説明

マイクロ流路デバイス及びマイクロ流路デバイスの製造方法

【課題】対流の発生を抑制し、意図しない流体同士の混合や、流体内の粒子の偏在が生じにくいマイクロ流路デバイスを提供すること。さらに、前記マイクロ流路デバイスの好適な製造方法を提供すること。
【解決手段】複数の流体が層流を形成して送流されるマイクロ流路を有し、該マイクロ流路の内壁に、流体の流れと略平行であり、かつ、前記複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有することを特徴とするマイクロ流路デバイス。前記マイクロ流路は湾曲部を有し、前記凸部は、マイクロ流路の湾曲部に設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ流路デバイスに関し、特にマイクロ流路を有するマイクロ流路デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路では流体が層流となって流れやすいため、2液が混合することなく分離したまま流れる層流とすることができる。流体間の接触時間を増大させるためには流路を長くする必要があり、限られたスペースでは湾曲部を設けて流路を折り返し、流路長を長くすることが行われている。しかし、湾曲部では遠心力によりDean渦と呼ばれる対流が発生する(非特許文献1参照)。
特に微粒子を分散した層流では、微粒子が湾曲部の外側に移動して意図しない混合や粒子の偏在が発生しやすかった。
【0003】
特許文献1では、速度分布を改善するために流路に並行又は垂直な複数の凸状平板が備えられたマイクロ流路が開示されている。
また、特許文献2では、曲がり部を有する場合であっても界面の安定性を失わないマイクロ流路を提供するために、一対の案内板を有するマイクロ流路が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−15254号公報
【特許文献2】特開2006−272231号公報
【非特許文献1】大川原真一、外3名、化学工学論文集、第30巻、第2号、p.135〜140(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明では、速度分布の改善には効果が期待できるものの、流路の湾曲部等で生じる層流の乱れに対しては十分な効果が得られなかった。また、特許文献2に記載の発明では、案内板により界面の面積が減少するため十分な流体間の接触面積を得ることができなかった。
本発明は上記課題を解決することを目標とするものである。
すなわち、本発明は、対流の発生を抑制し、意図しない流体同士の混合や、流体内の粒子の偏在が生じにくいマイクロ流路デバイスを提供することを目標とするものである。さらに、本発明は、前記マイクロ流路デバイスの好適な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は<1>及び<6>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>から<5>及び<7>から<9>と共に以下に記載する。
<1> 複数の流体が層流を形成して送流されるマイクロ流路を有し、該マイクロ流路の内壁に、流体の流れと略平行であり、かつ、前記複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有することを特徴とするマイクロ流路デバイス、
<2> 前記マイクロ流路は湾曲部を有し、前記凸部は、マイクロ流路の湾曲部に設けられている<1>に記載のマイクロ流路デバイス、
<3> 前記凸部は、マイクロ流路の湾曲部の外周側内壁にのみ設けられている<2>に記載のマイクロ流路デバイス、
<4> 前記凸部の高さが、マイクロ流路幅の50%以下である<1>から<3>いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス、
<5> 前記マイクロ流路デバイスが、薄膜パターン部材を積層してなる<1>から<4>いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス、
<6> 第1の基板上に目的とするマイクロ流路デバイスの各断面形状に対応した複数の薄膜パターン部材を形成する工程、及び、前記複数の薄膜パターン部材が形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数の薄膜パターン部材を前記第2の基板上に転写する工程を含むことを特徴とする<1>から<5>いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイスの製造方法、
<7> 前記第1の基板と前記第2の基板との接合は、常温接合又は表面活性化接合によるものである<6>に記載のマイクロ流路デバイスの製造方法、
<8> 前記第1の基板上への前記複数の薄膜パターンの形成が、電鋳法によるものである<6>又は<7>に記載のマイクロ流路デバイスの製造方法、
<9> 前記薄膜パターン部材がニッケル又はニッケルを主成分とする合金もしくは銅又は銅を主成分とする合金で形成されている<6>から<8>いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対流の発生を抑制し、意図しない流体同士の混合や、流体内の粒子の偏在が生じにくいマイクロ流路デバイスを提供することができる。さらに、本発明によれば、前記マイクロ流路デバイスの好適な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のマイクロ流路デバイスは、複数の流体が層流を形成して送流されるマイクロ流路を有し、該マイクロ流路の内壁に、流体の流れと略平行であり、かつ、前記複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有することを特徴とする。
本発明マイクロ流路デバイスは、流路の内壁に流れと略平行であり、かつ、複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有するため、流体の層流が保持され、意図しない混合や流体内の粒子の偏在が生じにくい。そのため、安定した層流を得ることができる。
【0009】
本発明のマイクロ流路デバイスは、特に用途を限定されるものではなく、公知の様々な用途に使用可能であり、用途に応じて流路長、流速、流体の種類、温度等を適宜選択することが好ましい。具体的には、医療分野における分析装置や、微粒子の製造・分級・洗浄装置、化学反応装置例えば合成装置や重合装置としても使用できる。
【0010】
本発明において、マイクロ流路とは、極微量の液体やガスなどを流す微小な流路であって、その幅が数μm以上数千μm以下のものである。なお、本発明において、マイクロ流路とはマイクロスケールの流路をいうが、ミリスケールの流路も含む意である。
流路幅は目的により適宜選択することができるが、10μm以上1,000μm以下であることが好ましく、20μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明において、マイクロ流路は、マイクロスケールであるので、寸法及び流速がいずれも小さく、マイクロ流路を流れる流体のレイノルズ数は2,300以下となる。従って、マイクロスケールの流路を有する本発明のマイクロ流路デバイスは、乱流支配ではなく層流支配の装置である。
ここで、レイノルズ数(Re)は、下記式で表されるものであり、2,300以下のとき層流支配となる。
Re=uL/ν (u:流速、L:代表長さ、ν:動粘性係数)
本発明のマイクロ流路デバイスは、層流支配を維持するために、マイクロ流路の内壁に、流体の流れと略平行であり、かつ、前記複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有するものである。
【0012】
本発明のマイクロ流路デバイスは、複数の流体が層流を形成して送流される。マイクロ流路デバイスは複数の流体導入口から2以上の流体が送流され、層流を形成する合流部を有することが好ましい。また、本発明のマイクロ流路デバイスは、1つ以上の排出口を有し、層流に対応した複数の排出口を設けることも好ましい。
【0013】
本発明において、マイクロ流路は、基材によって外部と隔離された微小な径を有する流路であり、基材は、基板であっても良いし、管状であっても良い。
本発明において、マイクロ流路の形状は特に限定されないが、通常管状である。また、マイクロ流路の断面形状は特に制限されず、いかなる形状を使用することもできる。マイクロ流路の流路軸に直交する面の断面形状としては、円形、楕円形、半円形、四角形、三角形、その他の多角形、だるま形状等、が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。これらの中でも、マイクロ流路デバイスの作製の容易さから、マイクロ流路の断面形状は四角形(矩形)であることが好ましい。
また、本発明において、マイクロ流路の一部又は全部は、その内壁に流体の流れと略平行であり、かつ、流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有する。すなわち、本発明において、マイクロ流路は、内壁の一部に凸部を有する四角形の断面形状を有するマイクロ流路であることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、流路軸形状は特に限定されず、直線状、曲線状等のいかなる形状でも良い。ここで、流路軸形状とは、マイクロ流路における流体の流れ方向の軸を意味する。
上述の通り、流路軸形状は特に限定されないが、一定の面積に対して流路長を確保するためには、湾曲部を形成することが好ましい。なお、湾曲部とは、マイクロ流路の流路軸が折り返し形状、円弧形状又は角度を持った形状等を有することにより流れの方向を変える部分を意味する。特に、本発明において、湾曲部は円弧形状であることが好ましい。円弧形状の一例として、半円形状が例示できる。
すなわち、流路軸形状は、全体としては直線部と湾曲部を有する形状とし、一定面積におけるマイクロ流路長が長くなるように形成されていることが好ましい。
【0015】
マイクロ流路の内壁に設けられた凸部の形状は特に限定されないが、流体の流れと略平行に設けられている。なお、本発明において、凸部は流体の流れと略平行に設けられているが、流体の流れと厳密に平行である必要はなく、流体の流れを阻害しない範囲で角度を選択することが可能である。本発明において、「流体の流れと略平行な」とは、流体の流れに対して10度以下の角度であることを意味する。5度以下であることが好ましく、3度以下であることがより好ましく、流体の流れに対して0度、すなわち平行であることがさらに好ましい。
例えばマイクロ流路の流体の流れと垂直な方向の断面形状が四角形状である場合、一方の凸部は、その一辺から流路内部に直角に突出していることが好ましい。また、対向する凸部を有する場合、もう一方の凸部はその対辺上の相対する位置から同様に対辺に対して直角に突出していることが好ましい。また、後述するように、凸部は流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出している。
【0016】
本発明において、マイクロ流路の内壁に設けられた凸部は、複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出している。なお、本発明において、凸部は流体により形成される界面と略垂直に設けられているが、界面と厳密に垂直である必要はなく、界面の変形を阻害しない範囲で角度を選択することが可能である。本発明において、「複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向突出している」とは、流体により形成される界面に対して90度の角度からのずれが10度以下の角度であることを意味する。5度以下であることが好ましく、3度以下であることがより好ましく、流体により形成される界面に対して0度、すなわち直角であることがさらに好ましい。
なお、3以上の層流が形成され、界面が2以上存在する場合には、少なくとも1つの界面に対して略垂直方向に突出していれば良いが、全ての界面に略垂直方向に突出していることがより好ましく、これを満足するように界面を形成することが好ましい。
【0017】
凸部の形状としては、平板状でも良いし、内壁から流路内の先端に向かって厚さが薄くなる形状や、厚くなる形状としても良い。また、流路軸方向に向かって徐々に厚くする又は薄くする形状とすることもできる。これらの中でも、凸部の形状としては内壁から流路内の先端に向かって同じ厚さを有し、流路軸と直交する断面の形状が矩形であることが好ましく、矩形の板状凸部が設けられていることがより好ましい。
【0018】
ここで、「凸部」とは、流路内壁から突出し、かつ流路軸方向に伸びた板状の構造をいう。
また、凸部は、流路の導入口から排出口までの流路軸方向に連続して設けることもできるし、途中で一部中断していても良い。
また、凸部は、流路断面のいずれの箇所に設けることもでき、層流が形成する界面の向きに応じて、上面及び下面に設けることもできるが、流路湾曲部の外周側内壁及び内周側内壁に該当する部分の流路軸方向に設けることが好ましい。すなわち、湾曲部の遠心力に対して、外周側及び内周側となる流路内壁に設けることが好ましい。なお、このとき層流は外周側と内周側とに形成されている。
本発明においては、凸部は流路の湾曲部のみに設けることが好ましく、流路の湾曲部の外周側内壁にのみ設けることがより好ましい。凸部をこのように配置すると、湾曲部における対流を防ぐことにより層流を安定化させ、流体の混合を抑制することができるので好ましい。
【0019】
凸部は、1つのみを設けることもできるし、複数の凸部を流路の内壁に設けることもできる。すなわち、流路内の同一断面に、平行した凸部を複数設けることもできる。このような場合、凸部は1つ以上5つ以下設けることが好ましく、1つ以上3つ以下設けることがより好ましい。
すなわち、発明において、流路の湾曲部の外周側内壁に複数の凸部を設けることが好ましく、特に、複数の湾曲部を有するマイクロ流路デバイスの場合には、すべての湾曲部の外周側内壁に複数の凸部を設けることが好ましい。
【0020】
凸部の高さは、流路幅の50%以下であることが好ましい。ここで「凸部の高さ」とは、流路内壁から流路軸に垂直な方向に対向している流路内壁までの幅を100%としたときの凸部の高さを意味する。凸部の高さは5%以上50%以下であることがより好ましく、10%以上25%以下であることがさらに好ましい。
凸部の高さが流路幅の50%以下であると、安定した層流を得ることができるので好ましい。
【0021】
以下、図1から図7を参照して本発明を詳細に説明する。
なお、以下、同一の符号は同一の対象を指すものとして使用する。
図1は、本発明のマイクロ流路デバイスの好ましい一例を示す平面概略図である。
基板22にマイクロ流路20が設けられており、マイクロ流路デバイス10のマイクロ流路20に流体A及び流体Bを導入するための導入口24A、24B並びに流体A及び流体Bを排出するための排出口26A、26Bが設けられている。
図1では2つの流体を導入する態様が示されているが、本発明はこれに限定されず、3以上の流体を導入しても良い。また、流体の一種類を微粒子分散液とし、マイクロ流路デバイスを微粒子の分級装置あるいは微粒子の洗浄装置として使用することもできる。流体としては、気体及び液体のいずれも使用することができるが、本発明において、流体は液体であることが好ましい。
【0022】
図1では、2つの流体(流体A及び流体B)が導入口24A及び24Bから導入され、1つのマイクロ流路20に層流として送液されている。図1において、マイクロ流路20に送液された2つの液体(図1では、流体A及び流体B)は、その後、層流として1つの合一流路を流れる。
その後、排出口26A及び26Bから、それぞれ流体A及び流体Bが排出されている。なお、本発明において、排出口の数は特に限定されず、1以上の排出口を設ければよく、目的に応じて適宜選択することができる。また、流路に沿って複数の排出口を設けたり、流路の上下に分けて排出口を設けても良い。
【0023】
図1において、同一面積の基板に十分な長さのマイクロ流路を形成するために、湾曲部30が設けられている、なお、湾曲部以外の場所は直線部32となっている。但し、本発明のマイクロ流路デバイスはこれに限定されるものではなく、例えば蛇行部等の曲線部等を有するものでも良い。
【0024】
図2は、図1に示すマイクロ流路デバイスの湾曲部を含む拡大図である。
図2において、流路の湾曲部30の外周側に流体Aが送液されており、流路の湾曲部30内周側に流体Bが送液されており、2つの流体間に界面55が形成されている。
図3は図2に示すマイクロ流路のX−X’断面図を示す。図3において、マイクロ流路20は湾曲部内周側内壁40、湾曲部外周側内壁42、上面44、及び下面46を有し、流路幅Wの断面を有している。
従来のマイクロ流路(図3(c)参照)では、凸部が設けられていないため、湾曲部における遠心力のため、流体Bと流体Aの意図しない混合(矢印で図示)が生じ、湾曲部を経た流体Bと流体Aの界面では混合が生じてしまう。
図3(a)は、本発明のマイクロ流路デバイス10の湾曲部30におけるマイクロ流路20の断面図の一例である。ここで流体A及び流体Bは紙面手前から奥に向かって湾曲して送流されており、界面55を形成している。マイクロ流路20の湾曲部内周側内壁40及び湾曲部外周側内壁42には流体の流れと平行、かつ、界面55に対して垂直方向に矩形の板状凸部50が設けられている。
図3(a)では凸部50が流体の流れと平行に3対設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、凸部50は1つ以上設けられていれば良く、安定した層流が得られるように、設ける凸部の数を選択することが好ましい。また、上述した通り、凸部の断面形状は内壁から流路の内側へ向かって厚みを増す形状とすることもできるし、これとは逆に内壁から流路の内側へ向かって薄くなる形状とすることもできる。
【0025】
また、湾曲部外周側内壁に設けられた凸部の高さW’及び湾曲部内周側内壁に設けられた凸部の高さW”は、それぞれ流路幅Wの50%以下であることが好ましく、それぞれ5%以上50%以下であることがより好ましく、10%以上25%以下であることがさらに好ましい。凸部の高さを上記範囲内とすることにより、安定した層流を維持することができるので好ましい。
また、W’とW”は同一の高さとすることもできるし、異なる高さを選択することもできる。
【0026】
また、図3(a)に示すように、対向する内壁の双方に凸部を設ける場合、凸部の高さの合計(W’+W”)がWの60%以下であることが好ましく、10%以上50%以下であることがより好ましく、20%以上40%以下であることがさらに好ましい。凸部の高さの合計を上記範囲内とすることにより、層流速度を減少させることなく、安定した層流が形成可能であるので好ましい。
【0027】
図3(a)に示すように、対向する内壁の双方に凸部を設ける場合、対向する凸部はいずれの位置に設けることもできるが、平行に設けることが好ましい。即ち、マイクロ流路の基板からの高さ方向(図3では、上面と下面を結ぶ方向)に対して同一の高さに設けることが好ましい。このように凸部を配置することにより、安定した層流を形成することができるので好ましい。
【0028】
凸部の幅a及び凸部の間隔bは、目的に応じて適宜選択することができ、安定した層流が得られるように適宜選択することが好ましい。W’/bは3以下が好ましく、1.5以下がさらに好ましい。
【0029】
さらに、図3(a)に示すように、複数の凸部50が設けられている場合、それぞれの凸部の形状、凸部の高さW’及びW”、凸部の幅aはそれぞれ同じであっても異なっていても良く、適宜選択することが好ましい。さらに、凸部が3つ以上設けられている場合には、2つ以上の凸部の間隔bはそれぞれ同じであっても異なっていても良く、適宜選択することが好ましい。
【0030】
図3(b)に図2のX−X’断面の他の好ましい一実施態様を示す。
図3(b)では、湾曲部外周側内壁にのみ凸部50が設けられている。この場合、凸部50の高さW’は、マイクロ流路20の幅Wの50%以下であることが好ましい。凸部50の高さW’を上記範囲内とすることにより遠心力による対流を防ぎ安定した層流が形成可能であるので好ましい。
【0031】
なお、上述のW’及びW”の好ましい高さは、最大高さを意味し、マイクロ流路に設けられた凸部の最大高さが上記範囲内であることが好ましい。また、後述するように、湾曲部中央において最大高さを有する凸部とすることが好ましい。
【0032】
凸部50はこれに限定されず、後述するように、マイクロ流路20の上面44又は下面46に設けることもできるが、安定した層流を得る目的からは、図3(a)又は図3(b)に示すように湾曲部内周側内壁40及び/又は湾曲部外周側内壁42に設けることが好ましく、特に図3(b)に示すように、湾曲部外周側内壁42に設けることが好ましい。
【0033】
本発明において、湾曲部に設けられる凸部は、凸部の高さが湾曲部中央で最大となることが好ましく、湾曲部の手前から徐々に高くなり、湾曲部の終わりに向けて徐々に低くなるように設けることが好ましい。
図4を参照して説明する。図4は、図2に示すマイクロ流路の断面図を示している。図4(a)は、湾曲部30の手前のM−M’断面であり、当該断面には凸部は設けられていない。凸部は、湾曲部の手前から徐々に高さを増すように設けられており、図4(b)に示すN−N’断面では、低い高さの凸部が設けられており、湾曲部中央であるX−X’断面(図4(c))では凸部の高さが最も高い。また、湾曲部終わりに向けて徐々に低くなるように設けられており、図4(d)示すマイクロ流路のP−P’断面では、X−X’断面と比較して低い高さの凸部が設けられている。また、図4(e)に示すように、湾曲部の終わりであるQ−Q’断面では、凸部が設けられていない。すなわち、N−N’断面、X−X’断面、P−P’断面において、外周側内壁に設けられた凸部の高さをそれぞれWb’、Wc’、Wd’、内周側内壁に設けられた凸部の高さをそれぞれWb”、Wc”、Wd”とすると、Wb’<Wc’>Wd’、Wb”<Wc”>Wd”が成立している
【0034】
次に、図5を用いて、流路軸方向に垂直な断面としたとき、上下に2つの流体が送流されている本発明のマイクロ流路デバイスの一実施態様について説明する。
図5(a)は本発明のマイクロ流路デバイスの湾曲部における流路断面を示す他の一実施態様である。
図5(a)では、流体A及び流体Bで示される2つの流体が層流を形成して紙面手前から奥に向かって湾曲して送流されている。図5(a)は湾曲部における流路断面を示し、流路20は湾曲部内周内壁40、湾曲部外周内壁42、上面44及び下面46で構成されている。
流路内壁には、流体A及び流体Bにより形成された界面55に対して垂直方向に突出する凸部50が設けられている。なお、凸部50は流体の流れと平行に形成されており、図5(a)では紙面の手前から奥に向かって湾曲しながら形成されている。
【0035】
形成する凸部の高さW2’、及びW2”は、それぞれ流路幅W2に対して50%以下であることが好ましく、それぞれ5%以上50%以下であることがより好ましく、10%以上25%以下であることがさらに好ましい。凸部の高さを上記範囲内とすることにより、安定した層流を維持することができるので好ましい。また、W2’とW2”は同一とすることもできるし、異なる高さを選択することもできる。
また、図5(a)に示すように、対向する内壁の双方に凸部を設ける場合、凸部の高さの合計(W2’+W2”)が流路の幅W2の60%以下であることが好ましく、10%以上50%以下であることがより好ましく、20%以上40%以下であることがさらに好ましい。凸部の高さの合計を上記範囲内とすることにより、層流速度を減少させることなく、安定した層流が形成可能であるので好ましい。
さらに、凸部の幅a及び凸部の間隔bは、上記と同様に適宜選択することができる。
なお、上下の2層流とした場合にも、凸部の高さは屈曲部中央で最大となるように設けることも好ましい。その態様については上述の通りである。
【0036】
図5(b)は、図5(a)に示す流路断面において生じる二次流速度ベクトルを示す。図5(a)に示すように、上下に流体を配した場合には、1対のDean渦が上下に形成される。二次流速度の最も大きな領域は上下のDean渦の中間に存在している。湾曲部において、このような二次流速度分布が生じることにより、特に流体内に粒子を含有する場合には粒子の不均一な分布(偏在)を生じることがある。
本発明においては上述のように凸部を設けることにより、このような粒子の不均一な分布を抑制することができ、安定して層流を形成することができる。
【0037】
本発明において、マイクロ流路デバイスは、いずれの方法により作製することもできるが、以下の本発明に好適に使用可能なマイクロ流路デバイスの製造方法について説明する。
本発明のマイクロ流路デバイスは、所定の二次元パターンが形成された薄膜パターン部材が積層されて形成されたマイクロ流路デバイスであることが好ましく、薄膜の面同士が直接接触して接合された状態で積層されていることがより好ましい。
【0038】
本発明のマイクロ流路デバイスの好ましい製造方法としては、
(i)第1の基板上に目的とするマイクロ流路デバイスの各断面形状に対応した複数の薄膜パターンを形成する工程(ドナー基板作製工程)、及び、
(ii)前記複数の薄膜パターンが形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数の薄膜パターンを前記第2の基板上に転写する工程(接合工程)、
を含むことを特徴とするマイクロ流路デバイスの製造方法が例示できる。
【0039】
本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法についてさらに詳述する。
(ドナー基板作製工程)
本発明において、ドナー基板は電鋳法を用いて作製することが好ましい。ここで、ドナー基板とは、第1の基板上に目的とするマイクロ流路デバイスの各断面形状に対応した複数の薄膜パターンが形成された基板である。第1の基板は、金属、セラミックス又はシリコンから形成されていることが好ましく、ステンレス等の金属が好適に使用できる。
まず、第1の基板を準備し、第1の基板上に厚膜フォトレジストを塗布し、作製するマイクロ流路デバイスの各断面形状に対応したフォトマスクにより露光し、フォトレジストを現像して各断面形状のポジネガ反転したレジストパターンを形成する。次に、このレジストパターンを有する基板をめっき浴に浸漬し、フォトレジストに覆われていない金属基板の表面に例えばニッケルめっきを成長させる。薄膜パターンは電鋳法を用いて、銅又はニッケルにより形成されていることが好ましい。
次に、レジストパターンを除去することにより、第1の基板上にマイクロ流体デバイスの各断面形状に対応した薄膜パターンを形成する。
【0040】
図6は、図2に示す部分を形成するための薄膜パターンの説明図である。図6(a)に、図2に示す湾曲部のX−X’断面形状を示す。図6(a)及び図6(b)は、3つの凸部を有するマイクロ流路デバイスが、順番に、501A1、502B1、502B2、503C1、502B3、503C2、502B4、503C3、502B5、502B6及び501A2の計11枚の薄膜パターンの積層により形成されていることを示している。
図6(c)は、ドナー基板の湾曲部を含む一部分のみを示す。第1の基板500上に設けられた薄膜パターン501A1及び501A2は、それぞれマイクロ流路の上面及び下面を形成する部分に対応するものである。また、薄膜パターン503C1、503C2、503C3は、凸部が位置する部分に対応するものであり、薄膜パターン502B1、502B2、502B3、502B4、・・・・は、突出部が設けられていない部分のマイクロ流路に対応するものである。
【0041】
(接合工程)
接合工程とは、複数の薄膜パターンが形成された前記第1の基板(ドナー基板)と第2の基板(ターゲット基板)との接合及び離間を繰り返すことにより前記ドナー基板上の前記複数の薄膜パターンを前記ターゲット基板上に転写する工程である。接合は、常温接合又は表面活性化接合により行われることが好ましい。
図7(a)から(f)は、本発明に好適に使用できるマイクロ流路デバイスの製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
次に、図7(a)に示すように、上記ドナー基板505を真空槽内の図示しない下部ステージ上に配置し、ターゲット基板510を真空層内の図示しない上部ステージ上に配置する。続いて、真空槽内を排気して高真空状態あるいは超高真空状態にする。次に、下部ステージを上部ステージに対して相対的に移動させてターゲット基板510の直下にドナー基板505の1層目の薄膜パターン501A1を位置させる。次に、ターゲット基板510の表面、及び第1層目の薄膜パターン501A1の表面にアルゴン原子ビームを照射して清浄化する。
【0042】
次に、図7(b)に示すように、上部ステージを下降させ、所定の荷重力(例えば、10kgf/cm2)でターゲット基板510とドナー基板505とを所定の時間(例えば、5分間)押圧し、ターゲット基板510と1層目の薄膜パターン501A1とを常温接合(表面活性化接合)する。本実施の形態では、薄膜パターン501A1、502B1、502B2、503C1、502B3、503C2、502B4、503C3、502B5、502B6、501A2の順に積層する。
【0043】
次に、図7(c)に示すように、上部ステージを上昇させて、ドナー基板とターゲット基板を離間させると、1層目の薄膜パターン501A1が金属基板(第1の基板)500から剥離し、ターゲット基板510側に転写される。これは、薄膜パターン501A1とターゲット基板510との密着力が薄膜パターン501A1と金属基板(第1の基板)500との密着力よりも大きいからである。
【0044】
次に、図7(d)に示すように、下部ステージを移動させ、ターゲット基板510の直下にドナー基板505上の2層目の薄膜パターン502B1を位置させる。次に、ターゲット基板510側に転写された薄膜パターン501A1の表面(金属基板500に接触していた面)、及び2層目の薄膜パターン502B1の表面を前述したように清浄化する。
【0045】
次に、図7(e)に示すように、上部ステージを下降させ、1層目の薄膜パターン501A1と2層目の薄膜パターン502B1を接合させ、図7(f)に示すように、上部ステージを上昇させると、2層目の薄膜パターン502B1が金属基板(第1の基板)500から剥離し、ターゲット基板510側に転写される。
【0046】
他の薄膜パターン(502B2、503C1、502B3、503C2、502B4、503C3、502B5、502B6、501A2)も同様に、ドナー基板505とターゲット基板510との位置決め、接合及び離間を繰り返すことにより、マイクロ流路デバイスの各断面形状に対応した複数の薄膜パターンがターゲット基板上に転写される。ターゲット基板510上に転写された積層体を上部ステージから取り外し、ターゲット基板510を除去すると、図6に示したマイクロ流路デバイスが得られる。
【0047】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、その発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々な変形が可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲内で各実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0048】
上記各実施の形態では、ドナー基板を電鋳法を用いて作製したが、半導体プロセスを用いて作製しても良い。例えば、Siウェハからなる基板を準備し、この基板上にポリイミドからなる離型層をスピンコーティング法により着膜し、この離型層の表面にマイクロ流路デバイスの構成材料となるAl薄膜をスパッタ法により着膜し、Al薄膜をフォトリソグラフィー法によりパターニングすることにより、ドナー基板を作製することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のマイクロ流路デバイスの好ましい一例を示す平面概略図である。
【図2】図1に示すマイクロ流路デバイスの湾曲部を含む拡大図である。
【図3】図2に示すマイクロ流路のX−X’断面図である。
【図4】図2に示すマイクロ流路の断面図である。
【図5】本発明のマイクロ流路デバイスにおける湾曲部の他の一実施態様を示す断面図である。
【図6】図2に示す部分を形成するための薄膜パターンの説明図である。
【図7】本発明に好適に使用できるマイクロ流路デバイスの製造方法の一実施態様を示す製造工程図である。
【符号の説明】
【0050】
A、B 流体
W、W2 流路幅
W’ 湾曲部外周側内壁に設けられた凸部の高さ
W” 湾曲部内周側内壁に設けられた凸部の高さ
2’ 湾曲部上面内壁に設けられた凸部の高さ
2” 湾曲部下面内壁に設けられた凸部の高さ
a 凸部の幅
b 凸部の間隔
10 マイクロ流路デバイス
20 マイクロ流路
22 基板
24A、24B 導入口
26A、26B 排出口
30 湾曲部
32 直線部
40 湾曲部内周側内壁
42 湾曲部外周側内壁
44 上面
46 下面
50 凸部
55 界面
500 第1の基板
501、502、503 薄膜パターン
505 ドナー基板
510 ターゲット基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体が層流を形成して送流されるマイクロ流路を有し、
該マイクロ流路の内壁に、流体の流れと略平行であり、かつ、前記複数の流体が形成する界面に対して略垂直方向に突出する凸部を有することを特徴とする
マイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記マイクロ流路は湾曲部を有し、前記凸部は、マイクロ流路の湾曲部に設けられている請求項1に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項3】
前記凸部は、マイクロ流路の湾曲部の外周側内壁にのみ設けられている請求項2に記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項4】
前記凸部の高さが、マイクロ流路幅の50%以下である請求項1から3いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項5】
前記マイクロ流路デバイスが、薄膜パターン部材を積層してなる請求項1から4いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス。
【請求項6】
第1の基板上に目的とするマイクロ流路デバイスの各断面形状に対応した複数の薄膜パターン部材を形成する工程、及び、
前記複数の薄膜パターン部材が形成された前記第1の基板と第2の基板との接合及び離間を繰り返すことにより前記第1の基板上の前記複数の薄膜パターン部材を前記第2の基板上に転写する工程を含むことを特徴とする
請求項1から5いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1の基板と前記第2の基板との接合は、常温接合又は表面活性化接合によるものである請求項6に記載のマイクロ流路デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第1の基板上への前記複数の薄膜パターンの形成が、電鋳法によるものである請求項6又は7に記載のマイクロ流路デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記薄膜パターン部材がニッケル又はニッケルを主成分とする合金もしくは銅又は銅を主成分とする合金で形成されている請求項6から8いずれか1つに記載のマイクロ流路デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238313(P2008−238313A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80768(P2007−80768)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】