説明

ポリカーボネート樹脂よりなる成形品

【課題】ポリカーボネート樹脂からなる成形品に密着性の向上した薄膜を蒸着した成形品を提供する。
【解決手段】 ガラス転移温度が150℃以上であるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。好ましいポリカーボネート樹脂の例としては一般式[1]で表わされる部分構造単位を特定割合で含有するもの等がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂からなる成形体に薄膜を形成した成形品に関する。さらに詳しくは、ガラス転移温度が一定値以上のポリカーボネート樹脂、特に特定の組成の芳香族ジヒドロキシ成分からなるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネートはその耐熱性や機械特性、成形性、寸法安定性などのバランスに優れ、そのポリカーボネートからなる成形体に反射膜を形成した自動車等のランプレンズリフレクターや、光学ミラーといった成形品などにも広く使用されている。しかしながら、ポリカーボネートからなる成形体に単に蒸着を行うだけでは、形成した薄膜の十分な密着性を得ることは困難である。これを解決する為には、一般的には蒸着層の下に密着性を向上させるためのプライマー層を塗膜したり、成形品表面をプラズマ処理するなどの表面処理を行う必要があるが、設備やコストがかかることが大きな問題であり、簡便に且つ高い密着性が得られる薄膜形成の手法が求められている。
【0003】
一方、薄膜形成には物理的蒸着やメッキ、浸漬、スプレーコーティング、スピンコーティングなどの方法があるが、このうち物理的蒸着法は、様々な種類の物質を均質且つ高い密度で薄膜化できるため、反射膜のほか、半導体層や絶縁膜、電極膜などの形成法として多岐に利用されている。物理蒸着には大きく分けて、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングがあり、中でもイオンプレーティングは蒸発原子をイオン化により加速させて成形体などの基板に打ち込むことにより、基板深く原子が入り込み、結果として形成した薄膜の密着性が高いという特徴がある。しかしながら、イオンプレーティング法は、高いエネルギーを持った原子が基板にあたるため、基板の温度が大きく上昇してしまい、基板が変形してしまうという問題があった。これを解決する方法として、イオンプレーティングの装置を改良することで、密着性を向上しようという提案がなされているが、大幅な設備変更が必要で、また基板温度が上昇するという根本的な問題は解決しないままであった(例えば特許文献1,2参照)。また、樹脂自身を改良することで密着性を改良しようとする提案もなされているが、熱安定性の低下により良好な成形品を得ることが困難であるという問題や、基板温度を上げることで変形が生じてしまう問題は解決できていなかった(例えば特許文献3〜5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平05−320886号公報
【特許文献2】特開平10−251845号公報
【特許文献3】特開平05−247197号公報
【特許文献4】特開平07−179591号公報
【特許文献5】特開2003−40995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、薄膜密着性の向上したポリカーボネート樹脂からなる成形品を得ることにある。本発明者は、様々な検討を積み重ねた結果、ガラス転移温度が一定値以上のポリカーボネート樹脂、特に特定の組成の芳香族ジヒドロキシ成分からなるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、ガラス転移温度が150℃以上であるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品が提供される。ポリカーボネート樹脂のガラス転移点は160℃以上であることがより好ましく、165℃以上であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が150℃よりも低い場合、イオンプレーティングにより薄膜を形成する際に、基板の温度が上昇することで成形体が変形してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0007】
この成形体としてはランプレンズリフレクター、ミラー、レンズ、プリズム等に用いられる板状成形体、球面あるいは非球面レンズ状成形体、液晶ディスプレイのバックライトの反射板、反射フィルム等に用いられるシート、フィルム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0008】
本発明のポリカーボネート樹脂から成形体を得る方法としては、射出成形,圧縮成形,射出圧縮成形,押し出し成形、ブロー成形等が用いられる。フィルムやシートを製造する方法としては、例えば溶剤キャスト法、溶融押出し法、カレンダー法等が挙げられるが、効率的な方法としては溶融押出し法が好ましく用いられる。
本発明の成形品に用いられる薄膜の厚みは1nm〜300nmが好ましく、5nm〜200nmがより好ましく、30nm〜150nmが最も好ましい。
【0009】
成形品の密着性は成形板の蒸着面に100個の碁盤目(1mm2)をつけ、碁盤目部分にセロファンテープを密着させ、次いで密着したセロファンテープを直角にかつ急激に剥離した際に剥離せずに残った碁盤目の目数の割合(%)で定義され、本願の成形品ではその密着性が80%以上である事が好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0010】
また、本発明の成形品のうち反射機能を持った成形品は蒸着性の指標となる正反射率が80%以上、拡散反射率が2.0%以下であることが好ましく、正反射率が85%以上、拡散反射率が1.5%以下であることがより好ましい。基板が熱変形等を起こし拡散反射率が大きくなると表面が白濁したように観察されるため、正反射率が80%以下、拡散反射率が2.0%以上であるとミラー等の反射機能を持った部品としては不適当である。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂からなる成形体に薄膜を形成する方法は、イオンプレーティング法である。
ここでイオンプレーティング法とは、物理蒸着において蒸発粒子をイオン化することにより、粒子の運動エネルギーを増加させ成膜する手法のことであり、高いエネルギーを持った原子が基板にあたるため、基板の温度が大きく上昇する。イオンプレーティング法としては、そのイオン化法などにより種々の方法があり、特に限定されるものではないが、例えば、直流放電励起法、多陰極熱電子照射法、高周波励起法(RF法)、ホローカソード法(HCD法)、クラスターイオンビーム法(ICB法)、活性化反応蒸着法(ARE法)、マルチアーク方式(アーク放電,AIP法)、イオンビームアシスト蒸着、電子ビーム励起プラズマイオンプレーティングなどの手法を挙げることができる。また、蒸着成分によってはプラズマガスに反応性ガスや有機モノマーガスを用いた、反応性イオンプレーティングも行うことができる。その中でも直流放電励起法、高周波励起法あるいはホローカソード法が好ましい。
【0012】
なお、イオンプレーティング法を行った場合、薄膜を成形される成形体の表面温度はイオン化の条件などにもよるが、150℃を越えることも多い。
本発明の成形品にイオンプレーティングにより蒸着する薄膜成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、Al,Ti,Cr,Ag,Au,Fe,Ga,Zr,Nb,Mo,La,Ta,W,Mn,Re,Sr,Co,Rh,Pd,Ir,Pt,TiO,TiN,TiC,CrN,Al,AlN,GaN,ITO,ZnO,GaAs,各種有機モノマーなどが挙げられる。
【0013】
また、本発明の成形品にイオンプレーティングにより蒸着する反射膜としては、金属元素、例えば上記成分の中ではAl、Cr、Ag、Au、Fe、Ti、Pt等を単独で、あるいは複合させて用いることができる。そのうちAlおよびAuを単独で使用するか、もしくは0.5重量%以上10重量%以下、特に好ましくは3.0重量%以上10重量%以下のTiを含有するAl合金、0.5重量%以上10重量%以下のCrを含有するAl合金を使用するのが好ましい。
【0014】
本発明のポリカーボネート樹脂を用いた成形体にイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品は、密着性が良好であるために、特に密着性を高めることを目的にアンダーコートや表面処理などを施すことなしに、直接蒸着することができるが、アンダーコートや表面処理を施した成形体を用いても差し支えない。この場合、アンダーコートとしてはシリコン系アンダーコート、アクリル系アンダーコート等が挙げられ、表面処理としてはプラズマ処理、溶剤による洗浄等を挙げることができる。
【0015】
上記のポリカーボネート樹脂としては下記一般式[1]〜[4]で表される繰り返し単位を含む芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0016】
【化1】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【0017】
【化2】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またRは炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、mは0〜10の整数を示す。]
【0018】
【化3】

[式中、R10〜R16は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【0019】
【化4】

[式中、R17〜R20は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またR21は炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、nは0〜14の整数を示す。]
その中でも下記一般式[1]
【0020】
【化5】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
で表される繰り返し単位(A)及び下記一般式[5]
【0021】
【化6】

[式中、R22〜R25は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1〜20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
で表される繰り返し単位(B)よりなり、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95〜95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品が好ましく使用される。
【0022】
上記の共重合体は全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=15:85〜60:40の範囲であるポリカーボネート共重合体であることが更に好ましい。
【0023】
本発明のポリカーボネート共重合体において用いられる下記一般式[6]で表されるフルオレン系ビスフェノールとしては、例えば9,9―ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、下記式[7]で表される9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられ、中でも9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが好ましい。
【0024】
【化7】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【0025】
【化8】

【0026】
本発明のポリカーボネート共重合体において用いられる下記一般式[8]で表される他の芳香族ジヒドロキシ成分としては、通常芳香族ポリカーボネートのジヒドロキシ成分として使用されているものであればよく、例えば4,4′−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサンなどが挙げられ、なかでもビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールMが好ましく、特にビスフェノールAが好ましい。
【0027】
【化9】

[式中、R22〜R25は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1〜20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸あるいはその誘導体を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また少量の3官能化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。
【0029】
本発明におけるポリカーボネート樹脂は、そのポリマーを塩化メチレンに溶解した溶液での20℃における比粘度が0.2〜1.2の範囲が好ましく、0.25〜1.0の範囲がより好ましく、0.27〜0.80の範囲がさらに好ましい。比粘度が上記範囲内であれば成形品やフィルムの強度が十分強く、溶融粘度および溶液粘度が適当で、取り扱いが容易であり好ましい。
【0030】
本発明のポリカーボネート樹脂は、低分子量化合物が1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下が更に好ましく、0.6%以下が特に好ましい。低分子化合物が1.0%を越えると、成形品の表面に存在する低分子化合物の量も必然的に増加し、このため蒸着した薄膜の密着性が損なわれてしまうため、好ましくない。なお、この低分子量化合物の含有率の値は下記方法により測定された値である。すなわち、東ソー(株)製、TSKgelG2000HXLとG3000HXLカラム各1本ずつ直列に繋いで溶離液としてクロロホルムを用い、流量0.7ml/分で安定化した後、該ポリカーボネート樹脂のクロロホルム溶液を注入する方法を用い、それにより得られた波長254nmの光源で検出したGPCチャートのリテンションタイムが19分以降のピーク面積を合計した全ピーク面積に対する割合を低分子量化合物の含有率とした。
【0031】
本発明のポリカーボネート樹脂は、通常のポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0032】
カーボネート前駆物質として、例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはピリジンなどのアミン化合物が用いられる。溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0033】
カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。
【0034】
また、反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂は、その重合反応において、末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0036】
かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、一般にはフェノール或いは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0037】
【化10】

[式中、Aは水素原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはアリールアルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
【0038】
本発明において、前記ポリカーボネート樹脂に、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸およびこれらのエステルよりなる群から選択された少なくとも1種のリン化合物が、その樹脂に対して0.0001〜0.05重量%、好ましくは0.0005〜0.02重量%、より好ましくは0.001〜0.01重量%の割合で配合することができる。このリン化合物を配合することにより、かかるポリカーボネート樹脂の熱安定性が向上し、成形時における分子量の低下や色相の悪化が防止される。なお、配合量が0.0001重量%未満では上記効果が得られ難く、0.05重量%を超えると、逆に該ポリカーボネート樹脂の熱安定性に悪影響を与え、また耐加水分解性も低下するので好ましくない。
【0039】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を添加することができる。
さらに本発明のポリカーボネート樹脂には、必要に応じて一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステルを加えることもできる。
かかるアルコールと高級脂肪酸とのエステルの配合量は、該ポリカーボネート樹脂に対して0.01〜2重量%が好ましく、0.015〜0.5重量%がより好ましく、0.02〜0.2重量%がさらに好ましい。配合量がこの範囲内であれば離型性に優れ、また離型剤がマイグレートし金属表面に付着することもなく好ましい。
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂には、さらに着色剤、帯電防止剤、滑剤、拡散剤、充填剤などの添加剤や他のポリカーボネート樹脂、他の熱可塑性樹脂を本発明の目的を損なわない範囲で少割合添加することもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂を用いた成形体にイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品は、薄膜の外観が良好であり、また密着性が非常に高いため、液晶ディスプレイのバックライトの反射板、自動車等のランプレンズリフレクター、光学ミラー、プラスチックミラーなどの光反射機能をもった部品や、表面にイオンプレーティング法によりハードコートや反射防止コートや耐候性薄膜コートを施したレンズやプリズム等の光学部品や、成形板として好適に使用される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中、「部」は「重量部」を意味している。なお、評価は下記の方法により実施した。
【0043】
(I)評価項目
(1)比粘度
ポリマー0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃の温度で測定した。
(2)ガラス転移点(Tg)
ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)社製2910型DSCを使用し、昇温速度20℃/minにて測定した。
(3)オリゴマー量
東ソー(株)製、TSKgelG2000HXLとG3000HXLカラム各1本ずつ直列に繋いで溶離液としてクロロホルムを用い、流量0.7ml/分で安定化した後、該ポリカーボネート樹脂のクロロホルム溶液を注入する方法を用い、それにより得られた波長254nmの光源で検出したGPCチャートのリテンションタイムが19分以降のピーク面積の合計の全ピーク面積に対する割合を低分子量化合物の含有率(%)とした。
(4)溶融流動性
JIS K−7210に準拠して、テクノセブン(株)製L251−11型MFR測定器を用いて、300℃、荷重1.2kgで10分間に流出したポリマー量(cm)で示した。
(5)蒸着性
実施例に記載の方法で作成したAl膜を蒸着した成形角板を装置から取り出し、1時間室温にて静置した後、村上色彩技術研究所(株)製反射率計HR−100を用いて全反射率と拡散反射率を測定し、その差を正反射率とする方法で調べた。
(6)密着性
蒸着性を評価した成形板のAl蒸着面に100個の碁盤目(1mm2)をつけ、碁盤目部分にセロファンテープを密着させ、次いで密着したセロファンテープを直角にかつ急激に剥離した。このとき剥離せずに残った碁盤目の目数を数え、全目数100に対し何個残ったかで下記の判定を行った。
◎(塗膜密着性 最良):残り目数100〜95個(ほとんど残っている)
○(塗膜密着性 良好):残り目数94〜80個(部分的に剥離)
△(あまり密着していない):残り目数79〜50(かなり剥離)
×(密着していない):残り目数49個以下(ほとんど剥離)
(7)耐熱性
実施例に記載した方法で作成したAl膜を蒸着した成形角板を140℃にて24時間放置した後、上記蒸着性、密着性の評価を行った。
【0044】
(II)ポリカーボネート樹脂の合成
◎本発明のポリカーボネート共重合体の製造−その1
温度計、攪拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水9790部、48%水酸化ナトリウム水溶液2243部を入れ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと略記することがある)1417部、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下、ビスクレゾールフルオレンと略記することがある)587部およびハイドロサルファイト6.8部を溶解し、塩化メチレン6605部を加えた後、攪拌しながら18〜22℃でホスゲン1000部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール52.4部と48%水酸化ナトリウム水溶液320部を加え、さらにトリエチルアミン2.0部を添加して24〜32℃で40分間攪拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになったところで、ニーダーにて塩化メチレンを蒸発して、ビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの比がモル比で80:20の比粘度が0.340、Tgが168℃である薄黄色のポリマー(“EX−PC1”と略する)2144部を得た(収率95%)。
【0045】
◎本発明のポリカーボネート共重合体の製造−その2
ビスフェノールAを886部、ビスクレゾールフルオレンを1469部とする以外はEX−PC1と同様の手順にて合成を行い、ビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの比がモル比で50:50の比粘度が0.290、Tgが197℃である薄黄色のポリマー(“EX−PC2”と略する)2430部を得た(収率93%)。
【0046】
◎本発明のポリカーボネート共重合体の製造−その3
温度計、攪拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水9790部、48%水酸化ナトリウム水溶液2243部を入れ、ビスフェノールA1062部、ビスクレゾールフルオレン1174部およびハイドロサルファイト6.8部を溶解し、塩化メチレン6605部を加えた後、攪拌しながら18〜22℃でホスゲン1000部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール46.6部と48%水酸化ナトリウム水溶液320部を加え、さらにトリエチルアミン2.0部を添加して24〜32℃で40分間攪拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗した。続いて、塩化メチレン相を濃縮してポリカーボネート濃度10%の溶液を得、これに3倍量のイソプロパノールを加え、重合物を沈澱させた。沈殿物をろ過後、乾燥機にて乾燥してビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの比がモル比で60:40の比粘度が0.300、Tgが188℃である薄黄色のポリマー(“EX−PC3”と略する)2142部を得た(収率86%)。
【0047】
◎本発明のポリカーボネート樹脂の製造−その4
温度計、撹拌機、還流冷却機付き反応器にイオン交換水9200部、48%水酸化ナトリウム水溶液1056部を仕込み、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン1520部、およびハイドロサルファイト3.2部を溶解し、塩化メチレン6480部を加え、撹拌しながら15〜25℃でホスゲン564部を60分を要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール28.4部と48%水酸化ナトリウム水溶液116部を添加し、さらにトリエチルアミン3.2部を添加して28〜33℃で2時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになったところでニーダーにて塩化メチレンを蒸発して、比粘度が0.236、Tgが243℃あるポリマー(“EX−PC4”と略する)1600部を得た(収率98%)。
【0048】
◎比較のためのポリカーボネート樹脂の製造
温度計、攪拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水9486部、48%水酸化ナトリウム水溶液1811部を入れ、ビスフェノールA2003部、およびハイドロサルファイト7.6部を溶解し、塩化メチレン7466部を加えた後、攪拌しながら20〜23℃でホスゲン1000部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール65.9部と48%水酸化ナトリウム水溶液362部を加え、さらにトリエチルアミン2.2部を添加して25〜32℃で40分間攪拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになったところで、ニーダーにて塩化メチレンを蒸発して、比粘度が0.368、Tgが147℃である白色のビスフェノールAホモポリマー(“CEX−PC1”と略する)2210部を得た(収率96%)。
【0049】
[実施例1〜5、比較例1〜2]
上記で得られたポリカーボネート共重合体及びポリカーボネート樹脂にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト0.050%、ステアリン酸モノグリセリド0.050%加え、タンブラーを使用して均一に混合した後、30mmφベント付き二軸押出機(神戸製鋼(株)製KTX−30)により、シリンダー温度300℃(実施例1〜4及び比較例1,2)または320℃(実施例5)、10mmHgの真空度で脱気しながらペレット化し、得られたペレットを120℃で5時間乾燥後、射出成形機(住友重機械工業(株)製SG150U型)を使用し、シリンダー温度320℃(実施例1〜4及び比較例1,2)または340℃(実施例5)、金型温度100℃の条件で大きさ100mm×100mm、厚さ3mmの試験用角板を作成した。
【0050】
この見本板に下記の方法で真空蒸着法およびイオンプレーティング法によりアルミニウム薄膜を膜厚が90〜100nmになるように形成した後、この成形品の蒸着性、密着性及び耐熱性を評価した。その結果を表1に示す。
○真空蒸着条件:真空度7.5×10-6Torr、蒸発源Wワイヤー、処理時間1分間にて、アルミニウムを真空蒸着した。
○イオンプレーティング条件:高周波励起法により、アルゴンガス圧 1×10-2Torr、高周波電力400W、処理時間1分間にて、アルミニウムをターゲットとしイオンプレーティングを行った。このときイオンプレーティング処理直後の基板温度は150℃に達した(実施例1〜3、5,比較例1)。同様に高周波電力を450Wとした場合、イオンプレーティング処理直後の基板温度は170℃に達した(実施例4)。
【0051】
【表1】

【0052】
それぞれの比較で明らかな如く、本発明のポリカーボネート樹脂を用いた成形体にイオンプレーティング法にて薄膜を形成した成形品は、蒸着性及び密着性が良好である。
【0053】
以下本発明の好ましい態様を例示する。
[項1]
ガラス転移温度が150℃以上であるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0054】
[項2]
低分子量化合物が1.0%以下である項1記載のポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0055】
[項3]
薄膜の膜厚が1〜300μmである項1または2記載の成形品。
【0056】
[項4]
イオンプレーティング法が直流放電励起法、高周波励起法あるいはホローカソード法である項1〜3のいずれかに記載の成形品。
【0057】
[項5]
密着性が80%以上である項1〜4のいずれかに記載の成形品。
【0058】
[項6]
イオンプレーティング法により形成する薄膜が反射膜である項1〜5のいずれかに記載の成形品。
【0059】
[項7]
成形品の正反射率が80%以上である事を特徴とする項6記載の成形品。
【0060】
[項8]
成形品の耐熱試験後の正反射率が80%以上である事を特徴とする項5または6記載の成形品。
【0061】
[項9]
ポリカーボネート樹脂が下記一般式[1]〜[4]で表される繰り返し単位を含む芳香族ポリカーボネート樹脂である項1〜8のいずれかに記載のイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0062】
【化11】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【0063】
【化12】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またRは炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、mは0〜10の整数を示す。]
【0064】
【化13】

[式中、R10〜R16は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【0065】
【化14】

[式中、R17〜R20は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またR21は炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、nは0〜14の整数を示す。]
【0066】
[項10]
ポリカーボネート樹脂が下記一般式[1]
【0067】
【化15】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
で表される繰り返し単位(A)及び下記一般式[5]
【0068】
【化16】

[式中、R22〜R25は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1〜20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
で表される繰り返し単位(B)よりなり、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95〜95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体である項1〜9のいずれかに記載のイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0069】
[項11]
全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=15:85〜60:40の範囲である項10記載の芳香族ポリカーボネート共重合体を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0070】
[項12]
繰り返し単位(A)が下記式[6]で表される繰り返し単位である項1〜11のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0071】
【化17】

【0072】
[項13]
繰り返し単位(B)が下記式[7]及び/又は[8]で表される繰り返し単位である項1〜12のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【0073】
【化18】

【0074】
【化19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が150℃以上であるポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂が下記一般式[1]〜[4]で表される繰り返し単位を含む芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1記載のイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【化1】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【化2】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またRは炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、mは0〜10の整数を示す。]
【化3】

[式中、R10〜R16は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
【化4】

[式中、R17〜R20は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、またR21は炭素原子数1〜12の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、nは0〜14の整数を示す。]
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂が下記一般式[1]
【化5】

[式中、R〜Rは夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子である。]
で表される繰り返し単位(A)及び下記一般式[5]
【化6】

[式中、R22〜R25は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜9の芳香族基を含んでもよい炭化水素基又はハロゲン原子であり、Wは単結合、炭素原子数1〜20の芳香族基を含んでもよい炭化水素基、O、CO又はCOO基である。]
で表される繰り返し単位(B)よりなり、全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=5:95〜95:5の範囲である芳香族ポリカーボネート共重合体である請求項1又は2に記載のイオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【請求項4】
全カーボネート繰り返し単位における単位(A)と単位(B)の割合がモル比で(A):(B)=15:85〜60:40の範囲である請求項3記載の芳香族ポリカーボネート共重合体を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【請求項5】
繰り返し単位(A)が下記式[6]で表される繰り返し単位である請求項3又は4に記載の芳香族ポリカーボネート共重合体を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【化7】

【請求項6】
繰り返し単位(B)が下記式[7]及び/又は[8]で表される繰り返し単位である請求項3〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート共重合体を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【化8】

【化9】

【請求項7】
低分子量化合物が1.0%以下である請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【請求項8】
イオンプレーティング法が直流放電励起法、高周波励起法あるいはホローカソード法である請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を用いた成形体に、イオンプレーティング法により薄膜を形成した成形品。
【請求項9】
イオンプレーティング法により形成する薄膜が反射膜である請求項1〜8のいずれかに記載の成形品。

【公開番号】特開2006−205432(P2006−205432A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18027(P2005−18027)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】