説明

マイクロ流体デバイス、マイクロ流体デバイスを製造する方法及びマイクロ流体デバイスを含むセンサ

本発明は、例えば試料流体中の目標物質を検出するための又は分子篩いのためのマイクロ流体デバイスを提供するものである。該デバイスは、第1凹部124が設けられた実質的に平らな第1表面を持つ第1基板120と、第2凹部130が設けられた実質的に平らな第2表面を持つ第2基板128とを有する。第1凹部の少なくとも幾つかは、多孔質材料114で満たされている。交互の第1凹部及び第2凹部は、試料流体のための蛇行チャンネルを形成する。第2凹部は他の多孔質材料により満たすことができる。一実施例において、目標物質を結合するための捕捉物質が、上記多孔質材料内に又は該多孔質材料上に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイスに関する。該デバイスは、バイオセンサ若しくは試料流体中の目標物質を検出するデバイスであるか又はこれらの一部であり得る。
【0002】
応用例は、分子診断バイオセンサ、DNAアレイ、薬品、環境及び食品品質センサを含む。開示されたデバイスは、例えばDNA配列決定、試料からのDNA又はタンパク質の抽出及び分子篩い等のための、物質の分離(クロマトグラフィ)に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
分子診断等の分野では、血液又は他の体液等の試料流体を1以上の目標物質の存在について検査又は分析するためにバイオセンサが使用される。このような目標物質は、例えば抗原、微生物及び/又は分子等を含む。この目的のために、或るタイプのバイオセンサでは、目標物質は、マイクロ流体デバイス内の表面に固定化された捕捉物質により結合又は捕捉される。当該固定化領域はスポットと呼ぶことができる。マイクロ流体デバイスは、典型的には、時には殆ど利用可能でない少量の試料流体を扱うことができるという能力のために使用される。目標物質の存在は、蛍光分子等のラベル又は検出することが可能な物理的効果を生じる何らかの他のラベルの被着を介して目に見えるようにされる。光学的ラベルが最も一般的に使用される。多重感知、即ち1つのバイオセンサにより試料流体で複数の目標物質を順次又は同時に感知することを可能にするために、マイクロ流体デバイスは、当該デバイスの表面のうちの1つに、アレイに編成され又は編成されていない1以上のスポット内に固定化された複数の捕捉物質を有することができる。
【0004】
2つの構成のバイオセンサデバイスが提案されており、実際に使用されている。即ち、所謂、表面流(フローオーバー:flow-over)コンセプトのものと、所謂、貫流(フロースルー:flow-through)コンセプトのものである。
【0005】
貫流コンセプトによるバイオセンサは、1マイクロメータ未満の平均孔寸法を持つ多孔質膜を使用する。捕捉物質を有するスポットは、該膜上に存在する。試料流体を該膜を介して強制的に送ることにより、該試料流体に含まれる生体分子にとり拡散距離が非常に小さくなり、従って、拡散的移送が吸着力学を制限することがなく、目標物質の効率的な捕捉が達成される。
【0006】
国際特許出願公開第WO2007/060580号は、2つのハウジング部品により囲まれた多孔質膜を有するマイクロ流体デバイスを開示している。該膜には、目標物質を捕捉するための固定化された捕捉物質のスポットが設けられている。上記2つのハウジング部品は、複数の凹部を有している。該2つのハウジング部品の上記凹部は、一緒になって、試料流体を案内するためのチャンネルを形成する。上記スポットは、斯かるチャンネルが当該膜と交差する箇所の1以上に設けられる。特定のチャンネルを介して案内される試料流体は、該チャンネルの各膜を通過する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、改善されたマイクロ流体デバイス及び斯かるマイクロ流体デバイスを組み込んだセンサデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、独立請求項に記載されている。従属請求項は有利な実施例を記載している。
【0009】
本発明のマイクロ流体デバイスは、多数のフィーチャを、小さな試料体積しか必要としない一方、或る凹部内の多孔質材料から他の凹部内の多孔質材料へのチャンネルの一部ではない経路を介しての試料流体の漏れを低減又は軽減するように組み合わせる。例えば、国際特許出願公開第WO2007/060580号のデバイスにおいては、試料流体は膜自体を介して斯様にして漏れ得る。即ち、試料流体は、前記2つのハウジング部品の間に介挿された多孔質膜を介して当該チャンネルの方向以外の方向に、即ち該多孔質膜の面内で移送され得る。従って、該デバイス内の膜の平均孔寸法は、試料流体の漏れが許容可能なレベルに限定されるような寸法に制限される。
【0010】
本発明のマイクロ流体デバイスの設計は、チャンネル方向において連続する膜の間には膜材料が存在しないことによって、膜が相互接続されないようになっている。従って、上記従来技術のデバイスの漏れは全て防止され、本発明のデバイスは広範囲の適用可能性を提供する。
【0011】
更に、本発明のマイクロ流体デバイスの設計は、多孔質材料を凹部(の一部)内に、これら凹部の壁が当該多孔質材料を支持すると共に使用の間における破壊から保護するように、組み込む。これにより、該デバイスは一層強固及び高信頼性となり、一層確実な信頼性のある機能を提供する。
【0012】
好ましくは、上記凹部は実質的に完全に充填される。かくして、凹部は、例えば該凹部内に多孔質材料を配置するために使用される各技術の精度に応じて充填される。実質的に完全に充填されるとは、例えば、当該チャンネルの少なくとも或る断面が、即ち上記凹部の断面が、80%より多く、好ましくは90%より多く、最も好ましくは95%より多く、上記多孔質材料により充填されることを示す。全ての凹部が多孔質材料により満たされる必要はない。当該チャンネルに沿って、少なくとも1つの又は複数の凹部が満たされる。好ましくは、凹部は、多孔質材料が該凹部におけるチャンネル内の主流れ方向とは平行ではない少なくとも1つの表面に接触するように、即ち該凹部の角部に位置されるように当該チャンネルの角部と当接するように、満たされる。この場合における当接及び接触とは、付着される又は単に物理的に接触することを意味する。その場合、上記多孔質材料は、当該チャンネル内の流れ方向において該チャンネルの壁により支持される。代わりに、又は付加的に、上記多孔質材料は、当該チャンネル内での該チャンネルの長さ方向(主流れ方向と平行な)に沿う寸法が、該チャンネルの断面方向における寸法の少なくとも1つより大きくなるように配設することができる。当該チャンネル内での該多孔質材料の幾何学構造及び/又は角部における位置は、該多孔質材料に増加された強固さを提供し、かくして、該多孔質材料は一層大きな圧力及び流速に耐えることができ、当該マイクロ流体デバイス及び/又は該マイクロ流体デバイスを利用するセンサの動作速度の増加を可能にする。更に、一層粘性の高い試料を当該チャンネルを介してポンプ送りすることができる。他の例として、当該多孔質材料の(後に定義する)多孔率(open porosity)を、当該膜の強靱さを減少させないで増加させることができる。これは、例えば、流れを誘起させるために当該デバイス内で使用される圧力の低減を可能にし、及び/又は流れを生じさせるために増加された圧力を使用する必要性なしに一層粘性の高い試料の使用を可能にする。
【0013】
このように、当該多孔質材料の各区画は固体材料の空洞内に閉じ込まれるので、該多孔質材料の機械的負荷は減少され、該多孔質材料は脆弱で非常に隙間の多いものとすることができる。ここで、脆弱及び非常に隙間が多いとは、当該多孔質材料が相対的に小さな固体割合を有することを示す。本発明は、脆弱な多孔質材料の非常に薄い膜の使用を可能にする。
【0014】
米国特許出願公開第2004/0053422-A1号は、被分析流体の分子篩い、測定及び分離のための多孔質膜を有するマイクロ流体デバイスを開示している。一態様において、該デバイスは、当該基板に一体に形成された多孔質膜により分離された入力区域及び出力区域を有する基板を含んでいる。他の態様において、該デバイスは、上側及び下側チャンネルの縦続接続系列を含み、各上側/下側チャンネルの境界は、対応する多孔質膜により分離されている。
【0015】
米国特許出願公開第2004/0053422-A1号のデバイスに含まれる多孔質膜は、当該チャンネル内に試料流体の流れの方向に垂直に配置されている。本発明のものとは対照的に、この従来技術の構成は、上述したように或る範囲を超えて試料流体の流れの力に耐えるための増加された抵抗力に欠けている。
【0016】
更に、米国特許出願公開第2004/0053422-A1号のもののような幾つかの自立している多孔性膜を有するデバイスを製造するのは相対的に困難であり、100マイクロメートル〜数ミリメートルの範囲の厚みを持つ各膜は製造の間において脆弱であろう。ここで、自立しているとは、膜がチャンネル内に試料流体の流れに対して垂直に配設され、膜の縁が当該チャンネルの壁に固定されていることを示す。本発明によるデバイスは、斯様な自立している膜を必要とせず、当該デバイスの脆弱性を低減し、これにより、製造歩留まりを上昇させる。
【0017】
好ましい実施例によれば、前記多孔質材料は25%より大きく80%より小さな、好ましくは35%と70%との間の、最も好ましくは45%と60%との間の多孔率を有する。"X%の多孔率"なる用語は、ここでは、当該多孔質材料の体積のX%が空であることを意味する。当該材料の細孔は、互いに及び該材料の外側表面につながっている。"多孔率"なる用語は、当該多孔質材料の全体積のうちの流体の流れが有効に生じる割合を示す。
【0018】
他の実施例において、当該多孔質材料の平均孔寸法は、例えば、10nmと10μmとの間、好ましくは20nmと2μmとの間、より好ましくは25nmと1μmとの間、最も好ましくは50nmと500nmとの間である。該孔寸法の分布は、好ましくは非常に小さいものとする。FWHMは、例えば、平均孔寸法のファクタ2より小さい。
【0019】
一実施例において、当該多孔質材料は等方性高分子材料を含む。
【0020】
開示された基板技術は、広範囲の材料並びに一層細かい多孔質構造の、改善された機械的強度及び耐久性との組み合わせでの使用を可能にする。後者は、例えば生分子捕捉プローブのスポットの配設の間における容易な取扱を可能にする。本発明のデバイスは、使用の間における試料流体の一層高い圧力及び流速を可能にする。
【0021】
一実施例において、前記第1及び第2凹部は異なる基板に配置される。この構成は、当該マイクロ流体デバイスの製造に関して複雑さの点で有利である。両基板は、独立に処理することができ、製造工程のステップの間の干渉は低減されるか又は存在さえもしない。例えば、前記第1凹部が第2凹部とは異なる捕捉プローブを有さなければならない場合である。従って、コストの低減とは別に、この構成は、使い捨て型のマイクロ流体デバイスを提供するための簡単な大量生産を可能にする。
【0022】
一実施例において、前記第2凹部のうちの少なくとも幾つかは、他の多孔質材料により満たされる。好ましくは、目標物質を結合するための他の捕捉物質が、該2凹部のうちの少なくとも幾つかの上記他の多孔質材料内に又は該他の多孔質材料上に配設される。該他の多孔質材料は、前記第1の多孔質材料と同一の材料、及び/又は他の多孔質材料を含むことができる。本発明のデバイスの構成は、多孔質材料の如何なる組み合わせもあり得るものとさせる。
【0023】
一実施例において、目標物質を結合する捕捉物質は第1凹部の1以上の多孔質材料内に又は該多孔質材料上に配設され、目標物質を結合する他の捕捉物質は第2凹部の1以上の他の多孔質材料内に又は該他の多孔質材料上に配設される。捕捉物質を有する各スポットは、好ましくは、対向する基板の表面に接触する。上記捕捉物質と基板表面との間の接触は、結合を改善すると共に、例えば光出力検出の場合に信号対雑音比を改善する。捕捉物質は、例えば、蛍光又は燐光物質等の発光物質の類に含まれる。
【0024】
当該デバイスは、共に多孔質材料及び固体材料の交互の領域を有するような、2つの基板を組み合わせる。蛇行チャンネルは、交互に、第1凹部の1つを辿り、第2凹部の1つに続く等々となる。交互に固体及び多孔質領域を有することは、多孔質材料の壁を備える真っ直ぐなチャンネルを超える利点を有している。捕捉プローブ又はスポットは、別々の捕捉プローブの混合が防止されるので、一層互いに近接して印刷することができる。更に、試料流体の流れは、各捕捉プローブの位置、即ちスポットに向けられる。この結果、当該溶液の一層良好なスクリーニング及び目標物質の結合速度の増加が得られる。
【0025】
他の実施例においては、捕捉物質の第1測定信号を第1方向に案内し、及び/又は他の捕捉物質の第2測定信号を第2方向に案内するために、前記第1基板と第2基板との境界に壁が設けられる。好ましくは、上記第2方向は上記第1方向とは実質的に反対とする。測定信号の反対に向けられた方向は、光の出力結合(出射)を改善すると共に、信号対雑音比を減少させる。多孔質材料及びスポットを両基板に統合することにより、同一のフローチャンネル設計で、スポット密度を倍にすることができる。
【0026】
一実施例において、第1多孔質材料は、第2基板の第2表面と接触する。他の実施例において、第2多孔質材料は第1基板の第1表面と接触する。このように、多孔質材料は当該チャンネルの高さを完全に満たし、試料流体が該多孔質材料を介して進む代わりに該多孔質材料をパスするのを防止する。
【0027】
開示された設計は、当該デバイスの改善された光学的性能を可能にする。というのは、蛍光捕捉物質を有する前記スポットが、基板の構造により、良好に画定される(即ち、高信頼度で且つ再現性がある)からである。本発明のデバイスは、多孔性構造内の捕捉プローブを持つ印刷された流体の定まらない縁に依存することを回避する。
【0028】
他の実施例において、当該多孔質材料は試料流体と接触すると膨張することができる。基板表面と多孔質材料に埋め込まれたスポットとの間に幾らかの空間が存在すると、該試料流体の一部が上記スポットを相互作用し合わないで通過し得、結果として感知信号が低くなる。膨張することが可能な多孔質材料は、斯様な空間を閉じ、試料流体がスポットを、相互作用を行わないで通過するのを防止する。使用の間において、試料流体は多孔質材料を膨張させるであろう。当該材料は、該材料中に埋め込まれたスポットを対向する基板の表面に対して押圧し、かくして、該対向する基板の表面と、対応するスポットとの接触を改善する。
【0029】
一実施例において、消光物質(quencher substances)が上記多孔質材料に含まれる。他の例として、第1凹部及び/又は第2凹部の底部に、吸収層又は反射層が設けられる。上記消光物質及び吸収又は反射層は、例えば背景蛍光から生じるもののような、発光背景ノイズを低減する。
【0030】
一実施例において、第1凹部及び/又は第2凹部は、勾配の付けられた又は傾斜された壁を有する。斯かる勾配付き又は傾斜された壁は、前記スポットの捕捉物質により出力される光を平行化する。
【0031】
他の実施例において、第1凹部及び/又は第2凹部の側壁には、反射層が設けられる。斯かる反射層は、光出力及び信号対雑音比を改善するために、上記スポットの捕捉物質により出力される光を案内する。
【0032】
一実施例において、前記第1基板及び/又は第2基板は、実質的に透明である。該透明な第1又は第2基板は、好ましくは、350nm〜1000nmの範囲内の波長を持つ放射に対して透過的である。該範囲は、可視光のものを含むことができる。上記透明な基板は、例えば蛍光及び/又は燐光等の発光を用いた目標物質の検出を可能にする。
【0033】
他の態様によれば、前記マイクロ流体デバイス及び検出器を組み込んだセンサデバイスが提供される。上記検出器は、上記マイクロ流体デバイス上に固定化された捕捉物質により捕捉された目標分子により発生される信号を検出又は感知するよう作用する。一実施例において、多孔質材料は、他のサイトにおける検出の前にフィルタリング機能を果たすためにのみ使用することができる。他の実施例においては、上記マイクロ流体デバイスのチャンネルの多孔質材料に、捕捉プローブを設けることができる。
【0034】
当該センサデバイスは、チャンネル内の増加された流速又は得られ得る圧力に関するマイクロ流体デバイスの利点の利益を受け、これら利点は、なかでも、使用及び/又は製造の間における増加された感知速度、感知感度、増加された強度及び/又は増加され信頼性となる。上記マイクロ流体デバイスは、永久的な構成において当該センサデバイスの一部となり得る。即ち、該マイクロ流体デバイスは当該センサデバイスの一体部分を形成し得る。この場合、該センサデバイスは、マイクロ流体デバイスの製造により得られる利点の利益も受ける。他の例として、マイクロ流体デバイスは当該センサデバイスから取り外し可能とすることもできる。後者の場合、試料流体をマイクロ流体デバイスに対して、処理された該試料流体の分析を実施すべく、センサデバイスに挿入される前に該マイクロ流体デバイスが目標物質をフィルタリング及び/又は捕捉する機能を果たすように、供給することができる。
【0035】
当該センサデバイスは、バイオセンサデバイスとすることができる。本発明のデバイスは、生分子の技術分野において特に有用であろう。というのは、体液又は斯かる液体の前処理物等の、この分野において分析されるべき流体は、かろうじて利用可能なものであり、通常は少量であるからである。更に、本発明によるデバイスの、医学的診断及び環境汚染又は食中毒を含む斯かる技術分野への応用は、関連する目標物質が、時には当該流体内での非常に低い濃度において可能な限り高い信頼性及び再現性で決定されることを要する。更に、多数の異なる目標物質又は分子を、このような方法で同時に決定しなければならないこともある。
【0036】
感度は、目標物質を固定化する効率により、及びセンサ方式の感度により決定される。目標物質を固定化する効率は、目標物質の濃度、目標物質の拡散及び反応速度、捕捉物質の表面積及びこれらの接近容易性に依存する。センサ方式の感度は、信号背景(全ての種類の雑音を含む)及び光子の収集効率(光学的検出の場合)により主に決定される。
【0037】
試料流体内での非常に低い濃度における目標物質又は分子の結合速度は、当該センサ基板への拡散により制限される。結合速度は、一層大きな分子量の分子の場合は、更に一層制限される。本発明は、増加された感度及び信頼性につながる改善された流れ特性を提供する。
【0038】
他の態様によれば、本発明はマイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。
【0039】
例えばCD及びDVD製造に相当するような、低コストの連続的(roll-to-roll)製造方法を、本発明の基板を製造するために使用することができる。かくして、製造コストは、使い捨て型のデバイスの採算の合う製造を可能にするほど低くなり得る。
【0040】
本発明のマイクロ流体デバイスは、横方向のフローオーバー又は複数の並列に配置されたフロースルー(flow-through)膜を有する従来のデバイスよりも有利である。これは、斯様な従来のデバイスの上記膜又は複数の膜を介して試料流体をポンプ送りすることにより、捕捉物質を有する全てのスポットが同時に曝されるという事実によるものである。しかしながら、各スポットは当該試料流体の極限られた一部(典型的には、1%未満又はそれより少ない)のみしかスクリーニングしないので、当該溶液の欠乏が、達成可能な測定感度を制限することになる。上記フロースルーシステムに対する流体的構成も、発光検出にとり必要とされる光学部品にとってのプローブ領域のアクセス可能性を制限する。更に、前記膜の透過度の不均等性は、スポット当たりの有効にスクリーニングされる試料流体体積の大きな変動につながり得る。このような場合、均等性は、試料流体を巡回させるか又は各膜の通過後に流れを反転させることにより改善され得るが、これは稼働時間を要し、高コストとなる。更に、均一且つ効率的な混合を保証するためには、試料流体体積の増加及び追加の混合設備が必要とされる。試料流体の流れは低レイノルズ数により実質的に層状となるので、マイクロ流体チャンネル内での混合は特に困難である。目標物質のスクリーニングを大幅に改善するためには、試料流体を繰り返し巡回させねばならない。しかしながら、試料流体の繰り返しの巡回は、全目標物質の実質的に100%をスクリーニングするには余りにも非現実的である。これら全ての欠点は、本発明のマイクロ流体デバイスにより低減又は防止され得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明によるマイクロ流体デバイスの一実施例の平面図を示す。
【図2】図2は、図1の実施例の断面図を示す。
【図3】図3は、本発明のデバイスの他の実施例の断面図を示す。
【図4】図4は、本発明によるデバイスの一実施例の詳細な断面図を示す。
【図5】図5は、本発明のデバイスの基板の一実施例の詳細な断面図を示し、該基板は勾配付き壁を備える凹部を有している。
【図6A】図6Aは、本発明のデバイスの基板を作製するための例示的作製ステップを示す。
【図6B】図6Bは、本発明のデバイスの基板を作製するための他の作製ステップを示す。
【図6C】図6Cは、本発明のデバイスの基板を作製するための他の作製ステップを示す。
【図6D】図6Dは、本発明のデバイスの基板を作製するための他の作製ステップを示す。
【図7】図7は、第1基板を作製するためのマスクの平面図を示す。
【図8】図8は、第2基板を作製するためのマスクの平面図を示す。
【図9】図9は、図7のマスクの詳細を示す。
【図10】図10は、本発明のデバイスの側断面図を示す。
【図11】図11は、第2基板の平断面図を示す。
【図12】図12は、本発明のデバイスの側断面図を示す。
【図13】図13は、本発明のデバイスに適した多孔質材料の概要を示す。
【図14】図14は、本発明のデバイスに適した多孔質材料の概要を示す。
【図15】図15は、本発明のデバイスに適した多孔質材料のSEM顕微鏡写真を示す。
【図16】図16は、本発明のデバイスに適した多孔質材料のSEM顕微鏡写真を示す。
【図17】図17は、本発明のセンサデバイスの概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の他のフィーチャ及び利点は、添付図面から明らかとなるであろう。
【0043】
図1は、本発明の一実施例によるマイクロ流体デバイス100を示す。該デバイスは、試料流体を入口106から出口108へ案内するためのチャンネル104を囲む2層積層体を有している。入口106及び出口108は、外部流体容器(図示略)との容易な接続を可能にするために上記チャンネルより大きな断面を有している。チャンネル104は、入口チャンネル部110、出口チャンネル部112、多孔質材料領域114及び斯かる多孔質材料114の間の空領域118を有している。入口チャンネル部110及び出口チャンネル部112並びに空領域118は、当該チャンネルを経る気体又は液体試料に対して開放通路を提供する。
【0044】
該マイクロ流体デバイス100の2層積層体構造が図2の断面図に更に示されるが、該図では、マイクロ流体デバイス100が、実質的に平らな第1表面122及び第1凹部124を持つ第1基板120と、実質的に平らな第2表面126を持つと共に第2凹部130を持つ第2基板128とを有していることが示されている。第2表面126は第1表面122に、上記第1及び第2基板が2層積層体を形成するように接触している。該積層体において、第1及び第2接触表面の間には境界(interface)が形成され、該境界に第1及び第2凹部が配置される。かくして、上記基板の凹部は、断面において蛇行するチャンネル104を形成する。上記第1及び第2凹部は、好ましくは、長尺の溝、即ち相対的に浅く、狭く且つ長い溝として形成される。これら凹部の詳細及び例は、図7〜9に関連して後述する。
【0045】
図2に示された実施例のチャンネル104は、上記2つの基板の接触表面を横切って蛇行する。何故なら、第1凹部は第1基板内にあり、第2凹部は第2基板内にあるからである。他の実施例においては、チャンネル全体が上記基板のうちの一方に配置される。この他の実施例では、第1凹部及び第2凹部は、共に、第1基板内に配置される。この場合、第1及び第2凹部は、これら凹部が一緒に当該デバイスの面内で(即ち、断面に垂直な方向に)蛇行するチャンネルを形成するように、相互に配置される。この実施例において、第2基板は、当該デバイス内にチャンネルを画定するために、該第2基板内に形成された凹部を有する必要はない。該第2基板は、第1基板の第1表面と接触した場合にカバー又は蓋として機能するように、実質的に平らな第2表面を有することができる。
【0046】
本発明によれば、第1凹部124のうちの少なくとも幾つかは、多孔質材料114により充填される。斯かる多孔質材料の存在は、当該マイクロ流体デバイスが、或る凹部内の多孔質材料が1つのマイクロフィルタを形成するようなマイクロフィルタデバイスとして使用されるのを可能にする。他の例として、上記多孔質材料は、チャンネルを介して流れる気体又は液体試料に接触する実効表面積の拡大を可能にし得る。両目的は、1つのデバイス内で同時に又は順次に果たすこともできる。
【0047】
全ての種類のフィルタ機能又は実効表面積の増加を可能にするために、デバイス内における多孔質材料の組み合わせの多数の変形例が可能である。このように、一実施例においては、連続した中断されない蛇行チャンネル104が交互の多孔性及び空の部分を有するように、第1凹部のみが多孔質材料を有する。代わりに、他の実施例では、図3及び4に示されるように、多孔質材料114は第1凹部124及び第2凹部130の両方に組み込まれ、かくして、多孔質材料の蛇行する連続的なチャンネルが形成される。
【0048】
本発明によるデバイスにおいて、図2、3及び4の実施例により例示されるように、第1及び第2基板は、第1基板120及び第2基板128が互いに直接接触するように、例えば一緒に接着され、局部的に融解され又はクランプされる。上記多孔質材料は、従来技術のデバイスの場合におけるように流体の漏れが生じるような、基板の接触表面の間に介挿された多孔質材料の膜層が存在しないように、配置される。代わりに、多孔質区画は、斯かる多孔質区画が構造化された基板の一体部分を形成するように、基板内に埋め込まれる。該多孔質構造体は別体であり、固体材料の"空洞"内に閉じ込まれるので、これら多孔質構造体は、大きな機械的負荷に曝されることはなく、従って、脆弱且つ非常に隙間のあるもの(低固相率)とすることができる。該多孔質材料は、当該チャンネルの角部に接触するように配置することができ、チャンネル壁による該多孔質材料の改善された支持を行う。このように、当該マイクロ流体デバイスは、改善された機能を提供すると共に、一層頑丈である。
【0049】
好ましい実施例によれば、当該多孔質材料は25%より大きく80%より小さな、好ましくは35%と70%との間の、最も好ましくは45%と60%との間の多孔率(open porosity)を有する。"X%の多孔率"なる用語は、ここでは、当該多孔質材料の体積のX%が空であることを意味する。当該材料の孔は互いに接続されると共に該材料の外側表面に接続され、かくして、該多孔質材料を介して或る凹部から隣の凹部へのチャンネルが可能となる。"多孔率"なる用語は、当該多孔質材料の全体積の、流体の流れが有効に生じる割合を示す。
【0050】
他の実施例において、当該多孔質材料の平均孔寸法は、例えば、10nmと10μmとの間、好ましくは20nmと2μmとの間、より好ましくは25nmと1μmとの間、最も好ましくは50nmと500nmとの間である。孔寸法の分布は、好ましくは、非常に小さいものとする。FWHMは、例えば、平均孔寸法のファクタ2より小さい。
【0051】
一実施例において、本発明のデバイス内の全ての多孔質材料は同一の多孔質材料を有することができる。例えば、当該多孔質材料は、当該デバイス内のチャンネルを介して流れる気体又は液体試料と接触する実効表面積を増加させる機能を果たすことができる。他の実施例では、異なる凹部は、チャンネルの流れ方向において孔寸法が減少するように異なる多孔質材料及び/又は異なる多孔性を有することができる。このことは、当該マイクロ流体デバイスが粒子をフィルタリングするマイクロフィルタとして使用される場合に、より大きな粒子が非常に細かい多孔性を有する非常に細かいフィルタ(多孔質材料)を詰まらせそうにないという利点を有している。多孔質材料を介して特定の試料の流れを生じさせるために要する圧力を調整するために、多孔率を調整することができる。このようにして、例えば多孔質材料の平均孔寸法が或る凹部から次の凹部へと減少する場合、減少する孔寸法により生じる流速の減少を補償するために多孔率を増加させることができる。孔寸法の増加は、しばしば、単位体積当たりに一層少ない材料しか利用可能でなくなるので当該多孔質材料の強度の減少を伴う。従って、このような構成の場合、本発明のデバイスは有利な強度の増加をもたらす。
【0052】
図1に例示されたような実施例において、第1凹部124の少なくとも幾つかにおける多孔質材料114には、1以上の捕捉物質を有するスポット116が設けられる。この構成は、目標物質が上記捕捉物質により捕捉され得る場合、当該チャンネルを介して流れる気体又は液体試料からの斯かる目標物質のフィルタリングを可能にする。図3及び4に示す他の実施例においては、第2凹部にも捕捉物質のスポットを担持する多孔質材料が設けられる。これによれば、同じフローチャンネル設計を持つ図1に示すデバイスに対して、スポット密度が倍になる。
【0053】
上記捕捉物質は凹部の一部にのみ存在するようにすることができるか、又は捕捉物質は凹部の全体積にわたり分散されるようにすることができる。また、捕捉物質は、例えば図5に示されるように、対応する凹部の底部に配置することができる。
【0054】
上記フィーチャによれば、本発明によるマイクロ流体デバイスはセンサデバイス内で使用することができ、該センサにフィルタリング機能を備えさせる。しかしながら、付加的に又は代替的に、該センサデバイスに本発明を用いて感知機能を付与することもできる。この目的のためには、上記スポットは、多孔質材料を備える凹部の何処に配置されるかとは無関係に、これらスポット内の捕捉物質により目標分子が捕捉された場合に測定信号を供給することができなければならない。測定信号とは、捕捉前の開始状態と捕捉後の結果的状態との間の当該センサデバイスにより感知することが可能な如何なる差をも意味する。このように、上記開始状態は、捕捉後に減少されるような強い信号が測定される、又はその逆であるような状態であり得る。例えば、スポット116内の捕捉物質は、1以上の目標物質により接触された場合に、光放射等の無線周波放射を放出する。斯かる放射は、当該スポット内での化学反応、即ち化学発光から生じ得る。他の例として、上記放射は、発光種の励起に際して放出される蛍光又は燐光等の発光であり得、斯かる発光は当該スポットの励起放射による照射の間又は後に放出される。上記発光は、捕捉及び目標物質の、ラベル若しくはマーカ種との関連での又は関連無しでの、化学的又は物理的錯体により放射され得、後者のラベル若しくはマーカ種は例えば発光特性を付与するものである。外部刺激を伴い又は伴わずに、目標物質が捕捉物質に接触した後に信号を供給するような如何なるプロセスも、当該プロセスにおいて使用することができる。この信号は、吸収又は放射の変化を含むこともできる。即ち、捕捉後に、特定の照射の吸収が減少又は増加する。このような変化も従来から良く知られている。上記接触は、物理的及び/又は化学的結合を含み得る。
【0055】
一実施例において、上記多孔質材料の領域は、例えば当該多孔質材料114に固定された粒子の形態の消光物質を有する。可能性のある感知作用の間において、該消光物質は、スポット内で捕捉物質による目標物質の捕捉が生じたかを決定するために使用されるラベルから発生するものではない光学的背景信号を減少させる。
【0056】
図4に示す実施例において、デバイス300は、第1基板120及び第2基板128を含む。これら基板は、第1凹部124及び第2凹部130を各々有し、これら凹部は一緒になって蛇行チャンネル104を形成する。両凹部は多孔質材料114により充填される。第1基板120の凹部124における多孔質材料領域114の中間において、当該デバイスは、捕捉分子が固定化されたスポット116を有する。2つの基板120及び128は一緒に封止され、従って、試料流体は第1凹部124及び第2凹部130が交互となる経路132を辿るように強いられる。連続する凹部は壁又はスタンプ134、135により分離されるが、これら壁は当該基板の固体材料領域である。必要ではないが、この実施例では、壁134は上記凹部及び/又はスポット116の捕捉物質に接触している。スポット116内に含まれる光学ラベル又はマーカが励起されると、信号140が、透明な第2基板128のスタンプ134を介して出力される。この様にして、壁134は、捕捉物質が目標物質を捕捉した場合に上記スポットから発する信号140を収集及び案内するように作用する。このことは、感知する間における感度及び特異性を向上させる。
【0057】
一実施例においては、追加の吸収又は反射層136が設けられる。この反射層は、不所望な光学的背景信号を低減する目的を果たし得る。更に、スポット116により放出された信号140を案内するために、凹部130の側壁に反射層138が被着される。該反射層は、例えば全内部反射が生じるように上記基板の材料とは異なる屈折率を有することができる。これら反射層は、前記多孔質材料が設けられる前に当該凹部内に蒸着されるアルミニウム又は金等の金属から形成することができる。信号140を案内することは、測定信号を増加させ、信号対雑音比を減少させ、光の出射を改善する。
【0058】
スポット116と、所謂スタンプ134との間の接触は、好ましくは、信号140の結合及び案内を改善するために、可能な限り良好なものとする。
【0059】
他の反射層(図4には図示されていない)を、多孔質材料内にスポットを有する凹部の底部に設けることができる。この反射層は、放射を信号140が当該基板を離れる方向に再指向させることができ、これにより、感知されるべき信号を増加させる。
【0060】
一実施例において、図4に示された実施例の基板128の凹部も、例えば図4の実施例に示されたように既に存在するものに加えて、スポットを有することができる。この場合、壁135は基板128の凹部の上記追加のスポットと接触することができる。図4に関連して説明したように、反射層を、上記更なるスポットから生じ、基板120を信号140とは反対方向に離脱する信号に対して有利に働くように使用することができる。これら反射層は、基板128のスポットにより発生される信号及び/又は励起放射と、基板120のものとを分離する好適な手段を提供する。
【0061】
一実施例において、多孔質材料114は、試料流体により接触された場合に膨張することができる。スポット116と壁134との間に小さな空間が存在したなら、試料流体の一部が対応するスポットを該スポットの捕捉物質と作用し合うことなく通過し得、その結果測定信号の強度が低下し得る。多孔質材料114が膨張することができるなら、該多孔質材料はスポット116と壁134との間の如何なる開口も閉塞し、かくして、試料流体が捕捉物質と相互作用しないで通過することを防止する。試料流体は、当該多孔質材料が膨張させるであろう。拡張された該多孔質材料は、対向する基板の表面に当接し、かくして、該対向する基板と、対応するスポットとの良好な接触をもたらす。
【0062】
図5に示されるように、前記第1及び/又は第2凹部の側壁150、152は、勾配が付けられ(tapered)又は傾斜され得る。即ち、これら側壁は、当該凹部の底部に対して90度より小さな角度で配設することができる。凹部の底部に対する又は基板の表面に対する該角度は、例えば、約75度又は70度より小さい。図5に示す側壁150、152は、凹部124の長さ方向に及び/又は幅の方向に勾配を付けることができる。底部154及び/又は上記の勾配が付けられた側壁は、当該スポットにより放出された(蛍光)放射信号140を反射及び平行化(collimate)する。
【0063】
上記第1及び/又は第2基板は、捕捉事象の検出のために使用される信号140の波長に対して透明とすることができる。
【0064】
本発明によるマイクロ流体デバイスにおいては、固体材料134、135と多孔質材料114との交互の領域を1つの基板内に持つことが、利点を有する。第1に、異なる捕捉プローブを互いに近接して印刷することができる。何故なら、異なる捕捉プローブの混合が上記固体の境界により防止されるからである。第2に、前記信号の当該基板への結合を、なかでも上述した反射層及び/又は凹状の構造若しくは形状を用いて改善することができる。これは、信号対雑音比を改善する。しかしながら、最も重要なことに、試料流体の流れが捕捉プローブに向けられ、かくして、さもなければ多孔性の部分134及び/又は135を介しての漏れが防止され、試料流体のスクリーニングの改善、従って捕捉物質に対する目標物質の結合速度の増加をもたらす。
【0065】
他の実施例において、前記第1及び第2多孔質材料の屈折率は、光の散乱を防止するために試料流体の屈折率と整合される。光の散乱の防止は、目標物質の検出の感度を改善する。
【0066】
実用的実施例において、前記基板は、例えば約120の凹部のアレイを有する。必要性及び設計に応じて、他の数の凹部を使用することもできる。これら基板は約120のスポットを有するであろう。各スポットは約200μmの直径を有する。斯かるスポット及び/又は凹部は、約400μmのピッチで配列される。入口及び出口チャンネル110及び112は、フローチャンネル104と実質的に同様の態様で画定される。
【0067】
入口及び出口チャンネル部110及び112は、一例として、本発明のデバイスを試験するための便利な相互接続を意図するものである。実用的応用例において、上記入口及び出口チャンネル部は、例えば、カートリッジ(図示略)に統合することができる。斯かるカートリッジは、例えば試料準備、DNA抽出及び増幅に関する他の機能を提供することができる。
【0068】
以上に述べたデバイスは、本発明による方法を用いて製造することができる。図6A〜6Dは、該方法の連続するステップの各結果を図示している。
【0069】
先ず、凹部124が固体基板120の表面122に配設される(図6A)。これら凹部は、例えば、型から変形可能な(及び/又は反応性の)材料への構造の複製又はエンボス加工により微細構造化される。このような工程は、例えば、射出成形及び熱エンボス加工を含む。該工程は、薄い可撓性基板、及びCD又はDVD媒体等の一層厚く、一層剛性な基板を加工することができる。他の例として、エッチング技術が使用される。特に、直径が小さすぎて上記エンボス加工又は複製技術が、最早、有利でない場合である。
【0070】
次いで、凹部124を有する該構造化された基板120は、第2材料156(図6B)、例えばポリマ溶液、又は基板122の材料を溶解しない溶媒であるような、所謂、非溶媒を有する混合物により覆われる。凹状の領域124のみが上記材料により満たされるように余分な材料156は除去される。
【0071】
後続のステップにおいて、上記材料156は相分離させられる。相分離は、例えば、熱重合又は光重合等の化学反応を誘起させることにより開始される。相分離の後、或る相が除去され(例えば、抽出により)、その結果、多孔構造114が残存する(図6C)。多孔質材料114の孔寸法は、製造条件(濃度、温度、溶媒等)により広い範囲で変化させることができる。図15及び16は、多孔性微細構造の典型的な例、即ち紫外線硬化されたアクリル酸塩及び熱硬化されたエポキシを各々示している。図15及び16に示された材料は、当該用途に適している。
【0072】
上記多孔相が乾燥された後、当該マイクロ流体デバイス内に必要とされるなら、捕捉プローブ116を設けることができる(図6D)。固定化された捕捉物質を伴う斯かるスポットは、例えば、上記多孔質材料上に印刷される。スポット116の配設法は、例えば、インクジェット、転写及び/又は接触印刷を含む。他の例として、上記多孔質材料は捕捉物質を含む溶液に浸され、かくして、該多孔質材料が捕捉物質を伴う該溶液を吸収するようにし、その後、余分な溶液は当該基板の非多孔性部分から除去される。配設の後、適切な後処理を施して、当該多孔質材料114の開放多孔構造内に分散された安定し且つ反応性の捕捉プローブ116とする。
【0073】
第2基板は、凹部を有さないか若しくは空の凹部を有するようにするか、又は前記第1凹部に関して説明したようにして設けられる捕捉プローブスポットを備える又は備えない多孔質材料を有する凹部を設けるために前記第1基板と実質的に同一の方法で処理することができる。異なるスポットを、インクジェット印刷を用いて都合良く設けることができる。異なる基板に第1及び第2凹部を有することは、当該多孔質材料及び/又は捕捉プローブ材料が、これら第1及び第2凹部に対して異ならなければならない場合に有利である。この場合、第1及び第2基板は独立に処理することができるので、配設工程は干渉しないであろう。
【0074】
選択に従い、例えば凹部の壁等の当該基板の特定の部分に、反射層を被着することができる。これは、電気メッキ、蒸着印刷(evaporation printing)等の、薄い金属(Al、Au、Ag、Cu及び他のもの)を堆積させる適切な技術により実施することができる。従来知られている適切なパターニング技術を使用することができる。代替的に又は付加的に、当該基板上に、全内部反射を行うほど十分に異なる屈折率を持つような層を堆積させることによりミラーリング層を形成することができる。従来既知の技術を用いて、吸収層を堆積させることもできる。
【0075】
上記第1基板及び第2基板は、例えば図2又は3に示された閉じたマイクロ流体系を形成するように組み立てることができる。これら基板は、基板の機械的特性、全体の設計及び他の要件に応じて、一緒に接着し又はクランプすることができる。
【0076】
前述したように、本発明のデバイスの基板は、マスタ/モールド技術を用いた複製又は型形成技術により作製することができる。作製は、ガラス又はシリコン基板上のレジストのリソグラフィック露光及び現像により開始される。当該基板上の現像されたレジストは、電気メッキによりNi等の型形成材料に転写される。
【0077】
後続のステップにおいて、当該構造は射出成形又はエンボス加工によりポリマに複製される。該作製技術は、CD等の光記憶媒体を製造するために使用される技術に実質的に類似している。
【0078】
図7及び8は、上記第1基板及び第2基板を作製するためのマスクデザイン420及び428を各々示している。図9は、図7の微細構造の詳細を示している。
【0079】
上記マスクの部分434、435は、対応する基板の隆起領域を形成するためのものであり、部分424、430は凹部を形成するためのものである。次いで、これら凹部内に多孔質材料の構造が配設される。部分410、412は入口及び出口チャンネル部410、412を形成し、部分406、408は入口及び出口406、408を形成する。
【0080】
当該構造体は、例えば、SU−8レジストによるフォトリソグラフィを用い、且つ、図7及び8のマスクを用いて作製される。図7及び8のマスクは、安価な印刷箔マスクとすることができる。
【0081】
上記第1及び第2マスク、及び/又は第1及び第2基板は、第1基板の第2基板上への正しい位置合わせを可能にするために位置合わせマーカ460及び462を有している。他の異なる基板設計も、上述した技術により実現することができる。前記(生物学的)スポットの数及び寸法は、フォトリソグラフィの限界内において広い範囲で変化させることができる。
【0082】
前記試料流体の流れは、上記凹部及び微細チャンネルの幾何学構造を調整することにより最適化することができる。例えば、前記チャンネルの高さを減少させれば、フロー抵抗は増加するであろう。
【0083】
図10〜12は、前記凹部の寸法、及びそれらの比に関する例を示す。
【0084】
A及びCは、前記壁又はスタンプの長さを示す。B及びDは、第1及び第2凹部の長さを各々示す。比A:B(図10)は、例えば、1:2と1:5との間である。より好ましくは、該比A:Bは1:2.5と1:4との間とする。最も好ましくは、該比A:Bは約1:3とする。比C:D、C:B及びA:Dは、同様の範囲内とすることができる。ここで、AはDに面する一方、CはBに面する。1:1なる比は機能しないことに注意されたい。
【0085】
実用的実施例において、A及び/又はCは、例えば10μmと500μmとの間であり、より好ましくは30μmと200μmとの間とする。B及び/又はDは、例えば10μmと500μmとの間であり、より好ましくは30μmと200μmとの間とする。
【0086】
T1及びT2は、第1及び第2凹部の深さ又は高さを各々示す。比T1:T2(図10)は、好ましくは1:3と3:1との間とし、より好ましくは1:2と2:1との間とし、最も好ましくは約1:1とする。
【0087】
T1及び/又はT2は、10μmと1000μmとの間であり、好ましくは50μmと200μmとの間とする。
【0088】
W1及び/又はW2は、30μmと1000μmとの間であり、好ましくは100μmと500μmとの間とする。
【0089】
一実施例において、前記チャンネルを形成する凹部の高さは、20〜200μmの範囲内である。これら凹部は、例えば、約250μm幅であり(図11に示す第2凹部の幅W2)、約450μm長である。他の実施例において、これら凹部は、試料流体の流れを改善するために、実質的に長方形である。
【0090】
図12は、前記チャンネルを横切る幾つかの点線l1、l2及びl3を示している。好ましい実施例において、該チャンネルの断面積(即ち、該チャンネルが長方形断面を有すると仮定して、断面積F=T*W)は、上記線l1、l2及びl3により示される位置において実質的に同一である。即ち、斯かる断面積の差は、ファクタ2より小さい。他の実施例において、多孔率を(要因として)考慮にいれた実効チャンネル断面積の差が、ファクタ2より小さい。
【0091】
改善された実施例において、前記第1及び第2基板は、平面方向に互いにずらすことができる。平面方向は、xが当該チャンネルの長さ方向であり、yが幅方向である場合に、x軸及びy軸により示される。そのようにすることにより、当該(第1)チャンネルは、例えばAがCの上に来ると共にBがDの上に来るまでx軸方向にずらすことにより(図10)、中断され得る。次いで、当該基板がy方向にずらされて、他の(第2)チャンネルを開き得るか、又は第2チャンネルに対する接触が開放され得る。上記1以上の他のチャンネルは、上述した第1チャンネルと平行に延在し得るか、又は例えばy方向に延在し得る。
【0092】
当該基板をずらすことは、例えば、より速い洗浄又は清掃ステップを可能にする。即ち、基板は、試料流体が第1チャンネルを完全に通過した後に、ずらすことができる。基板をずらすことは、第1チャンネル内の空気/気泡の除去を可能にもする。
【0093】
図13及び14は、膜のタイプの概略的に表されたSEM写真を示す。図15及び16は、異なる膜のタイプの走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0094】
図13は、等方性ナイロン膜を示す。
【0095】
図14は、異方性のエッチングされたアルミナ514を示し、1マイクロメータ以下のオーダの平均直径を持つ長尺チャンネルを形成する細孔516を有している。
【0096】
図15は、光重合により誘起された相分離によって形成された多孔膜のSEM顕微鏡写真を示す。
【0097】
図16は、エポキシ樹脂及びPMMAの混合物の熱硬化によって得られた多孔性エポキシ網状組織のSEM写真を示す。PMMA相は、反応誘起された相分離の後に除去される。
【0098】
図13、15及び16に示した材料の細孔は、ランダムな構造を有している。他の例として、本発明によるデバイス内の多孔質材料は、化学触媒法の分野で知られた規則的細孔構造を有することもできる。
【0099】
当該マイクロ流体デバイスは、感知デバイス又は分析デバイスの一部とすることができる。当該マイクロ流体デバイスは、斯様なデバイス内に、感知デバイスの一体部分を形成するように永久的に固定することができる。他の例として、当該マイクロ流体デバイスは、感知デバイスに対して取り外し可能/挿入可能とすることもできる。後者の場合、当該マイクロ流体デバイスは、より複雑及び/又は安価な感知ユニット内で使用されるべき使い捨て型デバイスとすることができる。
【0100】
センサデバイスの一例が、図17に示されている。一実施例において、該センサデバイスは、図3又は図4に示したマイクロ流体デバイス300(ここでは、これ以上説明しない)を有することができる。該センサデバイスは、入力放射2をレンズ等の屈折又は収束エレメント3を介して1以上のスポット116に供給するための放射源1を更に有している。目標種の捕捉が生じた場合に上記スポットにより放射される出力放射は、エレメント3を介して検出され、ビームスプリッタ5(上記入力放射は該出力放射とは異なる波長領域を有するので、この場合はダイクロイックミラーである)を介して検出器4に送られる。当該デバイスは、当業者により既知の全ての種類の光学エレメントを装備することができる。
【0101】
図示されていないが、より密な多重化の検出を可能にするようなマイクロ流体デバイスを使用することもできる。この場合、例えば図3のマイクロ流体デバイスを使用することができる。該デバイスは、第1及び第2凹部の多孔質材料に捕捉スポットを有している。これらスポットは、前述したようにして測定することができる。有利な実施例では、第1凹部のスポットは第1方向から測定することができる一方、第2凹部のスポットは、第1方向とは反対の第2方向から測定することができる。上記第1方向は第1基板の側とすることができる。しかしながら、代わりに及び有利にも、該第1方向を第2基板の側とすることもできる。これは、例えば図17の例の構成を可能にし、該構成において信号案内壁及び/又は壁の向きは、図4において部分138に対するものであったように、部分135に対して配設される。かくして、隣り合う近接した隔てられたスポット(第1及び第2凹部)から発する信号の間のクロストークの低減及び効率的な信号分離が達成される。この構成は、マイクロ流体デバイス上の面積当たりのスポットの量を増加させると共に、当該マイクロ流体デバイス及び/又はセンサ若しくは検出器デバイスの更なる小型化を可能にする。
【0102】
本発明のデバイスは、実行されるべき分析方法に応じて、複数の目的のために使用することができる。かくして、該デバイスは前記チャンネルを介して特定の試料流体をポンプ送りすることによりフィルタとして使用することができる。代わりに、又は追加として、当該デバイスは前述したように目標物質捕捉能力を発揮し、従って目標固有のフィルタリングを実行することができる。更に、又は代わりに、当該デバイスは感知機能を有し、検出デバイスの一部を形成することができる。
【0103】
本発明のデバイスは、例えば、生体試料内のタンパク質の存在を検出するために適用可能である。また、当該デバイスは、タンパク質、ホルモン、ペプチド、及び/又は単鎖及び二重鎖オリゴヌクレオチ等の生分子の選択的捕捉及び/又は釈放のために使用することもできる。
【0104】
1以上の試薬を、前記第1又は第2凹部の何れかにおける多孔質材料内に又は上に配設することができる。試薬は、例えば、試料流体内に溶解し得る。該溶解された試薬は、例えば、特定の反応を向上、支援若しくは誘起し、又は触媒として機能することができる。生物学的分析手順において、ユーザは、試料流体の前又は後にチャンネル104を介して、例えば、緩衝液又は空気をポンプ送りして、一層正確な測定を達成することができる。
【0105】
尚、上述した実施例は、本発明を限定するというよりは解説するものであり、当業者であれば、添付請求項の範囲から逸脱することなく多くの代替実施例を設計することができるであろう。また、請求項において、括弧内に記載された符号は当該請求項を限定するものと見なしてはならない。また、"有する"なる文言は、請求項に記載されたもの以外の構成要素又はステップの存在を排除するものでない。また、単数形の構成要素は、複数の斯かる構成要素の存在を排除するものではない。幾つかの手段を列挙する装置の請求項において、これら手段の幾つかは、1つの同一のハードウェア品目により具現化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面を持つ第1基板と、
第2表面を持つ第2基板と、
を有するマイクロ流体デバイスであって、前記第2表面は前記第1表面に接触し、これにより前記第1基板と第2基板との間に境界を形成し、当該マイクロ流体デバイスは、
前記境界に設けられた第1凹部及び第2凹部、
を有し、前記第1凹部及び第2凹部は前記境界に対して直角な面内で蛇行するチャンネルを形成し、
前記凹部のうちの少なくとも幾つかが多孔質材料を有するマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記第1凹部が前記第1表面に配設され、前記第2凹部が前記第2表面に配設される請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記凹部のうちの少なくとも幾つかが他の多孔質材料で満たされた請求項1又は請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記多孔質材料が前記凹部の角部に当接する請求項1ないし3の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
使用時において第1凹部内の前記多孔質材料が前記第2表面に接触し、及び/又は、
使用時において第2凹部内の前記多孔質材料が前記第1表面と接触する、
請求項1ないし4の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
目標物質を結合する捕捉物質が、前記凹部の1以上における前記多孔質材料内に又は該多孔質材料上に配設される請求項1ないし5の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
使用時において第1凹部内の前記捕捉物質が前記第2表面に接触し、及び/又は、
使用時において第2凹部内の前記捕捉物質が前記第1表面と接触する、
請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記多孔質材料が、試料流体と接触すると膨張することができる請求項1ないし7の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記捕捉物質の第1測定信号を第1方向に案内し、及び/又は他の捕捉物質の第2測定信号を第2方向に案内するために、前記第1基板と前記第2基板との前記境界に壁が設けられる請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記第2方向が前記第1方向とは実質的に反対である請求項9に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記第1凹部及び/又は前記第2凹部が勾配を付けられた壁を有している請求項1ないし10の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記第1凹部及び/又は前記第2凹部の底部に、吸収及び/又は反射層が設けられた請求項1ないし11の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記第1凹部及び/又は前記第2凹部の側壁に、反射層が設けられた請求項1ないし12の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記多孔質材料が、試料流体に溶解する少なくとも1つの試薬を有している請求項1ないし13の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
請求項1ないし14の何れか一項に記載のマイクロ流体デバイスを有するセンサデバイスであって、該センサデバイスが前記マイクロ流体デバイス内で発生された応答信号を測定する検出器を更に有しているセンサデバイス。
【請求項16】
第1基板の第1表面及び/又は第2基板の第2表面内に第1凹部及び第2凹部を設けるステップと、
前記第1凹部のうちの少なくとも幾つかに多孔質材料を配設すると共に、オプションとして前記第2凹部のうちの少なくとも幾つかに他の多孔質材料を配設するステップと、
前記第1表面を前記第2表面に接触させて、前記第1基板と前記第2基板との間に境界を形成し、これにより、前記第1凹部及び前記第2凹部が前記境界に対して直角な面内で蛇行するチャンネルを形成するステップと、
を有するマイクロ流体デバイスを製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図7−9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公表番号】特表2011−506957(P2011−506957A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537569(P2010−537569)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055142
【国際公開番号】WO2009/077913
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】