説明

ポリマー素子を含んでなる改善された血液ポンプ

【課題】
電気的な効率や摩擦抵抗,不透過性等の優れた、ポリマー素子を含んでなる血液ポンプを提供する。
【解決手段】
回転血液ポンプ(13)は:ハウジング(6)内でインペラ(2)を磁気によって回転させるようになっているモータを有する。インペラ及び/又はハウジングは複合材料から形成され、その複合材料は比較的に絶縁性で、生体適合性で、不透過性のポリマーである第1の材料を含む。また、その複合材料はポリマーを補強する第2の材料を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー素子を含んでなる改善された埋め込み可能な血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、うっ血性心不全は患者の循環系において血液のポンピングを補助するために血液ポンプを使用して治療されてきた。
【0003】
ウッダード他の米国特許第6,609,883号明細書には、アモルファス炭素及び/又はダイアモンドのようなコーティングで被覆されたチタン6アルミニウム4バナジウム(Ti−6Al−4V)から主として製造された血液ポンプが記載されている。特に、この血液ポンプのポンプハウジングは金属製であり、ポンプハウジング内の流体力学的なインペラに作用する磁気駆動モータを有する。その発明の1つの欠点は、ポンプハウジングがほとんど金属で構成されているため、電気的な渦電流がモータのステータとインペラ内に位置する永久磁石との間に発生することである。このような電気的な渦電流は血液ポンプの電気的な効率を大幅に減少させ、消費電力を増大させることがある。
【0004】
ツァオ他の別の米国特許第6,158,984号明細書には、改変された血液ポンプが記載されている。この血液ポンプにおいては、構造部材がモータのステータとインペラとの間でポンプハウジング内に挿入される。これらの構造部材は生体適合性で、耐腐食性で、非導電性(絶縁性)のセラミック材料から構成される。セラミック材料で構成された構造部材の欠点の1つは、セラミック材料が比較的高価であり、構成するのが困難なことである。セラミック材料はダイアモンドのようなコーティングが可能であるが、これは、製造が特に高価となることがあり、剥がれ易い。
【0005】
この分野では、以前から、モータ素子を除き、回転血液ポンプをほとんどポリマー材料から構成できることが知られている。しかし、ほとんどポリマー材料から構成したポンプでは、所望の摩擦抵抗又は強度、流体不透過性及びこの形式の用途にとって必要な生物学的抵抗が不足することがある。一般に、このような形式のポンプは、流体吸収のため、歪んだり捩れたりして、その有用性を制限する。
【特許文献1】米国特許第6,609,883号明細書
【特許文献2】米国特許第6,158,984号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記の欠点のうちの1又はそれ以上を解決又は改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、本発明はハウジング内でインペラを磁気により回転させるようになっているモータを有する回転血液ポンプであり、その特徴とするところは、インペラ又はハウジングが複合材料で形成され、複合材料が、比較的に、絶縁性で、生体適合性で、不透過性のポリマーである第1の材料を含むことである。
好ましくは、複合材料はポリマーを補強する第2の材料を含む。
好ましくは、ポンプは第1の材料から形成された絶縁性部材を有する。
好ましくは、前記絶縁性部材は渦電流損を減少させるためにモータの部分間に位置する。
好ましくは、第1の材料はプラズマ浸漬イオン埋め込み処理により表面改質されている。
好ましくは、前記インペラは不透過性の流体バリアにより包まれた磁石を有する。
好ましくは、前記第1の材料は:PEEK、FRP、PC、PS、PEPU、PCU、SiU、PVC、PVDF、PE、PMMA、ABS、PET、PA、AR、PDSM、SP、AEK、T、MPP又はそれらの組み合わせである。
好ましくは、前記インペラは流体力学的に懸架される。
【0008】
第2の態様によれば、本発明はハウジング内で流体力学的に懸架されたインペラを磁気により回転させるようになっているモータを有する回転血液ポンプであり、その特徴とするところは、インペラ及び/又はハウジングが複合材料で形成され、前記ポンプが渦電流損を減少させるためにモータの部分間に位置する少なくとも1つの絶縁性部材を有し、前記絶縁性部材が生体適合性で、不透過性のポリマーから実質上形成されることである。
好ましくは、前記複合材料は金属合金を含む。
好ましくは、前記金属合金はチタン合金である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ここで、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の第1の実施の形態を図1に示す。この実施の形態においては、血液ポンプ13は複合材料で作られている。この複合材料は、少なくとも、好ましくはチタン合金又は他の磨耗抵抗性で生体適合性の材料とすることのできる第2の材料で補強されたポリマー材料の部分を含む。この血液ポンプ13は、入口1及び出口8と;回転して、遠心推進力を使用して、入口1からポンプハウジング6を通して出口8へ血液を推進させるインペラ2と;インペラ2を回転させるためのトルク力を発生させるモータとを有することができる。モータは、ポンプハウジング6内で軸方向に装着されたステータ5のインペラ2内の磁気区域との相互作用により形成される。
【0011】
好ましくは、使用中、インペラ2は、インペラ2のブレード3とポンプハウジング6の内壁との間の絞りギャップ9により形成された流体軸受上で流体力学的に懸架される。インペラ2は、好ましくは支柱4によりほぼ正方形状に結合された4つのブレード3を有する。
【0012】
好ましくは、絶縁性部材7がステータ5とインペラ2の磁気区域との間に位置する。この絶縁性部材7は非導電性で、ポリマーから構成することができる。絶縁性部材7はステータ5とインペラ2の磁気区域との間での電気的な渦電流の形成を阻止又は最小化するように機能する。渦電流はインペラ2へのEMFの移送の障害となり、電気的な効率を減少させることがある。渦電流が減少又は最小化されると、モータの効率は大幅に改善される。この絶縁性部材7は図1に示すようにハウジング6内に包み込むことができ、または、ハウジング6の内壁内に埋設することができる。
【0013】
更に、図2はブレード3の横断面を示す。一般的には、このブレード3はポリマー材料で作られるか又は構成される。このポリマー材料はブレード3の外表面のまわりで絶縁性部材7aを形成する層として示されている。ブレード3内に包み込まれた永久磁石11は絶縁性部材7aにより取り囲まれる。永久磁石11は一般に生物学的に有毒な化合物で構成することができるが、この場合、使用時に、生物学的に有毒な材料がポンプ13内の血液に接触するのを阻止することが必要になることがある。
【0014】
大半のポリマー材料は流体を少なくとも部分的に透過させ易く、そのため、生物学的に有毒な化合物は劣化して、有毒な化学物質又は化合物を患者の循環装置内へ放出することがある。それ故、患者の血流内への生物学的に有毒な化合物又は化学物質の溶離又は放出を遮断、停止又は大幅に妨害するために不透過性のバリア12で絶縁性部材7aを被覆するようにすることも望ましい。バリア12はまた好ましくは、永久磁石11を包むか、被覆するか又はシールすることができる。
【0015】
好ましくは、このようなバリア12は金、亜鉛、Paralene(商標名)又は同様の不透過性のコーティング材料から構成することができる。更に、絶縁性部材7は、流体に対する不透過性のような特性を絶縁性部材の表面に与えるように、表面修正することができる。このようなバリア12は、絶縁性部材7を環境からシールする必要があるような任意の実施の形態において使用できる。
【0016】
絶縁性部材7、7aは、その硬度、耐久性及び流体に対する不透過性を増大させるように絶縁性部材7、7aの表面を化学的に改変できるプラズマ浸漬イオン埋め込みにより、表面改質できる。
【0017】
図3には、好ましい絶縁性部材7の拡大上面図を示す。この図は、モータのステータ5を形成するワイヤの3つのコイルを装着した比較的平坦なディスク形状の絶縁性部材7を示す。この比較的平坦な絶縁性部材は図1に示すハウジング6の下方の内表面内に嵌合するように構成され得る。代わりに、絶縁性部材7は、ハウジング6の上方の内表面内で使用するのに適するほぼ円錐形状を形成するように修正することができる。
【0018】
次のポリマー物質は、それから実施の形態を構成できる材料の例である。
【0019】
ポリ・エーテル・エーテル・ケトン(「PEEK」)
実施の形態の構成に使用することのできるポリマー材料の1つの例はPEEKである。これは他の熱可塑性材料に比べて比較的高い熱安定性を有する。これは典型的には高温において高強度を維持し、優れた化学抵抗を有する(有機物に対して実質上不活性であり、高度の酸及びアルカリ抵抗を有する)。これは優れた加水分解安定性及びガンマ放射線抵抗を有する。それ故、PEEKは異なる手段で容易に殺菌することができる。これはまた環境応力亀裂に対して良好な抵抗を示す。これは一般に優れた磨耗及び摩滅抵抗、並びに、低い摩擦係数を有する。PEEKはPEEK材料の機械的及び/又は熱的な特性を向上させることのできるガラス及び/又は炭素繊維の補強体を組み込むことができる。
【0020】
PEEKは普通の押出し及び射出成形装置で容易に処理することができる。当業者にとって自明な後焼きなまし及び他の処理が好ましい。多芳香族の半結晶ポリマーも実施の形態の構成に使用することができる。
【0021】
このポリマーの他の例はビックトレックス社(Vicktrex) により製造されたポリ・アリール・ケトン(「PAEK」)及び長期埋め込みに対して最適化された特性を備えたポリマー等級であるPEEK−OPTIMA LT(商標名)である。PEEK−OPTIMA LT(商標名)は現在利用されている伝統的なプラスチックよりも遥かに強い。一般に、PEEKは一層過激な環境に耐えることができ、他のポリマーよりも一層広い温度範囲にわたって衝撃特性を維持できる。
【0022】
炭素繊維で補強されたPEEKは人体の状態をシミュレートするように設計された37℃での生理食塩水環境に対して優れた抵抗を示したことが分かっている。
【0023】
PEEKは、使用時に、広く寸法安定性を維持するという重要な利点を有する。
【0024】
繊維で補強されたポリマー(「FRP」)
本発明の実施の形態内に含まれ得る他のポリマー材料の例としてFRPがある。FRPはPEEK及び他のポリマーの複合体で構成される。PEEKは、30%の短い炭素繊維で補強することができ、生理食塩水に浸したときに機械的な特性を劣化させないことが判明した。これに対して、30%の短い炭素繊維で補強されたポリスルホン複合体は同じ生理食塩水の浸漬により機械的な特性の劣化を示すことが判明した。
【0025】
繊維/マトリックスの接着強度はFRP複合体の機械的な特性にかなりの影響を与えることがある。それ故、界面接着強度耐久性は、拡散した湿気が経時的に材料を弱化させる可能性があるような埋め込み用途のためのFRP複合体の開発にとって特に重要である。37℃での生理学的な生理食塩水における試験の結果、炭素繊維/ポリスルホン及び炭素繊維/ポリ・エーテル・エーテル・ケトンの複合体における界面接着強度が大幅に減少することが示された。
【0026】
繊維/マトリックスの接着強度はFRP複合体の破壊挙動に強く影響を与えるものとして知られていることを留意すべきである。
【0027】
ポリカーボネート(「PC」)
好ましい実施の形態の構成に使用できるポリマー材料の別の例としてPC樹脂がある。PC樹脂は、透明性及び一般的な靭性を得ようとする場合に、幅広く使用される。
【0028】
PC樹脂は大きな嵩張るビスフェノール成分のため、本質的にアモルファスである。このことは、ポリマーがかなり大きな自由体積を有し、カーボネート族の極性に結合され、ポリマーが有機液体及び水により影響を受けることがあることを意味する。PC樹脂はPEEKほどにはpHの極限に対して抵抗できないが、少なくとも部分的には抵抗する。
【0029】
PC樹脂は一般に極めて低いレベルの残留モノマーを有し、そのため、PC樹脂は血液ポンプの構成に適する。PC樹脂は一般に望ましい機械的及び熱的な特性、疎水性及び良好な酸化安定性を有する。PC樹脂は望ましくは、高衝撃強度が有利であるような場合に使用される。PC樹脂はまた一般に、140℃以下の温度において、良好な寸法安定性、妥当な剛性及び著しく高い靭性を与える。
【0030】
PC樹脂はすべての熱可塑的な処理方法により処理することができる。最も頻繁に使用される処理は射出成形である。この樹脂の小さいが無視できない湿気吸収性のため、すべての材料を用心深く乾燥状態に保つ必要があることに留意されたい。樹脂の溶融粘度は極めて高く、そのため、処理装置は頑丈にすべきである。PC樹脂の処理温度は比較的高く、一般に、おおよそ230℃ないし300℃である。
【0031】
ポリスルホン(「PS」)
実施の形態の部品を構成するために使用できるポリマー材料の別の例としてPSがある。PSは比較的良好で高い耐温度性及び剛性を有する。PCは一般に靭性であるが切欠き感応性ではなく、140℃まで使用することができる。これは優れた加水分解安定性を有し、高温及び湿気環境内で機械的な特性を保持することができる。PSは概して、化学的に不活性である。
【0032】
PSはPC樹脂と類似しているが、一層厳しい使用条件に耐えることができる。更に、PSは一般に一層の熱抵抗を有し、クリープに対する一層大きな抵抗及びより良い加水分解安定性を有する。PCは、一般に嵩張る化学側基及び剛な主要化学主鎖のため、大きな熱安定性を有する。また、一般に、大半の化学物質に対する抵抗を有する。
【0033】
射出成形は低溶融指数等級のために使用され、一方、押出し及びブロー成形は一般的に一層大きな分子量のPSで作られた素子を形成するために使用される。
【0034】
ポリウレタン(PU)
本発明の実施の形態に含むことのできるポリマー材料の別の例としてPUがある。PUは最も生体適合性及び血液適合性のあるポリマー材料の1つである。PUは次の特性を有する:すなわち、エラストマー特性;疲労抵抗;治癒中の人体内での迎合性及び容認性又は許容性;親水性/疎水性のバランスを介しての、又は、抗凝血剤や生物的に認識可能な基のような生物学的に活性の種の付着によるバルク及び表面改変のための性質である。PUの生物的改変は、独立に又は組み合わせて使用される数個の酸化防止剤の使用により可能になることがある。このような酸化防止剤は、患者の体内で数年間持続し得る材料を生じさせることができるビタミンEを含むことができる。
【0035】
PUは一般に高いエラストマー性及び生体適合性である特性を含むポリマーの数等級のうちの1つである。
【0036】
ポリエーテル・ポリウレタン(「PEPU」)
実施の形態の構成に使用できる別のポリマー材料としてPEPUがある。PEPUは一般に比較的良好な撓み性能及び満足のできる血液適合性を有する。
【0037】
ポリカーボネート・ウレタン(「PCU」)
PCUはまた、ある実施の形態を構成するための別の代わりのポリマー材料である。PCUはかなり低い水伝達率即ち不透過性を有する。これは軟質セグメント相におけるカーボネート構造の固有の低い鎖運動性のためである。水蒸気に対する付加的な不透過性は、硬質セグメント内容物を備えたポリウレタン・ポリマー及び脂肪族ではなく芳香族のジ・イソシアン酸コーポリマー及び一層疎水性の表面を選択することにより、達成することができる。
【0038】
PCUは一般にカーボネート結合の酸化安定性を有し、これはポリエーテル・ポリウレタンに比べて微生物分解の度合いを驚異的に減少させる。
【0039】
シロキサン−ウレタン(「SiU」)
SiUは代替的な好ましいポリマー材料の別の例である。SiUは一般に疲労強度、靭性、可撓性及びプラズマタンパク質に対する低相互作用を含む特性の組み合わせを有する。しかし、これらのポリマーは比較的軟質である。
【0040】
ポリ塩化ビニル(「PVC」)
PVCは代替的な好ましいポリマー材料の別の例である。PVCは、可塑剤が無い場合に、およそ75℃−105℃のTg(ガラス転移温度)を有する比較的無定形で剛なポリマーである。これは多くの形式の充填剤及び他の添加剤と一緒に広く使用される安価で靭性のあるポリマーである。これは高溶融粘度を有し、それ故、理論的には処理が困難であるが、このポリマーを有効に混ぜ合わせるために特殊化した方法が数十年にわたって確立されてきた。
【0041】
PVCの抽出抵抗性の等級は長期間の血液適合性にとって必要である。可塑化されたPVCは血液バッグ及び同様の装置のためのものとして十分確立されており、樹脂製造者は許容できる程度(1ppm以下)の有害な残留モノマーレベルを保つことができる。しかし、一般にPVCが良性であることを示す科学データが存在するにも拘らず、PVCを禁止しようとする大きな社会的な圧力が存在する。
【0042】
ポリフッ化ビニリデン(「PVDF」)
PVDFは、実施の形態を構成するのに適する比較的良好な靭性及び生体適合性を有するポリマーである。
【0043】
ポリエチレン(「PE」)
PEは、低密度PE(「LDPE」)、高密度PE(「HDPE」)及び超高分子量等級のPE(「UHMWPE」)を含むいくつかの主要な等級で利用できる。しかし、UHMWPEは、一般に相対的靭性、低湿気吸収及び良好で全般的な化学抵抗を有するので、最も適するものと思われる。
【0044】
焼結され、圧縮成形されたUHMWPEは股関節の代替品として十分に確立されている。しかし、摩滅抵抗及び磨耗が長期間(5−10年以下)の使用に適さないので、更なる改善が必要と思われる。PEの主な制限は熱性能(ほぼ130℃の融点)及び寸法的な安定性である。
【0045】
ポリプロピレン(「PP」)
別の適当なポリマー材料としてPPがある。PPは、相対的な不活性さ、相対的に良好な強度及び良好な熱性能を含む特徴の組み合わせを有し得る多用途のポリマーである。等級に応じて、Tg(ガラス転移温度)は0℃から−20℃までの範囲内にあり、MPt(融点)はほぼ170℃である。最も普通の等級はホモコーポリマー及びエチレンコーポリマーであり、後者は改善された靭性を備える。
【0046】
更に、通常よりも一層柔軟な又は一層硬い等級をもたらす反応装置技術の多数の進歩があった。例えば、Catalloy(商標名)技術を使用して作ったBassell Adstiff(商標名)ポリマーは適当なものであり、かつ/又は血液ポンプの製造に使用するための望ましい特徴を有する。一般に、PPポリマーはPEEKの高融点に欠けるが、この特性は一般に望ましくない。
【0047】
ポリ・メチル・メタクリレート(PMMA)
PMMAはアルカリ及び他の無機溶液の希釈に対する良好な抵抗を備えた無定形材料であり、最も生体適合性のあるポリマーの1つであることが分かっている。それ故、PMMAは所望の特徴のいくつかを含むことができ、本発明の実施の形態の構成に使用できるのである。一般に、PMMAは普通の工具で容易に機械加工でき、モールド成形でき、表面被覆ができ、プラズマエッチングができる。
【0048】
PMMAは環境的な応力破壊を受け易いが、これは普通患者の体内及び血液ポンプ作業環境に存在しない有機溶剤の使用に関連するものである。
【0049】
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・ターポリマー(ABS)
ABSは一般に硬さ、良好な寸法安定性及び妥当な熱抵抗(ほぼ120℃のTg(ガラス転移温度))を含む比較的良好な表面特性を有する。3つのモノマーの組み合わせによって、こわさ(スチレン)、靭性(ブタジエン)及び化学抵抗(アクリロニトリル)が得られる。
【0050】
ABSは剛性、高い引っ張り強さ、優れた靭性及びモールド成形における優れた寸法精度といった他の特性を有することができる。ABSは一般に水、無機溶剤、アルカリ、酸及びアルコールにより影響を受けない。しかし、ABSは患者の体内又は血液ポンプの作業環境内に普通存在しないある種の炭化水素溶剤と長時間接触することにより、軟化及び膨張を生じ得る。
【0051】
ポリエステル(「PET」)
PETは過去10年間にわたって最も成長した熱可塑性材料であった:体積及び価格は現在PE及びPPに近づいている。PETは75℃前後のTg(ガラス転移温度)及び275℃の融点を有する。PETは、ポリマーの処理履歴に応じて結晶化度において約25%から70%まで変化することができる。物理的な特性及び化学的な抵抗は結晶化度に大きく依存する。モールド成形後に結晶体がゆっくり増大し得るので、PETは限られた寸法安定性を有する。PETは一般に靭性で、透明で、こわくて、くすんでいる。
【0052】
100℃を超えるTg(ガラス転移温度)を有する別の等級のPETが現在利用されており、このポリマーはポリエチレン・ナフテネート(「PEN」)と呼ばれる。PET及びPENは共に血液ポンプの構成に使用するのに適する。
【0053】
ポリアミド及び/又はナイロン(「PA」)
PA及びナイロンは、優れた摩耗/摩擦特性、高い引っ張り衝撃及び曲げ強度及びこわさ、良好な靭性及び高融点を有することを特徴とする。
【0054】
あるPAはアミド基間に比較的大きな炭化水素スペーサを有することができる。この形式のPAの例としてPAの普通の種類よりも一般に一層疎水性(1%以下の水摂取率)であるナイロン11及び12がある。しかし、より大きな間隔は他のポリマーに比べてこわさの損失を招き、熱性能も低下することがある。
【0055】
Kevlar(商標名)(パラ位置)及びNomex(商標名)(メタ位置)を含む完全に芳香族ポリアミドは商業的に入手でき、高いこわさ及び融点を有する。半芳香族のポリアミドはドイツ(例えばTrogamid(商標名)T)及びフランスで作られている。これらの半芳香族のポリアミドは一般に良好な透明性及び化学抵抗を有する。
【0056】
アセタール樹脂及び/又はポリ・オキシメチレン(「AR」)
ARは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。この等級のポリマーは強靭で、硬質で、摩滅抵抗を有する。これは、関節置換素子及び他の長期移植片として評価されてきた。
【0057】
アセタール・ホモポリマーは、塩により誘起される亀裂を生じる傾向を有するが、少量のプロピレン酸化物を伴ったコーポリマーの場合は利用可能である。ホルムアルデヒドを含むARは、ホルムアルデヒドの生じ得る毒性が懸念される。
【0058】
ポリ・ジメチル・シロキサン(「PDSM」)
PDSMは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。このポリマーは一般にエラストマー性である。これはまた、生体適合性のコーティング又はコーポリマーのいずれかとして使用するものと考えることができる。
【0059】
PDMS及びPUを基礎とするコーポリマーが開発されており、PDMS/PCはLexan(商標名)3200としてゼネラル・エレクトリック社により商業的に提供されている。後者は優れたUV性能を備えたかなりこわい透明な材料である。
【0060】
シンジオタクチック・ポリスチレン(「SP」)
SPは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。SPは典型的には高結晶性であり、100℃のTg(ガラス転移温度)においても係数は殆ど変化せず、250℃以上の融点に対して特性の維持はかなり高い。多くの等級はTg(ガラス転移温度)での係数の変化を更に減少させるために繊維で補強することができる。そのポリマーはヘテロ原子を伴わない炭化水素であり、疎水性で、不活性となり得る。
【0061】
脂肪族エーテル・ケトン(「AEK」)
AEKは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。処理及び機械的な性能は同様であるが、このポリマーは改善された高温老化挙動を示し、切欠き感応性がほとんどない。不運にも、この材料は弁別性が不足し、もはや製造されていない。
【0062】
TOPAS(商標名)(「T」)
Tは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。この等級のコーポリマーはドイツ国のチコナ社(Ticona)により作られている。これは一般にエチレン及びノルボーナーデン(Norbornadene)を含み、そのTg(ガラス転移温度)はモノマー比率により制御される。これはポリカーボネートに代わる炭化水素であり、一般に、医療取り付け器具及び装置に適する。そのTg(ガラス転移温度)はほぼ130℃以上であり、これは一般に透明であり、エチレンセグメントの結晶化を抑制するコーモノマーを有する。
【0063】
メタロセンPP(「MPP」)
MPPは好ましい実施の形態の任意の1つを構成するために使用することができる。MPPは、既存のPPと競争するためにエクソン社(Exxon) により製造されている。これは、オリゴマーがないため、一層狭い分子量分布(2前後の多分散性)を有する。
【0064】
本発明の要旨から逸脱することなく、上述の明細書及び添付図面内で種々の付加的な修正が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の好ましい実施の形態の横断面図である。
【図2】図1に示す好ましい実施の形態の一部の拡大横断面図である。
【図3】図1に示す好ましい実施の形態の一部の、回転させた状態での、拡大上面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内でインペラを磁気によって回転させるようになっているモータを有する回転血液ポンプにおいて、
前記インペラ又は前記ハウジングが複合材料で形成され、同複合材料が、比較的に、絶縁性で、生体適合性で、不透過性のポリマーである第1の材料を含むことを特徴とする回転血液ポンプ。
【請求項2】
前記複合材料が前記ポリマーを補強する第2の材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項3】
前記ポンプが前記第1の材料から形成された絶縁性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項4】
前記絶縁性部材が渦電流損を減少させるために前記モータの部分間に位置することを特徴とする請求項3に記載の回転血液ポンプ。
【請求項5】
前記第1の材料がプラズマ浸漬イオン埋め込み処理により表面改質されていることを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項6】
前記インペラが不透過性の流体バリアにより包まれた磁石を有することを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項7】
前記第1の材料がPEEK、FRP、PC、PS、PEPU、PCU、SiU、PVC、PVDF、PE、PMMA、ABS、PET、PA、AR、PDSM、SP、AEK、T、MPP又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項8】
前記インペラが流体力学的に懸架されることを特徴とする請求項1に記載の回転血液ポンプ。
【請求項9】
ハウジング内で流体力学的に懸架されたインペラを磁気によって回転させるようになっているモータを有する回転血液ポンプにおいて、
前記インペラ及び/又は前記ハウジングが複合材料で形成され、前記ポンプが渦電流損を減少させるために前記モータの部分間に位置する少なくとも1つの絶縁性部材を有し、同絶縁性部材が生体適合性及び不透過性のポリマーから実質上形成されることを特徴とする回転血液ポンプ。
【請求項10】
前記複合材料が金属合金を含むことを特徴とする請求項9に記載の回転血液ポンプ。
【請求項11】
前記金属合金がチタン合金であることを特徴とする請求項10に記載の回転血液ポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−509654(P2007−509654A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537002(P2006−537002)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001490
【国際公開番号】WO2005/042064
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(506148741)ベントラコー リミテッド (2)
【出願人】(506148268)シドニー大学 (3)
【Fターム(参考)】