説明

ポリエチレンフィルムの製造方法

【課題】ちらつきが抑制されたポリエチレンフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】以下の要件(A)および(B)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を押出機で溶融混練してTダイから押出したポリエチレン溶融膜を、
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である冷却ロールと、少なくとも表面がゴム製である押付ロールとで挟圧するポリエチレンフィルムの製造方法。
(A)流動の活性化エネルギー(Ea)が40〜100kJ/mol
(B)190℃の条件で、角周波数0.1rad/秒で測定された溶融複素粘度η*0.1と、角周波数100rad/秒で測定された溶融複素粘度η*100との比である、η*0.1/η*100が10〜100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や液晶テレビなどの液晶ディスプレイ、CDやDVDに用いられる光学フィルム製品、工業用や建築用などに用いられるアルミニウムやステンレスなどの金属板、アクリルやエンジニアリングプラスチックなどの合成樹脂板、木質化粧板などの物品には、物品の加工や貯蔵、輸送時において、物との接触や摩擦により物品に傷が付くことを防止したり、埃の付着などにより物品の表面が汚れることを防止したりするために、該物品に表面保護フィルムを貼り付けることが行われている。
【0003】
該表面保護フィルムとしては、基材層と粘着層とを有する多層フィルムや単層の基材フィルムに粘着剤を塗工したフィルムなどが用いられている。前記多層フィルムとしては、基材層としてポリオレフィン系樹脂、粘着層としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂やエチレン−αオレフィン共重合体樹脂が用いられることが多い。また、前記単層の基材フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が用いられることが多く、その使用用途によって使い分けられている。さらに、粘着剤としては、アクリル系、ゴム系などが用いられる。
【0004】
該表面保護フィルムの製造方法としては、例えば、基材層樹脂として低密度ポリエチレンを押出機(設定温度200℃)で溶融し、粘着層樹脂として直鎖状低密度ポリエチレンを押出機(設定温度240℃)で溶融し、Tダイ(設定温度210℃)から共押し出しする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−229082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の製造方法で製造されたフィルムは、ちらつきが問題となることがあった。
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、ちらつきが抑制されたポリエチレンフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の要件(A)および(B)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を押出機で溶融混練してTダイから押出したポリエチレン溶融膜を、
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である冷却ロールと、少なくとも表面がゴム製である押付ロールとで挟圧するポリエチレンフィルムの製造方法である。
(A)流動の活性化エネルギー(Ea)が40〜100kJ/mol
(B)190℃の条件で、角周波数0.1rad/秒で測定された溶融複素粘度η*0.1と、角周波数100rad/秒で測定された溶融複素粘度η*100との比である、
η*0.1/η*100が10〜100
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ちらつきが抑制されたポリエチレンフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンと1種類以上の炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。炭素数3〜12のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等が挙げられる。このうち、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンを用いることが好ましく、1−ブテン、1−ヘキセンを用いることがより好ましい。
【0010】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体等が挙げられる。このうち、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体を用いることが好ましく、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体を用いることがより好ましい。
【0011】
本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体の密度としては、フィルムのハンドリング性、被着体からの剥離性を高める観点から、好ましくは880kg/m3以上960kg/m3以下であり、より好ましくは、900kg/m3以上940kg/m3以下である。なお、該密度は、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った後、JIS K7112(1999)のうち、A法に規定された方法に従って測定される。
【0012】
本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)としては、好ましくは0.01〜300g/10分、より好ましくは0.05〜100g/10分、さらに好ましくは0.1〜30g/10分である。なお、該MFRは、JIS K7210−1995に規定された方法において、温度190℃および荷重21.18Nの条件で測定される。
【0013】
本発明におけるエチレン−α−オレフィン共重合体の流動の活性化エネルギー(Ea、単位はkJ/mol)は、45〜100kJ/molである。Eaは、好ましくは50kJ/mol以上、より好ましくは55kJ/mol以上であり、更に好ましくは60kJ/mol以上であり、更により好ましくは65kJ/mol以上である。また、Eaは、好ましくは100kJ/mol以下であり、より好ましくは90kJ/mol以下である。
【0014】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体の溶融複素粘度(η*)の比η*0.1/η*100は、10〜100である。η*0.1/η*100は、好ましくは15〜90であり、より好ましくは20〜80であり、更に好ましくは25〜70である。なお、溶融複素粘度は、粘弾性測定装置(例えば、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800など。)を用いて測定温度190℃のもとで測定される。η*0.1は角周波数0.1rad/秒で測定された溶融複素粘度であり、η*100は角周波数100rad/秒で測定された溶融複素粘度である。
【0015】
本発明で用いるエチレン−α−オレフィン共重合体には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、抗ブロッキング剤等の添加剤を添加してもよい。また、前記エチレン−α−オレフィン共重合体とは異なる樹脂を併用してもよい。
【0016】
本発明は、前記したエチレン−α−オレフィン共重合体を押出機で溶融混練してTダイから押出したポリエチレン溶融膜を、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である冷却ロールと、少なくとも表面がゴム製である押付ロールとで挟圧するポリエチレンフィルムの製造方法である。
【0017】
ポリエチレン溶融膜は、単層でもよく、多層であってもよい。多層である場合は、少なくとも一層が、前記エチレン−α−オレフィン共重合体を含んでいればよい。粘着性の観点から、冷却ロールと接する層が、前記エチレン−α−オレフィン共重合体を含むことが好ましい。
【0018】
本発明において、Tダイから押出した直後のポリエチレン溶融膜の温度は、加工性と、フィルムのフィッシュアイの数を減少させる観点から、200℃以上とすることが好ましく、240℃以上とすることがより好ましく、270℃以上であることがさらに好ましい。また、樹脂の劣化を抑制する観点、発煙成分による冷却ロール汚染を低減する観点から、350℃以下とすることが好ましく、340℃以下とすることがより好ましい。
【0019】
ポリエチレン溶融膜を、冷却ロールと押付ロールとで挟圧する際の線圧は、15〜35kN/mであることが好ましく、フィッシュアイの数を減少させる観点から、好ましくは18kN/m以上であり、均一に圧着する観点から、好ましくは32kN/m以下である。
【0020】
前記冷却ロールおよび押付ロールの表面温度は、挟圧する樹脂の融点よりも30℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。
【0021】
本発明では、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である冷却ロールを用いる。冷却ロールは、金属製であることが好ましい。
なお、Raは、JIS B0601−1994に規定される方法で測定される。
【0022】
本発明で用いる押付ロールは、少なくとも表面がゴム製である。ゴムとしては、シリコンゴム、ネオプレンゴムなどの市販のものが挙げられる。押付ロールの表面硬度は、好ましくは60〜95である。なお、該硬度はJIS K6253に規定される方法で測定される。
【0023】
本発明の方法で得られるポリエチレンフィルムは、透明性や、粘着安定性にも優れるため、携帯電話や液晶テレビなどの液晶ディスプレイ、CDやDVDに用いられる光学フィルム製品、アルミニウムやステンレスなどの金属板、アクリルやエンジニアリングプラスチックなどの合成樹脂板、木質化粧板などの表面保護に好適に用いられる。本発明のポリエチレンフィルムの肉厚は、好ましくは7〜600μm、より好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは15〜300μmである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例での物性は、次の方法に従って測定した。
【0025】
(1)密度(単位:kg/m3
JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定した。なお、試料には、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った。
【0026】
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10min)
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件で、A法により測定した。
【0027】
(3)流動の活性化エネルギー(Ea、単位:kJ/mol)
粘弾性測定装置(Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800)を用いて、下記測定条件で130℃、150℃、170℃および190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線を測定し、次に、得られた溶融複素粘度−角周波数曲線から、Rheometrics社製計算ソフトウェア Rhios V.4.4.4を用いて、活性化エネルギー(Ea)を求めた。
<測定条件>
ジオメトリー:パラレルプレート
プレート直径:25mm
プレート間隔:1.5〜2mm
ストレイン :5%
角周波数 :0.1〜100rad/秒
測定雰囲気 :窒素下
【0028】
(4)溶融複素粘度(η*、単位:Pa・sec)
粘弾性測定装置(Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800)を用いて、下記測定条件で190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線を測定し、角周波数0.1rad/秒で測定された溶融複素粘度『η*0.1』、角周波数100rad/秒で測定された溶融複素粘度『η*100』を求めた。
<測定条件>
ジオメトリー:パラレルプレート
プレート直径:25mm
プレート間隔:1.5〜2mm
ストレイン :5%
角周波数 :0.1〜100rad/秒
測定雰囲気 :窒素
上記記載の方法にて測定されたη*より、η*0.1/η*100を算出した。
【0029】
(5)粘着強度(単位:N/25mm幅)
粘着性を評価するために、以下の手順に従って粘着強度評価を行った。本評価方法は、JIS Z0237−2000「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠している。なお被着体には、光学フィルムとして用いられている日本ゼオン(株)製ゼオノアフィルム1020R(厚み100μm)を使用した。
1)サンプルフィルムを25mm幅に切り取ったものを各サンプルにつき3個用意する。
2)被着体であるゼオノアフィルムは両面テープを用いてアクリル板(50mm×150mm×厚み3mm)の上に貼り付ける。
3)サンプルフィルムは、製造時に冷却ロールと接した面をゼオノアフィルムと接するように貼合した。貼合は、JIS Z0237に記載の自動式圧着装置を用い、圧着速さ5mm/sec、圧着回数1往復で行った。
4)3)で準備したサンプル(以下、測定用サンプルと略記する)を、温度23℃、40℃、60℃の3水準の温度環境で、1時間のエージング処理を行った。
5)測定用サンプルを、所定の温度(23℃、40℃または60℃)、相対湿度65%RHの雰囲気下で、30分間放置した。
6)測定用サンプルを、東洋精機製作所(株)製オートストレイン型引張試験機を用い、剥離角度180°、引張り方向に引張速度300mm/minで測定した。
【0030】
(6)内部HAZE(単位:%)
透明性の尺度である内部HAZEを、デジタルヘーズメーター(スガ試験機製)を用いて測定した。内部HAZEは、石英セルにフタル酸ジメチル溶液を満たし、そこに試料フィルムを浸漬し、セル全体のHAZEを測定することにより算出した。この値が小さいほど、被着体貼合時の透明性が優れることを示す。
【0031】
(7)拡散透過光度(LSI)(単位:%)
東洋精機(株)社製LSI試験機(±0.4°〜1.2°の散乱透過光を受光)により測定した。この値が小さいほど、ちらつきが抑制されていることを示す。
【0032】
実施例1
エチレン−α−オレフィン共重合体[住友化学(株)製スミカセンEP GT140(MFR=0.9g/10min、密度=918kg/m3)]をφ65mmの押出機により溶融混練してTダイから押出し、押し出し直後のポリエチレン溶融膜を、算術平均粗さ(Ra)0.1μmの金属製冷却ロールとシリコンゴム(硬度:80)製押付ロールにより、押付ロール線圧19.6kN/mで圧着して、ポリエチレンフィルムを得た。
Tダイから押出された直後のポリエチレン溶融膜温度は330℃、フィルム幅は400mm、フィルム厚みは40μm、引取速度は54m/minとした。得られたポリエチレンフィルムの物性評価結果を表1に示す。
【0033】
比較例1
エチレン−α−オレフィン共重合体[住友化学(株)製スミカセンE FV403(MFR=3.7g/10min、密度=918kg/m3)]をφ65mmの押出機により溶融混練してTダイから押出し、押し出し直後のポリエチレン溶融膜を、算術平均粗さ(Rz)0.1μmの金属製冷却ロールとシリコンゴム(硬度:80)製押付けロールにより、押付ロール線圧19.6kN/mで圧着して、ポリエチレンフィルムを得た。
Tダイから押出された直後のポリエチレン溶融膜温度は250℃、フィルム幅は400mm、フィルム厚みは30μm、引取速度は50m/minとした。得られたポリエチレンフィルムの物性評価結果を表1に示す。
【0034】
比較例2
エチレン−α−オレフィン共重合体[住友化学(株)製スミカセンHiα FW401−0(MFR=5.1g/10min、密度=923kg/m3)]をφ65mmの押出機により溶融混練してTダイから押出し、押し出し直後のポリエチレン溶融膜を、算術平均粗さ0.1μmの金属製冷却ロールとシリコンゴム(硬度:80)製押付けロールにより、押付ロール線圧19.6kN/mで圧着して、ポリエチレンフィルムを得た。
Tダイから押出された直後のポリエチレン溶融膜温度は230℃、フィルム幅は400mm、フィルム厚みは30μm、引取速度は50m/minとした。得られたポリエチレンフィルムの物性評価結果を表1に示す。
【0035】
比較例3
高圧法低密度ポリエチレン樹脂[住友化学(株)製スミカセン CE4506(MFR=7.1g/10min、密度=918kg/m3)]をφ65mmの押出機により溶融混練してTダイから押出し、押し出し直後のポリエチレン溶融膜を、算術平均粗さ0.1μmの金属製冷却ロールとシリコンゴム(硬度:80)製押付けロールにより、押付ロール線圧19.6kN/mで圧着して、ポリエチレンフィルムを得た。
Tダイから押出された直後のポリエチレン溶融膜温度は230℃、フィルム幅は400mm、フィルム厚みは30μm、引取速度は50m/minとした。得られたポリエチレンフィルムの物性評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件(A)および(B)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を押出機で溶融混練してTダイから押出したポリエチレン溶融膜を、
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以下である冷却ロールと、少なくとも表面がゴム製である押付ロールとで挟圧するポリエチレンフィルムの製造方法。
(A)流動の活性化エネルギー(Ea)が40〜100kJ/mol
(B)190℃の条件で、角周波数0.1rad/秒で測定された溶融複素粘度η*0.1と、角周波数100rad/秒で測定された溶融複素粘度η*100との比である、η*0.1/η*100が10〜100
【請求項2】
Tダイから押出したポリエチレン溶融膜の温度が270℃以上である請求項1に記載のポリエチレンフィルムの製造方法。
【請求項3】
冷却ロールと押付ロールとでポリエチレン溶融膜を挟圧するときの押付ロール線圧が、15〜35kN/mである請求項1または2に記載のポリエチレンフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−194642(P2011−194642A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62108(P2010−62108)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】