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより求めた標準ポリスチレン換算重量平均分子量で評価した。
【0076】
装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelG1000HHR(東ソー株式会社製)
測定温度:40℃(カラムオーブン温度)
流速:1ml/分
クロロホルム試料:オルガノポリシロキサンを1重量%クロロホルム溶液として使用
B.ガラス転移点の測定
下記分析装置によりガラス転移点を測定した。
【0077】
装置:DSC2920ModulatedDSC(TAInsruments社製)
昇温速度:2℃/分
C.H NMR、29Si NMR
JNM−EX400(日本電子株式会社製)を使用して、重クロロホルムを溶媒としてH−核および29Si−核磁気共鳴スペクトル分析を行い、オルガノポリシロキサンのシラノール基量を算出した。
D.加熱減量率
(株)セイコーインスツルメント社製TG−DTAを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、300℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
E.混練性
難燃剤を二軸エクストルーダーで混練した時にチップ表面にざらつきがない場合には混練性良好として◎、若干ざらつきがある場合には○、顕著なざらつきがある場合には△、製糸評価できないほど分散性が悪い場合には×とした。◎、○が好ましい。
F.燃焼性
JIS L1091 D法(1992)に準じて燃焼試験を行った際の自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性で評価を行った。いずれも効果が高い方から◎、○、△、×とした。◎、○が好ましい。
G.総合評価
混練性、燃焼性において、×が2つ以上あるもの、燃焼性評価ができないものを×とした。△、×があるものを△、◎が3つ以上あるものを◎とし、それ以外を○とした。◎、○が好ましい。
合成例1
攪拌機付きフラスコに有機基が全てフェニル基であるシリコーンレジンのDOW CORNING(R)217 FLAKE RESIN(東レ・ダウコーニング株式会社)100g、触媒としてトリフェニルホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社)1.01g、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(エムコマース株式会社)35.8gを投入し、室温から120℃まで4℃/分の昇温速度で昇温した後、2時間保持をした。なお、攪拌はフェニルシルセスキオキサン及び3−メチル−4−イソプロピルフェノールが溶融し始めた60℃付近より開始した。さらに230℃まで4℃/分の昇温速度で昇温した後、3時間保持を行い、シラノール基同士の縮合反応及びシラノール基の3−メチル−4−イソプロピルフェノールによる封鎖反応を行った。その後、230℃に温度を保った状態で、未反応の3−メチル−4−イソプロピルフェノールを取り除くため1時間かけて20torrまで減圧を行った。冷却を行い、白色固体であるオルガノポリシロキサン(1)を得た。重量平均分子量(Mw)は3900、ガラス転移温度(Tg)は89℃である。また、29SiNMR、1H NMRから算出したオルガノポリシロキサン樹脂の組成式は(C)Si(OR’)0.12(OH)0.041.42、すなわち、式1のm1+m2=1、n=0.12+0.04=0.16、m1+m2+n=1.16である。
【0078】
この得られた固体をさらに、300℃のオーブン中薄膜状態で5時間熱処理を行い、冷却を行い、白色固体であるオルガノポリシロキサン樹脂(2)を得た。オルガノポリシロキサン樹脂(2)の重量平均分子量(Mw)は4300、ガラス転移温度(Tg)は113℃である。組成式は(C)Si(OR’)0.12(OH)0.031.425、すなわち、式1のm1+m2=1、n=0.12+0.03=0.15、m1+m2+n=1.15である。
【0079】
実施例1
A:IV(固有粘度):0.66のポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位:100モル%)79重量%とB:ポリリン酸アンモニウム(Budeneim製APP II型)9重量%、C:硫酸メラミン(三和ケミカル社製)3重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(2)6重量%、多価アルコールであるジペンタエリスリトール3重量%をL/D:32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数300rpmの条件で二軸押し出し機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。得られたチップを真空乾燥機で150℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/min、口金口径0.23mm−孔深度0.15mm−孔数24である口金、吐出量40g/minの条件で紡糸を行い、未延伸を得たところ、濾圧上昇は見られず、生産安定性に優れる結果となった。ついで延伸機を用いて加工速度400m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。その後、得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム0.2g/L、界面活性剤0.2g/L(グランアップUS20、三洋化成工業株式会社製)、処理温度/時間60℃/30分で精練し、燃焼試験を行った。
【0080】
その結果、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に優れた結果となった。その結果を表1に示す。
【0081】
実施例2
A:IV(固有粘度):0.66のポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位:100モル%)79重量%とB:ジメチルホスフィンアルミニウム塩(クラリアント製EXOLIT OP1230)9重量%、C:硫酸メラミン(三和ケミカル社製)3重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(2)6重量%を用いて実施例1と同様に混練紡糸を行った。難燃剤の分散性は非常に良く、混練性は非常に良好であった。また、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に良好だった。その結果を表1に示す。
【0082】
実施例3
A:IV(固有粘度):0.60のSSIA(スルホイソフタル酸ナトリウム)を6モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位:94%)80重量%とB:ピロリン酸カルシウム(太平化学)5重量%、C:メラミンシアヌレート(BUDENHEIM社 BUDIT315)6重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(1)6重量%、ホウ酸亜鉛(水沢化学)3重量%を用いて実施例1と同様に混練紡糸を行った。難燃剤の分散性は非常に良く、混練性は非常に良好であった。また、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に良好だった。その結果を表1に示す。
【0083】
実施例4
A:ビスフェノールAを4モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位96モル%)78重量%とB:ジメチルホスフィンアルミニウム塩(クラリアント製EXOLIT OP1230)7重量%、C:メラミンシアヌレート(BUDENHEIM社 BUDIT315)4重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(1)6重量%、ジペンタエリスリトール3重量%、ホウ酸亜鉛(水沢化学)2重量%を用いて実施例1と同様に混練紡糸を行った。難燃剤の分散性は良く、混練性は良好であった。また、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に良好だった。その結果を表1に示す。
【0084】
実施例5
A:IV(固有粘度):0.66のポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位:100モル%)70重量%とB:ポリリン酸アンモニウム(Budeneim製APP II型)10重量%、C:硫酸メラミン(三和ケミカル社製)10重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(2)10重量%を用いて実施例1と同様に混練紡糸を行った。難燃剤の分散性は良く、混練性は良好であった。また、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に良好だった。その結果を表1に示す。
【0085】
実施例6
A:IV(固有粘度):0.66のポリエチレンテレフタレート(エチレンテレフタレート単位:100モル%)70重量%とB:ジメチルホスフィンアルミニウム塩(クラリアント製EXOLIT OP1230)7重量%、C:ポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製 MPP−A)10重量%、合成例1で合成したポリオルガノシロキサン(1)8重量%、ホウ酸亜鉛(水沢化学)5重量%を用いて実施例1と同様に混練紡糸を行った。難燃剤の分散性は良く、混練性は良好であった。また、自己消火性、炭化物量、ノンドリップ性共に良好だった。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
比較例1
D:オルガノポリシロキサンの代わりにジメチルシリコーンオイル(Me2SiO:東レ・ダウコーニング株式会社製 SH200 1000CS)を用いた以外は、実施例1と同様に混練、紡糸を行った。混錬性は良好だったが、自己消火性が低く難燃性能に問題があることが分かった。
【0088】
比較例2
C:窒素原子を含む化合物を用いなかった以外は、実施例2と同様に検討を行った。混練性は良好だったが、ドリップが起こり、難燃性能が十分ではないことが分かった。
【0089】
比較例3
Bのリン化合物を用いなかった以外は、実施例3と同様に検討を行った。混練性は良好だったが、ドリップが起こり、難燃性能が十分ではないことが分かった。
【0090】
比較例4
Cとしてメラミンシアヌレートの代わりに、300℃での加熱減量率が35重量%のベンゾグアナミンを用いた以外は実施例4と同様に検討を行った。混練時にベースポリマーであるポリエステルの分解が促進され、評価を行うことができなかった。
【0091】
比較例5
Bとしてポリリン酸アンモニウムの代わりにピロリン酸二水素二ナトリウムを(300℃での加熱減量率6重量%)を用いた以外は、実施例5と同様に検討を行った。混練で得られたペレットは、非常に脆く、繊維化することができなかった。
【0092】
比較例6
Bとして高分子量のポリリン酸アンモニウム(分子量1500)の代わりに、水溶性の低分子量ポリリン酸アンモニウム(分子量800)を用いた以外は、実施例1と同様に検討を行った。混練で得られたペレットは、非常に脆く、繊維化することができなかった。
【0093】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)、(B)、(C)、(D)を少なくとも含むことを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(A)少なくとも80モル%以上をエチレンテレフタレート単位が占めるポリエステル樹脂40〜90重量%
(B)300℃での加熱減量率が5重量%以下のポリリン酸アンモニウム、リン酸金属塩から選ばれる一種以上のリン化合物を3〜20重量%
(C)300℃での加熱減量率が5重量%以下で、分子内に窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物を3〜20重量%
(D)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン樹脂を0.5〜20重量%
(Cm1m2SiX(4−m1−m2−n)/2 (1)
〔式中、Rは水素原子またはフェニル基を除く一価の有機基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0≦n≦1.5の範囲を満たす数であり、1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数である〕
【請求項2】
リン化合物(B)が重合度1000〜3000のポリリン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
リン化合物(B)がホスフィン酸塩、ジホスフィン酸塩、ポリリン酸塩から選ばれる少なくとも一つのリン酸金属塩であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
多価アルコールを1〜15重量%含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
分子内に窒素原子を少なくとも一つ以上含む化合物(C)がポリリン酸メラミン、ホウ酸メラミン、硫酸メラミン、メラミンシアヌレートから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載のポリエステル樹脂組成物からなる繊維構造物。

【公開番号】特開2009−197186(P2009−197186A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42907(P2008−42907)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】