説明

ポンプ

【課題】 駆動部を動作させることにより流体を輸送するポンプに関して、流体の送液状態やポンプの使用頻度に関わらず、効率のよい動作を行うポンプを提供する。
【解決手段】 弁室流入口12、1ba、弁室流出口1bb、13及び弁室流入口の開閉を行う逆止弁11を有する一対の弁室10a、10b、ならびに前記弁室10a、10bと連通しているポンプ室20を備えているポンプ本体2と、前記ポンプ室20の体積を変化させるための駆動部1とを備えたポンプにおいて、
弁室10a、10b内に設けられている逆止弁11の剛性を異ならせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動部を動作させることにより流体を輸送するポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の燃料輸送用ポンプとして圧電ポンプが利用されている。このような圧電ポンプは、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示された圧電ポンプは、図7に示すように、圧電振動子51aを利用してダイヤフラム51bを振動させることでポンプ室本体52内の体積を変化させて流体を送液するものである。弁室110a、110bの内部には、流体の逆流を防ぐ逆止弁111が設けられている。この逆止弁111は支持部111a及び可撓部111bを有しており、流体の弁室流入圧が弁室流出圧よりも小さいときは、可撓部が流路を塞ぐ。また、弁室流入圧が弁室流出圧よりも大きいときには、可撓部が流路を解放するように撓むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−245482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような逆止弁が設けられる流路では、流体を送液する際に不具合が起きる可能性がある。例えば、流体の送液後にポンプを停止してしばらく放置すると、ポンプの内部に残留している流体が蒸発することがある。すると、逆止弁の可撓部と弁室の内壁との間にある空気の気圧が弁室内に比べて低くなり、逆止弁の吸着性が高まる。このため次回使用時に逆止弁が開きにくくなることがある。
【0005】
前記のように逆止弁が弁室に吸着してしまうと、ポンプの機能が停止する不具合が生じ問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本発明は、弁室流入口、弁室流出口及び弁室流入口の開閉を行う逆止弁を有する一対の弁室、ならびに前記弁室と連通しているポンプ室を備えているポンプ本体と、前記ポンプ室の体積を変化させるための駆動部とを備え、前記逆止弁は支持部及び前記支持部に支持された可撓部から構成されており、前記逆止弁の可撓部は剛性を部分的に異ならせることを特徴とするポンプを提供する。
【0007】
先行技術は、逆止弁の円周方向の剛性が均一であるために流体の順方向の圧力が逆止弁に一様にかかることとなり、開口の起点が生まれにくい。そこで本発明では、逆止弁の円周方向の剛性を部分的に異ならせる改良を施している。逆止弁の可撓部は剛性の低い部分と高い部分から成り、このことによって剛性の低い部分が逆止弁と弁室が離れる起点として作用し、逆止弁が弁室に吸着してしまう不具合が解消される。
【0008】
また本発明は、逆止弁の可撓部において、剛性の低い部分の領域が剛性の高い部分の領域よりも小さいことが望ましい。この場合は、順方向の圧力が狭い領域に集中して加わることで、逆止弁の開口に必要な順方向の圧力が低くなり、容易に逆止弁全体を撓ませることができる。
【0009】
また本発明は、逆止弁の剛性の低い部分に逆止弁のシール面を含むことが望ましい。この場合は、逆止弁の開口部分の剛性が低いほど逆止弁の順方向の圧力を低くすることができるので、より容易に逆止弁全体を撓ませることができ、ポンプを効率よく駆動させることができる。
【0010】
また本発明は、前記逆止弁のシール面が弁室流入口の近傍にあることが望ましい。この場合は、弁室流入口から加わった順方向の圧力が直接逆止弁の剛性が低い部分を押し上げるので、より低い順方向の圧力で逆止弁を撓ませることができ、ポンプを効率よく駆動させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、剛性の低い部分が逆止弁と弁室が離れる起点として作用し、逆止弁と弁室の内壁が吸着する不具合を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のポンプの中央断面概略図である。
【図2】本発明のポンプの分解斜視図である。
【図3】実施形態1の弁室の断面図と逆止弁の斜視図である。
【図4】変形例1の逆止弁の斜視図である。
【図5】変形例2の逆止弁の斜視図と側面図である。
【図6】変形例3の逆止弁の斜視図である。
【図7】先行技術を説明するポンプの中央断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るポンプの好ましい実施形態として、圧電ポンプについて説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は本実施形態に係るポンプ100の中央縦断面概略図である。本実施形態のポンプ100は燃料電池の燃料輸送用ポンプとして用いた例であり、ポンプ本体2と、前記ポンプ本体2の体積を変化させるための駆動部1から構成されている。
【0015】
図2はポンプ100の分解斜視図である。以下、図1と図2を参照しながら説明を行う。
【0016】
本実施形態の駆動部1は、圧電振動子1aとダイヤフラム1bから構成されている。
【0017】
ポンプ本体2は、ポンプ室天板65の上部に順次積層固着された流路板60、ポンプ室板61、ダイヤフラム1b、弁室板62、及び底板63でもって構成されており、内部には弁室10a、10bとポンプ室20とを有する。なお、ダイヤフラム1bは駆動部1の一部を兼ねている。これらの部材は、例えばPETシートで形成されている。
【0018】
ポンプ本体2の一部を構成する流路板60は、ポンプ室天板65の直上に積層されている。流路板60には、中心部をくの字状に走る流路溝60aが形成されている。この流路溝60aは、ポンプ100の流路の一部として形成されている。
【0019】
ポンプ室板61は流路板60の直上に積層されている。このポンプ室板61は中心部を円盤形にくりぬいた形状に構成されており、その円盤形のくりぬき孔61aから左右に細く繋がる溝61b、61cが形成されている。この溝61b、61cは、流路の一部として形成されている。
【0020】
ダイヤフラム1bはポンプ室板61の直上に積層されている。このダイヤフラム1bには、図面上で左右の領域それぞれに流路孔の一部となる弁室流入口1ba、弁室流出口1bbが形成されている。弁室流入口1baはポンプ室20に連通しており、ポンプ室の流出口を兼ねる。同様に、弁室流出口1bbはポンプ室20に連通しており、ポンプ室の流入口を兼ねる。
【0021】
ポンプ室20は、ポンプ室天板65、流路板60、ポンプ室板61、及びダイヤフラム1bから構成されている。このポンプ室20は、具体的にはポンプ室板61のくりぬき孔61a及び流路板60の流路溝60aで構成されており、ポンプ室20の内部には流体保持用部材64が非固定状態で配置されている。
【0022】
流体保持用部材64はポンプ室20よりもひとまわり小さい円盤形のPETシートであり、中央に開口が形成されている。流体保持用部材64はポンプ室20の内壁との間に表面張力で流体を保持しており、ポンプ室20にかかる圧力と流量の調整を行う役目を担う。
【0023】
圧電振動子1aはダイヤフラム1bの直上に接着されている。圧電振動子1aは例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製の矩形状の薄板で、両面に電極が形成されたものである。圧電振動子1aの電極に交流信号を印加することによって駆動部1が屈曲振動を行い、ポンプ室20の拡張/収縮を繰り返す。
【0024】
弁室板62は同じくダイヤフラム1bの直上に積層されている。この弁室板62は圧電振動子1aを納める開口部を有し、図面上で左右の領域それぞれに流路の一部となる大径で円盤形の孔62a、62bが形成されている。
【0025】
底板63は弁室板62の直上に配置されている。底板63には、図面上で左右の領域それぞれに流路の一部となる弁室流出口13、弁室流入口12が設けられている。
【0026】
弁室10a、10bは、ダイヤフラム1b、弁室板62、及び底板63から構成されている。弁室10aには弁室流入口12、弁室流出口1bb、及び逆止弁11が設けられており、前記逆止弁11は弁室流入口12を覆うように配置されている。一方、弁室10bには弁室流入口1ba、弁室流出口13、及び逆止弁11が設けられており、前記逆止弁11はダイヤフラム1bに形成された弁室流入口1baを覆うように配置されている。
【0027】
ポンプ100の流路は、弁室流入口12から、弁室板62の孔62b、弁室流出口1bb、ポンプ室板61の溝61cを経由して、ポンプ室20に設けられている流路溝60aを通り、さらにポンプ室板61の溝61b、弁室流入口1ba、弁室板62の孔62aを経由して、弁室流出口13に至るように構成されている。
【0028】
図3(A)は逆止弁11が固定されている弁室10bの断面図、図3(B)は逆止弁11の斜視図である。
【0029】
弁室10bには、4つの弁室流入口1baが円周方向に等間隔に形成されており、それらの中心に逆止弁11を固定するための挿入穴1bcが形成されている。
【0030】
逆止弁11は支持部11a及び可撓部11bから構成されている。本実施形態の逆止弁11はシリコンゴムで形成されており、複雑な形状が容易に成形できる。
【0031】
支持部11aは円柱形状をしており、二段軸11eが形成されている。図中の点線で表されているのが支持部11aの主軸である。主軸の周りには円周方向に主軸よりも厚みのある段差が設けられており、これが二段軸11eである。この支持部11aの主軸が弁室10bの挿入穴1bcに固定されている。
【0032】
可撓部11bは支持部11aの主軸を中心として円盤形に形成されており、主軸に対し二段軸11e方向に斜めに傾斜した状態で支持されている。可撓部11bは流体の圧力に従って撓み、形を変形させる。
【0033】
二段軸部分11eを設けることで、可撓部11b全体が弁室流入口1baの形成された面全体に貼りついてしまう不具合を防止できる。また、二段軸11eの直径は弁室10bの挿入穴1bcの直径よりも大きいので、高圧がかかった際に逆止弁11の可撓部11bが反り返り、挿入穴1bcから抜けてしまう不具合が防止できる。
【0034】
以下に、ポンプの動作を示す。圧電振動子1aを駆動しないときには、ポンプが非駆動となり、弁室10a及び弁室10bに設けられている逆止弁11の可撓部11bが流路を塞ぐ。圧電振動子1aに電圧を印加することによりダイヤフラム1bに屈曲振動が生じ、以下の二種類の動作が交互に表れる。
【0035】
圧電振動子1a及びダイヤフラム1bからなる駆動部1がポンプ室20側と反対の方向に凸に変形したとき、ポンプ室20の体積が大きくなり、ポンプ室20内が負圧になる。このとき、弁室10a側に設けられた逆止弁11の可撓部11bが流路を解放するように撓み、流体が弁室流入口12から流れ込む。このとき、弁室10b側に設けられた逆止弁11は流路を塞ぐ。
【0036】
次いで、圧電振動子1a及びダイヤフラム1bからなる駆動部1がポンプ室20側に凸に変形したとき、ポンプ室20の体積が小さくなり、ポンプ室20内が正圧になる。このとき、弁室10b側に設けられた逆止弁11の可撓部11bが流路を解放するように撓み、流体が弁室流出口13からポンプ室外に押し出される。一方で、弁室10a側に設けられた逆止弁11は流路を塞ぎ、流体の逆流を防ぐ。この動作を繰り返すことによって、流体を一方向へ流すことができる。
【0037】
本発明では、逆止弁11の剛性を異ならせるために、逆止弁11の可撓部11bの一部分に、周囲より厚みが薄く段差のある凹部(以下、スリット)11dが設けられている。剛性は、材質から決定されるヤング率×弾性二次モーメントから導き出せる。
【0038】
本実施形態では、支持部11aから可撓部11bの外周部に向かって放射線状に広がる扇形のスリット11dを設けている。スリット11dは、逆止弁11のシール面11cを含むように設けられている。シール面11cとは、可撓部11bのうち、弁室10aまたは10bの内壁と接触している面である。このように構成しているので、弁室流入口1baから順方向の圧力が加わった際に、スリット11dの部分が逆止弁11と弁室10bの内壁が離れる起点として作用し、スリット11d以外の可撓部11bもスリット11dの部分が離れる力に引っ張られ、容易に逆止弁11全体を撓ませることができる。
【0039】
スリット11dは、弁室流入口1baの近傍に設けられている。このように構成しているので、弁室流入口1baから加わった順方向の圧力が直接逆止弁11の剛性が低い部分を押し上げて、より低い順方向の圧力で逆止弁11を撓ませることができるため、ポンプを効率よく駆動させることができる。
【0040】
本発明の逆止弁11の剛性を異ならせる方法については、本実施形態のようにスリット11dに限るものではなく、任意に変更可能である。例えば、逆止弁全体の厚みを一様にして、剛性が低い部分をシリコンゴムにより形成し、剛性が高い部分をシリコンゴムに樹脂コートまたは金属コートを加えたもの等により形成してもよい。スリットの形状も扇形に限るものではなく、直線状、円状等の形状としてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、ポンプ室天板3が上側に、底板63が下側になるようにして試作を行った。そのため、図2において最上層と最下層とに位置する部品の名称を便宜上「ポンプ室天板」「底板」としている。
【0042】
(変形例1)
図4は本実施形態に係るポンプ100における逆止弁の変形例を示す斜視図である。この逆止弁21は、支持部21aから可撓部21bの外周に放射線状に広がる扇形のスリット21dが複数設けられたものである。スリット21dを複数設けることで、逆止弁21と弁室10bの壁が離れる起点を複数形成することができる。
【0043】
(変形例2)
図5は本実施形態に係るポンプ100における逆止弁の変形例を示す斜視図と側面図である。この逆止弁31は、可撓部31bの一部を、支持部31aから可撓部31bの外周へと、緩やかに薄くなるように形成されたものであり、ちょうど図3のスリット11dの境界をなだらかにしたような形状をしている。この方法により、スリットを入れずに剛性を部分的に変えることができる。
【0044】
(変形例3)
図6は本実施形態に係るポンプ100における逆止弁の変形例を示す斜視図である。この逆止弁41は、支持部41aから可撓部41bの中ほどまで扇形に広がるスリット41dが設けられたものである。剛性の変化による効果を得るためには、少なくともシ−ル面41cにスリット41dが形成されていることが望ましく、可撓部41bの外周端部までスリット41dが入っていなくてもよい。
【0045】
本実施形態では、ポンプの駆動部1を圧電振動子としたが、これに限るものではない。例えば、駆動部1を電磁式やモータ等としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
100、200…ポンプ
1…駆動部
1a、51a…圧電振動子
1b、51b…ダイヤフラム
2、52…ポンプ本体
10a、10b、110a、110b…弁室
11、21、31、41、111…逆止弁
11a、21a、31a、41a、111a…支持部
11b、21b、31b、41b、111b…可撓部
11c、21c、31c、41c…シール面
11d、21d、41d…スリット
11e…二段軸
12、1ba…弁室流入口
13、1bb…弁室流出口
1bc…挿入穴
20…ポンプ室
60…流路板
60a…流路溝
61…ポンプ室板
61a…ポンプ室板の孔
61b、61c…ポンプ室板の溝
62…弁室板
62a、62b…弁室板の孔
63…底板
64…流体保持用部材
65…ポンプ室天板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室流入口、弁室流出口及び弁室流入口の開閉を行う逆止弁を有する一対の弁室、ならびに前記弁室と連通しているポンプ室を備えているポンプ本体と、前記ポンプ室の体積を変化させるための駆動部とを備え、
前記逆止弁は支持部及び前記支持部に支持された可撓部から構成されており、前記逆止弁の可撓部は剛性を部分的に異ならせることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
前記逆止弁の可撓部は厚みの薄い部分と厚い部分から成ることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記逆止弁の可撓部は剛性の低い部分と高い部分から成り、前記剛性の低い部分は前記剛性の高い部分より領域が小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記逆止弁の剛性の低い部分には、前記逆止弁のシール面を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかのうち1項に記載のポンプ。
【請求項5】
前記シール面は、前記弁室流入口の近傍にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかのうち1項に記載のポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−247106(P2011−247106A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118557(P2010−118557)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】