説明

ポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法及び処理装置

【課題】 ポリ塩化ビニル樹脂からなる廃棄物、特に塩ビ管や塩ビ継手等の硬質塩化ビニル樹脂製品の廃棄物から、原材料樹脂と同等の高品質であって管(パイプ)to管(パイプ)の再生産が可能な再生樹脂を回収すること。
【解決手段】 ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を溶媒に溶解させる前工程として、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕し、破砕された廃棄物を水により洗浄して泥等の異物を除去した後、脱水機に供給して遠心分離にて脱水することによって該廃棄物に残存付着した異物を水と共に除去し、更に乾燥処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法及び処理装置に関し、特に硬質塩化ビニル樹脂からなる配管や継手等の廃棄物から、原材料樹脂を高品質で回収することができる処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル樹脂は、その優れた材料特性、特に広い温度範囲において加工に適した粘度や硬さを示す点や、高いコストパフォーマンスから、建材資材等のパイプ、建材、農業用フィルム、包装フィルム、電線、食品・化粧品の容器など、非常に幅広い分野で使用されている。
【0003】
このように、ポリ塩化ビニル樹脂は、その優れた特性によって幅広い分野で使用されているため、排出される廃棄物の量も非常に多い。
しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂は、燃焼時に刺激臭で腐食性の塩素ガスやダイオキシン類を発生することから焼却処理が困難である上に、有効なリサイクル方法もまだ確立されていないため、ポリ塩化ビニル樹脂からなる廃棄物の処理方法は、環境保全や資源の有効利用の観点から大きな問題になっている。
【0004】
ポリ塩化ビニル樹脂は、年間約2,165千トン(2003年度:塩ビ工業会)が生産されているが、その内訳を製品別に見ると硬質塩ビ管が全体の38%を占め最も多く、ついで農業用ビニルフィルム等のフィルム類が12%、電線被覆材が11%である。用途分野では、土木、建設が6割近くを占め、耐久消費財に主に使用されている。
政府は2000年5月に「循環型社会形成推進基本法」を成立させ、更に各種の関係法律を整備し、リサイクルの総括法である「資源有効利用促進法」の中で、塩ビ管・継手類を「特定再利用業種」に指定した。更に、分別回収を進めるために、製品に材質表示を義務付ける「指定表示製品」として、塩ビ管、塩ビ継手、塩ビサッシ、塩ビ床材、塩ビ壁紙の5種類を指定した。
【0005】
「特定再利用業種」に指定されると、塩ビ管・継手メーカーは、製品の製造に際して資源再生を行う義務が課せられ、その為の技術(選別・異物除去)や設備の整備、年度ごとの「利用状況や品質に関する情報提供」などが求められることになっている。「指定表示製品」では、品目ごとに定められた様式に従って「∞PVC」のマーク表示を実施しないと、指導、助言、勧告、公表、場合によっては改善命令が出され、命令に従わないと罰則規定も設けられている。
【0006】
従来より、合成樹脂廃棄物をリサイクルする技術は、数多く提案されている。
従来の合成樹脂廃棄物のリサイクル技術としては、溶媒を用いて合成樹脂廃棄物を溶解した後、溶解液から溶媒を除去して原材料を回収する方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)
しかしながら、ポリ塩化ビニル樹脂は、静電気が多く帯電するために目に見えない微細な埃が多く付着している。特に、硬質塩化ビニル樹脂製品である塩ビ管や塩ビ継手などの廃棄物は、泥や埃等が表面に大量に付着して汚れているものが多いが、従来の処理方法は、このような付着異物の処理対策が十分でなく、異物の混入により再生品の生産及び品質に悪影響を及ぼす場合があるという問題があった。
【0007】
また、廃棄物の溶解速度を高めるために溶媒の攪拌や加熱を行っているものの、大量の廃棄物を迅速に溶解させることは困難であった。
更に、溶解液から溶媒を除去する際に、空気との接触や高温での加熱により、溶媒が変質して溶媒の寿命が低下するため、回収した溶媒を繰り返し再使用することができないという欠点があった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−173324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、ポリ塩化ビニル樹脂からなる廃棄物、特に塩ビ管や塩ビ継手等の硬質塩化ビニル樹脂製品の廃棄物から、原材料樹脂と同等の高品質であって管(パイプ)to管(パイプ)の再生産が可能な再生樹脂を回収することができるポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法及び処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を溶媒に溶解させた後、得られた溶解液を加熱して溶媒を気化させることにより、該溶解液中からポリ塩化ビニル樹脂を回収するポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法であって、前記廃棄物を溶媒に溶解させる前工程として、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕し、破砕された廃棄物を水により洗浄して泥等の異物を除去した後、脱水機に供給して遠心分離にて脱水することによって該廃棄物に残存付着した異物を水と共に除去し、更に乾燥処理を行うことを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させるとともに、該溶解処理工程において、前記溶媒を攪拌しながら加熱し、更に超音波振動を付加することを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、遠心分離機及び濾過機に順次供給して該溶解液中の不溶物を除去することを特徴とする請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、超音波振動を付加しながらエアーと共に減圧された密閉容器内に噴霧して、該密閉容器内で加熱することにより溶媒を気化させることを特徴とする請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕する破砕機と、該破砕機により破砕された廃棄物の表面に付着した異物を流すための水を供給するポンプと、該ポンプにより供給された水分を含む廃棄物を取り入れて遠心分離により脱水する脱水機と、該脱水機により脱水された廃棄物を乾燥させる乾燥装置と、該乾燥装置により乾燥された廃棄物を溶解させるための溶媒を収容した溶解装置と、該溶解装置から取り出された溶解液を加熱して溶媒を気化させる樹脂回収装置とからなることを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記溶解装置が、内部に収容された溶媒を攪拌する攪拌装置と、該溶媒を加熱する加熱装置と、該溶媒に超音波振動を付加する超音波振動装置を備えていることを特徴とする請求項5記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記溶解装置から取り出された溶解液を遠心分離する遠心分離機と、該遠心分離機を通過した溶解液を濾過する濾過機を備えていることを特徴とする請求項5記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記樹脂回収装置が、内部を減圧状態とする減圧装置と、内部に取り入れられる溶解液中にエアーを導入するエアー導入部と、該エアー導入部により導入されたエアーと共に溶解液を内部に噴霧する噴霧装置と、該噴霧装置により噴霧される溶解液に超音波振動を付加する超音波振動装置と、内部に取り入れられた溶解液を加熱する加熱装置とを備えていることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置に関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、前記樹脂回収装置が、装置内壁に付着したポリ塩化ビニル樹脂を掻き取る樹脂掻取装置を備えていることを特徴とする請求項5乃至8いずれかに記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、廃棄物を溶媒に溶解させる前工程として、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕し、破砕された廃棄物を水により洗浄して泥等の異物を除去した後、脱水機に供給して遠心分離にて脱水することによって該廃棄物に残存付着した異物を水と共に除去し、更に乾燥処理を行うことにより、溶解工程に供給する前に、塩ビ管等の廃棄物に付着している泥等の異物を確実に除去することができ、原材料樹脂と同等の高品質の再生樹脂を確保することができる。特に、水で洗浄した後の廃棄物を遠心分離にて脱水することにより、汚泥・水分・樹脂の3相に分別することが可能であるため、効率良い処理が可能となる。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、溶解処理工程において、前記溶媒を攪拌しながら加熱し、更に超音波振動を付加することにより、廃棄物の溶解が促進され、処理効率が大幅に向上する。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、遠心分離機及び濾過機に順次供給して該溶解液中の不溶物を除去することにより、溶解液中に含まれる不溶な異物を遠心分離と濾過の併用によって完全に除去することが可能となり、再生樹脂の品質を高めて使用用途範囲を拡大することができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、減圧された密閉容器内に噴霧して該密閉容器内で加熱することによって、従来の方法に比べてより低温で溶媒を気化して分離回収することができるので、溶媒の変質が防がれ、回収された溶媒を繰り返し再利用することが可能となる。また、溶解液を、超音波振動を付加しながらエアーと共に噴霧することにより、再利用が容易な微細なパウダー状の再生樹脂を回収することができる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕する破砕機と、該破砕機により破砕された廃棄物の表面に付着した異物を流すための水を供給するポンプと、該ポンプにより供給された水分を含む廃棄物を取り入れて遠心分離により脱水する脱水機と、該脱水機により脱水された廃棄物を乾燥させる乾燥装置とを具備していることにより、塩ビ管等の廃棄物に付着している泥等の異物を溶解装置に供給する前に確実に除去することができ、原材料樹脂と同等の高品質の再生樹脂を確保することができる。特に、脱水装置における遠心分離によって、汚泥・水分・樹脂の3相に分別することが可能となり、コンパクトな装置構成で効率良い処理ができる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、溶解装置が、内部に収容された溶媒を攪拌する攪拌装置と、該溶媒を加熱する加熱装置と、該溶媒に超音波振動を付加する超音波振動装置を備えていることにより、攪拌・加熱・超音波振動の相乗作用によって、廃棄物の溶解を促進することが可能となり、処理効率を大幅に向上させることができる。
【0025】
請求項7に係る発明によれば、溶解装置から取り出された溶解液を遠心分離する遠心分離機と、該遠心分離機を通過した溶解液を濾過する濾過機を備えていることにより、溶解液中に含まれる不溶な異物が、遠心分離機と濾過機の両方を通過することによって完全に除去され、再生樹脂の品質を高めて使用用途範囲を拡大することが可能となる。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、樹脂回収装置が、内部を減圧状態とする減圧装置と、内部に取り入れられる溶解液中にエアーを導入するエアー導入部と、該エアー導入部により導入されたエアーと共に溶解液を内部に噴霧する噴霧装置と、該噴霧装置により噴霧される溶解液に超音波振動を付加する超音波振動装置と、内部に取り入れられた溶解液を加熱する加熱装置とを備えていることにより、低温で溶媒を気化して分離回収することができるので、溶媒の変質が防がれて回収された溶媒を繰り返し再利用することが可能となり、また再利用が容易な微細なパウダー状の再生樹脂を回収することができる。
【0027】
請求項9に係る発明によれば、樹脂回収装置が、装置内壁に付着したポリ塩化ビニル樹脂を掻き取る樹脂掻取装置を備えていることより、樹脂回収装置内に析出したパウダー状の樹脂を効率良く回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係るポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法及び処理装置の好適な実施形態について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る処理方法において、処理対象となるポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の種類は特に限定されないが、硬質塩化ビニル樹脂の廃棄物が好適であって、代表的なものとして、塩ビ管、塩ビ継手、塩ビサッシ、塩ビ床材、塩ビ壁紙の廃棄物が挙げられる。
【0029】
図1は本発明に係る処理方法を実施するために用いられる処理装置のうち、前段処理装置の一例を示すフローシートである。
本発明に係る処理方法では、ポリ塩化ビニル樹脂からなる廃棄物(以下、原料廃棄物と称す)は、上方の開口部から破砕機(1)内に供給されて破砕された後、破砕機下方に設けられたスクリーンを通過することによって一定の大きさに整えられる。
【0030】
破砕機(1)の下方に形成された破砕物の出口には、スクリューフィーダ(2)の入口が一体に連結されており、破砕機(1)からスクリーンを経て取り出された原料廃棄物は、そのままスクリューフィーダ(2)の内部に取り入れられる。
破砕機(1)の出口とスクリューフィーダ(2)の入口を繋ぐ通路には、循環ポンプ(7)から供給される洗浄水を内部に取り入れるための取入口が形成されており、該取入口から取り入れられた洗浄水は、破砕機(1)により破砕された原料廃棄物に付着した泥等の異物を洗い流しながら、原料廃棄物と共にスクリューフィーダ(2)の内部に取り入れられる。
【0031】
スクリューフィーダ(2)は水平方向に設置されており、その下方にはスクリューフィーダに沿って固液分離装置(5)が一体に設けられている。
スクリューフィーダ(2)の外周面にはスクリーン(8)が設けられており、スクリューフィーダ(2)内に取り入れられた洗浄水と異物の大部分は、スクリューによって移送される過程でスクリーン(8)を通過して下方の固液分離装置(5)へと落下する。
【0032】
スクリューフィーダ(2)の出口には、脱水機(3)の入口が一体に連結されている。
脱水機(3)は、下から上へと延びる縦型の遠心分離式脱水機であって、その外周面にはスクリーン(8)が設けられている。
スクリューフィーダ(2)から移送されてきた原料廃棄物は、脱水機(3)の内部に取り入れられて高速回転されることによって、遠心力により付着している水分及び異物が除去され、除去された水分及び異物はスクリーン(8)を通過して下方の固液分離装置(5)へと落下する。
脱水機(3)にはブロワ(9)が一体に連結されており、脱水機(3)の内部に向けてブロワー(9)から高圧空気が供給される。このブロワー(9)は後述するサイクロン(4)と共に本発明の乾燥装置を構成する。
【0033】
固液分離装置(5)は、スクリーン(8)を通過して落下してきた水分及び異物を分離する。分離は、例えば一定容量の容器内に水分及び異物を収容し、異物を沈殿させて容器から上澄み水をオーバーフローさせることにより行われる。
固液分離装置(5)により分離された水分は濾過装置(6)へと送られて濾過された後、循環ポンプ(7)へと戻されて、再び洗浄水として使用される。
【0034】
脱水機(3)の出口にはサイクロン(4)の入口が一体に連結されており、脱水機(3)から取り出された原料廃棄物は、ブロワ(9)から供給される高圧空気と共にサイクロン(4)の内部へと送られることにより、完全に脱水された乾燥状態でサイクロン下部から取り出される。
【0035】
図2は、図1に示した前段処理装置において洗浄乾燥された原料廃棄物から塩化ビニル樹脂を回収する処理装置の一例を示すフローシートである。
図1に示した前段処理装置において洗浄乾燥された原料廃棄物は、溶解装置(13)に供給されて溶解される。
溶解装置(13)は、下方に向かうにつれて横断面積が狭くなる縦断面略V字状の容器であって、上部に原料廃棄物を内部に取り入れるための供給搬送器(11)と受入ホッパー及びシュート(12)を備え、下部には不溶解物(塩化ビニル樹脂以外の樹脂(ポリエチレンやポリプロピレン等)や汚泥等)を下端部から取り出して移送するためのスクリューフィーダ(16)を備えている。
【0036】
溶解装置(13)の内部には、溶媒を攪拌する攪拌装置(17)と、溶媒を加熱する加熱装置(スチームコイル)(14)が備えられており、外部には内部に収容されている溶媒に対して超音波振動を付加する超音波振動装置(15)が備えられている。
【0037】
本発明においては、溶解装置(13)の内部に収容される溶媒として、トリクロロエチレンが用いられる。
本発明において、溶媒としてトリクロロエチレンを使用する最大の理由は、溶媒処理によって塩化ビニル樹脂の分子量の低下が起こらないため、再生樹脂についてバージン樹脂と同等の強度が得られることにある。
また、その他の理由としては、第一には、溶媒が危険物でないために装置の設置場所が危険物製造所の規制を受けないこと、第二には、安全で更に高価な保有空地が必要とならない利便性があること、第三には、パウダー状樹脂の回収工程で溶媒回収と再生樹脂回収工程を同一装置内で行うことが可能となり、経済性が非常に高い装置化が可能となること、第四には、他の有機溶媒に比較して加熱、冷却工程でも安定しており、水に不溶であり、空気との接触による変質が少なく耐久性に優れ長期的に安定していることである。
【0038】
溶解装置(13)による原料廃棄物の溶解処理工程において、加熱装置(14)による加熱温度は90℃未満とされ、好ましくは70℃未満とされ、より好ましくは50〜60℃とされる。これは90℃を超えるとトリクロロエチレンが蒸発して減少することなり好ましくないからである。
【0039】
また、トリクロロエチレン溶媒と原料廃棄物の割合(容積比)はトリクロロエチレンを100部としたときに原料廃棄物を5〜25部とすることが好ましい。これは、原料廃棄物の割合がこれを超えて多すぎると原料廃棄物が充分に溶解せず、逆に少なすぎると処理効率が悪くなるためである。
【0040】
溶解装置(13)内にて原料廃棄物が溶媒に溶解することにより得られた溶解液は、溶解装置(13)の底部のスクリューフィーダ(16)を経由して不溶解物と共に遠心分離機(18)に移送される。
遠心分離機(18)は縦型バケット式のものであって、塩ビ以外の樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)や汚泥等の不溶解物が濾布内に捕捉されることにより分離除去される。
【0041】
遠心分離機(18)を経由した溶解液は、濾過用ポンプ(19)により精密濾過装置(20)に送られる。精密濾過装置(20)では、溶解液中に含まれている微細な不溶解物(例えば1〜3μmを超える粒子)が精密濾過によって除去される。
除去される不溶解物は、塩ビ管類に静電気帯電により付着していた微細な埃や微粉の金属類等であり、これらが除去されることで再生樹脂の品質低下を防ぐことができる。
【0042】
精密濾過装置(20)により濾過された溶解液は、熱交換器(21)を経由して密閉容器からなる樹脂回収装置(22)へと導かれる。
精密濾過装置(20)と樹脂回収装置(22)を繋ぐ中途部にはエアー導入部(25)が備えられており、樹脂回収装置(22)の内部には導入されたエアーと共に前記溶解液を噴霧する二液式噴霧装置(23)が備えられている。
更に、樹脂回収装置(12)の入口には超音波振動装置(24)が備えられており、二液式噴霧装置(23)より噴霧される溶解液に超音波が付加されることによって、噴霧される溶解液(溶媒と樹脂)が超微粒子化される。これにより、樹脂分を微細なパウダー状の粒子として回収することができる。
【0043】
樹脂回収装置(22)は、装置内部を加熱するためのジャケット設備(29)と、装置内壁に付着した樹脂を掻き取るための樹脂掻取装置を備えている。
樹脂掻取装置は、樹脂回収装置(22)の内壁に沿って配置されたスクレーパ状の樹脂掻取部材(27)と、樹脂掻取部材(27)を樹脂回収装置(22)の内壁に沿って回転摺動させるための回転動力部(26)から構成されている。
樹脂回収装置(12)の内部に導かれた溶解液は、入口で熱交換器(21)により一定の温度(例えば50〜60℃)に加熱された後、二液式噴霧装置(23)のノズル先端からエアーと共に加熱用ジャケット設備(29)により加熱された装置内に噴霧される。
【0044】
樹脂回収装置(22)の内部においては、二液式噴霧装置(23)のノズル先端からエアーと共に噴霧された樹脂は、溶媒が気化することによってパウダー状に析出して飛散し、装置内壁に付着するか装置内下部に落下して回収される。内壁に飛散して付着した樹脂分は樹脂掻取装置(27)が回転して掻き落とし、下部に落下した樹脂分と共に装置下部よりロータリーバルブ(28)を経由して装置外に排出され再生樹脂として回収される。
【0045】
樹脂回収装置(22)内は真空ポンプ(32)により一定の減圧状態(200mmHg程度)が保たれており、装置内で気化した溶媒は常圧の場合に比べて低温で気化して樹脂回収装置(22)より取り出される。
樹脂回収装置(22)より取り出された溶媒は、コンデンサ(30)へと導かれ、コンデンサ(30)により凝縮された後、回収タンク(31)内に回収され、濾過用ポンプ(33)により再び溶解装置(13)の内部へと供給される。
【0046】
以下、本発明に係る処理方法についての実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果を明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されない。
(実施例)
硬質塩化ビニル樹脂からなる塩ビ管類の廃棄物を原料廃棄物とし、これを図1及び図2に示す処理装置と同等なフローを有する小型実装置を用いて処理した。
より具体的には、原料廃棄物を、図1に示す処理装置にて処理した後、トリクロロエチレン溶媒を収容し内部温度が50〜60℃に加温された溶解装置(13)内に、トリクロロエチレンと原料廃棄物が5:1(容積比)の割合となるように投入し、超音波振動装置(15)を作動させて内部に超音波振動を与え、原料廃棄物を溶媒に溶解させた。このときの溶解速度は、超音波振動を付加しない場合の約1.5倍であった。
次いで、原料廃棄物を溶解した溶解液を、精密濾過装置(20)に供給して1〜3μmを超える異物を除去した後、200mmHgに減圧されて60〜70℃に加温された樹脂回収装置(22)の内部へと供給した。
樹脂回収装置(22)への供給は、溶解液を二液式噴霧装置によってエアーと共に樹脂回収装置内部へと噴霧すると共に、超音波振動装置(24)により超音波を付加しながら行った。樹脂回収装置(22)内に析出したパウダー状の塩化ビニル樹脂を回収したところ、粒子が微細であり且つ乾燥状態が良好な再生樹脂であることが確認された。
【0047】
(比較例)
硬質塩化ビニル樹脂からなる塩ビ管類の廃棄物を、原料廃棄物とし、これをNMP(N―メチルー2−ピロリドン)からなる溶媒に溶解させた後、水中で析出させ塩化ビニル樹脂を回収した。
溶解時間は実施例の2.0倍を要し、溶媒量:水量比を1:6として溶媒の回収(水分の蒸発時間及び蒸発に要する熱エネルギー消費量)等を比較したところ、約50倍以上のエネルギーロスがあることが判明した。
すなわち、トリクロロエチレンの気化潜熱は59kcal/kgであるのに対して水の気化潜熱は539kcal/kgであるから9.13倍の熱エネルギーを消費しており、水中に析出するためには約6倍の体積の水を必要とするため、結果として実施例の50倍以上のエネルギーロスを生じていることが分かった。
【0048】
実施例で回収された再生樹脂の分析値は下記の通りであった。
(1)引張破断強さ・・・515kg/cm(試験方法:(ASTM)D638)
(2)圧縮強さ・・・・・780kg/cm(試験方法:(ASTM)D695)
強度の分析値は、塩ビパイプの規格(JIS)内に収まっており、再生樹脂としてパイプtoパイプの再生に十分に使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ポリ塩化ビニル樹脂からなる廃棄物から、高品質の再生樹脂を得ることができるので、塩ビ管類の処理方法として極めて有効であり、その利用価値は非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る処理方法を実施するために用いられる処理装置のうち、前段処理装置の一例を示すフローシートである。
【図2】図1に示した前段処理装置において洗浄乾燥された原料廃棄物から塩化ビニル樹脂を回収する処理装置の一例を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0051】
1 破砕機
3 脱水機
4 サイクロン(乾燥装置)
7 循環ポンプ
9 ブロワー(乾燥装置)
13 溶解装置
14 加熱装置
15 超音波振動装置
17 攪拌装置
18 遠心分離機
20 精密濾過装置
22 樹脂回収装置
23 二液式噴霧装置
24 超音波振動装置
25 エアー導入部
26 回転動力部(樹脂掻取装置)
27 樹脂掻取部材(樹脂掻取装置)
29 ジャケット設備(加熱装置)
22 真空ポンプ(減圧装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を溶媒に溶解させた後、得られた溶解液を加熱して溶媒を気化させることにより、該溶解液中からポリ塩化ビニル樹脂を回収するポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法であって、前記廃棄物を溶媒に溶解させる前工程として、ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕し、破砕された廃棄物を水により洗浄して泥等の異物を除去した後、脱水機に供給して遠心分離にて脱水することによって該廃棄物に残存付着した異物を水と共に除去し、更に乾燥処理を行うことを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させるとともに、該溶解処理工程において、前記溶媒を攪拌しながら加熱し、更に超音波振動を付加することを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、遠心分離機及び濾過機に順次供給して該溶解液中の不溶物を除去することを特徴とする請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記廃棄物をトリクロロエチレンからなる溶媒に溶解させた溶解液を、超音波振動を付加しながらエアーと共に減圧された密閉容器内に噴霧して、該密閉容器内で加熱することにより溶媒を気化させることを特徴とする請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理方法。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル樹脂の廃棄物を破砕する破砕機と、該破砕機により破砕された廃棄物の表面に付着した異物を流すための水を供給するポンプと、該ポンプにより供給された水分を含む廃棄物を取り入れて遠心分離により脱水する脱水機と、該脱水機により脱水された廃棄物を乾燥させる乾燥装置と、該乾燥装置により乾燥された廃棄物を溶解させるための溶媒を収容した溶解装置と、該溶解装置から取り出された溶解液を加熱して溶媒を気化させる樹脂回収装置とからなることを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置。
【請求項6】
前記溶解装置が、内部に収容された溶媒を攪拌する攪拌装置と、該溶媒を加熱する加熱装置と、該溶媒に超音波振動を付加する超音波振動装置を備えていることを特徴とする請求項5記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置。
【請求項7】
前記溶解装置から取り出された溶解液を遠心分離する遠心分離機と、該遠心分離機を通過した溶解液を濾過する濾過機を備えていることを特徴とする請求項5記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置。
【請求項8】
前記樹脂回収装置が、内部を減圧状態とする減圧装置と、内部に取り入れられる溶解液中にエアーを導入するエアー導入部と、該エアー導入部により導入されたエアーと共に溶解液を内部に噴霧する噴霧装置と、該噴霧装置により噴霧される溶解液に超音波振動を付加する超音波振動装置と、内部に取り入れられた溶解液を加熱する加熱装置とを備えていることを特徴とする請求項5乃至7いずれかに記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置。
【請求項9】
前記樹脂回収装置が、装置内壁に付着したポリ塩化ビニル樹脂を掻き取る樹脂掻取装置を備えていることを特徴とする請求項5乃至8いずれかに記載のポリ塩化ビニル樹脂廃棄物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−46520(P2009−46520A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351346(P2005−351346)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(505106829)株式会社サイエンスジャパン (3)
【Fターム(参考)】