説明

マイクロ波発振器

【課題】製作が容易で安価な多層基板の使用により高いQ値の発振用共振器を構成でき、良好な位相雑音特性を実現可能なマイクロ波発振器を提供する。
【解決手段】FR4多層基板A上の外層パターンに電気部品が搭載され、その上に、電気部品と干渉しないように窓b1、b2を空けた形状に加工された基板Bが重ねられ、このとき、上部基板BのFR4多層基板Aと接触する側には図示しないマイクロストリップラインの導体パターンが形成され、このマイクロストリップラインの導体パターンの端部の一部と多層基板の内層パターンの一部は、コンデンサを形成するように容量結合し、さらにその上に金属製ケースCが重ねられ、ビスにより固定されるため、発振周波数の変動を防止でき、発振周波数帯の変更、微調整が容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波発振器に関し、特に共振器を備えるマイクロ波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
図8、9は従来のマイクロ波発振器の構成を示す図である。図8は電子部品を搭載した基板上の共振器部分に別の基板を接続した例を示しており、図9は同基板上の共振器部分に同軸線路を接続した例を示している。この発振器は電子部品を搭載した基板に、共振器を構成する別のマイクロストリップラインを形成した基板(共振器基板)や同軸線路をそれぞれ両端にコンデンサを介して半田付けなどで接続したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図8、9に示された従来の発振器では、共振器基板や同軸線路等が電子部品を実装した基板上に個別部品のコンデンサにより接続、固定するものであるから、マイクロストリップライン基板や同軸線路が部品実装基板に電気的に確実に接続されているだけでなく、機械的にも部品実装基板に対してよく固定されていないと、共振器基板や同軸線路が浮いたり移動したり振動したりすることにより発振周波数の変動が起こる可能性がある。また、電子部品を搭載した基板と共振器基板や同軸線路等の熱膨張係数の違いにより接続、固定部分への機械的ストレスや変動の発生を十分考慮する必要がある。
このように、従来の発振器は発振周波数の安定性が良くなく調整も困難であって特性上の問題があり、これらを考慮すると製作が困難で高価となる。
【0004】
本発明の目的は、以上の問題を解決するものであり、製作が容易で安価な多層基板の使用により高いQ値の発振用共振器を構成でき、良好な位相雑音特性を実現可能なマイクロ波発振器を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、発振用共振器に形成する小さい容量のコンデンサの容量値を好適に設定することが容易で、容量精度を共振器等のパターン精度及び多層基板の外層の厚さ精度と同等とし、発振の安定性が良好なマイクロ波発振器を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、基板を重ね合わせによる堅牢に固定可能であり熱膨張係数の違いによる基板等の機械的変動、浮きや振動を防止し、発振周波数の変動を防止できるマイクロ波発振器を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、共振器を構成する導体パターンが形成された基板を選択的に使用したり、重ね合わせ時の調整により、調整用パターンの使用せずに発振周波数帯の変更、微調整が可能なマイクロ波発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマイクロ波発振器は、外層面に外層パターンと発振素子を含む電子部品とが設けられ、内層に前記外層パターンと電気的に接続された内層パターンが形成された多層基板と、前記多層基板の外層面に搭載され、前記電気部品との干渉を回避するように設けられた開口と共振器を構成する導体パターンが接触面に形成された基板と、を備え、前記多層基板の内層パターンの一部と前記基板の導体パターンの一部は容量結合することを特徴とし、前記多層基板の内層パターンは一対の内層パターンでなり、前記共振器はマイクロストリップラインを構成する導体パターンとして形成され、前記導体パターンの両端が前記一対の内層パターンとそれぞれ容量結合し、前記多層基板の一対の内層パターンは、一方の内層パターンが前記発振素子の制御電極に接続され、他方が可変容量素子に接続されたことを特徴とする。
【0009】
また、前記マイクロストリップラインを構成する導体パターンの両端部及び前記内層パターンの一部に容量結合用の拡大した電極パターンが形成することができ、前記基板はテフロン基板とすることができる。更に、前記基板の導体パターンと反対側の面に前記電気部品を収容する空洞部が形成された金属製ケースを備え、基板を多層基板とで挟みつけビスにより堅牢に固定し、例えばコルピッツ発振器を構成することを特徴とする。
【0010】
本発明のマイクロ波発振器は、例えばマイクロストリップライン共振器を用いたマイクロ波発振器において、FR4多層基板A上の外層パターン(例えば図1、4の15)に電気部品が搭載され、その上に、電気部品と干渉しないように窓(例えば図1、5のc1、c2)を空けた形状に加工された基板Bが重ねられ、このとき、上部基板BのFR4多層基板Aと接触する側にはマイクロストリップラインの導体パターン(例えば図5の17)が形成され、このマイクロストリップラインの導体パターンの一部(例えば図5、7の17a、17b)と多層基板の内層パターンの一部(例えば図4、7の16a、16b)は、容量結合するように設計されており、さらにその上に金属製のケースCが重ねられ、ビス等により堅牢に固定された構造を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内層パターンが形成された多層基板と共振器となる導体パターンを形成した基板との重ね合わせにより発振器の共振器を構成したことにより、前記基板のみに損失が小さい、例えばテフロン(登録商標)基板等を使用することにより共振器のQ値を高くすることが可能となり、良好な位相雑音特性を実現すること可能である。つまり、共振器に係る前記基板以外の回路基板については、低価格の多層基板の使用が可能であり、例えばFR4基板のような材質の基板を用いても高いQ値の共振器を安価に容易に構成することが可能である。
【0012】
また本発明によれば、多層基板の内層パターンと共振器となる導体パターンの一部を多層基板の外層を挟んで容量結合することによりコンデンサを実現しているから、マイクロストリップライン等の共振器の両端のコンデンサの設計自由度が大きくとれる利点を有する。一般に、共振器を発振素子等と接続するコンデンサ(10、11)は、小さな容量で且つ特定の容量値に設定することによって発振の安定度の向上が期待できるが、小さい容量のコンデンサを標準的な部品の中から選択しようとした場合、その容量値は任意に選ぶことはできない。本発明ではコンデンサの容量は導体パターンの重なり面積と多層基板の外層(第1層)の厚さで決定されるから、任意の容量値が選べることと、容量精度がパターン精度および厚さ精度と同等であって、容量値設定及び精度が極めて良好である。
【0013】
更に本発明では、部品が搭載されている多層基板とマイクロストリップライン等の共振器の導体パターンを形成する基板の間に、半田付けなどによる接続、固定を行う必要がなく、2つの基板を重ね合わせるだけで製作可能であり製作が容易である。また、周波数帯の異なる導体パターンが形成された基板を選択的に使用したり、多層基板への導体パターンが形成された基板の重ね合わせ時の調整により、調整用パターンを使用する調整等が不要であり発振周波数帯の変更、微調整も容易である。
【0014】
また本発明では、多層基板に対する共振器の導体パターンが形成された基板を金属製ケースとともに重ね合わせる構造とするものであるから、それぞれが四隅等の必要数のネジ等で堅牢に固定することが可能であり、基板の浮きや振動を防止でき、発振周波数の変動を抑制することが可能である。また、本発明では金属製ケースで完全に挟み込まれた構造とするものであるから、多層基板とその上に搭載される基板等の熱膨張係数の違いによる機械的ストレスを考慮する必要がないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(構成の説明)
本発明のマイクロ波発振器の一実施の形態をコルピッツ型発振器の例により詳細に説明する。
図1は本実施の形態のコルピッツ型発振器の実体図である。マイクロ波発振器を構成する各電子部品はFR4多層基板A上に配置されている。その上に、FR4多層基板上の電子部品と干渉しないように窓(開口b1、b2)を空けた形状に加工されたテフロン基板Bが重ねられ、テフロン基板BにはFR4多層基板Aと接触する側に図示していない導体パターンが形成されている。さらに、その上部に、金属製のケース(メタルケース)Cが重ねられ、メタルケースCにも電子部品と干渉しないように、テフロン基板Bと接触する側に掘り込み(c1、c2)の加工(ザグリ加工)がされている。これらはビス等で固定され、全体として本実施の形態のコルピッツ型発振器の回路が構成される。
【0016】
図2は図1に示すコルピッツ型発振器の等価回路の構成を示す図である。本実施の形態のマイクロ波発振器は、図2に示すようにマイクロストリップライン2を共振器とし、その両側にコンデンサ(1)10及びコンデンサ(2)11を介して、それぞれ発振素子としてのトランジスタ1及び発振周波数の制御用のバラクタダイオード3が接続されたコルピッツ型発振器を構成している。
【0017】
トランジスタ1は、コレクタ接地形に接続され、エミッタは必要によりマイクロストリップラインのスタブが接続されるとともに、エミッタ抵抗4及びパスコン(1)8を介して接地され、エミッタ抵抗4及びパスコン(1)8の接続点にトランジスタバイアス端子12が接続され、前記接続点とベース、前記ベースと接地間にそれぞれベース電圧印加抵抗(1)5及びベース電圧印加抵抗(2)6が接続され、トランジスタ1にはバイアス端子12からバイアス用の抵抗4、5、6を介して電源が供給される。
【0018】
また、バラクタダイオード3は一方の電極が接地され、他方の電極と前記コンデンサ(2)11の接続点は、コイル7とパスコン(2)9を介して接地され、コイル7とパスコン(2)9の接続点はバラクタダイオードバイアス端子13が接続され、バイアス端子13を介してバラクタダイオード3に電圧が印加され、その容量が変化することにより発振出力の周波数変調が生じる。
【0019】
ここでマイクロストリップライン2の両端のコンデンサ10及び11は、発振素子であるトランジスタ1と共振器であるマイクロストリップライン2との結合が疎になるように少容量のコンデンサとして接続されているものであり、この容量値の特定値への設定により発振の安定度を高めている。
【0020】
次に、本実施の形態のコルピッツ型発振器の基板、ケースの構造についてより詳細に説明する。
図3は本実施の形態のFR4多層基板の電気部品の実装構造を示す図である。図3に示すように、FR4多層基板A上には、それぞれ左右に離隔した導体パターン15が形成され、それぞれに発振トランジスタ1側の電子部品とバラクタダイオード3側の電子部品とが実装されている。
【0021】
図4は本実施の形態のFR4多層基板の内層パターンを示す図である。FR4多層基板Aは、外層(第1層)の導体パターン(外層パターン)15のうち、トランジスタ1のベース電極の端子が接続される導体パターンとスルーホール14aを介して電気的に接続された第2層の導体パターン(内層パターン)16の一部16aがバラクタダイオード3側に対向して設けられており、また、バラクタダイオード3側にもコイル7と接続される導体パターンとスルーホール4bを介して電気的に接続された第2層の導体パターン(内層パターン)16の一部16bが発振トランジスタ1側の導体パターン16aに対向して設けられている。これらの内層パターン16a、16bはコンデンサ10及び11のそれぞれ一方の電極を構成する。
【0022】
図5は本実施の形態のテフロン基板のマイクロストリップラインの導体パターンを示す図である。
FR4多層基板A上に重ねられるテフロン基板Bは、FR4多層基板上のトランジスタ1側とバラクタダイオード3側の電子部品に対応する位置に窓を空けた形状に開口部b1、b2が加工により形成され、2つの開口部の間にマイクロストリップライン2を構成する導体パターン(裏面パターン)17が形成され、FR4多層基板Aに重ねられたとき、導体パターン(裏面パターン)17の一部の導体パターン17a及び17bが前記内層パターン16a及び16bに対向するように、FR4多層基板Aと接触する側に形成されている。
【0023】
さらに、金属製のメタルケースCが図1に示すようにテフロン基板Bと接触する側に掘り込み加工による前記電子部品を収容可能な位置の2つの空洞部c1、c2が形成され、テフロン基板C上に重ねられる。FR4多層基板A、テフロン基板B及び金属製のケースCは四隅のビス等で堅牢に固定されることにより発振器が構成される。
【0024】
(動作の説明)
図6はFR4多層基板Aとテフロン基板Bとを重ね合わせた状態を示す図(透視図)であり、図7は導電パターンの重なった部分の断面を示す図である。
図3に示すFR4多層基板上の電子部品の実装図には、コンデンサ10、11およびマイクロストリップライン2が示されていないが、図6及び図7から解るように、これらはFR4多層基板A上に図5に示すテフロン基板Bを重ねることによって、FR4多層基板Aの内層パターンとテフロン基板Bの導体パターンとの重なりにより、はじめて形成されるものである。
【0025】
つまり、図2におけるコンデンサ(1)10、コンデンサ(2)11は、FR4多層基板Aの内層パターンと、テフロン基板B上の導体パターンの両端部とのそれぞれの電磁界結合によって実現される。FR4多層基板側は、上面の外層パターンを第2層の内層パターンに一度スルーホール14a、14bにより接続し、図4に示す点線で示すような電極面16a、16bを形成する。テフロン基板B側は、FR4多層基板Aに接触する側に、図5に点線で示すような導体パターン17a、17bが用意されており、これをFR4多層基板Aの上面に重ねると、図6に示すように、FR4多層基板A側の第2層に形成された電極としての内層パターンと、テフロン基板B側の電極としての導体パターンの端部の導体パターンとが一部又は全体で重なり、FR4多層基板Aの第1層の薄い基板層(外層)を挟んでコンデンサ10、11として動作する。
【0026】
また、テフロン基板B側の導電パターンのうち、FR4多層基板Aの導電パターンと重なっていない部分については、テフロン基板BがFR4多層基板Aよりも充分薄いものであり、メタルケースC側を接地(GND)としたテフロン基板B上のマイクロストリップライン共振器として動作する。
【0027】
(他の実施の形態)
以上の実施の形態ではマイクロ波発振器をFR4多層基板とテフロン基板の組み合わせにより構成した例を説明したが、これらの材質は特に限定されるものではなく、電気部品を搭載する側は比較的電気特性にこだわることなく、安価で多層構造の製作しやすい材質の基板を用いることが可能であり、マイクロストリップライン共振器を構成する側は多層である必要はなく、電気特性の良好な材質の基板を用いることによって、前述の実施の形態と同じ効果を得ることができる。
【0028】
また、以上の実施の形態では、FR4多層基板の電子部品の配置を二箇所に纏めた配置を採用したが、三箇所以上に配置することが可能であり、マイクロストリップラインも複数設けるように回路に応じて配置関係を変更することが可能であることは言うまでもないことである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態を示すコルピッツ型発振器の実体図である。
【図2】図1に示すコルピッツ型発振器の等価回路の構成を示す図である。
【図3】本実施の形態のFR4多層基板の実装構造を示す図である。
【図4】本実施の形態のFR4多層基板の内層パターンを示す図である。
【図5】本実施の形態のテフロン基板のマイクロストリップラインの導電パターンを示す図である。
【図6】FR4多層基板Aとテフロン基板Bとを重ね合わせた状態を示す図(透視図)である。
【図7】導電パターンの重なった部分の断面を示す図である。
【図8】従来の発振器回路を示す実体図である。
【図9】従来の他の発振器回路を示す実体図である。
【符号の説明】
【0030】
A FR4多層基板
B テフロン基板
b1、b2 開口部
C メタル(金属)ケース
c1、c2 空洞部
1 発振トランジスタ
2 マイクロストリップライン(共振器)
3 バラクタダイオード
4 エミッタ抵抗
5、6 ベース電圧印加抵抗
7 コイル
8、9 パスコン
10、11 コンデンサ
12 トランジスタバイアス端子
13 バラクタダイオードバイアス端子
14 スルーホール
15 外層パターン(多層基板A)
16 内層パターン(多層基板A)
17 導体パターン(基板B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層面に外層パターンと発振素子を含む電子部品とが設けられ、内層に前記外層パターンと電気的に接続された内層パターンが形成された多層基板と、前記多層基板の外層面に搭載され、前記電気部品との干渉を回避するように設けられた開口と共振器を構成する導体パターンが接触面に形成された基板と、を備え、前記多層基板の内層パターンの一部と前記基板の導体パターンの一部は容量結合することを特徴とするマイクロ波発振器。
【請求項2】
前記多層基板の内層パターンは一対の内層パターンでなり、前記共振器はマイクロストリップラインを構成する導体パターンとして形成され、前記導体パターンの両端が前記一対の内層パターンとそれぞれ容量結合することを特徴とする請求項1記載のマイクロ波発振器。
【請求項3】
前記多層基板の一対の内層パターンは、一方の内層パターンが前記発振素子の制御電極に接続され、他方が可変容量素子に接続されたことを特徴とする請求項2記載のマイクロ波発振器。
【請求項4】
前記マイクロストリップラインを構成する導体パターンの両端部に容量結合用の拡大した電極パターンが形成されたことを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波発振器。
【請求項5】
前記基板はテフロン基板であることを特徴とする1ないし4の何れかの請求項記載のマイクロ波発振器。
【請求項6】
前記基板の導体パターンと反対側の面に搭載され、前記電気部品を収容する空洞部が形成された金属製ケースを備えることを特徴とする請求項1ないし5の何れかの請求項記載のマイクロ波発振器。
【請求項7】
コルピッツ発振器であることを特徴とする請求項1ないし6の何れかの請求項記載のマイクロ波発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−174187(P2007−174187A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368012(P2005−368012)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】