説明

マグネトロンスパッタリング源のための滑りアノード

マグネトロンスパッタリング源は、複数の電極(12)とスイッチング回路(14)とを含む。スイッチング回路(14)は複数の電極(12)の各々を接地基準に連続的に接続してそれらをアノードにする一方で、複数の電極の残りをカソードとして接続する。マグネトロンスパッタリング源を動作する方法は、複数のターゲット配列を与えるステップと、複数のターゲット配列をカソードとして作動するようにさせるステップと、複数のカソードの各々を一時的にアノードとして作動するよう連続的にさせるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本願は、2003年7月25日に出願された米国仮出願番号第60/490,201号の利益を主張し、それがここに引用にて援用される。
【0002】
発明の背景
本発明は、大面積薄膜形成のためのスパッタ成膜プロセスに関し、より特定的には、1つ以上の滑りアノードを有するマグネトロンスパッタリング源に関する。
【背景技術】
【0003】
スパッタ成膜は、さまざまな基板上でさまざまな材料を薄膜形成するために、多くの適用分野で用いられる。表示部のための大面積コーティング、(たとえば造型用ガラス上の)機能性コーティングまたは太陽電池は、基板領域全体において、ある均一性を膜厚に要求する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパッタ成膜を実行するための2つの基本的手法が既知である。いわゆる「インライン処理」は基板を用い、基板は小さなコーティング源に沿って動かされ、そのためそれぞれの層でコーティングされる。「単一基板処理」は、成膜の間、コーティング源または基板を動かすことなく基板全体を「一挙に」コーティングすることを含む。単一基板処理は、通常、より速くスパッタ成膜を実行するので好ましい。これは通常、基板のサイズと等しいかまたはそれより大きいコーティング源を要する。しかしながら、このような単一の大きなカソードは、物理的な制限のために、基板のサイズが大きくなるほど不均一性が増大する。
【0005】
たとえば、ガラスからターゲットまでの距離を増大し過ぎると層に問題をもたらし得る。他方で、ガラスがターゲットに近すぎると、ガラス中央領域の電子が不足して層の均一性が損なわれる。
【0006】
ガラスからターゲットまでの距離を増大することなくガラス中央により多くの電子を得るために、より大きなアノード表面領域が与えられなければならない。これを達成するために、いくつかの手法が提案されてきた。
【0007】
ある一般的手法は、たとえば平行な棒、格子状パターンなどのさまざまな順序および配列で小さなカソードのアレイを与えることを含む。ここに引用にて援用される、ハーグ(Haag)他への米国特許番号第6,093,293号は、1つが他の側面に装着され、それぞれスリットで隔てられた、いくつかの棒状ターゲット配列を記載する。ターゲット配列の各々はそれぞれ電気パッドを含むことにより、他のターゲット配列から電気的に独立して動作されることが可能である。さらに、各ターゲット配列は、ターゲット配列上に時間変化するマグネトロン磁場を生成する、制御された磁石配列を含む。磁石配列の各々は他と独立に制御される。
【0008】
このようなカソードアレイでさえサイズに限度がある。なぜなら、成膜システムの各アップスケールとともに任意にカソードの個数を増やすことは現実的ではなく技術的にも実現不可能だからである。したがって、大基板のスパッタ成膜の均一性を向上させるためのさらなる手法が必要である。
【0009】
カソードのサイズを増大することの主な問題は、カソード中央における電界密度の低下である。この低下は結果としてプラズマ密度の低下をもたらし、そのため成膜速度が低下する。カソード中央に対する潜在的な低下を避けるために、中央近くにアノードを与えることが必要である。ターゲット間の空間が限られているために、成膜プロセス中にアークの危険を増大することなく、十分な電導性のある恒久的なアノードを設置するのは不可能である。
【0010】
発明の概要
本発明によれば、マグネトロンスパッタリング源は、複数の電極と、前記複数の電極の各々を連続的に接地基準に接続し、前記複数の電極の残りをカソードとして接続するスイッチング回路とを含む。
【0011】
本発明のさらなる局面によれば、マグネトロンスパッタリング源を動作する方法は、複数のターゲット配列を与えるステップと、前記複数のターゲット配列の各々をカソードとして作動するようにさせるステップと、前記複数のカソードの各々を一時的にアノードとして作動するよう連続的にさせるステップとを含む。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明によれば、カソードの中央近くにアノードを与えるために、ターゲットを有する電極の集合の各々は、スパッタリングプロセス中、交互に接地に切換えられる。このようにして均質な電界分布がもたらされ、形成された膜の領域全体において均一性が向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1A、図1B、図1Cおよび図1Dに例として示されるように、間隔をあけた棒状ターゲット配列12a、12b、12c、12d、12e、12fのアレイ10が与えられる。ターゲット配列12a−12fの各々は、電極としてスイッチング回路14に接続される。スイッチング回路はターゲット配列の各々を「成膜モード」においてカソードとして接続し、次に「アノードモード」とも呼ばれる連続的な態様で、1つ以上のターゲット配列を接地電位に接続し、それらが一時的にアノードとして作動するようにさせる。
【0014】
異なるターゲットおよび基板材料ならびに異なるシステム設定に最適な成膜条件を与えるために、いくつかのパラメータが必要に応じて調整され得る。図2のタイミング図に示されるように、本実施例によれば、あるターゲットがアノード状態に切換えられ、その状態で維持される時間であるASONは、1ミリ秒から300ミリ秒まで変動し得る。同様に、1つのアノードをオフに切換えてから次のアノードをオンに切換えるまでの待ち時間であるASONは、0ミリ秒から500ミリ秒まで変動し得る。さらに、「ENABLE」を「YES」または「NO」に等しくなるよう設定することにより、成膜中いずれのターゲット配列がアノード状態に切換えられるかを選択することが可能である。たとえば、カソード♯3のために「ENABLE」が「NO」に設定されると、カソード♯3はスイッチングシーケンスにおいてスキップされて、常にカソードとして動くよう残る。開始ターゲットを表わすTSは、スイッチング回路が開始される際いずれのターゲット配列または複数のターゲット配列がアノード状態に切換えられるかを表わす。
【0015】
実験室のテストでは、膜厚の不均一さが、滑りアノード配列を用いない場合の15%から、本発明の滑りアノードを用いる場合の5%まで向上したことを観察した。他のすべての点における条件は同一であった。テストの滑りアノード配列は下記の設定を有した。ASOn=5ms、ASOff=0ms、中央ターゲット配列♯2から♯9まではenable=「yes」、TS=♯3および♯7。
【0016】
図2は本発明の一例示的実施例を示すが、たとえば1つのカソードを一時的にアノードとして用いるか、または2つ以上のカソードを同時に用いるなど、スイッチモードの他の「パターン」も達成され得ることが理解される。さらに、重複モードも実現されることができ、第1のアノードが存在して活性である一方、第2のアノードが2つの接地に切換えられ、その後、第3のアノードが接地に接続される間、第1のアノードが成膜モードに戻る。
【0017】
さらに、図1A−図1Dは間隔をあけた平行なアレイにおける棒状ターゲット配列を示すが、他のターゲット形状およびアレイ構成も考慮された。たとえば、アナログスイッチングパターンを用いて格子状カソード配列が与えられ得る。同様に、図3−図5で例として示されるように、本発明のターゲット電極は、球状、環状、多角形などの他の形状および配列を有することができ、格子状、ハニカム状または他の適切な配列にグループ化されることができる。図3は、ハニカム配列における六角形状の電極12′のアレイを示す。図4は格子状パターンにおける球状電極12″のアレイを示す。図5は環状電極12′″のアレイを示す。
【0018】
ここでは詳細に示されないが、本実施例によれば、スイッチング回路はスイッチング素子として絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を含む。IGBTは高遮断電圧または逆電圧で動作することができ、スパッタ成膜に必要な大量の電流を与える。たとえばIGBTは、パルス電源(たとえば市場で入手可能な「ピナクルプラス(Pinnacle Plus)」電源によって1700ボルトおよび公称電流100アンペアで動作され得るものが市場で入手可能である。1500ボルトまでは類似の特性を有する電界トランジスタ(FET)が入手可能であるが、それほど容易に入手可能ではない。さらに、これらのFETは約12アンペアまでしかロード可能でないので、スパッタ成膜に必要な量の電流を切換えるには、いくつかのFETが並列に接続される必要がある。
【0019】
ターゲット配列の個数に依存して、上述のように、個々のターゲット配列またはいくつかのターゲット配列は一度に接地に接続され得る。アノードとして機能するターゲット配列が多くなるほど、プラズマ密度を上げることにより、利用可能で有効なターゲット領域が多くなる。しかしながら成膜速度は、追加的ターゲット配列がアノードとして用いられるにつれて減少する。なぜなら一挙に動作するカソードターゲット配列がより少ないからである。したがって、可能な限り少ないターゲット配列をアノードとして用いることが適切である。
【0020】
本実施例において、ターゲット配列のスイッチングはプログラマブルコントローラによって柔軟に制御される。本発明の別の実施例において、最も外側のカソードは切換えられず、その代わり、周辺効果を補正するため一定の高出力で動作される。
【0021】
さらに、用いられる電源の能力に依存して、スイッチングは制御システムのそれぞれのクロッキングによって実現され得る。さらなる代替として、カソードは、より短いサイクルタイムを達成するために、第1に電力を切断することなく直接に接地に接続され得る。
【0022】
この開示は例示であって、この開示に含まれる教示の正当な範囲から逸脱することなく、詳細を追加し、修正し、または削除することによって、さまざまな変形がなされ得ることは明らかである。したがって本発明は、下記の請求項が必要に応じてそのように限定する程度以外には、この開示の特定の詳細に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の一例示的実施例による、連続的時点における滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図1B】本発明の一例示的実施例による、連続的時点における滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図1C】本発明の一例示的実施例による、連続的時点における滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図1D】本発明の一例示的実施例による、連続的時点における滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図2】本発明の一例示的実施例による、カソードからアノードへの切換を示すタイミング図である。
【図3】本発明の一例示的実施例による、六角形状電極を有する滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図4】本発明の一例示的実施例による、球状電極を有する滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。
【図5】本発明の一例示的実施例による、環状電極を有する滑りアノードスパッタリング源配列を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンスパッタリング源であって、
複数の電極と、
前記複数の電極の各々をアノードとして連続的に接地基準に接続し、前記複数の電極の残りをカソードとして接続するスイッチング回路とを含む、マグネトロンスパッタリング源。
【請求項2】
前記複数の電極の各々は棒状ターゲットである、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項3】
前記複数の電極の各々は球状ターゲット、環状ターゲット、および多角形状ターゲットのうちの1つである、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項4】
スイッチング回路は、前記複数の電極の各々を300ミリ秒未満の間接地基準に接続して維持する、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項5】
スイッチング回路は、前記複数の電極の1つを接地基準から切断した後前記複数の電極の別の1つを接地基準に接続する前に、遅延を与える、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項6】
遅延は500ミリ秒未満である、請求項5に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項7】
前記スイッチング回路は絶縁ゲートバイポーラトランジスタを含む、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項8】
前記スイッチング回路は前記複数の電極の複数を前記接地基準に同時に接続する、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項9】
前記スイッチング回路は、前記スイッチング回路が前記複数の電極の前記第1のものをカソードとして接続する前に、前記複数の電極の第2のものを前記接地基準に接続する、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項10】
前記スイッチング回路は、前記スイッチング回路が前記複数の電極の前記第2のものをカソードとして接続する前に、前記複数の電極の第3のものを前記接地基準に接続する、請求項9に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項11】
前記スイッチング回路は、前記スイッチング回路によって切換えられる電極アレイから前記複数の電極を選択するための電極切換セレクタを含む、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項12】
前記複数の電極は電極アレイから選択され、前記電極アレイの外部周囲に位置する電極は前記複数の電極から除外される、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング源。
【請求項13】
マグネトロンスパッタリング源を動作する方法であって、
複数のターゲット配列を与えるステップと、
前記複数のターゲット配列の各々をカソードとして作動するようにさせるステップと、
前記複数のカソードの各々を一時的にアノードとして作動するよう連続的にさせるステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記複数のターゲット配列の各々は300ミリ秒未満の間アノードとして維持される、請求項13に記載のマグネトロンスパッタリング源を動作する方法。
【請求項15】
前記連続的にさせるステップの後、予め定められたオンタイムの間休止するステップと、
前記休止するステップの後、前記複数のターゲット配列の各々をアノードとして作動させるようにするステップを中止するステップとをさらに含む、請求項13に記載のマグネトロンスパッタリング源を動作する方法。
【請求項16】
予め定められたオンタイムは300ミリ秒未満である、請求項15に記載のマグネトロンスパッタリング源を動作する方法。
【請求項17】
前記中止するステップの後、予め定められたオフタイムの間休止するステップと、
前記休止する第2のステップの後、前記複数のターゲット配列の次の1つをアノードとして作動するよう連続的にさせるステップとをさらに含む、請求項15に記載のマグネトロンスパッタリング源を動作する方法。
【請求項18】
前記予め定められたオフタイムは500ミリ秒未満である、請求項17に記載のマグネトロンスパッタリング源を動作する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−528729(P2006−528729A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520649(P2006−520649)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000472
【国際公開番号】WO2005/010919
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(596013501)ユナキス・バルツェルス・アクチェンゲゼルシャフト (55)
【Fターム(参考)】