説明

マイクロアレイ製造方法および液滴吐出装置

【課題】 本発明は、試料液体の種類や性質によらず、迅速、且つ気泡が入らないようにインクジェットヘッドに試料液体を充填することによって、高性能なマイクロアレイを高効率に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、液滴吐出ヘッド(10)の供給口(16)からノズル(22)先端まで、吐出準備液を充填する第1工程と、供給口のそれぞれを、各液体収容部に供給する試料液体中に浸漬させる第2工程と、保水性を有する液体保持手段(212)を、ノズル(22)に近接させる第3工程と、供給口を試料液体中に浸漬させたまま加圧手段を作動させ、吐出準備液をノズルから保水性液体保持手段内にすべて吐出することにより、試料液体をノズル先端まで充填する第4工程と、加圧手段を作動させて、マイクロアレイ基板(202)に試料液体を吐出する第5工程と、を含むマイクロアレイ製造方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイ製造方法、および液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸やタンパク質、細胞等の生体由来分子をプローブとして基板上に固定化したいわゆるマイクロアレイを用い、生体分子間の結合の特異性を利用して、サンプル中の標的物質を検出・測定する方法が広く用いられている。
【0003】
特開平11−187900号公報(特許文献1)には、標的物質に対して特異的に結合可能であるプローブを含む液体を、インクジェット法により固相表面に吐出し、該固相表面にプローブを付着させることを特徴とするプローブの固相へのスポッティング方法が開示されている。
【0004】
このようなマイクロアレイでは、標的物質をハイスループットに検出するため、微小な領域に多種類のプローブ分子を固定する必要がある。特開2004−160904号公報(特許文献2)には、複数の液体貯留部を有する第1の基板と、前記複数の液体貯留部にそれぞれ独立に連通する複数の流路を有する第2の基板と、前記複数の流路にそれぞれ独立に連通し、液滴を吐出する複数のノズルを有する一または複数のヘッドチップとを備えたインクジェットヘッドが開示されている。これによれば、複数の試料を搭載した液体貯留部と、作製するマイクロアレイのスポットの配置に対応させた複数のノズルとが流路で連通させられるので、多数のプローブが微小領域に固定されたマイクロアレイを高速に作製することができる。
【特許文献1】特開平11−187900号公報
【特許文献2】特開2004−160904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のインクジェットヘッドを用いる場合、吐出に先立って各々の液体貯留部に異なる試料液体を充填しなければならず、この充填工程に時間を要する。吐出工程自体は極めて短時間で行うことが可能なため、マイクロアレイの生産性を向上させるためには、充填工程の時間を短縮することが重要である。
【0006】
また、インクジェットヘッド内の微細流路に液体を充填するということは、液体と気体の界面が当該微細流路内を移動することを意味するが、このような工程では、充填する試料液体の粘度や表面張力によっては微細流路に気泡が入りやすく、詰まりの原因となることもある。気泡が入ってしまった場合には、いわゆる空打ちを行い、数回分の吐出液を廃棄することによって除去することもできるが、一般にマイクロアレイ用の試料溶液は高価で、入手が困難なものも多く、試料溶液の浪費は極力避けることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、気泡が入らないように、また、試料液体を浪費せずに、インクジェットヘッドに試料液体を迅速に充填することによって、高性能なマイクロアレイを高効率に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るマイクロアレイ製造方法は、第1の主面に形成されたノズルと、前記ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を備えた加圧室と、前記加圧室と連通した液体収容部と、前記液体収容部に液体を供給するための供給口と、を備え、前記供給口が、前記第1の主面に対向する第2の主面から突出するように設けられている液滴吐出ヘッドを装着した液滴吐出装置を使用して、マイクロアレイを製造する方法であって、前記液滴吐出ヘッドの前記供給口から前記ノズル先端まで、吐出準備液を充填する第1工程と、前記供給口のそれぞれを、マイクロアレイ基板に固定される試料を含む試料液体中に浸漬させる第2工程と、保水性を有する液体保持手段を、前記ノズルに近接させる第3工程と、前記供給口を前記試料液体中に浸漬させたまま前記加圧手段を作動させ、前記吐出準備液を前記ノズルから前記保水性液体保持手段内にすべて吐出することにより、該試料液体をノズル先端まで充填する第4工程と、前記加圧手段を作動させて、マイクロアレイ基板に前記試料液体を吐出する第5工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
このように、まず、供給口からノズル先端までの微細な流路中に吐出準備液を充填し、続いて、供給口を試料液体中に浸漬させた状態で、ノズルから吐出準備液を吐出すれば、吐出された吐出準備液の体積分だけ、供給口から試料液体が吸い上げられる。吐出工程は非常に短い時間で行われるので、吐出準備液をすべて吐出することによって、極めて短時間で供給口からノズル先端までが試料液体で満たされる。
【0010】
また、試料液体を充填する際、試料液体と気体の界面が微細流路中を移動するのではなく、試料液体と吐出準備液との界面、即ち液体同士の界面が微細流路中を移動することになるので、試料液体に気泡が入らない。従って、空打ちによって試料液体を浪費することもない。吐出準備液は、試料液体が充填されるのにつれてすべてノズルから排出されるので、マイクロアレイの品質に影響を与えない。
【0011】
さらに、吐出準備液を吐出する際、保水性を有する液体保持手段を、ノズルに近接させておくので、吐出された吐出準備液は当該液体保持手段に吸収される。従って、吐出された吐出準備液によって第1の主面が汚染されるのを妨げることができる。尚、第2工程と第3工程は順序を入れ替えてもよい。
【0012】
尚、本発明に係るマイクロアレイ製造方法に用いられる液滴吐出ヘッドでは、液体収容部と供給口とが独立して形成されていてもよいし、一体的にチューブ状に形成されていてもよい。供給口が第2の主面から突出した構成とすることにより、例えばマイクロタイタープレートの各ウェル等、小さな容器中の液体にも供給口を直接浸漬させて吸い上げやすく、第2の主面や液体保持部が試料液体に接して汚染されることがないという利点が得られる。
【0013】
本発明に係るマイクロアレイ製造方法では、前記第1工程が、前記供給口を前記吐出準備液に浸漬させる工程と、前記ノズルから前記液滴吐出ヘッド内の気体または液体を吸引して、前記吐出準備液をノズル先端まで充填させる工程と、を含むことが好ましい。
【0014】
このような方法によれば、吐出準備液を、短時間で効率よく、ノズル先端まで充填させることができる。
【0015】
本発明に係るマイクロアレイ製造方法に用いられる吐出準備液は、試料液体に影響を与えない限り、任意の液体を選択して用いることができ、例えば、微細な流路中を通過しやすい粘度や表面張力を有し、安価なものとすることが好ましい。このような液体としては、純水や、緩衝液等が挙げられる。特に、純水は、液体が乾燥した後、固形物が析出して詰まりの原因となることもなく好適である。
【0016】
本発明は、また、上記課題を解決するために、第1の主面に形成されたノズルと、前記ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を備えた加圧室と、前記加圧室と連通した液体保持部と、前記液体保持部に液体を供給するための供給口と、を備え、前記供給口が、前記第1の主面に対向する第2の主面から突出するように設けられている液滴吐出ヘッドを装着して用いられる液滴吐出装置であって、前記ノズルを上方または下方に向けて、前記液滴吐出ヘッドを固定することが可能な固定手段と、該ノズルを上方に向けて固定したときに、該ノズルに近接することが可能な保水性液体保持手段と、を備える液滴吐出装置をも提供する。
【0017】
このような液滴吐出装置によれば、液滴吐出ヘッドに吐出準備液を充填した後、まずノズルを上方に向けて当該液滴吐出ヘッドを固定し、供給口を試料液体に浸漬させることができるので、この状態で吐出準備液を吐出すれば、供給口から試料液体が吸い上げられる。このとき、ノズルには保水性液体保持手段が近接しているので、ノズルから吐出された吐出準備液が重力によって落下し、ノズル面を汚染することがない。続いて、ノズルを下方に向けて液滴吐出ヘッドを固定すれば、マイクロアレイ基板等に向けて、試料液体を効率よく吐出することが可能である。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、ノズルを上方に向けて固定したときに、該ノズルを覆って第1の主面に密着し、液滴吐出ヘッド内の気体または液体を該ノズルから吸引可能な吸引手段を備えることが好ましい。
【0019】
供給口を吐出準備液に浸漬させた状態で、液滴吐出ヘッド内の気体または液体をノズルから吸引手段によって吸引すれば、吐出準備液をノズル先端まで効率よく充填することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッドの上下を反転させる回転手段を備えていることが好ましい。
【0021】
このような構成とすることにより、供給口から液体を吸い上げる工程と、ノズルからマイクロアレイ基板等に液滴を吐出する工程とを、効率よく交互に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(液滴吐出ヘッド)
図1は、本発明に係るマイクロアレイ製造方法に用いられる液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッド10を示す斜視図である。
【0023】
液滴吐出ヘッド10は、その第1の主面12の中央部にノズルを備え、内部に加圧室、液体保持部、および加圧室と液体保持部とを連通させる流路を有している。ノズル、加圧室、液体保持部、および流路については後述する。また、液滴吐出ヘッド10は、各液体保持部に液体を供給するための供給口16を有している。供給口16は、図示されたように、第1の主面12に対向する第2の主面から突出するように設けられている。
【0024】
本実施形態における液滴吐出ヘッド10は、ノズル、加圧室、液体保持部、および供給口16をそれぞれ96個ずつ備えており、96穴のマイクロタイタープレートから各液体保持部に液体を充填し、各ノズルから吐出することによって、マイクロアレイ基板上に96スポットを同時に形成することが可能な構成となっている。
【0025】
図2に、液滴吐出ヘッド10の図1におけるII−II線に沿った模式断面図を示す。
【0026】
液滴吐出ヘッド10の第1の主面12の中央には、ノズルを有するヘッドチップ20が備えられている。ヘッドチップには96個のノズル22が48行×2列の配置に設けられているが、本断面図には、2つのノズル22cおよび22jのみが示されており、加圧室もノズル22cおよび22jに対応する加圧室26cおよび26jのみが示されている。ヘッドチップ20の構成については後述する。
【0027】
本実施形態において、液滴吐出ヘッド10は、液体保持部が供給口16と同一の内径を有し、供給口16と液体保持部が一体的にチューブ状に形成されているため、以後、液体保持部と供給口16とをまとめて「供給口16」として表す。各供給口16は、それぞれ専用の流路13を介して個別の加圧室26に連通されるが、本断面図には、供給口16cおよび16jと、加圧室26cおよび26jとを連通させる流路13cおよび13jのみが示されている。
【0028】
なお、後述するように基板30、40、50(図3を参照)を積層して液滴吐出ヘッド10を形成する場合、図1におけるII−II線に沿った断面に、流路13cおよび13j、加圧室26cおよび26jは実際には現れないが、図2には説明の便宜上、これらの流路および加圧室も図示している。
【0029】
次に、本実施形態に係る液滴吐出ヘッド10の製造方法の一例を説明する。
【0030】
本実施形態において、液滴吐出ヘッド10は、3つの基板30、40、および50を積層し、基板50に設けられた孔に供給口16を構成するチューブを挿入し、基板30にヘッドチップ20を接着することによって作製することができる。
【0031】
図3(A)に基板30の平面図を示す。基板30には、その上に基板40を積層することによって流路13を形成する溝13’が96本形成されている。溝13’は、基板17の周縁部から中央に向かって集束し、各溝13’の基板周縁側の末端は、供給口16のピッチ(形成間隔)と一致していている。一方、各溝13’の基板中央側の末端には、圧力室に接続する貫通孔が設けられている。
【0032】
図3(B)に基板30上に積層される基板40の平面図を示す。基板40には8行×12列で96個の貫通孔42が形成されている。貫通孔42のピッチは、供給口16のピッチに一致する。貫通孔42は、流路13と供給口16とを連通させる流路となる。
【0033】
図3(C)に、基板50の平面図を示す。基板50には、貫通孔52が96個形成されている。貫通孔52のピッチも供給口16のピッチと一致しており、貫通孔52の下端は基板40の貫通孔42に接続する。貫通孔52は、図2にも示されるように所定の深さまで大きな内径を有し、ここに供給口16を構成するチューブが嵌合される。
【0034】
基板30、40および50は、ガラス、樹脂等の材料で形成することができ、溝や貫通孔は、エッチング、射出成形等、材料に適した方法によって形成することができる。
【0035】
基板30〜50を積層し、熱溶着、または接着剤等を用いる方法により接着した後、基板50の各孔にチューブ状の供給口16を嵌合させる。供給口16を構成するチューブは、アクリル、塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン等の樹脂で形成することが好ましいが、ガラス、金属等であってもよい。供給口16の内側表面は親液性に処理しておくことが好ましく、これによって、供給口16の内部に試料液体を吸い上げやすくなる。表面に親水性を付与する方法としては、親水性でかつ生体分子に親和性の高いポリマーをコートする方法がある。そのようなポリマーの例としては、ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド、グリセロールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなどがある。また、内側をヘパリンでコーティングしたチューブを用いることもできる。
【0036】
上記チューブの内径は3mm以下、好ましくは1mm以下とする。このような構成とすることにより、インクジェットヘッド10のノズルを上方に向けた場合にも、内部に充填された液体が供給口の開放端でメニスカスを形成するので、外部に流出することなく液体を保持することが可能となる。
【0037】
基板30にヘッドチップ20を接着して、インクジェットヘッド10が完成する。ヘッドチップ20は、電気的に接続するだけで単独で加圧室の加圧手段を作動させ、ノズル22から液滴を吐出可能な構成となっている。図4に、ヘッドチップ20の一例として静電駆動方式のヘッドチップの拡大断面図を示す。図4では、基板40および50は省略し、基板30のみ示している。ヘッドチップ20は、電極108が形成された電極基板121、加圧室26を形成する加圧室基板122、およびノズル22が形成されたノズル基板123により構成されている。加圧室26、ノズル22は、供給口16と同数設けられ、それぞれ一対一で対応している。加圧室26に流入した液体は、図示しない共通電極と電極108との間に電圧を加えると、振動板109が弾性変位することによって加圧され、ノズル22から吐出される。尚、電極基板121には、図中下側の面から溝が形成され、その天井部に電極108が形成されているため、電極108と振動板109との間にはわずかな空隙(エアギャップ)が形成されている。本実施形態では、電極108と振動板109とが加圧手段に該当する。加圧室基板122、ノズル基板123、電極基板121の材料は特に限定されないが、吐出する液体に生体試料が含まれる場合には、ガラス、シリコン等が適している。
【0038】
ヘッドチップ20を、基板30に接着することにより、電極基板121および加圧室基板122に設けられた貫通孔が、基板30の貫通孔に接続し、供給口16(図2参照)と加圧室26が連通され、インクジェットヘッド10が完成する。尚、本実施形態では、ヘッドチップのノズルが形成された面と基板30の下側の面とにわずかな段差が存在する構成となっているが、双方を併せて第1の主面12と呼ぶ。
(マイクロアレイ製造装置)
次に、本発明に係る液滴吐出装置について説明する。図5は、本発明に係る液滴吐出装置の一例として、マイクロアレイ製造装置200の構成例を説明する図である。
【0039】
マイクロアレイ製造装置200は、ガラス等のマイクロアレイ基板202上に生体分子を含む試料液体の液滴を複数配置して作製されるマイクロアレイを製造するためのものであり、複数のマイクロアレイ基板202を載置可能に構成されたテーブル204と、インクジェットヘッド10をY方向に自在に移動させるためのY方向駆動軸206と、テーブル204をX方向に自在に移動させるためのX方向駆動軸208と、を備える。また、インクジェットヘッド10を固定するための固定手段210と、インクジェットヘッド10のノズルを上方に向けて固定したときに、ノズルに近接可能な保水性液体保持手段212と、固定手段210と保水性液体保持手段212をZ方向に独立して自在に移動させるためのZ方向駆動軸207と、をも備えている。Z方向駆動軸207は、固定手段210をX方向に自在に移動させる手段も備えている。
【0040】
さらに、マイクロアレイ装置200は、吸引装置222も備えており、吸引装置222をZ方向に移動させるためのZ方向駆動軸220に取り付けられている。また、Z方向駆動軸220には、吐出準備液が準備された吐出準備液プレート224を載置するテーブル226も取り付けられている。
【0041】
一方、テーブル204上には、試料液体を蓄えた96穴のマイクロタイタープレート203が用意される。
【0042】
ここで図6に、インクジェットヘッド10を固定した場合を例にとって、固定手段210を図6における右方向から見た模式図を示す。インクジェットヘッド10は固定手段210に、回転軸216(回転手段)によって固定され、この回転軸216を中心として、インクジェットヘッド10のみを鉛直方向を含む面内で回転させることが可能となっている。図6(A)は、インクジェットヘッド10がノズルを下方に向けて固定されている状態を示し、図6(B)は、ノズルを上方に向けるよう回転させている途中の状態を示す。ノズルが上方または下方を向き、インクジェットヘッド10の基板が水平になった状態(例えば図6(A)に示す状態)で、インクジェットヘッド10は固定手段210に留め具等により固定することができる。
(マイクロアレイ製造方法)
次に、本発明に係るマイクロアレイの製造方法について説明する。図7に、マイクロアレイの製造方法を説明する概略断面図を示し、図5〜図7を参照してその工程を説明する。説明の便宜上、固定手段210は省略されている。本発明に係るマイクロアレイの製造方法は、上述した、本発明に係る液滴吐出装置を用いることにより、好適に行われる。
【0043】
まず、図7(A)に示されるように、ンクジェットヘッド10を、ノズル22が上方を向くように固定手段210により固定した後、Y方向駆動軸206を作動させ、さらに固定手段210をX方向に移動させて、インクジェットヘッド10を吐出準備液プレ
ート224の上方まで移動させる。吐出準備液プレート224には、予め吐出準備液を用意しておく。吐出準備液は、上述したように純水や緩衝液等が好ましい。吐出準備液は、試料液体と同様にマイクロタイタープレートに用意してもよいし、すべての供給口16を一度に浸漬させられる容器に用意してもよく、本実施形態では、後者となっている。
【0044】
続いて、Z方向駆動軸207を作動させ、供給口16を吐出準備液プレート224の吐出準備液に浸漬させる。この状態のまま、吸引装置222が取り付けられたZ方向駆動軸220を作動させ、インクジェットヘッド10のノズル22を覆うように吸引装置222を第1の主面12に密着させる。そして、図7(B)に示されるように、吸引装置222を作動させ、吐出準備液がノズル22の先端に達するまで、吸引を行う。異なる試料を含む試料液体を吸引してノズル22先端まで充填すると、ノズル22先端部でコンタミネーションが起こる可能性があるが、吐出準備液であればそのおそれがない。
【0045】
次に、Z方向駆動軸220を作動させて吸引装置222を上昇させてインクジェットヘッド10からはずし、続いて固定手段210をX方向に移動させて、吸水性液体保持
手段212の下方位置に配置する。吸引装置222を取り外しても、ノズル22の内径が十分に細いので、吐出準備液は供給口の開放端でメニスカスを形成し、流出しない。その後、Y方向駆動軸206およびX方向駆動軸208を作動させ、インクジェットヘッド10および吸水性液体保持手段212をマイクロタイタープレート203の上方に配置する。
【0046】
そして、図7(C)に示されるように、Z方向駆動軸207を作動させ、インクジェットヘッド10の供給口16を、マイクロタイタープレート203の各ウェル中の試料液体に浸漬させる。ここで試料液体としては、マイクロアレイ基板に固定すべき生体分子(例えば、DNA、タンパク質等)を溶解させた緩衝液等を用いることができる。次に、吸水性液体保持手段212を下降させて、ノズル22からの吐出液が吸水性保持手段に到達する距離まで、ノズル22に近接させる。
【0047】
続いて、図7(D)に示されるように、ヘッドチップ20の加圧手段を作動させ、ノズル22から吸水性液体保持手段212中に向かって、吐出準備液体を吐出する。こうすることによって、吐出された液体の体積だけ、マイクロタイタープレート203に蓄えられた試料液体が、供給口16から吸い上げられる。インクジェットヘッド10内の吐出準備液がすべて吐出されるまで、繰り返し加圧手段を作動させると、図7(E)に示すように、ノズル先端まで試料液体で満たすことができる。
【0048】
液滴の吐出は瞬時に行われるため、極めて短時間で、ノズル先端まで試料液体を充填することができると共に、吐出準備液と試料液体の界面がインクジェットヘッド10内の流路13を通過するので、気泡が入ることを防ぐこともできる。尚、吐出準備液と試料液体の界面ではわずかに拡散が起こることも想定されるが、その場合は、拡散が生じた部分も吐出すればよい。また、ノズル22からは上方に向けて吐出準備液が吐出されるが、保水性液体保持手段212に吸収・保持されるので、吐出された液体が重力により落下してノズルの周囲や第1の主面12を汚染するのも抑制することができる。
【0049】
次に、Z方向駆動軸207を作動させて、インクジェットヘッド10を試料液体から引き上げるとともに、保水性液体保持手段212を上昇させ、インクジェットヘッド10の第1の主面12からはずす。そして、固定手段210の回転軸216を中心にインクジェットヘッド10を180度回転させて上下反転し、ノズル22が下方を向くように再度固定する。
【0050】
続いて、Y方向駆動軸206およびX方向駆動軸208をそれぞれ作動させて、インクジェットヘッド10を、マイクロアレイ基板202の上方に配置する。その状態で、Z方向駆動軸を作動させて、ノズル22とマイクロアレイ基板202との距離を調整し、図7(F)に示されるように、加圧手段を作動させて、試料液体をマイクロアレイ基板202表面に吐出する。その結果、マイクロアレイ基板202表面に試料液体中の生体分子が固定され、マイクロアレイが形成される。
【0051】
本発明によれば、このように、液体(試料液体、洗浄液)を、気泡が入ることなく迅速に供給口からインクジェットヘッド内に導入できるので、高性能なマイクロアレイを生産性良く作製することができる。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、ノズル、液体保持部、および供給口の数は96個に限定されず、使用するマイクロタイタープレート等の試料容器のウェルの数に合わせて自由に変更できる。また、吐出する液体は、生体分子を含むものに限られず、インクジェットヘッドから吐出できるものである限り、その種類を問わない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る液滴吐出ヘッドを示す斜視図である。
【図2】本発明に係る液滴吐出ヘッドの断面図の一例である。
【図3】本発明に係る液滴吐出ヘッドを構成する基板の平面図の一例である。
【図4】本発明に係る液滴吐出ヘッドのヘッドチップの断面図の一例である。
【図5】本発明に係る液滴吐出装置の一例である。
【図6】本発明に係る液滴吐出装置の固定手段の動作を示す説明図である。
【図7】本発明に係るマイクロアレイ製造方法の工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
10…液滴吐出ヘッド、12…第1の主面、14…第2の主面、16…供給口、13…流路、13’…溝、20…ヘッドチップ、22…ノズル、26…加圧室、30、40、50…基板、42、52…貫通孔、200…液滴吐出装置、202…マイクロアレイ基板、203…マイクロタイタープレート、204…テーブル、206…Y方向駆動軸、207、220…Z方向駆動軸、208…X方向駆動軸、210…固定手段、212…保水性液体保持手段、216…回転軸、222…吸引装置、224…吐出準備液プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面に形成されたノズルと、前記ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を備えた加圧室と、前記加圧室と連通した液体収容部と、前記液体収容部に液体を供給するための供給口と、を備え、前記供給口が、前記第1の主面に対向する第2の主面から突出するように設けられている液滴吐出ヘッドを装着した液滴吐出装置を使用して、マイクロアレイを製造する方法であって、
前記液滴吐出ヘッドの前記供給口から前記ノズル先端まで、吐出準備液を充填する第1工程と、
前記供給口のそれぞれを、マイクロアレイ基板に固定される試料を含む試料液体中に浸漬させる第2工程と、
保水性を有する液体保持手段を、前記ノズルに近接させる第3工程と、
前記供給口を前記試料液体中に浸漬させたまま前記加圧手段を作動させ、前記吐出準備液を前記ノズルから前記保水性液体保持手段内にすべて吐出することにより、該試料液体をノズル先端まで充填する第4工程と、
前記加圧手段を作動させて、マイクロアレイ基板に前記試料液体を吐出する第5工程と、を含むマイクロアレイ製造方法。
【請求項2】
前記第1工程は、
前記供給口を前記吐出準備液に浸漬させる工程と、
前記ノズルから前記液滴吐出ヘッド内の気体または液体を吸引して、前記吐出準備液をノズル先端まで充填させる工程と、を含む、請求項1に記載のマイクロアレイ製造方法。
【請求項3】
前記吐出準備液が、純水または前記試料液体に含まれる緩衝液である、請求項1または2に記載のマイクロアレイ製造方法。
【請求項4】
第1の主面に形成されたノズルと、前記ノズルから吐出する液体に加圧するための加圧手段を備えた加圧室と、前記加圧室と連通した液体保持部と、前記液体保持部に液体を供給するための供給口と、を備え、前記供給口が、前記第1の主面に対向する第2の主面から突出するように設けられている液滴吐出ヘッドを装着して用いられる液滴吐出装置であって、
前記ノズルを上方または下方に向けて、前記液滴吐出ヘッドを固定することが可能な固定手段と、
前記ノズルを上方に向けて固定したときに、該ノズルに近接させることが可能な保水性液体保持手段と、を備える液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ノズルを上方に向けて固定したときに、該ノズルを覆って前記第1の主面に密着し、前記液滴吐出ヘッド内の気体または液体を該ノズルから吸引可能な吸引手段を備える、請求項4に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記固定手段が、前記液滴吐出ヘッドの上下を反転させる回転手段を備えている、請求項4または5に記載の液滴吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−51883(P2007−51883A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235513(P2005−235513)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】