説明

マイクロチップおよびその製造方法

【課題】流体回路を構成する第1の基板の溝全体が確実に表面処理されているマイクロチップおよび、塵や埃を発生させることなく、また、基板間の接合性が十分に高い、第1の基板の溝全体が確実に表面処理されたマイクロチップの製造方法を提供する。
【解決手段】表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝を有する側の面が該第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなるマイクロチップであって、第1の基板が有する溝の側壁面および底面は、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップおよびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、小サイズのチップ内で行なえることから、サンプルおよび試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、サンプルを採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有し、たとえば血液検査等の生化学検査用などとして好適に用いられている。
【0004】
かかるマイクロチップはその内部に流体回路を備えており、該流体回路は、流体回路内に導入された検体(検査・分析の対象となる物質。たとえば血液などが挙げられる。)に対して適切な処理を行なうことができるよう、各種の部位を有し、これらの部位は微細な流路によって適切に接続されている(内部に流体回路を有するマイクロチップの一例として、たとえば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−239538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記流体回路を備えるマイクロチップは、たとえば、流体回路を構成するパターン溝が形成された第1の基板と、第2の基板とを、第1の基板の溝形成面が第2の基板との貼り合わせ面となるように貼合することによって作製することができる。この際、第1の基板の溝形成面には、流体回路内を移動する液体の制御性の向上、流体回路内壁面への液体の付着残留防止のため、あらかじめ、撥水処理剤等の表面処理剤を塗布する場合がある。
【0006】
ここで、第1の基板と第2の基板とを貼合する方法としては、少なくとも一方の基板の貼り合わせ接触面を融解させることにより貼合を行なう溶着法を好適に用いることができるが、第1の基板の貼り合わせ接触面に表面処理剤が塗工されていると、基板の溶着が困難になることがあるため、当該貼り合わせ接触面上の表面処理剤層を除去する必要がある。表面処理剤層を除去する方法としては、たとえば、第1の基板の溝形成面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布した後、該塗布液層を乾燥させることなく、貼り合わせ接触面上の塗布液層を拭き取る方法が挙げられる。しかし、この方法では、流体回路を構成する溝に塗工された塗布液までもが拭き取られてしまったり、溝に塗工された塗布液が貼り合わせ接触面に付着してしまうという問題があった。
【0007】
また、貼り合わせ接触面上の表面処理剤層を除去する別の方法としては、第1の基板の溝形成面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布した後、該塗布液層を乾燥させ、貼り合わせ接触面上の乾燥された表面処理剤からなる塗膜を研磨する方法を挙げることができる。しかし、この方法では、研磨により発生したパーティクルが流体回路内に付着し得るという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、流体回路を構成する第1の基板の溝全体が確実に表面処理されているマイクロチップを提供することである。また、本発明の別の目的は、パーティクルを発生させることなく、また、基板間の接合性が十分に高い、第1の基板の溝全体が確実に表面処理されたマイクロチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝を有する側の面が該第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなるマイクロチップであって、第1の基板が有する溝の側壁面および底面は、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップを提供する。ここで、本発明においては、第1の基板が有する全ての溝の側壁面および底面が、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されていることが好ましい。また、第1の基板における第2の基板との接触面は、表面処理剤を含有する塗膜(もしくは表面処理剤)を有しないことが好ましい。
【0010】
本発明において第2の基板は、黒色基板とすることができる。また、上記表面処理剤としては、たとえば撥水処理剤を好適に挙げることができる。上記塗膜の厚みは、0.01〜10μmであることが好ましい。
【0011】
また本発明により、表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝を有する側の面が該第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなり、第1の基板が有する溝の側壁面および底面が、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップを製造するための方法であって、以下の工程を含むマイクロチップの製造方法が提供される。
(1)上記第1の基板における溝を有する側の面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布する工程、
(2)塗布された上記塗布液を乾燥させて塗膜を得る工程、
(3)上記塗膜のうち、第2の基板との貼合時に第2の基板表面と接触する面上の塗膜を、液体を用いて濡らす工程、
(4)上記濡らされた塗膜を除去する工程、および、
(5)第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる工程。
【0012】
上記液体は、上記表面処理剤を含有する塗布液または上記表面処理剤を溶解させることができる溶剤であることが好ましい。表面処理剤としては、たとえば撥水処理剤を好適に挙げることができる。
【0013】
上記塗布液を乾燥させて塗膜を得る工程において得られる塗膜の厚みは、0.01〜10μmであることが好ましい。
【0014】
上記第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる工程は、少なくともいずれか一方の基板の貼り合わせ面を融解させる工程を含むことが好ましく、第2の基板を黒色基板とし、少なくとも第2の基板の貼り合わせ面が融解されることがより好ましい。基板の貼り合わせ面の融解は、たとえばレーザを用いて行なうことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流体回路を構成する第1の基板の溝が確実に表面処理されたマイクロチップを提供し得る。また、パーティクルを発生させることなく、基板間の接合性が十分に高いマイクロチップを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<マイクロチップ>
本発明のマイクロチップは、基板表面に溝が形成された透明基板である第1の基板の溝形成側表面上に、第2の基板を貼り合わせてなる内部に流体回路を有するマイクロチップである。該流体回路は、第1の基板表面に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とによって構成されている。マイクロチップの大きさは、特に限定されないが、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0017】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、流体回路内の流体(特には、液体)に対して適切な様々な処理を行なうことができるよう、流体回路内の適切な位置に配置された種々の部位を備えており、これらの部位は、微細な流路を介して適切に接続されている。
【0018】
上記部位としては、特に限定されるものではないが、液体試薬を保持するための液体試薬保持部、検体(または該検体中の特定成分。以下、単に検体とも称する。)や液体試薬を計量するための計量部、計量された液体試薬と検体とを混合するための混合部、該混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)を行なうための検出部などを挙げることができる。必要に応じてさらに別の部位が設けられてもよい。計量部は、所定の容量を有しており、検体や液体試薬を計量部に導入することにより、所定量の検体や液体試薬を計り取ることができる。なお、液体試薬とは、マイクロチップを用いて行なわれる検査・分析の対象となる検体を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の液体試薬保持部に内蔵されている。検出部に導入された上記混合液等の被測定物は、特に限定されないが、たとえば、検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法等の光学測定などに供され、検体の検査・分析などが行なわれる。
【0019】
検体や液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、典型的には、マイクロチップを、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なわれる。
【0020】
以下、本発明のマイクロチップについて、好ましい一実施形態を示して詳細に説明する。図1は、本発明の好ましい一実施形態のマイクロチップ100を構成する、基板表面に溝が形成された第1の基板101の当該溝が形成されている側の面を示す概略上面図である。なお、本発明のマイクロチップが有する流体回路構造は、図1に示されるものに限定されるものではなく、いかなる流体回路構造であってもよい。本実施形態のマイクロチップ100は、図1に示される第1の基板101の溝形成側表面に第2の基板120(図1において図示せず)を溶着法により貼り合わせることによって作製される。図1に示される第1の基板101は透明基板であり、また、第2の基板120は、本実施形態において黒色基板である。第2の基板120は、第1の基板101と略同一の外形を有する平板状の基板である。第1の基板101の溝と第2の基板120の貼り合わせ面(第1の基板側表面)とによって流体回路が形成されている。マイクロチップ100は、血液から血漿成分を取り出し、該血漿成分について検査・分析を行なうマイクロチップとして好適に適用され得る流体回路構造を有している。なお、本発明の他の実施形態において第2の基板は、必ずしも平板状である必要はなく、第2の基板表面にも流体回路を構成する溝が形成されていてもよい。
【0021】
図1を参照して、マイクロチップ100が有する流体回路は、被験者から採取された血液を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部102、サンプル管より導出された血液から血球成分などを除去して血漿成分を得る血漿分離部103、分離された血漿成分を計量するための検体計量部104、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部105aおよび105b、液体試薬を計量するための液体試薬計量部106aおよび106b、血漿成分と液体試薬とを混合するための混合部107a〜107d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部108から主に構成される。マイクロチップ100は、あらかじめ流体回路内に液体試薬が内蔵された「液体試薬内蔵型マイクロチップ」であり、該液体試薬は、液体試薬保持部105aおよび105bに形成された、第1の基板101の厚み方向に貫通する貫通穴である液体試薬導入口170a、170bを介して、マイクロチップ100における第1の基板101側表面側から注入される。これら液体試薬導入口の開口部は、マイクロチップ100における第1の基板101側表面に封止用ラベルなどを貼合することによって封止される。
【0022】
図1を参照して、本実施形態のマイクロチップ100の動作方法の一例について説明しておく。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、被験者から採取された血液を含むサンプル管をサンプル管載置部102に搭載する。次に、マイクロチップ100に対して、図1における左向き方向(以下、単に左向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の血液を取り出した後、下向きの遠心力により、血液を血漿分離部103に導入して遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。この際、過剰の血液は、廃液溜め109aに収容される。また、この下向き遠心力により、液体試薬保持部105a内の液体試薬Xは、液体試薬計量部106aに導入され計量される。液体試薬計量部106aから溢れ出た液体試薬Xは、液体試薬計量部106aの出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め109aに収容される。
【0023】
ついで、分離された、血漿分離部103内の血漿成分を、右向き遠心力により検体計量部104に導入し、計量する。検体計量部104から溢れ出た血漿成分は、検体計量部104の出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め109bに収容される。また、計量された液体試薬Xは、混合部107bに移動するとともに、液体試薬保持部105b内の液体試薬Yは、液体試薬保持部105bから排出される。
【0024】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分および計量された液体試薬Xは、混合部107aに移動するとともに、混合される。また、液体試薬Yは、液体試薬計量部106bに導入され、計量される。液体試薬計量部106bから溢れ出た液体試薬Yは、液体試薬計量部106bの出口側端部に接続された流路を通って、廃液溜め109cに収容される。ついで、右向き、下向き、右向き遠心力を順次印加して、血漿成分と液体試薬Xとの混合液を混合部107aおよび107b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、血漿成分と液体試薬Xとの混合液と計量された液体試薬Yとを混合部107cにて混合させる。ついで、左向き、上向き、左向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部107cおよび107d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、右向き遠心力により、混合部107c内の混合液を検出部108に導入する。検出部108内に収容された混合液は、たとえば上記したような光学測定に供され、検査・分析が行なわれる。
【0025】
以上のように、適切な方向の遠心力の印加により、流体回路内に導入された検体に対して適切な処理がなされて、検査・分析に供される混合液が流体回路内で調製され、検出部に導入される。
【0026】
図2は、本実施形態のマイクロチップを模式的に示す断面図である。ただし、第1の基板101に形成されている溝のパターンは、一例を示したものに過ぎず、また、図1に示される溝パターン形状と必ずしも一致するものではない。図2に示されるように、本実施形態のマイクロチップ100は、第1の基板101の溝形成面側に第2の基板120を貼り合わせてなる。当該溝と第2の基板120の基板表面とによって流体回路200が形成されている。
【0027】
第1の基板101が有する溝の側壁面および底面は、表面処理剤を含有する塗膜210によって被覆されている。表面処理剤とは、流体回路内壁面に特定の性状を付与する薬剤を意味する。表面処理剤としては、特に限定されないが、たとえば、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の撥水処理剤、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等のタンパク吸着抑制剤などを挙げることができる。撥水処理剤の塗膜を溝の側壁面および底面、すなわち、流体回路の内壁面のうち天井面以外の部分に形成することにより、流体回路内を移動する液体(検体、液体試薬、およびこれらの混合物など)の制御性を向上させることができ、また、流体回路内壁面への該液体の付着残留を防止することができる。表面処理剤による効果が流体回路全体にわたって発揮されるよう、表面処理剤の塗膜は、第1の基板101が有する全ての溝の側壁面および底面に形成されていることが好ましい。
【0028】
塗膜210の厚さは、所望の効果が得られる限りにおいて特に制限されるものではない。たとえば、撥水処理剤の塗膜を形成する場合、上記した流体回路内を移動する液体(試料、液体試薬、およびこれらの混合物など)の制御性向上や流体回路内壁面への該液体の付着残留の防止等の効果が得られる限り、その塗膜の厚みは特に制限されない。表面処理剤を含有する塗膜210の厚みは、たとえば、0.01〜10μmであり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0029】
第1の基板101における第2の基板120との接触面220、221は、表面処理剤を含有する塗膜を有しないことが好ましい。これにより、第2の基板120との接合性を向上させることができる。また、第2の基板120の貼り合わせ面を融解させて基板の貼合を行なう場合においては、基板の貼合が困難であるか、または基板同士の接合性が低くなる傾向にある。
【0030】
流体回路を構成する溝が設けられる第1の基板101は、上記したように透明基板である。第1の基板101を透明基板で構成することにより、流体回路の一部である検出部の主要部分を透明基板から構成することができる。これにより、検出部の一方の側壁面に向けて出射した光を他方の側壁面から取り出すことができるため、上記混合液等の被測定物を収容した検出部に光を照射し、その透過光の透過率を測定するなどの光学測定を行なうことが可能となる。また、第1の基板101を透明基板とし、第2の基板120をたとえば黒色基板等の着色基板とすれば、第1の基板101上に第2の基板120を配置し、第1の基板101側からレーザ光を照射して基板を融解させることにより貼合を行なうレーザ溶着法を適用した場合、光を吸収しやすい第2の基板120が主に融解されることとなるため、第1の基板101に形成された溝の変形を抑制または防止することができる。また、表面処理剤は、融解しないまたは融解されにくい第1の基板101上に被覆されているので、レーザ溶着時に発生する熱によって表面処理剤が改質するなど、表面処理剤が劣化する可能性を低減させることができる。
【0031】
第1の基板101、第2の基板120はそれぞれ、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、環状ポリオレフィン(COP)などから構成することができる。第1の基板101、第2の基板120を構成する樹脂は、上記樹脂のほか、上記樹脂を構成するモノマー成分と該モノマー成分と共重合可能な他のモノマー成分との共重合体であってもよい。着色基板を用いる場合には、上記樹脂中に、たとえばカーボンブラックなどの顔料成分を添加すればよい。第1の基板101および第2の基板120の材質は異なっていてもよいが、接合性、溶着性向上のためには同じ材質を用いることが好ましい。
【0032】
<マイクロチップの製造方法>
次に、本発明のマイクロチップの製造方法について詳細に説明する。本発明のマイクロチップの製造方法は、表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、該第1の基板における溝を有する側の面が該第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなり、第1の基板が有する溝の側壁面および底面が、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップを作製するために好適に用いることができる。
【0033】
本発明のマイクロチップの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)第1の基板における溝を有する側の面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布する工程、
(2)塗布された上記塗布液を乾燥させて塗膜を得る工程、
(3)上記塗膜のうち、第2の基板との貼合時に第2の基板表面と接触する面上の塗膜を、液体を用いて濡らす工程、
(4)上記濡らされた塗膜を除去する工程、および、
(5)第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる工程。
以下、各工程について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3は、本発明のマイクロチップの製造方法の一例を示す概略工程図であり、製造途中のいくつかの段階におけるマイクロチップを構成する基板の概略断面図を示すものである。
【0034】
(1)表面処理剤塗布工程
本工程において、まず、第1の基板301を用意し(図3(a))、第1の基板301における溝を有する側の面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布する。図3(a)に示される第1の基板301は透明基板であり、その一方の表面に、流体回路を構成する溝303、304、305および306を有している。なお、溝の数および形状(幅、深さ等)は、特に制限されるものではなく、所望する流体回路の構造に応じて適宜のパターンとすることができる。このような溝が形成された基板は、かかる溝パターンの転写構造を有する金型を用いて作製することができる。第1の基板301の材質としては、上記したものを挙げることができる。
【0035】
表面処理剤を含有する塗布液は、表面処理剤の他、該表面処理剤を溶解、分散または希釈するための溶剤を含む。必要に応じてその他の添加剤が添加されていてもよい。本発明において用いられる塗布液は、表面処理剤が溶剤に溶解されて溶液状となっている場合、固体状の表面処理剤が溶剤に分散されているスラリー状である場合等を含む。表面処理剤の具体例としては、上記したものを挙げることができる。
【0036】
塗布液の塗布量は、上記した流体回路内を移動する液体(試料、液体試薬、およびこれらの混合物など)の制御性向上や流体回路内壁面への該液体の付着残留の防止等の表面処理剤によって付与される効果が得られる限り、特に制限されるものではなく、当該分野において通常採用される程度の塗布量が採用される。塗布液の塗布量は、たとえば、乾燥後の塗膜の厚みが0.01〜10μm程度、好ましくは0.1〜1μm程度となるように調整される。
【0037】
塗布液の塗布方法としては、特に限定されないが、たとえば、スプレー塗布、ディップ塗布等を挙げることができる。なお、当該塗布工程の前に、塗布液が塗布される表面の洗浄を行なう工程を設けてもよい。洗浄液としては、たとえばHFE(ハイドロフルオロエーテル)などのような代替フロン系洗浄剤を用いることができる。
【0038】
(2)乾燥工程
次に、塗布された塗布液を乾燥させて表面処理剤を含有する塗膜310を得る(図3(b))。乾燥は、たとえば送風機等を用いて、20〜80℃の条件下で行なうことができる。乾燥を行なわずに、後述する表面処理剤除去工程を実施すると、第2の基板との接触面上の表面処理剤だけでなく、溝の側壁面および/または底面に形成された表面処理剤まで除去されてしまったり、逆に溝の側壁面または底面に形成された表面処理剤が、第2の基板との接触面上に付着したり場合があるためである。
【0039】
(3)濡らし工程
次に、上記塗膜のうち、第2の基板との接触面(第2の基板との貼合時に第2の基板表面と接触する面)320、321上の塗膜を、液体を用いて濡らす(図3(c))。該液体としては、特に制限されないが、表面処理剤を含有する塗布液自体または該塗布液中に含有される溶剤を好適に用いることができる。当該塗膜を溶解し得る他の溶剤を用いることも可能である。このような液体を用いて、第2の基板との接触面320、321上の塗膜を濡らすことにより、該塗膜は、典型的には、該液体によって溶解される。塗膜を液体を用いて濡らす方法としては、たとえば、スタンプ方式、ローラー方式、スクリーン印刷方式等を挙げることができる。
【0040】
このような濡らし工程を設けることにより、次のような問題を回避することができ、容易に、表面処理剤を含有する塗膜を有しない、平坦な貼り合わせ接触面を得ることができる。
(i)塗布した表面処理剤を含有する塗布液の乾燥を行なうことなく、拭取り紙等を用いて塗布液を除去する場合に生じ得る、第2の基板との接触面上の表面処理剤だけでなく、溝側壁面および/または底面上の表面処理剤まで除去されたり、溝側壁面または底面上の表面処理剤が、第2の基板との接触面上に付着したりするという問題、および、
(ii)塗布液の乾燥を行なった後、研磨紙等を用いて第2の基板との接触面を研磨することにより塗膜を除去する場合に生じ得る、塗膜のパーティクルなどが発生するという問題。
【0041】
(4)表面処理剤除去工程
ついで、第2の基板との接触面320および321上の濡らされた塗膜310a(図3(c)参照)を除去する(図3(d))。これにより、第2の基板と第1の基板との接合性が向上する。濡らされた塗膜310aの除去は、たとえば、拭取り紙(ワイパー)上に第1の基板301を押し付けて移動させる「拭取り」などの方法により行なうことができる。
【0042】
(5)基板貼合工程
最後に、第1の基板301と、第2の基板330とを貼り合わせる(図3(e))。第2の基板330は、必ずしも平板状である必要はなく、第2の基板330表面にも流体回路を構成する溝が形成されていてもよい。第2の基板を構成する材質としては、上記したものを挙げることができる。
【0043】
基板の貼り合わせ方法としては、特に限定されるものではないが、たとえば第1の基板、第2の基板の少なくとも一方の貼り合わせ面を融解させて溶着させる溶着法;接着剤を用いて接着させる方法などを挙げることができる。貼り合わせ時における流路変形の抑制、接着剤の流体回路へのはみ出しや接着剤と試薬との反応による悪影響を考慮すると、溶着法により貼り合わせることが好ましい。溶着法としては、レーザを用いて基板の貼り合わせ面を融解させるレーザ溶着のほか、熱溶着、超音波溶着などが挙げられる。なかでも、貼り合わせ面近傍のみを融解させることができることから、レーザ溶着法を用いることが好ましい。
【0044】
レーザ溶着法においては、まず、第1の基板301の溝が形成されている側の表面上に第2の基板330を位置合わせを行ないつつ積層する。次に、透明基板である第1の基板301側からレーザ光を、基板貼り合わせ面に向けて照射し、レーザ光を吸収することにより発生する熱によりいずれかもしくは両方の基板の貼り合わせ面を融解させる。この際、第2の基板330を着色基板、好ましくは黒色基板とすれば、第2の基板330の光吸収率が第1の基板301に比べて高くなるため、主に第2の基板330の貼り合わせ面が融解されることになる。したがって、第2の基板330を着色基板(好ましくは黒色基板)とすることにより、基板貼合時における第1の基板301が有する溝の変形を抑制、防止することができる。ついで、当該第1の基板と第2の基板との積層体に対して圧力を印加して圧着することにより、マイクロチップを得る。
【0045】
上記本発明の方法によれば、基板間の接合性が高く、第1の基板が有する溝に確実に表面処理が施されたマイクロチップを、塗膜に由来する塵や埃などを発生させることなく製造することが可能となる。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の好ましい一実施形態のマイクロチップを構成する、基板表面に溝が形成された第1の基板の当該溝が形成されている側の面を示す概略上面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態のマイクロチップを模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のマイクロチップの製造方法の一例を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0048】
100 マイクロチップ、101,301 第1の基板、102 サンプル管載置部、103 血漿分離部、104 検体計量部、105a,105b 液体試薬保持部、106a,106b 液体試薬計量部、107a,107b,107c,107d 混合部、108 検出部、109a,109b,109c 廃液溜め部、120,330 第2の基板、170a,170b 液体試薬導入口、200 流体回路、210,310 表面処理剤を含有する塗膜、220,221,320,321 第2の基板との接触面、303,304,305,306 溝、310a 濡らされた塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝を有する側の面が前記第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなるマイクロチップであって、
前記第1の基板が有する溝の側壁面および底面は、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップ。
【請求項2】
前記第1の基板が有する全ての溝の側壁面および底面が、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されている請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第1の基板における前記第2の基板との接触面は、表面処理剤を含有する塗膜を有しない請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第2の基板は、黒色基板である請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記表面処理剤は、撥水処理剤である請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記塗膜の厚みは、0.01〜10μmである請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
表面に溝が形成された透明基板である第1の基板と、第2の基板とを、前記第1の基板における溝を有する側の面が前記第2の基板との貼り合わせ面となるように貼り合わせてなり、前記第1の基板が有する溝の側壁面および底面が、表面処理剤を含有する塗膜によって被覆されているマイクロチップを製造するための方法であって、
前記第1の基板における溝を有する側の面全体に表面処理剤を含有する塗布液を塗布する工程と、
塗布された前記塗布液を乾燥させて塗膜を得る工程と、
前記塗膜のうち、前記第2の基板との貼合時に前記第2の基板表面と接触する面上の塗膜を、液体を用いて濡らす工程と、
前記濡らされた塗膜を除去する工程と、
前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程と、
を含むマイクロチップの製造方法。
【請求項8】
前記液体は、前記表面処理剤を含有する塗布液または前記表面処理剤を溶解させることができる溶剤である請求項7に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項9】
前記表面処理剤は、撥水処理剤である請求項7または8に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項10】
前記塗布液を乾燥させて塗膜を得る工程において得られる前記塗膜の厚みは、0.01〜10μmである請求項7〜9のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項11】
前記第1の基板と前記第2の基板とを貼り合わせる工程は、少なくともいずれか一方の基板の貼り合わせ面を融解させる工程を含む請求項7〜10のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項12】
前記第2の基板は黒色基板であり、少なくとも前記第2の基板の貼り合わせ面が融解される請求項11に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項13】
基板の貼り合わせ面の融解は、レーザを用いて行なわれる請求項11または12に記載のマイクロチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−128341(P2009−128341A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307193(P2007−307193)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】