マスクブランク収納ケース及びマスクブランクの収納方法、並びにマスクブランク収納体
【課題】清浄な雰囲気で保管される必要がある化学増幅型レジスト膜を形成したマスクブランクの収納に好適な収納ケースを提供する。
【解決手段】上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、ケース本体5及び蓋体6のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランク1を内部に収納するケースである。ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成され、マスクブランク1の各辺を少なくとも1箇所で支持する支持部材8をケース内部に設け、該支持部材8は樹脂材料で形成され、上記嵌合部に弾性部材7を介在させることにより該弾性部材7より内方では上記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされる。
【解決手段】上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、ケース本体5及び蓋体6のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランク1を内部に収納するケースである。ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成され、マスクブランク1の各辺を少なくとも1箇所で支持する支持部材8をケース内部に設け、該支持部材8は樹脂材料で形成され、上記嵌合部に弾性部材7を介在させることにより該弾性部材7より内方では上記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造に使用されるフォトマスク等の製造に用いられるマスクブランクを収納する収納ケース及びその収納方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子デバイス、特に半導体素子や液晶モニター用のカラーフィルター或いはTFT素子等は、IT技術の急速な発達に伴い、一層の微細化が要求されている。このような微細加工技術を支える技術の一つが、転写マスクと呼ばれるフォトマスクを用いたリソグラフィー技術である。このリソグラフィー技術においては、露光用光源の電磁波を転写マスクを通じてレジスト膜付きシリコンウエハー等に露光することにより、シリコンウエハー上に微細なパターンを形成している。この転写マスクは通常、透光性基板上に遮光性膜を形成したマスクブランクにリソグラフィー技術を用いて原版となるパターンを形成して製造される。ところで、マスクブランクの表面にパーティクル等の異物があると、形成されるパターンの欠陥の原因となるので、マスクブランクの表面には異物等が付着しないように清浄に保管される必要がある。
【0003】
このようなマスクブランクを収納保管し運搬するためのケースとしては、従来では例えば下記特許文献1に開示されているようなマスク運搬用ケースが知られている。すなわち、従来のマスクブランクを収納保管するケースは、キャリアなどと呼ばれている内ケースにマスクブランクを数枚乃至数十枚並べて保持させ、このマスクブランクを保持した内ケースを外箱(ケース本体)内に収容し、さらに外箱上に蓋を被せて、マスクブランクを収納する構造となっていた。
【0004】
図11乃至図13は、特許文献1に開示されたものと同様の構造の収納ケースを示すもので、図11は収納ケースの蓋を示す斜視図、図12はマスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図、図13は収納ケースのケース本体(外ケース)を示す斜視図である。
この収納ケースは、マスクブランク1を中ケース2に収納し、この中ケース2をケース本体3に収納し、このケース本体3の開口部側に蓋4を被せる構造である。
【0005】
上記中ケース2は、開口部側(上方)から底面側(下方)に向けて複数の溝21,22を一方の互いに対向する内側面に所定間隔をおいて一対をなして形成し、その溝21,22の底面側の底部と中ケース底面にはそれぞれ開口窓(図示せず)と開口部27が設けられ、さらに中ケース底面側には基板支持部26が形成され、この基板支持部26でマスクブランク1の下方端面を支持している(図12)。そして、この中ケース2をケース本体3に収納して固定するための凹面部28,29がそれぞれ中ケースの他方の互いに対向する外側面に底面側から開口部側の途中まで形成されている。数枚のマスクブランク1を中ケース2の一対の溝21,22に沿って入れると、これらのマスクブランクは所定間隔をおいて互いに平行に林立する。
【0006】
上記ケース本体3は、上述した中ケース2の凹面部28,29と当接するに適合した突出部31,32を、互いに対向する内側面に形成し、その突出部31,32の底部はケース本体3底面とも接合している(図13)。また、一方の対向する外側面の開口部側には凸部33,34が形成されている。そして、ケース本体3の開口縁35のやや下方の位置に続く外周面36と上記凸部33,34の凸面とは略同一面に形成されている。
また上記蓋4は、その一方の対向する下方縁47(ケース本体へ差し込む開口部側の縁であって、図11では上方へ向いている)の中央から延びた係合片41,42に凹部43,44を形成している。これにより、蓋4をケース本体3に被せたときに、上記凹部43,44が前記ケース本体3の凸部33,34とそれぞれ嵌合することで、蓋4とケース本体3とが固定される構造となっている。また、中ケース2の開口部側上端面25と当接して中ケース2を垂直方向において支持固定するストッパー45,46を一方の内側面に互いに対向させて形成している。
【0007】
【特許文献1】特公平1−39653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の電子デバイスの高性能化に伴って、転写マスクに形成されるパターンも一段と微細化が要求されており、このような微細パターンを形成するためにもマスクブランクの清浄度は極めて高いものでないと許容できなくなってきている。従って、マスクブランクに異物等が付着するのを出来るだけ抑制することにより、特にレジスト膜を有するマスクブランクの保管中は出来るだけ高い清浄度に維持する必要がある。
【0009】
また、例えば半導体デザインルールD-RAMハーフピッチ32nmノード以下の微細化パターンを形成するのに有利な化学増幅型レジストは、その反応メカニズム上、化学成分のコンタミによる影響を受けやすい。つまり、僅かな酸やアルカリの雰囲気にさらされることで性能が劣化してしまう性質を持っている。このため、化学増幅型レジスト膜が形成されたマスクブランクの場合は、単にパーティクル等の異物を排除するだけでは足りず、化学成分のコンタミの影響をも排除するため特に清浄な雰囲気で保管する必要がある。ところが、上記従来の収納ケースは、蓋、中ケース及びケース本体のすべてが例えばアクリル樹脂等の樹脂材料で形成されているため、これら樹脂材料からのアウトガス成分による化学増幅型レジストへの悪影響が従来より指摘されていた。この場合、アウトガスの少ない樹脂材料を用いることも考えられるが、収納ケース全体が樹脂材料で形成される以上、アウトガスによる影響をある程度低減することは可能であるとしても、例えばデザインルールD-RAMハーフピッチ32nmノード以下の微細化パターンを形成するのに支障がないレベルまでアウトガスによる影響を抑制することは困難である。また、従来の樹脂材料の代わりに、アウトガスの問題のない材料を使用することも考えられるが、単にケースの材料を変更しても、マスクブランクの収納ケースとして要求される例えば輸送中の外部衝撃の問題や、収納ケースのたとえば蓋とケース本体との接触による発塵の問題等をも解決する必要があり、樹脂材料に代わる有望なケース材料に関する提案は今までなされなかった。
【0010】
従って、本発明は、上記従来の問題点を解消し、化学成分のコンタミの影響を受け易くできるだけ清浄な雰囲気で保管される必要がある化学増幅型レジスト膜を形成したマスクブランクの収納に特に好適な収納ケース及び収納方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ケース材料として従来の樹脂材料の代わりにアウトガスの問題のない金属材料を使用しても、マスクブランクの収納ケースとして要求される輸送中の外部衝撃の問題や、収納ケースの蓋とケース本体との接触による発塵の問題等をも解決することが可能になることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
(構成1)上方が開口したケース本体と、該ケース本体に被せる蓋体とを備えて、ケース本体及び蓋体のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納ケースであって、前記ケース本体及び前記蓋体は金属材料で形成され、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成され、前記ケース本体及び前記蓋体は、前記嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では前記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされることを特徴とするマスクブランク収納ケース。
【0013】
(構成2)前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれに設けてなることを特徴とする構成1記載のマスクブランク収納ケース。
【0014】
(構成3)前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されて前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けてなることを特徴とする構成1記載のマスクブランク収納ケース。
【0015】
(構成4)前記支持手段は、前記マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えていることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0016】
(構成5)前記マスクブランク収納ケースは、複数枚の前記マスクブランクを縦置きに収納するケースであって、前記マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることを特徴とする構成4記載のマスクブランク収納ケース。
【0017】
(構成6)前記樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂であることを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0018】
(構成7)前記ケース本体及び前記蓋体は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成されていることを特徴とする構成1乃至6のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0019】
(構成8)前記ケース本体及び/又は前記蓋体は、その外周に保温材が設けられていることを特徴とする構成1乃至7のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0020】
(構成9)構成1乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法。
【0021】
(構成10)構成9に記載の収納方法によりマスクブランクが収納されたことを特徴とするマスクブランク収納体。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納するマスクブランク収納ケースのケース本体及び蓋体を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成したので、収納ケースのケース本体及び蓋体を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持手段のマスクブランクとの接触部は樹脂材料を使用するも、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。さらに、ケース本体及び蓋体は、両者の嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされるため、蓋体をケース本体に被せる際、ケース本体との嵌合部に介在する弾性部材を押し付けて、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材より内方では金属材料で形成された蓋体とケース本体の嵌合部同士の接触による発塵はなく、弾性部材より外方側では蓋体とケース本体の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材より内方へは入らないので、マスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0023】
また、請求項2の発明によれば、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材をケース本体及び蓋体のそれぞれに設けているため、上記支持部材によって輸送中の外部衝撃を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぎ、また大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。
【0024】
また、請求項3の発明によれば、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されてケース本体及び蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けているため、上記支持部材が上記フレーム体と協働して輸送中の外部衝撃を効果的に吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぎ、また大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。
【0025】
また、請求項4の発明によれば、支持手段は、マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えているため、輸送中の外部衝撃に対してもマスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。
【0026】
また、請求項5の発明によれば、複数枚のマスクブランクを縦置きに収納するケースの場合、マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることにより、マスクブランクの収納作業をスムースに行える。
【0027】
また、請求項6の発明によれば、上記樹脂材料として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂を用いることにより、本発明では樹脂量を大幅に減らせる上に、さらにこれらのアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響を抑制することができる。
【0028】
また、請求項7の発明によれば、ケース本体及び蓋体を、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成することにより、収納ケースの軽量化を図ることができる。
【0029】
また、請求項8の発明によれば、ケース本体及び/又は蓋体の外周に保温材を設けることにより、たとえば輸送中の冷却による基板結露を防止することができる。
【0030】
また、請求項9の発明によれば、本発明のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することにより、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分(化学成分)の影響を無くすことができる。また、輸送中の外部衝撃(例えば振動)によってもマスクブランクをしっかりと固定して発塵を防止することができる。さらに、ケースの気密性が高いため、不安定な外気の進入を抑えることができる。
【0031】
また、請求項10の発明によれば、請求項9の収納方法によりマスクブランクが収納されたマスクブランク収納体は、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分(化学成分)の影響が無く、また輸送中の外部衝撃(例えば振動)によってもマスクブランクがしっかりと固定され発塵を防止することができる。さらに、ケースの気密性が高いため、不安定な外気の進入を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1乃至図4は本発明の収納ケースの第1の実施の形態を示す。図1は、本発明に係る収納ケースの第1の実施の形態を示す斜視図であり、図2は支持部材の斜視図、図3はマスクブランクを収納した状態の収納ケースの断面図であり、図4は上記支持部材の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【0033】
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納するマスクブランクの収納ケースである。上記ケース本体5及び蓋体6は、その全体的な形状は、従来構造の収納ケースと同様の形状を有しているが、もう少し詳しく説明すると、ケース本体5は、上方が開口した四角形状の箱体51と、その開口縁に続くやや外方に拡開した側壁部52と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部53とが一体的に形成されている。また、蓋体6は、下方が開口した四角形状の箱体61と、その開口縁に続く水平方向に延設された鍔部62とが一体的に形成されている。なお、この蓋体6の鍔部62の先端部分は下方に折れ曲がっている。
【0034】
本実施形態の収納ケースは、ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成されている。金属材料で形成されることにより、従来の樹脂製の収納ケースのようなアウトガスの問題が生じない。また、マスクブランクの保管中にチャージが溜まると、マスク製造過程において放電破壊を起こし、パターン欠陥となる場合があるので、収納ケースに適度な導電性を付与することができる。金属材料としては特に制約はされないが、例えば、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金のいずれかで形成することにより、加工性が良好で、かつ収納ケースの軽量化を図ることができる。
【0035】
本実施の形態の収納ケースは、蓋体6を閉じる際、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが嵌め合わされるが、蓋体6を閉じた収納ケースの密閉性を高めるために、ケース本体5の開口側の鍔部53の内方縁に沿って環状の弾性部材7を嵌め込んでいる。弾性部材7としては、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましく、例えば、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマーが挙げられる。蓋体6をケース本体5に被せる際、ケース本体5との嵌合部に介在する弾性部材7を押し付けて、ケース内を密閉状態とすることができる。
【0036】
このように、ケース本体5及び蓋体6は、両者の嵌合部、つまり本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62との間に上記弾性部材7を介在させることにより、少なくとも該弾性部材7より内方では、本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士が非接触で嵌め合わされるため、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材7より内方では金属材料で形成された本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士の接触による発塵はなく、弾性部材7より外方側では蓋体6とケース本体5の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材7よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0037】
また、本発明の収納ケースは、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設けているが、かかる支持手段として、本実施の形態では、マスクブランクの各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材8をケース本体5及び蓋体6のそれぞれ内側に設けている。
上記支持部材8は、図2に示すように、断面円形で直線状に延在した軸81と、その軸81の側面から断面において直交する方向に引き出した複数対の連結部82,83と、その連結部82,83の先端に断面略円形状に形成した複数対の当接部84,85とを備えている。複数対の連結部82,83と当接部84,85は、収納する複数枚のマスクブランクを適当な間隔で離間するように所定間隔で配列されている。そして、当接部84,85には、内側に凹状にくぼませた当接面86,87をそれぞれ互いに直交する方向に形成している。
【0038】
このような支持部材8を2本用意して、ケース本体5の下部所定位置の側壁を内側に凸となるように形成した軸保持部54にそれぞれ挿入して取り付けられる。なお、上記軸保持部54はケース本体5の内側の一方の内側面に互いに対向させて4箇所に設けており、上記支持部材8の軸81を挿入して、その軸81をその中心軸の回りに回転自在に保持している。また同様に、蓋体6にもその内側の一方の内側面に互いに対向させて軸保持部63を4箇所に設けており、上記支持部材8を2本用意して、この軸保持部63にそれぞれ挿入して取り付けられる。
【0039】
上記支持部材8を構成する樹脂材料としては、特に限定はされないが、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が特に好ましく、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂が好ましく挙げられる。
【0040】
本実施形態の収納ケースは、主表面が正方形状のガラス基板の一主表面上にクロム膜等の薄膜を成膜し、その上に化学増幅型レジスト膜を形成した複数枚のマスクブランク1をケース本体5に収納し、このケース本体5の開口部側に蓋体6を被せる構造である。ケース本体5の上から蓋体6を被せることにより、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが弾性部材7を介在させて嵌め合わされる。この本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62との嵌合部がずれないように固定する固定フック62を用いてもよい。そして、各支持部材8の当接部84,85の当接面86,87がマスクブランク1の各頂部において上部端面101及び側部端面102並びに下部端面103及び側部端面102にそれぞれ当接し、マスクブランク1を固定状態に支持する(図3参照)。この際、上記各支持部材8の各当接面86,87は凹状にくぼませて形成してあるので、マスクブランク1の各端面の側壁面1bとこれに連続する面取面1c(あるいはその一部)(図6)を支持している(図4参照)。なお、図4(a)中に、1b及び1cで示す破線は、上記支持部材8により支持された状態のマスクブランク1の上記側壁面1bと面取面1cの位置を示している。
なお、本実施の形態では、複数枚のマスクブランクをケース本体5内に縦置きに収納する際、マスクブランクの収納作業をスムースに行えるように、マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材10をケース本体5内側の一方の対向する内側面の所定位置に備えている。かかるガイド部材10は、ケース本体5の側壁を内側に凸となるように形成した取付部55に取り付けている。なお、ガイド部材10は、マスクブランクの側部端面を支持する支持部材の機能を有していてもよい。
【0041】
本実施形態の収納ケースは、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する各支持部材8を樹脂材料で形成したので、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持部材8は樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。
【0042】
また、ケース本体5及び/又は蓋体6の外周に保温材、例えば適当な厚みのポリウレタンシートなどを設けるようにしてもよい。これにより、たとえば冬場の輸送中の冷却による基板結露を防止することができる。
【0043】
本実施形態における上記支持部材8は、マスクブランク1の2つの主表面1a,1a(図6)の間にある端面を支持しているが、端面のうち、少なくとも側壁面1bを支持していることが望ましく、とくに本実施の形態のように、側壁面1bと同時に、その主表面1aとの間のある面取面1c(あるいはその一部)を支持していることがさらに望ましい。
また、上記支持部材8の弾性強度をより一層強化するため、図5に示すように、とくに支持部材8の軸81と連結部82,83の内部に、断面において直交する例えばステンレス等の金属板88を埋設することも好ましい実施態様である。
本実施の形態では、上記支持部材8によって、マスクブランクの各頂部の2辺を支持するようにしているが、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持することによりマスクブランクをしっかりと固定できれば、マスクブランクを支持する位置は本実施の形態には限定されない。
【0044】
[第2の実施の形態]
図7は本発明に係る収納ケースの第2の実施の形態を示す斜視図であり、図8はその嵌合部の構造を示す断面図である。なお、前述の図1に示す第1の実施の形態と同等の箇所には同一の符号を付して説明する。
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを1枚収納するマスクブランクの収納ケースである。ケース本体5は、上方が開口した四角形状の箱体51と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部53とが一体的に形成されている。また、蓋体6は、下方が開口した四角形状の箱体61と、その開口縁に続く水平方向に延設された鍔部62とが一体的に形成され、この鍔部62の先端部分は下方に折れ曲がっている。
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成されている。本実施の形態に好ましく用いられる金属材料としては第1の実施の形態で挙げたものと同様である。
【0045】
そして、上記ケース本体5の鍔部53には、その略中央の位置に、鍔部53を1周するように溝部(凹部)55が設けられている。また、上記蓋体6の鍔部62の略中央の位置にも、鍔部62を1周するように溝部(凹部)64が設けられている。本実施の形態の収納ケースは、蓋体6を閉じる際、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが嵌め合わされ、両者の嵌合部は固定フック11(図8)を用いて固定されるが、上記ケース本体5の鍔部53の溝部55と、上記蓋体6の鍔部62の溝部64との間に環状の弾性部材17が嵌め込まれ、該弾性部材17より少なくとも内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされる(図8参照)。弾性部材17の材質は、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。かかる構成により、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材17より内方では金属材料で形成された本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士の接触による発塵はなく、弾性部材17より外方側では蓋体6とケース本体5の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材17よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。また、ケース本体5の鍔部53の溝部55と、蓋体6の鍔部62の溝部64との間に弾性部材17が嵌め込まれることにより位置決めされるため、蓋体6とケース本体5を嵌め合わせる際の嵌合部同士の水平方向での位置ずれを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態の収納ケースにおいては、内部に収納するマスクブランクの支持手段は前述の第1の実施の形態と同様であり、ケース本体5の内側に設けた軸保持部54と、蓋体6の内側に設けた軸保持部63のそれぞれに前述の図2に示す支持部材8を取り付ける。
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、マスクブランクの例えば各頂部を支持する支持手段(支持部材)を樹脂材料で形成したので、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持手段に樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。
【0047】
なお、蓋体6とケース本体5を嵌め合わせたときの両者の嵌合部の構造は、ケース本体5と蓋体6との嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触であれば、上記第1の実施の形態および第2の実施の形態には限定される必要はない。例えば、図9の(a)に示すように、蓋体6の箱体61の下方縁が水平方向の鍔部62よりも下に延在している構成としてもよい。また、同図(b)に示すように、蓋体6の鍔部62の先端部分が下方に折れ曲がらない構成としてもよい。さらには、同図(c)または(d)に示すように、蓋体6の鍔部62およびケース本体5の鍔部53に適当な溝部を設け、該溝部に弾性部材7を嵌め込むような構成としてもよい。
【0048】
[第3の実施の形態]
図10は本発明に係る収納ケースの第3の実施の形態を示す斜視図である。本実施の形態の収納ケースは、マスクブランクを1枚収納する1枚ケースのものである。
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体12と、該ケース本体12に被せる蓋体13とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランク1を1枚収納するマスクブランクの収納ケースである。ケース本体12は、上方が開口した四角形状の箱体121と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部122とが一体的に形成されている。また、蓋体13は、下方が開口した四角形状の箱体131と、その下方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部132とが一体的に形成され、この鍔部132の先端部分は下方に折れ曲がっている。
【0049】
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体12及び蓋体13は金属材料で形成されている。本実施の形態に好ましく用いられる金属材料としては第1の実施の形態で挙げたものと同様である。
本実施の形態の収納ケースは、蓋体13を閉じる際、上記本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132とが嵌め合わされ、両者の嵌合部は固定フック(図示せず)を用いて固定されるが、蓋体13を閉じた収納ケースの密閉性を高めるために、ケース本体12の鍔部122の内方縁に沿って、断面略逆L字状の環状の弾性部材14を嵌め込んでいる。弾性部材14の材質としては、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。
【0050】
また、本実施の形態では、マスクブランクの支持手段として、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、ケース本体及び蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置される金属材料で形成されたフレーム体のそれぞれに設けている。すなわち、下部フレーム体15は、屋根状に骨組みされた金属フレーム体151と、該金属フレーム体151の上部各コーナーに例えば樹脂をインサート成形して形成された、マスクブランクの各頂部端面を支持する4箇所の支持部材152と、上記金属フレーム体151の下部各コーナーに例えば樹脂をインサート成形して形成された4箇所のクッション材153とからなる。また、上部フレーム体16は、四角枠状の金属フレーム体161と、該金属フレーム体161の各コーナーの下方面に例えば樹脂をインサート成形して形成された、マスクブランクの各頂部を上方から支持する4箇所の支持部材162とからなる。下部フレーム体15は、その下方の各コーナーがケース本体12の底部の各コーナーにはまるように設置される。この場合、下部フレーム体15の下方の各コーナーには上記クッション材153が形成されているため、金属同士の接触による発塵は防止される。また、蓋体13の内側の一方の対向する内側面には、側壁を内側に凸となるように形成した取付部133を所定位置の4箇所に設け、上部フレーム体16は、各取付部133に嵌め込んで取り付けられる。なお、上記金属フレーム体161の各取付部133との嵌め合わせ部分には樹脂をインサート成形して樹脂被覆層163を形成することにより、金属同士の接触による発塵を防止している。
上記支持部材152、162とクッション材153、樹脂被覆層163の材質としては、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。
【0051】
本実施形態の収納ケースは、内部に下部フレーム体15が設置され、1枚のマスクブランク1を収納したケース本体12の上から蓋体13を被せることにより、上記本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132とが弾性部材14を介在させて嵌め合わされる。そして、内部に収納されたマスクブランク1は、下部フレーム体15に設けられた4箇所の支持部材152によって各頂部が支持され、上部フレーム体13に設けられた4箇所の支持部材162によって上からも各頂部が支持される。かかる構成においては、上記支持部材が上記各フレーム体と協働して輸送中の外部衝撃が多少大きくても効果的に吸収できるため、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。
【0052】
以上説明した本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体12及び蓋体13を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、マスクブランクの各頂部を支持する上記支持部材152,162を樹脂材料で形成したので、ケース本体12及び蓋体13を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持部材は樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。さらに、ケース本体12及び蓋体13は、両者の嵌合部に弾性部材14を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされるため、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材14より内方では金属材料で形成された本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132同士の接触による発塵はなく、弾性部材14より外方側では蓋体12とケース本体13の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材14よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0053】
なお、前述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態においても、外部衝撃の吸収性をさらに向上させるために、上述の第3の実施の形態で説明したマスクブランクの支持手段として、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持部材を金属材料で形成されたフレーム体に設け、このフレーム体をケース本体及び蓋体のそれぞれの内側に設置する構成を採用することができる。
【0054】
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。
(実施例1)
合成石英基板(6インチ×6インチの大きさ)上にスパッタ法で、表層に反射防止機能を有するクロム膜(遮光膜)を形成し、その上にスピンコート法でポジ型の化学増幅型レジストである電子線描画用レジスト膜を形成してレジスト膜付きマスクブランクを製造した。
このようにして製造した20枚のマスクブランクを、1ケースに5枚収納し、計4ケースを用意した。収納ケースとして、前述の図1乃至図3に示す第1の実施の形態に係る収納ケースを用いた。なお、蓋体及びケース本体の材質はステンレスを用いた。また、蓋体及びケース本体に取り付けた各支持部材の材質はポリブチレンテレフタレートを用い、弾性部材の材質はポリオレフィンエラストマーを用いた。収納作業はクリーンルーム内で行った。
【0055】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)をクリーンルームではない場所で3箇月保管した。そして、保管後の収納ケースから取り出したマスクブランクに所定の電子線描画を行い、続いて所定の現像、エッチングを行って、転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
【0056】
また、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)の外側に厚み20mmのポリウレタンシートを捲いて、さらにアルミ蒸着したポリエチレンフィルムで梱包し、4ケースをエアパッキン入りの段ボールにつめて、以下の振動試験を行った。
すなわち、梱包した収納ケースを8時間倉庫で一時保管後、外気の温度が約0℃の下での夜間輸送(自家用車で一般道を12時間走行)を行った。
【0057】
そして、振動試験後、クリーンルーム内で収納ケースを開封し、収納ケースからマスクブランクを取り出したところ、基板結露はなかった。そして、欠陥検査装置(レーザーテック社製:M2350)を用いて、マスクブランク主表面上の付着異物による欠陥(90nm以上の大きさの欠陥)個数を測定した。なお、評価は、収納ケースに収納する前の欠陥個数を予め上記と同様に測定しておき、これに対する振動試験後の欠陥個数の増加個数で行った。その結果、本実施例では、増加欠陥個数は平均して4個であり、ケース内部に収納されたマスクブランクを輸送、搬送中でもきちっと固定し、発塵を抑えることが可能である。
【0058】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の図8に示す第3の実施の形態に係る収納ケース(1枚ケース)を4ケース用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。なお、蓋体及びケース本体の材質はステンレスを用いた。また、上部及び下部フレーム体はステンレスフレームとし、これに取り付けた各支持部材及びクッション材の材質はポリブチレンテレフタレートを用い、弾性部材の材質はポリオレフィンエラストマーを用いた。
【0059】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
【0060】
また、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本実施例では、増加欠陥個数は平均して3個であり、ケース内部に収納されたマスクブランクを輸送、搬送中でもきちっと固定し、発塵を抑えることが可能である。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の図11乃至図13に示す従来構造の収納ケースを用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。なお、収納ケースの蓋及びケース本体の材質は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、中ケースの材質はポリプロピレンをそれぞれ用いた。
【0062】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)は12nmと大きかった。これは、従来構造の収納ケースの場合、ケースを形成する樹脂からの何らかのアウトガス成分によって化学増幅型レジストが汚染されたことが原因であると考えられる。
一方、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本比較例では、増加欠陥個数は平均して4個であり、実施例1,2と概ね同程度であった。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の比較例1と同様の従来構造のケースであるが、蓋及びケース本体の材質はいずれもステンレスを用い、中ケースの代わりにマスクブランクをケース本体に直接溝を設けて収納する収納ケースを用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。
【0064】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
一方、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本比較例では、増加欠陥個数は平均して2万個以上であり、最早マスクブランクとして使用できない状態であった。すなわち、従来の樹脂製の収納ケースを単に金属製に代えただけでは、アウトガスの問題は解決できてもマスクブランクの収納ケースとして使用できないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る収納ケースの第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】支持部材の斜視図である。
【図3】マスクブランクを収納した状態の収納ケースの断面図である。
【図4】上記支持部材の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【図5】上記支持部材の他の実施態様の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【図6】マスクブランクの断面図である。
【図7】本発明に係る収納ケースの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図8】第2の実施の形態における蓋体とケース本体を嵌め合わせたときの嵌合部の構造を示す断面図である。
【図9】(a)〜(d)はいずれも蓋体とケース本体を嵌め合わせたときの嵌合部の構造を示す断面図である。
【図10】本発明に係る収納ケースの第3の実施の形態を示す斜視図である。
【図11】従来構造の収納ケースの蓋を示す斜視図である。
【図12】マスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図である。
【図13】従来構造の収納ケースのケース本体(外ケース)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 マスクブランク
2 中ケース
3 ケース本体
4 蓋
5 ケース本体
6 蓋体
7,17 弾性部材
8 支持部材
10 ガイド部材
11 固定フック
12 ケース本体
13 蓋体
14 弾性部材
15 下部フレーム体
16 上部フレーム体
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造に使用されるフォトマスク等の製造に用いられるマスクブランクを収納する収納ケース及びその収納方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子デバイス、特に半導体素子や液晶モニター用のカラーフィルター或いはTFT素子等は、IT技術の急速な発達に伴い、一層の微細化が要求されている。このような微細加工技術を支える技術の一つが、転写マスクと呼ばれるフォトマスクを用いたリソグラフィー技術である。このリソグラフィー技術においては、露光用光源の電磁波を転写マスクを通じてレジスト膜付きシリコンウエハー等に露光することにより、シリコンウエハー上に微細なパターンを形成している。この転写マスクは通常、透光性基板上に遮光性膜を形成したマスクブランクにリソグラフィー技術を用いて原版となるパターンを形成して製造される。ところで、マスクブランクの表面にパーティクル等の異物があると、形成されるパターンの欠陥の原因となるので、マスクブランクの表面には異物等が付着しないように清浄に保管される必要がある。
【0003】
このようなマスクブランクを収納保管し運搬するためのケースとしては、従来では例えば下記特許文献1に開示されているようなマスク運搬用ケースが知られている。すなわち、従来のマスクブランクを収納保管するケースは、キャリアなどと呼ばれている内ケースにマスクブランクを数枚乃至数十枚並べて保持させ、このマスクブランクを保持した内ケースを外箱(ケース本体)内に収容し、さらに外箱上に蓋を被せて、マスクブランクを収納する構造となっていた。
【0004】
図11乃至図13は、特許文献1に開示されたものと同様の構造の収納ケースを示すもので、図11は収納ケースの蓋を示す斜視図、図12はマスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図、図13は収納ケースのケース本体(外ケース)を示す斜視図である。
この収納ケースは、マスクブランク1を中ケース2に収納し、この中ケース2をケース本体3に収納し、このケース本体3の開口部側に蓋4を被せる構造である。
【0005】
上記中ケース2は、開口部側(上方)から底面側(下方)に向けて複数の溝21,22を一方の互いに対向する内側面に所定間隔をおいて一対をなして形成し、その溝21,22の底面側の底部と中ケース底面にはそれぞれ開口窓(図示せず)と開口部27が設けられ、さらに中ケース底面側には基板支持部26が形成され、この基板支持部26でマスクブランク1の下方端面を支持している(図12)。そして、この中ケース2をケース本体3に収納して固定するための凹面部28,29がそれぞれ中ケースの他方の互いに対向する外側面に底面側から開口部側の途中まで形成されている。数枚のマスクブランク1を中ケース2の一対の溝21,22に沿って入れると、これらのマスクブランクは所定間隔をおいて互いに平行に林立する。
【0006】
上記ケース本体3は、上述した中ケース2の凹面部28,29と当接するに適合した突出部31,32を、互いに対向する内側面に形成し、その突出部31,32の底部はケース本体3底面とも接合している(図13)。また、一方の対向する外側面の開口部側には凸部33,34が形成されている。そして、ケース本体3の開口縁35のやや下方の位置に続く外周面36と上記凸部33,34の凸面とは略同一面に形成されている。
また上記蓋4は、その一方の対向する下方縁47(ケース本体へ差し込む開口部側の縁であって、図11では上方へ向いている)の中央から延びた係合片41,42に凹部43,44を形成している。これにより、蓋4をケース本体3に被せたときに、上記凹部43,44が前記ケース本体3の凸部33,34とそれぞれ嵌合することで、蓋4とケース本体3とが固定される構造となっている。また、中ケース2の開口部側上端面25と当接して中ケース2を垂直方向において支持固定するストッパー45,46を一方の内側面に互いに対向させて形成している。
【0007】
【特許文献1】特公平1−39653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の電子デバイスの高性能化に伴って、転写マスクに形成されるパターンも一段と微細化が要求されており、このような微細パターンを形成するためにもマスクブランクの清浄度は極めて高いものでないと許容できなくなってきている。従って、マスクブランクに異物等が付着するのを出来るだけ抑制することにより、特にレジスト膜を有するマスクブランクの保管中は出来るだけ高い清浄度に維持する必要がある。
【0009】
また、例えば半導体デザインルールD-RAMハーフピッチ32nmノード以下の微細化パターンを形成するのに有利な化学増幅型レジストは、その反応メカニズム上、化学成分のコンタミによる影響を受けやすい。つまり、僅かな酸やアルカリの雰囲気にさらされることで性能が劣化してしまう性質を持っている。このため、化学増幅型レジスト膜が形成されたマスクブランクの場合は、単にパーティクル等の異物を排除するだけでは足りず、化学成分のコンタミの影響をも排除するため特に清浄な雰囲気で保管する必要がある。ところが、上記従来の収納ケースは、蓋、中ケース及びケース本体のすべてが例えばアクリル樹脂等の樹脂材料で形成されているため、これら樹脂材料からのアウトガス成分による化学増幅型レジストへの悪影響が従来より指摘されていた。この場合、アウトガスの少ない樹脂材料を用いることも考えられるが、収納ケース全体が樹脂材料で形成される以上、アウトガスによる影響をある程度低減することは可能であるとしても、例えばデザインルールD-RAMハーフピッチ32nmノード以下の微細化パターンを形成するのに支障がないレベルまでアウトガスによる影響を抑制することは困難である。また、従来の樹脂材料の代わりに、アウトガスの問題のない材料を使用することも考えられるが、単にケースの材料を変更しても、マスクブランクの収納ケースとして要求される例えば輸送中の外部衝撃の問題や、収納ケースのたとえば蓋とケース本体との接触による発塵の問題等をも解決する必要があり、樹脂材料に代わる有望なケース材料に関する提案は今までなされなかった。
【0010】
従って、本発明は、上記従来の問題点を解消し、化学成分のコンタミの影響を受け易くできるだけ清浄な雰囲気で保管される必要がある化学増幅型レジスト膜を形成したマスクブランクの収納に特に好適な収納ケース及び収納方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ケース材料として従来の樹脂材料の代わりにアウトガスの問題のない金属材料を使用しても、マスクブランクの収納ケースとして要求される輸送中の外部衝撃の問題や、収納ケースの蓋とケース本体との接触による発塵の問題等をも解決することが可能になることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
(構成1)上方が開口したケース本体と、該ケース本体に被せる蓋体とを備えて、ケース本体及び蓋体のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納ケースであって、前記ケース本体及び前記蓋体は金属材料で形成され、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成され、前記ケース本体及び前記蓋体は、前記嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では前記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされることを特徴とするマスクブランク収納ケース。
【0013】
(構成2)前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれに設けてなることを特徴とする構成1記載のマスクブランク収納ケース。
【0014】
(構成3)前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されて前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けてなることを特徴とする構成1記載のマスクブランク収納ケース。
【0015】
(構成4)前記支持手段は、前記マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えていることを特徴とする構成1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0016】
(構成5)前記マスクブランク収納ケースは、複数枚の前記マスクブランクを縦置きに収納するケースであって、前記マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることを特徴とする構成4記載のマスクブランク収納ケース。
【0017】
(構成6)前記樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂であることを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0018】
(構成7)前記ケース本体及び前記蓋体は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成されていることを特徴とする構成1乃至6のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0019】
(構成8)前記ケース本体及び/又は前記蓋体は、その外周に保温材が設けられていることを特徴とする構成1乃至7のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【0020】
(構成9)構成1乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法。
【0021】
(構成10)構成9に記載の収納方法によりマスクブランクが収納されたことを特徴とするマスクブランク収納体。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納するマスクブランク収納ケースのケース本体及び蓋体を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成したので、収納ケースのケース本体及び蓋体を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持手段のマスクブランクとの接触部は樹脂材料を使用するも、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。さらに、ケース本体及び蓋体は、両者の嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされるため、蓋体をケース本体に被せる際、ケース本体との嵌合部に介在する弾性部材を押し付けて、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材より内方では金属材料で形成された蓋体とケース本体の嵌合部同士の接触による発塵はなく、弾性部材より外方側では蓋体とケース本体の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材より内方へは入らないので、マスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0023】
また、請求項2の発明によれば、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材をケース本体及び蓋体のそれぞれに設けているため、上記支持部材によって輸送中の外部衝撃を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぎ、また大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。
【0024】
また、請求項3の発明によれば、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されてケース本体及び蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けているため、上記支持部材が上記フレーム体と協働して輸送中の外部衝撃を効果的に吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぎ、また大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を無くすことが可能である。
【0025】
また、請求項4の発明によれば、支持手段は、マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えているため、輸送中の外部衝撃に対してもマスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。
【0026】
また、請求項5の発明によれば、複数枚のマスクブランクを縦置きに収納するケースの場合、マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることにより、マスクブランクの収納作業をスムースに行える。
【0027】
また、請求項6の発明によれば、上記樹脂材料として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂を用いることにより、本発明では樹脂量を大幅に減らせる上に、さらにこれらのアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響を抑制することができる。
【0028】
また、請求項7の発明によれば、ケース本体及び蓋体を、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成することにより、収納ケースの軽量化を図ることができる。
【0029】
また、請求項8の発明によれば、ケース本体及び/又は蓋体の外周に保温材を設けることにより、たとえば輸送中の冷却による基板結露を防止することができる。
【0030】
また、請求項9の発明によれば、本発明のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することにより、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分(化学成分)の影響を無くすことができる。また、輸送中の外部衝撃(例えば振動)によってもマスクブランクをしっかりと固定して発塵を防止することができる。さらに、ケースの気密性が高いため、不安定な外気の進入を抑えることができる。
【0031】
また、請求項10の発明によれば、請求項9の収納方法によりマスクブランクが収納されたマスクブランク収納体は、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分(化学成分)の影響が無く、また輸送中の外部衝撃(例えば振動)によってもマスクブランクがしっかりと固定され発塵を防止することができる。さらに、ケースの気密性が高いため、不安定な外気の進入を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1乃至図4は本発明の収納ケースの第1の実施の形態を示す。図1は、本発明に係る収納ケースの第1の実施の形態を示す斜視図であり、図2は支持部材の斜視図、図3はマスクブランクを収納した状態の収納ケースの断面図であり、図4は上記支持部材の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【0033】
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納するマスクブランクの収納ケースである。上記ケース本体5及び蓋体6は、その全体的な形状は、従来構造の収納ケースと同様の形状を有しているが、もう少し詳しく説明すると、ケース本体5は、上方が開口した四角形状の箱体51と、その開口縁に続くやや外方に拡開した側壁部52と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部53とが一体的に形成されている。また、蓋体6は、下方が開口した四角形状の箱体61と、その開口縁に続く水平方向に延設された鍔部62とが一体的に形成されている。なお、この蓋体6の鍔部62の先端部分は下方に折れ曲がっている。
【0034】
本実施形態の収納ケースは、ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成されている。金属材料で形成されることにより、従来の樹脂製の収納ケースのようなアウトガスの問題が生じない。また、マスクブランクの保管中にチャージが溜まると、マスク製造過程において放電破壊を起こし、パターン欠陥となる場合があるので、収納ケースに適度な導電性を付与することができる。金属材料としては特に制約はされないが、例えば、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、ジュラルミン等のアルミニウム合金のいずれかで形成することにより、加工性が良好で、かつ収納ケースの軽量化を図ることができる。
【0035】
本実施の形態の収納ケースは、蓋体6を閉じる際、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが嵌め合わされるが、蓋体6を閉じた収納ケースの密閉性を高めるために、ケース本体5の開口側の鍔部53の内方縁に沿って環状の弾性部材7を嵌め込んでいる。弾性部材7としては、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましく、例えば、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマーが挙げられる。蓋体6をケース本体5に被せる際、ケース本体5との嵌合部に介在する弾性部材7を押し付けて、ケース内を密閉状態とすることができる。
【0036】
このように、ケース本体5及び蓋体6は、両者の嵌合部、つまり本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62との間に上記弾性部材7を介在させることにより、少なくとも該弾性部材7より内方では、本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士が非接触で嵌め合わされるため、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材7より内方では金属材料で形成された本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士の接触による発塵はなく、弾性部材7より外方側では蓋体6とケース本体5の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材7よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0037】
また、本発明の収納ケースは、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設けているが、かかる支持手段として、本実施の形態では、マスクブランクの各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材8をケース本体5及び蓋体6のそれぞれ内側に設けている。
上記支持部材8は、図2に示すように、断面円形で直線状に延在した軸81と、その軸81の側面から断面において直交する方向に引き出した複数対の連結部82,83と、その連結部82,83の先端に断面略円形状に形成した複数対の当接部84,85とを備えている。複数対の連結部82,83と当接部84,85は、収納する複数枚のマスクブランクを適当な間隔で離間するように所定間隔で配列されている。そして、当接部84,85には、内側に凹状にくぼませた当接面86,87をそれぞれ互いに直交する方向に形成している。
【0038】
このような支持部材8を2本用意して、ケース本体5の下部所定位置の側壁を内側に凸となるように形成した軸保持部54にそれぞれ挿入して取り付けられる。なお、上記軸保持部54はケース本体5の内側の一方の内側面に互いに対向させて4箇所に設けており、上記支持部材8の軸81を挿入して、その軸81をその中心軸の回りに回転自在に保持している。また同様に、蓋体6にもその内側の一方の内側面に互いに対向させて軸保持部63を4箇所に設けており、上記支持部材8を2本用意して、この軸保持部63にそれぞれ挿入して取り付けられる。
【0039】
上記支持部材8を構成する樹脂材料としては、特に限定はされないが、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が特に好ましく、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂が好ましく挙げられる。
【0040】
本実施形態の収納ケースは、主表面が正方形状のガラス基板の一主表面上にクロム膜等の薄膜を成膜し、その上に化学増幅型レジスト膜を形成した複数枚のマスクブランク1をケース本体5に収納し、このケース本体5の開口部側に蓋体6を被せる構造である。ケース本体5の上から蓋体6を被せることにより、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが弾性部材7を介在させて嵌め合わされる。この本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62との嵌合部がずれないように固定する固定フック62を用いてもよい。そして、各支持部材8の当接部84,85の当接面86,87がマスクブランク1の各頂部において上部端面101及び側部端面102並びに下部端面103及び側部端面102にそれぞれ当接し、マスクブランク1を固定状態に支持する(図3参照)。この際、上記各支持部材8の各当接面86,87は凹状にくぼませて形成してあるので、マスクブランク1の各端面の側壁面1bとこれに連続する面取面1c(あるいはその一部)(図6)を支持している(図4参照)。なお、図4(a)中に、1b及び1cで示す破線は、上記支持部材8により支持された状態のマスクブランク1の上記側壁面1bと面取面1cの位置を示している。
なお、本実施の形態では、複数枚のマスクブランクをケース本体5内に縦置きに収納する際、マスクブランクの収納作業をスムースに行えるように、マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材10をケース本体5内側の一方の対向する内側面の所定位置に備えている。かかるガイド部材10は、ケース本体5の側壁を内側に凸となるように形成した取付部55に取り付けている。なお、ガイド部材10は、マスクブランクの側部端面を支持する支持部材の機能を有していてもよい。
【0041】
本実施形態の収納ケースは、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する各支持部材8を樹脂材料で形成したので、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を緩和でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持部材8は樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。
【0042】
また、ケース本体5及び/又は蓋体6の外周に保温材、例えば適当な厚みのポリウレタンシートなどを設けるようにしてもよい。これにより、たとえば冬場の輸送中の冷却による基板結露を防止することができる。
【0043】
本実施形態における上記支持部材8は、マスクブランク1の2つの主表面1a,1a(図6)の間にある端面を支持しているが、端面のうち、少なくとも側壁面1bを支持していることが望ましく、とくに本実施の形態のように、側壁面1bと同時に、その主表面1aとの間のある面取面1c(あるいはその一部)を支持していることがさらに望ましい。
また、上記支持部材8の弾性強度をより一層強化するため、図5に示すように、とくに支持部材8の軸81と連結部82,83の内部に、断面において直交する例えばステンレス等の金属板88を埋設することも好ましい実施態様である。
本実施の形態では、上記支持部材8によって、マスクブランクの各頂部の2辺を支持するようにしているが、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持することによりマスクブランクをしっかりと固定できれば、マスクブランクを支持する位置は本実施の形態には限定されない。
【0044】
[第2の実施の形態]
図7は本発明に係る収納ケースの第2の実施の形態を示す斜視図であり、図8はその嵌合部の構造を示す断面図である。なお、前述の図1に示す第1の実施の形態と同等の箇所には同一の符号を付して説明する。
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体5と、該ケース本体5に被せる蓋体6とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを1枚収納するマスクブランクの収納ケースである。ケース本体5は、上方が開口した四角形状の箱体51と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部53とが一体的に形成されている。また、蓋体6は、下方が開口した四角形状の箱体61と、その開口縁に続く水平方向に延設された鍔部62とが一体的に形成され、この鍔部62の先端部分は下方に折れ曲がっている。
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体5及び蓋体6は金属材料で形成されている。本実施の形態に好ましく用いられる金属材料としては第1の実施の形態で挙げたものと同様である。
【0045】
そして、上記ケース本体5の鍔部53には、その略中央の位置に、鍔部53を1周するように溝部(凹部)55が設けられている。また、上記蓋体6の鍔部62の略中央の位置にも、鍔部62を1周するように溝部(凹部)64が設けられている。本実施の形態の収納ケースは、蓋体6を閉じる際、上記本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62とが嵌め合わされ、両者の嵌合部は固定フック11(図8)を用いて固定されるが、上記ケース本体5の鍔部53の溝部55と、上記蓋体6の鍔部62の溝部64との間に環状の弾性部材17が嵌め込まれ、該弾性部材17より少なくとも内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされる(図8参照)。弾性部材17の材質は、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。かかる構成により、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材17より内方では金属材料で形成された本体ケース5の鍔部53と蓋体6の鍔部62同士の接触による発塵はなく、弾性部材17より外方側では蓋体6とケース本体5の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材17よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。また、ケース本体5の鍔部53の溝部55と、蓋体6の鍔部62の溝部64との間に弾性部材17が嵌め込まれることにより位置決めされるため、蓋体6とケース本体5を嵌め合わせる際の嵌合部同士の水平方向での位置ずれを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態の収納ケースにおいては、内部に収納するマスクブランクの支持手段は前述の第1の実施の形態と同様であり、ケース本体5の内側に設けた軸保持部54と、蓋体6の内側に設けた軸保持部63のそれぞれに前述の図2に示す支持部材8を取り付ける。
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、マスクブランクの例えば各頂部を支持する支持手段(支持部材)を樹脂材料で形成したので、ケース本体5及び蓋体6を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持手段に樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。
【0047】
なお、蓋体6とケース本体5を嵌め合わせたときの両者の嵌合部の構造は、ケース本体5と蓋体6との嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触であれば、上記第1の実施の形態および第2の実施の形態には限定される必要はない。例えば、図9の(a)に示すように、蓋体6の箱体61の下方縁が水平方向の鍔部62よりも下に延在している構成としてもよい。また、同図(b)に示すように、蓋体6の鍔部62の先端部分が下方に折れ曲がらない構成としてもよい。さらには、同図(c)または(d)に示すように、蓋体6の鍔部62およびケース本体5の鍔部53に適当な溝部を設け、該溝部に弾性部材7を嵌め込むような構成としてもよい。
【0048】
[第3の実施の形態]
図10は本発明に係る収納ケースの第3の実施の形態を示す斜視図である。本実施の形態の収納ケースは、マスクブランクを1枚収納する1枚ケースのものである。
本実施の形態に係るマスクブランクの収納ケースは、上方が開口したケース本体12と、該ケース本体12に被せる蓋体13とを備えて、内部に化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランク1を1枚収納するマスクブランクの収納ケースである。ケース本体12は、上方が開口した四角形状の箱体121と、その上方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部122とが一体的に形成されている。また、蓋体13は、下方が開口した四角形状の箱体131と、その下方開口縁に続く水平方向に延設された鍔部132とが一体的に形成され、この鍔部132の先端部分は下方に折れ曲がっている。
【0049】
本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体12及び蓋体13は金属材料で形成されている。本実施の形態に好ましく用いられる金属材料としては第1の実施の形態で挙げたものと同様である。
本実施の形態の収納ケースは、蓋体13を閉じる際、上記本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132とが嵌め合わされ、両者の嵌合部は固定フック(図示せず)を用いて固定されるが、蓋体13を閉じた収納ケースの密閉性を高めるために、ケース本体12の鍔部122の内方縁に沿って、断面略逆L字状の環状の弾性部材14を嵌め込んでいる。弾性部材14の材質としては、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。
【0050】
また、本実施の形態では、マスクブランクの支持手段として、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、ケース本体及び蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置される金属材料で形成されたフレーム体のそれぞれに設けている。すなわち、下部フレーム体15は、屋根状に骨組みされた金属フレーム体151と、該金属フレーム体151の上部各コーナーに例えば樹脂をインサート成形して形成された、マスクブランクの各頂部端面を支持する4箇所の支持部材152と、上記金属フレーム体151の下部各コーナーに例えば樹脂をインサート成形して形成された4箇所のクッション材153とからなる。また、上部フレーム体16は、四角枠状の金属フレーム体161と、該金属フレーム体161の各コーナーの下方面に例えば樹脂をインサート成形して形成された、マスクブランクの各頂部を上方から支持する4箇所の支持部材162とからなる。下部フレーム体15は、その下方の各コーナーがケース本体12の底部の各コーナーにはまるように設置される。この場合、下部フレーム体15の下方の各コーナーには上記クッション材153が形成されているため、金属同士の接触による発塵は防止される。また、蓋体13の内側の一方の対向する内側面には、側壁を内側に凸となるように形成した取付部133を所定位置の4箇所に設け、上部フレーム体16は、各取付部133に嵌め込んで取り付けられる。なお、上記金属フレーム体161の各取付部133との嵌め合わせ部分には樹脂をインサート成形して樹脂被覆層163を形成することにより、金属同士の接触による発塵を防止している。
上記支持部材152、162とクッション材153、樹脂被覆層163の材質としては、第1の実施形態と同様、雰囲気の温度、気圧等の変動があっても化学成分ガスの放出が少ない材料が好ましい。
【0051】
本実施形態の収納ケースは、内部に下部フレーム体15が設置され、1枚のマスクブランク1を収納したケース本体12の上から蓋体13を被せることにより、上記本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132とが弾性部材14を介在させて嵌め合わされる。そして、内部に収納されたマスクブランク1は、下部フレーム体15に設けられた4箇所の支持部材152によって各頂部が支持され、上部フレーム体13に設けられた4箇所の支持部材162によって上からも各頂部が支持される。かかる構成においては、上記支持部材が上記各フレーム体と協働して輸送中の外部衝撃が多少大きくても効果的に吸収できるため、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。
【0052】
以上説明した本実施形態の収納ケースにおいても、ケース本体12及び蓋体13を金属材料で形成することにより、アウトガス発生の問題を解消することができ、またケースの導電性を確保できる。そして、マスクブランクの各頂部を支持する上記支持部材152,162を樹脂材料で形成したので、ケース本体12及び蓋体13を金属材料で形成しても、輸送中の外部衝撃(例えば振動)を吸収でき、マスクブランクをしっかりと固定して発塵を防ぐことができる。また、上記支持部材は樹脂材料を使用していても、従来の樹脂製の収納ケースと比べると大幅に樹脂量を減らせるので、保管中の化学増幅型レジスト膜に対するアウトガス成分の影響を著しく抑制することができ、とりわけアウトガス発生の少ない樹脂を用いてアウトガスの影響をほぼ無くすことが可能である。さらに、ケース本体12及び蓋体13は、両者の嵌合部に弾性部材14を介在させることにより該弾性部材より内方では嵌合部同士が非接触で嵌め合わされるため、ケース内を密閉状態とすることができると同時に、弾性部材14より内方では金属材料で形成された本体ケース12の鍔部122と蓋体13の鍔部132同士の接触による発塵はなく、弾性部材14より外方側では蓋体12とケース本体13の嵌合部同士の接触による発塵があったとしても弾性部材14よりケース内方へは入らないので、収納したマスクブランクへの発塵の影響を防止することができる。
【0053】
なお、前述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態においても、外部衝撃の吸収性をさらに向上させるために、上述の第3の実施の形態で説明したマスクブランクの支持手段として、マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持部材を金属材料で形成されたフレーム体に設け、このフレーム体をケース本体及び蓋体のそれぞれの内側に設置する構成を採用することができる。
【0054】
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。
(実施例1)
合成石英基板(6インチ×6インチの大きさ)上にスパッタ法で、表層に反射防止機能を有するクロム膜(遮光膜)を形成し、その上にスピンコート法でポジ型の化学増幅型レジストである電子線描画用レジスト膜を形成してレジスト膜付きマスクブランクを製造した。
このようにして製造した20枚のマスクブランクを、1ケースに5枚収納し、計4ケースを用意した。収納ケースとして、前述の図1乃至図3に示す第1の実施の形態に係る収納ケースを用いた。なお、蓋体及びケース本体の材質はステンレスを用いた。また、蓋体及びケース本体に取り付けた各支持部材の材質はポリブチレンテレフタレートを用い、弾性部材の材質はポリオレフィンエラストマーを用いた。収納作業はクリーンルーム内で行った。
【0055】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)をクリーンルームではない場所で3箇月保管した。そして、保管後の収納ケースから取り出したマスクブランクに所定の電子線描画を行い、続いて所定の現像、エッチングを行って、転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
【0056】
また、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)の外側に厚み20mmのポリウレタンシートを捲いて、さらにアルミ蒸着したポリエチレンフィルムで梱包し、4ケースをエアパッキン入りの段ボールにつめて、以下の振動試験を行った。
すなわち、梱包した収納ケースを8時間倉庫で一時保管後、外気の温度が約0℃の下での夜間輸送(自家用車で一般道を12時間走行)を行った。
【0057】
そして、振動試験後、クリーンルーム内で収納ケースを開封し、収納ケースからマスクブランクを取り出したところ、基板結露はなかった。そして、欠陥検査装置(レーザーテック社製:M2350)を用いて、マスクブランク主表面上の付着異物による欠陥(90nm以上の大きさの欠陥)個数を測定した。なお、評価は、収納ケースに収納する前の欠陥個数を予め上記と同様に測定しておき、これに対する振動試験後の欠陥個数の増加個数で行った。その結果、本実施例では、増加欠陥個数は平均して4個であり、ケース内部に収納されたマスクブランクを輸送、搬送中でもきちっと固定し、発塵を抑えることが可能である。
【0058】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の図8に示す第3の実施の形態に係る収納ケース(1枚ケース)を4ケース用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。なお、蓋体及びケース本体の材質はステンレスを用いた。また、上部及び下部フレーム体はステンレスフレームとし、これに取り付けた各支持部材及びクッション材の材質はポリブチレンテレフタレートを用い、弾性部材の材質はポリオレフィンエラストマーを用いた。
【0059】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
【0060】
また、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本実施例では、増加欠陥個数は平均して3個であり、ケース内部に収納されたマスクブランクを輸送、搬送中でもきちっと固定し、発塵を抑えることが可能である。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の図11乃至図13に示す従来構造の収納ケースを用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。なお、収納ケースの蓋及びケース本体の材質は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、中ケースの材質はポリプロピレンをそれぞれ用いた。
【0062】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)は12nmと大きかった。これは、従来構造の収納ケースの場合、ケースを形成する樹脂からの何らかのアウトガス成分によって化学増幅型レジストが汚染されたことが原因であると考えられる。
一方、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本比較例では、増加欠陥個数は平均して4個であり、実施例1,2と概ね同程度であった。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様に製造したマスクブランクを収納するケースとして、前述の比較例1と同様の従来構造のケースであるが、蓋及びケース本体の材質はいずれもステンレスを用い、中ケースの代わりにマスクブランクをケース本体に直接溝を設けて収納する収納ケースを用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスクブランクの収納を行った。
【0064】
このマスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を実施例1と同様に3箇月保管した後、収納ケースから取り出したマスクブランクを用いて、実施例1と同様に転写マスクを作製した。形成した遮光膜のパターンのCDエラー(設計線幅に対する実測線幅のずれ)はいずれも5nm以下と小さく、化学増幅型レジストを用いて、高精度の微細パターンを形成できた。
一方、上記マスクブランクを収納した収納ケース(マスクブランク収納体)を梱包して、実施例1と同様の振動試験を行った。そして、実施例1と同様に、収納ケースに収納する前の欠陥個数に対する振動試験後の欠陥個数の増加個数を測定した。その結果、本比較例では、増加欠陥個数は平均して2万個以上であり、最早マスクブランクとして使用できない状態であった。すなわち、従来の樹脂製の収納ケースを単に金属製に代えただけでは、アウトガスの問題は解決できてもマスクブランクの収納ケースとして使用できないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る収納ケースの第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】支持部材の斜視図である。
【図3】マスクブランクを収納した状態の収納ケースの断面図である。
【図4】上記支持部材の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【図5】上記支持部材の他の実施態様の断面図(同図(a))及び同図(a)の右方から見た側面図(同図(b))である。
【図6】マスクブランクの断面図である。
【図7】本発明に係る収納ケースの第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図8】第2の実施の形態における蓋体とケース本体を嵌め合わせたときの嵌合部の構造を示す断面図である。
【図9】(a)〜(d)はいずれも蓋体とケース本体を嵌め合わせたときの嵌合部の構造を示す断面図である。
【図10】本発明に係る収納ケースの第3の実施の形態を示す斜視図である。
【図11】従来構造の収納ケースの蓋を示す斜視図である。
【図12】マスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図である。
【図13】従来構造の収納ケースのケース本体(外ケース)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 マスクブランク
2 中ケース
3 ケース本体
4 蓋
5 ケース本体
6 蓋体
7,17 弾性部材
8 支持部材
10 ガイド部材
11 固定フック
12 ケース本体
13 蓋体
14 弾性部材
15 下部フレーム体
16 上部フレーム体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方が開口したケース本体と、該ケース本体に被せる蓋体とを備えて、ケース本体及び蓋体のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納ケースであって、
前記ケース本体及び前記蓋体は金属材料で形成され、
前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成され、
前記ケース本体及び前記蓋体は、前記嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では前記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされることを特徴とするマスクブランク収納ケース。
【請求項2】
前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれに設けてなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項3】
前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されて前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けてなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項4】
前記支持手段は、前記マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項5】
前記マスクブランク収納ケースは、複数枚の前記マスクブランクを縦置きに収納するケースであって、前記マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることを特徴とする請求項4記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項6】
前記樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項7】
前記ケース本体及び前記蓋体は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項8】
前記ケース本体及び/又は前記蓋体は、その外周に保温材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法。
【請求項10】
請求項9に記載の収納方法によりマスクブランクが収納されたことを特徴とするマスクブランク収納体。
【請求項1】
上方が開口したケース本体と、該ケース本体に被せる蓋体とを備えて、ケース本体及び蓋体のそれぞれに嵌合部を有して嵌め合わされ、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納ケースであって、
前記ケース本体及び前記蓋体は金属材料で形成され、
前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する支持手段をケース内部に設け、該支持手段の前記マスクブランクとの接触部は樹脂材料で形成され、
前記ケース本体及び前記蓋体は、前記嵌合部に弾性部材を介在させることにより該弾性部材より内方では前記嵌合部同士が非接触で嵌め合わされることを特徴とするマスクブランク収納ケース。
【請求項2】
前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれに設けてなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項3】
前記支持手段は、前記マスクブランクの各辺を少なくとも1箇所で支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を、金属材料で形成されて前記ケース本体及び前記蓋体のそれぞれの内側にはまるように設置されたフレーム体のそれぞれに設けてなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項4】
前記支持手段は、前記マスクブランクの少なくとも各端面頂部を支持する樹脂材料で形成された複数の支持部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項5】
前記マスクブランク収納ケースは、複数枚の前記マスクブランクを縦置きに収納するケースであって、前記マスクブランク挿入時の端面側部を案内する樹脂材料で形成されたガイド部材を備えていることを特徴とする請求項4記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項6】
前記樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリオレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリカーボネート、フッ素系樹脂から選択される1以上の樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項7】
前記ケース本体及び前記蓋体は、ステンレス鋼、酸化アルミニウム、アルミニウム合金のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項8】
前記ケース本体及び/又は前記蓋体は、その外周に保温材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケース。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のマスクブランク収納ケースに、化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法。
【請求項10】
請求項9に記載の収納方法によりマスクブランクが収納されたことを特徴とするマスクブランク収納体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−179351(P2009−179351A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19961(P2008−19961)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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