説明

ポリプロピレン樹脂用改質剤および変性ポリプロピレン樹脂、これらの用途、ならびにこれらの製造方法

【課題】ポリプロピレン樹脂の衝撃性能を少量の添加量で向上させることが可能なポリプロピレン樹脂用改質剤を提供する。
【解決手段】プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有し、かつ沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.1〜90重量%であることを特徴とするポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂用改質剤および変性ポリプロピレン樹脂、これらの用途、ならびにこれらの製造方法に関する。詳しくは、ポリプロピレン樹脂の機械物性、特に衝撃性能を向上させることが可能なポリプロピレン樹脂用改質剤および変性ポリプロピレン樹脂、これらの用途、ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂は、日用雑貨、包装用フィルム、自動車部品、電気部品などの様々な分野で利用されており、要求される性能に応じて種々の改質剤や添加剤が配合されて使用されている。
【0003】
例えば、自動車部品などの高度な衝撃性能を必要とする分野においては、ポリプロピレン樹脂にエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムなどのゴム成分を配合して得られる、耐衝撃性を向上させたポリプロピレン樹脂組成物が使用されている。自動車部品の中でも、バンパーなどの高度な衝撃性能が特に要求される部位では、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとの相溶性を高め、衝撃性能をより高度に発現させる必要がある。
【0004】
例えば特許文献1〜7では、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとの相溶性を高めるため、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴムに加え、プロピレン・エチレンランダム共重合体ゴムあるいは該ゴム部分を有するプロピレン重合体が配合されている。プロピレン・エチレンランダム共重合体ゴムは、ポリプロピレン樹脂とエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとの相溶化剤として作用する。このため、ポリプロピレン樹脂組成物にプロピレン・エチレンランダム共重合体ゴムを配合すると、ポリプロピレン樹脂中にエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムが微分散化し、より高度な衝撃性能が発現する。
【0005】
しかしながら、プロピレン・エチレンランダム共重合体ゴムはガラス転移温度が高い。また、プロピレン・エチレンランダム共重合体ゴムを配合すると、ポリプロピレン樹脂に相溶化する成分が多くなることがある。結果として、前記ゴムを配合したポリプロピレン樹脂組成物の剛性および耐衝撃性が、要求特性に対して低下する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−126472号公報
【特許文献2】特開2003−147157号公報
【特許文献3】特開2003−327758号公報
【特許文献4】特開2006−169424号公報
【特許文献5】特開2007−284668号公報
【特許文献6】特開2008−019347号公報
【特許文献7】特開2009−203257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリプロピレン樹脂の衝撃性能を少量の添加量で向上させることが可能なポリプロピレン樹脂用改質剤を提供することを課題とする。また本発明は、前記改質剤を含有する、機械物性(特に剛性および耐衝撃性のバランス)に優れたポリプロピレン樹脂組成物および該組成物から構成される成形体、ならびに前記改質剤の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した。その結果、以下に示すポリプロピレン樹脂用改質剤(I)を用いることで、機械物性(特に剛性および耐衝撃性のバランス)に優れたポリプロピレン樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明およびその好適態様は、以下の〔1〕〜〔12〕に関する。
【0009】
[1]プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有し、かつ沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.1〜90重量%であることを特徴とするポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【0010】
[2]プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練して得られることを特徴とする前記[1]に記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【0011】
[3]前記(メタ)アクリル酸金属塩(c)が、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムおよび(メタ)アクリル酸カルシウムから選ばれる1種以上の金属塩であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【0012】
[4]前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1重量部以上100重量部未満と、プロピレン重合体(a2)0重量部を超えて99重量部以下とを含有する(但し、(I)成分と(a2)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【0013】
[5]前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1〜20重量部と、プロピレン重合体(a2)98〜60重量部と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)1〜20重量部とを含有する(但し、(I)成分と(a2)成分と(b2)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【0014】
[6]前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1〜20重量部と、プロピレン重合体(a2)98〜50重量部と、無機充填剤(e)1〜30重量部とを含有する(但し、(I)成分と(a2)成分と(e)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【0015】
[7]前記無機充填剤(e)が、タルクであることを特徴とする前記[6]に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
[8]プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有し、かつ沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.1〜90重量%であることを特徴とする変性ポリプロピレン樹脂(I)。
【0016】
[9]前記[4]〜[7]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂組成物または前記[8]に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)から構成されることを特徴とする成形体。
[10]前記成形体が、射出成形体、圧縮成形体、射出圧縮成形体または押出成形体であることを特徴とする前記[9]に記載の成形体。
【0017】
[11]プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練する工程を有することを特徴とする、前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)または前記[8]に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)の製造方法。
【0018】
[12]プロピレン重合体(a1)1〜99重量部およびエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)99〜1重量部からなる重合体成分(但し、(a1)成分と(b1)成分との合計は100重量部である)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)0.1〜5重量部と、有機過酸化物(d)0.01〜5重量部とを溶融混練する工程を有することを特徴とする、前記[1]〜[3]の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)または前記[8]に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリプロピレン樹脂の衝撃性能を少量の添加量で向上させることが可能なポリプロピレン樹脂用改質剤を提供することができる。また、前記改質剤を含有する、機械物性(特に剛性および耐衝撃性のバランス)に優れたポリプロピレン樹脂組成物および該組成物から構成される成形体、ならびに前記改質剤の製造方法を提供することもできる。
【0020】
例えば、本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)が配合されたポリプロピレン樹脂組成物は、機械物性(特に剛性および耐衝撃性のバランス)に優れていることから、医療用製品、衛材用製品、包装用製品、食品容器、食品包装、自動車用製品、電子材料製品、OA機器用ハウジング部品、建材用部品、家電製品などの、各種成形品および各種薄肉成形品に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明では、「プロピレン重合体」と「ポリプロピレン樹脂」とを同義で用いることがある。また、モノマー由来の構成単位の含有量を単に「モノマー含量」と記載することがある。
【0022】
〔変性ポリプロピレン樹脂(I)/ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)〕
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)は、プロピレン重合体(a1)(ポリプロピレン樹脂(a1))とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と(メタ)アクリル酸金属塩(c)とから形成され、好ましくはプロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有する。
【0023】
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)は、沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が、0.1〜90重量%、好ましくは0.1〜80重量%である。沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が前記範囲外であると、高度な衝撃性能が発現しない場合がある。なお、ゲル分率の測定方法は実施例に記載のとおりである。
【0024】
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重)は、通常0.05〜200g/10分、好ましくは0.1〜150g/10分である。
【0025】
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)は、例えば、プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練して得られる。前記樹脂(I)の製造方法についての詳細は後述する。
【0026】
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)は、優れた機械物性を有しているため、成形体の構成樹脂として好適に使用することができる。また、本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)は、ポリプロピレン樹脂の改質剤として優れた特性を有するため、ポリプロピレン樹脂用改質剤として好適に使用することができる。
【0027】
以下の説明では、変性ポリプロピレン樹脂(I)をポリプロピレン樹脂の改質剤として用いる場合、「ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)」と記載することがある。以下では、変性ポリプロピレン樹脂(I)をポリプロピレン樹脂の改質剤として用いる場合について主に説明するが、物性等についてはそれ以外の場合についても同様である。
【0028】
本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)をポリプロピレン樹脂に配合することにより、得られるポリプロピレン樹脂組成物の機械物性(例:高速面衝撃強度などの衝撃性能)を大幅に向上させることができる。この理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0029】
添加対象であるポリプロピレン樹脂中にエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)を単独で微分散化させることは、通常は困難である。しかしながら、
(i)本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)を構成するプロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とは(メタ)アクリル酸金属塩(c)を介してイオン結合によって架橋されているため、(a1)由来の成分と(b1)由来の成分との相互作用が適度に強まっている、
(ii)上記改質剤(I)と添加対象であるポリプロピレン樹脂とを溶融混練する際には、(a1)由来の成分と(b1)由来の成分とが適度に相互作用した状態を維持しつつも、上記イオン架橋(イオン結合)は適度にほぐれている、
と考えられる。
【0030】
したがって、上記改質剤(I)自体のゲル分率が高くても、溶融混練により、(b1)由来の成分を添加対象であるポリプロピレン樹脂中に微分散化させることができ、しかも少量の(b1)成分添加量で高度な衝撃性能が発現すると推測される。
【0031】
これに対して、プロピレン重合体とエチレン・α−オレフィン共重合体と有機過酸化物と不飽和結合を2つ以上有する化合物(例:ジビニルベンゼン)とを溶融混練して得られる架橋体は、イオン結合によって架橋された構造ではなく、共有結合によって強固に架橋された構造を有する。したがって、前記架橋体のゲル分率が高い場合、前記架橋体と添加対象であるポリプロピレン樹脂とを溶融混練しても、エチレン・α−オレフィン共重合体由来の成分はポリプロピレン樹脂中に微分散化せず、高度な衝撃性能は発現しない。
以下、本発明で用いることができる各成分について説明する。
【0032】
プロピレン重合体(a1)
プロピレン重合体(a1)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主体とする共重合体などが挙げられる。プロピレン重合体(a1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ここで「プロピレンを主体とする」共重合体とは、共重合体中のプロピレン由来の構成単位の含有量が85モル%以上100モル%未満であることを意味する。プロピレン以外の構成単位としては、プロピレン以外のα−オレフィン由来の構成単位などが挙げられる。上記共重合体の具体例としては、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体などが挙げられ、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体が好ましい。
【0034】
上記α−オレフィンとしては、炭素数2〜12のα−オレフィン(但し、プロピレンを除く)が挙げられ、具体的には、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンなどが挙げられる。これらの中では、エチレンが好ましい。上記α−オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
プロピレン重合体(a1)のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重)は、通常0.5〜500g/10分、好ましくは5〜300g/10分である。MFRが過小であると、得られるポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の溶融流動性が劣ることがある。MFRが過大であると、得られるポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の機械的強度が劣ることがある。
【0036】
プロピレン重合体(a1)は、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法により製造することができる。前記オレフィン重合用触媒としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体などの錯体系触媒などが挙げられる。前記重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法などが挙げられる。また、プロピレン重合体(a1)としては、市販の該当品を用いることも可能である。
【0037】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)
エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)としては、その種類は特に限定されない。エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)としては、エチレン含量が20〜95モル%、炭素数3〜20のα−オレフィン含量が80〜5モル%のエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムが好ましく;エチレン含量が30〜90モル%、炭素数3〜20のα−オレフィン含量が70〜10モル%のエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムがより好ましい。但し、エチレン含量と炭素数3〜20のα−オレフィン含量との合計を100モル%とする。
【0039】
上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらの中ではプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜12のα−オレフィンが好ましい。上記炭素数3〜20のα−オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16kg荷重)は、通常0.5〜100g/10分、好ましくは1〜70g/10分である。MFRが過小であると、得られるポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の溶融流動性が劣ることがある。MFRが過大であると、得られるポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の機械的強度が劣ることがある。
【0041】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)は、エチレンおよび上記炭素数3〜20のα−オレフィンの共重合として、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法により製造することができる。前記オレフィン重合用触媒としては、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体などの錯体系触媒などが挙げられる。前記重合方法としては、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法などが挙げられる。また、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)としては、市販の該当品を用いることも可能である。
【0042】
(メタ)アクリル酸金属塩(c)
(メタ)アクリル酸金属塩(c)とは、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基を金属で中和した金属塩である。なお、本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上を意味する。
【0043】
(メタ)アクリル酸金属塩(c)としては、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸亜鉛、アクリル酸アルミニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、2価の金属で中和された、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、アクリル酸カルシウム、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸カルシウムが好ましく;メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸カルシウムが特に好ましい。(メタ)アクリル酸金属塩(c)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(メタ)アクリル酸金属塩(c)由来の構成単位は、本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)中、通常0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%の範囲で含まれる。前記構成単位の含有量が前記範囲外であると、高度な衝撃性能が発現しない場合がある。
【0045】
有機過酸化物(d)
有機過酸化物(d)としては、公知の有機過酸化物を制限なく使用できる。
具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;
ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;
アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;
t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類;
ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;
t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;
ジ(3−メチル−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート,ジ−2−エトキシエチルパーオキシジーカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカルボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジーnーブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類などが挙げられる。
【0046】
これらの中では、ベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジセチルパーオキシジカーボネートなどが好ましい。
【0047】
有機過酸化物(d)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、有機過酸化物(d)のハンドリングを改善するため、樹脂、あるいはシリカなどの不活性化合物がバインダーとして配合されている、有機過酸化物(d)のマスターバッチを使用してもよい。
【0048】
〔変性ポリプロピレン樹脂(I)/ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の製造方法〕
本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)(あるいはポリプロピレン樹脂用改質剤(I))の製造方法は特に限定されるものでないが、好ましい製造方法としては、プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練する方法が挙げられる。
【0049】
より具体的には、本発明の変性ポリプロピレン樹脂(I)(あるいはポリプロピレン樹脂用改質剤(I))の製造方法は、プロピレン重合体(a1)1〜99重量部およびエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)99〜1重量部からなる重合体成分(但し、(a1)成分と(b1)成分との合計は100重量部である)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)0.1〜5重量部と、有機過酸化物(d)0.01〜5重量部とを溶融混練する工程を有することが好ましい。このように、(a1)成分および(b1)成分の混合物を溶融変性することが好ましい。
【0050】
上記重合体成分中のプロピレン重合体(a1)の割合は、通常1〜99重量部、好ましくは10〜90重量部、より好ましくは30〜70重量部であり;エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)の割合は、通常99〜1重量部、好ましくは90〜10重量部、より好ましくは70〜30重量部である。但し、(a1)成分と(b1)成分との合計は100重量部である。これらの成分の使用割合が前記範囲にあると、耐衝撃性発現の観点から好ましい。なお、上記重合体成分には、(a1)成分および(b1)成分以外の他の重合体が含まれていてもよい。
【0051】
(メタ)アクリル酸金属塩(c)の使用量は、(a1)成分と(b1)成分との合計100重量部に対して、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。(c)成分の使用割合が前記範囲にあると、耐衝撃性発現の観点から好ましい。
【0052】
有機過酸化物(d)の使用量は、(a1)成分と(b1)成分との合計100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。(d)成分の使用割合が前記範囲にあると、耐衝撃性発現の観点から好ましい。
【0053】
ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の製造方法として用いられる溶融変性法としては、樹脂同士または樹脂と固体もしくは液体の添加物とを混合するための公知の方法を採用することができる。好ましい例としては、上記各成分の全部を混合して、あるいは上記各成分の一部を組み合わせて別々に混合した後にさらに混合して、均一な混合物を形成した後、該混合物を混練するなどの方法を挙げることができる。
【0054】
混合物の形成手段としては、従来公知の形成手段を広く採用することができ、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダーなどが挙げられる。混合物の混練手段としては、従来公知の混練手段を広く採用することができ、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸の押出機などが挙げられ、これらの中では、二軸押出機を採用することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸金属塩(c)などの未グラフト成分を除去したい場合、真空ベント装置を有する混練機を使用してもよい。
【0055】
混練機において混練を行う場合の温度(例えば、押出機であればシリンダー温度)は、通常100〜300℃、好ましくは120〜250℃である。温度が低すぎると(メタ)アクリル酸金属塩(c)によるイオン架橋反応が進行しない場合がある。温度が高すぎると樹脂(重合体)の分解が起こる場合がある。
【0056】
〔ポリプロピレン樹脂組成物〕
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)とプロピレン重合体(a2)(ポリプロピレン樹脂(a2))とを含有する。また、本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)、無機充填材(e)、各種添加剤などを含有してもよい。
【0057】
上述のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)を含有する本発明のポリプロピレン樹脂組成物を用いることにより、機械物性等に優れた、例えば剛性、耐衝撃性、耐熱性および硬度のバランスが非常に優れた成形体を得ることができる。
【0058】
プロピレン重合体(a2)
プロピレン重合体(a2)としては、上述したポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の形成時に用いられるプロピレン重合体(a1)として例示した重合体が挙げられる。また、プロピレン重合体(a2)としては、上述したポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の形成時に用いられるプロピレン重合体(a1)と同一の重合体を用いてもよいし、異なる重合体を用いてもよい。
【0059】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物において、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の含有量は、通常1重量部以上100重量部未満、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは1〜40重量部であり;プロピレン重合体(a2)の含有量は、通常0重量部を越えて99重量部以下、好ましくは50〜99重量部、より好ましくは60〜99重量部である。但し、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)とプロピレン重合体(a2)との合計は100重量部である。なお、各成分の前記含有量は、ポリプロピレン樹脂組成物の製造時における各成分の配合量であってもよい。
プロピレン重合体(a2)の含有量が上記範囲内にあると、高度な衝撃性能の発現ばかりでなく、剛性、耐熱性および機械物性(例:硬度)などを向上させることができる。
【0060】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)を含有してもよい。本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(b2)は、上述したポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の形成時に用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と同様のものが挙げられる。エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)としては、上述したポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の形成時に用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0061】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)を用いる場合、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の含有量は、通常1〜20重量部、好ましくは5〜20重量部であり;プロピレン重合体(a2)の含有量は、通常98〜60重量部、好ましくは90〜60重量部であり;エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)の含有量は、通常1〜20重量部、好ましくは5〜20重量部である。但し、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)とプロピレン重合体(a2)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b2)との合計は100重量部である。なお、各成分の前記含有量は、ポリプロピレン樹脂組成物の製造時における各成分の配合量であってもよい。
【0062】
エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)の含有量が上記範囲内にあると、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)がエチレン・α−オレフィン共重合体(b2)の相溶化剤として作用すると考えられるため、剛性、耐衝撃性により優れたポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
無機充填材(e)
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、さらに、無機充填剤(e)を含有してもよい。無機充填剤(e)は、例えば成形体の曲げ弾性率を向上させるために使用することができる。
【0064】
無機充填剤(e)の組成、形状などは特に限定されなず、ポリマー用充填剤として市販されているものは何れも使用できる。無機充填材(e)としては、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の板状無機充填剤;ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維状無機充填剤;チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、ワラストナイト等の針状(ウイスカー)無機充填剤などが挙げられる。これらの中でも、物性およびコスト面のバランスから、タルクが特に好ましい。さらに、レーザー回折法で測定された平均粒子径が1〜10μmであるタルクが好ましく、1〜5μmであるタルクがより好ましい。
【0065】
無機充填剤(e)を用いる場合、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の含有量は、通常1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部であり;プロピレン重合体(a2)の含有量は、通常98〜50重量部、好ましくは94〜60重量部であり;無機充填剤(e)の含有量は、通常1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。但し、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)とプロピレン重合体(a2)と無機充填剤(e)の合計は100重量部である。なお、各成分の前記含有量は、ポリプロピレン樹脂組成物の製造時における各成分の配合量であってもよい。
【0066】
無機充填剤(e)の含有量が上記範囲内にあると、ポリプロピレン樹脂組成物が有している機械的特性を保持しながら、軽量性かつ耐熱性により優れたポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
各種添加剤
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、一般に樹脂用の添加剤として用いられるものであれば、特に制限なく使用できる。前記添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、造核剤、滑剤、難燃剤、熱安定剤、アンチブロッキング剤、着色剤、および種々の合成樹脂などが挙げられる。
【0068】
〔ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法〕
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、例えば、従来公知の混練機を用いて、設定温度180〜250℃にて、上記各成分を上記割合で混練することにより製造することができる。混練機としては、押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、押出機が好ましく、二軸押出機が特に好ましい。また、前記混練前に、タンブラーミキサーなどを用いて上記各成分を上記割合で混合しておいてもよい。
【0069】
〔成形体〕
本発明の成形体は、本発明のポリプロピレン樹脂組成物または変性ポリプロピレン樹脂(I)から構成される。ここで、成形体の構成樹脂として変性ポリプロピレン樹脂(I)を用いる場合、上記ポリプロピレン樹脂組成物におけるプロピレン重合体(a2)以外の含有成分を前記樹脂(I)と共に用いてもよい。
【0070】
本発明の成形体は、例えば、本発明のポリプロピレン樹脂組成物または変性ポリプロピレン樹脂(I)を溶融混練、続いてペレタイズし、得られたペレットを各種成形法を用いて成形することにより、製造することができる。
【0071】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物または変性ポリプロピレン樹脂(I)の溶融混練には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダーおよびバンバリーミキサーなどの従来公知の混練機を用いることができる。また、溶融混練およびペレタイズには、従来公知の単軸もしくは二軸の押出機、ブラベンダーまたはロールを用いることができる。溶融混練およびペレタイズは、通常170〜300℃、好ましくは190〜250℃で行う。
【0072】
上記成形方法としては、射出成形法、押出成形法、中空成形などが挙げられる。このようにして得られる成形体としては、射出成形体、圧縮成形体、射出圧縮成形体、押出成形体、中空成形体などが挙げられる。
【0073】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物または変性ポリプロピレン樹脂(I)から得られる成形体は、剛性、耐衝撃性、耐熱性および硬度のバランスに優れることから、医療用製品、衛材用製品、包装用製品、食品容器、食品包装、自動車用製品、電子材料製品、OA機器用ハウジング部品、建材用部品および家電製品などの、各種成形品および各種薄肉成形品に好適に用いられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例、比較例および参考例において、ポリプロピレン樹脂組成物やその含有成分の各性状は以下のようにして測定した。
【0075】
(*1)メルトフローレート(MFR)
MFRは、ASTM D1238に従って、230℃、荷重2.16kgで測定した。
(*2)ゲル分率
ゲル分率は、#400メッシュの金網中に試料を約2g装入し、沸騰パラキシレン還流で6時間抽出を行い、仕込み量および金網内の残存物量から、下記式により算出した。
・ゲル分率(%)=(残存物量[g]/仕込み量[g])×100
(*3)引張り伸び
引張り伸びは、JIS K7162−1BAに従って、下記条件で測定した。
【0076】
<測定条件>
・試験片:JIS K7162−1BAダンベル
5mm(幅)×2mm(厚さ)×75mm(長さ)
・引張速度:20mm/分
・スパン間距離:58mm
(*4)曲げ弾性率
曲げ弾性率(FM)は、JIS K7171に従って、下記条件で測定した。
【0077】
<測定条件>
・試験片 :10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
・曲げ速度:2mm/分
・曲げスパン:64mm
(*5)シャルピー衝撃強度
シャルピー衝撃強度は、JIS K7111に従って、下記条件で測定した。
【0078】
<測定条件>
・試験片 :10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ) (切削ノッチ)
・測定温度:23℃
(*6)荷重撓み温度(加熱変形温度)
荷重撓み温度は、JIS K7191に従って、下記条件で測定した。
【0079】
<測定条件>
・試験片:10mm(幅)×4mm(厚さ)×80mm(長さ)
(*7)表面硬度(ロックウェル硬度)
表面硬度は、JIS K7202(R−スケール)に準拠し、厚み2mm角板を2枚重ねて使用して測定した。
(*8)高速面衝撃強度
下記条件で全破壊エネルギーを測定し、高速面衝撃強度とした。
【0080】
<試験条件>
・温度:−30℃
・試験片:3mm(幅)×3mm(長さ)×2mm(厚さ)(角板)
・速度:3m/s
・撃芯:1/2インチφ
・受け台:1インチφ
【0081】
<原料>
(1)プロピレン重合体(a1)
(a1−1):株式会社プライムポリマー製 F228P(プロピレン・エチレンランダムコポリマー、プロピレン含量=96モル%、MFR=10g/10分)
(a1−2):株式会社プライムポリマー製 J105G
(プロピレンホモポリマー、MFR=10g/10分)
(a1−3):株式会社プライムポリマー製 J13B
(プロピレンホモポリマー、MFR=200g/10分)
【0082】
(2)エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)
(b1−1):三井化学株式会社製 タフマーA4050S(エチレン・ブテン共重合体、エチレン含量=80モル%、MFR=6.5g/10分)
(b1−2):デュポンダウエラストマー(株)製 ENGAGE8200(エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン含量=90モル%、MFR=10g/10分)
(b1−3):三井化学株式会社製 タフマーA35070S(エチレン・ブテン共重合体、エチレン含量=85モル%、MFR=65g/10分)
(b1−4):三井化学株式会社製 タフマーA0550S(エチレン・ブテン共重合体、エチレン含量=80モル%、MFR=1g/10分)
【0083】
(3)プロピレン重合体(a2)
(a2−1):株式会社プライムポリマー製 J13B
(プロピレンホモポリマー、MFR=200g/10分)
(a2−2):株式会社プライムポリマー製 J−3000GV
(プロピレンホモポリマー、MFR=30g/10分)
(a2−3):株式会社プライムポリマー製 J707G
(プロピレン・エチレンブロックコポリマー、MFR=30g/10分)
【0084】
(4)エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)
(b2−1):三井化学株式会社製 タフマーA4050S(エチレン・ブテン共重合体、エチレン含量=80モル%、MFR=6.5g/10分)
(b2−2):デュポンダウエラストマー(株)製 ENGAGE8200(エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン含量=90モル%、MFR=10g/10分)
(b2−3):三井化学株式会社製 タフマーA0550S(エチレン・ブテン共重合体、エチレン含量=80モル%、MFR=1g/10分)
【0085】
ポリプロピレン樹脂用改質剤(I)の調製
[実施例1]
(a1)成分として(a1−1)30重量部と、(b1)成分として(b1−1)70重量部と、(c)成分としてメタクリル酸亜鉛(浅田化学(株)製 R−20S。)1重量部と、(d)成分としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製 パーブチルZ。)0.5重量部とを、ヘンシェルミキサーで均一に混合した後、同方向二軸混練機(テクノベル(株)製 KZW31−30HG)にて210℃で加熱混練し、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I−1)を得た。得られたポリプロピレン樹脂用改質剤の性状を表1に示す。
【0086】
[実施例2〜9]
実施例1において、表1に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン樹脂用改質剤(I−2)〜(I−9)を得た。得られたポリプロピレン樹脂用改質剤の性状を表1に示す。
【0087】
[参考例1]
実施例1において、(a1)成分を使用せずに、(b1)成分を(b1−1)100重量部用いたこと以外は実施例1と同様にして、エチレン・ブテン共重合体の架橋体(i−1)を得た。得られた架橋体の性状を表1に示す。
【0088】
[参考例2]
実施例1において、(c)成分の代わりに、ビスマレイミド(チバ製 Matrimid5292A)1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、プロピレン重合体とエチレン・ブテン共重合体との架橋体(i−2)を得た。得られた架橋体の性状を表1に示す。
【0089】
[参考例3]
実施例1において、(c)成分の代わりに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業製 V#300)1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、プロピレン重合体とエチレン・ブテン共重合体との架橋体(i−3)を得た。得られた架橋体の性状を表1に示す。
【0090】
ポリプロピレン樹脂組成物の調製
[実施例10]
実施例5で得られたポリプロピレン樹脂用改質剤(I−5)をそのまま射出成形機(東芝機械(株)製 EC40NII)にて、加熱温度190℃、冷却温度40℃の条件で射出成形し、試験片を作製し、その性状を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
[実施例11]
(a2)成分として(a2−1)39.5重量部および(a2−2)39.5重量部、(I)成分として実施例4で得られた(I−4)21重量部をタンブラーミキサーで均一に混合した後、同方向二軸混練機(テクノベル(株)製 KZW-15T)にて190℃で加熱混練し、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られたポリプロピレン樹脂組成物を実施例10に記載の方法で射出成形し、試験片を作製し、その性状を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
[実施例12〜15]
実施例11において、(a2)成分および(I)成分として表2に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表2に示す。
【0093】
[比較例1〜3]
実施例11において、(a2)成分として表2に記載の量の成分を用い、(I)成分の代わりに(b2)成分として表2に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例16〜19]
実施例11において、(a2)成分および(I)成分として表3に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表3に示す。
【0095】
[実施例20]
実施例11において、(a2)成分および(I)成分として表3に記載の量の成分を用い、さらに(b2)成分として表3に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表3に示す。
【0096】
[比較例4〜6]
実施例11において、(a2)成分として表3に記載の量の成分を用い、(I)成分の代わりに(b2)成分として表3に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表3に示す。
【0097】
[比較例7〜9]
実施例11において、(a2)成分として表3に記載の量の成分を用い、(I)成分の代わりに参考例で得られた(i)成分(架橋体)として表3に記載の量の成分を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表3に示す。
【0098】
参考例2および3の改質剤(i−2)および(i−3)は、(a1−1)成分と(b1−1)成分とが共有結合によって強固に架橋された構造を有する。架橋体のゲル分率が前記改質剤のように大きい場合(表1参照)、架橋体はポリプロピレン樹脂中には分散しない。このため、前記改質剤(架橋体)をポリプロピレン樹脂に添加すると、衝撃性能が低下する(実施例16、比較例8,9参照)。
【0099】
しかしながら、実施例1の改質剤(I−1)のゲル分率は、参考例2および3の改質剤(i−2)および(i−3)のゲル分率よりも格段に大きいにもかかわらず(表1参照)、実施例1の改質剤(I−1)を添加して得られたポリプロピレン樹脂組成物は、高度な衝撃性能を発現させている(実施例16参照)。
【0100】
これは、実施例で得られた改質剤(I)において、(a1)由来の成分と(b1)由来の成分とがイオン架橋(イオン結合)を介して相互作用しており、ポリプロピレン樹脂との溶融混練時に(a1)由来の成分と(b1)由来の成分とが適度に相互作用した状態を維持しつつも、イオン架橋(イオン結合)が適度にほぐれることにより、(b1)由来の成分がポリプロピレン樹脂中に微分散したため、と推測される。
【0101】
したがって、本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)は、プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有している、と結論した。
【0102】
[実施例21〜24]
実施例11において、(a2)成分および(I)成分として表4に記載の量の成分を用い、さらに(e)成分として表4に記載の量のタルク(浅田製粉(株)製 JM−209、レーザー回折法で求めた平均粒子径約4μm)を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表4に示す。
【0103】
[比較例10〜12]
実施例11において、(a2)成分として表4に記載の量の成分を用い、(I)成分の代わりに参考例で得られた(i)成分(架橋体)として表4に記載の量の成分を用い、さらに(e)成分として表4に記載の量のタルク(浅田製粉(株)製 JM−209、レーザー回折法で求めた平均粒子径約4μm)を用いたこと以外は実施例11と同様にして、ポリプロピレン樹脂組成物および試験片を得た。結果を表4に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)は、ポリプロピレン樹脂へ配合することにより、剛性、耐衝撃性、耐熱性および硬度のバランスに優れるポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。このようにして得られたポリプロピレン樹脂組成物は、その特性を利用して、医療用製品、衛材用製品、包装用製品、食品容器、食品包装、自動車用製品、電子材料製品、OA機器用ハウジング部品、建材用部品および家電製品などの、各種成形品および各種薄肉成形品に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有し、かつ
沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.1〜90重量%である
ことを特徴とするポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【請求項2】
プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練して得られることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸金属塩(c)が、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムおよび(メタ)アクリル酸カルシウムから選ばれる1種以上の金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1重量部以上100重量部未満と、プロピレン重合体(a2)0重量部を超えて99重量部以下とを含有する(但し、(I)成分と(a2)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1〜20重量部と、
プロピレン重合体(a2)98〜60重量部と、
エチレン・α−オレフィン共重合体(b2)1〜20重量部と
を含有する(但し、(I)成分と(a2)成分と(b2)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)1〜20重量部と、
プロピレン重合体(a2)98〜50重量部と、
無機充填剤(e)1〜30重量部と
を含有する(但し、(I)成分と(a2)成分と(e)成分との合計は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
前記無機充填剤(e)が、タルクであることを特徴とする請求項6に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項8】
プロピレン重合体(a1)とエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)とが(メタ)アクリル酸金属塩(c)によってイオン架橋された構造を少なくとも有し、かつ
沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.1〜90重量%である
ことを特徴とする変性ポリプロピレン樹脂(I)。
【請求項9】
請求項4〜7の何れかに記載のポリプロピレン樹脂組成物または請求項8に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)から構成されることを特徴とする成形体。
【請求項10】
前記成形体が、射出成形体、圧縮成形体、射出圧縮成形体または押出成形体であることを特徴とする請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
プロピレン重合体(a1)と、エチレン・α−オレフィン共重合体(b1)と、(メタ)アクリル酸金属塩(c)と、有機過酸化物(d)とを溶融混練する工程を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)または請求項8に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)の製造方法。
【請求項12】
プロピレン重合体(a1)1〜99重量部およびエチレン・α−オレフィン共重合体(b1)99〜1重量部からなる重合体成分(但し、(a1)成分と(b1)成分との合計は100重量部である)と、
(メタ)アクリル酸金属塩(c)0.1〜5重量部と、
有機過酸化物(d)0.01〜5重量部と
を溶融混練する工程を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のポリプロピレン樹脂用改質剤(I)または請求項8に記載の変性ポリプロピレン樹脂(I)の製造方法。

【公開番号】特開2011−195706(P2011−195706A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64034(P2010−64034)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】