説明

ポンプ装置

【課題】人工心臓の血液ポンプとして、左心血液ポンプと右心血液ポンプの各吐出量を簡単に制御が可能なポンプ装置を提供する。
【解決手段】ステータ4の上方の上部ロータ5aと下方の下部ロータ5bとを該ステータ4の中心透孔4aに嵌挿した回転軸6により連結し、前記上部ロータ5aの下面の永久磁石7aに対して前記ステータ4の上面の第1電磁石手段8aにより軸方向の作用力を発生させると共に、前記下部ロータ5bの上面の永久磁石7bに対して前記ステータ4の下面の第2電磁石手段8bが作用して前記下部ロータ5bが回転駆動し、前記上部ロータ5aの上面の第1インペラ2aにより第1ポンプ手段2として作用すると共に、前記下部ロータ5bの下面の第2インペラ3aにより第2ポンプ手段3として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工心臓の血液ポンプ等に最適なポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工心臓装置に用いられる血液ポンプは、小型で且つ簡単な構造のものが要求され、例えば遠心ポンプ等が使われている。
【0003】
又、ポンプは長時間に渡り、故障なく廻り続けられるものでなければならない。
【0004】
このようなポンプ装置には、磁気軸受装置を用いた非接触型のロータが適している。
【0005】
磁気軸受装置を有する遠心ポンプの回転機器として、ロータの上面に円形状上側永久磁石を設けると共に該ロータの上方にある上部ステータには該円形状上側永久磁石と共働して該ロータに対して軸線方向の吸入力を発生させる吸引用電磁石手段を設け、前記ロータの下面には該ロータの回転用の複数個の下側永久磁石を設けると共に該ロータの下方にある下部ステータには該回転用永久磁石と共働して該ロータの回転運動を行なう回転用電磁石手段を設けた例がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
人の心臓には左心室と右心室とがあり、左心室の血液は身体の全身へと送り出され、右心室の血液は浄化のため肺臓へ送り出される。
【0008】
そして、左心血液ポンプからの吐出量が右心血液ポンプからの吐出量よりも多くなるようにコントロールする必要があるが、前記特許文献1の回転機器を用いたポンプでは、該特許文献1の図4に示す如くポンプ室が1個所であるので、前述の血液ポンプに適用するときには、血液を身体の全身に送り出すポンプと、血液を肺臓に送り出すポンプの2台の別個のポンプが必要となり、ポンプ装置が大型となると共に設備的に複雑になる問題点がある。
【0009】
本発明はこれらの問題点を解消し例えば血液ポンプに適用した場合に1台のポンプでポンプ機能を達成できるポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の目的を達成すべく、ステータと、該ステータの上方に離間配置された上部ロータと、該ステータの下方に離間配置された下部ロータと、該ステータに回転自在に且つ上下動可能に設け前記上部ロータと前記下部ロータとを連結する連結手段と、前記上部ロータの下面及び前記下部ロータの上面に永久磁石を設けると共にこれら永久磁石のうち一方の永久磁石に対向する前記ステータの一方の面に設けられ該永久磁石と共働して前記ロータに対して軸線方向の作用力を発生させて前記ロータを浮上させる第1電磁石手段と、他方の永久磁石に対向する前記ステータの他方の面に設けられ該永久磁石と共働して前記ロータを回転駆動する第2電磁石手段と、前記上部ロータの上面に設けた第1インペラが第1ポンプ室内で回転する第1ポンプ手段と、前記下部ロータの下面に設けた第2インペラが第2ポンプ室内で回転する第2ポンプ手段とからなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、左心用の血液ポンプ機能と右心用の血液ポンプ機能とを1台のポンプ装置に具備することができて、小型軽量であると共に設備の簡略化が図れ、磁気浮上手段によって長時間に渡り故障なく運転を続けることができ、更に左右の血液ポンプの吐出量を同時に簡単に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1のポンプ装置の断面図である。
【図2】前記ポンプ装置の上下のロータの斜視図である。
【図3】前記ポンプ装置の制御系のブロック線図である。
【図4】前記ポンプ装置のポンプ手段の個所でロータが上動位置にあるときの断面図である。
【図5】当該個所でロータが下動位置にあるときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態の実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明のポンプ装置の実施例1を図面により説明する。
【0015】
図1は本実施例のポンプ装置1の断面図で、図2は該ポンプ装置1の上下のロータの斜視図である。
【0016】
ポンプ装置1の上方部に第1ポンプ手段2が配置され、該ポンプ装置1の下方部に第2ポンプ手段3が配置され、これら第1ポンプ手段2と第2ポンプ手段3との間にはステータ4が介在している。
【0017】
5はロータを示し、該ロータ5は前記ステータ4との上方に配置されている上部ロータ5aと該ステータ4の下方に配置されている下部ロータ5bとからなり、これら上部ロータ5aと下部ロータ5bは、前記ステータ4に形成の中心透孔4aに回動自在に且つ少許上下動可能に嵌挿されている回転軸6に連結固定されている。
【0018】
前記上部ロータ5aは円板状に形成され、その上面には複数枚の板翼からなる第1インペラ2aが設けられており、又、上部ロータ5aの下面には永久磁石7aが係着されている。
【0019】
前記下部ロータ5bも円板状に形成され、その下面には複数枚の板翼からなる第2インペラ3aが設けられており、又、下部ロータ5bの上面には複数個の永久磁石7bが放射状に配置して係着されている。
【0020】
前記ステータ4はドーナツ状の本体4bからなり、該本体4bの上面部に例えば4つの電磁石からなる第1電磁石手段8aが設けられている。
【0021】
又、前記本体4bの下面部には回転磁界を発生させるための例えば12突極3相8極の電磁石からなる第2電磁石手段8bが設けられており、該電磁石と前記永久磁石7bとが共働して下部ロータ5bを回転駆動するようにした。
【0022】
前記第1ポンプ手段2は、第1ポンプ室2bと、該第1ポンプ室2b内において上部ロータ5aと共に回転しながら上下動可能な前記第1インペラ2aとからなり、該第1ポンプ室2bの上面壁の中心部に第1吸込口2cが設けられていると共に、該第1ポンプ室2bの側壁に吐出口2dが設けられている。
【0023】
前記第2ポンプ手段3は、第2ポンプ室3bと、該第2ポンプ室3b内において下部ロータ5bと共に回動しながら上下動可能な前記第2インペラ3aとからなり、該第2ポンプ室3bの下面壁の中心部に第2吸込口3cが設けられていると共に、該第2ポンプ室3bの側壁に吐出口3dが設けられている。
【0024】
図3は本実施例のポンプ装置1の制御系のブロック線図を示す。
【0025】
図3において、9aはステータ4の上面部の第1電磁石手段の各電磁石に対応して設けられ渦電流センサーからなる第1センサーを示し、該第1センサー9aは上部ロータ5aの軸方向位置を検出してその検出信号をA/D変換装置10を介して制御部11に入力するようにし、又ロータの傾きについては、後述するように該第1センサー9aから検出信号を入力した制御部11において算出するようにした。
【0026】
ここで前記第1センサー9aは4ヶの前記電磁石に対応して4個あり、前記制御部11において4つの第1センサー9aの検出信号の平均値を算出することにより上部ロータ5aと共に下部ロータ5bの軸方向位置の第1検出信号を得るようにし、又隣り合う第1センサー9aの平均の差分と第1センサー9a間の距離から上下のロータ5a、5bの傾きの第2検出信号を得るようにした。
【0027】
尚、前述では第1センサー9aが4個の例を示したが、該第1センサー9aが3個以上であれば前記傾きが算出可能である。
【0028】
9bは下部ロータ5bの近傍に設けられ上下のロータ5a、5bの回転速度を検出する第2センサーを示し、該第2センサー9bはその回転速度の第3検出信号をA/D変換器10を介して前記制御部11に入力するようにした。
【0029】
そして該制御部11は、前記第1第2検出信号に基いてPID制御演算を実行し駆動回路12aを介して第1電磁石手段8aに制御信号を出力し上部ロータ5aに軸方向位置の制御と傾きの制御をすると共に、前記第3検出信号に基いてPID制御演算を実行し駆動回路12bを介して第2電磁石手段8bに制御信号を出力し下部ロータ5bに回転速度の制御をするようにした。
【0030】
次に本実施例のポンプ装置1の使用方法及びその作動について説明する。
【0031】
ポンプ装置1は人工心臓の血液ポンプに使用される。
【0032】
即ち、上部の第1ポンプ手段2が左心血液ポンプとして血液を全身に送り出すように機能し、又、下部の第2ポンプ手段3は右心血液ポンプとして肺臓に血液を送り出すように機能する。
【0033】
これらポンプ手段の回転駆動は、前記下部ロータ5bの上面の永久磁石7bと前記ステータ4の下面部の第2電磁石手段8bとが共働して行い、制御部11からの回転制御により下部ロータ5bと共に上部ロータ5aも同速の回転速度の制御をする。
【0034】
そしてこのロータ5の回転中において、制御部11からの傾き制御信号により第1電磁石手段8aと永久磁石7aとが共働して上部ロータ5aと共に下部ロータ5bも水平にし又、第1ポンプ手段2と第2ポンプ手段3との吐出割合を調節するために、前記制御部11からの軸方向位置の制御信号により第1電磁石手段8aと永久磁石7aとの間の吸引力を調節して上部ロータ5aと共に下部ロータ5bの上下動の位置を調節する。
【0035】
即ち、このように調節される第1電磁石手段8aと永久磁石7a間の吸引力とロータ等の重力との和の下方力が第2電磁石8bと永久磁石7bとの間の吸引力による上方力とのバランスによりロータの軸方向位置を調節しながら該ロータを浮上制御する。
【0036】
このようにロータが浮上制御され、上部ロータ5aが上方に移動すると、図4の如く第1インペラ2aと第1ポンプ室2bの上面壁との間の間隙d1が小となり、同時に第2インペラ3aと第2ポンプ室3bの下面壁との間の間隙d2は大となる。このときは、第1ポンプ手段2においては、第1インペラ2aと第1ポンプ室2bの上面壁との間隙d1が小なので、逆流が殆んどなく、該第1インペラ2aにより吐出口2dからの大きな吐出流となると共に、第2ポンプ手段3においては第2インペラ3aと第2ポンプ室3bの下面壁との間隙d2が大なので、第2インペラ3aにより吐出させても該間隙d2において逆流が生じて吐出口3dからの吐出流が小となる。
【0037】
逆に上部ロータ5aが下方に移動すると、図5の如く第1インペラ2aと第1ポンプ室2bの上面壁との間の間隙d1が大となると共に第2インペラ3aと第2ポンプ室2bの下面壁との間隙d2が小となる。このときは第1ポンプ手段2においては第1インペラ2aと第1ポンプ室2bの上面壁との間隙d1が大なので、第1インペラ2aにより吐出させても該間隙d1において逆流が生じて吐出口2dからの吐出流が小となると共に、第2ポンプ手段3においては第2インペラ3aと第2ポンプ室3bと下面壁との間隙d2が小なので逆流が殆んどなく該第2インペラ3aにより吐出口3dからの大きな吐出流となる。
【0038】
そこで、左心吐出量を大きくしたい場合はロータを上方に移動させると前述の如く左心側の吐出量が大きくなると共に右心側の吐出量が小さくなる。
【0039】
従って左心吐出量と右心吐出量の比率を所望の比率になるように制御部11からの制御信号によりロータ5の上下動の位置を制御すればよい。
【0040】
尚、本実施例では、上部ロータ5aの下面に永久磁石7aが係着されている例を示したが、該永久磁石7aを係着せずに上部ロータ5aを磁性材料で形成してもよい。
【0041】
又、本実施例では、上部ロータ5aと下部ロータ5bを、ステータ4の中心透孔を挿通する回転軸6に連結固定した例を示したが、該ステータ4の側面の近傍外方に位置して上下動可能な複数の棒体により上部ロータ5aと下部ロータ5bを連結固定してもよい。
【0042】
このように本発明のポンプ装置1は小型で且つ簡単な構造を有して、その制御も容易であり、人工心臓用の血液ポンプに最適の構造のものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のポンプ装置は人工心臓の血液ポンプその他同時に2つの対象物への吐出量の比率を調整して吐出するポンプに使用される。
【符号の説明】
【0044】
1 ポンプ装置
2 第1ポンプ手段
2a 第1インペラ
2b 第1ポンプ室
3 第2ポンプ手段
3a 第2インペラ
3b 第2ポンプ室
4 ステータ
4a 中心透孔
5a 上部ロータ
5b 下部ロータ
6 回転軸
7a 永久磁石
7b 永久磁石
8a 第1電磁石手段
8b 第2電磁石手段
11 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、該ステータの上方に離間配置された上部ロータと、該ステータの下方に離間配置された下部ロータと、該ステータに回転自在に且つ上下動可能に設け前記上部ロータと前記下部ロータとを連結する連結手段と、前記上部ロータの下面及び前記下部ロータの上面に永久磁石を設けると共にこれら永久磁石のうち一方の永久磁石に対向する前記ステータの一方の面に設けられ該永久磁石と共働して前記ロータに対して軸線方向の作用力を発生させて前記ロータを浮上させる第1電磁石手段と、他方の永久磁石に対向する前記ステータの他方の面に設けられ該永久磁石と共働して前記ロータを回転駆動する第2電磁石手段と、前記上部ロータの上面に設けた第1インペラが第1ポンプ室内で回転する第1ポンプ手段と、前記下部ロータの下面に設けた第2インペラが第2ポンプ室内で回転する第2ポンプ手段とからなるポンプ装置。
【請求項2】
前記連結手段は前記ステータの中心透孔に回転自在に且つ上下動可能に嵌挿した回転軸からなる請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記連結手段を軸方向に進退させて、前記第1インペラと前記第1ポンプ室の対向面との間隙及び前記第2インペラと前記第2ポンプ室との間隙を連動して調節可能とした制御部を有する請求項1又は請求項2に記載のポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−261386(P2010−261386A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113579(P2009−113579)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(503234229)
【Fターム(参考)】