説明

ポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体およびその製造方法

【課題】耐熱性、柔軟性、成形性に優れ、かつ、耐久性に優れたポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体を提供する。
【解決手段】ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物(B)を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型に射出成形して得られたものである。さらに、0質量部を超え10質量部以下の滑剤(C)と、0質量部を超え0.2質量部以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とを任意的に添加可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への負荷の軽減を目標として、生分解性、植物由来性等の特性を備えた樹脂が注目されており、ポリ乳酸樹脂をはじめ各種の樹脂の実用が試みられている。このうち、高い柔軟性を有することを特徴とするポリブチレンサクシネート樹脂については、生分解性に加え、植物由来性すなわち植物原料から合成することも見込まれており、今後の用途の拡大が期待されている。特に、ポリブチレンサクシネート樹脂は、ポリ乳酸樹脂を大きく上回る柔軟性を有しており、その柔軟性を活かすために、様々な形状のものが容易に得られる射出成形品において、良好な各種物性を備えることが求められている。さらに、過酷な条件下での使用にも長期にわたって耐える必要がある。
【0003】
一般に、各種生分解性樹脂においては、耐久性を付与するために末端封鎖剤を用いることが行なわれている。しかし、ポリブチレンサクシネート樹脂では、末端封鎖剤を用いると、それによって柔軟性が大きく左右される傾向がある。また、耐熱性については、射出成形時の金型温度に伴って多少は改善されるものの、高温金型においては、成形品取り出し時の剛性不足による成形性の低下が問題となる。
【0004】
ポリブチレンサクシネート樹脂は、その柔軟性のゆえに、柔軟性付与のための改質材として他樹脂へ混合することについて、数多く提案されている。しかしながら、単体での射出成形についての報告例は少ない。
【0005】
たとえば特許文献1では、その耐熱性を改善するためにアリル基による架橋を行なったり放射線を使用したりすることなどが提案されている。しかし、特許文献1では、成形時の金型温度など、成形品の物性に大きく影響する諸条件については、ほとんど言及されていない。また特許文献1においては、耐熱性についての数値的な評価もなされていない。
【0006】
特許文献2では、多糖類誘導体との架橋により耐熱性を付与することが提案されており、150℃までのプレスシートの形状保持性が記載されている。しかし、その表1などに記載されているように、多糖類誘導体を30部配合した混合物にせざるを得ない。しかも特許文献2では、成形条件についての検討はなされていない。また、上記のような混合物にした場合でも、混合物アリル基含有モノマーの添加および電子線の照射を要し、電子線の照射なしでは、80℃での形状保持性さえ得られていない。
【特許文献1】特開2003−313214号公報
【特許文献2】特開2005−126605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の問題点を解消しようとするものであって、耐熱性、柔軟性、成形性に優れ、かつ、耐久性に優れたポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型に射出成形することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物(B)を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型に射出成形して得られたものであることを特徴とするポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【0010】
(2)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え10質量部以下の滑剤(C)を添加、溶融混練した後、射出成形して得られたものであることを特徴とする(1)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【0011】
(3)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え0.2質量部以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加、溶融混練した後、射出成形して得られたものであることを特徴とする(1)または(2)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【0012】
(4)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.7〜1.3質量部のカルボジイミド化合物(B)と、0.03〜0.07質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とを添加、溶融混練した後、表面温度が90〜105℃の金型に射出成形して得られたものであることを特徴とする(3)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【0013】
(5)滑剤(C)の添加と同時、あるいは、それよりも後に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加して得られたものであることを特徴とする(3)または(4)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【0014】
(6)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物(B)を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型を用いて射出成形することを特徴とするポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【0015】
(7)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え10質量部以下の滑剤(C)を添加、溶融混練した後、射出成形することを特徴とする(6)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【0016】
(8)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え0.2質量部以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加、溶融混練した後、射出成形することを特徴とする(6)または(7)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【0017】
(9)ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.7〜1.3質量部のカルボジイミド化合物(B)と、0.03〜0.07質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とを添加、溶融混練した後、表面温度が90〜105℃の金型を用いて射出成形することを特徴とする(8)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【0018】
(10)滑剤(C)の添加と同時、あるいは、それよりも後に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加することを特徴とする(8)または(9)のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体は、所定量のカルボジイミド化合物によってポリブチレンサクシネートの末端が封止されることで所望の柔軟性と耐久性とをともに発揮することができ、しかも、所定の温度範囲の金型に射出成形されて得られたものであることにより、所望の耐熱性および成形性を発揮することができる。
【0020】
また離型剤としての所定量の離型剤としての滑剤が配合されたものであることによっても成形性の向上を図ることができ、また架橋剤としての所定量の(メタ)アクリル酸エステル化合物が配合されたものであることでポリブチレンサクシネートが架橋されることによっても成形性の向上を図ることができる。
【0021】
また滑剤の添加と同時、あるいは、それよりも後に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加して得られたものであることにより、滑剤を樹脂中へ良好に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物成形体は、ポリブチレンサクシネート樹脂を主成分とし、このポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物を添加、溶融混練した後、表面温度が75℃以上110℃以下の金型に射出成形して得られたものである。
【0023】
カルボジイミド化合物は、上述のようにポリブチレンサクシネートの末端封止剤として機能するものであるが、本発明においては、特にイソシアネート基を含有するカルボジイミド化合物を用いることが、末端封止の観点から好適である。イソシアネート基を含有するカルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物にイソシアネート基が導入された構造であれば、特に限定されない。そのカルボジイミド骨格としては、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4´−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0024】
カルボジイミド化合物の添加量は、ポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対して0.3〜3.0質量部であることが必要である。好ましくは0.7〜1.3質量部である。0.3質量部未満では、本発明の目的とする耐久性が得られないばかりか、柔軟性も低下させる場合がある。また、3.0質量部を超えて用いることは、柔軟性を低下させるばかりか、コスト面でも不都合である。
【0025】
本発明によれば、ポリブチレンサクシネートに離型剤としての滑剤を添加することで、射出成形時における金型からの製品の離型性を良好にさせて成形性を向上させることができる。そのための滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩を好適に用いることができる。滑剤の添加量は、ポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対して0質量部を超え10質量部以下であることが好適である。10質量部を超えて用いることは、その配合量が過剰になって溶融混練時の操業性を低下させる場合があるほか、コスト面でも好ましくない。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル化合物は、上述のようにポリブチレンサクシネートの架橋剤として機能するものであり、成形性を向上させるために任意的に添加することが可能なものである。そのような(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、ポリブチレンサクシネートとの反応性が高く、かつ、モノマーが残存しにくく、毒性、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。具体的な化合物としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。また、これら化合物におけるアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレングリコールの共重合体であるものでもよい。なかでも、安全性や反応性の理由から、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート等が好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加量は、ポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対して0質量部を超え0.2質量部以下が好適であり、より好ましくは0.03〜0.07質量部である。0.2質量部を超えて用いても、成形性向上の効果が飽和するばかりか、かえって耐熱性が低下する場合があり、また、溶融混練時の操業性を低下させる場合も起こり得る。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加は、滑剤の添加と同時、あるいは、それよりも後に行なう。滑剤の添加よりも前に行なうと、ポリブチレンサクシネート樹脂への滑剤の分散性を低下させる場合がある。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル化合物を添加する際には、架橋助剤として過酸化物を添加すると、架橋度合いを高めることができる。過酸化物としては、樹脂への分散性が良好である有機過酸化物が好ましい。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。この過酸化物の添加量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物に対して、質量比で、0.1〜10倍であることが好ましい。0.1倍未満では架橋助剤として架橋度合いを高める効果が低く、また、10倍を超えて用いることは、効果が飽和するとともに経済的でもなくなる。
【0030】
架橋剤としての(メタ)アクリル酸エステル化合物と架橋助剤としての過酸化物とを併用する場合の好ましい方法として、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/または過酸化物を媒体に溶解または分散させて、ポリブチレンサクシネート樹脂のための混練機に注入する方法が挙げられ、これによって操業性を格段に改良することができる。すなわち、ポリブチレンサクシネート樹脂を溶融混練中に、(メタ)アクリル酸エステル化合物および/または過酸化物の溶解液または分散液を注入して溶融混練することができる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル化合物および/または過酸化物を溶解または分散させる媒体としては、溶解または分散に支障をきたさないものであれば、特に限定されないが、本発明の樹脂組成物との相溶性に優れた可塑剤が好ましい。このような可塑剤としては、たとえば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体などから選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネートなどが挙げられる。
【0032】
可塑剤の使用量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物に対し、質量比で2〜30倍であることが好ましい。2倍未満では、媒体の量が少な過ぎて、混練機への投入口での詰まりが発生するなど、操業性を低下させる場合がある。反対に30倍を超えて多量に用いることは、溶融混練を行なうために樹脂を溶融させる溶融シリンダの温度を不安定にすることがあり、やはり操業性を低下させる場合がある。なお、この媒体は、樹脂との配合時に揮発することがあるため、たとえ製造時に使用しても、得られた樹脂組成物中にはこの媒体が含まれていない場合がある。
【0033】
本発明のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造に際しては、ポリブチレンサクシネート樹脂(A)、カルボジイミド化合物(B)、および必要に応じて滑剤(C)や(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を、これらの化合物の使用に際して支障のない種々の押出機、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダ等を用いて溶融混練し、さらに、横型あるいは縦型射出成形機を用いて射出成形することができる。溶融混練においては、良好な混練状態を得るために二軸押出機を使用することが好ましい。
【0034】
射出成形の際の金型の表面温度は、75〜110℃であることが必要であり、好ましくは90〜105℃、最適には93〜103℃である。金型の表面温度が75℃未満では、本発明の目的とする耐熱性などの性能が得られない。また、110℃を超える場合には、成形性に支障が出る。
【0035】
各原料を押出機に供給する際には、原料を単にドライブレンドしてもよいし、粉末フィーダ、加圧ポンプ等の公知の移送手段を適宜用いてもよい。
【0036】
本発明によれば、上記の好ましい範囲を組み合わせたポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体であることにより、具体的には、たとえば、ポリブチレンサクシネート樹脂100質量部に対し、0.7〜1.3質量部のカルボジイミド化合物と、0.03〜0.07質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物と、必要に応じ0質量部を超え10質量部以下の滑剤とを添加、溶融混練した後、表面温度が90〜105℃の金型に射出成形して得られた成形体であることにより、いっそうすぐれた特性を発揮することができる。
【0037】
本発明のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核材等を含有させてもよい。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)等が挙げられる。充填材のうち、無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、窒化ホウ素、グラファイト等が挙げられる。充填材のうち、有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、籾殻、フスマ、ケナフ繊維、竹繊維等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。結晶核材のうち、無機結晶核材としては、タルク、カオリン等が挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、リン酸エステル金属塩、ロジン化合物等が挙げられる。なお、本発明のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体にこれらを含有させる方法は、特に限定されない。
【0038】
本発明のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体は、射出成形時に各種形状の金型を用いることによりことにより、種々の用途に供することができる。得られた成形体は柔軟性、耐熱性、耐久性に優れているため、特に、使用時にある程度変形することが前提となり、かつ、80℃を超える高温に接する可能性のある用途、例えば、加温飲料容器類のキャップのプルタブや、自動車内装のうちの簡易的なスイッチやレバーなどに用いることで、その特性を好適に活かすことができる。
【0039】
その他、用途の具体例としては、各種筐体等として用いられる電化製品用樹脂部品、コンテナや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品、浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品、皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器、注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品、ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品、クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー、雑貨用樹脂部品、バンパー、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
下記の実施例および比較例の樹脂組成物の評価は、次のとおりに行なった。
【0041】
(1)熱変形温度:
ISO 75に準拠し、荷重0.45MPaで熱変形温度を測定した。なお、所望の耐熱性を発揮させるためには、熱変形温度は95℃を超えることが好ましい。
【0042】
(2)曲げ弾性率および曲げ破断歪み:
ISO 178に準拠して測定した。なお、所望の柔軟性を発揮させるためには、曲げ弾性率は0.81GPa未満であることが好ましい。
【0043】
また、耐久性を評価するために、具体的には一定期間60℃で90%RHの湿熱状態にさらした試験片についても曲げ試験を行ない、曲げ破断歪みを測定した。なお、所望の耐久性を発揮させるためには、上記湿熱状態にさらした後の曲げ破断歪みが10%を超えることが好ましい。
【0044】
ただし、ポリブチレンサクシネ―ト樹脂は柔軟性が高く曲げ降伏点等が不明であるので、曲げ物性のうち、曲げ強さについては、評価項目として適切でない。
【0045】
(3)成形性の評価:
以下の三段階で評価した。
【0046】
◎:成形に際し、まったく問題が生じなかった
○:やや問題が生じたが、実用上支障のないものであった
×:問題が生じて、成形品を得ることができなかった
【0047】
下記の実施例と比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ポリブチレンサクシネート樹脂:
三菱化学社製『GSPla AZ−71T』;ガラス転移温度−32℃、融点110℃(以下「PBS」と称す)。
【0048】
(2)カルボジイミド化合物:
日清紡社製『LA−1』。
【0049】
日清紡社製『HMV−8CA』(以下「HMW」と称す)。
【0050】
(3)滑剤:
日本油脂社製ステアリン酸カルシウム(以下「StCa」と称す)。
日本油脂社製ステアリン酸マグネシウム(以下「StMg」と称す)。
【0051】
(4)(メタ)アクリル酸エステル化合物:
日本油脂社製エチレングリコールジメタクリレート『ブレンマーPDE−50』(以下「EGDM」と称す)。
【0052】
日本油脂社製ジエチレングリコールジメタクリレート『ブレンマーPDE−100』(以下「DEGDM」と称す)。
(5)架橋助剤:
日本油脂社製ジブチルパーオキサイド『パーブチルD』。
【0053】
実施例1
二軸押出成形機(東芝機械社製『TEM−37BS』)を使用し、そのトップフィード口に、PBS100質量部、カルボジイミド化合物0.75質量部、滑剤0.05質量部を予めドライブレンドしたものを供給し、その後にEGDM0.05質量部を供給した。そして、加工温度120〜150℃で溶融混練押出しを行ない、吐出された樹脂をペレット状にカッティングして、樹脂組成物を得た。これを熱風乾燥機を用いて80℃で12h乾燥したものを、横型射出成形機(東芝機械社製『IS−80G型』)を用いて成形し、ISO試験片を得た。このとき、シリンダ設定温度130〜110℃で溶融して、射出圧力設定40%、射出時間30秒で、表面温度93℃の金型に充填し、60秒間冷却した。得られた試験片については、そのまま各種試験を行なったほか、一定期間60℃で90%RHの湿熱状態にさらしたものについて曲げ試験を行ない、曲げ破断歪が小さいほど劣化が進行していると評価した。
【0054】
実施例2〜8、比較例1〜6
原料のカルボジイミド化合物、滑剤、(メタ)アクリル酸エステル化合物について、その種類、その量、滑剤と(メタ)アクリル酸エステル化合物との添加順序、試験片成形時の金型表面温度を、それぞれ表1に示すように変えた。そして、それ以外は実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0055】
各種物性評価を行なった結果をまとめて表1に示す。実施例1〜8の樹脂組成物成形体は、耐熱性、柔軟性、成形性に優れ、かつ、耐久性に優れるという結果が得られた。
特に、実施例1〜5および実施例8の成形体は、実施例6〜7と比較して、カルボジイミド化合物の添加量がいっそう好ましい値であったため、これら実施例6〜7と比較して、いっそう耐久性あるいは柔軟性が優れる結果となった。
【0056】
さらに、実施例1〜3および実施例5〜8の成形体は、(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加量が適当であったため、これを添加しなかった実施例4の成形体と比較していっそう成形性が優れる結果となった。すなわち、実施例4の成形体では、支障のない程度ではあるが、成形された試験片を射出成形金型から突き出すときに、その突きを受けた部分に凹みが生じた。
【0057】
さらに、実施例1〜6および実施例8の成形体は、実施例7の成形体と比べて金型表面温度がいっそう適当であったため、実施例7の成形体と比較して、いっそう耐熱性が優れる結果となった。
【0058】
さらに、実施例1〜3および実施例5〜6では、滑剤に対する(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加時期が適当であったため、そうではなかった実施例8と比較して、滑剤添加時の分散性が優れる結果となった。それによって、射出成形における計量時のペレット供給がスムーズになり、成形性がいっそう良好であった。
【0059】
また、実施例3では、(メタ)アクリル酸エステル化合物に加えて架橋助剤を添加したため、特に耐熱性に優れる結果となった。
比較例1は、(メタ)アクリル酸エステル化合物の添加量が多過ぎたため、溶融混練時の粘度が高く、操業が不可能であった。
【0060】
比較例2の成形体は、金型表面温度が低過ぎたため、耐熱性が劣る結果となった。逆に比較例3は、金型表面温度が高過ぎたため、金型内で樹脂が固化せず、射出成形を行なえなかった。
【0061】
比較例4の成形体は、カルボジイミド化合物の添加量が少な過ぎたため、柔軟性、耐久性に劣る結果となった。逆に比較例5の成形体は、カルボジイミド化合物の添加量が多過ぎたため、柔軟性が劣る結果となった。
【0062】
比較例6は、滑剤の添加量が多過ぎため、溶融混練時の吐出樹脂が不安定となり、ペレット化が不可能であった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、耐熱性、柔軟性、成形性、耐久性に優れた樹脂組成物成形体が提供される。この樹脂組成物成形体は、各種金型形状によって、種々の用途に供することができる。これを、常温を上回る環境での使用を含めた諸分野に応用することで、ポリブチレンサクシネート樹脂の特徴である柔軟性を、幅広く、かつ、長期にわたって活かすことができ、このため本発明の産業上の利用価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物(B)を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型に射出成形して得られたものであることを特徴とするポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【請求項2】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え10質量部以下の滑剤(C)を添加、溶融混練した後、射出成形して得られたものであることを特徴とする請求項1記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【請求項3】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え0.2質量部以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加、溶融混練した後、射出成形して得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【請求項4】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.7〜1.3質量部のカルボジイミド化合物(B)と、0.03〜0.07質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とを添加、溶融混練した後、表面温度が90〜105℃以下の金型に射出成形して得られたものであることを特徴とする請求項3記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【請求項5】
滑剤(C)の添加と同時、あるいは、それよりも後に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加して得られたものであることを特徴とする請求項3または4記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体。
【請求項6】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.3〜3.0質量部のカルボジイミド化合物(B)を添加、溶融混練した後、表面温度が75〜110℃の金型を用いて射出成形することを特徴とするポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項7】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え10質量部以下の滑剤(C)を添加、溶融混練した後、射出成形することを特徴とする請求項6記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項8】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0質量部を超え0.2質量部以下の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加、溶融混練した後、射出成形することを特徴とする請求項6または7記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項9】
ポリブチレンサクシネート樹脂(A)100質量部に対し、0.7〜1.3質量部のカルボジイミド化合物(B)と、0.03〜0.07質量部の(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)とを添加、溶融混練した後、表面温度が90〜105℃の金型を用いて射出成形することを特徴とする請求項8記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項10】
滑剤(C)の添加と同時、あるいは、それよりも後に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(D)を添加することを特徴とする請求項8または9記載のポリブチレンサクシネート樹脂組成物成形体の製造方法。

【公開番号】特開2007−261219(P2007−261219A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92612(P2006−92612)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】