説明

マグネトロンカソード電極及びマグネトロンカソード電極を用いたスパッタリング方法

【課題】 従来のスパッタリング装置用のマグネトロンカソード電極では、処理基板の周囲に設けたアノードの影響を受けて、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることが困難であった。
【解決手段】 処理基板Sに対向して設けたターゲットTの後方に、中央磁石35bと周辺磁石35cとから構成される磁石組立体35を設ける。中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積と比較して小さく設定して前記磁石組立体を構成し、処理基板中央領域での磁場強度を局所的に高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング方式で処理基板上に所定の薄膜を成膜するスパッタリング装置のマグネトロンカソード電極、特に、反応性スパッタリング装置や高融点金属ターゲット用のスパッタリング装置のマグネトロンカソード電極及びこのマグネトロンカソード電極を用いたスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタリング方式では、ターゲットの後方(スパッタ面と背向する側)に、3個の磁石を交互に極性を変えて設けた磁石組立体を少なくとも1個配置し、この磁石組立体によってターゲットの前方(スパッタ面側)にトンネル状の磁束を形成して、ターゲットの前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉することで、ターゲットの前方での電子密度を高め、これらの電子と、真空チャンバ内に導入される希ガスのガス分子との衝突確率を高めてプラズマ密度を高くできる。このため、成膜速度を向上できる等の利点があり、処理基板上に所定の薄膜を形成するのによく利用されている。
【0003】
従来のマグネトロンスパッタリング装置のマグネトロンカソード電極では、磁石組立体の中心磁石とその両側の周辺磁石との間で発生する磁束がちょうど釣り合い、ターゲットの前方で閉じたトンネル状の磁束を形成するために、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を、各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和(周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:2:1)に等しくなるように設計している。
【0004】
上記マグネトロンカソード電極を有するスパッタリング装置によって成膜する場合、主として、放電により発生したプラズマ中における電子のドリフト現象に関連して放電自体が偏る場合があるため、処理基板の面内における膜厚分布が悪くなり易いという問題がある。
【0005】
このことから、磁石組立体の所定の箇所に、この磁石組立体により発生するトンネル状の磁束を調節し、ターゲットの前方に発生するプラズマを均一にするように、磁性体を設けることが考えられている(例えば、特許文献1)
【特許文献1】特開平9−20979号公報(例えば、特許請求の範囲の記載)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のものでは、磁性体を設けてプラズマを均一にすることで処理基板面内での膜厚分布の均一化が図れるものの、一般に、処理基板の周囲には、この処理基板を囲うようにカソード電極と相対してアノードが配置されるため、プラズマ中の電子や二次電子がアノードに向かって流れることから、処理基板の外周領域の前方(ターゲットに向かう方向)において、電子及び二次電子の密度が高くなってプラズマ密度が高くなる。
【0007】
この場合、例えばアルゴンなどのスパッタガスと共に、酸素などの反応ガスを導入して反応性スパッタリングを行うと、処理基板の外周領域の前方での反応が、基板中央部におけるものと比較して促進され、その結果、処理基板面内において、比抵抗値などの膜質が不均一になるという問題があった。このことは、処理基板が大きくなるとより顕著となる。
【0008】
そこで、上記点に鑑み、本発明の課題は、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができるマグネトロンカソード電極及びマグネトロンカソード電極を用いたスパッタリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載のマグネトロンカソード電極は、処理基板に対向して設けたターゲットの後方に、中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体を設けたマグネトロンカソード電極において、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定し、処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めるように、前記磁石組立体を構成したことを特徴とする。
【0010】
これによれば、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を、各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定することで、中央磁石と周辺磁石との間の磁束の釣り合いが崩れて、磁場分布が非平衡状態となり、主として中央磁石からターゲットを貫通して処理基板に向かう磁束線が多くなる(漏洩磁場が多くなる)。この場合、処理基板を通過する磁束線が処理基板の中央領域において密になってその領域での磁場強度が高くなる。
【0011】
この状態で、例えば反応性スパッタリングを行うと、処理基板の中央領域前方でのイオン電流密度が高くなって処理基板に自己バイアスが誘起されることで、処理基板の中央領域前方での陽イオンの反応が促進される。その結果、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができる。
【0012】
また、請求項2記載のマグネトロンカソード電極は、処理基板に対向して設けたターゲットの後方に、中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体を複数並設したマグネトロンカソード電極において、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定し、処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めるように、並設した前記磁石組立体のうち中央に位置する少なくとも1個の磁石組立体を構成したことを特徴とする。
【0013】
上記の場合、前記中央磁石の両側面に磁性体を装着して、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を小さくすればよい。
【0014】
この場合、前記磁性体を板状に形成し、この磁性体の板厚を変化させて処理基板の中央領域での磁場強度を制御すればよい。
【0015】
また、前記磁性体として、最大透磁率が高くかつ剛性を有する材料を用いることが好ましい。
【0016】
前記処理基板面内で、その中央の近傍において磁場強度が最大になるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定することが好ましい。
【0017】
前記処理基板面内で、その中央領域とその外周領域との間における磁束密度の差が12ガウス以上、好ましくは20ガウス以上になるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定するのがよい。12ガウスより小さいと、処理基板への入射電子の有効エネルギーが小さく、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができない。
【0018】
前記処理基板の中央領域を貫通する磁束線の垂直成分とこの処理基板とのなす角度が30度以上となるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定するのがよい。30度より小さいと、処理基板への入射電子の有効エネルギーが小さく、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができない。
【0019】
前記ターゲットの全面に亘って一様な侵食領域が得られるように、前記磁石組立体をターゲットに対して平行移動させる駆動手段を設けておけば、ターゲットの全面に亘って一様な侵食領域が得られてよい。
【0020】
尚、前記マグネトロンカソード電極を、Mo、Tiなどの高融点金属ターゲットを用いてスパッタリングする際に用いれば、処理基板の中央領域でのイオン電流密度が高くなって処理基板に自己バイアスが誘起されることで、処理基板の中央領域での陽イオンの入射が高まる。その結果、処理基板面内での膜密度を向上させて、例えば比抵抗値が不均一になる等、処理基板面内において膜質が不均一になることが防止できる。
【0021】
また、前記マグネトロンカソード電極を、不活性ガスと共に、酸素、窒素、炭素、水素、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスを反応ガスとして導入して反応性スパッタリングする際に用いれば、理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができてよい。
【0022】
本発明のスパッタリング方法は、ターゲットと、このターゲットの後方に中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体とを備えたマグネトロンカソード電極を用い、このターゲットのスパッタ面の前方に磁束を形成すると共に、ターゲットと処理基板との間に電界を形成し、不活性ガスを導入してプラズマを発生させてターゲットをスパッタリングする方法であって、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定して処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めてスパッタリングすることを特徴とする。
【0023】
この場合、前記スパッタリングの際に、不活性ガスと共に、酸素、窒素、炭素、水素、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスを反応ガスとして導入するようにできる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明のマグネトロンカソード電極は、例えば反応性スパッタリングする場合でも、処理基板全面に亘って比抵抗値などの膜質が均一な薄膜を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1を参照して、1は、本発明のマグネトロン方式のスパッタリング装置(以下、「スパッタ装置」という)である。スパッタ装置1は、ドライポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段(図示せず)を介して所定の真空度に保持されたスパッタ室11を有する。スパッタ室11の上部には、図示しない搬送装置によって処理基板Sが設置される。
【0026】
スパッタ室11にはまた、ガス導入手段2が設けられている。ガス導入手段2は、マスフローコントローラ21を介設したガス管22を介してガス源23に連通しており、アルゴンなどのスパッタガスや反応性スパッタリングの際に用いる酸素などの反応ガスがスパッタ室11内に一定の流量で導入できるようになっている。この場合、反応ガスとしては、処理基板S上に成膜しようする薄膜の組成に応じて選択され、酸素、窒素、炭素、水素、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスなどが用いられる。スパッタ室11の下側には、マグネトロンカソード電極であるカソード組立体3が配置されている。
【0027】
カソード組立体3は、処理基板Sに対向して配置された略長方形のターゲットTを有し、このターゲットTは、TiやMoなど、処理基板S上に成膜しようする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製される。ターゲットTは、スパッタリングの際にこのターゲットTを冷却するバッキングプレート31に接合され、バッキングプレート31が、絶縁板32を介してカソード組立体3のフレーム33に取付けられている。
【0028】
ターゲットTの周囲には、プラズマを安定して発生させるために、ターゲットTの周囲を囲うようにアースシールド34が設置される。この場合、アースシールド34は、ターゲットTに接合されたバッキングプレート31などターゲットT以外の部品との間でダークスペースを形成して、これらの部品がスパッタリングされることを防止する役割を果たす。また、処理基板Sの周囲には、この処理基板Sを囲うようにカソード組立体3と相対してアノード4が配置される。
【0029】
カソード組立体3は、ターゲットTの後方に位置して磁石組立体35を装備している。磁石組立体35は、ターゲットTに平行に配置された支持部35aを有し、この支持部35a上には、交互に極性を変えてかつ所定の間隔を置いて、磁気特性が同じである3個の磁石35b、35cが設置されている。
【0030】
そして、処理基板SをターゲットTと対向した位置に搬送し、ガス導入手段3を介して所定のスパッタガスを導入する。ターゲットTに、スパッタ電源Eを介して負の直流電圧または高周波電圧を印加すると、処理基板S及びターゲットTに垂直な電界が形成され、ターゲットTの前方にプラズマが発生してターゲットTがスパッタリングされることで処理基板S上に成膜される。
【0031】
この場合、磁石組立体35の位置を固定にすると、プラズマ密度が局所的に高くなり、スパッタリングによるターゲットTの侵食領域は、プラズマ密度の高い部分だけが大きくなって、ターゲットTの利用効率が低くなる。このため、磁石組立体35に、モータ36aを有する駆動手段36を設け、ターゲットTの水平方向に沿った2箇所の位置の間で平行かつ等速で往復動させるようにしている。
【0032】
一般に、ターゲットTの外形寸法は、処理基板Sの外形寸法より大きく設定されるため、処理基板Sが大きくなると、ターゲットTの外形寸法も大きくなる。このような場合、図2及び図4に示すように、ターゲットTの後方には、例えば9個の磁石組立体35が所定の間隔を置いて並設される。
【0033】
ところで、図2に示すように、従来技術のカソード組立体Aでは、各磁石組立体Aの中心磁石A1と、その両側の周辺磁石A2との間で発生する磁束がちょうど釣り合って、磁束がターゲットT表面で閉じたトンネル状に形成されるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を、各周辺磁石の同磁化換算したときの体積の和(例えば、同じ磁気特性の磁石を用いる場合、周辺磁石の体積:中心磁石の体積:周辺磁石の体積=1:2:1としている)に等しくなるように設計している。
【0034】
この場合、上記従来の磁石組立体Aにおいて−25ガウスから+25ガウスまでの磁束線Bをみると、漏洩磁場が少なくなく、処理基板Sを貫く磁束Bの数が少ないことが判る(図2参照)。また、図3(a)に示すように、処理基板Sの中央領域における磁束密度の絶対値は約10ガウスであり、その中央領域とその外周領域との間における磁束密度の差が10ガウス以下である。さらに、図3(b)に示すように、処理基板Sの中央領域では垂直成分が支配的になるのに対して、処理基板Sの外周領域(処理基板Sの端部から250mm内側までの範囲)では水平成分が支配的となっている。
【0035】
ここで、処理基板Sの中央領域とは、図4に示すように、横寸法L1、縦寸法L2である長方形の処理基板では、短辺X(=L1/2)、長辺Y(=L2/2)で表される楕円形の領域Rにほぼ相当する。
【0036】
そして、従来技術のカソード組立体Aを用い、スパッタリング装置1により、スパッタガスと共に、酸素などの反応ガスをスパッタ室11内に一定の流量で導入して反応性スパッタリングを行うと、処理基板Sの周囲にアノード4を配置しているため、プラズマ中の電子や二次電子がアノード4に向かって流れ、電子及び二次電子の密度が高くなる処理基板の外周領域前方(ターゲットTに向かう側)での反応が、処理基板Sの中央領域Rにおけるものと比較して促進され、その結果、処理基板S面内での膜質が不均一になる。
【0037】
そこで、本実施の形態では、図5及び図6に示すように、並設した磁石組立体35のうち、中央に位置する3個の磁石組立体351、352、353を、中央磁石35bの同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石35cの同磁化に換算したときの体積の和より小さく(例えば、周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:1:1)設定して構成した。この場合、中央磁石35bの同磁化に換算したときの体積を小さく設定するために、処理基板Sの中央領域Rに対向した中央磁石35bの両側面に所定の深さを有する長手溝を形成すると共に各溝内に板状の磁性体37を装着した。
【0038】
また、反応性が促進される処理基板Sの外周領域に対向した磁石組立体35は、従来と同様、バランスした状態のもの(各磁石組立体Aの中心磁石A1と、その両側の周辺磁石A2との間で発生する磁束がちょうど釣り合って磁束がターゲットT表面で閉じたトンネル状に形成されるもの)を用いた。
【0039】
磁性体37としては、最大透磁率が高くかつ剛性を有する材料であればよく、例えば、SUS430などの磁性を有するステンレス、磁場の減衰効果を高められる純鉄、ニッケルなどの金属、パーマロイ、スーパーマロイなどの透磁率の高いアロイを用いることができ、その厚さは、1.0〜5.0mmの範囲に設定される。
【0040】
また、処理基板Sの中央領域において、この処理基板Sを貫通する磁束線Bと、処理基板とのなす角度が30度以上となり、また、処理基板Sの面内でその中央領域とその外周領域との間における磁束密度の差が12ガウス上となるように、磁性体37の板厚を設定している。尚、角度が30度より小さいか、または磁束密度の差が12ガウスより小さいと、処理基板への入射電子の有効エネルギーが小さく、膜質の面内均一性を高く保持できない。
【0041】
これにより、中央磁石35bと各周辺磁石35cとの間の磁束の釣り合いが崩れて、磁場分布が非平衡状態となり、主として中央磁石35bからターゲットTを貫通して処理基板Sに向かう磁束線Bが多くなり(漏洩磁場が多くなる)、処理基板Sを通過する磁束線Bが処理基板Sの中央領域において密になって磁場強度が高くなる(図5参照)。
【0042】
本発明の磁石組立体35、351、352、353では、−25ガウスから+25ガウスまでの磁束線Bをみると、図7(a)及び図7(b)に示すように、従来の磁石組立体Aと同様、処理基板Sの中央領域では垂直成分が支配的になっているものの、外周領域では、垂直成分をほぼ有さない。また、処理基板S中央の近傍において、磁束密度が約21ガウスで最大であり、処理基板Sの外周領域との差は12ガウス以上になった。
【0043】
本実施の形態に係る磁石組立体35、351、352、352を用いることで、例えば反応性スパッタリングを行うと、処理基板Sの中央領域前方(ターゲットTに向かう側)でのイオン電流密度が高くなって処理基板Sに自己バイアスが誘起されることで、処理基板Sの中央領域前方での陽イオンの反応が促進される。処理基板S全面に亘って、比抵抗値などの膜質の均一な薄膜を得ることができる。
【0044】
尚、本実施の形態では、9個の磁石組立体35、351、352、353を設けたものついて説明したが、処理基板Sの中央領域での磁場強度を局所的に高めることができれば、これに限定されるものではなく、例えば図1に示す1個の磁石組立体35では、中央磁石35aの両側面のうち少なくとも処理基板Sの中央領域Rに対向した部分を磁性体37で覆って構成すればよい。
【実施例1】
【0045】
本実施例では、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、カソード組立体3には、図5及び図6に示す9個の磁石組立体35、351、352、353を並設したものを内蔵した。処理基板Sとしては、ガラス基板(1000mm×1200mm)を用いると共に、ターゲットTとして、InにSnOを10重量%添加したものを用い、公知の方法で、1200mm×2000mmの外形寸法を有するように作製し、バッキングプレート31に接合した。そして、反応性スパッタリングによりガラス基板S上にITO膜を成膜した。
【0046】
スパッタリング条件として、真空排気されているスパッタ室11内の圧力が0.67Paに保持されるように、マスフローコントローラ21を制御してスパッタガスであるアルゴン(Ar流量200sccm)と反応ガスであるHO(HO流量0.5sccm)をスパッタ室11内に導入した。また、ターゲットTへの投入電力を50KW(2〜6W/cmの範囲で設定可)、スパッタ時間を20秒に設定した。この条件でガラス基板S上に反応性スパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図8(a)に示す。
(比較例1)
【0047】
比較例1として、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、カソード組立体3には、図2に示す従来技術の9個の(バランス状態の)磁石組立体Aを並設したものを内蔵した。また、スパッタ条件を上記実施例1と同じとし、実施例1と同じガラス基板Sに反応性スパッタリングによりITO膜を成膜した。この条件でガラス基板S上に反応性スパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図8(b)に示す。
【0048】
図8(a)及び図8(b)を参照して説明すれば、比較例1のものでは、ガラス基板Sの中央領域での比抵抗値が350〜300μΩ・cmであり、この中央領域からガラス基板Sの外周領域に向かうに従い、段階的に比抵抗値が低下し、その外周領域では、225〜200μΩ・cmとなった。この場合、反応性スパッタリング時のガラス基板S面内での反応性の相違により、ガラス基板Sの中央領域とその外周領域とでは、比抵抗値に125〜100μΩ・cmの差が生じ、ガラス基板S面内での膜質の均一性を保持できていないことが判る。
【0049】
それに対して、実施例1では、ガラス基板Sの4隅部を除く部分の比抵抗値は、250〜225μΩ・cmであり、その4隅部もまた、225〜200μΩ・cmであった。この場合、比抵抗値の差は、25μΩ・cm以下にでき、ガラス基板S面内での膜質の均一性が保持できたことが判る。
【実施例2】
【0050】
本実施例では、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、カソード組立体3には、図4に示す9個の磁石組立体35、351、352、353を並設したものを内蔵した。処理基板Sとしてガラス基板(1000mm×1200mm)を用いると共に、ターゲットTとして、Mo(99.9%)を用い、公知の方法で、1200mm×2000mmの外形寸法を有するように作製し、バッキングプレート31に接合した。そして、スパッタリングによりガラス基板S上にMo膜を成膜した。
【0051】
スパッタリング条件として、真空排気されているスパッタ室11内の圧力が0.1Paに保持されるように、マスフローコントローラ21を制御してスパッタガスであるアルゴンをスパッタ室11内に導入した。また、ターゲットTへの投入電力を130KW、スパッタ時間を10秒に設定した。この条件でガラス基板S上にスパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図9(a)に示す。
(比較例2)
【0052】
比較例2として、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、図2に示す従来技術の9個の(バランス状態の)磁石組立体Aを並設したものを内蔵した。また、スパッタ条件を上記実施例2と同じとし、実施例2と同じ大きさのガラス基板SにスパッタリングによりMo膜を成膜した。この条件でガラス基板S上にスパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図9(b)に示す。
【0053】
図9(a)及び図9(b)を参照して説明すれば、比較例2のものでは、ガラス基板Sの中央領域での比抵抗値は、15.5〜15μΩ・cmであり、この中央領域からガラス基板の外周領域に向かうに従い、段階的に比抵抗値が低下し、その外周領域では、12.5〜11.5μΩ・cmとなった。この場合、ガラス基板Sに付着したMoの結晶粒径や膜密度の均一性を保持できていないことで、ガラス基板の中央領域とその外周縁部とでは、比抵抗値に2.5〜3.5μΩ・cmの差が生じ、処理基板面内での膜質の均一性を保持できていないことが判る。
【0054】
それに対して、実施例2では、ガラス基板Sの中央領域における比抵抗値は、14.5〜14μΩ・cmであり、その外周縁部は、12.5〜11.5μΩ・cmであり、ガラス基板Sの中央領域で比抵抗値が高い箇所が消失した。この場合、比抵抗値の差は、2.5μΩ・cm以下であり、ガラス基板Sの中央領域において、ガラス基板Sに付着したMoの結晶粒径や膜密度が改善され、ガラス基板S面内での膜質の均一性を保持できたことが判る。
【実施例3】
【0055】
本実施例では、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、カソード組立体3には、図4に示す9個の磁石組立体35、351、352、353を並設したものを内蔵した。処理基板Sとしてガラス基板(1000mm×1200mm)を用いると共に、ターゲットTとして、Ti(99.95%)を用い、公知の方法で、1200mm×2000mmの外形寸法を有するように作製し、バッキングプレート31に接合した。そして、反応性スパッタリングによりガラス基板上にTiN膜を成膜した。
【0056】
スパッタリング条件として、真空排気されているスパッタ室11内の圧力が0.1Paに保持されるように、マスフローコントローラ21を制御してスパッタガスであるアルゴン(Ar流量100sccm)と反応ガスである窒素(窒素流量40sccm)をスパッタ室11内に導入した。また、ターゲットTへの投入電力を90KW、スパッタ時間を10秒に設定した。この条件でガラス基板S上に反応性スパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図10(a)に示す。
(比較例3)
【0057】
比較例3として、図1に示すスパッタ装置1を用いたが、図2に示す従来技術の9個の磁石組立体Aを並設したものを内蔵した。また、スパッタ条件を上記実施例3と同じとし、実施例3と同じ大きさのガラス基板Sに反応性スパッタリングによりTiN膜を成膜した。この条件でガラス基板S上に反応性スパッタリングしたときのガラス基板S面内での比抵抗値の分布を図10(b)に示す。
【0058】
図10(a)及び図10(b)を参照して説明すれば、比較例3では、ガラス基板Sの中央領域での比抵抗値は、190〜180μΩ・cmであり、この中央領域からガラス基板Sの外周領域に向かうに従い、段階的に比抵抗値が低下し、その外周領域では、220〜200μΩ・cmとなった。この場合、ガラス基板Sの外周領域では、Tiと窒素との反応が促進されてTiNが形成されているものの、ガラス基板Sの中央領域では、反応が促進されず、メタル状態となり、ガラス基板S面内での膜質の均一性を保持できないことが判る。
【0059】
それに対して、実施例3では、ガラス基板Sの
中央領域における比抵抗値は、220〜200μΩ・cmであり、その外周縁部は、230〜220μΩ・cmであった。この場合、比抵抗値の差はほぼなく、ガラス基板Sの中央領域においても反応が促進され、ガラス基板S面内での膜質の均一性を保持できたことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のスパッタリング装置を模式的に説明する図。
【図2】従来技術にかかる磁石組立体を複数用いた場合の磁束線の示す図。
【図3】(a)は、図2に示す磁石組立体における処理基板上での磁束密度の絶対値を示す図。(b)は、図2に示す磁石組立体における処理基板上での磁束密度を、処理基板に対して垂直な成分と、水平な成分とに分けて示す図。
【図4】処理基板を中央領域を説明する図。
【図5】本発明にかかる磁石組立体を用いた場合の磁束線の示す図。
【図6】本発明にかかる磁石組立体の配置を説明する図。
【図7】(a)は、図4に示す磁石組立体における処理基板上での磁束密度の絶対値を示す図。(b)は、図4に示す磁石組立体における処理基板上での磁束密度を、処理基板に対して垂直な成分と、水平な成分とに分けて示す図。
【図8】(a)は、本発明によりITO膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。(b)は、従来技術によりITO膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。
【図9】(a)は、本発明によりMo膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。(b)は、従来技術によりMo膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。
【図10】(a)は、本発明によりTiN膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。(b)は、従来技術によりTiN膜を成膜したときの比抵抗値の分布を説明する図。
【符号の説明】
【0061】
1 マグネトロンスパッタリング装置
3 カソード組立体
35 磁石組立体
35b 中心磁石
35c 周辺磁石
37 磁性対
T ターゲット
S 処理基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理基板に対向して設けたターゲットの後方に、中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体を設けたマグネトロンカソード電極において、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定し、処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めるように、前記磁石組立体を構成したことを特徴とするマグネトロンカソード電極。
【請求項2】
処理基板に対向して設けたターゲットの後方に、中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体を複数並設したマグネトロンカソード電極において、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定し、処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めるように、並設した前記磁石組立体のうち中央に位置する少なくとも1個の磁石組立体を構成したことを特徴とするマグネトロンカソード電極。
【請求項3】
前記中央磁石の両側面に磁性体を装着して、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を小さくしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項4】
前記磁性体を板状に形成し、この磁性体の板厚を変化させて処理基板の中央領域での磁場強度を制御することを特徴とする請求項3記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項5】
前記磁性体として、最大透磁率が高くかつ剛性を有する材料を用いることを特徴とする請求項3または請求項4記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項6】
前記処理基板面内でその中央の近傍において磁場強度が最大になるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項7】
前記処理基板面内でその中央領域とその外周領域との間における磁束密度の差が12ガウス以上、好ましくは20ガウス以上になるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項8】
前記処理基板の中央領域を貫通する磁束線の垂直成分とこの処理基板とのなす角度が30度以上となるように、中央磁石の同磁化に換算したときの体積を設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項9】
前記ターゲットの全面に亘って一様な侵食領域が得られるように、前記磁石組立体をターゲットに対して平行移動させる駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項10】
前記マグネトロンカソード電極は、Mo、Tiなどの高融点金属ターゲットを用いてスパッタリングする際に用いられるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項11】
前記マグネトロンカソード電極は、不活性ガスと共に、酸素、窒素、炭素、水素、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスを反応ガスとして導入して反応性スパッタリングする際に用いられるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のマグネトロンカソード電極。
【請求項12】
ターゲットと、このターゲットの後方に中央磁石とその両側の周辺磁石とから構成される磁石組立体とを備えたマグネトロンカソード電極を用い、このターゲットのスパッタ面の前方に磁束を形成すると共に、ターゲットと処理基板との間に電界を形成し、不活性ガスを導入してプラズマを発生させてターゲットをスパッタリングする方法であって、前記中央磁石の同磁化に換算したときの体積を各周辺磁石の同磁化に換算したときの体積の和と比較して小さく設定して処理基板の中央領域での磁場強度を局所的に高めてスパッタリングすることを特徴とするスパッタリング方法。
【請求項13】
前記スパッタリングの際に、不活性ガスと共に、酸素、窒素、炭素、水素、オゾン、水若しくは過酸化水素またはこれらの混合ガスを反応ガスとして導入することを特徴とする請求項12記載のスパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−22372(P2006−22372A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200947(P2004−200947)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】