説明

マイクロアクチュエータ

【課題】磁性アモルファス金属で構成された可動部を有するマイクロアクチュエータを提供する。
【解決手段】表面側に一部をくり抜いた凹部211を有するベース210と、凹部211で回転自在な可動部230と、凹部211で仮想の直線上に配置され一端部をベース210に固定され他端部を可動部230ベースに固定された一対のトーションバー220,220と、可動部230に回転する力を与える駆動部240と、を備え、可動部230がトーションバー220,220の幅よりも幅広に形成された、マイクロアクチュエータ2であって、一対のトーションバー220と可動部230とが磁性アモルファス金属で形成されており、駆動部240が可動部230に磁界を与えることで、可動部230が回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性アモルファス金属を用いたマイクロアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
Si基板を加工し、Si基板に設けたSi薄膜からカンチレバーを形成することで圧力センサなどを作製する技術が知られている。これらのセンサはマイクロマシン(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれている。半導体のプロセス技術の伸展に伴い加工寸法はナノメートル(nm)の領域になり、このようなマイクロマシンはナノマシン(Nano Electro Mechanical System)とも呼ばれている。
【0003】
Si薄膜を利用したカンチレバーなどの特性は、寸法以外はSiの有する弾性率などの機械的な物性特性で決まる。
【0004】
従来、Siをマイクロマシンの材料として用いていたが、Siは結晶材料であり、さらにシリコン結晶の格子欠陥と転位とを有して衝撃に弱いため、マイクロマシンの構造が壊れる可能性があることが知られている。
【0005】
Siに代えて、金属ガラスを用いたマイクロマシンが従来から知られている(特許文献1)。金属ガラス合金は、従来の非晶質合金では見られない過冷却液体領域ΔTx(=結晶化開始温度Tx以下、ガラス転移点温度Tg以上の温度範囲)を有し、温度がTgを超えると酸化物ガラスと同様に温度に比例して粘性が低下するので、過冷却液体状態の温度範囲で樹脂と同様な成形性で一様に変形させることができる性質を有している。
【0006】
金属ガラスは従来の多結晶合金に比べ、優れた機械的特性と耐食性や電磁特性などの機能特性を有している。特に弾性係数が小さく、2%にも及ぶ弾性歪み限界を呈することから、様々な分野の高性能構造部品として期待されている。
【0007】
特許文献1には、金属ガラスで構成したマイクロマシンが開示されている。金属ガラスを利用することで、材料強度や弾性歪み限界を向上させて、寿命を長くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−155333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたマイクロマシンは金属ガラスの構成要素を利用しているが、金属ガラスを利用した構成要素を自ら動かすアクチュエータとして機能するようには構成されていない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、磁性アモルファス金属で構成された可動部を有するマイクロアクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の構成は、ベースとこのベースに支持された可動部と可動部を駆動する駆動部とを備えたマイクロアクチュエータであって、上記可動部が磁性アモルファス金属で構成され、上記駆動部が上記可動部に磁界を与えることを特徴としている。
本発明において、アモルファス金属は、全体的に非平衡相或いは部分的に非平衡相を含む物質である。アモルファス金属として、所謂、金属ガラスを用いることができる。金属ガラスは2種以上の金属からなり、ガラス遷移温度と結晶化温度を有する非晶質つまりアモルファスからなる合金である。
アモルファス金属の「結晶化温度」とは、Differential scanning calorimeter(DSC)やDifferential thermo analysis(DTA)などの熱分析法の加熱過程で結晶化反応による発熱現象が始まる温度である。
本明細書で「金属ガラス」とは、ガラス遷移温度と結晶化温度を有するアモルファス金属として、金属をベースにした合金系である。磁気特性を持つ金属ガラスの主成分となる元素としては、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)等が上げられる。金属ガラスは、室温から800℃近傍までの幅広いガラス遷移温度と結晶化温度を有している。本発明では、例えばFeを主成分とする金属ガラス合金をFe基金属ガラス合金と呼ぶ。
金属ガラスでは、結晶化開始温度(Tx)とガラス遷移温度(Tg)との温度間隔ΔTx(=Tx−Tg)は、過冷却液体領域(ΔTx)と呼ばれている。広い過冷却液体領域(ΔTx)及び大きな換算ガラス化温度(Tg/T)を有する金属ガラス合金は、結晶化に対する高い安定性を示して、大きな非晶質形成能を有することが知られている。Tは、金属ガラスの液相線温度である。非晶質形成能は、ガラス形成能(GFA)とも呼ばれている。金属ガラス合金は、従来の非晶質合金のように薄帯、ファイバー、微粉末に限らず、金型鋳造法により直径又は厚さがmmオーダーのバルク状非晶質合金材をも作製することが可能である。
「ガラス遷移温度」とは、Differential scanning calorimeter(DSC)やDifferential thermo analysis(DTA)などの熱分析法で、加熱過程で固体から過冷却液体領域になるときの吸熱現象が始まる温度を示している。
ここで、過冷却液体領域(ΔTx)とは結晶化に対する抵抗力、すなわち非晶質の安定性及び加工性を示すもので、例えば0.3K/秒の加熱速度で示差走査熱量分析(DSC)を行うことで得られるガラス遷移温度Tgと結晶化温度Txの差で定義される値である。
なお、本発明では、磁性アモルファス金属として、金属ガラス以外に、過冷却液体領域を示さないアモルファス構造合金も使用可能である。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第2の構成は、表面側に一部を抉り取って凹部を形成したベースと、上記凹部で回転自在な可動部と、上記凹部で仮想の直線上に配置され一端部をベースに固定され他端部を可動部に固定された一対のトーションバーと、可動部に回転する力を与える駆動部と、を備え、可動部がトーションバーの幅よりも幅広に形成されたマイクロアクチュエータであって、上記一対のトーションバーと上記可動部とが磁性アモルファス金属で形成されており、上記駆動部が上記可動部に磁界を与えることで、上記可動部が回転することを特徴としている。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第3の構成は、開口を有するベースとこの開口を塞ぐ可動部と可動部を駆動する駆動部とを備えたマイクロアクチュエータであって、上記可動部が磁性アモルファス金属の薄膜で形成されており、上記駆動部が上記薄膜に磁界を与えることで、上記開口を塞ぐ上記薄膜の形状が変形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁性アモルファス金属で構成した可動部を駆動部からの磁界によって駆動することができる。駆動部を磁性アモルファス金属、例えば磁性金属ガラスで構成することで、シリコンで構成した可動部に比べて大きな変形量を達成でき、さらに強度も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態に係るマイクロアクチュエータを示す平面図、(B)は正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の第1適用例を示す斜視図である。
【図3】図2の第1適用例の応用例を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態の第2適用例を示す斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態の第3適用例を示す斜視図である。
【図6】(A)は本発明の第2実施形態に係るマイクロアクチュエータを示す平面図、(B)は(A)のA―A線断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の第1適用例を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態の第2適用例を示す斜視図である。
【図9】(A)は本発明の第3実施形態に係るマイクロアクチュエータを示す平面図、(B)は(A)のB―B線断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の第1適用例を示す斜視図である。
【図11】(A)は本発明の第3実施形態の第2適用例に係る可変コンデンサを模式的に示す平面図、(B)は(A)のC―C線断面図である。
【図12】実施例のマイクロアクチュエータのトーションバー及び可動部の製造方法を示す図である。
【図13】実施例のマイクロアクチュエータのトーションバーと可動部とを示す写真像である。
【図14】実施例のマイクロアクチュエータのトーションバーと可動部とを示す写真像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
【0017】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る磁性アモルファス金属を用いたマイクロアクチュエータについて説明する。図1(A)は本発明の第1実施形態に係る磁性アモルファス金属を用いたマイクロアクチュエータ1を示す平面図、(B)は正面図である。
【0018】
マイクロアクチュエータ1は、ベース10と、このベース10に一端部を支持された可動部20と、この可動部20を駆動する駆動部30と、を備えている。
【0019】
ベース10は、半導体、絶縁物、金属などからなる基板を用いることができる。半導体基板としてはシリコン(Si)を用いることができる。
【0020】
可動部20は、磁性を有するアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。この磁性アモルファス金属材料は、結晶金属に比べて、材料強度、弾性歪み限界、耐腐食性がそれぞれ優れている。
【0021】
本実施形態では、可動部20はバー状に形成されており、その一端部がベース10に固定されている。
【0022】
駆動部30は、可動部20に磁界を与えることで可動部20を駆動するもので、例えば電磁石を用いることができる。本実施形態では、電磁石が可動部20の下方に配置されている。
【0023】
このような構成で、電磁石からの磁界が無い場合は、可動部20が横方向に真っ直ぐに延びた当初の姿勢を維持する。そして、電磁石からの磁界を可動部20に与えると、可動部20の磁性特性に基づいて、特に可動部20に移動する力が生じる。つまりローレンツ力が生じる。この力によって可動部20が曲がり、可動部20と電磁石との距離が変わる。例えば磁界の方向が上向きであれば、一点鎖線A1で示すように可動部20はエアギャップGが狭くなるように曲がり、下向きであれば、一点鎖線A2で示すように可動部20はエアギャップGが広くなるように曲がる。また、磁界の強度の変化によって、可動部20の曲がり角度を変えることができる。
【0024】
[第1実施形態の適用例1]
図2は本発明の第1実施形態の第1適用例を示す斜視図であり、具体的にはスイッチ装置1Aを示している。スイッチ装置1Aは、ベース10と、このベース10に一端部を支持されたカンチレバー20Aと、このカンチレバー20Aを駆動する駆動部30と、電気配線40と、を備えている。なお、図のベース10と電気配線40とは一部だけを表し、全体表示を省略している。電気配線40は例えば高周波の信号を伝送する伝送路としてもよい。
【0025】
カンチレバー20Aは、長手方向に伸びたバー状の本体部21と、本体部21の先端部に設けられた幅広部22と、から構成されている。幅広部22は本体部21より幅広の平板状に形成されている。カンチレバー20Aは、磁性アモルファス金属材料で構成されている。なお、幅広部は、後述する駆動部30を駆動させた際の磁界が多く横切るように、その面の向きが選定されている。
【0026】
電気配線40は、第1電線部41と第2電線部42とを備えている。第1電線部41と第2電線部42とは電気的に接続しておらず、第1電線部41の端部41Aと第2電線部42の端部42Aとが距離を置いて離れている。第1電線部41と第2電線部42とが電気的に接続されていないスイッチoff状態では、電流Iは電気配線40を流れない。第1電線部41の端部41Aと第2電線部42の端部42Aとの距離D1は、カンチレバー20Aの幅広部22の幅D2よりも狭く設定されている。以下、第1電線部41の端部41Aと第2電線部42の端部42Aとの間を断線部43と呼ぶ。断線部43は、カンチレバー20Aが自然状態で横方向に延びた状態で、カンチレバー20Aの幅広部22より下方の離れた位置に設けられる。
【0027】
上記構成において、駆動部30としての電磁石からの磁界が無い場合は、カンチレバーは真っ直ぐに延びて、その先端部の幅広部22が断線部43の上方へ距離を置いて位置する。この状態では、スイッチはoff状態である。そして、電磁石からの磁界を幅広部22及びカンチレバー本体部21にかけると、カンチレバー20Aを構成する材料の磁性特性に基づいてカンチレバー20Aが曲がる。このとき、カンチレバー20Aの幅広部22が断線部43を覆う。つまり、カンチレバー20Aの幅広部22が第1電線部41の端部41Aと第2電線部42の端部42Aとにそれぞれ接触する。これにより、第1電線部41と第2電線部42とが電気的に接続されたスイッチon状態になって、電気配線40を電流Iが流れる。このようなマイクロアクチュエータは高周波信号を断線するスイッチとして使用できる。
【0028】
[第1実施形態の適用例1の応用例]
図3は本発明の第1適用例の応用例を示す斜視図である。適用例1と同じ部材には同じ符号を付してその説明を省略する。図3のスイッチ装置1Bは、ベース10と、このベース10に一端部を支持された2本のカンチレバー20A,20Aと、各カンチレバー20A,20Aを駆動する駆動部30,30と、2本の電気配線40,40と、を備えている。なお、図のベース10と電気配線40,40とは一部だけを表し、全体表示を省略している。
図示例の各カンチレバー20A,20Aの基端部は互いに連結されているが、連結されずにそれぞれベース10に固定されてもよい。
【0029】
この構成において、電磁石からの磁界が無い場合は、各カンチレバー20A,20Aは真っ直ぐに延びて、それらの先端部の幅広部22が断線部43より上方へ距離を置いて位置する。この状態では、各スイッチはoff状態である。そして、何れかの電磁石からの磁界を対応するカンチレバー20Aにかけると、カンチレバー20Aを構成する材料の磁性特性に基づいてカンチレバー20Aが曲がり、カンチレバー20Aの幅広部22が第1電線部41の端部41Aと第2電線部42の端部42Aとにそれぞれ接触する。これにより、第1電線部41と第2電線部42とが電気的に接続されたスイッチon状態になって、電気配線40を電流Iが流れることが可能になる。応用例では、各電磁石の起電力を変えることで、各電気配線40,40のスイッチ状態を切り替えることができる。
【0030】
[第1実施形態の適用例2]
図4は本発明の第1実施形態の第2適用例を示す斜視図であり、具体的には可動ミラー装置1Cを示している。
可動ミラー装置1Cは、ベース10と、このベース10に一端部を支持されたカンチレバー20Cと、このカンチレバー20Cを駆動する駆動部30と、を備えている。なお、図のベース10は一部だけを表し、全体表示を省略している。
【0031】
カンチレバー20Cは、長手方向に伸びたバー状の本体部21と、本体部21の先端部に設けられ反射部23とから構成されている。反射部23は本体部21より幅広の平板状に形成されている。カンチレバー20Cは、磁性アモルファス金属材料で構成されている。
【0032】
反射部23の上面には支持層24が積層されている。反射部23は、上面へ向けて入射する光を反射する。反射する光の範囲は、支持層24の材料によって選定される。例えば、支持層24が金であれば可視光を効率良く反射し、アルミニウムであれば赤外光を効率良く反射する。
なお、駆動部30を駆動させた際の磁界が反射部23の面を多く横切るように、反射部23の面の向きが選定されている。反射部23の裏面には反射部23を保形するために形状維持部23Aが設けられている。本実施形態では、軽量化のために反射部23の裏面の一部だけに形状維持部23Aが設けられている。具体的には、反射部23の裏面が一部露呈するよう、例えば模様のパターンを呈するように、シリコンの形状維持部23Aが反射部23の裏面に形成されている。
【0033】
この構成において、カンチレバー20Cの反射部23に入射した光は反射する。そして、電磁石からの磁界を反射部23及びカンチレバー本体部21に与えると、カンチレバー20Cを構成する材料の磁性特性に基づいてカンチレバー20Cが曲がる。このとき、例えばカンチレバー20Cの反射部23の傾きを変えることで光の反射方向を変え、または光の入射位置から外れるように反射部23を移動させることで光の反射を行わないように、可動ミラー装置1Cを機能させることができる。
【0034】
[第1実施形態の適用例3]
図5は本発明の第1実施形態の第2適用例を示す斜視図であり、具体的には可変コンデンサ1Dを示している。
可変コンデンサ1Dは、ベース10と、このベース10に一端部を支持された可動電極部20Dと、この可動電極部20Dを駆動する駆動部30と、可動電極部20Dと距離を置いて設けられた固定電極部25と、を備えている。なお、図のベース10は一部だけを表し、全体表示を省略している。
【0035】
可動電極部20Dは、バー状に形成された棒状部26と、棒状部26の先端部に設けられた電極本体部27とから構成されている。電極本体部27は棒状部26より幅広の平板状に形成されている。この可動電極部20Dは、磁性アモルファス金属材料で構成されている。
【0036】
電極本体部27の裏面には形状維持部28が形成されている。本実施形態では、軽量化のために電極本体部27の裏面の一部だけに形状維持部28が設けられている。具体的には、電極本体部27の裏面が一部露呈するよう、例えば模様のパターンを呈するように、シリコンの形状維持部27が電極本体部27の裏面に形成されている。電極本体部27は、固定電極部25と対向するように配設されている。
なお、駆動部30を駆動させた際の磁界が電極本体部27の面を多く横切るように、電極本体部27面の向きが選定されている。
【0037】
固定電極部25と可動電極部20Dとを通電すると、電荷を蓄積することができる。そして、電磁石からの磁界を電極本体部27及び棒状部26に与えると、可動電極部20Dを構成する材料の磁性特性に基づいて棒状部26が曲がり、固定電極部25と可動電極部20Dとの間のエアギャップの距離が変わり、当該コンデンサの静電容量を変えることができる。
【0038】
[第2実施形態]
本発明による第2の実施の形態に係るマイクロアクチュエータについて説明する。図6(A)は本発明の第2実施形態に係るマイクロアクチュエータ2を模式的に示す平面図、(B)は(A)のA―A線断面図である。
【0039】
マイクロアクチュエータ2は、ベース210と、一対のトーションバー220,220と、可動部230と、駆動部240と、を備えている。
【0040】
ベース210は、半導体、絶縁物、金属などからなる基板を用いることができる。半導体基板としてはシリコン(Si)を用いることができる。本実施形態のベース210は、表面側に一部をくり抜いて凹部211が形成されている。
【0041】
一対のトーションバー220,220は可動部230を支持する。各トーションバー220,220の一端部がベース210に固定され、他端部が可動部230に固定されている。一方のトーションバー220の長手方向の仮想延長線上に、他方のトーションバー220が配設されている。本実施形態では、一対のトーションバー220,220は磁性を有するアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。
【0042】
可動部230は輪郭を例えば四角状の薄板に形成されている。図示するように、薄板の各辺S1,S2はトーションバー220の幅W3よりも広く設定されている。可動部230は磁性特性を持つアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。本実施形態では、可動部230は一対のトーションバー220,220と一体に形成されている。なお、後述する駆動部230を駆動させた際の磁界が可動部230の面を多く横切るように、可動部230の面の向きが選定されている。可動部230の裏面には可動部230を保形するために形状維持部290が設けられている。本実施形態では、軽量化のために可動部230の裏面の一部だけに形状維持部290が設けられている。具体的には、可動部230の裏面が一部露呈するよう、例えば模様のパターンを呈するように、シリコンの形状維持部290が可動部230の裏面に形成されている。
【0043】
駆動部240は、可動部230に磁界を与えることで可動部230を駆動する。本実施形態では、電磁石が可動部230の下方、具体的にはベース210の凹部211の底部から下方へ距離を置いた位置に配置されている。
【0044】
このような構成では、電磁石からの磁界によって可動部230が回転する。磁界の強度の変化によって、可動部230の回転角度を変えることができる。
【0045】
上記構成において、電磁石からの磁界が無い場合は、可動部230は、その面の方向を当初の向きのまま姿勢を維持する。電磁石からの磁界を可動部230に与えると、可動部230の構成材料の磁性特性に基づいて、特に可動部230に移動する力が生じる。つまりローレンツ力が生じる。この可動部230に働く力によってトーションバー220,220がねじれて、可動部230が回転する。また、磁界の方向が上向き(Z方向)と下向き(−Z方向)とに変わると、可動部230の回転方向が変わる。
【0046】
[第2実施形態の適用例1]
図7は本発明の第2実施形態の第1適用例を示す斜視図であり、具体的には可動ミラー装置2Aを示している。第2実施形態と同様の構成には同じ符号を付して、説明を省略する。可動ミラー装置2Aは、ベース210と、一対のトーションバー220と、反射部230Aと、駆動部240と、を備えている。
【0047】
反射部230Aは輪郭を例えば四角状の薄板に形成されている。図示するように、反射部230Aはトーションバー220の幅よりも広く設定されている。反射部230Aは一対のトーションバー220と一体に磁性特性を持つアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。反射部230Aの上面には支持層235が積層されている。反射部230Aが反射する光の範囲は、支持層235の材料によって選定される。例えば、支持層235が金であれば可視光を効率よく反射し、アルミニウムであれば赤外光を効率よく反射する。
なお、駆動部240を駆動させた際の磁界が反射部230Aの面を多く横切るように、反射部230Aの面の向きが選定されている。反射部230Aの裏面には反射部230Aを保形するために形状維持部291が設けられている。本実施形態では、軽量化のために反射部230Aの裏面の一部だけに形状維持部291が設けられている。具体的には、反射部230Aの裏面が一部露呈するよう、例えば模様のパターンを呈するように、シリコンの形状維持部291が反射部230Aの裏面に形成されている。
【0048】
上記構成において、反射部230Aに入射した光は反射する。そして、電磁石からの磁界を反射部230Aにかけると、反射部230Aを構成する材料、つまり磁性アモルファス金属の磁性特性に基づいて反射部230Aが一対のトーションバー220,220を軸として回転する。このとき、例えば反射部230Aの傾きを変えることで光の反射方向を変えることができる。
【0049】
[第2実施形態の適用例2]
図8は本発明の第2実施形態の第2適用例を示す斜視図であり、具体的には可変コンデンサ2Bを示している。第2実施形態の構成と同様の構成には同じ符号を付して、その説明を省略する。
可変コンデンサ2Bは、ベース210と、一対のトーションバー220,220と、可動電極部250と、可動電極部250と距離を置いて設けられた固定電極部260と、駆動部240と、を備えている。
【0050】
可動電極部250は輪郭を四角状の薄板に形成されている。図示するように、薄板の各辺S3,S4はトーションバー220の幅W3よりも広く設定されている。本実施形態では、可動電極部250は一対のトーションバー220と一体に磁性特性を持つアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで形成されている。
【0051】
可動電極部250の裏面には可動電極部250を保形するために形状維持部255が設けられている。本実施形態では、軽量化のために可動電極部250の裏面の一部だけに形状維持部255が設けられている。具体的には、可動電極部250の裏面が一部露呈するよう、例えば模様のパターンを呈するように、シリコンの形状維持部255が可動電極部250の裏面に形成されている。
なお、駆動部240を駆動させた際の磁界が可動電極部250の面を多く横切るように、可動電極部250の面の向きが選定されている。
【0052】
このような構成において、固定電極部260と可動電極部250とを通電すると、電荷を蓄積することができる。そして、電磁石からの磁界を可動電極部250にかけると、可動電極部250の構成材料の磁性特性に基づいて可動電極部250が各トーションバー220を軸に回転する。その結果、固定電極部260と可動電極部250との間のエアギャップの距離が変わり、当該コンデンサの静電容量を変えることができる。
【0053】
[第3実施形態]
本発明による第3の実施の形態に係るマイクロアクチュエータについて説明する。図9(A)は本発明の第3実施形態に係るマイクロアクチュエータ3を模式的に示す平面図、(B)は(A)のB―B線断面図である。マイクロアクチュエータ3は、ベース310と、可動部320と、駆動部330と、を備えている。
【0054】
ベース310は、半導体、絶縁物、金属などからなる基板を用いることができる。半導体基板としてはシリコン(Si)を用いることができる。本実施形態のベース310は、表面側に一部をくり抜いて凹部311が形成されている。
【0055】
可動部320は、薄膜に形成され、ベース310の凹部311を塞ぐようベース310に取り付けられている。本実施形態では、可動部320は磁性を有するアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。
【0056】
駆動部330は、可動部320に磁界を与えることで可動部320を駆動する。駆動部330としては、電磁石を用いることができる。本実施形態では、電磁石が可動部320より上方の離れた位置に設けられている。
【0057】
このような構成では、電磁石からの磁界が無い場合は、可動部320はその形態を維持する。そして、電磁石からの磁界を可動部320にかけると、可動部320の構成材料の磁性特性に基づいて、特に可動部320に動きを与えることができる。
【0058】
[第3実施形態の適用例1]
図10は本発明の第3実施形態の第1適用例を示す斜視図であり、具体的にはポンプ装置3Aを示している。第3実施形態と同様の構成には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0059】
ポンプ装置3Aは、ベース310と、ダイヤフラム320Aと、駆動部330と、を備えている。
【0060】
ベース310の上面には凹部311が形成され、この凹部311の底部312には開口313が形成されている。さらに、この凹部311によって画成される領域(以下、貯蔵スペース315と呼ぶ。)へ液体を導く第1流路316と、貯蔵スペース315から液体を排出する第2流路317とが接続されている。
【0061】
ダイヤフラム320Aは薄膜に形成され、ベース310の開口313を塞ぐようベース310に取り付けられている。本実施形態では、ダイヤフラム320Aは磁性を有するアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。
【0062】
駆動部330は、ダイヤフラム320Aから上方へ距離を置いた位置に設けられている。
【0063】
このような構成では、電磁石からの磁界が無い場合は、ダイヤフラム320Aはその形態を維持する。そして、電磁石からの磁界をダイヤフラム320Aにかけると、ダイヤフラム320Aの構成材料の磁性特性に基づいて、ダイヤフラム320Aに動きを与えることができる。つまりローレンツ力が生じて、薄膜状のダイヤフラム320Aが変形することで、第1流路316から貯蔵スペース315へ液体を導き、さらに貯蔵スペース315から第2流路317へ液体を送り出すことができる。
【0064】
[第3実施形態の適用例2]
図11(A)は本発明の第3実施形態の第2適用例に係る可変コンデンサ3Bを模式的に示す平面図、(B)は(A)のC―C線断面図である。第3実施形態と同様の構成には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
可変コンデンサ3Bは、ベース310と、可動電極部320Bと、可動電極部320Bと距離を置いて設けられた固定電極部340と、駆動部330と、を備えている。
【0066】
ベース310には、表面の一部がくり抜かれて凹部311が形成されている。
【0067】
可動電極部320Bは薄膜に形成され、ベース310の凹部311を塞ぐようベース310に取り付けられている。本実施形態では、可動電極部320Bは磁性を有するアモルファス金属、例えばFe基金属ガラスで構成されている。
【0068】
固定電極部340は、例えばベース310の凹部311の底に設けられている。
【0069】
駆動部330は、可動電極部320Bの下方、図示例ではベース310の底部の下方から下方へ距離を置いた位置に設けられている。
【0070】
このような構成において、固定電極部340と可動電極部320Bとを通電すると、電荷を蓄積することができる。そして、電磁石からの磁界を可動電極部320Bにかけると、可動電極部320Bの磁性特性に基づいて可動電極部320Bが動く。例えば一部が固定電極部340側へ膨らむ。その結果、固定電極部340と可動電極部320Bとの間のエアギャップの体積が変わり、当該コンデンサの静電容量を変えることができる。
【0071】
次に、本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明する。
[実施例]
第2実施形態の第1適用例の実施例について説明する。ベースをSiで構成し、トーションバーと可動部とを金属ガラスFe76Si10で構成した。図12はマイクロアクチュエータのトーションバーと可動部との製造方法を示している。
【0072】
第1ステップでは、図12(A)に示すように、シリコン基板上にリフトオフレジストPR1とフォトレジストPR2とを使用して、アモルファス金属フィルム用のパターンを形成する。
【0073】
第2ステップでは、図12(B)に示すように、シリコン基板上にスパッタリング処理を行う。以下の表1にスパッタリング条件を示す。
【表1】

下記に、製膜した磁性金属ガラスの特性を示す
【表2】

【0074】
第3ステップでは、図12(C)に示すように、剥離を行う。このとき、レジスト剥離液としてMS2001を使用した。
【0075】
第4ステップでは、図12(D)に示すように、シリコン基板の裏面に、シリコンエッチング用のレジストPF3を塗布する。
【0076】
第5ステップでは、2回のシリコンエッチングを行う。図12(E)は1回目のシリコン基板裏面のシリコンエッチングを、図12(F)は2回目を示している。
【0077】
図13はこのように構成されたトーションバーを示す像である。下記の表3は図13の製法によって製造した可動部とトーションバーのサイズを示している。
【表3】

【0078】
図14は本実施例1のミラーの回転状態を示している。この図からわかるように、本発明では、ミラーが100°以上回転することができた。
【0079】
[その他の実施形態]
金属アモルファスとして、上記組成に加えて、強磁性金属(Fe,Co,Ni)と半金属(B,P,Si,C)との合金、或いは強磁性金属(Fe,Co,Ni)とIVa属(Ti,Zr,Hr)との合金とを利用することができる。
また、可動部や可動電極部を駆動する駆動部は、電磁石に代えて、永久磁石、さらに電磁石と永久磁石との組み合わせでも良い。
可動部や可動電極部などの輪郭形状、厚みや寸法の比率は図示例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0080】
1,2,3 マイクロアクチュエータ
1A,1B スイッチ装置
1C,2A 可動ミラー装置
1D,2B,3B 可変コンデンサ
3A ポンプ装置
10,210,310 ベース
20,230,320 可動部
20A,20B カンチレバー
20D,250,320B 可動電極部
21 本体部
22 幅広部
23,230A 反射部
23A,28,255,291 形状維持部
24,255 支持層
25,260,340 固定電極部
26 棒状部
27 電極本体部
30,240,330 駆動部
40 電気配線
41 第1電線部
42 第2電線部
43 断線部
211,311 凹部
220 トーションバー
312 底部
313 開口
315 貯蔵スペース
316 第1流路
317 第2流路
320A ダイヤフラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、このベースに支持された可動部と、可動部を駆動する駆動部と、を備えた、マイクロアクチュエータであって、
上記可動部が磁性アモルファス金属で構成され、
上記駆動部が上記可動部に磁界を与えることを特徴とする、マイクロアクチュエータ。
【請求項2】
前記可動部が一端部を前記ベースに固定されたカンチレバーであることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項3】
断線部を有する電気配線を備え、
前記カンチレバーがバー状の本体部と上記本体部の先端部に設けられた幅広部とを備え、
前記駆動部の磁界によって前記カンチレバーが曲がると共に上記幅広部が上記断線部を塞くことで電気配線を導通させることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項4】
前記カンチレバーは、バー状のレバー本体部と、上記レバー本体部の先端部に設けられ光を反する反射部と、から構成されていることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項5】
表面側に一部を抉りとった凹部を有するベースと、上記凹部で回転自在な可動部と、上記凹部で仮想の直線上に配置され一端部を上記ベースに固定され他端部を上記可動部に固定された一対のトーションバーと、上記可動部に回転する力を与える駆動部と、を備え、
上記可動部が上記トーションバーの幅よりも幅広に形成された、マイクロアクチュエータであって、
上記一対のトーションバーと上記可動部とが磁性アモルファス金属で形成されており、
上記駆動部が上記可動部に磁界を与えることで、上記可動部が回転することを特徴とする、マイクロアクチュエータ。
【請求項6】
前記可動部が光を反射することを特徴とする、請求項5に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項7】
可動電極部としての前記可動部から距離を置いた位置に固定電極部が設けられたことを特徴とする、請求項5に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項8】
開口を有するベースと、上記開口を塞ぐ可動部と、上記可動部を駆動する駆動部と、を備えたマイクロアクチュエータであって、
上記可動部が磁性アモルファス金属の薄膜で形成されており、
上記駆動部が上記薄膜に磁界を与えることで、上記開口を塞ぐ上記薄膜の形状が変形することを特徴とする、マイクロアクチュエータ。
【請求項9】
前記ベースの上面に凹部が形成され、上記凹部の底部には前記開口が設けられ、当該凹部によって画成される領域へ液体を導く第1流路と当該領域から液体を排出する第2流路とが設けられ、
上記駆動部が上記薄膜に磁界を与えると上記開口を塞ぐ上記薄膜の形状が変形することで、上記第1流路から上記領域へ液体を導き、さらに上記領域から上記第2流路へ液体を送り出すことを特徴とする、請求項8に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項10】
可動電極部としての前記薄膜から距離を置いた位置に固定電極部が設けられたことを特徴とする、請求項8に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項11】
前記磁性アモルファス金属が磁性金属ガラスであることを特徴とする、請求項1〜10の何れかに記載のマイクロアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−210668(P2012−210668A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76900(P2011−76900)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】