説明

マクロライド免疫抑制剤の水溶性ポリエチレングリコール複合体を調製するためのプロセス

リパーゼの存在下、ラパマイシンとアシル化剤を反応させてアシル化されたラパマイシンを形成する段階および塩基の存在下、アシル化されたラパマイシンとメトキシポリ(エチレングリコール)誘導体を反応させる段階を含む、42−ペグ化されたラパマイシンを調製するためのプロセスを開示する。また、これらの段階を用いて32−ペグ化されたタクロリムスおよび/またはアスコマイシンを調製するためのプロセスも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド免疫抑制剤シロリムス(ラパマイシン)、エベロリムス、テムシロリムス(CCI−779)、タクロリムス(FK506)およびアスコマイシン(FK520)の水溶性ポリ(エチレングリコール)複合体を調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ラパマイシン(1)、タクロリムス(FK506、2)およびアスコマイシン(FK520、3)は構造的に類似の大環状ポリケチドであり、全てが、同じ細胞内受容体と相互作用するが、異なる作用機構を有する有力な免疫抑制剤であり、異なる段階でT細胞活性化を抑制する(Rosen et al., 「Natural products as probes of cellular function: studies of immunophilins」 Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1992, 31, 384-400)。これらのマクロライド類は抗菌活性を有し、実験的アレルギー性脳脊髄炎を含む自己免疫疾患の動物モデル、関節炎、糖尿病の動物モデル、SLEのMRL/lprマウスモデル、過剰増殖性の皮膚疾患(ski diseases)および網膜ブドウ膜炎においても有効である。
【化10】

【0003】
ラパマイシンおよびタクロリムスは、移植拒絶反応を抑制するとして認可されている。しかし、両化合物は、それらの非常に限定された水溶解度のために組成物を処方する際に同様の問題を共に有している。例えば、タクロリムスの水中での溶解度は12μg/mLである。そのように低い溶解度は、やや複雑な処方を必要とする。例えば、静脈注射用のタクロリムス5mgを溶解するために、200mg/mLの水素化ポリオキシ60ヒマシ油(HCO−60)および80%(v/v)無水アルコールが可溶化助剤として必要とされる。ラパマイシンの水中溶解度は約2.6μg/mLであり、経口バイオアベイラビリティが低い(<15%)(Yatscoff et al., 「Rapamycin: distribution, pharmacokinetics, and therapeutic range investigations」 Ther. Drug Monit. 1995, 17, 666-671)。ラパマイシンが、様々な固形腫瘍に対して典型的なIC50が50nm未満の、腫瘍増殖の有力な阻害剤でもあるにも関わらず、これらの特徴は、免疫抑制などの低用量治療以外のラパマイシンの臨床適用を限定する。
【0004】
ポリエチレングリコール(PEG)およびメトキシポリエチレングリコール(mPEG)は、多分散性が低く(M/M<1.05)、多様な分子量で入手できる線状または分枝状の中性ポリマーである。これらの水/有機溶媒溶解性の無毒のポリマーは、生物学的用途および製薬用途において有用であることが見出されている。そのような用途の1つは、ペグ化と呼ばれる、水溶性PEG−薬剤複合体を作成するためのこれらのポリマーと非水溶性または水難溶性の小分子治療薬の結合である。有機分子のペグ化は、有機分子の水溶解度を増強し、その他の有益な特性、例えば改善された血漿半減期、改善された生物学的分布および低下された毒性などを付与することが報告されている(Greenwald et al., 「Effective drug delivery by PEGylated drug conjugates」, Advanced Drug Delivery Rev. 2003, 55, 217-250; Pasut et al., 「Protein, peptide and non-peptide drug PEGylation for therapeutic application」, Expert Opin. Ther. Patents 2004, 14, 859-894)。
【0005】
ラパマイシンのリパーゼ触媒アセチル化は、米国特許出願公開第US−2005/0234234号に考察されている。この触媒プロセスにより、ラパマイシンの42のエステル誘導体がラパマイシンから位置特異的に穏和な条件下で優れた収率で得られる。前記米国特許出願公開は参照文献により本明細書に組み込まれる。
【0006】
ラパマイシンまたはその誘導体のPEG複合体の調製は、米国特許第5,955,457号;同第5,780,462号;同第6,432,973号および同第6,331,547号に記載されている。ペグ化されたCCI−779がそれから作成されるラパマイシンCCI−779のヒドロキシエステルの調製は、米国特許第5,362,718号に記載された。これらの米国特許はすべて参照により本明細書に組み込まれる。これらの特許は、ラパマイシンまたはその誘導体とチオール誘導体(mPEGSH)などのメトキシポリエチレングリコール化合物をエステル結合によって化学的に結合することにより形成された複合体を記載する。所望のPEG複合体を回収するために、溶媒抽出法およびクロマトグラフィー精製がそれにより必要とされた。そのようにすることによって、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製の後にラパマイシン42−ヨードアセテートが55%の収率で調製された。
【0007】
水溶性PEG−タクロリムス(FK506)複合体の調製は、同様の手順を用いる国際特許公開第WO99/03860号に考察されている。これらの手順の主な欠点の1つは、ラパマイシン/タクロリムス骨格中に複数のOH官能基が存在するために、エステル結合の樹立(installation)の選択性が低いことである。その上、ペグ化中に炭酸水素ナトリウム水溶液を塩基として使用することにより、いくつかの副生成物が生じ、低または中程度の回収収率の複数の精製段階を必要とする。
【0008】
エベロリムスの合成は、米国特許第6,440,990号に記載され、PEG−エベロリムス(II)の合成は、米国特許第6,331,547号に記載されている。これらの米国特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当分野で必要とされるものは、マクロライド免疫抑制剤の水溶性ポリ(エチレングリコール)複合体を調製するための代わりとなるプロセスである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、免疫抑制性マクロライドのポリエチレングリコール複合体を調製するためのプロセスが提供される。
【0011】
別の態様では、ラパマイシン、エベロリムス、テムシロリムス、タクロリムスおよびアスコマイシンのポリエチレングリコール複合体を調製するためのプロセスが提供される。
【0012】
本発明のその他の態様および利点は、以下のその好ましい実施形態の詳細な説明においてさらに説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ラパマイシン(ラパマイシン、エベロリムス、テムシロリムス;タクロリムス;またはアスコマイシンを含む)とのポリエチレングリコール複合体を高い収率で調製するための新規で有効なプロセスが提供される。本プロセスには、簡単な単離段階が含まれ、それは完全な位置選択性のリパーゼを用いるこれらのマクロライドにおけるエステル結合の樹立および優れた収率のペグ化複合体を軸とする。
【0014】
本明細書において用いられる場合、ポリエチレングリコール、略して(PEG)は、各末端にヒドロキシル基を有する線状ポリマーである。

HO−(CHCHO)CHCH−OH

この式はHO−PEG−OHと表すことができ、この場合、−PEG−は末端基を含まないポリマー主鎖を表すことが理解される。

−(CHCHO)CHCH

ポリエチレングリコールにはまた、モノ活性化、アルキル末端ポリエチレングリコール、例えばメトキシ−PEG−OH(mPEGOH)が含まれ得る。

CHO(CHCHO)CHCH−OH

(式中、一方の末端は不活性メトキシ基であるが、もう一方の末端は化学修飾のできる状態のヒドロキシル基である)。一実施形態では、活性化mPEGの末端はメトキシ−PEG−SH(mPEGSH)である。

CHO(CHCHO)CHCH−SH

別の実施形態では、HS−PEG−SH(PEGSH)などの、ビス活性化、チオール末端ポリエチレングリコール:

HS−(CHCHO)CHCH−SH

が含まれ得るポリエチレングリコールもまたそのような目的に企図される。
【0015】
ポリエチレングリコールは実質的に分子量によって異なるが、分子量が約400〜約30,000の範囲のポリマーが通常選択される。一例では、約1000〜約30,000の分子量のポリエチレングリコールが選択される。別の例では、約2500〜約20,000の分子量のポリエチレングリコールが選択される。さらなる例では、約5000〜約20,000の分子量のポリエチレングリコールが選択される。これらの式において、nは、典型的には10〜1000の範囲内の整数であることは、当業者は容易に理解する。
【0016】
本明細書において定義される「ラパマイシン」とは、ラパマイシンおよびラパマイシン核の誘導体として化学的または生物学的に修飾されるが、なお生物学的活性を保持し得る化合物を指す。従って、用語「ラパマイシン」には、ラパマイシンのエステル、エーテル、カルボネート、カルバメート、オキシム、ヒドラゾンおよびヒドロキシルアミン、ならびにその核上の官能基が、例えば還元または酸化によって修飾されているラパマイシンが含まれる。また、用語「ラパマイシン」には、酸性または塩基性部分を含むことによってそのような塩を形成することのできるラパマイシンの製薬上許容される塩も含まれる。
【0017】
一実施形態では、ラパマイシンのエステルおよびエーテルは、ラパマイシン核の31位のヒドロキシル基のエステルおよびエーテル、(27位のケトンの化学的還元後の)27位のヒドロキシル基のエステルおよびエーテル、42位のヒドロキシル基のエステルおよびエーテル、特にラパマイシンの42位のヒドロキシル基のヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルケニル、ヒドロキシアルキルアリールエステルまたはエーテルである。オキシム、ヒドラゾンおよびヒドロキシルアミンは、ラパマイシン核のケトンのものである。
【0018】
他の実施形態では、ラパマイシンの31−エステルおよびエーテルは以下の特許に記載されている。アルキルエステル(米国特許第4,316,885号);アミノアルキルエステル(米国特許第4,650,803号);フッ素化エステル(米国特許第5,100,883号);アミドエステル(米国特許第5,118,677号);カルバメートエステル(米国特許第5,118,678号;同第5,441,967号;同第5,434,260号;同第5,480,988号;同第5,480,989号;および同第5,489,680号);シリルエーテル(米国特許第5,120,842号);アミノエステル(米国特許第5,130,307号);アセタール(米国特許第5,51,413号);アミノジエステル(米国特許第5,162,333号);スルホネートおよびスルフェートエステル(米国特許第5,177,203号);エステル(米国特許第5,221,670号);アルコキシエステル(米国特許第5,233,036号);O−アリール、−アルキル、−アルケニルおよび−アルキニルエーテル(米国特許第5,258,389号);カルボネートエステル(米国特許第5,260,300号);アリールカルボニルおよびアルコキシカルボニルカルバメート(米国特許第5,262,423号);カルバメート(米国特許第5,302,584号);ヒドロキシエステル(米国特許第5,362,718号);ヒンダードエステル(米国特許第5,385,908号);複素環エステル(米国特許第5,385,909号);gem二置換エステル(米国特許第5,385,910号);アミノアルカン酸エステル(米国特許第5,389,639号);ホスホリルカルバメートエステル(米国特許第5,391,730号);アミノカルバメートエステル(米国特許第5,463,048号);ヒンダードN−オキシドエステル(米国特許第5,491,231号);ビオチンエステル(米国特許第5,504,091号);およびO−アルキルエーテル(米国特許第5,665,772号)。これらのエステルおよびエーテルの調製は上記に列挙した特許に記載されている。
【0019】
さらにその他の実施形態では、ラパマイシンの27−エステルおよびエーテルが米国特許第5,256,790号において考察されている。これらのエステルおよびエーテルの調製は上記に列挙した特許に記載されている。
【0020】
さらにその他の実施形態では、ラパマイシンの42−ヒドロキシアルキル、42−ヒドロキシアルケニル、42−ヒドロキシアルキルアリールエーテルが米国特許第6,440,990号;同第5,665,772号;および同第5,258,389号に開示されている。ラパマイシンの42−ヒドロキシアルキル、42−ヒドロキシアルケニル、42−ヒドロキシアルキルアリールエステルは米国特許第5,362,718号に開示されている。これらのエステルおよびエーテルの調製は上記に列挙した特許に記載されている。
【0021】
一実施形態では、免疫抑制性マクロライドはシキミ酸由来シクロヘキシル領域を含む。一例では、免疫抑制性マクロライドはラパマイシン、タクロリムスまたはアスコマイシンである。
【0022】
別の実施形態では、免疫抑制性マクロライドはラパマイシンであり、下記構造:
【化11】

(式中、Rは、H、ならびにアルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルの中から選択され;Rは、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルの中から選択され;Rは、H、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキルおよび−C(O)R31の中から選択され;R31は、H、アルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルの中から選択され;Rは、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルの中から選択され;Rは、H、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルケニル、ヒドロキシアリール、ヒドロキシアラルキルおよび−C(O)R51の中から選択され;かつ、R51は、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルケニル、ヒドロキシアリールおよびヒドロキシアラルキルの中から選択される)
を有するものである。
【0023】
「ラパマイシン」の例としては、制限されないが、ラパマイシン(米国特許第3,929,992号)、32−デスメチルラパマイシン、32−デスメトキシラパマイシン、41−デスメチルラパマイシン、41−デスメトキシラパマイシン(国際特許公開第WO−2004/007709号)、7,32−ビス−デスメチルラパマイシン、プロリン−ラパマイシン、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸とのラパマイシン42−エステル(CCI−779、米国特許第5,362,718号)および42−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン(エベロリムス、RAD001、米国特許第5,665,772号)が挙げられる。
【0024】
従って、本明細書に記載されるプロセスは、免疫抑制性マクロライドのポリエチレングリコール複合体の調製を提供する。本プロセスには、リパーゼの存在下、アシル化剤とシキミ酸由来シクロヘキシル領域を有する免疫抑制性マクロライドを反応させて、アシル化されたマクロライドを形成することが含まれる。アシル化されたマクロライドを次に塩基の存在下でメトキシポリ(エチレングリコール)誘導体と反応させる。一実施形態では、免疫抑制性マクロライドはラパマイシン化合物である。
【0025】
一実施形態では、PEG−ラパマイシン複合体は、下記構造:
【化12】

(式中、Rは、H、ならびにアルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルの中から選択され;Rは、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルの中から選択され;Rは、H、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキルまたは−C(O)R31であり;R31は、H、アルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルの中から選択され;Rは、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルの中から選択され;Xは、酸素(−O−)、−O−アルキル−O−、−O−アルケニル−O、−O−アリール−O−、−O−アリールアルキル−O−および−OC(O)Rの中から選択され;Rは、−アルキル−O−、−アルケニル−O−、−アリール−O−および−アリールアルキル−O−の中から選択され;nは10〜1000の整数であり;かつ、XはOまたはSである)を有するものである。
【0026】
さらなる実施形態では、PEG−ラパマイシン複合体は、下記構造(I):
【化13】

(式中、nは10〜1000の整数であり;XはOまたはSである)
を有するものである。
【0027】
別の実施形態では、PEG−ラパマイシン複合体は、下記構造(II):
【化14】

(式中、Xおよびnは上記に定義されるとおりである)
を有するものである。
【0028】
さらに別の実施形態では、PEG−ラパマイシン複合体は、下記構造(III):
【化15】

(式中、Xおよびnは上記に定義されるとおりである)
を有するものである。
【0029】
さらに別の実施形態では、PEG−ラパマイシン複合体は、下記構造(IV):
【化16】

(式中、Xおよびnは上記に定義されるとおりである)
を有するものである。
【0030】
本プロセスは、ラパマイシン化合物以外のイムノフィリンとのPEG複合体を調製するためにも有用である。イムノフィリンは、ラパマイシン化合物の42−OH官能基に類似するシキミ酸由来シクロヘキシル領域を含有し、それには、制限されないが、FK506関連天然物が含まれる。
【0031】
本明細書において、用語「FK506関連天然物」とは、下記コア構造:
【化17】

(式中、R、RおよびRは、独立して、Hまたはアルキルであり;Rはエチルまたはアリルである)
を有する化合物を指す。一例では、R、RおよびRは、Meであり;RはCHCH=CHである。別の例では、R、RおよびRは、Meであり;RはCHCHである。
【0032】
本明細書において使用される用語「アルキル」は、1〜10個の炭素原子(例えば、C、C、C、C、C、C、C、C、CまたはC10)、例えば、1〜8個の炭素原子(例えば、C、C、C、C、C、C、CまたはC)、1〜6個の炭素原子(例えば、C、C、C、C、CまたはC)あるいは1〜4個の炭素原子(例えば、C、C、CまたはC)を有する、直鎖および分岐鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を指す。用語「アルケニル」とは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合と、2〜8個の炭素原子(例えば、C、C、C、C、C、CまたはC)、2〜6個の炭素原子(例えば、C、C、C、CまたはC)あるいは2〜4個の炭素原子(例えば、C、CまたはC)を含む、直鎖および分岐鎖両方のアルキル基を指す。用語「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合と、2〜8個の炭素原子(例えば、C、C、C、C、C、CまたはC、2〜6個の炭素原子(例えば、C、C、C、CまたはC)あるいは2〜4個の炭素原子(例えば、C、CまたはC)を含む、直鎖および分岐鎖両方のアルキル基を指す。
【0033】
本明細書において使用される用語「アリール」は、融合または結合した環の少なくとも一部が共役芳香族系を形成するように一緒に融合または結合した単一の環または複数の芳香環であり得る炭素環式芳香族系を指す。アリール基としては、限定されるものではないが、フェニル、ナフチル、ビフェニル、アントリル、テトラヒドロナフチル、フェナントリルおよびインダンが挙げられる。
【0034】
用語「アリールアルキル」とは、アリール基で置換されているアルキル基を指す。アルキル基は、その結合が安定な化学結合を構成するならば、アリール基のどのポイントに位置していてもよい。
【0035】
本明細書において使用される用語「アラルキル」とは、アルキル基上の任意の炭素原子と結合しているアリール基を有するアルキル基を指す。
【0036】
用語「ヒドロキシアルキル」、「ヒドロキシアルケニル」、「ヒドロキシアリール」および「ヒドロキシアラルキル」とは、このように、その結合が安定な化学結合を構成するならば、アルキル、アルケニル、アリールまたはアラルキル基の任意の炭素原子と結合している−OH基を有するアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル基を指す。
【0037】
用語「ハロゲン」とは、Cl、Br、FまたはIを指す。
【0038】
一実施形態では、FK506関連天然物複合体は、下記式(V)の構造:
【化18】

(式中、nは10〜1000の整数であり;XはOまたはSである)
を有するPEG−タクロリムスである。
【0039】
別の実施形態では、FK506関連天然物複合体は、下記式(VI)の構造:
【化19】

(式中、nは10〜1000の整数であり;XはOまたはSである)
を有するPEG−アスコマイシンである。
【0040】
従って、一実施形態では、式Iの水溶性複合体を調製するためのプロセスが提供される(下記スキーム1を参照)。
【化20】

(式中、R、R、R、Rは上記に定義されているものである)。
【0041】
別の実施形態では、下記スキーム2に概説されるように、2段階シーケンスによる、式(I)で表される水溶性PEG−ラパマイシン複合体を調製するためのプロセスが提供される。
【化21】

(式中、XはSまたはOであり;Yはハロゲンなどの脱離基であり;かつ、RはHまたはメチルである)。
【0042】
スキーム1および2から分かるように、ラパマイシン複合体は、メトキシポリエチレングリコールが42位の位置でエステルリンカーによってラパマイシンと結合しているエステルの形態である。当分野の方法と対照的に、本明細書に記載されるこの活性化ラパマイシン42−エステル誘導体の合成は、リパーゼに触媒されるラパマイシンと、下記一般式:
【化22】

(式中、RはHまたはCHであり;Yは脱離基である)
を有する活性化エステル(A)のアシル化を介して達成される。
【0043】
脱離基の例としては、限定されるものではないが、ハロゲンおよびスルホネート、例えばメタンスルホネート(メシレート、MsO)およびp−トルエンスルホネート(トシレート、TsO)などが挙げられる。一実施形態では、脱離基はハロゲン、例えばI、BrまたはClなどである。別の実施形態では、活性化エステルは2−ハロ酢酸のビニルエステルである(R=CH)。さらなる実施形態では、活性化エステルはブロモ酢酸のビニルエステルである。その他の2−ハロ酢酸の活性化エステル、例えばイソプロペニルエステル(R=CH)、オキシムエステル、トリクロロエチルまたはトリフルオロエチルエステルなどは当業者に公知であり、本明細書に包含される。
【0044】
本明細書に記載される本プロセスの利点は、ラパマイシンのアシル化されたラパマイシン(VII)への変換が、ほぼ定量的収率で行われ得ることである。望ましくは、アシル化されたラパマイシン(VII)は、95%、96%、97%、98%または99%より大きな収率で調製される。
【0045】
多様なリパーゼを利用することができる。一実施形態では、リパーゼは微生物リパーゼ、すなわち加水分解およびエステル結合の形成を触媒する、微生物起源のリパーゼである。微生物リパーゼとしては、例えば、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が挙げられる。しかし、本明細書における使用のために選択されたリパーゼは、元の供給源から直接に単離および精製される必要はなく、合成によってまたは組換えによって、あるいはその他の適した手段によって調製することができる。多様なこれらの酵素は一部の商業的供給源から入手でき、さらに、これらの酵素調製物は、様々な供給者による異なる商品名の異なる微生物起源からの未精製物、部分精製物、精製物または固定化物として使用することができる。
【0046】
一実施形態では、カンジダ・アンタークティカ由来のB型リパーゼが利用される。C.アンタークティカリパーゼは、例えば、Novo SP43(商標)、Novozym43(商標)(Novo Nordisk)またはChirazyme L−2(商標)(Roche Molecular Biochemicals and BioCatalytics)の製品名で市販されている。別の実施形態では、シュードモナス・セパシア由来のリパーゼが使用される。シュードモナス・セパシアは、例えば、リパーゼPS(天野エンザイム株式会社)の製品名で市販されている。望ましくは、酵素は固定化された形態で使用される。一実施形態では、固定化されたリパーゼは、リパーゼPS−C「Amano」II(商標)またはリパーゼPS−C「Amano」I(商標)(天野エンザイム株式会社)である。別の実施形態では、固定化されたリパーゼは、リパーゼPS−D「Amano」I(商標)(天野エンザイム株式会社)である。
【0047】
リパーゼは効果的な触媒量で、すなわち、アシル化を妥当な速度で効果的に触媒する量で使用される。当業者には、酵素が(ラパマイシンまたはFK506/FK520の量に対して)約20〜約800重量%の量で使用され得ることが理解される。一実施形態では、酵素は約25〜約500重量%の量で使用される。別の実施形態では、酵素は約50〜約250重量%の量で使用される。さらなる実施形態では、酵素は約75〜約150重量%の量で使用される。
【0048】
反応は典型的には有機溶媒中で実施される。適した溶媒としては、限定されるものではないが、トルエン、tert−ブチルメチルエーテル(TBME)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル(MeCN)、メチレンクロライド(CHCl)、クロロホルム(CHCl)、ジ−イソプロピルエーテル(PrO)、ヘキサン、ジオキサンまたはこれらの溶媒を含む混合物が挙げられる。一実施形態では、TBMEが使用される。当業者であれば、溶媒が、初めに出発ラパマイシンの全てまたは一部を効果的に溶解し、妥当な速度で反応を進行させることのできる量で使用されることを理解する。例えば、溶媒、例えばTBMEなどは、少なくとも4重量容積(すなわち、ラパマイシンの量の4倍(4×)過剰な容積)から約10重量容積の量で用いることができる。一例では、溶媒は約5〜8重量容積の量(すなわちラパマイシンの量の5〜8倍過剰な容積)で用いられ得る。
【0049】
TBMEは、ラパマイシン化合物を分解し得る残留水(例えば、約0.05%)を含み得る。この副反応を最小限にするために、少量の水分が反応系中で維持される。一実施形態では、無水TBMEはリパーゼ触媒の標準的な市販調製品とともに使用される。別の実施形態では、水分は、乾燥剤を添加することによりリパーゼ溶液中に存在する水の量を調節することによって制御され得る。さらに別の実施形態では、モレキュラーシーブを用いて水分を制御することができる。モレキュラーシーブは反応を遅くするので、補償するためにより多くの酵素を添加するか、または長い反応時間を用いることができる。一実施形態では、5Åモレキュラーシーブが使用される。しかし、限定されるものではないが、4Åおよび3Åを含むその他のシーブサイズが容易に使用され得る。適したモレキュラーシーブスは多様な商業的供給源から入手可能である。さらに別の実施形態では、乾燥剤、例えば、数ある中でMgSO、NaSOが、含水量を制御するために使用され得る。
【0050】
アシル化反応は、望ましくない副生成物の形成を低減するために十分低いが、不当に長い反応時間を必要としない程度までの低い温度で行われる。一実施形態では、アシル化は、約20〜約55℃で行われる。別の実施形態では、アシル化反応は、約25〜50℃で行われる。さらなる実施形態では、アシル化反応は、約35〜45℃で行われる。
【0051】
一実施形態では、アシル化は、無水TBME中でラパマイシン、ビニルブロモアセテートおよびリパーゼPS−C「Amano」II(商標)(ラパマイシンとして100% w/w)を合わせることにより行われる。この混合物を窒素下で40℃にて約8時間、または薄層クロマトグラフィー(TLC)またはHPLCでモニターしてラパマイシン出発物質が消失するまで過熱する。濾過により酵素を除去した後、ラパマイシン42−ブロモアセテートがほぼ定量的収率で得られた。
【0052】
一度エステルリンカーが導入されると、次の段階にはPEG分子とこの活性化ラパマイシンアセテート(VII)との結合が含まれる。ペグ化は、非求核性塩基の存在下、有機溶媒中、(VII)と、一般式HX−(CHCHO)−CH(B)(式中、Xおよびnは上記に定義されるとおりである)を有するメトキシポリエチレン誘導体を反応させることにより達成された。
【0053】
本明細書において、用語「非求核性塩基」とは、求核性を有さない塩基として機能する化合物を指す。望ましくは、非求核性塩基は他の化合物およびペグ化の試薬と反応しない。多様な非求核性塩基が当業者に公知である。例えば、Richard C. Larock, in 「Comprehensive Organic Transformation」, 2nd edition, 1999を参照のこと。一実施形態では、非求核性塩基は第三級アミンである。一例では、第三級アミンは脂肪族アミンである。別の例では、第三級アミンは芳香族アミンである。さらなる例では、第三級アミンはトリアルキルアミン、例えばトリエチルアミンまたはジイソプロピルエチルアミンなどである。
【0054】
ペグ化において有用な、適した溶媒としては、限定されるものではないが、THF、MeCN、CHCl、CHCl、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(dimethylforamide)(DMF)またはこれらの溶媒を含む混合物が挙げられる。一実施形態では、MeCNは溶媒である。
【0055】
PEG−ラパマイシン複合体は、数ある中でも、沈殿、抽出、濾過を含む、当業者に周知の手順を用いて単離することができる。
【0056】
従って、一実施形態では、ラパマイシン42−ブロモアセテートとmPEGチオール(MW約5000)を、アセトニトリル中、ジイソプロピルエチルアミンを用いて一定時間処理した。そのようにすることにより、イソプロパノールを反応混合物に添加することによる単純な沈殿の後、所望のPEG−ラパマイシン複合体(I)を優れた収率で得ることができる。
【0057】
別の実施形態では、スキーム3に概説される2段階シーケンスによる、式(II)で表される水溶性PEG−エベロリムス(42−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシン、RAD001)複合体を調製するための方法が提供される。PEG−エベロリムス複合体(II)は、PEG−ラパマイシン複合体(I)について記載されるものと同様の方法で調製され得る。要約すれば、反応は、式(A)のアシル化剤を用いるリパーゼ触媒アシル化により得られる中間体(VIII)を経て行われる。次に、上に記載される有機溶媒中、非求核性塩基の存在下で化合物(VIII)を式(B)のメトキシポリエチレン誘導体と反応させる。一例では、非求核性塩基はトリアルキルアミンである。別の例では、有機溶媒はアセトニトリルである。化合物IIはそれにより優れた収率で、かつ、さらなる精製を必要としないほど高い純度で調製される。
【化23】

【0058】
別の実施形態では、同様の2段階シーケンスによる、式(III)、(IV)またはそれらの組合せで表される水溶性PEG−CCI−779複合体を調製するためのプロセスが提供される。スキーム4を参照のこと。CCI−779分子の42位のエステル側鎖中の一方または両方のOH基は、スキーム3に記載されるように、リパーゼにより触媒される式(A)のアシル化剤でアシル化され得る。モノアシル化生成物(IX)とビスアシル化生成物(X)の比は、リパーゼの量、ビニルエステル(A)の量、反応時間および温度を変更することにより変えることができる。さらに、式(IX)および(X)の化合物は、クロマトグラフィーを用いて混合物からそれぞれ分離することができる。化合物(IX)および(X)は、次に、別々に使用されて対応するPEG−CCI−779複合体(III)および(IV)が調製され得る。あるいは、化合物(IX)および(X)は混合物として保持されてもよく、その混合物は対応するPEG−CCI−779複合体(III)および(IV)を調製するために使用される。
【0059】
PEG−複合体(III)および(IV)の調製は、上記の有機溶媒中、上記の非求核性塩基の存在下、化合物(IX)および(X)と式(B)のメトキシポリエチレン誘導体を反応させることにより行われた。一例では、非求核性塩基はトリアルキルアミンである。別の例では、有機溶媒はアセトニトリルである。そのようにすることにより、複合体(III)および(IV)は、それぞれ、優れた収率で、かつ、さらなる精製を必要としないほど高い純度で調製され得る。
【化24】

【0060】
さらに別の実施形態では、式(V)および(VI)で表される水溶性PEG−タクロリムスおよびPEG−アスコマイシン複合体を別々に調製するための方法が提供される。スキーム5に記載されるように、それぞれの32−エステル化中間体(XI)は、リパーゼの存在下、タクロリムス(FK506)またはアスコリムス(ascolimus)(FK520)を式(A)のアシル化剤を用いて位置特異的な方法で、優れた収率でアシル化することにより得ることができる。その後の上記有機溶媒中、上記非求核性塩基の存在下での、(XI)の式(B)のメトキシポリエチレン誘導体での処理により、式(V)のPEG−タクロリムス複合体または式(VI)のPEG−アスコリムス複合体が、それぞれ優れた収率かつ高純度で得られた。一例では、非求核性塩基はトリアルキルアミンである。別の例では、有機溶媒はアセトニトリルである。
【化25】

【0061】
本明細書に記載される経路は、米国特許第5,955,457号;同第6,331,547号;同第5,780,462号;および同第6,432,973号ならびに国際特許公開第WO99/03860号に公開されている合成手順よりも明確な利点をいくつか提供する。これらの利点には、余計な精製段階を必要としない処理の容易さと、より高い全収率が含まれる。これは、エステルリンカーを位置特異的に導入するための触媒としてリパーゼを使用することにより達成される。また、高い収率は、その後の共役反応において、出発物質および生成物を分解する無機塩基、例えば重炭酸ナトリウムなどを使用する代わりに、有機塩基、例えばトリアルキルアミンなどを使用することに起因する。例えば、米国特許第5,955,457号に記載される合成経路は、42−ペグ化されたラパマイシンを2回のHPLC精製後に50%未満の収率で供給するのに対し、本明細書に記載の本プロセスは、精製の必要なく、ほぼ定量的収率で生成物を供給する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は単なる例示であり、本発明の限定するものではない。Novozym435は、アクリル樹脂上に固定化されているカンジダ・アンタークティカリパーゼBの商標である。
【0063】
実施例1 − ラパマイシン42−ブロモアセテート(VII)を経由するPEG−ラパマイシン複合体(I)の調製
【化26】

【0064】
A.ラパマイシン42−ブロモアセテート(VII)の調製
無水t−ブチルメチルエーテル(TBME)(8mL)中、ラパマイシン(914mg、1mmol)、ビニルブロモアセテート(660mg、4mmol)、5Åモレキュラーシーブス(100mg)およびNovozym435(商標)リパーゼ(1.0g)の混合物をN下で40℃にて8時間加熱した。酵素を濾過により除去し、TBMEで洗浄した。混合物を濃縮し、ヘキサンに沈殿させた。ラパマイシン42−ブロモアセテート(VII)を濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:1.01g(98%)。MS(ESI)m/e 1035(M
【0065】
B.PEG−ラパマイシン複合体(I)の調製
mPEGSH(500mg、MW=5000)のMeCN(1.5mL)溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(17mg)、続いてラパマイシン42−ブロモアセテート(VII)(95mg)を添加した。次に、混合物を室温にて3時間攪拌した。2−プロパノール(18mL)を添加し、混合物を10〜15℃まで冷却し、30分間維持した。沈殿したペグ化ラパマイシンを濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:550mg(95%)。H NMR(400MHz,CDCl):δ2.84(t,2H,S−CH−CH)、3.27(s,2H,CO−CH−S)、3.36(s,3H,−OCH)、4.69(m,1H,H−42);MS(MALDI/TOF)m/z 5877.47(平均MW)。
【0066】
実施例2 − エベロリムス42−ブロモアセテート(VIII)を経由するPEG−エベロリムス複合体(II)の調製
【化27】

【0067】
A.エベロリムス42−ブロモアセテート(VIII)の調製
無水t−ブチルメチルエーテル(TBME)(3mL)中、エベロリムス(250mg、0.26mmol)、ビニルブロモアセテート(165mg、1mmol)、5Åモレキュラーシーブス(20mg)およびNovozym435(商標)リパーゼ(200mg)の混合物をN下で35℃にて10時間加熱した。酵素を濾過により除去し、TBMEで洗浄した。混合物を濃縮し、ヘキサンでトリチュレートした。エベロリムス42−ブロモアセテート(VIII)を濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:275mg(96%)。MS(ESI)m/e 1078(M
【0068】
B.PEG−エベロリムス複合体(II)の調製
mPEGSH(500mg、MW=5000)のMeCN(1.5mL)溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(18mg)、続いてエベロリムス42−ブロモアセテート(VII)(110mg)を添加した。次に、混合物を室温にて3時間攪拌した。2−プロパノール(18mL)を10分間にわたり添加し、混合物を10〜15℃まで冷却し、30分間維持した。白色の粉末を濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:530mg(87%)。
【0069】
実施例3 − CCI−779モノ−ブロモアセテート(IX)およびCCI−779ビス−ブロモアセテート(X)の調製
【化28】

【0070】
無水t−ブチルメチルエーテル(TBME)(130mL)中、CCI−779(7.0g、6.8mmol)、ビニルブロモアセテート(4.0g、24.24mmol)、5Åモレキュラーシーブス(2.0g)およびNovozym435(商標)リパーゼ(1.3g)の混合物を、室温にてN下で8時間攪拌した。HPLCは、反応混合物が64%モノ−ブロモアセテート、20%ビス−ブロモアセテートおよび12%CCI−779出発物質を含有することを示した。酵素を濾過により除去し、TBMEで洗浄した。混合物を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。少ないほうの極性画分にビス−ブロモアセテート(X)が含まれ、それを回収した(1.41g)。MS(ESI)m/e 1317(M+45)。多い方の極性画分にはモノ−ブロモアセテート(IX)(4.56g)が含有され、それを次に白色の粉末として単離した。MS(ESI)m/e 1196(M+45)
【0071】
実施例4 − PEG−CCI779複合体(III)の調製
【化29】

【0072】
mPEGSH(20.0g、MW=5000)のMeCN(45mL)溶液に、実施例3で調製したように、ジイソプロピルエチルアミン(722mg、5.6mmol)、続いてCCI−779モノブロモアセテート(IX)(4.60g、4mmol)を添加した。次に、混合物を室温にて4時間攪拌した。2−プロパノール(540mL)を10分間にわたり添加し、混合物を10〜15℃まで冷却し、30分間維持した。PEG−CCI−779複合体(III)を白色の粉末として濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:20.3g(83%)。
【0073】
実施例5 − PEG−CCI−779複合体(IV)の調製
【化30】

【0074】
mPEGSH(3.0g、MW=5000)のMeCN(9mL)溶液に、実施例3で調製したように、ジイソプロピルエチルアミン(101mg、0.78mmol)、続いてCCI−779ビスブロモアセテート(X)(414mg、0.32mmol)を添加した。次に、混合物を室温にて4時間攪拌した。2−プロパノール(108mL)を10分間にわたり添加し、混合物を10〜15℃まで冷却し、30分間維持した。PEG−CCI−779複合体(IV)を白色の粉末として回収し、真空乾燥させた。収量:3.25g(96%)。
【0075】
実施例6: タクロリムス32−ブロモアセテート(XI)を経由するPEG−タクロリムス複合体(V)の調製
【化31】

【0076】
A.タクロリムス32−ブロモアセテート(XI)の調製
無水t−ブチルメチルエーテル(TBME)(0.2mL)中、タクロリムス(10mg)、ビニルブロモアセテート(20mg)およびNovozym435(商標)リパーゼ(20mg)の混合物をN下で40℃にて12時間加熱した。酵素を濾過により除去し、TBMEで洗浄した。濾液をシリカゲルパッドに通し、ヘキサン−アセトン(3:1)で洗浄した。タクロリムス32−ブロモアセテートを回収し、真空乾燥させた。収量:10.5mg(91%)。MS(ESI)m/e 924(M
【0077】
B.PEG−タクロリムス複合体(V)の調製
mPEGSH(25mg、MW=5000)のMeCN(0.1mL)溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(1mg)、続いてタクロリムス32−ブロモアセテート(5mg)を添加した。次に、混合物を室温にて3時間攪拌した。2−プロパノール(1.5mL)を添加し、混合物を10〜15℃まで冷却し、30分間維持した。沈殿したPEG−タクロリムス複合体(V)を濾過により回収し、真空乾燥させた。収量:24mg(80%)。
【0078】
本明細書に引用されるすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は特定の実施形態を参照して説明されたが、本発明の精神を逸脱することなく変更がなされ得ることは当然理解される。そのような変更は添付の特許請求の範囲内にあるものと意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫抑制性マクロライドのポリエチレングリコール複合体を調製するためのプロセスであって、
(a)リパーゼの存在下、アシル化剤とシキミ酸由来シクロヘキシル領域を有する免疫抑制性マクロライドを反応させて、アシル化されたマクロライドを形成する段階と;
(b)塩基の存在下、アシル化されたマクロライドとメトキシポリ(エチレングリコール)誘導体またはチオール末端ポリ(エチレングリコール)誘導体を反応させる段階とを含む、プロセス。
【請求項2】
免疫抑制性マクロライドがラパマイシンであり、前記ラパマイシンが42位で位置特異的にアシル化されている、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
免疫抑制性マクロライドが、下記構造:
【化1】

(式中、Rは、H、ならびにアルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルからなる群より選択され;
は、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルからなる群より選択され;
は、H、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキルおよび−C(O)R31からなる群より選択され;
31は、H、アルキル、アルケニル、アリールおよびアリールアルキルからなる群より選択され;
は、H、ヒドロキシルおよび−O−アルキルからなる群より選択され;
は、H、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルケニル、ヒドロキシアリール、ヒドロキシアラルキルおよび−C(O)R51からなる群より選択され;かつ
51は、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルケニル、ヒドロキシアリールおよびヒドロキシアラルキルからなる群より選択される)
のものである、請求項1または2記載のプロセス。
【請求項4】
免疫抑制性マクロライドが42−O−(2−ヒドロキシ)エチルラパマイシンである、請求項1または2記載のプロセス。
【請求項5】
免疫抑制性マクロライドがCCI−779である、請求項1または2記載のプロセス。
【請求項6】
免疫抑制性マクロライドが、タクロリムスおよびアスコマイシンからなる群より選択され、前記タクロリムスおよび前記アスコマイシンが32位で位置特異的にアシル化されている、請求項1記載のプロセス。
【請求項7】
前記免疫抑制性マクロライドが、下記構造:
【化2】

(式中、R、R、Rは、独立して、Hまたはアルキルであり;Rはエチルまたはアリルである)
のものである、請求項1または6記載のプロセス。
【請求項8】
下記式I、式II、式III、式IV、式Vおよび式VI:
【化3】

(式中、nは10〜1000の整数であり;XはOまたはSである)
からなる群より選択されるペグ化された免疫抑制性マクロライドを調製するためのプロセスであって、
(a)リパーゼの存在下、マクロライドとアシル化剤を反応させてアシル化されたマクロライドを形成する段階を含み、前記アシル化剤が、下記構造:
【化4】

(式中、RはHまたはCHであり;Yは脱離基である)のものであり;かつ
(b)塩基の存在下、アシル化されたマクロライドとメトキシポリ(エチレングリコール)誘導体を反応させる段階を含み、前記メトキシポリ(エチレングリコール)誘導体が、下記構造:
HX−(CHCHO)−CH
(式中、nは10〜1000の整数であり;XはOまたはSである)
のものである、
前記プロセス。
【請求項9】
前記リパーゼが、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)、カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)またはリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)を含む微生物由来の微生物リパーゼである、請求項1から8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記リパーゼが、カンジダ・アンタークティカ由来である、請求項1から9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記リパーゼが、固定化されたカンジダ・アンタークティカB型(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)である、請求項1から10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記リパーゼが、シュードモナス・セパシア由来のリパーゼPSである、請求項1から9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
前記リパーゼが、酵素が珪藻土またはセラミック担体上に固定化されている、シュードモナス・セパシア由来の固定化されたリパーゼPS−C、例えば、Amano II(商標)リパーゼまたはリパーゼPS−D Amano I(商標)リパーゼである、請求項1から9または12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
段階(a)が、トルエン、tert−ブチルメチルエーテル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチレンクロライド、クロロホルム、ヘキサン、ジオキサンおよびそれらの混合物からなる群より選択される有機溶媒中で行われる、請求項1から8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項15】
段階(a)が、20〜70℃にて行われる、請求項1から14のいずれかに記載のプロセス。
【請求項16】
段階(a)が、モレキュラーシーブスの使用をさらに含む、請求項1から15のいずれかに記載のプロセス。
【請求項17】
段階(a)が、tert−ブチルメチルエーテル中40℃にて行われ、前記アシル化剤がビニルブロモアセテートであり、前記リパーゼが固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)であり、かつ、前記モレキュラーシーブスが5Åモレキュラーシーブスである、請求項16記載のプロセス。
【請求項18】
Yが、I、BrまたはClである、請求項8から17のいずれかに記載のプロセス。
【請求項19】
アシル化剤がビニルブロモアセテートである、請求項1から18のいずれかに記載のプロセス。
【請求項20】
段階(b)中の前記塩基が第三級アミンである、請求項1から19のいずれかに記載のプロセス。
【請求項21】
前記第三級アミンが脂肪族または芳香族である、請求項20記載のプロセス。
【請求項22】
前記第三級アミンがトリアルキルアミンである、請求項20記載のプロセス。
【請求項23】
前記塩基がジイソプロピルエチルアミンである、請求項1から19のいずれかに記載のプロセス。
【請求項24】
前記メトキシポリ(エチレングリコール)誘導体がメトキシポリ(エチレングリコール)チオール化合物である、請求項8から23のいずれかに記載のプロセス。
【請求項25】
前記メトキシポリ(エチレングリコール)チオールの平均分子量が400〜30000である、請求項24記載のプロセス。
【請求項26】
前記メトキシポリ(エチレングリコール)チオールの平均分子量が5000である、請求項25記載のプロセス。
【請求項27】
下記構造:
【化5】

(式中、nは105〜115である)
のペグ化されたラパマイシンを調製するためのプロセスであって、
(a)固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)の存在下、ラパマイシンとビニルブロモアセテートを反応させてアシル化されたラパマイシンを形成する段階と;
(b)ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アシル化されたラパマイシンと平均分子量が5000のメトキシポリ(エチレングリコール)チオールを反応させる段階と
を含む、前記プロセス。
【請求項28】
下記構造:
【化6】

(式中、nは105〜115である)
のペグ化されたエベロリムスを調製するためのプロセスであって、
(a)固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)の存在下、エベロリムスとビニルブロモアセテートを反応させてアシル化されたエベロリムスを形成する段階と;
(b)ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アシル化されたエベロリムスと平均分子量が5000のメトキシポリ(エチレングリコール)チオールを反応させる段階と
を含む、前記プロセス。
【請求項29】
下記構造:
【化7】

(式中、nは105〜115である)
のペグ化されたCCI−779を調製するためのプロセスであって、
(a)固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)の存在下、CCI−779とビニルブロモアセテートを反応させてモノアシル化またはビスアシル化されたCCI−779を形成する段階と;
(b)ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アシル化されたCCI−779と平均分子量が5000のメトキシポリ(エチレングリコール)チオールを反応させる段階と
を含む、前記プロセス。
【請求項30】
下記構造:
【化8】

(式中、nは105〜115である)
のペグ化されたタクロリムスを調製するためのプロセスであって、
(a)固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)の存在下、タクロリムスとビニルブロモアセテートを反応させてアシル化されたタクロリムスを形成する段階と;
(b)ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アシル化されたタクロリムスと平均分子量が5000のメトキシポリ(エチレングリコール)チオールを反応させる段階と
を含む、前記プロセス。
【請求項31】
下記構造:
【化9】

(式中、nは105〜115である)
のペグ化されたタクロリムスを調製するためのプロセスであって、
(a)固定化されたカンジダ・アンタークティカリパーゼB(好ましくは、アクリル樹脂上に固定化されている)の存在下、タクロリムスとビニルブロモアセテートを反応させてアシル化されたタクロリムスを形成する段階と;
(b)ジイソプロピルエチルアミンの存在下、アシル化されたタクロリムスと平均分子量が5000のメトキシポリ(エチレングリコール)チオールを反応させる段階と
を含む、前記プロセス。
【請求項32】
請求項1から31のいずれかに記載のプロセスにより調製される、生成物。

【公表番号】特表2009−529050(P2009−529050A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558347(P2008−558347)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/005646
【国際公開番号】WO2007/103348
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】