説明

マスキングフィルム

【課題】 貼着後に加熱処理を施しても、再剥離性に優れ、剥離後の糊残りや被着物への添加物の移行を効果的に抑制できるマスキングフィルムを提供する。
【解決手段】 ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムにおいて、ラミネート層を、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内である非架橋タイプのオレフィン系熱可塑性エラストマーから構成する。または、ラミネート層を、スチレン系熱可塑性エラストマー30〜90質量%と、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体70〜10質量%との混合物から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスキングフィルムに関するものであり、特に被着物に貼着された状態で加熱処理が施された後に剥離される用途に用いられるマスキングフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の表面をマスクするマスキングフィルムとしては、アクリルゴム系または天然ゴム系のゴム系粘着剤からなる粘着剤層を設けたマスキングフィルムが広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、高温加熱を伴う用途に供した場合に粘着層の凝集力の上昇による剥離不良や糊残りが生じない表面保護フィルムとして、MFRが1〜20g/10分であり、曇価が3.5%以下であるポリオレフィン系樹脂からなる粘着層を設けた表面保護フィルムが記載されている。
特許文献2には、車両の車体塗装面等の被着面を保護するとともに、剥離後に被着面の汚染や貼り跡が生じない表面保護フィルムとして、スチレン1〜50質量%とジエン系炭化水素99〜50質量%からなるランダム共重合体の水素添加物60質量%以上及びポリオレフィン40質量%以下の組成からなり粘着性を有する(A)層と、スチレン1〜50質量%とジエン系炭化水素99〜50質量%からなるランダム共重合体の水素添加物60質量%未満及びポリオレフィンが40質量%を超える組成からなる支持層である(B)層とを積層してなる表面保護フィルムが記載されている。
【0004】
特許文献3には、燃料電池の膜電極アセンブリにおいて、機械安定性の改善や膜損傷に対する保護の改善等の目的で、触媒コーティングされたイオノマー膜(例えば過フッ化(perfluorinated)スルホン酸ポリマーからなるもの。)上に、予め成形されそして熱により積層され(heat−laminated)得るか、または接着によって膜上に付着され得る保護フィルムを設けた膜電極アセンブリが記載されている。この保護フィルムを構成する有機高分子材料としてポリテトラフルオロエチレン、PVDF、ポリエステル、ポリアミド、コポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、シリコーン、シリコンゴムおよびシリコンベースのエラストマーが例示されており、積層の間、保護フィルムは柔らかくなり、イオノマー膜上の電極層に侵入し得るものとされている(特に、特許文献3の段落0046〜0050、0056参照)。
【特許文献1】特開平5−239418号公報
【特許文献2】特開平7−241960号公報
【特許文献3】特開2004−134392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、マスキングフィルムの利用分野が拡大するにつれ、マスキングフィルムが物品(すなわち被着物)の表面に貼着されている状態で加熱処理を施す工程を用いたいという要望もある。また、従来のゴム系粘着剤からなる粘着層を設けたマスキングフィルムの場合、ゴムに粘弾性を付与するための粘着付与剤やオイル等の添加物が物品側に移行して、マスキングフィルムを剥離した後も前記添加物が物品の表面に残るということも問題となっている。このような添加物の移行は、マスキングフィルムが物品の表面に貼着されている状態で加熱処理を受けた場合に一層顕著となる。
【0006】
しかしながら、前記特許文献に記載された従来技術は、前記課題に対して満足できる解決を与えるものではない。
特許文献1に記載の表面保護フィルムは、粘着層とはいえども初期の90°剥離強度が3〜4g/25cm程度に過ぎないため、わずかな外力によって容易に剥離してしまうものであり、マスキングフィルムとして使用できる対象が極めて限定され、貼着時の位置決めや貼着した被着物の保管管理などの使い勝手が良いものではない。
特許文献2に記載の表面保護フィルムは、「組成物中に低分子量の粘着付与樹脂、軟化剤等を含まないため、被着物を汚染しない」(特許文献2の段落0005参照)ものとされているが、車体の塗装面を保護するために貼着するもので、耐熱性については何ら考慮されていないものである。すなわち、表面保護フィルムの貼着後に加熱処理を施すといった用途に対応したものではないので、貼着後に加熱処理を施した場合には、表面保護フィルム自体の耐熱性が低いことに加えて、粘着層の凝集力が低下して再剥離が困難になるおそれがある。
特許文献3に記載の膜電極アセンブリにおける保護フィルムは、イオノマー膜の半永久的な保護を目的とするものであり、保護フィルムをイオノマー膜から容易に剥離できるようには構成されておらず、貼着後適宜時に剥離されるマスキングフィルムとして使用できるものではない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、貼着後に加熱処理を施しても、再剥離性に優れており、しかも、剥離後の糊残りや被着物への添加物の移行を効果的に抑制できるマスキングフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、前記ラミネート層は、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内である非架橋タイプのオレフィン系熱可塑性エラストマーからなることを特徴とするマスキングフィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、前記ラミネート層は、スチレン系熱可塑性エラストマー30〜90質量%と、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体70〜10質量%との混合物からなることを特徴とするマスキングフィルムを提供する。
スチレン系熱可塑性エラストマー中、スチレンの比率が1〜50質量%であることが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロックコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のブロックコポリマーであることが好ましい。
【0010】
本発明のマスキングフィルムは、燃料電池の固体電解質膜に貼着する用途、例えば、特開2000−268829号公報に記載されたような固体電解質膜に電極層を所望のパターンで形成する際、電極層不要部をマスクする用途に用いることができる。固体電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有する含フッ素重合体からなるものを用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマスキングフィルムによれば、ラミネート層は常温(15〜25℃)では凝集力が強くて粘着性を示さず、加熱すると粘着性を発現して被着物に対して確実に貼着することができる。また、加熱処理を施してラミネート層の凝集力が低下しても常温まで冷却すれば凝集力が再度上昇し、マスキングフィルムの再剥離性が復元し、糊残りすることなく被着物から容易に剥離することができる。さらに、移行の原因となる添加剤を含まないので、被着物への添加剤の移行の問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1形態に係るマスキングフィルムは、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、前記ラミネート層は、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内である非架橋タイプのオレフィン系熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする。
【0013】
第1形態の発明において、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートするためには、基材フィルムを構成する材料は、ラミネート層を構成する材料が溶融する温度では溶融してはならない。このため、基材フィルムに含まれるプラスチックは、融点が130℃以上のものが好ましい。基材フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルや、ナイロン等のポリアミドなどのプラスチックフィルムを挙げることができる。高融点という観点からはこれらのフィルムは一軸または二軸に延伸されていることが好ましい。とりわけ二軸延伸されていれば、ポリプロピレン(PP)などの比較的融点の低いポリオレフィンからなるフィルムも使用することができる。また、延伸フィルムとすることによりフィルムの強度が高くなり、被着体の保護性能が向上する。
ラミネート層と基材フィルムとの接着性を向上するため、必要に応じて、基材フィルムの表面にコロナ放電処理などの表面処理を施したり、ラミネート層と基材フィルムとの間にアンカーコート剤を用いてもよい。
【0014】
第1形態の発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下「TPO」と略記する場合がある。TPO=Thermoplastic Olefinic elastomer)とは、分子拘束成分(ハードセグメント)として、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)等のオレフィン系ポリマー(樹脂成分)を有し、ゴム弾性を示す柔軟性成分(ソフトセグメント)として、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)やエチレンプロピレンゴム(EPR)などのオレフィン系ゴム(ゴム成分)を有する。中でも、ハードセグメントがポリプロピレンであるTPOが好ましい。
【0015】
オレフィン系熱可塑性エラストマーには、架橋タイプのものと、非架橋タイプのものとがある(例えば、水本邦彦、「オレフィン系熱可塑性エラストマーの新展開」、成形加工、第12巻、第12号、755−759頁、2000年、参照)。
架橋タイプとは、樹脂成分にゴム成分を化学的に架橋したものであり、押出機中などの混練状態下で架橋反応させる、いわゆる動的架橋技術によって製造される。一方、非架橋タイプには樹脂成分とゴム成分とのコンパウンドである単純ブレンドタイプや、重合工程で樹脂成分とゴム成分とを同時に製造するリアクタータイプとがある。
【0016】
架橋タイプのTPOは、非架橋タイプのTPOに比べてゴム弾性や耐熱性に優れるが、反面、成形性に劣るとともに、粘着性の発現には不適である。これに対して、非架橋タイプのTPOは、常温ではゴム弾性が高く、粘着性が比較的低いが、加温すると可塑性および粘着性を増し、しかも成形性に優れている。
そこで、非架橋タイプのTPOを用いることにより、基材フィルム上にラミネート層を容易に押出ラミネートにて成形することができる。また、非架橋タイプのTPOのうち、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内のものを用いる。これにより、常温(15〜25℃)では凝集力が強くて粘着性を示さず、高温(例えば100℃程度)に加熱したときに適度な粘着性を示し、被着物に対して確実に貼着することができる。また、常温まで冷却すればラミネート層の凝集力が再度上昇し、被着物から容易に剥離することができ、糊残りもない。なお、デュロメータD硬さは、JIS K 7215に規定されるタイプDデュロメータを用いて測定される値である。
TPOのデュロメータD硬さが60を超える場合、加熱前に十分な粘着力が得がたいので好ましくない。また、ラミネート層の成形性の観点からは、TPOのメルトフローレート(MFR)は1〜10g/10minが好ましい。
第1形態のマスキングフィルムは、ラミネート層が高分子成分のみから構成されており、粘着付与剤やオイル等の低分子成分を含有しないので、被着物への添加剤の移行の問題もないという利点を有する。
【0017】
本発明の第2形態に係るマスキングフィルムは、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、前記ラミネート層は、スチレン系熱可塑性エラストマー30〜90質量%と、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体70〜10質量%との混合物からなることを特徴とする。
【0018】
第2形態の発明において、ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートするためには、基材フィルムを構成する材料は、ラミネート層を構成する材料が溶融する温度では溶融してはならない。このため、基材フィルムに含まれるプラスチックは、融点が130℃以上のものが好ましい。基材フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルや、ナイロン等のポリアミドなどのプラスチックフィルムを挙げることができる。高融点という観点からはこれらのフィルムは一軸または二軸に延伸されていることが好ましい。とりわけ二軸延伸されていれば、ポリプロピレン(PP)などの比較的融点の低いポリオレフィンからなるフィルムも使用することができる。また、延伸フィルムとすることによりフィルムの強度が高くなり、被着体の保護性能が向上する。
ラミネート層と基材フィルムとの接着性を向上するため、必要に応じて、基材フィルムの表面にコロナ放電処理などの表面処理を施したり、ラミネート層と基材フィルムとの間にアンカーコート剤を用いてもよい。
【0019】
第2形態の発明においてスチレン系熱可塑性エラストマー(以下「スチレン系TPE」ということがある。なお、TPE=Thermoplastic Elastomer:熱可塑性エラストマー)とは、分子拘束成分(ハードセグメント)として、ポリスチレン(PS)を有し、ゴム弾性を示す柔軟性成分(ソフトセグメント)として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加したポリブタジエン、水素添加したポリイソプレンなどのゴム系ポリマーを有するものである。
スチレン系熱可塑性エラストマー中、スチレンの比率(ハードセグメントの比率)は、1〜50質量%であることが好ましい。スチレンの比率が50質量%を超えると、溶融張力が弱くなり、押出ラミネートによる製膜が困難になる。
【0020】
上記スチレン系TPEの具体例としては、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(SBBS)、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロックコポリマー(SEPS)などが挙げられる。
【0021】
ここで、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体は、高温においてラミネート層の凝集力を確保する(粘着力の増大を抑制する)ため、必須の成分として添加される。ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体は、密度が910〜970kg/mのものが好ましく、ラミネート層の成形性の観点からは、メルトフローレート(MFR)が4〜20g/10minのものが好ましい。
本形態において利用可能なポリエチレンの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが挙げられる。
【0022】
ラミネート層におけるスチレン系TPEとポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体との配合比は、スチレン系TPE30〜90質量%に対して、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体70〜10質量%とすることにより、常温(15〜25℃)では凝集力が強くて粘着性を示さず、高温(例えば100℃程度)に加熱したときに適度な粘着性を示し、被着物に対して確実に貼着することができる。また、常温まで冷却すればラミネート層の凝集力が再度上昇し、被着物から容易に剥離することができ、糊残りもない。
スチレン系TPEの配合比が90質量%を超える場合、高温下での保存や熱処理において粘着力が過度に増加してしまい、再剥離が困難になるおそれがある。また、スチレン系TPEの配合比が30質量%未満の場合、初期の粘着力(熱処理前の粘着力)が弱いため、マスキングフィルムの位置合わせが難しくなり、好ましくない。
第2形態のマスキングフィルムは、ラミネート層が高分子成分のみから構成されており、粘着付与剤やオイル等の低分子成分を含有しないので、被着物への添加剤の移行の問題もないという利点を有する。
【0023】
本発明の第1形態および第2形態に係るマスキングフィルムは、種々の用途に使用可能であるが、特に、マスキングフィルムの貼着後に加熱処理が施され、加熱処理後にマスキングフィルムが剥離される用途に好適である。
具体例として、スルホン酸基を有する含フッ素重合体などの高分子電解質からなる燃料電池用固体電解質膜(イオン交換膜:PEM)の表面の所定領域に電極を形成する場合、該固体電解質膜にマスキングフィルムを貼着し(例えばサーマルラミネート装置(ナカバヤシ製PACLAMI Pro PLP−325)を用いて、温度120℃、速度6の加工条件により、サーマルラミネート後、100℃で10分または40分保温する。)、マスキングフィルムに設けた所望の形状の開口(窓状の穴)からペースト状の電極材料を塗布乾燥後、マスキングフィルムを剥離する。このような作業により、所望の形状を有する電極を固体電解質膜上に形成することができる。
【実施例】
【0024】
本発明による効果を明らかにするため、本発明の各形態例のマスキングフィルムおよび比較例となるマスキングフィルムを表1および表2に示す熱可塑性高分子をラミネート層として作製し、評価を行った。その方法および結果を以下に述べる。
【0025】
(マスキングフィルムの製造)
ポリエステルフィルムからなる厚さ75μmの基材フィルム上に、ウレタン系アンカーコート剤を介してラミネート層(厚さ25μm)を押出ラミネートにより積層し、マスキングフィルムを得た。
【0026】
(マスキングフィルムの粘着特性試験)
下記の手順により、図1に示す構成のサンプルを作製した。
外寸120mm×120mmのマスキングフィルム1の面内を60mm×60mmに打ち抜いて同心となるよう切れ目を入れたマスキングフィルム1,1を2枚用意した。切れ目の入った2枚のマスキングフィルム1,1を、ラミネート層が内側、基材フィルムが外側となるように重ね合わせて一辺1cでヒートシールして綴じ合わせ、綴じ合った2枚のマスキングフィルム1,1の間に被着物2(100mm×100mmのPETフィルム、厚さ38μm)を挿入してサーマルラミネート装置(株式会社明光商会製、品名MS POUCH H−320Z、ラミネート速度はレベル1〜11で段階的に設定可能。)を用いてマスキングフィルム1,1を被着物2の両面に貼り合わせた。
一方のマスキングフィルム1の切れ目で囲繞された内枠1aの一部(図1の下側の部分)を切れ目の外側の外枠1bから分離するように剥離し、内枠1aの部分的に剥離した先端に引張り試験用のつまみ片3として、幅20mm×長さ50mmの短冊状のPETフィルム(厚さ38μm)をステープル4によって取り付けた。
つまみ片3を図1の上方に引っ張り、マスキングフィルム1の内枠1aが被着物2から剥離するときの抵抗力をロードセルにて測定して剥離強度とした(剥離速度:300mm/min、剥離角度:180°)。
【0027】
(オレフィン系熱可塑性エラストマーからなるラミネート層を有するマスキングフィルムの作製および試験)
表1に示すオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用いてマスキングフィルムを製造し、上記「マスキングフィルムの粘着特性試験」に示す方法により、図1に示す構成のサンプルを作製して、マスキングフィルム1と被着物2との間の剥離強度を測定した。剥離強度の測定は、マスキングフィルム1と被着物2とをサーマルラミネートにて貼着した直後(「加熱処理前」)と、130℃、10分間の条件で加熱処理した後(「加熱処理後」)との2回行った(結果は表1参照)。
また、加熱処理後、マスキングフィルム1と被着物2との接合状態を目視で観察し、浮きが認められた場合には、剥離強度の数値に記号「△」を添えて示した。
【0028】
【表1】

【0029】
なお、表1に示すTPOの製造元は、下記のとおりである。
IDEMITSU TPO E−2900:出光興産株式会社
IDEMITSU TPO E−2740:出光興産株式会社
IDEMITSU TPO R110MP:出光興産株式会社
Zelas 7023:三菱化学株式会社
ミラストマー 6030N:三井化学株式会社
ミラストマー 8030N:三井化学株式会社
【0030】
表1に示すように、マスキングフィルムのラミネート層を構成するTPOとして、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内である非架橋タイプのTPOを用いることにより、加熱処理前においても加熱処理後(130℃、10分間)においても、適度な剥離強度を示すマスキングフィルムを得ることができた。
架橋タイプのTPOを用いた場合は、押出ラミネートの加工ができず、マスキングフィルムの作製に至らなかった。
【0031】
(スチレン系熱可塑性エラストマーを含むラミネート層を有するマスキングフィルムの作製および試験)
表2に示すように、スチレン系熱可塑性エラストマーからなるラミネート層を有するマスキングフィルム、および、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリエチレンとの混合物からなるラミネート層を有するマスキングフィルムを製造した。なお、表2において、配合比は質量比(スチレン系熱可塑性エラストマー/ポリエチレン)を示す。
また、得られたマスキングフィルムを用いて、上記「マスキングフィルムの粘着特性試験」に示す方法により、図1に示す構成のサンプルを作製した。
【0032】
【表2】

【0033】
なお、表2に示すスチレン系熱可塑性エラストマーおよびポリエチレンの製造元は、下記のとおりである。
タフテックH1041:旭化成ケミカルズ株式会社
ミラソン16P:三井化学株式会社
スミカセンL705:住友化学株式会社
モアテック0818D:出光興産株式会社
【0034】
各サンプルにつき、加熱処理を加える前の剥離強度ならびに温度100℃で所定の時間(10分、40分および60分)の加熱処理を加えた後の剥離強度を測定した。この結果を図2のグラフに示す。なお、図2のグラフの凡例は、表2の「グラフの凡例」欄の記載と対応するものである。
【0035】
同グラフに示すように、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリエチレンとの混合物からなるラミネート層を有するマスキングフィルムの場合、100℃での1時間程度(またはそれ以上)加熱処理しても剥離強度の増大が小さく、加熱処理後の剥離性が良好であった。
一方、スチレン系熱可塑性エラストマーのみからなるラミネート層を有するマスキングフィルムの場合、100℃で加熱処理すると、加熱処理時間が10分程度であっても剥離強度が大きく増大し、加熱処理後の剥離が難しくなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、被着物に貼着された状態で加熱処理が施された後に剥離される用途に好適であり、例えば、種々の材料をマスキングフィルムでマスクして被着物に塗布し、乾燥、熱処理、熱硬化などの熱処理を施すことにより、層あるいは膜を所望の形状に形成する方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】マスキングフィルムの粘着特性試験において、マスキングフィルムのサンプルを示す(a)平面図および(b)断面図である。
【図2】スチレン系熱可塑性エラストマーを含むラミネート層を有するマスキングフィルムの剥離強度に対する加熱処理の影響を示す測定例のグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1…マスキングフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、
前記ラミネート層は、デュロメータD硬さが20〜60の範囲内である非架橋タイプのオレフィン系熱可塑性エラストマーからなることを特徴とするマスキングフィルム。
【請求項2】
ラミネート層を基材フィルム上に押出ラミネートしてなるマスキングフィルムであって、
前記ラミネート層は、スチレン系熱可塑性エラストマー30〜90質量%と、ポリエチレン又はエチレン−α−オレフィン共重合体70〜10質量%との混合物からなることを特徴とするマスキングフィルム。
【請求項3】
スチレン系熱可塑性エラストマー中、スチレンの比率が1〜50質量%であることを特徴とする請求項2に記載のマスキングフィルム。
【請求項4】
スチレン系熱可塑性エラストマーが、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロックコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のブロックコポリマーであることを特徴とする請求項2または3に記載のマスキングフィルム。
【請求項5】
前記マスキングフィルムが燃料電池の固体電解質膜に貼着されるものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマスキングフィルム。
【請求項6】
前記固体電解質膜がスルホン酸基を有する含フッ素重合体からなることを特徴とする請求項5に記載のマスキングフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−206805(P2006−206805A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22966(P2005−22966)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】